説明

時系列データの可視化方法、可視化プログラムおよび可視化システム

【課題】 時間軸に沿った長時間にわたるデータを可視化するにあたり、描画軌跡をコンパクトにまとめつつ、変化時点ないしはその変化の様子を容易に見つけ出せるようにする。
【解決手段】 時系列データを成分ごとに描画軌跡Tの内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には描画軌跡Tの曲率が変化するように配分し、既に描かれている既描描画軌跡Tとその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡Tとの間に作用してこの新規描画軌跡Tに対し反発力を付与する外向斥力と、新規描画軌跡に対し内向きの力を作用させる内向斥力とを作用させながらデータを渦状に表示する。データの変化が小さいために描画軌跡Tの曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの描画軌跡を時間軸方向に縮小することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列データの可視化方法および可視化システムに関する。さらに詳述すると、本発明は、音信号処理、設備監視、設備診断などに適用して好適なデータ可視化手法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
技術開発や自然現象の解明など多くの分野で長時間にわたる観測データの解析が課題となっている。例えば電力設備の状態を監視したり劣化現象を解明したりして診断するには時系列に沿って蓄積された長時間観測データを解析することが必要であり、解析結果から障害の予兆や劣化の進展を表すデータの変化点を見つけ出すことが重要となっている。
【0003】
このようなデータ解析や探索には、計算機による統計解析や信号処理技術はもちろんのこと、人間の視認能力を活用するデータ可視化技術が重要な役割を果たしている。例えば、長時間データを解析する場合であれば放電強度の変化や漏れ電流による絶縁特性の変化などといった変化点を検出することが重要であり、これら変化点の検出には、可視化技術を利用した人間の目による判別が有効である。
【0004】
このようなデータ可視化技術としては例えば以下のようなものがある。これらのうち、直線型、短冊型および渦巻き型については図21〜図23に図示して説明する。
【0005】
(a)直線型時系列可視化(図21参照)
現在もっとも広く用いられている時系列データの表示方法であり、標準的といえるものである。ここでは、画面範囲に入る長さに表示を切り取って並べることで、長い時間のデータを一覧できるようにする。例えばn本表示するとして、直線型表示のn倍のデータを一覧できる。また時刻とデータとの間に相関がある場合は、複数本の可視化結果を、時刻を揃えて表示することで相関を見つけやすくできるという特徴もある。
【0006】
(b)短冊型時系列可視化(図22参照)
長いデータを短冊型に切り分け並べて表示する方法であり、直線型に次いでよく用いられている。画面内に情報を密に表示できる、時刻と相関のあるデータの傾向がわかりやすくなる、といった利点がある。
【0007】
(c)渦巻き型時系列可視化(図23参照)
中心から渦を巻くように表示する方法である。短冊型に準ずる密度で情報を表示できる、短冊型と異なり時間軸の切れ目なく表示できる、つまり短冊型表示の欠点である恣意的な区切り目がなくなるという利点がある。ただし、同一画面内での表示量は四隅に余白ができるために短冊型表示よりも少なくなる。
【0008】
(d)短冊型時系列可視化の一例
統計データを対象にした短冊型可視化手法の一例として、表示する長方形のサイズをデータに応じて変更し、帯状の領域に詰め込んで表示するものがある(例えば、特許文献1参照)。単純な棒グラフや折れ線グラフあるいはスペクトログラムなどよりもデータを見分けやすいという性質がある。
【0009】
(e)直線型時系列可視化を拡張した一例
呼吸音を可視化して画面表示するという技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。呼吸音は高さを持つ3次元の山谷で表示され、それを斜めから見たように可視化する(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2003−256855号公報
【特許文献2】特開2004−33254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、決まった形でデータを表現する従来の可視化手法では、データが長時間になると可視化結果が細密となり、変化が埋もれてしまうために目視による変化の判別が困難になるという問題があった。すなわち、従来の長時間データ可視化手法の場合、時間軸方向の表現として直線や渦巻きなどの違いがあるにせよ、これらはデータの変化とは無関係に軸方向へと伸びていくものだから、長時間データを可視化すると時間軸方向にデータが連なることになり、データの変化は形状変化として表れにくくなる。このため、データの違いを見分けるには細長く可視化された模様を見分けることが必要となり、長時間になればなるほど違いを見分けるのが難しくなるという問題があった。
【0012】
また、上述した各データ可視化技術についてはそれぞれ以下に述べるような問題がある(表1に示す利点と欠点参照)。
【表1】

【0013】
すなわち、まず(a)の可視化技術は、現在もっとも広く用いられてはいるが長いデータの一部分しか見ることができない、画面内に表示できる量が少ないといった欠点がある(図21参照)。また、この表示方法で長時間のデータを表現するには時間方向に縮めるしかなく、縮めるに従って短時間の変化が見えなくなるという欠点も生じる。このため、時間軸方向のスクロールやズームイン/アウトにより特定箇所の閲覧を容易にするユーザインタフェースを併用しなければならない場合が多い。
【0014】
(b)の可視化技術の場合には、時系列データを恣意的に切って表示するため、時間軸が画面の端で切れてしまい切れ目にあたるデータがわからなくなるという欠点がある(図22参照)。
【0015】
(c)の可視化技術は、短冊型と異なり切れ目がないという利点はあるものの、規則的な渦巻き模様であることから一目で変化を認識できるというようなものではなく、その分だけ視認性が低いという欠点がある。また、表示されたデータを時間軸に沿って見ようとすると、規則的な渦を目で追う必要があるために目が回りやすいという欠点もある(図23参照)。
【0016】
また、上述した(a)、(b)、(c)の各可視化技術に共通して、画像を縮小するにしたがってデータの傾向や特徴が見えにくくなるという問題がある。さらに、どのデータ列も大局的には同じ形(短冊もしくは渦)をしているため、可視化結果が複数あるとそれらの区別が付きにくいという問題もある。
【0017】
(d)の可視化技術の場合、単純な棒グラフや折れ線グラフあるいはスペクトログラムなどよりデータを見分けやすい利点はあるものの、短冊形状そのものは変化しないため、やはり長尺になると細かな長方形の集まりになり、本質的には短冊型の欠点を解決できていない。
【0018】
(e)の可視化技術の場合、時間軸は斜めに固定されており、曲がるなどしないため、上述の直線型同様、短時間分しか表示できないという欠点が残っている。
【0019】
そこで、本発明は、時間軸に沿った長時間にわたるデータを可視化するにあたり、描画軌跡をコンパクトにまとめつつ、変化時点ないしはその変化の様子を容易に見つけ出せるようにする時系列データの可視化方法、可視化プログラムおよび可視化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
かかる目的を達成するため本発明者は種々の検討を行った。まず、表示領域を縮小するにしたがってデータの傾向や特徴が見えにくくなるという問題、およびどのデータ列も大局的には同じ形をしているため可視化結果が複数あるとそれらの区別が付きにくくなるという問題に関しては、色や形などの表示属性を工夫して対処するのが一般的であると考えた。各表示属性の利点と欠点をまとめる(表2参照)。このうち、着色で特徴づけることはもっともよく利用される手法であり、色数が少ないうちはたしかに目立ってわかりやすい。しかし色数が増え、密に色変化があると結果的に混色してしまい、人間の目には類似の模様になりがちとなる。またプロパティ(特性)が明快な質的データや構造化データによく使われるのが印(マーク)や文字であるが、非構造データに対してはマークや文字の適切な指定が困難なため使いづらい。
【0021】
【表2】

【0022】
なお、本明細書でいう「構造化データ」とは、リスト、グラフ、テーブルなど、個々の単位となるデータが個々に定義済みの項目の組で表現されるデータのことである。多くの場合、それらデータ間の関係がリンク、識別番号等により定義されている。例えば、従業員のプロファイルや、スケジュール、入退室の記録などは構造化データの代表である。また、本明細書でいう「非構造データ」とは、定義済みの項目に対応する単位に分割されていない、あるいは分割されていてもデータ間の関係が示されていないなど、構造化データの性質を満たさないデータである。例えば、センサーからの入力信号の記録やビデオ映像など、計測値、またはFFTなど初歩的な信号処理の結果が、時間軸など連続した値の列となっているデータである。複数チャンネルの場合など、複数のデータ列の束になっている場合もある。
【0023】
また、画面中の限られた表示範囲内にできるだけ多量に、尚かつ連続してデータを可視化するという点では渦巻き型の可視化手法に目を見張るべきものがあるが、渦巻き表示に起因する上述したような欠点がネックとなる。この点につき検討を重ねた本発明者は、これまで活用されてこなかった形の情報を活用することに着目した。情報を表す形には局所的形状と大局的形状がある。局所的形状とは前述したマークなどの他に、太さや大きさの特徴、また滑らかであったりギザギザしていたりするなどの量的形状特徴を意味する。また大局的形状とは、ひしゃげている、込み合っている、などと表現されるデータ列全体の形を表し、表示構造の変形も含む。検討したところ、従来はこの形の情報、特に大局的形状によるデータの特徴表現は活用されていなかったとの結論が得られた。この理由としては、形を変形すると全体の形、つまりは表示構造が歪み、例えば重なりや交差などの混雑が生じ、可視化結果そのものの閲覧性が低下し、単位面積あたりの情報量が低下してしまうことが挙げられる。
【0024】
以上を踏まえてさらに検討すると、対象とするデータに何らかの傾向や特徴があるのであれば、かかる傾向や特徴に応じて可視化画像をあえて歪ませることで、長時間のデータから変化時点ないしはその内容を容易に見つけ出しあるいは把握することが可能になるという知見を得るに至った。
【0025】
本発明はかかる知見に基づくもので、請求項1に記載の発明は、時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示する時系列データの可視化方法において、データを成分ごとに描画軌跡の内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には描画軌跡の曲率が変化するように配分し、既に描かれている既描描画軌跡とその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡との間に作用してこの新規描画軌跡に対し反発力を付与する外向斥力と、新規描画軌跡に対し内向きの力を作用させる内向斥力とを作用させながらデータを渦状に表示するというものである。
【0026】
まず本発明は、データを作為的に歪曲させて変化が一目でわかるようにしている点に特徴がある。すなわち、データを成分ごとに描画軌跡の内側ないし外側に振り分け、当該データに変化が生じた場合に描画軌跡がそれまでとは違うデータの変化に応じて可視化画像を曲げる(歪曲させる)ことで、変化を形に反映させ、長時間のデータに関し傾向や特徴の変化した時点が容易に判別できる可視化画像を生成することとしている。
【0027】
さらに、反発力のアナロジーを用いた方法、すなわち、あたかも物理的な反発力が描画軌跡に働いているかのように扱うことで描画軌跡の形状を制御する方法により、歪曲させたことによる描画軌跡の重なりや交差を避けながら、表示画面内に可視化画像全体をコンパクトに収めることを可能としている。
【0028】
また、上述した時系列データの可視化方法においては、請求項2に記載のように、データの変化が小さいために描画軌跡の曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの描画軌跡を時間軸方向に縮小することが好ましい。
【0029】
さらに、上述した時系列データの可視化方法においては、描画軌跡に対し外向斥力と内向斥力とが作用する斥力作用空間を、少なくとも描画軌跡どうしの重なりあるいは交差が回避される程度にまで拡大することが好ましい。
【0030】
加えて、上述した時系列データの可視化方法においては、外向斥力を、既描描画軌跡上にて一定間隔で作用させることも好ましい。
【0031】
また、請求項5に記載の発明は、時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示させるための時系列データの可視化プログラムにおいて、コンピュータに、データを成分ごとに描画軌跡の内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には描画軌跡の曲率が変化するように配分する処理と、既に描かれている既描描画軌跡とその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡との間に斥力を作用させてこの新規描画軌跡に対し反発力を付与する処理と、新規描画軌跡に対し外側から内向きの斥力を作用させながらデータを引き続き表示する処理とを実行させるというものである。
【0032】
上述した時系列データの可視化プログラムにおいては、データの変化が小さいために描画軌跡の曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの描画軌跡を時間軸方向に縮小する処理を実行させることが好ましい。
【0033】
また、上述した時系列データの可視化プログラムにおいては、描画軌跡に対し外向斥力と内向斥力とが作用する斥力作用空間を、少なくとも描画軌跡どうしの重なりあるいは交差が回避される程度にまで拡大する処理を実行させることが好ましい。
【0034】
加えて、上述した時系列データの可視化プログラムは、外向斥力を、既描描画軌跡上にて一定間隔で作用させる処理を実行させるものであることが好ましい。
【0035】
さらに、請求項9に記載の発明は、時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示する時系列データの可視化システムにおいて、データを成分ごとに描画軌跡の内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には描画軌跡の曲率が変化するように配分するデータ配分手段と、既に描かれている既描描画軌跡とその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡との間に斥力を作用させてこの新規描画軌跡に対し反発力を付与する外向斥力付与手段と、新規描画軌跡に対し内向きの力を作用させる内向斥力付与手段とを備え、外向斥力と内向斥力とを作用させながらデータを渦状に表示するというものである。このような時系列データの可視化システムにおいては、データの変化が小さいために描画軌跡の曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの描画軌跡を時間軸方向に縮小する圧縮手段を備えていることも好ましい。また、描画軌跡に対し外向斥力と内向斥力とが作用する斥力作用空間を、少なくとも描画軌跡どうしの重なりあるいは交差が回避される程度にまで拡大する調整手段を備えていることも好ましい。さらには、上述した外向付与手段が、外向斥力を既描描画軌跡上にて一定間隔で作用させるものであることも好ましい。
【発明の効果】
【0036】
請求項1記載の時系列データの可視化方法によれば、時間軸に沿って伸びる時系列データを、当該データに応じて変形が見やすいよう可視化して画面上に表示することができる。こうした場合、データの変化部分が特に反映された状態あるいは強調された状態で画面上に表示されるためデータの傾向や特徴の変化時点を把握し理解することが容易となる。例えば、可視化された模様を見分けるのが難しいほど長尺のデータであっても形状の変化から違いを簡単に見分けることができるようになる。また、内容が異なる複数のデータに関しては、従来手法であればみな同じ形状になってしまい模様の違いでしかデータを区別できなかったのに対し、本発明によれば可視化結果の形状を異ならせて表示できるために複数のデータを見分けることも容易となる。
【0037】
しかも、本発明においては新しく描かれる新規描画軌跡に対し外向斥力と内向斥力の両方をバランスよく作用させるので、データを全体的にコンパクトな渦状軌跡として表示することができる。つまり、描画軌跡に対しては、内向斥力が描画軌跡をできるだけ内側へと追いやるように作用し、その一方で、外向斥力が軌跡を適度に離れさせるように作用する結果、描画軌跡をできるだけコンパクトに表示するための内向力が常に働き、尚かつこの内向斥力の作用を妨げない外向斥力が見やすさが失われない程度に程よく作用する。これにより、描画軌跡をコンパクトにまとめつつ変化時点ないしはその変化の様子を容易に見つけ出せるようにするという相反する課題を克服した可視化処理が可能となる。要するに、本発明においては可視化技術において描画される軌跡を作為的に歪曲(distortion)させるという新規な技術が確立しているということができる。
【0038】
また、請求項2に記載の時系列データの可視化方法によれば、画面に表示される描画軌跡を圧縮することによって描画内容をコンパクトにし、限定された表示範囲内に更に多くの情報を盛り込むことが可能となる。そもそも、データの変化が小さかったり全く無かったりする部分というのは見つけ出す(あるいは見分ける)対象となっていない部分であるから圧縮しても妨げとはならず、また変化部分を維持しながら内容をよりコンパクトにできるという意味で合理的である。
【0039】
さらに、請求項3に記載の時系列データの可視化方法によれば、描画軌跡どうしが重なったり交差したりするのを回避して見やすい表示内容とすることができる。斥力作用空間、すなわち描画軌跡に対して外向斥力と内向斥力とが作用する範囲をある程度狭くすると限られた狭小範囲内で作用する斥力(特に内向斥力)が描画軌跡の重なり等を生じさせうるが、この斥力作用空間をある程度の大きさとすることによってこのような事態を回避することができる。
【0040】
加えて、請求項4に記載の時系列データの可視化方法によれば、描画の履歴上(つまり既描の描画軌跡上)から外向斥力が作用することになるため、その後の描画軌跡は既に描画された既描の描画軌跡を回避するようにして描画されることになり、軌跡の重なりや交差がなくなる。
【0041】
また、請求項5〜9に記載の発明によっても本願に特有の作用効果を得ることができる。すなわち、まず請求項5に記載の時系列データの可視化プログラムによれば、コンピュータによる処理を介して、時間軸に沿って伸びる時系列データを、当該データに応じて変形が見やすいよう可視化して画面上に表示することができる。こうした場合、データの変化部分が特に反映された状態あるいは強調された状態で画面上に表示されるためデータの傾向や特徴の変化時点を把握し理解することが容易となる。例えば、可視化された模様を見分けるのが難しいほど長尺のデータであっても形状の変化から違いを簡単に見分けることができるようになる。また、内容が異なる複数のデータに関しては、従来手法であればみな同じ形状になってしまい模様の違いでしかデータを区別できなかったのに対し、本発明によれば可視化結果の形状を異ならせて表示できるために複数のデータを見分けることも容易となる。
【0042】
しかも、本発明においては新しく描かれる新規描画軌跡に対し外向斥力と内向斥力の両方をバランスよく作用させるので、データを全体的にコンパクトな渦状軌跡として表示することができる。つまり、描画軌跡に対しては、内向斥力が描画軌跡をできるだけ内側へと追いやるように作用し、その一方で、外向斥力が軌跡を適度に離れさせるように作用する結果、描画軌跡をできるだけコンパクトに表示するための内向力が常に働き、尚かつこの内向斥力の作用を妨げない外向斥力が見やすさが失われない程度に程よく作用する。これにより、描画軌跡をコンパクトにまとめつつ変化時点ないしはその変化の様子を容易に見つけ出せるようにするという相反する課題を克服した可視化処理が可能となる。
【0043】
また、請求項6に記載の時系列データの可視化プログラムによれば、画面に表示される描画軌跡を圧縮することによって描画内容をコンパクトにし、限定された表示範囲内に更に多くの情報を盛り込むことが可能となる。そもそも、データの変化が小さかったり全く無かったりする部分というのは見つけ出す(あるいは見分ける)対象となっていない部分であるから圧縮しても妨げとはならず、また変化部分を維持しながら内容をよりコンパクトにできるという意味で合理的である。
【0044】
さらに、請求項7に記載の時系列データの可視化プログラムによれば、描画軌跡どうしが重なったり交差したりするのを回避して見やすい表示内容とすることができる。斥力作用空間、すなわち描画軌跡に対して外向斥力と内向斥力とが作用する範囲をある程度狭くすると限られた狭小範囲内で作用する斥力(特に内向斥力)が描画軌跡の重なり等を生じさせうるが、この斥力作用空間をある程度の大きさとすることによってこのような事態を回避することができる。
【0045】
加えて、請求項8に記載の時系列データの可視化システムによれば、描画の履歴上(つまり既描の描画軌跡上)から外向斥力が作用することになるため、その後の描画軌跡は既に描画された既描の描画軌跡を回避するようにして描画されることになり、軌跡の重なりや交差がなくなる。
【0046】
さらに、請求項9に記載の時系列データの可視化システムによれば、時間軸に沿って伸びる時系列データを、当該データに応じて変形が見やすいよう可視化して画面上に表示することができる。こうした場合、データの変化部分が特に反映された状態あるいは強調された状態で画面上に表示されるためデータの傾向や特徴の変化時点を把握し理解することが容易となる。例えば、可視化された模様を見分けるのが難しいほど長尺のデータであっても形状の変化から違いを簡単に見分けることができるようになる。また、内容が異なる複数のデータに関しては、従来手法であればみな同じ形状になってしまい模様の違いでしかデータを区別できなかったのに対し、本発明によれば可視化結果の形状を異ならせて表示できるために複数のデータを見分けることも容易となる。
【0047】
しかも、本発明においては新しく描かれる新規描画軌跡に対し外向斥力と内向斥力の両方をバランスよく作用させるので、データを全体的にコンパクトな渦状軌跡として表示することができる。つまり、描画軌跡に対しては、内向斥力が描画軌跡をできるだけ内側へと追いやるように作用し、その一方で、外向斥力が軌跡を適度に離れさせるように作用する結果、描画軌跡をできるだけコンパクトに表示するための内向力が常に働き、尚かつこの内向斥力の作用を妨げない外向斥力が見やすさが失われない程度に程よく作用する。これにより、描画軌跡をコンパクトにまとめつつ変化時点ないしはその変化の様子を容易に見つけ出せるようにするという相反する課題を克服した可視化処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0049】
図1〜図8に本発明の一実施形態を示す。本発明にかかるデータ可視化方法は、時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示する場合に適用できるもので、データを成分ごとに描画軌跡Tの内側ないし外側(換言すれば、描画軌跡Tの進行方向の右側ないし左側)に振り分けて当該データに変化が生じた場合には描画軌跡Tの曲率が変化するように配分し、既に描かれている既描描画軌跡Tとその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡Tとの間に作用してこの新規描画軌跡Tに対し反発力を付与する外向斥力と、新規描画軌跡Tに対し内向きの力を作用させる内向斥力とを作用させながらデータを渦状に表示するというものである。ここでいう画面とは、例えばディスプレイなどの外部出力装置において使用者や利用者が視認することのできる出力用画面のことである。
【0050】
本発明にかかる時系列データの可視化方法は、描画軌跡Tをコンパクトにまとめつつ、描画される軌跡を作為的に歪曲(distortion)させることによって変化時点ないしはその変化の様子を容易に見つけ出せるようにするためのものである。例えば本実施形態では、描画方向ベクトルv の大きさを変化させ、特徴を際立たせる処理(以下、「伸び処理」ともいう)を行う。伸び処理は、例えばデータの変化が小さいために描画軌跡Tの曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの描画軌跡Tを時間軸方向に縮小するといった、時間軸方向に沿った処理を行うものである。併せて本実施形態では、描画方向ベクトルv の角度θをデータに応じて変化させ、描画経路を曲げる処理(以下、「曲げ処理」ともいう)を行う。さらに本実施形態では、これらのような伸び処理や曲げ処理を施すにあたり、描画軌跡T全体の閲覧性(見やすさ、理解しやすさ、見分けやすさ等)を損なわず斥力素による表示領域(描画空間)への閉じ込めを行う。このような範囲、すなわち「斥力素による表示領域への閉じ込めを行うために斥力素を作用させる範囲」を、以下「斥力作用範囲」と呼ぶ。なお、ここでいう「斥力素」とは斥力のもととなる要素、例えば外向斥力や内向斥力をいい、図5と図6では符号Sを付して表す(図5、図6参照)。
【0051】
以下に本実施形態における時系列データの可視化方法を説明する。本実施形態では、長尺・非構造データの可視化方法として、表示構造(フレーム)を固定した従来手法と異なり、表示構造にデータの局所的な特徴を反映させることで、縮小時にもデータの傾向や特徴を理解しやすくする可視化手法(以下、便宜的に「クロール法」と名付けて説明する)を適用する。なお、この名称は可視化結果があたかも虫が這った痕のような非定型の曲線形状になることから便宜的に名付けているものにすぎない。以下では、
1.データ変化の大小を反映した可視化
2.表示構造への局所的特徴の反映
3.コンパクトな可視化のための制約導入
という項目ごとに順次説明を行う。
【0052】
1.データ変化の大小を反映した可視化
クロール法における描画表示単位(以下、「可視化単位」といい、符号Uで表す)は、多チャンネルの情報が並べられ、それぞれ色や明るさなどで識別された長方形、もしくは扇形である(図1、図2参照)。描画軌跡Tの先端において新たに描画される可視化単位Uが新規の描画軌跡Tとなる。ここでいう「チャンネル」とは描画方向左右に配置されたデータのことであり、例えば本実施形態では描画方向左側から順にチャンネル1、チャンネル2、 … 、チャンネルnと表す(図1参照)。このような可視化単位Uを描画方向ベクトル(v) に沿って連続描画することで時間方向に沿った時系列データが可視化される。この場合、描画方向ベクトルv が真っ直ぐであれば直線型表示となり、左右に傾いていて渦状に移動させるものであれば渦巻き型表示となる。つまり、進行方向に対する描画方向ベクトル(v) の傾きがゼロであれば可視化単位Uは真っ直ぐ進む形の長方形になり(図1参照)、左右いずれかに傾いていれば曲がりながら進む扇形となる(図2参照)。別の表現をすれば、長方形(図1参照)は、描画方向ベクトルv の進行方向に対する角度θがゼロの時であると一般化することができる。
【0053】
本実施形態では、可視化単位Uの表示幅(w) を一定幅としている。これに対し、表示長(l) または角度θは描画方向ベクトルv によって伸び縮みしあるいは増減するものとしている。クロール法の3つの特徴の内の一つである「伸び処理」とは、上述したように、この描画方向ベクトルv の大きさを変化させ、特徴を際立たせる処理のことである(図3参照)。この場合、変化量として、各チャンネルの値の平均値、または各チャンネルの値の変化率を用いることができる。また、描画方向ベクトルv の長さをこれら変化量に比例させれば、変化量が大きい箇所では長く表示し、変化量が少ない箇所では短く表示することになる(図3参照)。このようにして描画された全体画像は、変化の少ない時区間が圧縮されあるいは省略された図となる結果、画面内の限られた表示領域を有効活用できることから変化を見逃すことが少なくなるという利点が得られる。
【0054】
2.表示構造への局所的特徴の反映
クロール法での「曲げ処理」とは、上述したとおり、描画方向ベクトルv の角度θをデータに応じて変化させ、描画軌跡T(あるいはその経路)を曲げる処理のことである(図4参照)。曲げることにより、短時間では描画経路の滑らかさに変化が生じたり描画経路にうねりが生じたりし、長時間では経路が大きく方向を変えるため可視化結果全体の形が変わる。曲げ処理に反映させる量としては、チャンネル間の分布を用いる。ここでいう「チャンネル間の分布」とはチャンネルのすべての値を使って計算したある値のことであり、本実施形態では下記の数式1,2,3で表現することとしている。なお、「分布」という用語を用いたのは、チャンネルの値が、周波数分布や頻度分布などを表す場合が多いためである。音の場合であれば、チャンネルは各周波数帯域の振幅を表し、すべてのチャンネルのある時点での周波数分布を表す。また、分布の反映のさせ方としては、可視化単位Uを長方形の剛体とみなし、各チャンネルの値を外力とする力のモーメントで表現する手法を挙げることができる。チャンネル数をn、各チャンネルの値を大きさとし、描画方向ベクトルと同じ方向を向くベクトルを
【数1】

とし、各チャンネルの表示箇所の座標を
【数2】

とする。可視化単位Uが密度一定の剛体とした場合の力のモーメントは
【数3】

となる。なお、摩擦力のない状態で単純に力のモーメントが加わったと見なすと加速しつづけてしまい、各チャンネルの値を表示構造に反映させるという本来の目的に反してしまいかねない。そこで、本実施形態では速度に比例する抵抗を持たせ、各チャンネルの値が減れば描画速度も減速するようにしている。こうすることで、可視化単位Uの中心から進行方向に向かって左のチャンネルの値が大きくなると描画軌跡Tが右に曲がり、右のチャンネルの値が大きくなるとこれとは逆に左に曲がる。また、値の変化が同様であってもチャンネルが異なれば回転角度が変わってくる。ちなみに、このアナロジーの下では、上述した伸び効果は角度θをゼロに拘束したときの曲げ効果と考えることができる。
【0055】
以上、説明したような曲げ効果によると、データの局所的な特徴は、単なる表面的な模様だけでなく描画経路そのものに反映され、異なるデータ列は明らかに異なる形状を持つようになる。その結果、長いデータ列を可視化すると、可視化結果は一つとして同じものはなくなり、それぞれの変曲箇所がデータの傾向や特徴を表すようになる。なお、曲げ効果を用いると、単に左右に経路がずれるだけでなく、しばしば全体の描画経路が大きく曲がってしまい、その結果として、以前描画した経路に接近して重なりや交差を生じることがある。このような場合は、斥力素(例えば外向斥力と内向斥力)Sが作用する空間である斥力作用空間を拡大することが好ましい。斥力作用空間、すなわち描画軌跡Tに対して外向斥力と内向斥力とが作用する範囲をある程度狭くすると限られた狭小範囲内で作用する斥力(特に内向斥力)が描画軌跡Tの重なり等を生じさせる場合があるが、調整手段等によりこの斥力作用空間をある程度の大きさとすることによって重なりや交差を回避することができる。
【0056】
3.コンパクトな可視化のための制約導入
上述した「伸び処理」や「曲げ処理」を適用することにより、データの局所的な特徴を画面内における表示内容として反映させることができるようになるが、単に反映させるだけではなく、限られた画面(表示領域)内でできるだけコンパクトに可視化することが望ましい。例えば、画面サイズを考慮せずに曲げ処理を適用して描画すると場合によっては疎な可視化結果となる。一方、従来型である短冊型や渦巻き型にしたのでは曲げ処理の効果が得られなくなってしまう。そのため、コンパクトさと、データを反映した自由な描画という二つの相反する項目のバランスをとる必要が出てくる。以上の点を踏まえ、本実施形態においては、二つの相反する項目のバランスをとるため外側から内側へと作用する斥力を利用し、限られた表示領域内に描画軌跡Tをできるだけコンパクトに表示するための制約を導入している(以下、この制約導入による工夫を表示領域への「閉じ込め」ともいう)。以下に詳しく説明する(図5、図6参照)。
【0057】
まず最初に言及しておくと、曲げ効果を作用させると描画軌跡Tの重なりや交差による視認性の低下が起こりうることは上述したとおりであり、表示領域を狭く限定するとより一層このような状況が生じやすくなる。これに対し、クロール法では、同じく斥力を使って描画軌跡Tの重なりを減らす工夫をしている(なお、本実施形態においては、斥力のもととなる要素を「斥力素」と呼んでいる)。可視化単位Uにも斥力素Sを与える。ここで、ある点における斥力素をq1、可視化単位Uが有する斥力素をq0、両者の距離をr とすると、可視化単位Uに加わる外力は
【数4】

となる(ただしk は定数)。そして可視化単位Uの運動にこの数式(単項式)4で表される外力を加える。描画軌跡Tを狭い範囲に限定するために、クロール法では例えば表示領域における外側周辺に斥力素Sを配置する。配置された斥力素Sに可視化単位Uが近づくと上述した外力が反発する力として作用し、描画軌跡T(可視化単位)を内側へと押しやる。別の表現をすれば、斥力素Sは、描画軌跡T(可視化単位U)を跳ね返す壁のように作用することになる。こうすることにより、可視化結果である描画軌跡Tを表示領域内にコンパクトに収める(閉じ込める)ことができる(図5、図6参照)。
【0058】
以上説明したように、斥力素Sの影響は距離の二乗に反比例するため、斥力素Sどうしの距離が離れている間は描画軌跡Tへの影響はほとんどなく、データ傾向や特徴にあわせた自由な軌跡が描かれる。一方、描画軌跡Tが壁となる斥力素Sに接近すると大きな斥力の作用を受け、内部側へと方向転換させられて内側へと押しやられる。このような作用と動作により、コンパクトさと自由描画という相反する項目のバランスをとることが可能となっている。
【0059】
また、描画軌跡Tの重なりや交差を減らすためには、履歴上(つまり既に描画された軌跡上)に一定間隔で斥力素Sを配置することも好ましい。こうすると、一度描画した領域から斥力が発生するため、その後の描画は既に描画された軌跡を回避するようにして行われるようになることから、軌跡の重なりや交差が減る(図6参照)。
【0060】
なお、以上のような閉じ込めを行う際には、利用する斥力素Sの配置によって全体のおおまかな形状が決定されることになる。例えば、円周状に配置した斥力素Sを徐々に広げてゆくと描画軌跡Tはおおまかには渦巻き状となるし、長方形に配置した斥力素Sを徐々に広げてゆくと描画軌跡Tは長方形の長辺を往復する形状となる。ここで、「円周状に配置した斥力素Sを徐々に広げてゆく」というのは、丸く一定の間隔で斥力素Sを配置し、その丸の半径を描画が進むに応じて徐々に長くしてゆくことである。この場合、初期半径r0と単位時間あたりの広がる速度drに応じて描画軌跡の形状が変わってくる。なお、丸の半径を広げる際には、斥力素S間の距離が一定になるように斥力素Sの数を増やしていくことが好ましい。こうすることで、表示領域の周辺部における可視化単位Uへの斥力が一定になる。また、「長方形に配置した斥力素Sを徐々に広げてゆく」というのは、長方形の長辺は移動させずに短い辺の間隔を時間に応じて広げてゆくことである。この場合も、短辺の初期長さl0と単位時間あたりの幅増大量dlに応じて描画経路の形が変わってくる。
【0061】
さらに図を使った説明を付け加えておくと(図7参照)、可視化単位Uは、その周辺の空いている所に逃げるように移動する。ここでいう「その周辺の空いている所」というのは、斥力素(例えば、表示領域の外側周辺および既描描画軌跡T上に配置されている)Sと可視化単位Uとの力関係で決まる、最も弱い斥力が働く方向ないしは場所のことをいう。斥力素Sの密度が薄く、かつ斥力素Sまでの距離が遠い所であればその場所に作用する斥力は非常に弱いということになる。また、斥力素Sの密度が濃いとしても可視化単位Uから遠くにあれば作用する斥力は強くはない。
【0062】
ここで、斥力素Sを長方形配置した場合を例として説明する(図7参照)。符号Tは描画領域Tの始点を表している。この図7は、(a)から(e)へと進むにつれて徐々に長方形の短辺どうしの間隔が広がって行く様子を表している。最初はまだ長方形内の上部空き部分の斥力が弱いため、可視化単位Uは長辺に沿って空いている方向へ進みつつ描画する(図7(a))。可視化単位Uが壁(斥力素Sが形成する長方形の辺のこと)に近づくと当該壁からの斥力が大きくなり、辺が広がった方向に進路を曲げる(図7(b)〜(c))。これは、短辺どうしの間隔が広がったことにより横壁からの斥力が弱まっていることに起因している。方向転換が進むと可視化単位Uは下の方を向くようになり(図7(d))、やがて当該可視化単位U自身が来た方向に大きく空いた領域の方へと折り返して移動する(図7(e))。このような動きを繰り返すと可視化単位Uの描画軌跡は往復形状となる。
【0063】
続いて、本実施形態にかかる可視化を実行するための可視化プログラムについて説明する(図8参照)。この可視化プログラムは、時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡Tとして出力装置の一の画面で表示させるためのプログラムで、コンピュータに、データを成分ごとに描画軌跡Tの内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には描画軌跡Tの曲率が変化するように配分する処理と、既に描かれている既描描画軌跡Tとその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡Tとの間に斥力を作用させてこの新規描画軌跡Tに対し反発力を付与する処理と、新規描画軌跡Tに対し外側から内向きの斥力を作用させながらデータを引き続き表示する処理とを実行させるというものである。
【0064】
以下に可視化プログラムの具体的な処理例を説明する(図8参照)。まず、描画に関連する初期設定を行う(ステップ1)。具体的には、可視化単位Uに関する初期設定、データと描画の関係に関する初期設定、壁となる斥力素群に関する初期設定、描画軌跡T上の斥力素Sに関する初期設定を行う。また、可視化単位Uに関する初期設定としては、可視化単位Uのサイズ、初期位置、初期速度、可視化単位Uが持つ斥力素Sの値がある。
【0065】
また、データと描画の関係に関する初期設定として、データのどのチャンネルの値をどのように描画色や明るさなどとして描画に結びつけるかを決定する。例えば音のスペクトログラムの場合は、音の周波数帯域をいくつかに分け、周波数帯域を色の色相に、またそれぞれの帯域の振幅の平均値を明度に当てはめるといったことを実施する。
【0066】
次に、描画軌跡Tの全体を制御するために配置される斥力素S群の設定を行う。斥力素S群の初期配置と、描画が進むに応じてどのように配置を変更するかを設定する。例えば斥力素Sを円形配置した場合であれば、初期半径、半径の単位時間あたりの伸び、円周上に配置する各斥力素Sの値、斥力素S間の距離を設定する。斥力素Sの値は固定値とすることもできるし、可視化単位Uの値や描画軌跡Tの軌跡に応じた変動値とすることもできる。
【0067】
さらに、描画軌跡T上の斥力素Sに関して設定を行う。斥力素Sの値(固定値、もしくは可視化単位Uの値や描画軌跡Tの軌跡に応じた変動値)を設定し、さらに斥力素Sを配置する間隔(時間間隔もしくは距離間隔)を設定する。例えば本実施形態のクロール法の場合は、斥力素Sの値として固定値、もしくは平均明度の時間平均に比例する値(つまりデータの値が大きければ大きな値となる)のいずれをも選択可能としている。また、斥力素Sの配置間隔の一例として本実施形態では一定の時間間隔としている。
【0068】
以上の設定(ステップ1)を終了したら、すべてのデータを描画したか、もしくはキャプチャが終了したかの終了判定を行う(ステップ2)。該当する場合には描画処理を終了する(ステップ10)。例えばファイルからのデータを読み込んで可視化単位Uに変換し表示している場合であれば、描画すべきすべてのデータを描画したか、もしくは利用者が描画終了を指示したとき等に軌跡の描画を終了することとする。またマイクやビデオ、センサー等からの入力をリアルタイムで変換して描画している場合であれば、データのキャプチャが終了したか、もしくは同じく利用者が描画終了を指示したとき等に描画を終了することとする。
【0069】
上述のステップ2における終了判定の結果、ステップ10に進まなかったとき、すなわちすべてのデータを描画しておらず、キャプチャも終了していなければ次のデータの読み込みもしくはキャプチャを行う(ステップ3)。描画処理では最初にデータの読み込みが行われる。
【0070】
ステップ3にて読み込まれたデータまたはキャプチャされたデータは、そのまま描画に用いられる場合と何らかの信号処理が事前になされる場合とがある。そこで、ステップ4においては必要な信号処理をオプションとして行う。例えば音信号を描画する場合は、キャプチャされる音信号そのものではなく、周波数分析(FFT)を行い、帯域毎に平均を計算して、さらにSS法(Spectral Subtraction 法)を用いて音信号の変化分を取り出し、その計算結果を描画に用いる。このデータは、高音と低音といったように成分ごとに描画軌跡Tの内側ないし外側(換言すれば進行方向右側ないし左側)に振り分けられることになる。
【0071】
続いて、壁になっている斥力素S群の更新を行う(ステップ5)。すなわち、壁になっている斥力素群Sは描画が進むにつれて配置を変えることがあるので、その場合には、データが読み込まれる度に新しい配置を計算して斥力素Sの配置換えを行う。例えば円形に斥力素Sを配置して丸い壁とした場合、円が広がるように斥力素Sを外側に移動させるといった配置換えを行う。このとき、斥力素Sの数が変わる場合もある。
【0072】
続いて、描画軌跡T上の斥力素Sを更新する(ステップ6)。ここでは、それまで描画された軌跡と交差しないようにするため、描画が進むに従い、例えば既描の描画軌跡T上に、可視化単位Uに反発作用を及ぼす斥力素Sを配置してゆく。このとき、データが読み込まれる度に、斥力素Sを配置すべきか否か、配置するとすればどこに配置するのか、またどの程度の大きさの斥力素Sを配置するのかを決定し、配置を実行する。例えば本実施形態のクロール法では、斥力素Sを可視化単位Uのすぐ側に配置することはせず、描画が進行してしばらく進んでから描画軌跡Tの比較的後ろの方に配置することとしている。例えば可視化単位Uのすぐ側に斥力素Sを配置すると極めて大きな斥力が可視化単位Uに加えられ、可視化単位Uの移動速度が極めて大きくなり、スムーズな描画を阻害するおそれがあるが、上述のような配置の仕方とすればこのようなおそれが少なくなるという点で好ましい。
【0073】
続いて、上述した数式を利用し、配置されているすべての斥力素Sから可視化単位Uに加わる斥力を計算する(ステップ7)。例えば斥力素Sが1000配置されていれば1000の斥力ベクトルが計算されることになるので、これらをベクトルを合成し、可視化単位Uに加わる斥力ベクトルを計算する。
【0074】
ステップ7にて斥力ベクトルを計算したら、現在の可視化単位Uの速度と、可視化単位Uに仮定されている質量および慣性モーメントから、可視化単位Uの単位時間あたりの移動方向および移動量を計算する。さらにこの計算結果に基づき、可視化単位Uの単位時間ごとの移動先、さらにはそこでの姿勢を計算する(ステップ8)。
【0075】
続いて、前回の可視化単位Uの位置から移動先までの間を描画する(ステップ9)。つまり、前回のデータ読み込み時に描画した最終描画位置およびその時の可視化単位Uの姿勢、さらには今回新たに計算された可視化単位Uの位置(移動先)および姿勢に基づき、前回の最終描画位置と今回の移動先とを繋ぐ描画を行う。具体的には、描画位置を示す座標等の画像情報が出力装置に送られ、ディスプレイ等に目視できる画像として表示されることになる。なお、可視化単位Uは曲がることがあるため、一般には扇形ないしはこれに近似した軌跡の描画となる。この描画を終えたらステップ2へと戻る(図8参照)。
【0076】
なお、上述したように、斥力素Sによって構成される壁を徐々に大きくしていったり斥力の大きさを変えたりといったような変化を適宜与えることは、対象とするデータがどのような変化内容のものであっても可視化結果を表示領域(画面)にできるだけ密に表示することを可能とするし、尚かつ、表示を密にしながらも描画軌跡Tの重なりや交差を防ぐことをも可能とする。さらに、これらが、変化のある各種データの内容に臨機応変に対応して有効かつコンパクトな可視化結果を得ることにつながる。
【0077】
ところで、このように壁を大きくしたり斥力の大きさを変えたりした場合には既に説明したように斥力素Sの配置等が随時更新されることになる。一般に、ステップ5,6で説明した「更新」とはこのように斥力素Sの配置等のデータを新しいものに置き換えることであるが、これに限られるわけではなく、本明細書でいう「更新」は変化のないデータに置き換える場合も想定している。つまり、可視化を実施するにあたり、可視化を行う全時間あるいは一定時間の間、斥力素Sの大きさや配置を変更しないということはもちろん可能であり、このような場合には仮にデータを更新しても実態的な変更は生じないということになる。
【0078】
以上、本実施形態における可視化プログラムの具体的な処理内容ないし機能について説明した。ちなみに、近年においてはデータ解析研究において、ヴィジュアルデータマイニング(VDM)という新しい分野が注目を集めている。これは従来の情報可視化、つまり単にデータを視覚的な表現に変換するという段階から、一歩進んでデータからの傾向理解・特徴抽出などを視覚的に支援する可視化技術と捉えられているものであるが、本発明は、かかる新しい分野における新手法として特に意義があると考えられ、例えば電力設備の監視・診断を支援するVDM 技術として好適だと考えられる。
【0079】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明は時間軸に沿った長時間にわたるデータ、一例を挙げれば電力設備における放電音観測データのように長時間にわたって連続するデータ等が可視化の対象となるが、対象データがこのようなものに限られるということはない。すなわち、長時間にわたるデータの多くは連続するデータであると考えられるが、これのみならず、不連続区間を含むデータである場合もあり得る。このような場合の処理法を例示すると、例えば不連続区間が単にデータがない区間であるならばデータが0の連続区間とみなせばよく、また、不連続区間が異なる入力ソースからのデータであるなど本質的に不連続である場合には、チャンネル数が同じである範囲で単にデータの傾向が変化しただけとみなせばよい。さらに、チャンネル数が変わってしまうような場合(例えば10だったチャンネルが20に変わってしまう場合など)には、同じ縮尺で単につなげて表示するなどの処理も可能である。以上のように不連続区間が含まれる場合にはデータないしプログラム等の設計時に適切に考慮することによって対処することができる。
【0080】
また、上述した実施形態においては内向きの斥力素Sの配置例としてこれらを表示領域の外側周辺に配置する場合を例示したが、もちろんこれは一例に過ぎず、逆にこれら内向きの斥力素Sを表示領域の内側であって描画軌跡Tの周囲に配置することもできる。これらの場合やり方自体に相違はないが、配置の仕方によって機能や動作が異なることから様々な制御が可能となる。また同様に、いったん配置した内向きの斥力素Sを徐々に広げてゆく場合における広げ方に関しても、広げる速度をどの程度にするか、相似形のまま広げてゆくのか変形させながら広げてゆくかなど種々の方法があり、描画軌跡Tに対して様々な制御を行うことが可能である。
【実施例1】
【0081】
本実施形態にて説明した時系列データの可視化方法について、伸び処理、曲げ処理そして斥力作用という3つの機能が可視化にどのような効果をもたらすかを調べるために評価実験を行った。具体的には、1時間19分の放電音観測データに対し本発明にかかるデータ可視化プログラムおよび可視化方法を適用し、音の周波数成分をそれぞれのチャンネルとし、低い音から高い音に向かって異なる色相を割り当て、各周波数帯域での振幅を明るさで表現する実験とした。そしてこれにより、従来の代表的な可視化手法と比較して、本件手法が画像全体をコンパクトに収めながらデータの傾向や特徴の変化時点(放電音が強さを変化させながら継続している状態や、急に止んだ時点など)を形に現しており、現象の変化を容易に識別できることを確認するに至った(図9等参照)。
【0082】
ここで図9の内容について概略説明しておくと、図9中の模様は放電音の周波数特徴を表している。また、高音が強いと描画軌跡Tが進行方向左に曲がり、低音が強いと右に曲がることによってデータを強調している。また、図9に示す放電音データは、低音成分が強く進行方向右へ右へと曲がるため全体として右回りの渦状となっている。図中の濃い模様は強く音がでていることを示す。拡大図からもわかるように中央から低音寄りに筋が描画されており、このことからは放電音が発生していることがわかる。図中Aで矢示する部分においては、放電音が突然途切れたために描画軌跡Tが折れ曲がった軌跡となっている。また、図中★マークを付した部分は大きく曲がっている区間であり、放電音に大きな傾向変化があったことを表している。
【0083】
なお、評価実験を実施するにあたっては、直流送電線の放電騒音防止のために行われた暴露試験で撮影されたビデオ映像のデータを可視化の対象とした。この映像は試験場に設置された直流がいし連を数ヶ月にわたって長期撮影したビデオ映像の一部であり、ビデオに収録された音は垂直に設置された直流がいし連から1.5m 離れた位置、地上1m に設置された無指向性マイクにより録音されたものである。これは、音信号処理としてSS 法(Spectral Subtraction 法:平常時の複数の音データから「いつもの音の特徴」を生成し、観測時に、いつもの音の特徴と異なる部分のみを取り出す信号処理手法)を適用したデータであり、標準的な放電音を基準にしてそれとの差だけが残ったデータとなっている。
【0084】
可視化に用いた記録は、2001 年5 月9 日から5 月16 日までの映像である。撮影期間は17 日間だが、音を検知していない時間帯はタイムラプスビデオ(録画映像のコマ数を制御できるビデオデッキ)により無音の状態で短く要約記録されており、実際のテープの長さは全体で1 時間19 分であった。比較には、表3に示す8つの手法中からNo.3とNo.7を除いた6つの可視化手法を用いた。No.3とNo.7を除いたのは、曲げ処理機能を用いない場合あらかじめ設定した経路に沿って可視化するため、斥力素Sを作用させることの意味がないためである。
【0085】
【表3】

【0086】
以下、長時間放電音観測データの可視化実施の内容について、
1.実験用可視化ソフト
2.放電音の可視化結果
3.確認事項
という項目ごとに説明する。
【0087】
1.実験用可視化ソフト
評価のために可視化ソフトウェア(可視化プログラム)を作成した。図10に出力装置のユーザインタフェース画面の例を示す。Mac OS X で動作し、PC に接続したビデオカメラから映像と音のデータをキャプチャし、SS法などの音信号処理を行い、選択された各可視化手法を用いてリアルタイムに可視化画像を描画するものとした。可視化画像は、0.1 倍から2 倍の間の任意の倍率で表示できるようにした(図11参照)。また、可視化画像表示エリアの任意の箇所をマウスでクリックすることで表示領域を移動できるようにした。さらに、作成した可視化ソフトウェアには、キャプチャし信号処理を施したデータをファイルに自動保存し、後からデータを読み込んでパラメータを変更し、可視化手法を変えて再度描画するという機能も設けた。1 時間の信号処理済み記録データをクロール法で描画するにはPowerBook G4/1GHz を用いて約5 分を要した。処理時間の半分は画面への描画処理であり、残りの半分が斥力の計算処理時間であり、それ以外の処理時間は無視できるほど小さいものであった。
【0088】
2.放電音の可視化結果
以下に、本実施例における各手法での可視化結果を示す。なおいずれの可視化画像も、表示された範囲の長辺が8cm になるように縮小表示している。これは同じサイズの画面に可視化結果を表示した場合を想定したものである。
【0089】
図12に、短冊型表示での可視化画像を示す(これは表4のNo.8 に相当)。模様が濃い区間と薄い区間に分かれているのがわかる。模様の濃い区間は観測目的の放電音(フラッシオーバーによる放電音)が観測されている時区間であり、模様の薄い区間は観測目的の放電音がないか、別の音が放電音と間違って記録されている時区間である。拡大図で見分けることができる縞模様が、音のスペクトルパターンである。図では上方が低音、下方が高音を表している。全体に模様が細かく可視化されているのがわかる。ちなみに、原画像はカラーであり、放電音を表す縞模様は茶色や緑色で着色されており、グレースケールよりは識別性が高い。
【0090】
図13に、渦巻き型表示で可視化した図を示す(これは表4のNo.8 に相当)。渦巻き型表示では線速度を短冊型と同じ速度にして描画した。そのため外周ほど単位時間あたりの描画角度が小さくなっている。短冊型と類似の特徴を示してはいるが、可視化単位Uが扇形であり、外周が広く可視化され、内周が狭く可視化されることから、外周側(高音側)が強調された表示になっている。短冊型同様にスペクトルが細かく描画されているのが拡大図で確認できる。短冊型、渦巻き型共に、可視化結果の面積がそのまま経過時間を表すため、状態の継続時間を直感的に知る事ができるものとなった。
【0091】
図14に、短冊型表示に伸び処理を加えて可視化した図を示す(これは表4のNo.4 に相当)。ここで適用した伸び処理は上述したとおり描画方向ベクトルv の大きさを変化させて特徴を際立たせる処理のことであり、値の小さな区間(模様の薄い区間)は縮ませ、値の大きな区間(模様の濃い区間)を伸ばすように作用させた。このデータでは模様の薄い区間が途中と最後に長くあるため、全体として70%の長さに縮んだ。変化の大きな箇所が強調されるため、パターンが読みやすくなっているのがわかる(図14参照)。特に最初の頃の放電パターンに比べて、途中の放電パターンは高音成分が強いことがわかる。またデータの終わり付近(最下段)に放電音とは異なる音のパターンが出ているのがわかる。これは観測システムが、鳥の鳴き声を放電音と間違って記録しているデータである。観測システムは一定以上の音圧があればすべて記録する仕組みになっていた。
【0092】
図15に、渦巻き型表示に伸び処理を加えて可視化した図を示す(これは表4のNo.4 に相当)。線速度は図14と同じである。渦巻き表示でも、伸び処理による処理が区間を縮ませる効果となって表れ、全体の長さが短くなった(全体の70%に短縮)。模様が強調される点も短冊型に適用した場合と同じであった。
【0093】
図16に斥力作用と伸び処理を使わずに曲げ処理のみを使って可視化した図を示す(これは表4のNo.6 に対応)。この場合、描画結果を示す描画軌跡Tの一部どうしが重なって見づらくなった。ただし、データの変化を経路が端的に表しているため、この1 時間のデータがいくつかのモードから成り立っているのが良くわかる結果となった。最初は比較的強い放電音が発生しており、その後多少静かになり、放電音がなくなってしばらくして、また画面右下に渦を巻く強い放電音が発生し、その後長時間放電音がなくなり、最後に画面左側で曲がっている鳥の鳴き声の記録区間があるということが、経路の曲がり方で表現されていることが確認できた(図16参照)。図中Bで矢示している部分はフラッシオーバーによる放電音が連続発生している区間を表し、図中Cで矢示している部分は鳥の鳴き声を放電音と間違って記録している区間を表している。
【0094】
図17に、斥力作用を使わずに伸び処理と曲げ処理を使って可視化した図を示す。伸び処理を使ったために放電音のない模様の薄い区間が短くなって図が圧縮されており、重なりが大きく、わかりづらい図になったと考えられる。
【0095】
図18に、伸び処理を使わずに曲げ処理と斥力作用とで可視化した場合の図を示す(これは表4のNo.5 に相当)。ここでの描画軌跡Tが渦巻き状になっているのは、円周上に配置した斥力素Sを徐々に広げながら表示領域への閉じ込めを行ったためである。経路の総延長は伸び処理を用いない短冊型の場合および渦巻き型の場合と同じである。この図を内側に含む最小の長方形の面積は、伸び処理を用いなかった渦巻き型の可視化結果(図13参照)を1 として2.58 (つまり図13の場合の2.58 倍)であった。すなわち、描画軌跡Tどうしの間に余白(隙間)があるために全体としての占有面積が広くなっている。また、鋭く曲がった形(ここでいう「鋭く曲がった形」というのは、図13や図15のように規則的に曲がるのではなく、右へ曲がったり左へ曲がったり不規則に曲がっていることを意味している)になっているのは、曲げ効果のみを用い、斥力作用を用いない場合(図16参照)のように描画を行おうとして、外周や経路上の斥力素Sに阻まれて曲げられているためである。そのため、データの変化が大きいほど曲がりが頻繁かつ急角度となっており、その一方でデータの変化が小さいと比較的素直に円弧を描く形となっている。より詳細に説明すると、ここでいうデータの変化というのは、データの値の単位時間の変化量と単位時間あたりの変化回数の両方を意味しており、前者は例えば信号波でいうところの振幅にあたり、後者は周波数にあたる。つまり、周波数変動が大きい場合には、大きな値を持つチャンネルが単位時間あたりに頻繁に変わるので曲率が頻繁に変化することになり、そのことが「曲がりが頻繁」という描画に結びつく。また、図18の場合、図16の場合に比べるとデータの傾向が大局的な形に現れにくいことを確認した。
【0096】
図19に、伸び処理、曲げ処理、斥力作用を全て用いたクロール法の可視化結果を示す(これは表4のNo.1 に相当)。描画経路の総延長は、伸び処理を用いた短冊型および渦巻き型の場合と同じであり、伸び処理を用いない場合の70%となった。この図を内側に含む最小の長方形の面積は、伸び処理を用いた渦巻き型(図15参照)を1 として2.83 (つまり図15の場合の2.83倍)であった。すなわち、描画軌跡Tどうしの間に余白(隙間)があるために全体としての占有面積が広くなっている。その一方で、このような余白がデータの変化に応じた経路変形を可能とし、傾向の移り変わりや各時区間の特徴をより解りやすくしているということができる。具体的には、中心点を始点とし、最初の放電音が継続して発生している様子がうねうねと曲がった経路として(つまり放電音の連続派生区間として)表されることを確認した。それからは円弧状に可視化された放電音の無い区間が続き、その後、強い放電音が継続する時区間(強い放電音の連続発生区間)が長くあり、それがうねうねと曲がった経路で表されることも確認した。この放電音は突然止んでしまい、そのとき(放電音が突然途切れた時点で)不自然に曲がった部分(図中左下部分)として可視化された。その後しばらくして、最後あたりに鳥の鳴き声が記録された区間が、ぎざぎざと震える経路として可視化されていることを確認した(図19参照)。なお、図中Dで矢示している部分は放電音の連続発生区間、図中Eで矢示している部分は強い放電音の連続発生区間、図中Fで矢示している部分は放電音が突然途切れた時点、図中Gで矢示している部分は鳥の鳴き声が連続記録されている区間をそれぞれ表している。
【0097】
クロール法での大局的な可視化形状は、斥力作用空間の広さによって変わることを確認した。斥力作用空間の広さを変えた場合に可視化結果がどのように変わるかを図20に示す。5つの図の内、真ん中に示したのは図19として示した可視化結果を縮小したものであり、これよりも斥力作用空間を広くすると図20の右側の図のように経路が伸びて開いた形となった。また、斥力作用空間を逆に狭くすると真ん中よりも左側の図のように経路が狭まってゆき、渦を巻いて重なる箇所が生じた。以上からすると、斥力作用空間を広くした方がデータの特徴をより素直に表現した可視化結果が得られやすく、その一方で、斥力作用空間を狭くすると重なりが生じるなど無理に曲げられた箇所でデータの特徴が読み取りにくくなることを確認した。ただし、斥力作用空間の広さを変えた場合の可視化結果はよじれた紐を伸ばしたり縮めたりするように変わるのであり、よじれ具合そのもの、つまり経路の変曲傾向そのものは斥力作用空間の大小で変わるわけではないことも確認した。
【0098】
3.確認事項
放電音記録データの可視化結果比較により、本発明における3つの要素(伸び処理、曲げ処理そして斥力を作用させる処理)の特長が示された。
【0099】
まず伸び処理の利点として、変化箇所が目立つようになり、かつコンパクトに表現できる効果があり、描画軌跡Tないし時系列データのいわば要約を実現するものであることを確認した。ただし時間方向の変化が歪曲されるため継続時間などの時間方向の特徴が捉えづらくなる場合はあり、このような場合には、経過時間を重視するのであれば伸び処理を用いずに可視化を実施することも行いうる。
【0100】
次に曲げ処理については、斥力作用を併用しない場合、データの変化を素直に表して変化の強さや変わり具合などを大局的な形状に反映することができることを確認した。ただし、描画経路が重なったり特定の方向に間延びしたりする場合があり、そのような場合には視認性が低下することがある。
【0101】
曲げ処理と斥力作用空間を併用すると、斥力素Sの配置により経路の重なりや間延びがなくなりコンパクトに可視化できることを確認した。それでいて折れ曲がりがデータの特徴を表し、変化の傾向が掴みやすくなっていることも確認できた。また、特に伸び処理を併用した場合には、大局的な形にも反映しやすいため、縮小しても印象に残りやすい形状特徴を有することを確認した。
【0102】
以上のように、設備監視・診断で用いられる長時間かつ構造のないセンサデータを効果的に可視化する手法として本願にかかる発明が有効であることを確認した。本実施形態ないし本実施例にて説明したクロール法では、データの変化に応じてデータの表示経路を曲げ、伸縮させることで、データの局所的特徴を可視化画像の形に反映させ、結果として縮小しても傾向や特徴がわかりやすい可視化画像を生成することができた。また物理学のアナロジーを用いた手法により、可視化画像の全体をコンパクトに収めながら、画像の重なりや交差を避けることが可能である。本実施例では、1 時間の放電音観測データに対し本件手法を適用し、従来の代表的な可視化手法と比較して同じ画面サイズでよりわかりやすく可視化できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明にかかる時系列データの可視化手法を適用した実施形態における可視化単位(長方形)を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態における可視化単位(扇形)を説明するための図である。
【図3】「伸び処理」による効果を説明するための図である。
【図4】「曲げ処理」による効果を説明するための図である。
【図5】斥力を作用させて描画軌跡Tを表示領域へ閉じ込める際の様子を説明するための図である。
【図6】斥力を作用させて描画軌跡Tの重なりを回避する様子を説明するための図である。
【図7】斥力素Sを長方形配置するとともに短辺どうしの間隔が広がって行く場合に可視化単位Uがどのように進むかを(a)〜(e)へと順次示す図である。
【図8】本実施形態における可視化プログラムの処理内容を示すフローチャートである。
【図9】本発明を適用して描画された描画軌跡Tの一例を示す図である。
【図10】本発明の実施例におけるユーザインタフェース画面の一例を示す図である。
【図11】本実施例において実施した可視化ツールのズーム機能を示す図である。
【図12】本実施例において短冊型表示した可視化結果を示す図である。
【図13】本実施例において渦巻き型表示した可視化結果を示す図である。
【図14】短冊型表示に伸び処理を加えて可視化した結果を示す図である。
【図15】渦巻き型表示に伸び処理を加えて可視化した結果を示す図である。
【図16】斥力作用と伸び処理を使わずに曲げ処理のみを使って可視化した結果を示す図である。
【図17】斥力作用を使わずに伸び処理と曲げ処理を使って可視化した結果を示す図である。
【図18】伸び処理を使わずに曲げ処理と斥力作用と適用して可視化した結果を示す図である。
【図19】伸び処理、曲げ処理、斥力作用を全て用いたクロール法の可視化結果を示す図である。
【図20】斥力作用空間の広さを変えた場合に可視化結果がどのように変わるかを示す図である。
【図21】従来のデータ可視化技術の一つである直線型可視化手法を説明するための図である。
【図22】従来のデータ可視化技術の一つである短冊型可視化手法を説明するための図である。
【図23】従来のデータ可視化技術の一つである渦巻き型可視化手法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0104】
T 描画軌跡
U 描画の際における可視化単位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示する時系列データの可視化方法において、前記データを成分ごとに前記描画軌跡の内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には前記描画軌跡の曲率が変化するように配分し、既に描かれている既描描画軌跡とその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡との間に作用してこの新規描画軌跡に対し反発力を付与する外向斥力と、前記新規描画軌跡に対し内向きの力を作用させる内向斥力とを作用させながら前記データを渦状に表示することを特徴とする時系列データの可視化方法。
【請求項2】
前記データの変化が小さいために前記描画軌跡の曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの前記描画軌跡を時間軸方向に縮小することを特徴とする請求項1に記載の時系列データの可視化方法。
【請求項3】
前記描画軌跡に対し前記外向斥力と前記内向斥力とが作用する斥力作用空間を、少なくとも前記描画軌跡どうしの重なりあるいは交差が回避される程度にまで拡大することを特徴とする請求項1または2に記載の時系列データの可視化方法。
【請求項4】
前記外向斥力を、前記既描描画軌跡上にて一定間隔で作用させることを特徴とする請求項1から3のいずれかひとつに記載の時系列データの可視化方法。
【請求項5】
時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示させるための時系列データの可視化プログラムにおいて、コンピュータに、前記データを成分ごとに前記描画軌跡の内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には前記描画軌跡の曲率が変化するように配分する処理と、既に描かれている既描描画軌跡とその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡との間に斥力を作用させてこの新規描画軌跡に対し反発力を付与する処理と、前記新規描画軌跡に対し外側から内向きの斥力を作用させながら前記データを引き続き表示する処理とを実行させることを特徴とする時系列データの可視化プログラム。
【請求項6】
前記データの変化が小さいために前記描画軌跡の曲がりが無いかあるいは小さい間は当該データの前記描画軌跡を時間軸方向に縮小する処理を実行させることを特徴とする請求項5に記載の時系列データの可視化プログラム。
【請求項7】
前記描画軌跡に対し前記外向斥力と前記内向斥力とが作用する斥力作用空間を、少なくとも前記描画軌跡どうしの重なりあるいは交差が回避される程度にまで拡大する処理を実行させることを特徴とする請求項5または6に記載の時系列データの可視化プログラム。
【請求項8】
前記外向斥力を、前記既描描画軌跡上にて一定間隔で作用させる処理を実行させることを特徴とする請求項5から7のいずれかひとつに記載の時系列データの可視化プログラム。
【請求項9】
時間軸に沿った長時間にわたるデータを渦状の描画軌跡として出力装置の一の画面で表示する時系列データの可視化システムにおいて、前記データを成分ごとに前記描画軌跡の内側ないし外側に振り分けて当該データに変化が生じた場合には前記描画軌跡の曲率が変化するように配分するデータ配分手段と、既に描かれている既描描画軌跡とその先端に引き続き描かれる新規描画軌跡との間に斥力を作用させてこの新規描画軌跡に対し反発力を付与する外向斥力付与手段と、前記新規描画軌跡に対し内向きの力を作用させる内向斥力付与手段とを備え、前記外向斥力と内向斥力とを作用させながら前記データを渦状に表示することを特徴とする時系列データの可視化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−48195(P2006−48195A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225223(P2004−225223)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】