説明

星状ブロック構造を有する三元共重合体ゴム、並びに、その調製プロセスおよび使用方法

【課題】低い転がり抵抗および優れた耐ウエットスキッド性を有し、さらに比較的理想的な、包括的な物理的および機械的特性を有する三元共重合体ゴムを提供する。
【解決手段】式(SIB−PA)−X(ここで、SIBはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、PAは共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンの単独重合ブロックであり、Xはカップリング剤の残留物であり、n=2〜4であり、さらに、該三元共重合体ゴムの重量に対して、イソプレンの含有量は5重量%〜85重量%であり、ブタジエンの含有量は5重量%〜85重量%であり、スチレンの含有量は10重量%〜40重量%であり、さらにまた、カップリング前に、SIB−PA構造の数平均分子量は1.0×10〜5.0×10であり、SIB−PA構造の分子量分布は1.1〜2.5である)で表される三元共重合体。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、中国特許出願第201010219627.8号明細書(出願日:2010年6月25日)に基づいて優先権を主張し、該特許出願の内容は全て参照によってここに引用されるものとする。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、星状ブロック構造を有する三元共重合体ゴムに関し、具体的には、スチレン、イソプレンおよびブタジエンから三元共重合された星状ブロック構造を包含する三元共重合体ゴム、並びに、その調製プロセスおよび使用方法に関する。本発明の三元共重合体ゴムは、低い転がり抵抗および優れた耐ウエットスキッド性を有し、さらに比較的理想的な、包括的な物理的および機械的特性を有する。また、本発明の三元共重合体ゴムは、ゴム製品の分野において、例えばタイヤトレッドのゴムなどに広く適用可能である。
【0003】
〔背景技術〕
現代の自動車産業の発展につれて、タイヤの性能に対する要件がますます高くなっている。高速走行、安全性、快適さ、および、燃料の節約が基本的な要件である。このため、ゴム素材の性質に関する国内外における研究の鍵は、転がり損失、耐ウエットスキッド性、および、耐摩耗性などの面に集中している。ゴム素材には、一方ではより高い耐ウエットスキッド性が必要とされ、他方ではより低い転がり抵抗も必要とされる。また、優れた耐摩耗性も必要とされる。さらに、或る性質が改善されても、その結果、他の性質を損ねることがあってはならない。しかしながら、例えばシス−1,4−ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、乳濁液重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)、および、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)などの現在使用されている各種の汎用ゴムの中で、シス−1,4−ポリブタジエンゴムは、最高の屈曲性、良好な耐摩耗性、および、低い転がり抵抗を有するが、耐ウエットスキッド性は非常に低い。また、天然ゴムは、中程度の屈曲性、並びに、比較的良好な耐摩耗性および転がり抵抗を有するが、耐ウエットスキッド性は大してよくない。スチレンブタジエンゴムは、優れた耐ウエットスキッド性を有するが、耐摩耗性が低く、転がり抵抗が高い。従って各種汎用ゴムの中では、どの種類のゴムも、各種性質に対する要件をバランスよく備えていないことが判る。公知の文献によれば、ゴムの耐ウエットスキッド性は、一般に、動的機械性能テストで0℃において測定されるゴムのtanδの値で間接的に定量化される。一般に、この値が0.24以上の試料は、比較的良好な耐ウエットスキッド性を有する。また、転がり抵抗は一般に、60℃において測定されるゴムのtanδの値によって表わされる。一般に、この値が0.12以上の試料は、比較的良好な転がり抵抗性を有する。
【0004】
ゴムの包括的な性質のバランスを改善するために、Nordsiekは、「一体型ゴム (integral rubber)」という概念を提案した(K H Nordsiek, The "integral rubber" concept-an approach to an ideal tire tread rubber, Kautschuk, Gummi Kunststoffe, 1985, 38(3) : 178-185を参照)。このようなゴムは、ゴムの包括的な性質のバランスがより良好である。その結果、多数の科学研究機関も一体型ゴムの研究開発にさらに大きな努力をし、より優れた低い転がり抵抗および高い耐ウエットスキッド性を有するゴム素材を見つけ出そうとしている。
【0005】
米国特許第5,070,148号明細書には、原料を段階的に添加し、アルキルリチウムを開始剤として用いる様式の線状重合体の調製方法が開示されている。このような線状重合体はI−SBと呼ばれる構造を有する(但し、Iはポリイソプレンのブロックであり、1,4結合の含有量は75%〜98%であり、3,4結合の含有量は2%〜25%であり、SBは1,3−ブタジエンおよびスチレンの共重合体である)。本特許の実施例によって得られるブタジエン、スチレンおよびイソプレンのブロック共重合体は、0℃におけるtanδの値が比較的高く、60℃におけるtanδの値が比較的低く、また、SBR/NRを混合して得られる生成物よりも良好な包括的な性質を有する。但し、米国特許第5,070,148号明細書に開示されている技術的解決法では、イソプレンが、先ず、極性を有する重合調整剤の非存在下で単独重合に供される。イソプレンの単独重合速度は低いので、重合時間が長い。しかも、共重合体中のスチレンのマイクロブロックは、生成されたままでは含有量が多く、それゆえ、共重合体の包括的な性質に影響を与える。
【0006】
米国特許第5,239,009号明細書には、アルキルリチウムを開始剤として使用し、2つのステップで重合を行う様式を採用する、バッチ式重合プロセスを採用することが報告されている。つまり、共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンの一部を最初に重合し、そして、単量体を完全に変換した後に、スチレン、残ったブタジエン、および、イソプレン、或いは、スチレン、残ったイソプレン、および、ブタジエンを、極性を有する重合調整剤の存在下で重合する。このようなプロセスによって生成される共重合体は、スチレンのマイクロブロックの含有量が少なく、二つまたは一つのガラス転移温度を有するブロック共重合体を得ることができる。また、本特許の実施例によって得られる共重合体のtanδの値は、0℃において0.23を超え、60℃においては0.123に満たず、それゆえ、この共重合体は比較的良好な耐ウエットスキッド性および低い転がり抵抗を有する。但し、米国特許第5,239,009号明細書では、第2のステップにおいて三つの単量体を添加しなければならないので実施はより複雑であり、不純物が入り込んで一部のアクティブな鎖セグメントを非活性化する傾向がある。実際に非活性化が起きると、生成物の品質が安定しなくなる。また、重合体は低分子量の重合体を或る程度含有し、その結果、物理的および機械的特性が影響を受ける。
【0007】
特性要件を満足する新しいタイプのブロック共重合体の開発、および、合成プロセスのさらなる最適化が、常にこの技術分野における懸念事項であり、また、目標でもあることは疑いの余地が無い。
【0008】
〔発明の詳細な説明〕
上述の先行技術の現状を考慮して、本発明の発明者らは、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンの三元共重合について深く研究し、(SIB−PB)−Xの星状ブロックの共重合体、または、(SIB−PI)−Xの星状ブロックの共重合体を含有する三元共重合体ゴムが、特定の条件下では、スチレン、所定の割合のブタジエン、および、イソプレン、或いは、スチレン、所定の割合のイソプレン、および、ブタジエンを先ず共重合し、次に、残った割合のブタジエンまたはイソプレンを添加してさらに重合し、反応の完了後にカップリング剤を添加してカップリングを実施することによって得られることを見出した。尚、SIBとはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、PBとはブタジエンの単独重合ブロックであり、PIとはイソプレンの単独重合ブロックであり、Xはカップリング剤の残留物である。このような三元共重合体ゴムは、比較的低い転がり抵抗、優れた耐ウエットスキッド性、および、良好な包括的な物理的および機械的特性を有する。
【0009】
従って、本発明の一つの目的は、(SIB−PB)−Xの星状ブロックの共重合体、または、(SIB−PI)−Xの星状ブロックの共重合体(但し、SIBはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、PBはブタジエンの単独重合ブロックであり、PIはイソプレンの単独重合ブロックであり、Xはカップリング剤の残留物である)を含有する三元共重合体ゴムを提供することである。このような三元共重合体ゴムは、非常に良好な低い転がり抵抗を有し、また、優れた耐ウエットスキッド性および比較的理想的な包括的な物理的および機械的特性を有し、例えば自動車のタイヤトレッドの高性能ゴムなどのゴム製品の分野に適している。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、上記三元共重合体ゴムを調製するプロセスを提供することである。
【0011】
本発明のさらにもう一つの目的は、高性能タイヤの製造における上記三元共重合体ゴムの使用方法を提供することである。
【0012】
本発明では、分子デザイン技術を採用して、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンを同一の重合体鎖内で化学的に結合させる。また、本発明では、部分的仕込み(subsection charging) の方法を用いて、ブタジエンの単独重合セグメントまたはイソプレンの単独重合セグメントを共重合体のセグメントに導入する。こうして、共重合体中におけるスチレンのマイクロブロックの含有量をより良好に制御し、また、共重合体に対して適切なペンダント基含有量(1,2−BDおよび3,4−IPの含有量)およびガラス転移温度を付与する。さらに、このようにすることによって、耐ウエットスキッド性と転がり抵抗との間の相反するバランスを改善し、共重合体に対してより良好な包括的な性質を付与する。
【0013】
具体的には、本発明の一態様において、新しいタイプの三元共重合体ゴムを提供する。この三元共重合体ゴムは、(1)SIB−PAおよび(2)(SIB−PA)−X(SIBはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、PAは共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンの単独重合ブロックであり、Xはカップリング剤の残留物であり、n=2〜4である)という構造の三元共重合体を包含している。具体的には、PAがブタジエンの単独重合ブロックである場合には、本発明の三元共重合体ゴムは(1)SIB−PBおよび(2)(SIB−PB)−Xという構造を有する三元共重合体を包含している。また、PAがイソプレンの単独重合ブロックである場合には、本発明の三元共重合体ゴムは(1)SIB−PIおよび(2)(SIB−PI)−Xという構造を有する三元共重合体を包含している。
【0014】
本発明の三元共重合体ゴムの場合、ブタジエン(BD)、イソプレン(IP)、および、スチレン(ST)は単量体として使用される。上記三元共重合体ゴムの重量を基準にすると、IPの含有量は、5重量%〜85重量%であって、好ましくは20重量%〜60重量%である。また、BDの含有量は、5重量%〜85重量%であって、好ましくは20重量%〜60重量%である。また、STの含有量は、10重量%〜40重量%であって、好ましくは15重量%〜25重量%である。また、カップリング前のSIB−PA構造の数平均分子量は、1.0×10〜5.0×10であって、好ましくは1.2×10〜2.5×10である。さらに、カップリング前のSIB−PA構造の分子量分布は、1.1〜2.5である。
【0015】
本発明の三元共重合体ゴムの場合、カップリング効率は一般に20%〜100%の範囲であって、好ましくは40%〜80%の範囲である。
【0016】
本発明の三元共重合体ゴムの場合、上記三元共重合体ゴムにおける1,4−IP構造の含有量は、10重量%〜40重量%であって、好ましくは20重量%〜30重量%である。また、3,4−IP構造の含有量は、5重量%〜30重量%であって、好ましくは10重量%〜20重量%である。また、1,2−BD構造の含有量は、5重量%〜30重量%であって、好ましくは10重量%〜20重量%である。さらに、1,4−BD構造の含有量は、10重量%〜40重量%であって、好ましくは20重量%〜30重量%である。
【0017】
本発明の三元共重合体ゴムの場合、SIBのランダム共重合ブロックにおける共役ジエン(つまりブタジエンまたはイソプレン)の含有量の範囲は、一般に6重量%〜40重量%であって、好ましくは25重量%〜37.5重量%である。それ以外のブタジエンまたはイソプレンはPAの単独重合ブロック中に存在する。
【0018】
本発明の別の態様では、上記三元共重合体ゴムの調製プロセスを開示する。この調製プロセスでは、
(a)非極性の炭化水素の溶媒中で、かつ、極性を有する重合調整剤の存在下で、有機リチウム系開始剤を用いて、スチレン、所定の割合のブタジエン、および、イソプレンの重合を開始させるか、または、スチレン、所定の割合のイソプレン、および、ブタジエンの重合を開始させる。そして重合を完了させることによって、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックSIBを得る。
【0019】
(b)次に、残った割合の共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンを添加してさらに重合を進め、反応を完了させることによってSIB−PA構造を有する生成物を得る。但し、SIBはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、PAは共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンの単独重合ブロックである。
【0020】
(c)次に、カップリング剤を添加してカップリングを起こす。
【0021】
(d)この反応を或る期間持続させた後に、終結剤を添加して上記重合反応を停止させる。
【0022】
上記調製プロセスによれば、また、アニオン重合の仕組みに基づいて、当業者であれば、SIB−PA構造を有する生成物をカップリングすることによって得られる(SIB−PA)−X構造を有する三元共重合体において、SIB−PA構造のPA部がカップリング剤の残留物Xに結合していることが理解できるであろう。
【0023】
本発明の三元共重合体ゴムの調製プロセスでは、非極性の炭化水素の溶媒がステップ(a)において使用される。ここで、当業者であれば、この溶媒は、ステップ(a)の重合反応条件の下で液体状態にあるべきであること、および、重合反応に関与することも、この反応が原因となって生じる重合体と反応することも無い、つまり、この溶媒は不活性であることが確実に理解できるであろう。このような溶媒は、アニオン重合の分野の当業者にとって自明であって容易に選択可能ではあるが、本発明の場合に、上記非極性の炭化水素の溶媒は、炭素数が5〜7であるシクロアルカン、芳香族炭化水素、イソアルカン、または、これらの混合物を包含していてもよい。具体的な例としては、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、および、ヘキサンとシクロヘキサンとの混合物からなる群より選択される炭化水素の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で使用しても、二つ以上の混合物の形態で使用してもよい。ステップ(a)の重合において、非極性の炭化水素の溶媒量は、従来技術に従った量である。例えば、該溶媒の量は、単量体の濃度が5重量%〜30重量%になるように、好ましくは8重量%〜20重量%になるように制御すればよい。
【0024】
本発明の三元共重合体ゴムの調製プロセスでは、重合プロセスで使用する有機リチウム系開始剤は、アニオン重合の分野において従来から使用されている開始剤であって、例えば有機モノリチウムまたはジリチウム系開始剤である。好ましく使用される開始剤は、有機系モノリチウム化合物であって、例えば化学式「RLi」で表わされる化合物である。該化学式中、Rは、直鎖状アルキル若しくは分岐鎖状アルキル、シクロアルキル、またはアリールであり、例としては、エチルリチウム、プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、 sec−ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、シクロヘキシルリチウム、フェニルリチウム、メチルフェニルリチウム、ナフチルリチウムなどが挙げられる。より好ましくは、n−ブチルリチウムまたは sec−ブチルリチウムが開始剤として使用される。重合プロセスにおいて使用する開始剤の量は、必要とされる分子量に依存する。一般に、開始剤の量は、単量体100g当たり0.25mmol〜2.5mmolである。本発明では、アルキルリチウム系開始剤の量は、SIB−PA構造を有するステップ(b)の生成物の数平均分子量を1.0×10〜5.0×10にするような量であって、好ましくは1.2×10〜2.5×10にするような量である。
【0025】
本発明の三元共重合体ゴムの調製プロセスにおけるステップ(a)では、有機リチウム化合物を用いてスチレン、所定の割合のブタジエン、および、イソプレンの重合、或いは、スチレン、所定の割合のイソプレン、および、ブタジエンの重合を開始させる温度は、広い範囲から選択可能である。一般に初期温度の範囲は35℃〜80℃であって、好ましくは40℃〜60℃である。
【0026】
本発明の三元共重合体の調製プロセスでは、ステップ(a)の重合反応を開始させる際に、次のステップ(b)の温度は、重合反応の進行を維持することができる限り、特に限定されない。この他の実施形態として、共役ジエン単量体がステップ(b)において添加する際に、重合反応の混合物の温度を制御して60℃〜100℃にしてもよく、好ましくは70℃〜95℃にしてもよい。
【0027】
本発明の三元共重合体の調製プロセスでは、重合反応の圧力は特に限定されない。一般に、重合圧力は、0.05MPa〜0.5MPaであって、好ましくは0.1MPa〜0.3MPaである。各ステップの反応時間は、重合反応において単量体が完全に消費されることによって制御される。
【0028】
本発明の三元共重合体の調製プロセスでは、添加されるスチレン、ブタジエンおよびイソプレンの共重合反応がランダムに実施されることを保証するために、極性を有する重合調整剤が、ステップ(a)においてランダム薬剤および構造調整剤として添加される。使用する極性を有する重合調整剤は、酸素含有化合物、窒素含有化合物、硫黄含有化合物若しくは亜リン酸含有化合物、または、これらの混合物を含めた、ゴムの合成の分野で使用される従来の試薬である。具体的な例としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、クラウンエーテル、エチルテトラヒドロフルフリルエーテル、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、tert−ブトキシドカリウム、tert−五酸化カリウム、ラウリルカリウム、アルキルベンゼンスルホン酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、および、これらの混合物などが挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。使用する極性を有する重合調整剤の量は、本発明の調製プロセスにおいて特に限定されない。好ましくは、使用する極性を有する重合調整剤の量は、有機リチウム系開始剤に対する極性を有する重合調整剤のモル比によって規定される。極性を有する重合調整剤の量は、SIB−PAランダム共重合体中の1,2−BDの含有量および3,4−IPの含有量の、所望の値に合わせて選択される。一般に、有機リチウム系開始剤に対する極性を有する重合調整剤のモル比は0.1〜10であって、好ましくは0.2〜2である。
【0029】
本発明の三元共重合体ゴムの調製プロセスでは、重合反応の完了後、かつ、終結剤の添加の前に、結果として得られるアクティブな共重合体鎖をカップリングするために、カップリング剤が添加される。カップリング剤の量は、鎖セグメントの20%〜100%がカップリングされることを保証する量でなければならず、また、カップリング効率は好ましくは40%〜80%である。当業者であれば誰もが同じように理解するように、カップリング効率とは、アクティブな共重合体鎖全体に対する、カップリングされたアクティブな共重合体鎖の比率を指している。有用なカップリング剤は、多官能ビニル化合物、ハロゲン化物、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステルなどであり、例えばジビニルベンゼン、テトラビニルシラン、テトラクロロメタン、四塩化シリコン、四塩化スズ、および、ジメチルテレフタラートなどである。好ましいカップリング剤は、ジビニルベンゼン、四塩化シリコン、および、四塩化スズなどである。カップリング剤の量は、好ましくは有機リチウム系開始剤に対するカップリング剤のモル比が0.1〜2となるような量である。
【0030】
本発明の三元共重合体ゴムの調製プロセスにおけるステップ(c)のカップリング反応後が完了した後に、終結剤を使用して重合反応を停止させてもよい。アニオン重合の分野において従来から使用されている方法に従って、アクティブな重合体鎖を停止させてもよい。使用する終結剤は、アニオン重合の分野において従来から使用されている終結剤である。通常選択される終結剤は、水またはアルコールであり、例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどであり、終結剤として好ましく使用されるのはイソプロパノールである。終結剤の量は、有機リチウム系開始剤に対する終結剤のモル比が0.1〜1となるような量でなければならない。
【0031】
随意的に、本発明の三元共重合体ゴムをさらに処理してもよく、例えば乾燥処理を行う前に、ゴム老化阻害剤を反応混合物(つまり、重合体液状接着剤(polymer liquid glue) )に添加してもよい。本発明の場合、従来のゴム老化阻害剤を使用してもよい。従来のゴム老化阻害剤の例としては、一般に、Irganox1520(CIBA社、スイス)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](つまり、1010)とトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)亜リン酸エステル(つまり、168)との複合ゴム老化阻害剤(但し、168の含有量が50重量%を超えない)、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(つまり、1076)とトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)亜リン酸エステル(つまり、168)との複合ゴム老化阻害剤(但し、168の含有量が50重量%を超えない)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(ゴム老化阻害剤264と略称する)、tert−ブチルカテコール、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(ゴム老化阻害剤2246と略称する)を含めた、フェノールまたはアミンなどが挙げられる。ゴム老化阻害剤の添加量は、一般に重合体の0.005重量%〜2重量%である。ゴム老化阻害剤を添加した後に、重合体液状接着剤を、アルコール処理による沈殿(alcoholization precipitation)、遠心分離、濾過、デカンテーション、湯を用いた凝集(hot water agglomeration) などの方法によって、溶媒から沈殿分離してもよい。また、ストリップ法(stripping manner)を用いて、共重合体から揮発性の有機溶剤を除去してもよい。
【0032】
本発明の三元共重合体ゴムは、各種のゴム製品の製造に使用可能であり、特に、高性能タイヤの製造に適している。
【0033】
以下の理由(1)〜(5)によって、本発明の三元共重合体ゴムは、従来の合成手法によって生成される共重合体ゴムと比較すると、転がり抵抗が低く、耐ウエットスキッド性に優れ、包括的な物理的および機械的特性が良好である。
【0034】
(1)三元共重合体ゴムは、二つのタイプの共役ジエン、特にペンダント基構造を有する共役ジエンを含有する。これによって、共重合体ゴムの耐ウエットスキッド性が改善される。
【0035】
(2)部分的仕込み(segmentation charging) プロセスを用いて、共重合体中におけるスチレンのマイクロブロック(繰り返し単位の個数は3〜5)の含有量を、1重量%未満とする。これによって、共重合体ゴムの転がり抵抗性が効果的に改善される。
【0036】
(3)部分的仕込み(segmentation charging) プロセスを用いて、ペンダント基含有量(1,2−BD含有量と3,4−IP含有量との合計)が中程度である共重合体を得る。これによって、共重合体ゴムの耐ウエットスキッド性が改善される。
【0037】
(4)重合体鎖の大部分がカップリングされて、重合体の自由端の量が低下し、(SIB−PA)−X星状構造を有する三元共重合体を得ることができる。これによって、共重合体ゴムの転がり抵抗性が効果的に改善され、また、ゴムの低温粘性も改善される。
【0038】
(5)本発明の三元共重合体ゴムにおけるtanδの値は、60℃において0.12を超えず、0℃において少なくとも0.24である。
【0039】
〔実施例〕
次に、本発明を以下の実施例によって詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
本発明では、合成した三元共重合体ゴムの微細構造は、核磁気共鳴分光計 AVANCE DRX 400MHz(Bruker社、スイス)を用いて決定される。但し、溶媒はクロロホルム−Dである。
【0041】
分子量およびカップリング効率は、THFを移動相として用い、分子量分布が狭いポリスチレンを標準的な試料として使用し、温度が25℃という条件下で、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography ;GPC)装置(モデル名:ALLIANCE2690、WATERS社、米国)を用いて決定される。
【0042】
ガラス転移温度は、調節期間が60秒、調節振幅が±1.5℃、加熱速度が10℃/分、窒素雰囲気下(under nitrogen protection) 、流速が50ml/分という条件下で、示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry ;DSC)装置(モデル名:MDSC2910、TA社、米国)を用いて決定される。
【0043】
動的機械的特性は、周波数が2Hz、−120℃〜100℃の加熱速度が5℃/分、試料のサイズが40mm×5mm×1mmという条件下で、粘弾性分析器(モデル名:DMA−2980、TA社、米国)を用いて決定される。
【0044】
ムーニー粘度は、GB/T1232−92に従って、SHIMADZU社のSMV−300型テスター(日本)を用いて決定される。
【0045】
生ゴムは、ロール温度が50±5℃という条件下で、オープンミルで混合する。
【0046】
加硫条件は、温度が145℃、圧力が少なくとも10MPa、加硫時間が35分間である。
【0047】
加硫の基本的な配合は、生ゴムが100g、硫黄が1.75g、ステアリン酸が1g、産業用標準カーボンブラックNo.7が50g、促進剤が1g、酸化亜鉛が3gである。
【0048】
加硫ゴムの物性は、GB/T528−1998に従って、SHIMADZU社のストレッチャー(モデル名:AG−20KNG、日本)を用いて決定される。
【0049】
〔実施例1〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、112.32gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.69mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、91.1℃の重合温度で、12.48gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.39mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0050】
〔実施例2〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、99.84gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.59mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、85.2℃の重合温度で、24.96gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.37mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例3〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、87.36gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.03mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、87.4℃の重合温度で、37.44gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.26mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0052】
〔実施例4〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、74.88gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.42mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、88.6℃の重合温度で、49.92gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.34mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
〔実施例5〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、62.4gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.76mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、77.3℃の重合温度で、62.4gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.41mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
〔実施例6〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、49.92gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.5mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、72.8℃の重合温度で、74.88gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.35mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
〔実施例7〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、37.44gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.6mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、77.1℃の重合温度で、87.36gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.37mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
〔実施例8〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、24.96gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.3mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、70.1℃の重合温度で、99.84gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.31mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
〔実施例9〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、高純度の窒素の保護下で、2288gのシクロヘキサン、62.4gのスチレン、124.8gのイソプレン、および、12.48gのブタジエンを添加し、次に、所定量のエチルテトラヒドロフルフリルエーテルおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。50℃で、3.61mmolのn−ブチルリチウムを添加して反応を開始させた。重合の完了後に、70.8℃の重合温度で、112.32gのブタジエンを補充して重合を継続し、反応を20分間持続させた。次に、0.38mmolの四塩化スズをさらに重合用ケトルに添加した。70分経過後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、0.62gのゴム老化阻害剤Irganox1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例10〕
ブタジエンとイソプレンとを、仕込み方および仕込み量について互いに入れ替えて使用した以外は、実施例4と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
〔実施例11〕
ブタジエンとイソプレンとを、仕込み方および仕込み量について互いに入れ替えて使用した以外は、実施例5と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0060】
〔実施例12〕
ブタジエンとイソプレンとを、仕込み方および仕込み量について互いに入れ替えて使用した以外は、実施例6と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例13〕
ブタジエンとイソプレンとを、仕込み方および仕込み量について互いに入れ替えて使用した以外は、実施例7と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例1〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌重合ケトルに、2288gのシクロヘキサンおよび124.8gのイソプレンを添加した。50℃で、3.58mmolのn−ブチルリチウム開始剤を添加して、反応を60分間持続させた。次に、エチルテトラヒドロフルフリルエーテルとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとの複合重合調整剤を一定量だけ添加し、続いて、124.8gのブタジエンおよび62.4gのスチレンを添加した。反応を1時間持続させた後に、0.41mmolの四塩化スズを添加してさらに反応させた。反応を20分間持続させた後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、乾燥ゴムに対して0.5重量%のゴム老化阻害剤1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表2に示す。
【0063】
〔比較例2〕
イソプレンの初期温度を60℃にした以外は、比較例1と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表2に示す。
【0064】
〔比較例3〕
添加するイソプレンの質量を62.4gにし、添加するブタジエンの質量を187.2gにし、添加するスチレンの質量を62.4gにし、イソプレンの初期温度を55℃にした以外は、比較例1と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表2に示す。
【0065】
〔比較例4〕
イソプレンの初期温度を60℃にした以外は、比較例3と全く同じ重合プロセスおよび条件で実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表2に示す。
【0066】
〔比較例5〕
イソプレンの初期温度を65℃にした以外は、比較例3と全く同じ重合プロセスおよび条件で実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表2に示す。
【0067】
〔比較例6〕
イソプレンの初期温度を70℃にした以外は、比較例3と全く同じ重合プロセスおよび条件で実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表2に示す。
【0068】
〔比較例7〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、2288gのシクロヘキサンおよび46.8gのイソプレンを添加した。60℃で、4.93mmolのn−ブチルリチウム開始剤を添加して、反応を60分間持続させた。次に、エチルテトラヒドロフルフリルエーテルとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとの複合重合調整剤を一定量だけ添加し、続いて、124.8gのブタジエン、62.4gのスチレン、および、78gのイソプレンを添加した。反応を1時間持続させた後に、0.27mmolの四塩化スズを添加してさらに反応させた。反応を20分間持続させた後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、乾燥ゴムに対して0.5重量%のゴム老化阻害剤1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0069】
〔比較例8〕
第1期において単独重合するイソプレンの量を62.4gにし、第2期におけるイソプレンの量を62.4gにした以外は、比較例7と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0070】
〔比較例9〕
第1期において単独重合するイソプレンの量を78gにし、第2期におけるイソプレンの量を46.8gにした以外は、比較例7と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0071】
〔比較例10〕
第1期において単独重合するイソプレンの量を93.6gにし、第2期におけるイソプレンの量を31.2gにした以外は、比較例7と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0072】
〔比較例11〕
5Lのステンレス鋼製の攪拌ケトルに、2288gのシクロヘキサンおよび46.8gのブタジエンを添加した。60℃で、5.12mmolのn−ブチルリチウム開始剤を添加して、反応を60分間持続させた。次に、エチルテトラヒドロフルフリルエーテルとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとの複合重合調整剤を一定量だけ添加し、続いて、124.8gのイソプレン、62.4gのスチレン、および、78gのブタジエンを添加した。反応を1時間持続させた後に、0.37mmolの四塩化スズを添加してさらに反応させた。反応を20分間持続させた後に、0.5gのイソプロパノールを添加することによって、反応を停止させた。以上の結果として得られた液状接着剤に、乾燥ゴムに対して0.5重量%のゴム老化阻害剤1520を添加し、湯を用いて凝集させ、高温のローラによって乾燥させた。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0073】
〔比較例12〕
第1期において単独重合するブタジエンの量を62.4gにし、第2期におけるブタジエンの量を62.4gにした以外は、比較例11と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0074】
〔比較例13〕
第1期において単独重合するブタジエンの量を93.6gにし、第2期におけるブタジエンの量を31.2gにした以外は、比較例11と全く同じ重合プロセスを実施した。試料に対して物理的および機械的特性に関する試験を行った。結果を表3に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1のデータから、BD(1)/BD(2)の値が増加すると、重合体中におけるスチレンのマイクロブロックの含有量が良好に制御され、また、合成された重合体が比較的良好な動的機械的特性を有するように、同含有量が1重量%を超えないように制御することが可能になることが判る。これに加えて、重合体中の1,2−BDの含有量および3,4−IPの含有量が、BD(1)とBD(2)との比(BD(1)/BD(2))および第2期の仕込み温度によって影響されることも判る。BD(1)とBD(2)との比(BD(1)/BD(2))が大きくなるにつれて、また、第2期の仕込み温度が低くなるにつれて、結果として得られる重合体中の1,2−BDの含有量および3,4−IPの含有量が高くなる。さらに、このことが、重合体のガラス転移温度および動的機械的特性に影響を及ぼす。そこで、BD(1)とBD(2)との比(BD(1)/BD(2))と第2期の仕込み温度とを相互に調節することによって、適切なガラス転移温度および優れた動的機械的特性を有する試料が得られる。また、第2期においてイソプレンを重合に使用した試料も、優れた包括的な性能を有する。具体的には、スチレンのマイクロブロックの含有量がより良好に制御される(1重量%を超えない)。その一方で、tanδは、0℃では0.24を超え、60℃では0.12未満である。従って、耐ウエットスキッド性と転がり抵抗との間の相反するバランスが改善される。
【0077】
【表2】

【0078】

【0079】
表2に示す比較例の試料は、第1期においてイソプレンを単独重合し、第2期においてブタジエンおよびスチレンを共重合する重合プロセスによって、その全てが合成されている。この表のデータから、三種類の単量体(ST/IP/BD)の比が20/40/40であっても、または、20/20/60であっても、上述の重合プロセスで合成された重合体中におけるスチレンのマイクロブロックの含有量が比較的高いこと(1重量%を超える)、および、初期温度が上昇するにつれて同含有量が徐々に増加する(これは試料の動的機械的特性に深刻な影響を及ぼす)ことが判る。また、tanδは、0℃では0.24未満であり、60℃では0.12を超える。試料の耐ウエットスキッド性および転がり抵抗性は著しく影響され、耐ウエットスキッド性と転がり抵抗との間の相反性のバランスは改善できない。
【0080】
【表3】

【0081】

【0082】
表3に示す試料は、第1期において共役ジエンを単独重合し、第2期において三元共重合を実施する方法によって、その全てが合成されている。この表のデータから、この重合プロセスを使用することによって、重合体中におけるスチレンのマイクロブロックの含有量を制御することが改善され得る(1重量%未満)ことが判る。同量の単量体を用いる場合、第1期においてイソプレンを単独重合する試料の動的機械的特性は、第1期においてブタジエンを単独重合する試料の動的機械的特性に比べて良好である。但し、このようなプロセスを実施するためには、第2期において三種類の単量体を添加することが必要であり、従って、操作が比較的複雑になり、また、アクティブな鎖セグメントの一部を非活性化するために、不純物が組み込まれる傾向がある。これは生成物の品質を変動させる原因になり得る。その一方で、或る量の低分子量の重合体が重合体中に存在し、その結果、共重合体の物理的および機械的特性が影響を受ける。この表のデータから、大部分の試料の引っ張り強さは20MPa未満であることが判る。これでは、高性能タイヤトレッド用ゴムに対して要求される、物理的および機械的特性に関する条件が満たされない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
星状ブロック構造(SIB−PA)−Xを有する三元共重合体を包含する、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンの三元共重合体ゴムであって、
SIBはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、
PAは共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンの単独重合ブロックであり、
Xはカップリング剤の残留物であり、
n=2〜4であり、
該三元共重合体ゴムの重量に対して、
イソプレンの含有量が5重量%〜85重量%であって、好ましくは20重量%〜60重量%であり、
ブタジエンの含有量が5重量%〜85重量%であって、好ましくは20重量%〜60重量%であり、
スチレンの含有量が10重量%〜40重量%であって、好ましくは15重量%〜25重量%であり、
さらに、カップリングの前に、
SIB−PA構造の数平均分子量が1.0×10〜5.0×10であって、好ましくは1.2×10〜2.5×10であり、
SIB−PA構造の分子量分布が1.1〜2.5である、三元共重合体ゴム。
【請求項2】
SIB−PA構造を有する三元共重合体をさらに包含する、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項3】
カップリング効率が20%〜100%の範囲であって、好ましくは40%〜80%の範囲である、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項4】
上記三元共重合体ゴムにおいて、
1,4−イソプレン結合の含有量が10重量%〜40重量%であって、好ましくは20重量%〜30重量%であり、
3,4−イソプレン結合の含有量が5重量%〜30重量%であって、好ましくは10重量%〜20重量%である、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項5】
上記三元共重合体ゴムにおいて、
1,2−ブタジエン結合の含有量が5重量%〜30重量%であって、好ましくは10重量%〜20重量%であり、
1,4−ブタジエン結合の含有量が10重量%〜40重量%であって、好ましくは20重量%〜30重量%である、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項6】
SIBのランダムな共重合ブロックにおけるブタジエンまたはイソプレンの含有量が、6重量%〜40重量%の範囲であって、好ましくは25重量%〜37.5重量%の範囲であり、
それ以外のブタジエンまたはイソプレンがPAの単独重合ブロック内に存在する、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項7】
上記三元共重合体ゴムにおいて、スチレンのマイクロブロックの含有量が1重量%未満である、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項8】
上記三元共重合体ゴムのガラス転移温度Tgが−30℃〜−80℃であって、好ましくは−35℃〜−50℃である、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項9】
上記三元共重合体ゴムのtanδの値が、60℃において0.12以下であって、0℃において少なくとも0.24である、請求項1に記載の三元共重合体ゴム。
【請求項10】
(a)非極性の炭化水素の溶媒中で、かつ、極性を有する重合調整剤の存在下で、有機リチウム系開始剤を用いてスチレン、所定の割合のブタジエン、および、イソプレンの重合を開始させるか、または、有機リチウム系開始剤を用いてスチレン、所定の割合のイソプレン、および、ブタジエンの重合を開始させ、重合の終了時にスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックSIBを生成し、
(b)次に、残った割合の共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンを添加して重合を継続し、反応の終了時にSIB−PA構造(但し、SIBはスチレン、ブタジエンおよびイソプレンのランダムな共重合ブロックであり、PAは共役ジエンであるブタジエンまたはイソプレンの単独重合ブロックである)を有する生成物を生成し、
(c)次に、カップリング剤を添加してカップリングを起こし、
(d)この反応を或る期間持続させた後に、終結剤を添加して上記重合反応を停止させる、請求項1に記載の三元共重合体ゴムを調製するプロセス。
【請求項11】
上記非極性の炭化水素の溶媒が、炭素数が5〜7であるシクロアルカン、芳香族炭化水素、イソパラフィン、または、これらの混合物から選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
上記炭化水素の溶媒が、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、および、ヘキサンとシクロヘキサンとの混合物からなる群より選択される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
上記極性を有する重合調整剤が、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、クラウンエーテル、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、tert−ブトキシドカリウム、tert−五酸化カリウム、ラウリルカリウム、アルキルベンゼンスルホン酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、および、これらの混合物からなる群より選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項14】
上記有機リチウム系開始剤に対する極性を有する重合調整剤のモル比が0.2〜2である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
上記カップリング剤が、多官能ビニル芳香族炭化水素、多機能性エポキシド、イミン、アルデヒド、ケトン、無水物、エステル、イソシアン酸、および、ハロゲン化物からなる群より選択され、好ましくはジビニルベンゼン、テトラビニルシラン、テトラクロロメタン、四塩化シリコン、四塩化スズ、および、ジメチルテレフタラートから選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項16】
上記有機リチウム系開始剤に対するカップリング剤のモル比が0.1〜2である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
上記ステップ(a)の初期温度が35℃〜80℃であって、好ましくは40℃〜60℃である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項18】
残りの共役ジエンである単量体をステップ(b)に添加する際に、重合反応の混合物の温度を60℃〜100℃、好ましくは70℃〜95℃に制御する、請求項10に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項1に記載の三元共重合体ゴムを、ゴム製品の製造の用途に用いる使用方法。
【請求項20】
上記ゴム製品がタイヤトレッドである、請求項19に記載の使用方法。

【公開番号】特開2012−25948(P2012−25948A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−140685(P2011−140685)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(503191287)中国石油化工股▲ふん▼有限公司 (35)
【出願人】(510016575)中国石油化工股▲ふん▼有限公司北京化工研究院 (8)
【氏名又は名称原語表記】BEIJING RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL INDUSTRY,CHINA PETROLEUM & CHEMICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.14,BEISANHUAN EAST ROAD,CHAOYANG DISTRICT,BEIJING 100013,CHINA
【Fターム(参考)】