説明

時分割双方向通信装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、時分割双方向通信装置に係わり、特に、送信タイムスロット(以下、送信スロット)の直前にあるブラインドスロットにおける電圧制御発振器(VCO)の発振周波数の基準値と送信スロットにおける同発振周波数の基準値を略等しくし、送信周波数の周波数の偏差を抑えるようにした時分割双方向通信装置に関する。
【0002】
【従来の技術】時分割双方向(TDD)通信方式においては、送信スロットの直前にブラインドスロットを設けている。このブラインドスロットにおいては、信号が送信も受信もされずに、送信のための準備が行われるものである。
【0003】ここで、図4は、既知の時分割双方向通信装置の送受信機における送信部の構成を示すブロック構成図である。
【0004】図4に示すように、送信部は、大きく分けて、位相制御部と、変調信号供給部と、送信信号出力部と、電圧調整部とからなっている。この内、位相制御部は、電圧制御発振器(VCO)31と位相制御用のIC32とローパスフィルタ(LPF)33とからなり、VCO31の出力端子OがIC32の入力に、IC32の出力がLPF33の入力に、LPF33の出力がVCO31の誤差信号入力端子IE にそれぞれ接続されている。ここで、IC32は分周器や位相比較器、チャージポンプ等を備えたものであり、一例としてフィリップ社製のUMA1018である。変調信号供給部は、ディジタル信号源34と、波形整形回路35と、ガウシャンフィルタ(GF)36とからなり、ディジタル信号源34の出力が波形整形回路35の入力に、波形整形回路35の出力がGF36の入力に、GF36の出力がVCO31の変調信号入力端子IM にそれぞれ接続されている。送信信号出力部は、バッファ増幅器37と、前置増幅器38と、電力増幅器39と、送受切換えスイッチ40と、バンドパスフィルタ(BPF)41と、アンテナ42とからなり、VCO31の出力端子Oがバッファ増幅器37の入力に、バッファ増幅器37の出力が前置増幅器38の入力に、前置増幅器38の出力が電力増幅器39の入力に、電力増幅器39の出力が送受切換えスイッチ40の一方の固定接点に、送受切換えスイッチ40の可動接点がBPF41の一方の端子に、BPF41の他方の端子がアンテナ42にそれぞれ接続されている。電圧調整部は、電圧調整器(REG)43と、第1の電源スイッチ44と、第2の電源スイッチ45とからなり、REG43の入力が電源Vccに、REG43の出力がVCO31、IC32、波形整形回路35、GF36、バッファ増幅器37の各電源端子に、第1の電源スイッチ44の可動接点が電源Vccに、第1の電源スイッチ44の固定接点が前置増幅器38の電源端子に、第2の電源スイッチ45の可動接点が電源Vccに、第2の電源スイッチ45の固定接点が電力増幅器39の電源端子にそれぞれ接続されている。
【0005】また、IC32には、基準クロック信号(REF CLK)、PLLクロック信号(PLL CLK)、PLLデータ信号(PLL DATA)、PLLストローブ信号(PLL STB)、PLL電力断信号(PLL PWR DWN)がそれぞれ供給される。第1の電源スイッチ44の制御端子には、送信イネーブル信号(TX ENB)が供給され、第2の電源スイッチ45の制御端子には、増幅器立上げ信号(PA RUMP)が供給される。
【0006】次いで、図5(a)乃至(g)は、前記構成による既知の送受信機の送信部における各部の信号波形の時間的変位状況を示す説明図であって、(a)は送信イネーブル信号(TX ENB)を、(b)はPLL電力断信号(PLL PWRDWN)を、(c)は増幅器立上げ信号(PA RUMP)を、(d)はディジタル信号(TX DATA)を、(e)は波形整形回路35の出力信号を、(f)はガウシャンフィルタ36の出力信号(変調信号)fT をそれぞれ示す信号波形図であり、(g)はVCO31の発振周波数偏差を示す説明図である。
【0007】図5において、縦軸は各信号の振幅または周波数偏差を、横軸は時間をそれぞれ示す。この場合、時間t1乃至t4はブラインドスロットの期間であり、時間t4乃至t11は送信スロットの期間である。
【0008】ここで、図5(a)乃至(g)を用い、既知の送受信機の送信部で実行される動作の概要について説明する。
【0009】まず、時間t1になると、ブラインドスロットの期間に入る。このとき、送信イネーブル信号(TX ENB)は非能動状態を指示するハイレベル、増幅器立上げ信号(PA RUMP)は非能動状態を指示するローレベルにあって、第1の電源スイッチ44及び第2の電源スイッチ45の接点はいずれも開いており、また、PLL電力断信号(PLL PWR DWN)はローレベルにあって、VCO31とIC32とローパスフィルタ33とからなる位相制御部は制御ループが開かれており、ディジタル信号(TX DATA)は中間レベルの基準電圧状態にあって、VCO31に何等の信号も加えられない。VCO31は信号を発振しているものの、その発振周波数は基準発振周波数fT には一致していない。
【0010】次いで、時間t2になると、PLL電力断信号(PLL PWR DWN)がハイレベルに変わり、位相制御部の制御ループが閉じる。VCO31の発振信号の周波数は、時間t2において基準発振周波数fT からずれていたとしても、位相制御部によって位相制御され、短時間の内に周波数偏差ゼロの基準発振周波数fT に収斂される。VCO31で得られた発振信号は、バッファ増幅器37を介して前置増幅器38側に供給されるが、第1の電源スイッチ44や第2の電源スイッチ45の接点が開かれているため、前置増幅器38や電力増幅器39は非能動状態であって、発振信号は前置増幅器38や電力増幅器39で阻止され、アンテナ42から送信されることはない。
【0011】続いて、時間t3になると、PLL電力断信号(PLL PWR DWN)がローレベルに戻り、位相制御部は再び制御ループが開かれた状態になる。このとき、VCO31は、LPF33に保持された制御電圧によって基準発振周波数fT の発振を続行する。なお、この時点で制御ループを開く理由は、送信タイムスロット期間に変調動作がPLL制御によって阻害されることを防ぐためと、消費電力を低減させるためである。
【0012】続く、時間t4になると、ブラインドスロットの期間が終了し、送信スロットの期間に入る。しかし、時間t5までは時間t3乃至t4の期間の動作がそのまま継続される。
【0013】次いで、時間t5になると、送信イネーブル信号(TX ENB)は能動状態を指示するローレベルに変わり、第1の電源スイッチ44の接点が閉じ、前置増幅器38が能動状態になる。このとき、VCO31で得られた発振信号は、バッファ増幅器37や前置増幅器38を介して電力増幅器39に供給されるが、電力増幅器39は未だ非能動状態にあるので、発振信号は電力増幅器39で阻止され、アンテナ42から送信されることはない。
【0014】続いて、時間t6になると、増幅器立上げ信号(PA RUMP)は能動状態を指示するハイレベルに変わり、第2の電源スイッチ45の接点が閉じ、電力増幅器39は能動状態になる。
【0015】続く、時間t7になると、ディジタル信号源34は、図5(d)に示すようなディジタル信号(TX DATA)を発生し、そのディジタル信号(TX DATA)は、波形整形回路35において図5(e)に示すような方形波信号に波形整形され、次いで、GF36において図5(f)に示すような正弦波状の変調信号SM に変換され、VCO31の変調信号入力端子IM に供給される。VCO31は、変調信号SM の供給により、発振信号が周波数シフトキーイング(GFSK)変調され、図5(g)に示すようなGFSK変調信号を発生する。このGFSK変調信号は、バッファ増幅器37、前置増幅器38、電力増幅器39、可動接点が送信側に切換えられている送受切換えスイッチ40、BPF41をそれぞれ介してアンテナ42に供給され、アンテナ42から送信される。
【0016】次に、時間t8になると、ディジタル信号源34は、ディジタル信号(TXDATA)の発生を停止し、中間レベルの基準電圧状態になる。このとき、VCO31には変調信号SM の供給が停止され、VCO31はGFSK変調信号の発生を停止し、代わりに無変調の発振信号を発生する。
【0017】続いて、時間t9になると、増幅器立上げ信号(PA RUMP)は非能動状態を指示するローレベルに変化し、第2の電源スイッチ45の接点が開き、電力増幅器39は非能動状態に転換する。このとき、VCO31で得られた発振信号は、非能動状態の電力増幅器39で阻止され、アンテナ42からの送信は停止される。
【0018】次いで、時間t10になると、送信イネーブル信号(TX ENB)は非能動状態を指示するローレベルに変わり、第1の電源スイッチ44の接点が開き、前置増幅器38が非能動状態になる。このとき、VCO31で得られた発振周波数fT は、非能動状態の前置増幅器38及び電力増幅器39で阻止され、アンテナ42から送信されることはない。
【0019】続いて、時間t11になると、送信スロットの期間が終了し、それに続く受信スロット等の期間を経て、再び、次のブラインドスロットの期間に入リ、前述の動作が繰返し実行される。
【0020】また、図6は、既知の送受信機の送信部におけるVCO31の構成の一例を示す回路構成図であり、図7は、同じく既知の送受信機の送信部における波形整形回路35の構成の一例を示す回路構成図である。
【0021】図6に示されるように、VCO31は、他の回路素子とともにコルピッツ発振回路を構成するトランジスタ53と、発振周波数を設定する共振線路54と、変調信号SM や誤差電圧VE の供給によって、発振周波数を適宜偏移させる可変容量ダイオード55等からなっている。また、図7に示されるように、波形整形回路35は、インバータ用集積回路(IC)47と、入力抵抗48と、帰還抵抗49と、出力抵抗50と、バイアス抵抗51、52とからなっている。
【0022】前記構成に係わるVCO31及び波形整形回路35は、次のように動作する。
【0023】まず、VCO31の動作について述べると、ディジタル信号源34がディジタル信号(TX DATA)の発生を停止していて、変調信号入力端子IM に変調信号SM が供給されず、しかも、位相制御部の制御ループが開いていて、誤差信号入力端子IE に誤差信号SE が供給されない場合、VCO31は、LPF33に保持された制御電圧及び共振線路54やその周辺の他の回路素子の回路定数で設定される基準発振周波数fT に近似した周波数で発振し、発振信号が次続のバッファ増幅器37に供給される。このとき、位相制御部の制御ループが閉じて、VCO31に誤差信号SE が供給されると、この誤差信号SE によってVCO31の発振周波数が制御され、VCO31は、基準発振周波数fT に一致した周波数で発振し、発振周波数信号が次続のバッファ増幅器37に供給される。また、ディジタル信号源34がディジタル信号(TX DATA)を発生するようになり、変調信号入力端子IM に変調信号SM が供給されると、VCO31は、基準発振周波数fT が変調信号SM でGFSK変調された変調信号を発生し、このGFSK変調信号が次続のバッファ増幅器37に供給される。
【0024】次に、波形整形回路35の動作について述べると、ディジタル信号源34から入力端子Iに供給されたディジタル信号(TX DATA)は、インバータIC47で高利得で過飽和状態で反転増幅されて方形波信号になり、この方形波信号が出力端子Oから次続のGF36に供給されるものである。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】前記既知の送受信機における送信部は、VCO31の出力側に、前置増幅器38がバッファ増幅器37を介して接続されているため、前置増幅器38の入力インピーダンスの状態に応じてVCO31の出力負荷状態が変化し、VCO31の発振周波数が僅かに変動する。即ち、前置増幅器38が非能動状態にある場合、その出力インピーダンスが高く、VCO31の出力負荷も比較的高インピーダンス状態になっているが、図5に示される時間t5になって、前置増幅器38が能動状態に変化すると、その出力インピーダンスが低くなり、それに伴い、VCO31の出力負荷も比較的低インピーダンス状態になって、VCO31の発振周波数は、図5(g)に示されるように、基準発振周波数fT から第1の周波数偏差分Δf1 だけ高い方に偏移する。
【0026】また、前記既知の送受信機における送信部は、電力増幅器39における電力消費が大きく、電力増幅器39が駆動状態にある場合と、非駆動状態にある場合では、電源電圧Vccの電圧値に大きな影響を与える。即ち、電力増幅器39が非駆動状態にある場合、VCO31に供給される電源電圧Vccが所定電圧値にあるとすれば、図5に示される時間t6になって、電力増幅器39が能動状態に変化すると、VCO31に供給される電源電圧Vccが若干低下し、それに伴い、VCO31の発振周波数は、図5(g)に示されるように、基準発振周波数fTから第1の周波数偏差分Δf1 に加えて第2の周波数偏差分Δf2 だけさらに高い方に偏移する。
【0027】なお、VCO31の発振周波数は、第1の周波数偏差分Δf1 だけ偏移している場合に、前置増幅器38が非能動状態に変化すれば、第1の周波数偏差分Δf1 はなくなり、また、第2の周波数偏差分Δf2 が発生した場合も、電力増幅器39が非能動状態に変化すれば、第2の周波数偏差分Δf2 はなくなり、ともにもとの発振周波数に戻るものである。
【0028】このように、前記既知の送受信機における送信部は、前置増幅器38の能動及び非能動状態に基づく入力インピーダンスの変化、及び、電力増幅器39の能動及び非能動状態に基づく電源電圧Vccの変動により、VCO31の発振周波数が、変化し、その変化幅は、例えば、基準発振周波数fT が1.9GHzである場合、最大で±20kHz程度変動するという問題がある。
【0029】本発明は、前記問題点を除去するもので、その目的は、前置増幅器の能動、非能動状態及び電力増幅器の能動、非能動状態に係わりなく、電圧制御発振器(VCO)の発振周波数の偏差を極力少なくした時分割双方向通信装置を提供することにある。
【0030】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明は、送信タイムスロット期間にディジタル信号を出力するとともに低出力抵抗値を呈し、前記送信タイムスロット直前のブラインドスロット期間に前記低出力抵抗値よりも高い高出力抵抗値を呈するディジタル信号源と、抵抗を介して前記ディジタル信号源の出力端子にバイアス電圧を加えるバイアス供給手段と、ブラインドスロット期間に所定の送信周波数の発振信号を出力すると共に送信タイムスロット期間に前記ディジタル信号源の出力に基づいて変調された被変調信号を出力する電圧制御発振器と、前記ブラインドスロット期間に前記発振信号と基準周波数信号との位相差を示す誤差信号を出力し、前記送信タイムスロット期間に実質的に前記誤差信号を無効状態にする位相制御回路と、前記電圧制御発振器に加える前記誤差信号を平滑するローパスフィルタとを備えた手段を具備する。
【0031】
【作用】前記手段においては、抵抗を介してディジタル信号源の出力端子にバイアス電圧を供給するバイアス供給手段を設け、ディジタル信号源の出力端子に所定のバイアス電圧を与えるようにしている。この場合、ブラインドスロットの期間においては、ディジタル信号源がディジタル信号を発生せず、ディジタル信号源の出力インピーダンスが高くなっているので、ディジタル信号源の出力端子の電圧は、バイアス供給手段から供給されるバイアス電圧によって設定される。一方、送信スロットの期間においては、ディジタル信号源がディジタル信号を発生し、ディジタル信号源の出力インピーダンスが低くなるので、バイアス供給手段から供給されるバイアス電圧はこの低い出力インピーダンスで短絡無効にされ、ディジタル信号源の出力端子の電圧は、ディジタル信号によって設定される。すなわちブラインドスロットの期間と送信タイムスロットの期間において、ディジタル信号源の出力端子の電圧がわずかに異なるように設定され、電圧制御発振器(VCO)に供給される変調信号の中心電圧はやや異なった値になっている。
【0032】このように、前記手段によれば、ブラインドスロットから送信タイムスロットへの切換わり時に、中心電圧がややシフトされて変調信号がVCOに供給されるので、前置増幅器や電力増幅器が非能動状態から能動状態に切換わったことによるVCOの発振周波数の変動が打ち消され、VCOで得られるGFSK変調信号の中心周波数は基準発振周波数に略一致し、VCOの発振周波数の偏差を極力少なくすることができるだけでなく、高精度の送信周波数を持った高性能の時分割双方向通信装置を得ることができる。
【0033】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0034】図1は、本発明による時分割双方向通信装置の一実施例を示すブロック構成図であって、時分割双方向通信装置の送受信機における送信部の構成を示すものである。
【0035】ここで、本実施例の送信部と、図4に図示されている既知の送信部との構成上の違いを比べると、本実施例の送信部は、ディジタル信号源の出力端子にバイアス供給回路(バイアス供給手段)16が接続されているのに対し、既知の送信部は、かかるバイアス供給回路が接続されていない点だけであるが、本実施例の送信部の構成を明確にするために、本実施例の送信部の構成については、既知の送信部の構成と同一部分を含めて全体的に説明する。
【0036】図1に示すように、送信部は、大別して、位相制御部と、変調信号供給部と、送信信号出力部と、電圧調整部とからなっている。この中で、位相制御部は、電圧制御発振器(VCO)1と位相制御用のIC2とローパスフィルタ(LPF)3とからなり、VCO31の出力端子OがIC2の入力に、IC2の出力がLPF3の入力に、LPF3の出力がVCO1の誤差信号入力端子IE にそれぞれ接続されている。なお、IC2は、図4に示した既知の送信部に用いられたIC32と同じものである。変調信号供給部は、ディジタル信号源4と、バイアス供給回路16と、波形整形回路5と、ガウシャンフィルタ(GF)6とからなり、ディジタル信号源34の出力がバイアス供給回路16を介して波形整形回路5の入力に、波形整形回路5の出力がGF6の入力に、GF6の出力がVCO1の変調信号入力端子IM にそれぞれ接続されている。送信信号出力部は、バッファ増幅器7と、前置増幅器8と、電力増幅器9と、送受切換えスイッチ10と、バンドパスフィルタ(BPF)11と、アンテナ12とからなり、VCO1の出力端子Oがバッファ増幅器7の入力に、バッファ増幅器7の出力が前置増幅器8の入力に、前置増幅器8の出力が電力増幅器9の入力に、電力増幅器9の出力が送受切換えスイッチ10の一方の固定接点に、送受切換えスイッチ10の可動接点がBPF11の一方の端子に、BPF11の他方の端子がアンテナ12にそれぞれ接続されている。電圧調整部は、電圧調整器(REG)13と、第1の電源スイッチ14と、第2の電源スイッチ15とからなり、REG13の入力が電源Vccに、REG13の出力がVCO1、IC2、波形整形回路5、GF6、バッファ増幅器7、バイアス供給回路16の各電源端子に、第1の電源スイッチ14の可動接点が電源Vccに、第1の電源スイッチ14の固定接点が前置増幅器8の電源端子に、第2の電源スイッチ15の可動接点が電源Vccに、第2の電源スイッチ15の固定接点が電力増幅器9の電源端子にそれぞれ接続されている。
【0037】また、IC2には、基準クロック信号(REF CLK)、PLLクロック信号(PLL CLK)、PLLデータ信号(PLL DATA)、PLLストローブ信号(PLL STB)、PLL電力断信号(PLL PWR DWN)がそれぞれ供給される。第1の電源スイッチ14の制御端子には、送信イネーブル信号(TX ENB)が供給され、第2の電源スイッチ15の制御端子には、増幅器立上げ信号(PA RUMP)が供給される。
【0038】また、図2は、本実施例に用いられるバイアス電圧供給回路16の構成の一例を示す回路図であって、波形整形回路5の回路構成とともに示すものである。
【0039】図2に示すように、バイアス電圧供給回路16は、ディジタル信号源4の出力端子Dと波形整形回路5の入力端子Iとの間に接続配置され、電源Vccと接地間に接続され、可動端子が波形整形回路5の入力端子Iに接続された可変抵抗23からなる。この場合、可変抵抗23の抵抗値は、ディジタル信号(TX DATA)を発生していないときのディジタル信号源4の出力端子Dにおける高い出力抵抗よりも小さく、かつ、ディジタル信号(TX DATA)を発生しているときのディジタル信号源4の出力端子Dにおける低い出力抵抗よりも大きい値に選ぶ。また、波形整形回路5は、インバータ用集積回路(IC)17と、IC17の入力端子Iに直列接続された入力抵抗18と、IC17の入出力端子間に接続された帰還抵抗19と、IC17の出力端子に直列接続された出力抵抗20と、波形整形回路5の出力端子にバイアス電圧を与える第1及び第2のバイアス抵抗21、22とからなっている。
【0040】次いで、図3(a)乃至(f)は、本実施例の送信部における各部の信号波形の時間的変位状況を、既知の送信部における同じ各部の信号波形の時間的変位状況と比較して表す説明図であって、(a)はディジタル信号源4から出力されるディジタル信号(TX DATA)を、(b)は波形整形回路5の出力信号を、(c)はGF6の出力信号(変調信号)SM を、(d)は増幅器立上げ信号(PA RUMP)を、(e)は送信イネーブル信号(TX ENB)をそれぞれ示す信号波形図であり、(f)はVCO1の発振周波数偏差を示す説明図であり、いずれも、実線は本実施例の送信部に係わるものであり、点線は既知の送信部に係わるものである。
【0041】図3(a)乃至(f)において、縦軸は各信号の振幅または周波数偏差を、横軸は時間をそれぞれ示す。この場合、時間t4乃至t11は送信スロットの期間における時間であって、図5に図示の各時間t4乃至t11に対応している。
【0042】ところで、前記構成を備える本実施例の送信部の動作と、既に述べた既知の送信部の動作との違いは、変調信号供給部において、変調信号SM を得る過程の動作に僅かの違いがあるだけで、その余の構成部分の動作は殆んど変わりがないから、ここでは、図3(a)乃至(f)を併用し、本実施例の送信部の変調信号供給部において変調信号SM を得る過程の動作についてだけ説明し、その他の動作の説明については、既知の送信部の動作説明と重複するので割愛する。
【0043】まず、時間t4において、それまでのブラインドスロットの期間が終了し、送信スロットの期間に入る。このとき、ディジタル信号源4は、ディジタル信号(TX DATA)を発生せず、その出力端子の出力抵抗値はバイアス電圧供給回路16の可変抵抗23の抵抗値よりも大きくなっているので、ディジタル信号源4の出力端子には可変抵抗23を介してバイアス電圧Vbが加えられる。そして、ディジタル信号源4の出力端子の電圧は、図3(a)に示されるように、既知の送信機における同出力端子の電圧に比べて電圧Vbだけ高く、それに伴い、波形整形回路5の出力端子の電圧は、図3(b)に示されるように、既知の送信機における同出力端子の電圧に比べて電圧Vb相当分だけ低く、また、GF6の出力端子、即ち、VCO1の変調信号入力端子IM の電圧も、図3(c)に示されるように、既知の送信機における同出力端子の電圧に比べて若干低い。しかし、この電圧に基いてブラインドスロット期間において所定周波数に位相制御されていたので、VCO1の基準発振周波数fT1は、図3(f)に示されるように、既知の送信機における同基準発振周波数fT と同じである。
【0044】次いで、時間t5になると、送信イネーブル信号(TX ENB)は能動状態を指示するローレベルに変わり、第1の電源スイッチ14の接点が閉じ、前置増幅器8が能動状態になる。このとき、ディジタル信号源4の出力端子、波形整形回路5の出力端子、GF6の出力端子の各電圧は、いずれも前の状態と変わりがないが、前置増幅器8の出力インピーダンスの低下によって、VCO1の出力負荷インピーダンスが低下するため、VCO1の発振周波数は、基準発振周波数fT1よりも第1の周波数偏差分Δf1 だけ高い第1の発振周波数(fT1+Δf1 )に偏移する。
【0045】続いて、時間t6になると、増幅器立上げ信号(PA RUMP)は能動状態を指示するハイレベルに変わり、第2の電源スイッチ15の接点が閉じ、電力増幅器9は能動状態になる。このときも、ディジタル信号源4の出力端子、波形整形回路5の出力端子、GF6の出力端子の各電圧は、いずれも前の状態と変わりがないが、電力増幅器9の電源投入に伴う電源電圧Vccの低下によって、VCO1の発振周波数は、それまでの第1の発振周波数(fT1+Δf1 )よりもさらに第2の周波数偏差分Δf2 だけ高い第2の発振周波数(fT1+Δf1 +Δf2)に再偏移する。ここまでの発振周波数の偏移は既知の送信機におけるものと同じである。
【0046】続く、時間t7になると、ディジタル信号源4は、ディジタル信号(TX DATA)を発生するようになり、その出力端子の出力抵抗値はバイアス電圧供給回路16の可変抵抗23の抵抗値よりも小さくなるので、可変抵抗23を介してディジタル信号源4の出力端子に加えられたバイアス電圧Vbは、ディジタル信号源4の低い出力抵抗値によって短絡無効にされ、ディジタル信号源4の出力端子にはディジタル信号(TX DATA)が供給される。このディジタル信号はバイアス電圧Vbを基準とすれば負電圧側にシフトされた関係にある。そして、このディジタル信号(TX DATA)は波形整形回路5において、図3(b)に示すような方形波信号に波形整形され、次いで、この方形波信号はGF6において図3(c)に示すような、バイアス電圧に対してやや正電圧側にシフトされた正弦波状の変調信号SM に変換され、VCO1の変調信号入力端子IM に供給される。このとき、LPF33は、ブラインドスロット期間においてバイアス電圧VbによってVCO1が基準発振周波数fT で発振していた時の制御電圧を保持している。この制御電圧を与えられた状態のまま、VCO1は、正電圧側にシフトされた変調信号SM を供給され、第2の発振周波数(fT1+Δf1 +Δf2)が等価的に基準発振周波数fT1にシフトされた状態で周波数シフトキーイング(GFSK)変調され、図3(f)に示すようなGFSK変調信号が得られる。
【0047】次に、時間t8になると、ディジタル信号源4は、ディジタル信号(TX DATA)の発生を停止し、VCO1への変調信号SM の供給が停止されるので、VCO1におけるGFSK変調信号の発生も停止され、VCO1の発振周波数は非変調の第2の発振周波数(fT1+Δf1 +Δf2 )になる。
【0048】続いて、時間t9になると、増幅器立上げ信号(PA RUMP)は非能動状態を指示するローレベルに変化し、第2の電源スイッチ15の接点が開き、電力増幅器9は非能動状態に転換する。この電力増幅器9の非能動状態への転換により、VCO1の電源電圧Vccが上昇し、VCO1の発振周波数は、非変調の第1の発振周波数(fT1+Δf1 )になる。
【0049】次いで、時間t10になると、送信イネーブル信号(TX ENB)は非能動状態を指示するハイレベルに変わり、第1の電源スイッチ14の接点が開き、前置増幅器8が非能動状態になる。この前置増幅器8の非能動状態への転換により前置増幅器8の出力インピーダンス、即ち、VCO1の出力負荷インピーダンスが増大し、VCO1の発振周波数は、もとの基準発振周波数fT1になる。
【0050】続いて、時間t11になると、送信スロットの期間が終了し、それに続く受信スロット等の期間を経て、再び、次のブラインドスロットの期間に入リ、前述の動作が繰返し実行される。
【0051】かかる一連の動作に際して、バイアス電圧供給回路16の可変抵抗23を調整し、送信タイムスロットの期間において、GFSK変調信号の中心周波数がVCO1の基準発振周波数fT1に略等しくなるように設定すれば、前置増幅器8が能動状態または非能動状態に切換わった際の出力インピーダンスの変動に伴うVCO1の出力負荷インピーダンスの変動に依存したVCO1の発振周波数の偏移、あるいは、電力増幅器9が能動状態または非能動状態に切換わった際の電源電圧Vccの変動に依存したVCO1の発振周波数の偏移があったとしても、送信スロットの期間に、ディジタル信号(TX DATA)によりVCO1から得られるGFSK変調信号の中心周波数を、ブラインドスロットの期間に、VCO1から得られる基準発振周波数fT1に略一致させることが可能であり、送信スロットの期間におけるVCO1の発振周波数の偏差を少なくすることができる。
【0052】このように、本実施例によれば、ディジタル信号源4の出力端子にバイアス供給回路16を接続し、ディジタル信号源4の出力端子にバイアス電圧を与えることにより、ディジタル信号(TX DATA)、波形整形回路5の出力方形波信号、及び、GF6の出力正弦波信号(変調信号)SM のそれぞれを中心電圧をシフトさせ、各信号を中心電圧に対して実質的に非対称にしているので、前置増幅器8や電力増幅器9の能動状態または非能動状態への切換わり時に、VCO1の発振周波数が僅かに変動したとしても、送信スロット期間にVCO1で得られるGFSK変調信号の中心周波数を、ブラインドスロット期間にVCO1で得られる基準発振周波数fT1に略一致させることが可能であり、送信スロットの期間のVCO1の発振周波数の偏差を極めて少なくすることができる。
【0053】なお、前記実施例においては、バイアス電圧供給回路16の構成を可変抵抗23で構成する場合を挙げて説明したが、本発明は、バイアス電圧供給回路16を可変抵抗23で構成する場合に限られるものではなく、バイアス電圧供給回路16を固定抵抗で構成するようにしてもよい。
【0054】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、ディジタル信号源の出力端子の電圧は、ブラインドスロットの期間にはバイアス電圧供給手段から供給されるバイアス電圧によって設定され、一方、送信スロットの期間には前記バイアス電圧が無効にされ、ディジタル信号によって設定される。すなわち、ブラインドスロットの期間におけるディジタル信号源の出力端子の電圧と、送信スロットの期間におけるディジタル信号源の出力端子の電圧とが異なるように設定され、VCOに供給される変調信号の中心電圧は実質的にややシフトされた状態になっている。
【0055】このように、本発明によれば、前置増幅器や電力増幅器の能動状態または非能動状態への切換わり時に、電圧制御発振器(VCO)の発振周波数がそれぞれ僅かに変動したとしても、中心電圧が実質的にややシフトされた変調信号をVCOに供給することにより、VCOで得られるGFSK変調信号の中心周波数を、VCOの基準発振周波数に略一致させることができ、送信スロットの期間におけるVCOの発振周波数の偏差を極力少なくすることができ、高精度の送信周波数を持った高性能の時分割双方向通信装置が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる時分割双方向通信装置の送信部の一実施例を示すブロック構成図である。
【図2】図1に図示された本実施例に用いられるバイアス電圧供給回路の構成の一例を示す回路図である。
【図3】図1に図示された本実施例における各部の信号波形の時間的変位状況を示す説明図である。
【図4】既知の時分割双方向通信装置の送信部の一例を示すブロック構成図である。
【図5】図4に図示された既知の送信部における各部の信号波形の時間的変位状況を示す説明図である。
【図6】既知の送受信機の送信部におけるVCOの構成の一例を示す回路図である。
【図7】既知の送受信機の送信部における波形整形回路の構成の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
1 電圧制御発振器(VCO)
2 位相制御用IC(PLL)
3 ローパスフィルタ(LPF)
4 ディジタル信号源
5 波形整形回路
6 ガウシャンフィルタ(GF)
7 バッファ増幅器
8 前置増幅器
9 電力増幅器
10 送受切換えスイッチ11
11 バンドパスフィルタ(BPF)
12 アンテナ
13 電圧調整器(REG)
14 第1の電源スイッチ
15 第2の電源スイッチ
16 バイアス供給回路
17 インバータ用集積回路(IC)
18 入力抵抗
19 帰還抵抗
20 出力抵抗
21 第1のバイアス抵抗
22 第2のバイアス抵抗
23 可変抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】 送信タイムスロット期間にディジタル信号を出力するとともに低出力抵抗値を呈し、前記送信タイムスロット直前のブラインドスロット期間に前記低出力抵抗値よりも高い高出力抵抗値を呈するディジタル信号源と、抵抗を介して前記ディジタル信号源の出力端子にバイアス電圧を加えるバイアス供給手段と、ブラインドスロット期間に所定の送信周波数の発振信号を出力すると共に送信タイムスロット期間に前記ディジタル信号源の出力に基づいて変調された被変調信号を出力する電圧制御発振器と、前記ブラインドスロット期間に前記発振信号と基準周波数信号との位相差を示す誤差信号を出力し、前記送信タイムスロット期間に実質的に前記誤差信号を無効状態にする位相制御回路と、前記電圧制御発振器に加える前記誤差信号を平滑するローパスフィルタとを備えることを特徴とする時分割双方向通信装置。
【請求項2】 前記バイアス供給手段は、前記ディジタル信号源の低出力抵抗値よりも高い抵抗値を有する抵抗を、前記ディジタル信号源の出力端子と電源供給端子間に接続したものであることを特徴とする請求項1に記載の時分割双方向通信装置。
【請求項3】 前記ディジタル信号源の出力ディジタル信号は、少なくとも波形整形回路及びガウシャンフィルタを介して前記電圧制御発振器に供給されることを特徴とする請求項1に記載の時分割双方向通信装置。

【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3404437号(P3404437)
【登録日】平成15年2月28日(2003.2.28)
【発行日】平成15年5月6日(2003.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−325706
【出願日】平成6年12月27日(1994.12.27)
【公開番号】特開平8−181724
【公開日】平成8年7月12日(1996.7.12)
【審査請求日】平成11年3月4日(1999.3.4)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【参考文献】
【文献】特開 平4−373317(JP,A)