説明

時計用パッキング組成物

【課題】傷がつき難く、可動部を有する分子構造の樹脂であっても変形時に隙間を発生せず十分な防水性能を有する時計用パッキング組成物およびこれを用いた防水信頼性の高い時計を提供する。
【解決手段】表面に少なくとも(A)2−ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンーグラフトーポリカプロラクトン 分子量約600,000) [〔H(C6102)n〕y(C36+3zH60+7zyO30+Z)]〔(C1015)(NHCOCH2O)(C24O)n(CH2CONH)(C1015)〕とイソシアネート化合物と、ポリオールまたは/およびフィラーとからなる層を有する時計用パッキング組成物を用いて時計を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用外装製品に使用する防水機構に関し、特に時計に使用されるパッキング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
時計はヘッドと呼ばれる時刻を表示する部分と、これを腕にとめるためのバンドからできている。ヘッドは、ムーブメントと呼ばれる時計の針を動作させて時刻を表示する駆動装置、指針、文字盤およびこれらを保持するための、ガラスや金属、プラスチック等からなる外装部品からできている。また、時計には表示する時刻や、日付け、曜日などを修正できるように外部からムーブメントを操作するリューズが具備されている。また、電池交換や修理などができるよう外装の裏蓋も開け閉めできるようにされている。
このリューズや、裏蓋などの部分にはパッキングが挿入されており、この役目は、外部と内部との遮断にある。パッキングによって生活防水が実現されることになる。多少水がかかっても、時計内部に水が入り込むことが無いようにパッキングで保護している。この機能は特にダイバー向けの時計などでは特に重要な役割を持つことになる。
パッキングの素材としては、ゴムが一般に用いられている。ゴムの種類としては、ブチルゴム、天然ゴム、シリコーンゴムなどが採用されている。また、形状としてはドーナツ型の円筒形の輪の形状をしたものを使用している。
パッキングを装着する方法は、市場でも公知な様にさまざまあるが、裏蓋の場合は、裏蓋部品と外装のケースとの間に挿入したり、リューズの場合には、外装のケースのリューズを挿入する穴と、リューズの軸との間に巻き込む様にパッキングが装着されている。
しかし、従来のゴムを使用していると、経時的にゴムが劣化したり、ゴムが伸びてしまったり、電池交換時に裏蓋を開け閉めする時や、付着したゴミを清掃する特にゴムが傷ついたり、時刻修正する時にリューズがパッキング内部を回転して滑るときに傷つけたりして、本来の役割である防水性を損なってしまうことがある。
このため、時計をメンテナンスする時にはパッキングを新品に交換するようにして、防水の不具合をある程度防止できるが、組み込む時に再び傷つけたり、時刻修正した時に新たな異物が隙間に入り込んでパッキングを傷つけてしまうとパッキング本来の役割ができなくなり、結果として防水不良を引き起こしてしまうことがある。
従来の時計用パッキングの使用例としては、例えば特許文献1には、炭素−炭素結合で形成される架橋構造を有するブチルゴムからなるパッキングを使用している例示がある。
また、特許文献2には、ゴムパッキングの主成分に炭素−フッ素結合を有する特殊ゴムを用いたゴムパッキングを使用した例示がある。
また、特許文献3には、ゴムパッキングの主成分に、ハロゲン化ブチルゴムにエーテル結合を有するモノマーを共重合して得られるゴムを使用して長期間の圧縮塑性変形が小さい特性を発現するゴムパッキングを用いる方法が開示されている。
また、特許文献4には、時計用裏蓋のパッキングにニトリルゴム、ブチルゴムおよびシリコンゴムを主成分とし、これに1.0から50%の範囲で合成樹脂粉末を混入し形成させることが開示されている。
この様なゴムは、水の透過性を阻止する面では、パッキングに使用した場合は機能するものの傷つきにくさについては劣り、防水性が十分といえない。
一方、特許文献5には包接格子を構成するα−サイクロデキストリン分子にポリエチレングリコール分子が串刺し状に包接されており、且つ前記α−サイクロデキストリン分子が前記ポリエチレングリコール分子から脱離できなくするに充分嵩高い封鎖基で前記ポリエチレングリコール分子の両末端が化学修飾されていることを特徴とするゲスト高分子がエンドキャップされたα−サイクロデキストリンの包接化合物が提案されている。
また、特許文献6にはポリカプロラクトン修飾化ポリロタキサンをヘキサメチレンジイソ
シアネートで架橋し、溶媒を除去することにより、エラストマーが得られることが記載されている。また、ヒドロキシプロピル基およびポリカプロラクトン基を有するポリロタキサンを合成し、合成したポリロタキサンとトリレン2,4−ジイソシアネート末端変性ポリプロピレングリコールを反応させて架橋体を得ることが記載されている。
また、特許文献7にはヒドロキシプロピル修飾したポリロタキサンをポリカプロラクトンでグラフトし、更に、環状分子の末端水酸基とイソシアネートを反応させることが記載されている。
また、特許文献8には、ポリロタキサンにイソシアネートを反応させて架橋することが記載されている。このポリロタキサンを輪ゴムやパッキング材料に用いることが記載されている。
また、特許文献9にはヒドロキシプロピル化ポリロタキサンにカプロラクトンを反応させた疎水性修飾ポリロタキサンが開示されている(請求項1、段落0077)。また、ポリロタキサンにイソシアネートを反応させて架橋することが記載されている(段落0043)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2002/075182号パンフレット
【特許文献2】特開2002−069132号公報
【特許文献3】特開2002−275201号公報
【特許文献4】実開昭59−003393号公報
【特許文献5】特許第2810264号公報
【特許文献6】国際公開第WO2010/024431号パンフレット
【特許文献7】特開2011−46917号公報
【特許文献8】特許第3475252号公報
【特許文献9】特開2009−270119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1から特許文献4に開示された時計のパッキングは、いずれも架橋構造に連結された回転可能なアルキル基等の分子運動の自由度によるゴム弾性の特徴を活かしたものであり、いずれの場合もリューズの回転や、裏蓋をはめる時に傷が付きやすく、このパッキングを用いた場合には時計を使用してゆく上で時刻修正のためにリュウズを回転させたり、引いたりしたり、また、電池交換のために裏蓋を開閉させた時に発生した傷が原因して防水不良になるといった課題がある。
また、特許文献5には、分子内で移動できる部位を有するポリロタキサンが提案されている。この様な構造を持つと分子に外圧がかかった場合に分子内で移動できる部分が分子内で移動することで変形できる。しかし、この様な分子内に移動できる部位を有する化合物だけでは、高分子化できていないので、加温すると分子の融点付近では溶融するなどしてゴムの代わりに使用することはできない。
しかし、この様な分子内に移動できる部位を有する化合物を用いて、高分子化した材料について特許文献6から特許文献9について提案がある。例えば、ウレタン結合を生成させて高分子化するなどである。この様な高分子は、高分子となっても分子内で移動する部分が機能して外圧が加わっても、架橋部分に大きなストレスを掛けることなく分子内の移動できる部分が移動することで変形することができる。しかし、いずれの高分子を時計構造の中に組み込み、リューズや、裏蓋との間のパッキングと使用した場合の記載はなく、これを時計用のパッキングにそのまま使用した場合には、変形しすぎて隙間が空き、逆に外部からの水分を時計本体内に取り込んでしまい使用に耐えないといった課題がある。
以上のように本発明は、従来の傷つくと防水性が失われてしまうパッキングを傷つかないようにし、可動部を有する分子構造の樹脂であっても変形時に隙間を発生せず十分な防水性能を有する時計用パッキング組成物およびこれを用いた防水信頼性の高い時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の時計用パッキング組成物は、表面に少なくとも(A)2−ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンーグラフトーポリカプロラクトン 分子量約600,000) [〔H(C6102)n〕y(C36+3zH60+7zyO30+Z)]〔(C1015)(NHCOCH2O)(C24O)n(CH2CONH)(C1015)〕とイソシアネート化合物と、ポリオールまたは/およびフィラーとからなる層を有することを特徴とする。または、イソシアネート化合物が(B)ビウレット型イソシアネート、イソシアヌレート型イソシアネートであることを特徴とする。
または、ポリオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールから選ばれることを特徴とする。
または、フィラーの粒子径が20マイクロメートル以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来の傷つくと防水性が失われてしまうパッキングを傷つかないようにし、可動部を有する分子構造の樹脂であっても変形時に隙間を発生せず十分な防水性能を有する時計用パッキング組成物およびこれを用いた防水性に優れた時計を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施例と共に本発明を詳しく説明するが、本発明は実施例だけに限定されるものではない。
時計用パッキングは、時計外装の裏蓋とケースの間、時計外装ケースとリューズの軸との間に主に装備されている。パッキングを装着することで、防水性を高め、水がかかっても水の侵入を防ぐ生活防水や、ダイバー仕様の時計を実現している。
これまで、出願人は特許文献1から4に示したように、パッキングに使用する材質としてブチルゴム、天然ゴム、シリコーンゴムなどを使用してきた。
これらのゴムを使用していると、リューズを回したときや裏蓋を開け閉めした時などに、表面に傷が付き防水性が失われてしまう現象がある。また、装着時などにゴムを引き伸ばし過ぎ、ゴムが伸びてサイズが合わなくなり防水不良になる例もある。
この様な現象が起こる原因は、ゴムを引っかいた時に傷が付く特性を有していることや、ゴムを引き伸ばした時に元のサイズに戻りにくい特性を有しているからである。
このような現象は、架橋する高分子などに見られ、一般に樹脂を固いペン先などで引っかくとその部分の樹脂が変形しながら分子が切断され切れてしまうことが起因している。また、引き伸ばした時は、架橋点は分子内で自由に動けないため、架橋点に大きなストレスがかかり、強引に引き伸ばした結果、この部位が切れて元の形状に戻れなくなるといったことが起因している。
そこで本発明の時計用パッキング組成物は、表面に少なくとも(A)2−ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンーグラフトーポリカプロラクトン 分子量約600,000) [〔H(C6102)n〕y(C36+3zH60+7zyO30+Z)]〔(C1015)(NHCOCH2O)(C24O)n(CH2CONH)(C1015)〕と少なくとも(B)ビウレット型イソシアネート、イソシアヌレート型イソシアネートとを反応させたウレタン結合を有する層を有する。
本発明の時計用パッキング組成物に使用する(A)成分の特徴は、鎖状の結合を有し、端部をアダマンタンで封止した構造の部分構造内をシクロデキストリン骨格が移動できるようになっている点である。この物質の内部には、潤滑性、変形性を有する骨格が具備されている。しかし、このままでは融点をもち、約60℃以上にすると粘調な液状となってしまうことから特に単独で機能を持つことは無いが、ここへイソシアネート誘導体を反応させると、含有する水酸基とイソシアネート基が反応してウレタン結合を生成し高分子化する。この様にウレタン結合を介して高分子化すると時計の使用温度内では溶融することは無く柔軟性に富むゴムの様な性状を有するようになる。
本発明の時計用パッキング組成物の水酸基と反応させるイソシアネートとしては、1分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物であれば良く、(B)ビウレット型イソシアネート、イソシアヌレート型イソシアネートを使用することができる。
(A)と(B)とが反応すると、(A)の分子同士が、水酸基を介して(B)のイソシアネートと生成したウレタン結合で接続され、柔軟性を有するゴム状の樹脂を得ることができる。
(A)に対する(B)の添加量は、(A)の有する水酸基の含有量と当量のイソシアネート基を含有する(B)を加えることが基本であるが、水酸基は密着力を有するため、水酸基を30%程度残留させる程度まで加えるイソシアネートを減少させることができる。
また、(A)と(B)との反応後の硬度が、リューズや、裏蓋をはめ込んだ時に引きずられて空隙が生まれると防水性が失われるため、水酸基を分子内に複数有するポリオールなどを(A)と共に用いることで架橋度上げ硬化後の固さを上げてリューズや、裏蓋装着時に引きずられて空隙を発生しない硬度まで高めることができる。
本発明の時計用パッキング組成物に使用するポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどのグリコールや、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの1分子中に複数の水酸基を有するアルコールを使用することができる。
例えば、(A)1gに対して、当量の0.25gの(B)イソシアヌレート型のイソシアネートに対し、アセトンを溶媒として加えながら混合し、放置してアセトンを除去した後に120℃で5時間反応させたものは、柔軟性と伸縮性に富んだ材料を得ることができたが、これをリューズのパッキングと、本体と裏蓋との間のパッキングに使用したところ、場合によって材料が引きずられ防水不良となる現象が発現した。一方、(A)と共にトリメチロールプロパンを(A)1gに対して、0.1gから3.0g加えて同様に当量の(B)を加えて120℃で5時間反応させたものは、ポリオールを添加しなかったものより硬度が高くなっている。これをリューズのパッキングと、本体ケースと裏蓋との間のパッキングに使用したところ、材料が引きずられ防水不良となる現象は発現しなかった。
このことから、(A)とポリオールとを併用して、(B)を用いて硬化することで目的の時計用パッキング組成物を得ることができた。
また、本発明の時計用パッキング組成物は、(C)フィラーを混合することができる。フィラーを混合することで反応生成物の固さを向上させることができる。時計用のパッキングは裏蓋を開けてメンテナンスする時や、リューズを回転させる時に力がかかる。この力に負けて柔らかすぎてしまうと、パッキングを隙間に巻き込んでしまう現象が発生する。これを防止するためには、フィラーを添加して全体を固くして、巻き込みを防止することができる。
一般に樹脂に添加するフィラーのサイズは一粒の大きさが数ミリのものから数十マイクロメートルのものを加えることが多い。例えばガラス繊維を砕いて数ミリサイズにしたものを加えたりすることもあるが、本発明の時計用パッキング組成物においては、精密部品であるゆえに、表面の凹凸はできるだけ最小限に留めたい。このため、添加できるフィラーの粒子径は20マイクロメートル以下、好ましくは5マイクロメートル以下、更に好ましくは1マイクロメートル以下の粒子を加えることが好ましい。粒子径が小さいほど、表面のミクロな凹凸が低減され防水性の機能が高くなる傾向を示す。
このようなフィラーとしては、例えばカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、コットンフィブリル、チッカ珪素ウイスカー、アルミナウイスカー、ニッケルウイスカー、有機化モンモリロナイト、膨潤性合成マイカ、黒鉛、ナノ酸化チタン、ナノシリカ、カーボンブラックなどが上げられる。
本発明の時計用パッキング組成物のフィラーとしては、フュームドシリカ、シリカフィラーや、カーボンブラックといったものが安価で好ましい。また、フュームドシリカとしては、表面が疎水的なものが好ましい。
例えば、(A)1gに対して、当量の0.25gの(B)イソシアヌレート型のイソシアネートに対し、アセトンを溶媒として加えながら(C)疎水性のフュームドシリカと、親水
性のフュームドシリカをそれぞれ0.5g加えて混合した。混合後、放置してアセトンを除去したところ親水性のフュームドシリカは、系内に取り込まれず表面に析出したが、疎水性のフュームドシリカを用いた場合は内部に取り込まれ、良好に混合することができた。
この結果から、フュームドシリカを添加するに当たっては、表面にメチル基等が導入されたフュームドシリカを用いることが好ましい。
また、前述の(A)とポリオールと(B)に(C)を加えた時計用パッキング組成物も有効で、ポリオールによる樹脂の硬度の化学的調整に加えて、(C)の添加により物理的な硬度の調整を併用することで更に時計用パッキング組成物として適切な組成を得ることができるようになる。
例えば、(A)1gとジエチレングリコールを1gに対し、当量の(B)ビウレット型イソシアネートを添加した物に、平均粒子径が3.5マイクロメートル以下の球状シリカを0wt%、10wt%、20wt%、50wt%加えて混合し、120℃で2時間硬化させ目的のパッキングを得た。それぞれの固さを見たところ、シリカを含有しているものの方が硬化後の硬度が高く、また量が多いほうが固くなる傾向を示した。このことからそれぞれの時計のパッキング機構に合わせた適切な硬度のパッキングを得られることがわかった。
また、このパッキングを利用して、リューズと裏蓋の間にパッキングとして挿入してリューズは6時間回転、裏蓋は50回の開閉を行ったところいずれの場合も良好に防水性が保たれた。
表面に本発明の時計用パッキング組成物を生成させるには、(A)、ポリオール、(B)、(C)とを目的の配合に混合したものを目的とする形状に加熱成形して得る方法がある。この場合パッキング全てが表面と同一の成分で形成される。
また、本発明の時計用パッキング組成物を生成させる第二の方法としては、従来のゴムパッキングの表面層に本発明のパッキング組成物をコートする方法である。コートする方法は目的の比率で配合したものが高粘度で塗布に適しない場合にはアセトンなどの有機溶媒で粘度を下げ、これを塗布した後に、有機溶媒を揮発させ、その後加熱して硬化させ表面に本発明の時計用パッキング組成物を形成すると作業が簡便になり工業性に富むようになる。
第二の方法において、従来のゴムパッキング組成物は、特許文献1から4に開示されたものなどがある。この方法を用いれば、従来のゴムパッキングの特性と本発明の時計用パッキング組成物の特徴を合わせもった時計用パッキング組成物を作成することができる。
本発明のパッキング組成物の成分(A)は非常に粘度が高い性質があり、常温で保管しておいた状態では固体である。これを混合するには、60℃程度の温度に加温すると、ガム状の液体となる。ポリオールや、(B)は液状であるのでこの量が多く、(A)を溶解させ混合するのに十分な粘度低下をもたらす場合には特に無用剤で混合することができる。しかし、この液状成分が少ない場合には粘調な液を単純に混合するのは難しい。
このガム状の液体を常温に取り出し、(B)や(C)と混和しても、短時間で固体に戻ることが無いので、実作業は、一度加温したガム状の(A)を用いて作業を行う。
混合時において、高粘度の(A)が存在するので、ポリオールを併用しないで単独で用いる場合には攪拌中に系内に多くの気泡が入ってしまうといった現象が起こる。これを防止するために、アセトン等の(A)、(B)成分が共に溶解できる溶媒を混合時に加え、低粘度化して混和させることが好ましい。低粘度化する事により内部の気泡が抜け、徐々に溶媒が表面から揮発することにより内部に気泡が混在しない(A)と(B)ないし、(A)と(B)と(C)の混合体を得ることができる。
(A)やポリオールの水酸基と(B)とを反応させるには、加温することで行う。温度は120℃から150℃の間で、組成比によって前後するが1時間以上保管することで反応が進行し、ウレタン結合で結びついた(A)を得ることができる。反応後の樹脂は、(A)やポリオールの水酸基が(B)によって結び付けられたポリマーとなる。このポリマーは、(A)のシクロデキストリン構造が、末端をアダマンタン骨格で封止された有機直鎖の間
を高い自由度で移動できるため、外部からの圧力などの力が加わってもウレタン結合部分には、ストレスを与えず、変形することができる特徴を持つようになる。この特性が時計用パッキングの劣化を防止する性能を引き出したと考えることができるが、実際に、この様に外部から、ペン先等で圧力を掛けて引っかいても、樹脂が変形して、傷つかないようになることは、これまで柔軟性のゴムや、その他の樹脂などを取り扱ってきた時は傷が付いて劣化することを繰り返し見てきた我々にとっては、新しい発見となった。
水酸基を有する(A)2−ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンーグラフトーポリカプロラクトン 分子量約600,000) [〔H(C6102)n〕y(C36+3zH60+7zyO30+Z)]〔(C1015)(NHCOCH2O)(C24O)n(CH2CONH)(C1015)〕と、イソシアネート基を有する化合物(B)として(B-1)ビウレット型イソシアネート、(B-2)イソシアヌレート型イソシアネートと、(C)のナノフィラーとして、(C-1)親水性フュームドシリカと(C-2)疎水性シリカとポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールを用意した。
(A)とエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールをそれぞれ1:1で混合したものに対して、当量の(B-1)ビウレット型イソシアネート、(B-2)イソシアヌレート型イソシアネートを加え、時計用パッキングの形状となるよう120℃で1時間硬化させた。
このパッキングを用いてリューズを6時間回転させて防水不良が発生するかを確認したが、発生は無かった。また、裏蓋のパッキングに使用して裏蓋を50回開閉しても防水不良は発生しなかった。
同様に、ブチルゴムを用いて試験したところ、リューズを回転させた場合も、裏蓋を開閉させた場合もゴムに亀裂が入り良好に防水することができなかった。
(A)1gと当量の(B-1)ビウレット型イソシアネート、(B-2)イソシアヌレート型イソシアネートを溶媒としてアセトンを用いて混合した。その後、疎水性フュームドシリカと平均粒子径が3.5マイクロメートルの2酸化ケイ素をそれぞれ(A)と(B)との総量に対して0.5wt%、3wt%、5wt%、10wt%、20wt%、50wt%加えた後、アセトンを蒸発させ、130℃で1時間硬化させ時計用パッキングを作成した。このパッキングを用いてリューズを6時間回転させて防水不良が発生するかを確認したが、発生は無かった。また、裏蓋のパッキングに使用して裏蓋を50回開閉しても防水不良は発生しなかった。
また、参考のため、単独でブチルゴムで作成した従来の時計用パッキングを用いて同様にリューズを6時間回転させたところ、一部に傷が入り防水不良が発生した。また、裏蓋のパッキングに使用して裏蓋を50回開閉しても溜め込む作業で傷が入り防水不良となった。
以上のように、(A)とポリオールを併用して、(B)と反応させた組成物もしくは、(A)と(B)と(C)からなる組成物を時計用パッキングに使用することで、傷の入らない長期信頼性に富む防水不良の無い本発明の時計用パッキング組成物を用いた時計を得ることができることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に少なくとも(A)2−ヒドロキシプロピル化アダマンタンポリロタキサンーグラフトーポリカプロラクトン 分子量約600,000) [〔H(C6102)n〕y(C36+3zH60+7zyO30+Z)]〔(C1015)(NHCOCH2O)(C24O)n(CH2CONH)(C1015)〕とイソシアネート化合物と、ポリオールまたは/およびフィラーとからなる層を有する時計用パッキング組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物が(B)ビウレット型イソシアネート、イソシアヌレート型イソシアネートであることを特徴とする請求項1に記載の時計用パッキング組成物。
【請求項3】
前記ポリオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールから選ばれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時計用パッキング組成物。
【請求項4】
前記フィラーの粒子径が20マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項1に記載の時計用パッキング組成物。

【公開番号】特開2013−91696(P2013−91696A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233803(P2011−233803)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】