説明

時間反転によるデータ信号の事前等化方法

送信先エンティティ(EC2)にソースエンティティ(EC1)により送信されるFDDデータ信号を事前等化する本方法は、ソースエンティティに、送信先アンテナ(A2)を介してパルスを送信するステップ(E1)と、送信先アンテナが、送信先アンテナと送信元アンテナ中の参照アンテナ(A1ref)との間の第1伝播チャネルと、送信元アンテナ(A1)と送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルとを通じたパルスの連続的通過を表す結合インパルス応答をソースエンティティに送信するステップ(E6)を含み、該ステップ(E6)は送信元アンテナについて反復され、パルスを送信するステップと時間反転されたインパルス応答を反復送信するステップは送信先アンテナについて反復され、本方法は、更に、ソースエンティティにより受信される時間反転された結合インパルス応答のセットの組合せから事前等化係数を決定するステップ(E9)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、周波数分割複信(frequency-division duplex; FDD)無線通信ネットワークにおいて伝送されるデータ信号の事前等化方法に関する。
【0002】
FDDネットワークにおいて、二つの通信エンティティは、異なる周波数帯域でデータ信号を送信する。これらの通信エンティティは、例えば、無線端末、地上または衛星基地局、または無線アクセスポイントである。本発明は、各通信エンティティは、各通信エンティティが単一のアンテナを備えた単一入力・単一出力(single-input, single-output; SISO)無線通信ネットワークと、各通信エンティティが複数のアンテナを備えた複数入力・複数出力(multiple-input, multiple-output; MIMO)ネットワークと、一つのみのアンテナを備えた通信エンティティと複数のアンテナを備えた通信エンティティとを組み合わせた単一入力・複数出力(single-input, multiple-output; SIMO)または複数入力・単一出力(multiple-input, single-output; MISO)ネットワークに関する。
【背景技術】
【0003】
通信エンティティのアンテナにより送信される無線信号(アンテナ信号)は、送信元アンテナの出力で規定されるソース点(source point)と、送信先の通信エンティティのアンテナの入力で規定される送信先点との間の伝播状態に応じて歪みを受ける。このような歪みを制限するために、アンテナ信号は、二つのアンテナ間の伝播チャネルの特性に応じて事前等化係数を適用することにより事前に歪めされる。従って、この伝播チャネルを特性化することが必要である。
【0004】
既存の事前等化方法のうち、時間反転法(time-reversal methods)は、それらの低減された複雑度と性能により区別される。
【0005】
時間反転は、典型的には音響波(acoustic waves)などの波を集束(focusing)させるための技術であり、時間反転波式の不変性(invariance)に基づいている。従って、時間反転された波は、時間的に逆方向に進行する直接波(direct wave)のように伝播する。
【0006】
ソース点から送信される短パルス(brief pulse)は伝播媒体(propagation medium)の中を伝播する。送信先点によって受信されるこの波の一部は、同一伝播媒体中を逆に送信される前に時間反転される。波は、ソース点に向けて収束(converge)し、ここで、それは、短パルスを形成する。ソース点に集まった信号は、ソース点から送信されたソース信号と実質的に同一形状を有する。特に、伝播媒体がより複雑であれば、より正確に時間反転波が収束する。波が印加される伝播チャネルを時間反転することは、ソース点からこのようにして伝送されて事前に歪められた波に対するチャネルの影響を相殺することを可能にする。
【0007】
従って、時間反転技術は、とりわけ、チャネル拡散(channel spreading)を低減することによりアンテナ信号に対する伝播チャネルの影響を相殺し、そして、チャネルを通じて伝播した後に受信されるシンボルの処理を簡略化するために、無線通信ネットワークにおいて使用される。送信元通信エンティティのアンテナにより送信されるアンテナ信号は、このアンテナ信号が通過する伝播チャネルの時間反転されたインパルス応答から得られる係数を適用することにより事前に等化される。従って、時間反転の適用は、送信元通信エンティティが、このエンティティから発行される通信に対して専用の周波数帯域での伝播チャネルを知る必要がある。
【0008】
送信元通信エンティティから送信先通信エンティティへのFDD送信と、その反対方向でのFDD送信は、異なる周波数帯域で達成される。例えば、無線通信システムについて、このことは、移動無線端末から基地局への第1周波数帯域でのアップリンク伝送と、基地局から移動無線端末への第2周波数帯域でのダウンリンク伝送を意味する。通信エンティティは、チャネルを通る信号の受信に基づいて伝播チャネルを推定することができるが、異なる周波数帯域で伝送された信号に基づいて伝播チャネルを推定することはできない。伝送チャネルの相互依存性(reciprocity property)は適用されず、同一周波数帯域を共有するTDD送信とは対照的に、送信方向とは無関係に単にチャネルを推定することを可能にする。従って、とりわけ、FDD送信には、事前に等化されたアンテナ信号のための技術を使用することが有益である。
【0009】
第1のソリューションは、David Gesbert, Mansoor Shafi, Da-Shan Shiu, Peter J Smith, Aymon Naguibによる論文「“From theory to practice: an overview of MIMO space-time coded wireless systems”, published in IEEE Journal on Selected Areas in Communication, vol.21, no.3, April 2003」において提案されている。この提案による方法は、伝播チャネルの送信先通信エンティティの推定に基づいて評価された係数と共に事前等化技術として時間反転を使用する。送信先通信エンティティは、この推定を、送信元通信エンティティによって前もって送信されたパイロットのその認識(knowledge)に基づいて形成する。そして、伝播チャネルの推定は、送信元通信エンティティに配信される。
【0010】
従って、パイロットを挿入することは、伝播チャネルの推定を可能にするが、これは、送信先通信エンティティにおいて複雑な技術の使用を必要とする。また、チャネル推定器の複雑度は利用可能なパイロットの数とともに増加し、その推定を配信するために必要な無線資源の観点での要件は、効果的な事前等化を保証するのに必要とされる推定の精度とともに増加する。従って、伝播チャネルの推定の精度と、パイロットの送信およびチャネルの推定のために使用される無線資源の消費との間で、妥協がなされなければならない。
【0011】
代替の方法は、Tobias DahlとJan Egil Kirkeboによる論文「“Blind beamforming in frequency division duplex MISO systems based on time-reversal mirrors”, presented at the IEEE Conference 6th Workshop on Signal Processing Advances in Wireless Communications, June 2005, SPAWC.2055.1506218, pp.640-644」で述べられている。そのいわゆるブラインド法は、通信エンティティ間のアンテナ信号の往復(round trip)に基づいている。所定の時刻で適用される時間反転係数は、その信号に前の時刻で適用された事前等化係数と格納されたデータ信号から得られる。従って、この方法は、パイロットとチャネル推定を省くことを可能にするが、増大した複雑度のコストと、膨大なデジタル信号の記憶を必要とする。
【0012】
それぞれパイロットの使用とアンテナ信号の往復に基づいている上述のソリューションのどれも、完全に満足できるものではない。従って、本発明は、パイロットを用いることなく、低減された複雑度を有する時間反転に基づく事前等化方法を提供する代替のソリューションを提案する。また、このソリューションは、データ信号が単一のアンテナ信号から構成された単一のアンテナを備えた通信エンティティと、データ信号が複数のアンテナ信号から構成された複数のアンテナを備えた通信エンティティに適している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明は、送信先アンテナのセットを有する送信先通信エンティティに送信元アンテナのセットを有する送信元通信エンティティにより送信される周波数分割複信データ信号を事前等化する方法を提供し、本方法は、
・前記送信元通信エンティティに、送信先アンテナを介してパルスを送信するステップと、
・前記パルスの反復処理を実施するステップと、を含み、
前記パルスの反復処理を実施するステップは、
・送信元アンテナが、前記送信元アンテナのセットの中の参照アンテナを介して受信されたパルスを前記送信先通信エンティティに送信するサブステップと、
・前記送信先通信エンティティが、前記送信先アンテナと前記参照アンテナとの間の第1伝播チャネルと、前記送信元アンテナと前記送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルとを通じたパルスの連続的通過を表す結合(combined)インパルス応答を時間反転するサブステップと、
・送信先アンテナが、前記送信元通信エンティティに前記時間反転された結合インパルス応答を送信するサブステップと、
を含み、
・前記パルスの反復処理のステップが、少なくとも前記送信元アンテナの幾つかについて反復され、
・送信先アンテナを介したパルスの送信および前記パルスの反復処理のステップが、少なくとも前記送信先アンテナの幾つかについて反復され、
本方法は、更に、
・前記送信元通信エンティティにより受信される時間反転された結合インパルス応答のセットの組合せから前記データ信号の事前等化係数を決定するステップを含む。
【0014】
従って、本方法は、チャネル推定を省くことを可能にする。その結果、第1に、複雑なデジタル処理が不要であり、第2に、送信先通信エンティティが、上記伝播チャネル推定(単数)または推定(複数)を配信するための資源を前もって解放する。また、本方法を実施するためにはパイロットは必要とされない。
【0015】
従って、送信先通信エンティティにおいて、本発明の事前等化方法の複雑度は、インパルス応答の時間反転に限定される。
【0016】
また、本方法は、前記受信されたパルスを送信するサブステップにおいて、前記送信元アンテナのセットにより受信されたパルスのセットに応じて前記参照アンテナを選択することを含む前記参照アンテナは、例えば、前記送信元アンテナの全てにより受信されるパルスの全てのエネルギーに応じて選択される。
【0017】
例えば、このような選択は、信号のエネルギーが最小限に減衰される第2伝播チャネルに選択の優先権を与えることを可能とする。
【0018】
事前等化係数は、送信元通信エンティティの参照アンテナによって受信される時間反転された結合インパルス応答(combined impulse response)のセットの組合せから決定される。
【0019】
従って、本方法は、複数のアンテナ信号を含むデータ信号を発生させるためにバイナリーデータに適用される別のプリ符号化および変調方法に適応することを可能とする。
【0020】
また、本発明は、送信元アンテナのセットを有する送信元通信エンティティについてのデータ信号を事前等化するための装置を提供し、前記送信元通信エンティティは、送信先アンテナのセットを有する送信先通信エンティティに、周波数分割複信を用いて前記信号を送信するように構成される。
本装置は、
・送信先アンテナを介して送信されたパルスを受信するための手段と、
・前記受信されたパルスを、送信元アンテナを介して前記送信先通信エンティティに送信する手段と、
・前記送信先アンテナと前記送信元アンテナのうちの参照アンテナとの間の第1伝播チャネルと、前記送信元アンテナと前記送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルを通じた前記送信されたパルスの連続的通過を表す時間反転された結合インパルス応答を受信する手段と、
・受信された時間反転された結合インパルス応答のセットの組合せに基づいて前記データ信号を事前等化するための係数を決定する手段と、を備え、
前記送信および受信手段は、少なくとも、前記送信先アンテナの幾つかと前記送信元アンテナのうちの幾つかについて反復的に使用される。
【0021】
また、本発明は、送信先アンテナのセットを含む送信先通信エンティティについてのデータ信号を事前等化するための装置を提供し、前記送信先通信エンティティは、送信元アンテナのセットを含む送信元通信エンティティにより、周波数分割複信を用いて、送信された前記データ信号を受信するように構成される。本装置は、
・送信先アンテナを介して前記送信元通信エンティティにパルスを送信するための手段と、
・前記送信先アンテナと前記送信元アンテナのセットのうちの参照アンテナとの間の第1伝播チャネルと、送信元アンテナと前記送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルとを通じた前記パルスの連続的通過を表す結合インパルス応答を受信するための手段と、
・前記結合インパルス応答を時間反転させるための手段と、
・前記時間反転された結合インパルス応答を送信するための手段と、
を備え、
前記送信、受信、および時間反転手段は、少なくとも、前記送信先アンテナの幾つかと前記送信元アンテナのうちの幾つかについて反復的に使用される。
【0022】
また、本発明は、上記のデータ信号事前等化装置のうちの少なくとも一つを含む無線通信システムの通信エンティティを提供する。
【0023】
また、本発明は、本発明の少なくとも二つの通信エンティティを含む無線通信システムを提供する。
【0024】
本装置、通信エンティティおよびシステムは、上述したものと同様の利点を有する。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、単なる例示であって非限定的な例と、添付の図面を参照することにより与えられる、データ信号を事前等化するための本発明の特定の実施の方法と関連の通信エンティティの以下の説明を読めば、より一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の送信先通信エンティティと通信する本発明の送信元通信エンティティのブロック図である。
【図2】データ信号を事前等化する本発明の第1の特定の実施の方法のステップを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1を参照すると、送信元通信エンティティ(source communicating entity)EC1は、図示されていない周波数分割複信(frequency division duplex; FDD)無線通信ネットワークを介して送信先通信エンティティ(destination communicating entity)EC2と通信する機能を有している。
【0028】
例えば、上記無線通信ネットワークは、3GPP−LTE(Long Term Evolution)を含む3GPP(3rd Generation Partnership Project)オーガナイゼーション及びそのエボリューションにより規定されたUMTS(Universal Mobile Communications system)移動体無線通信ネットワークである。
【0029】
予定される通信エンティティは、例えば、移動体端末(mobile terminals)、地上および衛生基地局、アクセスポイントである。基地局から移動体端末へのFDDアップリンク送信は、移動体端末から基地局へのダウンリンク送信専用の周波数帯域とは異なる周波数帯域で達成される。明確のために、本発明は、通信エンティティEC1から通信エンティティEC2へのデータ信号の一方向送信について述べられ、それは、アップリンク方向またはダウンリンク方向の何れであってもよい。また、本発明は双方向送信にも関する。
【0030】
送信元通信エンティティEC1は、M1個の送信元アンテナ(A1,…A1ref,…A1,…A1M1)を備え、ここで、M1は1以上である。送信先通信エンティティは、M2個の送信先アンテナ(A2,…A2,…A2M2)を備え、ここで、M2は1以上である。
【0031】
送信先通信エンティティEC2は、第1周波数帯域で送信元通信エンティティEC1に、1からM2までの間のjについて、アンテナA2のうちの任意の1又は2以上からパルスまたは無線信号を送信する機能を有している。第1伝播チャネルC1(A1←A2)は、通信エンティティEC2のアンテナA2と送信元通信エンティティEC1のアンテナA1との間に規定される。従って、1からM1までの間で変化するiと、1からM2までの間で変化するjについて、M1×M2個の第1伝播チャネルC1(A1←A2)が通信エンティティEC1と通信エンティティEC2との間に規定される。
【0032】
送信元通信エンティティEC1は、第1周波数帯域とは異なる周波数帯域で、1からM1までの間のiについて、アンテナA1のうちの任意の1又は2以上から無線信号またはパルスを送信先通信エンティティEC2に送信する機能を有している。第2伝播チャネルC2(A1→A2)は、通信エンティティEC1から通信エンティティEC2への送信について、通信エンティティEC1のアンテナA1と送信先通信エンティティEC2のアンテナA2との間に規定される。従って、1からM1までの間で変化するiと、1からM2までの間で変化するjについて、M1×M2個の第2伝播チャネルC2(A1→A2)が通信エンティティEC1と通信エンティティEC2との間に規定される。
【0033】
図1は、本発明に関連する送信元通信エンティティ及び送信先通信エンティティのそれらの手段のみを示している。
【0034】
また、送信元通信エンティティ及び送信先通信エンティティは、それらがその動作を制御するために備える手段に接続された図示しない中央制御ユニットを備える。
【0035】
送信元通信エンティティは、更に、M1個のアンテナ信号を含むデータ信号の発生器を備える。このようなアンテナ信号は、変調、符号化、およびM1個のアンテナへの分配の方法を通じてバイナリデータにより規定され、このような方法は、例えば、S. Alamoutiによる論文「“Space Block Coding: a simple transmitter diversity technique for wireless communications”, published in IEEE Journal Selected Areas In Communications, vol.16, pp.1456-1458, October 1998」に記載されている。
【0036】
本送信元通信エンティティは、
・前記送信元アンテナの全てを介して前記通信エンティティEC2により送信されたパルスを受信すると共に、前記受信されたインパルス応答に基づいて参照アンテナを選択するように構成された選択的受信器SEL1と、
・1からM1までの間のiについて、送信元アンテナA1を介して前記選択的受信器SEL1により配信されるインパルス応答を送信するように構成され、送信が、前記通信エンティティEC1から前記通信エンティティEC2への送信専用の周波数帯域の搬送周波数f1へのインパルス応答の移行(transposition)の後に達成される送信器EMET1と、
・前記送信先通信エンティティにより送信された時間反転された結合インパルス応答(time-reversed combined impulse response)を前記参照アンテナを介して受信するように構成された受信器REC1と、
・前記受信器REC1により配信される時間反転された結合インパルス応答を格納するように構成されたメモリMEM1と、
・前記メモリMEM1に格納された伝達関数または時間反転された結合インパルス応答の組合せから事前等化係数(pre-equalization coefficients)を決定するように構成された事前等化器PEGA1を備える。
【0037】
前記送信先通信エンティティは、
・前記通信エンティティEC2から前記通信エンティティEC1への送信専用の周波数帯域からの搬送周波数f2で、1からM2までの間のjについて、送信先アンテナA2からパルスを送信するように構成されたパルス発生器GI2と、
・前記送信元通信エンティティにより送信された結合インパルス応答を、送信先アンテナを介して受信するように構成された受信器REC2と、
・前記受信器REC2により配信された結合インパルス応答を時間反転するように構成されたパルス分析器RTEMP2と、
・前記搬送周波数f2への移行の後に、送信先アンテナから、前記パルス分析器により配信される時間反転された結合インパルス応答を送信するように構成された送信器EMET2とを備える。
【0038】
前記送信元通信エンティティおよび送信先通信エンティティの種々の手段は、当業者に知られるようなアナログまたはデジタル技術で実施されることができる。
【0039】
データ信号を事前等化(pre-equalizing)するための、図2に示される本発明の方法は、ステップE1からE9を含み、或るステップは、送信元通信エンティティEC1において実行され、他のステップは、送信先通信エンティティEC2において実行される。この例では、これらのステップの所産(outcomes)は周波数領域で記述されるが、次の規定の仮定下では、直接的に時間領域に移行されることも可能である。
【0040】
時間パルス(time pulse)は、周波数fの関数である。同様に、インパルス応答は、周波数fの関数であるRI(f)によって与えられる伝達関数の、時間tに応じた関数ri(t)により規定される。インパルス応答の畳み込み演算の結果物(convolution product)は、対応する伝達関数の結果物に対応する。時間反転されたインパルス応答ri(t)はri(−t)で表され、対応する伝達関数は、RI(f)で表され、それは伝達関数RI(f)と共役(conjugate)である。
【0041】
ステップE1からE8は、少なくとも、送信先アンテナの幾つかについて反復される。この反復は、初期化ステップINITと、送信先アンテナA2のインデックスjをインクリメントするステップITによりシンボル化(symbolize)されている。ステップE1からE8の1反復が、1からM2までの間のjについて、送信先アンテナA2について記述されている。
【0042】
ステップE1において、送信先通信エンティティのパルス発生器GI2は、IMP1(f)なる伝達関数の時間パルスimp1(t)を発生させる。このパルスは、通信エンティティEC2から通信エンティティEC1への送信専用の周波数帯域の搬送周波数f2で、アンテナA2を介して送信される。
【0043】
例えば、上記パルスは、例えば、直交周波数分割多重接続(orthogonal frequency division modulation access; OFDMA)、符号分割多重接続(code division multiple access; CDMA)、時間分割多重接続(time division multiple access; TDMA)などの任意の接続のタイプについてシステムが機能する周波数帯域のサイズに逆比例する期間(duration)を有する二乗余弦(raised cosine)である。
【0044】
次のステップE2では、送信元通信エンティティの選択的受信器SEL1は、送信元アンテナの全てのアンテナを介して、通信エンティティEC2により送信されたパルスを受信する。上記選択的受信器は、例えば、種々の送信元アンテナで受信されるエネルギーを比較し、そして最大エネルギーを有するインパルス応答を選択することにより、送信元アンテナの全てから受信されるパルスの全てに基づいて参照アンテナを決定する。或いは、上記選択的受信器は、受信されるインパルス応答が時間的に最も拡散されていないアンテナを選択する。他の代替は、無作為にアンテナを選択する選択的受信器についてのものである。上記選択的受信器は、送信元通信エンティティの送信器EMET1に、参照アンテナを介して受信されたインパルス応答を配信する。H1ref←j(f)は、送信先アンテナA2と参照アンテナA1refとの間の第1伝播チャネルC1(ref←j)を通過するパルスimp(t)の伝達関数である。
【0045】
そして、ステップE3からE8は、少なくとも、送信元アンテナの幾つかについて反復される。これらの反復は、初期化ステップINITと、送信元アンテナA1のインデックスiをインクリメントするステップIT2によりシンボル化されている。従って、ステップE3からE8は、1からM1までの間のiについて、送信元アンテナA1について反復される。
【0046】
ステップE3において、送信器EMET1は、選択的受信器により配信されるパルスを、周波数f2から、通信エンティティEC1から通信エンティティEC2への送信専用の周波数帯域からの搬送周波数f1へ移行(transpose)させる。
【0047】
そして、搬送周波数f1へ移行されて上記受信されたパルスは、アンテナA1を介して送信先通信エンティティへ送信される。
【0048】
ステップE4において、送信先通信エンティティの受信器REC2は、送信先アンテナの全てを介して結合インパルス応答ricomb(t)を受信する。受信器REC2は、ステップE1で送信されたパルスの往復に対応するアンテナA2を介して受信される結合インパルス応答を選択する。第1伝播チャネルおよび第2伝播チャネルを通じた連続的通過(successive passage)を表す伝達関数ricomb(t)は、次式により与えられる。
RIcomb(f)=H2i→j(f)×H1ref←j(f)
ここで、H1ref←j(f)は、第1伝播チャネルC1(A1ref←A2)の伝達関数であり、H2i→j(f)は、第2伝播チャネルC2(A1→A2)の伝達関数である。受信器REC2は、結合インパルス応答を、送信先通信エンティティのパルス分析器RTEMP2に配信する。
【0049】
ステップE5において、パルス分析器RTEMP2は、結合インパルス応答を時間反転させる。この目的を達成するために、上記パルス分析器は、例えば、上記結合インパルス応答と上記インパルス応答の係数を格納し、そして、それらの共役をricomb(t)の係数に対して逆順で分類する。従って、時間反転された結合インパルス応答ricomb(−t)の伝達関数は、次式で与えられる。
RIcomb(f)=[H2i→j(f)]×[H1ref←j(f)]
【0050】
或いは、上記パルス分析器は、アナログスプリッター(analog splitter)を用いて上記インパルス応答ricomb(t)を分析し、そして、それから上記結合インパルス応答の離散モデル(discrete model)を推定する。そして、上記分析器は、上記分散モデルを用いて時間反転を実行する。
【0051】
そして、上記パルス分析器は、上記インパルス応答ricomb(−t)を、送信先通信エンティティの送信器EMET2に配信する。
【0052】
ステップE6において、搬送周波数f2への移行に続いて、送信器EMET2は、アンテナA2を介して、上記時間反転された結合インパルス応答を送信元通信エンティティに送信する。
【0053】
ステップE7において、送信元通信エンティティは、送信元アンテナの全てを介して、送信先通信エンティティにより送信された上記時間反転された結合インパルス応答を受信する。送信元通信エンティティの受信器REC1は、参照アンテナA1refを介して受信された上記時間反転された結合インパルス応答を選択する。
【0054】
第1伝播チャネルC1(ref←j)を通過した後の上記インパルス応答ricomb(−t)の伝達関数Hij(f)は、次式により与えられる。
ij(f)=H1ref←j(f)×[H2i→j(f)]×[H1ref←j(f)]
【0055】
そして、受信器REC1は、送信元通信エンティティのメモリMEM1に、伝達関数Hij(f)の係数または対応のインパルス応答riij(t)の係数を配信する。
【0056】
ステップE1からE8は、送信先アンテナの幾つかについて反復され、そして、ステップE3からE8は、送信元アンテナの幾つかについて反復され、送信元通信エンティティのメモリMEM1は、格納された伝達関数のセットまたはインパルス応答を含む。M1個の送信先アンテナとM2個の送信元アンテナに関して達成される反復について、メモリMEM1は、1からM1まで変化するiと、1からM2まで変化するjとについての伝達関数Hij(f)を含む。
【0057】
ステップE9において、送信元通信エンティティの事前等化器PEGA1は、1からM1まで変化するiについてのM1個の事前等化フィルターFI(f)のセットFIを形成するために伝達関数Hij(f)を結合させることにより、M1個のアンテナ信号S(t),…,S(t),…,SM1(t)を含むデータ信号S(t)の事前等化係数を決定する。従って、アンテナA1を介して送信されたアンテナ信号S(t)は、次式により規定される対応のフィルターFI(f)を適用することにより成形(shaped)される。
【0058】
【数1】

【0059】
1からM2までのjについての重み係数Cは、データ信号を生成するために使用される本方法に応じて決定される設定可能(configurable)なパラメータである。また、これらのパラメータは、例えば、時間経過にともなう伝播チャネル状態の変化(evolution)に応じて、送信先アンテナをオフまたはオンさせるときに更新される。
【0060】
ステップE9の後、データ信号は、セットFIの対応のフィルターでアンテナ信号のそれぞれをフィルタリングすることにより事前等化され、そして、通信エンティティEC1により通信エンティティEC2に送信される。
【0061】
或る特定の実施において、ステップE3からE8は、送信元アンテナのセットの中からのただ一つの送信元アンテナA1についてのみ実行される。この実施は、等化されるべきデータ信号がアンテナ信号S(t)である状況に対応する。送信元通信エンティティのメモリMEM1は、1からM2までのjについて、M2個の伝達関数Hij(f)を含む。事前等化器PEGA1は、単一の事前等化フィルターFI(f)を決定する。従って、アンテナA1を介して送信されるアンテナ信号S(t)は、次式で与えられる対応のフィルタFI(f)を適用することにより成形(shaped)される。
【0062】
【数2】

【0063】
或る特定の実施において、送信元アンテナのセットは、ただ一つの送信元アンテナA2を含む。ステップE1からE8は、送信先通信エンティティのアンテナA2を介して単一のパルスを送信するだけのために、連続して実行される。ステップE3は、送信元通信エンティティの少なくとも一つの部分について反復される。
【0064】
ステップE3からE8が全ての送信元アンテナについて反復される説明的な事例において、ステップE9では、事前等化器は、1からM1までのiについて、M1個の伝達関数Hi1−(f)に応じて事前等化係数を決定する。データ信号に適用されるM1個の事前等化フィルターFI(f)のセットFIは、次式により与えられる。
FI=[FI,…,FI(f),…,FIM1(f)]
ここで、FI(f)=Hi1(f)である。
【0065】
或る特定の実施において、上記送信元アンテナのセットは、ただ一つの送信元アンテナA1を含む。そして、データ信号は、アンテナA1のみにより送信されるただ一つのアンテナ信号S(t)を含み、参照アンテナは送信元アンテナA1である。そして、ステップE3からE8は、送信元通信エンティティのこの単一のアンテナA1についてのみ達成される。
【0066】
説明的事例として、ステップE1からE8が全ての送信先アンテナについて反復される場合、ステップE9において、1からM2まで変化するjについてのM2個の伝達関数H1jは利用可能である。事前等化器は、次数のように、M2個の係数Cに基づいて、データ信号に適用される単一の事前等化フィルターFI(f)を決定する。
【0067】
【数3】

【0068】
或る特定の実施において、上記送信元アンテナのセットは、ただ一つの送信元アンテナA1を含み、上記送信先アンテナのセットは、ただ一つの送信先アンテナA2を含む。上記データ信号は、単一のアンテナA1を介して送信されるただ一つのアンテナ信号S(t)を含み、ソースエンティティの参照アンテナはアンテナA1である。ステップE9において、伝達関数H11は、次式によって与えられる単一の事前等化フィルターFI(f)を決定する。
FI(f)=H11(f)
【0069】
或る特定の実施において、送信元通信エンティティがM1個の送信元アンテナを有し、送信先通信エンティティがM2個の送信先アンテナを有し、M1個のアンテナ信号を含むデータ信号の事前等化係数を決定するステップE9は、ステップE3からE8の中間反復を伴うことなく、ステップE1からE8の反復の後に実行される。そして、ステップE1からE9の反復は、1からM1まで変化するiと、1からM2まで変化するjについて、全ての送信元アンテナ/送信先アンテナ対(A1,A2)について達成される。
【0070】
上述した本発明の実施において、反復ループ(iteration loops)は、送信先アンテナの幾つかと、送信元アンテナの幾つかについて達成される。アンテナの番号と選択は、本方法の設定可能なパラメータである。それらは、例えば、アンテナの特性に応じて決定される。
【0071】
また、本方法は、双方向伝送について使用されることも可能である。この特定の実施において、本方法は、パルスおよびアンテナ信号が通信エンティティにより同時に送信されないようにして、アップリンク方向およびダウンリンク方向において使用される。これは、1又は2以上の伝播チャネルを通じての通過を表すインパルス応答の処理を確保するためである。
【0072】
ここに述べた本方法は、データ信号を事前等化するための送信元通信エンティティにおいて使用される装置を提供する。従って、本発明は、また、本発明を実施するように構成されたコンピュータプログラム、とりわけ情報記録媒体上または情報記録媒体内に格納されたコンピュータプログラムを提供する。このプログラムは、任意のプログラミング言語を使用することができ、ソースコード、オブジェクトコード、または、部分的にコンパイルされた形式のような、ソースコードとオブジェクトコードとの中間のコードの形式、または、送信元通信エンティティにおいて実行される本発明の方法のステップのコードを実行するのに適した任意の他の形式をとることができる。
【0073】
また、ここに述べた本発明は、データ信号を事前等化するために送信先通信エンティティにおいて使用される装置を提供する。従って、本発明は、また、本発明を実施するように構成されたコンピュータプログラム、とりわけ情報記録媒体上または情報記録媒体内に格納されたコンピュータプログラムを提供する。このプログラムは、任意のプログラミング言語を使用することができ、ソースコード、オブジェクトコード、または、部分的にコンパイルされた形式のような、ソースコードとオブジェクトコードとの中間のコードの形式、または、送信先通信エンティティにおいて実行される本発明の方法のステップのコードを実行するのに適した任意の他の形式をとることができる。
【符号の説明】
【0074】
EC1 送信元通信エンティティ
EC2 送信先通信エンティティ
EMET1,EMET2 送信器
GI2 パルス発生器
MEM1 メモリ
REC1,REC2 受信器
RTEMP2 パルス分析器
SEL1 選択的受信器
PEGA1 事前等化器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信先アンテナのセット(A2,…,A2M2)を有する送信先通信エンティティ(EC2)に送信元アンテナのセット(A1,…,A1M1)を有する送信元通信エンティティ(EC1)により送信される周波数分割複信(FDD)データ信号を事前等化する方法であって、本方法は、
・前記送信元通信エンティティに、送信先アンテナ(A2)を介してパルスを送信するステップ(E1)と、
・前記パルスの反復処理を実施するステップと、を含み、
前記パルスの反復処理を実施するステップは、
・送信元アンテナ(A1)が、前記送信元アンテナのセットの中の参照アンテナにより受信された前記パルスを前記送信先通信エンティティに送信するサブステップ(E3)と、
・前記送信先通信エンティティが、前記送信先アンテナと前記参照アンテナとの間の第1伝播チャネルと、前記送信元アンテナと前記送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルとを通じた前記パルスの連続的通過を表す結合インパルス応答を時間反転させるサブステップ(E5)と、
・送信先アンテナが、前記送信元通信エンティティに前記時間反転された結合インパルス応答を送信するサブステップ(E6)と、を含み、
・前記パルスの反復処理のステップが、少なくとも前記送信元アンテナの幾つかについて反復され、
・送信先アンテナによるパルスの送信および前記パルスの反復処理のステップが、少なくとも前記送信先アンテナの幾つかについて反復され、
本方法は、更に、
・前記送信元通信エンティティにより受信される時間反転された結合インパルス応答のセットの組合せから前記データ信号の事前等化係数を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記受信されたパルスを送信するサブステップは、事前に、前記送信元アンテナのセットにより受信されるパルスのセットに応じて前記参照アンテナを選択するステップ(E2)を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記参照アンテナは、前記送信元アンテナのセットにより受信される全ての前記パルスのエネルギーに応じて選択される請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記データ信号事前等化係数は、前記送信元通信エンティティの参照アンテナにより受信される時間反転された結合インパルス応答のセットの組合せから決定される請求項1ないし3の何れか1項記載の方法。
【請求項5】
送信元アンテナのセット(A1,…,A1M1)を有する送信元通信エンティティ(EC1)についてのデータ信号を事前等化するための装置であって、前記送信元通信エンティティは、送信先アンテナのセット(A2,…,A2M2)を有する送信先通信エンティティ(EC2)に、周波数分割複信(FDD)を用いて前記信号を送信するように構成され、本装置は、
・送信先アンテナ(A2)により送信されたパルスを受信するための手段(SEL1)と、
・前記受信されたパルスを、送信元アンテナ(A1)を介して前記送信先通信エンティティに送信するための手段(EMET1)と、
・前記送信先アンテナと前記送信元アンテナのうちの参照アンテナ(A1ref)との間の第1伝播チャネルと、前記送信元アンテナ(A1)と前記送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルを通じた前記送信されたパルスの連続的通過を表す時間反転された結合インパルス応答を受信するための手段(REC1)と、
・受信された時間反転された結合インパルス応答のセットの組合せに基づいて前記データ信号を事前等化するための係数を決定するための手段(PEGA1)と、
を備え、
前記送信および受信手段は、少なくとも、前記送信先アンテナの幾つかと前記送信元アンテナのうちの幾つかについて反復的に使用されることを特徴とする装置。
【請求項6】
送信先アンテナのセット(A2,…,A2M2)を含む送信先通信エンティティ(EC2)についてのデータ信号を事前等化するための装置であって、前記送信先通信エンティティは、送信元アンテナのセット(A1,…,A1M1)を含む送信元通信エンティティにより、周波数分割複信(FDD)を用いて、送信された前記データ信号を受信するように構成さ、本装置は、
・送信先アンテナ(A2)により前記送信元通信エンティティにパルスを送信するための手段(GI2)と、
・前記送信先アンテナと前記送信元アンテナのセットのうちの参照アンテナ(A1ref)との間の第1伝播チャネルと、送信元アンテナ(A1)と前記送信先アンテナとの間の第2伝播チャネルとを通じた前記パルスの連続的通過を表す結合インパルス応答を受信するための手段(REC2)と、
・前記結合インパルス応答を時間反転させるための手段(RTEMP2)と、
・前記時間反転された結合インパルス応答を送信するための手段(EMET2)と、を備え、
前記送信、受信、および時間反転手段は、少なくとも、前記送信先アンテナの幾つかと前記送信元アンテナのうちの幾つかについて反復的に導入されることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項5または6の何れか1項記載の装置を備えた無線通信システムの通信エンティティ。
【請求項8】
請求項7記載の少なくとも二つの通信エンティティを備えた無線通信システム。
【請求項9】
送信元通信エンティティのためのコンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムが前記送信元通信エンティティにより実行されたときに、該送信元通信エンティティにより実行される請求項1ないし4の何れか1項記載の方法のステップの命令の前記エンティティによる実行を制御するためのソフトウェア命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項10】
送信先通信エンティティのためのコンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムが前記送信先通信エンティティにより実行されたときに、該送信先通信エンティティにより実行される請求項1ないし4の何れか1項記載の方法のステップの命令の前記エンティティによる実行を制御するためのソフトウェア命令を含むコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−507442(P2011−507442A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538875(P2010−538875)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/FR2008/052377
【国際公開番号】WO2009/087328
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(591034154)フランス・テレコム (290)
【Fターム(参考)】