説明

時間変化する発色手品の演出方法

【課題】従来の、pH指示薬を用いた教育材料について、これらは単純にpH指示薬溶液と、酸やアルカリ性の水溶液を混合し、変色を行わせているため、単に化学変化を見せているということは明らかで、観衆の驚きが不足するという欠点があり、起きている現象に不思議さを感じさせる手品の要素を持った教育材料を与えることが課題であった。
【解決手段】チオ硫酸塩と酸化剤とpH指示薬を混合し、チオ硫酸塩又は酸化剤、又はこれらの反応を触媒する物質の空間的な濃度分布を与えることにより、例えば虹の7色(実施例1から6)や7色の銀河(実施例7)など、空間的に変化する色彩を単一溶液内に次第に生じさせ、更に時間的に変化していくような、手品の要素を持った教育材料を提供する。また、予め設計して制御可能な、色彩の変化が始まるまでの準備時間をとることができ、この効果によりタネが判りにくい手品を提供することができる。(実施例9)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゆっくりと進行してアルカリ性の物質を発生させる化学反応現象を利用して、色の変化を楽しむ手品や演示物の演出方法に関するものである。
【0002】
また、この発明は、そうした色の変化を楽しむ手品や演示物の演出方法を利用した、手品、学習用教材、インテリア、ディスプレイ、玩具、アクセサリ(以下手品、学習用教材、インテリア、ディスプレイ、玩具、アクセサリの総称を「インテリア等」という。)に関するものである。
【0003】
また、この発明は、水に含まれる銅イオンの量を簡易に定量的に測定する手法を応用したインテリア等に関連するものである。
【特許文献1】特願2004− 61319
【特許文献2】特願2004−319243
【特許文献3】特願2005− 12252
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先日2004年12月15日付で発表された小・中学生を対象とした「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS2003)で、中二理科が前回の四位から六位に低下、平均点も中二数学と小四の算数・理科で前回よりダウンするなど、小・中学生の基礎学力低下が明らかになった。
2004年6月10日に東京都によって発表された、中学2年生を対象とした「児童・生徒の学力向上を図るための調査」でも、国語、数学、英語、社会に比べ、理科が著しく低い結果であり、このことを更に裏付ける結果となった。また、高校一年生の読解力などの低下が明らかになった、経済協力開発機構(OECD)の学力調査(PISA)に続き、児童生徒の学力低下の傾向が示されるものとなった。
「数学・理科に自信があるか」とのアンケート調査でも「ある」と答えた中学生の割合が最低となり、「数学、理科嫌い」にも一層、拍車がかかったことを示している。
これを受けて、文部科学相は、「ゆとり教育」を反省し、新学習指導要領の全体的な見直しを進める考えを表明し、文科省は、全国学力調査の導入を検討するプロジェクトチームを設置し、活動を開始している。
【0005】
学力低下や理科離れ問題の解決に向け、日本数学会や日本化学会など理数系学会でつくる「理数系学会教育問題連絡会」は12月27日、理数科目の授業時間を増やすことなどを盛り込んだ改革案を中央教育審議会に提出した。この中で、「諸外国は理数教科を強化しようとしているのに、日本は学習内容を減少させている。日本の理数教育に壊滅的な打撃を与える恐れがある」と訴えている。
【0006】
学業の過程にある児童・生徒に、何かを教える際に最も重要なのは、その物事に興味を持たせることができるかであると本発明者らは考えている。理解できる内容を適切な時期に教えるということも重要ではあるが、特に家庭で何かの折りに触れて教える内容については、むしろ今は理解できない内容であっても、その機会があれば何でも教えるべきであると考えている。
子どもたちの記憶力は大人よりも優れており、過去に触れた情報が将来別の形をとって入ってきても、過去に入った情報と対比させ、教えた我々とはまた別の物の見方も取り入れて理解できるし、別の情報との思いもよらない関連を持って理解する可能性もあり、この過去に与えられた情報は、将来のその時点において新たな価値を持つ可能性があると考えている。
【0007】
新しい物事を理解するということは、要するに現在までに理解している事項と結びつけて説明できるようになるということである。現在理解できていない情報は、孤立した「事実の認識」だけであるが、将来その情報は、周囲の理解できている情報が増加するとともに理解できるようになってくる。
ここで重要なのは、その情報が子どもたちにとって面白いか、興味が持てる内容なのかである。興味の持てない内容であれば、そのまま忘れ去られて、理解する機会が訪れてもその情報とは連結しないが、面白かった内容、興味のある内容については、いつまでも覚えているし、積極的に関連を調べようとする行動が見られるのである。
我々大人も、そうした過去の幼少であった頃の面白い体験、不思議な現象に出会った体験、興味の持てる内容の話が多分に影響し、その後の情報収集、学習の分野を決定し、さらには将来の道を決めるとき、また趣味の世界に深く入り込んでいく時の方向付けにも影響していることと思う。
そして、理科嫌いへの対策として最も有効なのは、自然の世界の巧妙な仕組み、不思議な現象、「物質の美しい変化を見せる」化学の現象などを見せ、これに興味を持たせることであると思う。
特に家庭内での教育については、理解できるかではなく、その内容に興味を持てる年齢であるかが重要なだけで、ちょっとした折りに触れ、どんな内容でも機会さえあれば伝えていくようにしたいものである。
発明者らが趣味として取り組んでいる、化学等を応用した「ちょっとした面白いものの製作」も、一つにはこうした学業の過程にある児童・生徒にとって、さまざまな物事、中でも自然の現象への興味につながっていくようなものになることを願って行っている。
【0008】
本考案は、特に色素を化学の分野において応用し、そうした面白い体験、不思議な現象を演出し、学業の過程にある児童・生徒に対して理科の分野への興味を引き出させ、大人も過去の教育での場面を思い出して面白く演出できるような、教育材料になるものを提供するためになされたものである。
特に、その適用分野としては、色素、酸・アルカリの性質、酸化還元による物質の変化、といったものであり、こういった分野の分析化学技術を背景技術とする。
【0009】
従来の、pHによって色の変わる物質(以下略称をpH指示薬という)を用いた教育材料について、これらは理科の実験などで演示する際は、単純に指示薬溶液と、酸性又はアルカリ性の水溶液を混合し、変色を行わせているため、単に化学変化を見せているということは明らかで、演示を行った時の観衆の驚きが不足するという欠点があった。
単純に化学変化、化学反応を見せているようには感じさせず、一種の手品のように理解しがたい現象を見せ、その現象の起きている原因に興味を持たせ、これを教えるような教育的な要素を持った玩具又は教育用材料を与えることが課題であった。
【0010】
こうした教育材料でもあり、また手品としても利用できるものとして、発明者らは先に特願2004−61319に記載されるように、細長い管状容器の内部に虹の7色を生じさせ、この発色状態を長く保つように工夫したインテリア等を考案してきた。
【0011】
このインテリア等の解決課題は、この虹の7色を発生させる過程において、溶液を滴下するなど、人為的に操作を行った結果この7色が発生したことが明らかで、手品として見た場合には、不思議さにやや欠ける部分がある。また、発生した7色の虹は長くその状態を保つが、長い時間振り続けるなどして十分混合しない限り、長くその状態を保ち、これが良い面の特徴なのであるが、逆に色の時間変化の面白さ、動的変化の不思議さにやや欠け、手品としての演出の面白さに欠ける面があるということが挙げられる。
【0012】
また、発明者らは先に特願2004−319243に記載されるように、容器内の溶液が赤→橙→黄→緑→青→藍→紫と虹の7色に動的に変化するインテリア等を考案してきた。この変色速度は溶液の溶質濃度を変えたり、反応を触媒する物質の濃度を調整することで変えられることを述べ、またこの反応速度の変化を利用して、逆にこの触媒物質の供試体中の濃度を定量的に測定することができることを説明した。
このインテリア等の解決課題は、時間と共に溶液全体、あるいは溶液のブロック全体が順次7色に変化していくことに力点がおかれ、逆に特願2004−61319に記載されるような、一つの容器の中に、連続したグラデーションを持った虹の7色を作り出すものではないことが挙げられる。
【0013】
そこで、本発明では、注いだ溶液、あるいは静置した溶液からさまざまな空間的なグラデーションを持った鮮やかな色が時間経過と共に出てきたり、連続したグラデーションを持った虹の7色が時間経過と共に発生して、この色の様子が時間と共に次々と変化していくような、一種の不思議を感じさせるような手品や演示物の演出方法と、これを適用したインテリア等を与えることを課題とし、本考案での解決を行っている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウムなどのチオ硫酸塩と、酸化剤としての過酸化水素や過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸アンモニウムなどの過ヨウ素酸塩を空間的な濃度分布が生じるように混合し、チオ硫酸塩が酸化剤によって酸化されることによって生じる水酸イオン(OH−)の濃度変化を空間的かつ時間的に生じせしめ、これと一緒に混合したpH指示薬の発色の空間的かつ時間的変化を視覚的に楽しめるようにしたものである。
【0015】
[請求項1]は[0014]に記載される原理によって、pH指示薬の発色の空間的かつ時間的変化を視覚的に利用して、手品や演示物の演出を行う方法を規定したものである。水溶液のpHで色の変わる指示薬は、一般に酸性でもアルカリ性でも色が鮮やかで華やかに発色するものが多く、各種のpH指示薬を混合することで、さまざまな発色を演出する鮮やかで美しい手品や演示物の演出を行うことができ、これを応用したインテリア等を製作することが可能である。
なお、pHによって色の変わる物質は、一般的にpH指示薬と呼ばれるものでなくとも、例えば食用赤色104号(フロキシン)や105号(ローズベンガル)、アントシアニンなどのように、その水溶液のpHによって色を変える物質であれば適用でき、本発明で記述するpH指示薬とは、一般的に言われるpH指示薬よりも範囲の広いものを適用することができる。例えば食用赤色104号の薄い水溶液は、およそpH3以下で無色、pH3以上で紅色の発色を示し、これらはpH指示薬とは一般に呼ばれないが、本発明ではpHによって色の変わる物質([請求項1]に示すように、ここではその略称をpH指示薬と呼ぶ)として適用することができる。
ここで、pH指示薬の混合を特定のものにすることにより、水溶液のpH変化によって虹の7色が出てくるようなものを作り出すことができ、これによれば、容器の中に虹の7色がグラデーションを持って連続した状態で現れ、これが更に時間的に変化していく様子を演出することができる。この方法は[請求項11]の説明として後述する。
また、チオ硫酸塩が酸化剤によって酸化されることによって水酸イオン(OH−)が生じる反応や、これが銅塩や鉄塩によって触媒促進される反応の説明は、特願2004−319243の明細書[0040]から[0054]にかけて記載したが、本明細書においては、その濃度分布による反応速度の違いに関する説明を加えて、[0017]以降、特に[0026]以降に詳述する。
【0016】
[0014]で記載したチオ硫酸塩が酸化剤によって酸化されて水酸イオン(OH−)を生じる反応は、2価又は1価の銅塩、ないしは3価又は2価の鉄塩によって触媒促進される。
チオ硫酸塩と酸化剤を混合した溶液中に、この触媒物質の濃度分布をつけて混合すると、触媒濃度の高い部分では水酸イオン(OH−)の発生が速やかに行われ、触媒濃度の低い部分では緩慢に行われるため、[0014]及び[0015]で説明したものと同様に、チオ硫酸塩が酸化剤によって酸化されることによって生じる水酸イオン(OH−)の濃度変化を空間的かつ時間的に生じせしめ、これと一緒に混合したpH指示薬の発色の空間的かつ時間的変化を視覚的に楽しめる。この水酸イオン(OH−)の発生する速度は、酸化剤の濃度とチオ硫酸塩の濃度の積に比例する。
[請求項2]はこのようにして、[請求項1]と同様の効果を得て、pH指示薬の発色の空間的かつ時間的変化を視覚的に楽しめるようにした、鮮やかで美しい手品や演示物の演出方法に関するものである。
【0017】
[請求項1]で記載したチオ硫酸塩と酸化剤との反応により、水酸イオン(OH−)が発生する反応について、まず酸化剤として過酸化水素が適用された場合を以下に述べる。
チオ硫酸塩は、酸化されると四チオン酸塩を生じるが、このとき水素イオンを消費し、溶液がアルカリ性になっていく。この酸化反応は、特に酸化を触媒する物質がない場合、非常にゆっくりしたものであり、数秒から数十秒の時間オーダーでそのpH変化がpH指示薬の変色として観測でき、反応が平衡状態になるまでには数十分の時間を要するものである。
この化学反応は次のように記述される。
2・S2O3(2−) + H2O2 + 2・H+ = S4O6(2−) + 2・H2O
ここで、S2O3(2−)はチオ硫酸イオン、H2O2は過酸化水素、H+は水素イオン、S4O6(2−)は四チオン酸イオン、H2Oは水を意味するものとし、2・の記号は当該イオンが2等量、反応に関わっていることを示し、=の記号は反応の進行を示す右向き矢印記号の代わりに用いた記号で、左辺から右辺へ反応が進行することを表すものとする。
この式が意味するところは、1分子の過酸化水素により2個のチオ硫酸イオンが酸化され、その際2個の水素イオンを消費し、1個の四チオン酸イオンと2分子の水が生じるということで、この水素イオンの消費により、ゆっくりと酸性の溶液は酸性度が下がり、また、中性やアルカリ性の水溶液でもこの反応は進行し、水素イオンの消費により水酸イオンが増加して溶液のアルカリ性が強くなっていく。
【0018】
この反応速度は、チオ硫酸イオンの濃度及び酸化剤である過酸化水素の濃度に比例し、これらの濃度が高い状態である部分は反応が早く進行し、水酸イオン(OH−)が速やかに発生する。これらの濃度が低い状態の部分は反応進行が遅く、溶液中にこれらの濃度勾配を持たせることができれば、空間的にpHが変化し、かつそのpH分布が時間と共に変わっていく状況を作り出すことができる。
【0019】
さて、この反応を起こす混合溶液中にpH指示薬を混合しておくと、そのpH指示薬の色は溶液のpHに応じた色分布を見せ、こうした空間的な色分布が、時間と共に変化していく。これを手品や演示物の演出に利用するものである。
なお、pH指示薬はその変色点よりも酸性側では、酸濃度によらず色は変化しないため、予め適用するpH指示薬をその変色点よりも少し強めの酸性側にしておくと、反応が開始されてから変色が開始されるまでに時間猶予を持たせることができる。その時間猶予を演出準備が完了してから、公衆に演出するまでに、そのタネが判らないようにする準備時間として用いることができる。
[請求項12]の主旨は、こうした酸を加える方法により、pH指示薬の酸性側の発色から始め、変色点を通過して色が変わり始めるまでの時間を、加えた酸の量によって制御可能にすることにある。この酸の濃度を高くするとこの時間猶予は長くなり、酸濃度がそのpH指示薬の変色点に近い程度に薄い場合にはこの時間猶予は短くなり、このような酸濃度を調整する方法によって、そのタネが判らないようにするための準備時間の制御が可能である。
【0020】
次に、[請求項1]で記載したチオ硫酸塩と酸化剤との反応に関して、酸化剤として過ヨウ素酸塩が適用された場合を以下に記載する。
これは、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸アンモニウムなどの過ヨウ素酸塩と、チオ硫酸ナトリウムやチオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウムなどのチオ硫酸塩との反応により、チオ硫酸塩が酸化されて四チオン酸塩を生じ、このとき水素イオンを消費し、溶液がアルカリ性になる反応であり、現象としては同様にチオ硫酸塩の酸化反応に基づいている。
この反応は比較的高価な過ヨウ素酸塩を用いる必要があり、これは短所であるが、一方長所としては反応の速度が比較的速く、アルカリ性側の色が出やすいということである。
【0021】
この化学反応は次のように記述される。
2・S2O3(2−) + IO4− + 2・H+ = S4O6(2−) + IO3− + H2O
ここで、S2O3(2−)はチオ硫酸イオン、IO4−は過ヨウ素酸イオン、H+は水素イオン、S4O6(2−)は四チオン酸イオン、IO3−はヨウ素酸イオン、H2Oは水を意味するものとし、2・の記号は当該イオンが2等量、反応に関わっていることを示し、=の記号は反応の進行を示す右向き矢印記号の代わりに用いた記号で、左辺から右辺へ反応が進行することを表すものとする。
この式が意味するところは、1分子の過ヨウ素酸イオンにより2個のチオ硫酸イオンが酸化され、その際2個の水素イオンを消費し、1個の四チオン酸イオンと1個のヨウ素酸イオンと1分子の水が生じるということで、この水素イオンの消費により、ゆっくりと酸性の溶液は酸性度が下がり、また、中性やアルカリ性の水溶液でもこの反応は進行し、水素イオンの消費により水酸イオンが増加して溶液のアルカリ性が強くなっていく。
【0022】
[0014]項から[0021]項の説明において、pH指示薬として、[請求項11]の(1)から(7)に示すように、メチルレッド、ブロムチモールブルー、フェノールフタレイン、クレゾールフタレイン等を混合して得られるpH指示薬を適用した場合、そのpHにより虹の7色を出現させることができる。
メチルレッドはpH5付近に変色点を持ち、これより酸性側で紅、pH5付近で橙、これよりもアルカリ側で黄を示し、ブロムチモールブルーはpH7付近に変色点を持ち、これより酸性側で黄、pH7付近で緑、これよりアルカリ側で青となり、フェノールフタレイン又はクレゾールフタレインはpH9付近に変色点を持ち、これより酸性側で無色、pH9付近で薄紅、これよりもアルカリ側で紅を示す。
従って、これらのpH指示薬を適切な割合で混合したpH指示薬はpH5よりも酸性側で赤、pH5付近で橙、pH6付近で黄、pH7付近で緑、pH8付近で青、pH9付近で藍、pH9よりもアルカリ側で紫の色変化を示す。
更にこれにpH9付近に変色点を持ち、これより酸性側で黄、pH9付近で緑、これよりもアルカリ側で青を示すチモールブルーを少し加えると更にpH9付近の藍色が良く出るようになる。
ブロムチモールブルーの代わりに、同様な変色域と変色特性を持つブロムキシレノールブルーを用いても同様の効果を得ることができる。また、チモールブルーはブロムチモールブルーの変色域に近い変色域を持ち、同様な変色特性を持っているため、同様にブロムチモールブルーの代用として用いることができる。
【0023】
[請求項11]の(3)ないし(4)の混合によるpH指示薬の利点は、各虹の7色の発色が美しいことと、各pHと色との対応が分かり易いことである。
溶液のpHとおよその色の関係は、
pH4以下 :赤
pH5前後 :橙
pH6前後 :黄
pH7前後 :緑
pH8前後 :青
pH9前後 :藍
pH10以上:紫
となる。
上記の長所がある反面、欠点は本発明の原理となっている水酸イオン(OH−)の発生が特にアルカリ側で遅く、pH10以上で生じる紫が発色するまでには百秒近い長い時間を要する点である。
すなわち、反応による水酸イオンは時間とともに単純に増加するが、pHの指標はlogであり、pH9の水酸イオン濃度はpH8の水酸イオン濃度の10倍であり、pH8の青からpH9の藍に移る時間は、pH7の緑からpH8の青に移るのに要する時間の約10倍を要するということである。pH10付近の紫がきれいに発色するまでには、さらに藍が発色するまでの10倍の時間を要することになる。
なお、酸性の赤から橙に移行するまでの時間は、酸性度を調整して制御可能であり、ある時間は赤のままであり、突然橙に移行し、次々に黄、緑、青、藍、紫と色が移行する様子を面白くするために必要なものである。
また、前述[0019]のとおり、反応が開始されてから変色が開始されるまでに時間猶予を持たせることにより、手品として公衆に演出するまでに、そのタネが判らないようにする準備時間として用いることができる。
【0024】
[請求項11]の(1)ないし(2)の混合によるpH指示薬の利点は、低いアルカリ域で青、藍、紫の発色を得ることができ、紫までの虹の7色の発色を比較的スムーズに得ることができる点である。クレゾールレッドの変色点はおよそpH8にあり、これより酸性側で黄色、アルカリ性側で紅色の発色を与える。[0022]項の説明と考え合わせ、クレゾールレッドの発色をブロムチモールブルーの発色と重ねると、pH8付近から青に紅の入り始めた藍や紫を与えうることがわかる。従ってこの(1)、(2)による発色は、クレゾールレッドの変色により、pH8程度の比較的低いアルカリ性で青色に紅色を加えた藍色系の色を作りだし、もう少しpHの上がったpH8.5付近からは紫色を与える。各虹の7色の発色の鮮やかさは、藍が若干犠牲になっているが、虹の7色としては美しく、(3)や(4)と比較しなければ、それほど気になるものではない。
この(1)ないし(2)の混合による、溶液のpHとおよその色の関係は、
pH4以下 :赤
pH5前後 :橙
pH6前後 :黄
pH7前後 :緑
pH7.5前後:青
pH8前後 :藍
pH8.5以上:紫
となる。
なお、[請求項11]のような混合指示薬を用いなくても、単独で適用した場合には、その変色点より酸性側で演出を開始すれば、酸側の発色から次第にアルカリ側の発色が現れ、これが次第に拡大していく様子を見ることができ、その変色点付近では微妙な色の移り変わりのグラデーションが見られて美しい。また、酸側で無色から、アルカリ側で黄、紅、青などの発色を示すm−ニトロフェノール、フェノールフタレイン、クレゾールフタレイン、食用赤色104号、105号、チモールフタレインなどの物質を用いれば、無色の溶液から、次第に美しい着色を示す溶液ができて、これが拡大してくる様子を見ることができる。
【0025】
なお、pH指示薬溶液に酸を加えておく場合、この酸とチオ硫酸塩を混合して長時間置くと、チオ硫酸塩が酸で分解して硫黄と亜硫酸水素塩、又は硫黄と亜硫酸塩に変化するため、酸は酸化剤である過酸化水素側あるいは過ヨウ素酸塩側に加える方が望ましく、演出の過程で酸とチオ硫酸塩を混合する場合には、混合状態で長くおかず、混合後すぐに酸化剤を加えた演出に移行することが望ましい。
過酸化水素は弱酸性においてその自分解に対する安定性が増すため、過酸化水素側に酸を加えておくことは、その保存安定性を増すためにも重要なことである。
オキシドールとして市販されている3%程度の過酸化水素水も、その安定性確保のため、リン酸などの酸が微量加えられているのが一般的である。
【0026】
次に[請求項2]に関するチオ硫酸塩の酸化剤溶液の、2価又は1価の銅塩、ないしは3価又は2価の鉄塩による酸化反応の反応促進触媒作用について、以下に説明する。
なお、銅塩あるいは鉄塩は具体的な化合物名で記述するならば、以下のようなものを挙げることができる。
銅塩:硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、塩化アンモニウム銅、臭化銅、ヨウ化銅、ヨウ素酸銅、ぎ酸銅、酢酸銅、リン酸銅、ピロリン酸銅、炭酸銅、クエン酸銅、フタル酸銅、酒石酸銅
鉄塩:硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄、塩化アンモニウム鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、ヨウ素酸鉄、ぎ酸鉄、酢酸鉄、リン酸鉄、ピロリン酸鉄、クエン酸鉄、フタル酸鉄、酒石酸鉄
【0027】
チオ硫酸塩水溶液に過酸化水素や過ヨウ素酸塩を混合すると、前述のとおり溶液がゆっくりアルカリ性になっていくが、この反応は数ppm程度以上の微量な銅イオンあるいは鉄イオンによって促進され、特に銅イオンが良好な結果を示す。
但し、鉄イオンは溶液が中性になるまでの特性は銅イオンに比べて大きな違いはないが、中性を過ぎてアルカリ性に向かうところでは速度が遅いため、銅イオンに比べると特性は劣っている。
【0028】
これは、銅イオンあるいは鉄イオンが、酸化剤によりチオ硫酸塩が酸化される反応を、酸化性を持った2価の銅イオン(Cu2+)あるいは三価の鉄イオン(Fe3+)が触媒となって促進するからである。これを銅イオンを例にとって説明する。
水溶液中で、銅イオンは2価の銅イオン(Cu2+)と1価の銅イオン(Cu+)の形態を取り得るが、溶液中に同時に酸化されやすい物質が含まれていると、2価の銅イオン(Cu2+)は酸化剤として働き、還元されやすい物質は酸化され、自身は1価の銅イオン(Cu+)に還元される。ここで、1価の銅イオン(Cu+)は周囲に存在する酸化剤によって酸化され、再び2価の銅イオン(Cu2+)に戻り、酸化と還元の反応は循環する。このとき銅イオンは反応全体を外部から眺めると、触媒の働きをしている。
【0029】
上記[0028]項の触媒現象は、鉄イオンでも同様のことが言える。
鉄イオンは水溶液中で、二価と三価の状態を取り得るが、三価の鉄イオン(Fe3+)は酸化作用が強く、二価の鉄イオン(Fe2+)は還元性が強い。
水溶液中に3価の鉄イオン(Fe3+)が含まれ、同時に酸化されやすい物質が含まれていると、3価の鉄イオン(Fe3+)は酸化剤として働き、還元されやすい物質は酸化され、自身は2価の鉄イオン(Fe2+)に還元される。ここで、2価の鉄イオン(Fe2+)は周囲に存在する酸化剤によって酸化され、再び3価の鉄イオン(Fe3+)に戻り、酸化と還元の反応は循環する。このとき鉄イオンは反応全体を外部から眺めると、触媒の働きをしている。
【0030】
水溶液中に2価の鉄イオン(Fe2+)が含まれる場合、この2価の鉄イオン(Fe2+)は周囲に存在する酸化剤により、3価の鉄イオン(Fe3+)に酸化され、以下は[0029]項と同様に、3価の鉄イオン(Fe3+)が酸化されやすい物質を酸化する反応を辿ることになる。
なお、[0027]項で、鉄イオンは、溶液が中性からアルカリに向かう時の特性で、銅イオンに比べて劣っていると記述したが、この原因は鉄イオンが中性又はアルカリ性において非常に水溶解度の低い水酸化鉄を生じやすく、中性を過ぎるとこの物質の発生によって鉄イオンが減少して触媒作用が低下するためと考えられる。銅イオンは鉄イオンに比べるとこの傾向は低いため問題なく、この点で銅イオンが良好な結果を示す。
【0031】
従って、チオ硫酸塩と酸化剤を混合した溶液中に、この触媒物質を濃度分布をつけて混合すると、触媒濃度の高い部分では水酸イオン(OH−)の発生が速やかに行われ、触媒濃度の低い部分では緩慢に行われ、これと一緒に混合したpH指示薬の発色の空間的かつ時間的変化を視覚的に楽しめる。
また、演出時に、その反応を早めるためには、反応物質の濃度を高める方法も考えられるが、経済性あるいは排出される物質が増えることを考えると、微量で作用する触媒物質を用いた方が良い選択と言える。
なお、反応を遅くするには反応物質の濃度を下げればよく、これは簡単にできる。
【0032】
用いる銅イオンあるいは鉄イオンも、多い場合には環境に有害となってくるが、実施例で後述するように、数ppmの濃度で十分効果があり、環境に大きな影響を与えない。例えば、水道水の銅イオン又は鉄イオンの含有許容量は、その味に影響のないという要素を考慮して基準が設けられており、その許容量は銅イオンで1ppm、鉄イオンで0.3ppmとなっている。また、ヒトの一日に必要な銅の量は2から5mgと言われており、このことからも本発明で適用する銅の量は安全上問題のないレベルであることがわかる。
なお、ヒトの一日に必要な鉄の量は、銅に比べて多く、一日7から48mgと言われている。血液中の赤血球中にも、酸素を運ぶ役割を持って血色素ヘモグロビンに固定され、成人人体には3から4gの鉄が含まれていると言われているとおりである。
但し、両元素とも一日の必要を超えて多量に摂取するのは有害であることは言うまでもない。
また、硫酸銅など、劇物に指定されるような水溶性銅化合物を扱いたくない場合には、酸化銅(CuOやCu2O)や水酸化銅(Cu(OH)2)等の微粉末を水に懸濁し、演出前に薄い酸溶液と混合して十分時間を置いてからpH指示薬に加える酸溶液として適用すれば、同様に銅イオンの触媒効果を引き出すことができる。酸化銅や水酸化銅は劇物指定された物質ではない。しかし、いずれにしても銅を触媒としたものを演出に使用する場合には、その濃度について事前に十分な検討が必要である。
【0033】
なお、特願2004−319243の明細書[0057]から[0060]に記載したとおり、この触媒作用による反応促進効果を利用して、この反応が促進されたことによる色変化までの短縮時間を測定することにより、水などの測定対象に含まれている銅イオンあるいは鉄イオンの量を定量測定することができる。
【0034】
以上で、[請求項1]の主旨であるチオ硫酸塩又は酸化剤を空間的な濃度分布を付けて混合し、これにより生じるpH分布をpH指示薬の発色として捉えたときの発色の様子と時間変化について説明した。また[請求項2]の主旨として、この反応を触媒促進する物質を空間的な濃度分布を付けて混合した場合にも同様の効果が得られることを説明した。
【0035】
次に[請求項3]から[請求項10]について説明する。
[請求項3]から[請求項10]は[請求項1]及び[請求項2]で示したチオ硫酸塩、又は酸化剤、又はこれらの反応を触媒する物質の空間的な濃度分布を付けて混合する方法を示したものであって、特に本発明に関する手品や演示として簡単に実施でき、色のグラデーションや時間変化が美しく、スムーズに出現するものを選んで規定している。
【0036】
[請求項3]は、内部の溶液が容易に混合されない細長い透明な管状容器の底に、濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩を少量入れ、ここに酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぐことにより、これらの混合水溶液中にチオ硫酸塩の空間的な濃度分布を作り出すことを規定している。
【0037】
濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩は比重が重いため、この溶液またはこの固体を細長い透明な管状容器の底に少量入れ、ここに酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液を注いだとき、注ぎ始めは混合するが、容器が細い場合には、後から注いでいく溶液は最初に注いだ溶液の上部と混合するだけで、比重の高いチオ硫酸塩溶液を多く含む下方の溶液とは混合しにくい状態となる。
これが次々と繰り返されていくことにより、容器の下方ほどチオ硫酸塩溶液の濃度が高く、上方ほど濃度が低い状態が作り出される。
図1はこれを模式的に表した図であり、(図1の1)は細長い透明な管状容器、(図1の2)は濃度の高いチオ硫酸塩溶液、(図1の3)は酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液を示し、(図1の2)の濃度の高いチオ硫酸塩溶液が(図1の3)の混合溶液中に濃度分布をもって混合されている状態を示している。
ここで、例えば、後に説明する[請求項11]と[請求項12]を適用したときには、ある一定の時間が経過すると、図2に示したような色の分布が現れる。図2の中に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の文字を記しているが、これは、ある一定時間が経過した時に得られる虹の7色の分布模式図であり、この虹の7色は赤一色の状態から時間経過と共に次第に現れて、その分布の様子は刻々と変化していく。
なお、特に固体状のチオ硫酸塩を用いた場合には、この濃度差が大きく、また時間が経過してもなかなか混合せず、時間と共に分布の様子が変化する速度は低い結果となる。固体状のチオ硫酸塩を用いる場合は、細かい粉末状であっても、結晶状の塊であってもよいが、容器に入っていることが判りにくい細かい粉末、あるいは細かな結晶を用いた方が演出効果は高い。
ここで、これらの図1や図2は、本発明の請求項の一つを適用した形を例として説明するために示したものであり、本発明の範囲や[請求項3]、[請求項11]、[請求項12]はこの図に限定されるものではない。
【0038】
この空間的な濃度分布によりもたらされる手品や演示としての効果は[0014]から[0034]で説明したとおりである。
なお、ここで言う細長いという状態について、一般的にある容器について述べるならば、その底面積から求めた平均直径と長さとの比が1:5以上である場合に特に効果的である。但し平均直径は以下の式から算出するものとする。
平均直径=2×sqr(底面積/3.14)、但しsqrは平方根を表す記号とし、3.14は円周率とする。
これは例えば直径14mmの標本管の場合、長さが70mmに相当し、底辺10mm角の角柱状容器の場合には56mmの長さに相当する。
また、濃度の高いチオ硫酸塩溶液とは、重量%で表した濃度が10%以上である場合に特に有効であり、濃度80%程度以上の非常に濃いものを用いた場合、混合されずに容器の下方ほどチオ硫酸塩溶液の濃度が高い状態が容易に作り出せる。
【0039】
[請求項4]は、透明な容器に、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、ここに濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩を少量、滴下するなどの方法で入れ、チオ硫酸塩が拡散しながら容器の底に沈み、底のチオ硫酸塩濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態を作り出すことを定義している。
【0040】
これは同様に、濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩は比重が重いため、この溶液を酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液中に注いだとき、周囲の溶液と少量ずつ混合しながら、容器の底の方に向かい、容器の底に最も高濃度で滞留する。こうして、[請求項3]と同様に、容器の下方ほどチオ硫酸塩溶液の濃度が高く、上方ほど濃度が低い状態が作り出される。
なお、この場合には容器の形状が細長いと手品としての演出には効果的であるが、この方法による場合には容器形状は細長いものに限る必要はなく、どのような形状でも容器の下方ほどチオ硫酸塩溶液の濃度が高く、上方ほど濃度が低い状態が作り出される。
また、濃度の高いチオ硫酸塩溶液とは、[0038]と同様に重量%で表した濃度が10%以上である場合に特に有効であり、濃度80%程度以上の非常に濃いものを用いた場合、混合されずに容器の下方ほどチオ硫酸塩溶液の濃度が高い状態が容易に作り出せる。
【0041】
[請求項5]は、内部の溶液が容易に混合されない細長い透明な管状容器の底に、過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤の溶液を、グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量入れ、ここにチオ硫酸塩とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぐことにより、これらの混合水溶液中に酸化剤の空間的な濃度分布を作り出すことを定義している。
過酸化水素の濃度は、実施例でも示すとおり、市販のオキシドールのような3%程度の薄いものを、加える溶液の100分の1程度加えるだけで反応を起こすことができ、これによる比重の増加は望めない。従って酸化剤を容器の底に滞留させる効果を引き出すためには、その比重を増加させる溶質を同時に添加する必要がある。この溶質としては、砂糖(蔗糖)やグリセリンを例に挙げているが、酸化剤によって化学変化を受けず、水溶性が高く、溶媒の比重を増加させることができるものであれば何でも良く、他に果糖、尿素、塩(塩化ナトリウム)、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムなど、さまざまなものが考えられるため、これ以上は例示しない。
また、過ヨウ素酸塩を酸化剤として用いた場合には、実施例でも示すとおり、2%程度の薄いものを、加える溶液の100分の1程度加えるだけで反応を起こすことができ、これによる比重の増加は望めない。従って、同様の方法が必要となる。
【0042】
[請求項6]は、透明な容器に、チオ硫酸塩とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、ここに過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液を、
(1)グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れる、又は
(2)エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れ、
酸化剤溶液が拡散しながら
(1)容器の底に沈み、底の酸化剤溶液濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態を作り出し、あるいは
(2)容器の上方に浮き、上方の酸化剤溶液濃度が最も高く、下方にいくほど薄い状態を作り出すことを定義している。
【0043】
これは同様に、(1)では「過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液を、グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合したもの」は比重が重いため、この溶液をチオ硫酸塩とpH指示薬水溶液の混合溶液中に注いだとき、周囲の溶液と少量ずつ混合しながら、容器の底の方に向かい、容器の底に最も高濃度で滞留する。こうして、[請求項5]と同様に、容器の下方ほど酸化剤溶液の濃度が高く、上方ほど濃度が低い状態が作り出される。
(2)では「過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液を、エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合したもの」は比重が軽いため、この溶液をチオ硫酸塩とpH指示薬水溶液の混合溶液中に注いだとき、周囲の溶液と少量ずつ混合しながら、容器の上の方に留まり、容器の上方に最も高濃度で滞留する。こうして同様に、容器の上方ほど酸化剤溶液の濃度が高く、下方ほど濃度が低い状態が作り出される。
なお、この場合には、[0039]項と同様に、容器の形状が細長いと手品としての演出には効果的であるが、この方法による場合には容器形状は細長いものに限る必要はなく、どのような形状でも容器の下方あるいは上方ほど酸化剤溶液の濃度が高く、上方あるいは下方ほど濃度が低い状態が作り出される。
【0044】
[請求項7]は透明な容器に、pH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、
(1)ここに過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液を、グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れ、あるいは
(1’)エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れ、
(2)ここに濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩を少量、滴下するなどの方法で入れ、
酸化剤溶液が拡散しながら容器の底に沈み、同様にチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩が拡散しながら容器の底に沈み、底の酸化剤及びチオ硫酸塩溶液の濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態を作り出すことを定義している。
なお、上記の(1)又は(1’)と(2)を入れる順序は逆でもよいものとする。
この場合にも[0039]項と同様に、容器の形状が細長いと手品としての演出には効果的であるが、容器形状は細長いものに限る必要はなく、どのような形状でも容器の下方ほど酸化剤及びチオ硫酸塩溶液の濃度が高く、上方ほど濃度が低い状態が作り出される。
(1)と(2)の組み合わせでは、チオ硫酸塩と酸化剤は共に底の方にいくほど濃くなり、底の方から色の変わる反応が始まる。
一方、(1’)と(2)の組み合わせでは、双方が適量ずつ混ざり合う中間よりやや上の方で反応が始まり、この領域が上方と下方に広がっていく。この場合には混合が起こりにくいため、その結果起こる指示薬の変色領域の広がる速度はゆっくりしたものとなる。
【0045】
[請求項8]は、透明な容器に、チオ硫酸塩と、過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液と、pH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、ここに[請求項2]で記載した触媒溶液を、
(1)グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れる、又は
(2)エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れることにより、
(1)触媒が容器の底に沈んで、底の方へいくほど濃度が高い、あるいは
(2)触媒が容器の上方に浮いて、上の方へいくほど濃度が高い状態を作り出し、
これらの混合水溶液中に触媒の空間的な濃度分布を作り出すことを定義している。
こうして得られる触媒の濃度分布が本発明の手品や演示物の演出方法に対して与える効果は、[0026]から[0031]項で説明したとおりである。
【0046】
[請求項9]は、内部の溶液が容易に混合されない細長い透明な管状容器で、その両端又は片端が開閉可能な容器の両端あるいは片端に、スポイト状の容器を栓の代わりとして配置し、そのスポイト状容器の内部にチオ硫酸塩溶液、又は酸化剤をを充填し、この管状容器内にpH指示薬水溶液と、チオ硫酸塩又は酸化剤溶液の混合物を入れ、前記スポイト状の容器を押すことにより、スポイト状の容器内部の溶液を指示薬水溶液中に入れ、
酸化剤又はチオ硫酸塩溶液の空間的な濃度分布を作り出すことを定義している。
【0047】
この方法は、本発明者らが先に出願した特許願である特願2004−61319の[請求項3]に類似の方法であり、スポイト状の容器内部に充填する成分が異なるものを定義している。
スポイト状容器の片方に特願2004−61319の[請求項3]あるいは[請求項2]で規定した、「酸溶液」あるいは「水より軽い溶媒に溶かした酸溶液」を適用することによる演出も考えられるが、これは特願2004−61319の範囲のものである。
【0048】
この[請求項9]によれば、pH指示薬の色の分布が生じるまでは[請求項1]と同様の時間的経過を辿るが、異なるのは、色の分布が定常状態になるとそれ以上の変化を生じずに、一定の色分布の状態を長く保つことができる点にある。
特にスポイト内の成分が拡散によって生じている場合には、特願2004−61319の明細書[0005]に示すとおり、その分布は拡散方程式の解として表され、その濃度分布は、距離xのマイナス二乗の指数関数に比例して減少していき、時間と共にその全体の濃度は低下していく。
溶質の濃度が中心からの距離xのマイナス二乗の指数関数に比例して減少するため、中心(溶質の供給源)から離れた場所にある酸化剤とチオ硫酸塩との反応速度は急速に低下し、そこでは反応は実際上進行しない状態を作り出すことができる。こうして色の分布が定常状態になるとそれ以上の変化を生じずに、一定の色分布の状態を長く保つ現象が現れる。これは本発明に適用した場合には、実験的にはおよそ数十分から数時間の時間オーダーで維持される現象であることが判った。
さらに時間が経過して、拡散方程式の時間項に基づく溶質の拡散が顕著になる時間域では、この拡散によって分布した溶質によって反応が進行し、非常にゆっくりと色の分布は変化していくことになる。これは本発明に適用した場合には、実験的にはおよそ数日から数週間の時間オーダーの現象であることが判った。
なお、これは[請求項6]の(2)でも同様な状態が作り出され、酸化剤が溶液の上方に滞留し、拡散によって下方に広がっていく状態となる。
【0049】
なお、[0048]で記載した拡散方程式の解は以下のように得ることができる。
一般に、ある溶液中に濃度の異なる溶液や溶質を溶解させたとき、その溶液や溶質の溶液中への拡散は拡散方程式の解として表現される。
すなわち溶媒中の物質の密度pは一次元の空間xと時間tによって以下の拡散方程式
dp/dt=D・d2p/dx2
但し[0049]内においては、dは偏微分記号、2は二乗を表す記号、Dは溶媒と溶質で決定される拡散係数とする。
この解は、初期分布をデルタ関数(インパルス関数)とすると、
p(t,x)=1/sqr(4・3.14Dt)・exp(−x2/(4Dt))
となり、すなわち正規分布となる。
但し、sqrは平方根を表す記号、expは自然対数のべき乗、3.14は円周率とする。
この解が意味しているのは、一般に溶媒に溶質を溶かしこれを放置したとき、その濃度分布は距離xのマイナス二乗の指数関数に比例して減少していき、時間と共にその全体の濃度は低下していくということである。
また、原点(x=0)で見ると、直線又は曲線を含む一次元で近似される空間では、その密度の減少は1/sqr(t)に比例し、この減少分の溶質は空間方向への拡散分に寄与している。
なお、溶媒の存在する空間が無限に広い場合、この溶質の濃度は時間の経過とともに無限に低い濃度まで低下していくが、溶媒を保持する容器は限られており、この場合は時間の経過とともに溶質の濃度が空間的にも時間的にも一定の値となる方向で溶質が拡散していく。
【0050】
[請求項10]は、酸化剤溶液又はチオ硫酸塩溶液又はpH指示薬水溶液に、これらの反応を触媒促進する2価又は1価の銅塩、ないしは3価又は2価の鉄塩を混合することを定義しており、こうして得られる触媒の効果、あるいは触媒の濃度分布が本発明の手品や演示物の演出方法に対して与える効果は、[0026]から[0031]項で説明したとおりである。
【0051】
[請求項11]で規定したpH指示薬を用いた時の効果は、[0022]から[0024]で説明したように、pHによって虹の7色全てを作り出せることにある。
ここで、この虹の7色を作り出すために必要な事項は、pH指示薬の初期pHがおよそ4より低い酸性であることであり、チオ硫酸塩と酸化剤との反応はアルカリ性側に進行するものであるため、この条件が必要となる。また、手品の演出としては、変色が始まるまでに、何の変化も起こらない期間を設け、この期間に手品演出の準備をして、演出を開始するまでの猶予期間をとることが望まれる。
【0052】
[請求項12]は、[0019]で既に述べたように、そうした[0051]の状況を考慮に入れて規定されたものであって、酸化剤溶液又はチオ硫酸塩溶液又はpH指示薬水溶液に酸を加え、これを混合したときにpH指示薬水溶液が酸性側の発色を示した状態を作り出し、その後のチオ硫酸塩が酸化されることによって発生する水酸イオン(OH−)の空間的な濃度分布により、空間的にpH指示薬の色変化を生じさせ、時間経過と共に指示薬の色の状態が変わっていくようにすることを定義している。更に加える酸の濃度を適切な値にすることで、空間的に分布した変色が始まるまでの時間を調整することができることを意図している。
【0053】
これを[請求項11]の組成のpH指示薬に適用し、初期pHに4よりも低いpH値を与えた場合、pHが次第に上がってその変色域であるpH4付近を越えるまでは、色の変化はなく、前述のように、その時間を、制御可能な手品や演示物の演出の準備に充てることができ、いわゆる「手品のたね」が判らないようにすることができる。
【0054】
請求項の最後に、[請求項13]は、こうした[請求項1]から[請求項12]に示した演出方法の少なくとも一つを適用したことを特徴とする、インテリア等の物について定義するものである。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、注いだ溶液、あるいは静置した溶液からさまざまな空間的なグラデーションを持った鮮やかな色が時間経過と共に出てきたり、連続したグラデーションを持った虹の7色が時間経過と共に発生して、この色の様子が時間と共に次々と変化していくような、一種の不思議を感じさせるような手品や演示物の演出方法と、これを適用したインテリア等を与えることができる。
【0056】
また、従来の手品や教育用材料、玩具やインテリアの色彩変化の単調性を解決し、視覚的に美しく、色彩の変化に富み、色の時間的変化も楽しむことのできるインテリア等を提供でき、これを与えた子どもや見ている人などに飽きが来にくくなるという効果を得ることができる。
【0057】
また、溶液の色彩が鮮やかであり、内容物の色が変わったり、容器内の場所によって色が異なるという不思議さから、特に子供たちにこの現象の起きている原理に興味を持たせ、この科学的な現象を演示して説明することにより、楽しみながら色の3原色や酸・アルカリという概念、酸・アルカリの強さであるpHの概念、酸化還元反応といった科学的な内容を子どもたちに教えるような、教育的な側面にも効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
本発明を実施するに最良の形態は、この方法を用いた手品や演示物の演出であり、またこうした手品の要素を用いて、興味を引きつける効果を狙った学習用教材である。
例えば、[請求項1]で規定した内容を、[請求項3]あるいは[請求項4]の方法で実現した手品の演出方法は、聴衆の興味を引きつけるために適した形態であると考えられ、更に[請求項11]と[請求項12]で規定したpH指示薬と酸を用いると虹の7色の発色が時間と共に変化したりする様子が楽しめる。
また、[請求項1]の変形として[請求項2]が適用でき、[請求項3]あるいは[請求項4]の方法の代わりに、[請求項5]から[請求項9]のような方法を用いることもできる。
また、[請求項3]から[請求項9]に規定しない、[実施例7]に示すような方法で[請求項1]あるいは[請求項2]を実現しても同様の効果が期待できる。
【0059】
更に、上記のこうした演出方法に限らず、また手品等の演出に限らず、物品として[請求項13]に記載するような、装飾品や展示物、アクセサリとして用いてもおもしろいものが構成でき、色の変化も美しいため、室内や店内で飾るインテリアとしても良い。
【実施例1】
【0060】
以上の事項をいくつかの実施例を用いて説明していく。これら実施例の説明は、本発明の適用例を示したものであって、本発明はこの実施例に限られたものではない。
まず、[請求項1]、[請求項3]、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0061】
図1は[0037]項の説明で使用した図であるが、同じ図を[実施例1]の説明に用いる。
図1に示すように、[請求項3]で規定した細長い透明な管状容器(図1の1)の底に、予め80重量%の濃度に調整したチオ硫酸ナトリウム水溶液(図1の2)を3滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
なお、細長い透明な管状容器は直径14mm、長さ100mmの透明プラスティック製の下方がややすぼまった標本管であり、その容量は約12.5mlである。
チオ硫酸ナトリウム水溶液は、容器の容量に比べて非常に少量であるため、一見何も入っていないように見える。
【0062】
このチオ硫酸ナトリウム水溶液を予め滴下した管状容器に、以下の調合の酸性にしたpH指示薬と酸化剤としての過酸化水素の混合溶液(図1の3)10mlを静かに流し入れる。
過酸化水素: 0.075%
(3%過酸化水素水0.25mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
なお、0.0035%程度の塩酸は胃酸よりも弱い酸であり、全く危険性はない。塩酸が劇物として指定されるのは10%以上の場合であり、かなり濃度が高い場合である。
【0063】
この溶液を流し入れた結果、容器は赤い溶液で8分目程度が満たされる。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、チオ硫酸ナトリウム溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、16秒後には容器の下方に橙、黄色が見られ、次第に下方に緑色が生じ、橙・黄色部分が上の方に移動する。さらに25秒後付近では下方に青色が見え始め、橙・黄色・緑の領域が上方に移動する。さらに時間が経過すると下方の青色の領域が広がると共に、下層部には藍色や紫色が見えるようになり、図2に示したような色の分布状態となる。60秒ほど経過すると上方に残っていた赤が消え、上方は黄色になり、さらに時間が経過すると全体が青色から紫色に移っていく。
最初の16秒程度は何も色変化が起こらないため、変色が始まったとき、何の物理的操作もしていないのに変色が起こったように見え、手品の要素を持って演出することができる。
また、こうした方法で作成した虹色7色の溶液は、インテリア等として鑑賞しても美しく、変化が不思議で、興味をもって鑑賞されるものとなる。
なお、予め滴下するチオ硫酸ナトリウム水溶液の代わりに、固体状のチオ硫酸ナトリウムを用いると、溶出したチオ硫酸ナトリウムが溶液中に拡散しにくいため、下方の青と上方の赤の境目がはっきりと出て、中間の黄色や緑の層が狭くなり、この状態が長く維持され、非常にゆっくりと時間変化する様子を見せる。この方法は、この状態を長時間鑑賞するには適している。
【実施例2】
【0064】
[請求項1]、[請求項4]、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0065】
図1は[0037]項の説明で使用した図であるが、同じ図を[実施例2]の説明にも用いる。
図1に示すように、[請求項4]で規定した容器(図1の1)に、以下の調合の酸性にしたpH指示薬と酸化剤としての過酸化水素の混合溶液(図1の3)10mlを流し入れる。
過酸化水素: 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
なお、容器は直径12mm、長さ90mmの透明ガラス製の円筒形標本管であり、その容量は約12mlである。ここでは容器として細長い管状容器を用いた例を記載したが、細長い形状でなくても同じ効果を与えることは実施確認している。
【0066】
この溶液に、予め80重量%の濃度に調整したチオ硫酸ナトリウム水溶液(図1の2)を3滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
このチオ硫酸ナトリウム水溶液は、周囲の溶液と少しずつ混合しながら下方に向かって落ちていき、容器の底に滞留する。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、チオ硫酸ナトリウム溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、16秒後には容器の下方に橙、黄色が見られ、次第に下方に緑色が生じ、橙・黄色部分が上の方に移動する。さらに25秒後付近では下方に青色が見え始め、橙・黄色・緑の領域が上方に移動する。さらに時間が経過すると下方の青色の領域が広がると共に、下層部には藍色や紫色が見えるようになり、図2に示したような色の分布状態となる。60秒ほど経過すると上方に残っていた赤が消え、上方は黄色になり、さらに時間が経過すると全体が青色から紫色に移っていく。
滴下した後、最初の16秒程度は何も色変化が起こらないため、予め観衆の見えないところでこの滴下操作を行い、変色前の全体が赤色の溶液を見せることができ、変色が始まったときには、何の物理的な操作もしていないのに変色が起こったように見え、手品の要素を持って演出することができる。
また、こうした方法で作成した虹色7色の溶液は、インテリア等として鑑賞しても美しく、変化が不思議で、興味をもって鑑賞されるものとなる。
なお、滴下するチオ硫酸ナトリウム水溶液の代わりに、固体状のチオ硫酸ナトリウムを溶液中に落とすと、溶出したチオ硫酸ナトリウムが溶液中に拡散しにくいため、下方で溶出する量が多く、下方の青と上方の赤の境目がはっきりと出て、中間の黄色や緑の層が狭くなり、この状態が長く維持され、非常にゆっくりと時間変化する様子を見せる。この方法は、この状態を長時間鑑賞するには適している。
【実施例3】
【0067】
[請求項1]、[請求項6]の(1)、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0068】
以下の調合の酸性にしたpH指示薬とチオ硫酸ナトリウムの混合溶液10mlを透明な容器に入れる。
チオ硫酸ナトリウム : 1.2%
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
なお、容器は直径12mm、長さ90mmの透明ガラス製の円筒形標本管であり、その容量は約12mlである。ここでは容器として細長い管状容器を用いた例を記載したが、細長い形状でなくても同じ効果を与えることは実施確認している。
【0069】
この溶液に、3%の過酸化水素水(オキシドール)と84%のグリセリンを等量混合した溶液を6滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
この過酸化水素とグリセリンの混合物は、比重が水よりも重く、周囲の溶液と少しずつ混合しながら下方に向かって落ちていき、容器の底に滞留する。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、過酸化水素水溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、10秒後には容器の下方に橙、黄色が見られ、18秒後には下方に緑色が生じ、橙・黄色部分が上の方に移動する。さらに40秒後付近では下方に青色が見え始め、橙・黄色・緑の領域が上方に移動する。さらに時間が経過すると下方の青色の領域が広がると共に、下層部には藍色や紫色が見えるようになる。60秒ほど経過すると上方の赤がおよそ3分の一、橙から緑のグラデーションが全体の3分の一、下方の青から紫のグラデーションが全体の3分の一程度となり、非常に美しい状態となる。更に時間が経過すると、上方に残っていた赤が消え、上方は黄色になり、さらに時間が経過すると全体が青色から紫色に移っていく。
滴下した後、最初の10秒程度は何も色変化が起こらないため、その準備時間の持つ効果は[実施例1]、[実施例2]と同様である。
【実施例4】
【0070】
[請求項1]、[請求項6]の(2)、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0071】
以下の調合の酸性にしたpH指示薬とチオ硫酸ナトリウムの混合溶液10mlを透明な容器に入れる。
チオ硫酸ナトリウム : 1.2%
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
なお、容器は直径12mm、長さ90mmの透明ガラス製の円筒形標本管であり、その容量は約12mlである。ここでは容器として細長い管状容器を用いた例を記載したが、細長い形状でなくても同じ効果を与えることは実施確認している。
【0072】
この溶液に、3%の過酸化水素水(オキシドール)と85%のエチルアルコールを等量混合した溶液を6滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
この過酸化水素とエチルアルコールの混合物は、比重が水よりも軽く、周囲の溶液と少しずつ混合しながら上方に浮き、容器の上方に滞留する。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、過酸化水素水溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、14秒後には容器の上方に橙、黄色が見られ、20秒後には上方に緑色が生じ、橙・黄色部分が下の方に移動する。さらに40秒後付近では上方に青色が見え始め、橙・黄色・緑の領域が下方に移動する。さらに時間が経過すると上方の青色の領域が広がると共に、最上層部には藍色や紫色が見えるようになる。60秒ほど経過すると上方の青から紫のグラデーションがおよそ4分の一、緑から橙のグラデーションが全体の4分の一、下方の橙から赤のグラデーションが全体の2分の一程度となり、非常に美しい状態となる。更に時間が経過すると、上方の青から紫のグラデーションの領域が拡大するが、下方の緑から赤のグラデーションは長く残り、非常に美しい状態がそのまま長く維持される。
滴下した後、最初の14秒程度は何も色変化が起こらないため、その準備時間の持つ効果は[実施例1]、[実施例2]と同様であるが、本実施例の場合には、発生した美しいグラデーションが長くその状態を維持するため、そのまま展示して見せることができる。
【実施例5】
【0073】
[請求項2]、[請求項8]の(1)、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0074】
以下の調合の酸性にしたpH指示薬とチオ硫酸ナトリウムと過酸化水素の混合溶液10mlを透明な容器に入れる。
チオ硫酸ナトリウム : 1.2%
過酸化水素 : 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
【0075】
この溶液に、2%の硫酸銅五水和物水溶液と84%のグリセリンを1:9の割合で混合した溶液を1滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
この硫酸銅五水和物水溶液とグリセリンの混合物は、比重が水よりも重く、周囲の溶液と少しずつ混合しながら下方に向かって落ちていき、容器の底に滞留する。
ここで、酸化剤と過酸化水素水溶液とpH指示薬水溶液の混合物中に、酸化を触媒する2価の銅イオンが空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、5秒後には容器の下方に橙、黄色が見られ、7秒後には下方に緑色が生じ、橙・黄色部分が上の方に移動する。さらに10秒後付近では下方に青色が見え始め、橙・黄色・緑の領域が上方に移動する。さらに時間が経過すると下方の青色の領域が広がると共に、下層部には藍色や紫色が見えるようになる。20秒ほど経過すると上方の赤が消えて上方は緑色になり、さらに時間が経過すると全体が青色から紫色に移っていく。
このように銅イオンの触媒作用は極微量で反応を顕著に促進する作用がある。
なお、この銅イオンの触媒作用についての実施例を伴った説明は、特願2004−319243にグラフ等を伴って詳述している。
【実施例6】
【0076】
[請求項2]、[請求項8]の(2)、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0077】
以下の調合の酸性にしたpH指示薬とチオ硫酸ナトリウムと過酸化水素の混合溶液10mlを透明な容器に入れる。
チオ硫酸ナトリウム : 1.2%
過酸化水素 : 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
【0078】
この溶液に、2%の硫酸銅五水和物水溶液と85%のエチルアルコールを1:1の割合で混合した溶液を1滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
この硫酸銅五水和物水溶液とエチルアルコールの混合物は、比重が水よりも軽く、周囲の溶液と少しずつ混合しながら上方に浮き、容器の上方に滞留する。
ここで、酸化剤と過酸化水素水溶液とpH指示薬水溶液の混合物中に、酸化を触媒する2価の銅イオンが空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、1秒後には容器の下方に青色が見られ、20秒後には上方の青から紫のグラデーション、中程より下方に緑から赤のグラデーションが生じ、非常に美しい状態となる。さらに時間が経過すると上方の青色の領域が広がると共に、下方の赤が消えて緑色になり、さらに時間が経過すると全体が青色から紫色に移っていく。
[実施例6]では、滴下する硫酸銅五水和物の濃度を1%とし、[実施例5]で適用した0.2%の5倍の濃度としているが、このように銅イオンの触媒作用は量を増加すると、顕著に反応に現れる効果が認められ、反応を促進している。
【実施例7】
【0079】
[請求項1]、[請求項11]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、一実施例を用いて説明する。
【0080】
直径70mmのビーカーに、以下の調合の酸性にしたpH指示薬と酸化剤としての過酸化水素の混合溶液10mlを入れる。これは溶液の高さにして5mm程度になる。
過酸化水素: 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
(0.001mol/l, pHはおよそ3となる。)
メチルレッド : 0.00033%
クレゾールレッド : 0.0016%
ブロムチモールブルー: 0.0016%
フェノールフタレイン: 0.0024%
この混合溶液は、反応前は赤色をした水溶液である。
【0081】
この溶液に、予め80重量%の濃度に調整したチオ硫酸ナトリウム水溶液を3滴滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
このチオ硫酸ナトリウム水溶液を滴下した後、ビーカーをゆっくりと回転させ、中の溶液がゆっくり回転するように維持する。
こうして、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、チオ硫酸ナトリウム溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、その混合の様子は、中心に比重の重いチオ硫酸塩が集まり、周囲に次第に希釈された状態が形成される。
チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、15秒後には容器の中心部に青い点とその周囲を囲む緑、黄色、橙が見られ、次第に中心の青色領域が拡大し、青から紫のグラデーションが見られるようになる。回転を維持させて60秒ほど経過すると、中心の青から紫のグラデーションが20mm程度の直径となり、時折、銀河の腕のように、中心から外周に向かって渦を巻きながら伸びる青い線が見えるようになる。緑、黄、橙のグラデーション部分は青の中心核の外周に移動する。
回転を一時停止すると、次第に中心の青が消えてゆき、中心が緑から黄を経て赤に戻り、再び回転を加えると、中心に青色が見え、ここから外周に向かって渦を巻きながら伸びる青い線が見えるようになる。これは何回か繰り返すこともできるが、繰り返すうちに、次第に青や緑の領域が拡大していく。
さらに時間が経過すると、全体が中心の青から外周の緑へのグラデーションとなり、次第に青一色の溶液へと変化する。
【0082】
この[0081]で見られた、銀河の腕のように、中心から外周に向かって渦を巻きながら伸びる青い線と、中心の青から紫のグラデーション、これを囲む外周の緑、黄色、橙、赤のグラデーションは、幻想的で、見た者の興味をそそるおもしろいものであった。
なお、色が生じ始めるまでには時間の猶予があるため、チオ硫酸ナトリウム水溶液を滴下しているところを見られないようにしてビーカーを回転させる演出を始めれば、手品としての不思議さを持たせた演出ができる。
【実施例8】
【0083】
[請求項1]、[請求項4]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、実施例を用いて説明する。さまざまなpH指示薬を適用した例を示す。
【0084】
以下の調合の酸性にしたpH指示薬と酸化剤としての過酸化水素の混合溶液10mlを、管状の容器に流し入れる。但しpH指示薬として、一般的にはpH指示薬とは呼ばれないものも含めて以下(1)から(8)の8種類を用いて、別々の容器に作成する。
(1)から(8)共通:
過酸化水素: 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
(1)
塩酸 : 0.00875%
食用赤色104号色素: 0.005%
(2)
塩酸 : 0.00875%
食用赤色105号色素: 0.005%
(3)
塩酸 : 0.0035%
m−ニトロフェノール: 0.0025%
(4)
塩酸 : なし
フェノールフタレイン: 0.001%
(5)
塩酸 : 0.0035%
アントシアニン : 0.05%
(6)
塩酸 : 0.0035%
メチルレッド : 0.0005%
(7)
塩酸 : 0.0035%
ブロムチモールブルー: 0.001%
(8)
塩酸 : 0.0035%
ニュートラルレッド : 0.001%
これらの混合溶液は、反応前は、それぞれ(1)無色透明、(2)無色透明、(3)無色透明、(4)無色透明、(5)ピンク、(6)紅色、(7)黄色、(8)紅色をした水溶液である。
なお、容器は直径14mm、長さ100mmの透明プラスティック製の下方がややすぼまった標本管であり、その容量は約12.5mlである。ここでは容器として細長い管状容器を用いた例を記載したが、細長い形状でなくても同じ効果を与える。
【0085】
この溶液に、予め80重量%の濃度に調整したチオ硫酸ナトリウム水溶液を、各(1)から(8)の容器中の溶液に各3滴ずつ滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
このチオ硫酸ナトリウム水溶液は、周囲の溶液と少しずつ混合しながら下方に向かって落ちていき、容器の底に滞留する。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、チオ硫酸ナトリウム溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、各(1)から(8)の溶液について、以下のような変化を示した。
(1)最初全体が無色透明であるが、3秒ほど経過すると次第に全体がごく薄いピンクになり、40秒後、下に濃い紅色が見え、これが次第に上方に範囲を広げていく。
(2)最初全体が無色透明であるが、10秒ほど経過すると次第に全体がごく薄いピンクになり、60秒後、下に濃い赤紫色が見え、これが次第に上方に範囲を広げていく。
(3)最初全体が無色透明であるが、20秒ほど経過すると、下に濃い黄色が見え、これが次第に上方に範囲を広げ、40秒後全体の80%程度が黄色で、下から上に向けて色の薄くなるグラデーションを見せ、上から20%程度が無色透明となる。
(4)最初全体が無色透明であるが、30秒ほど経過すると、下に薄いピンク色が見え、これが次第に上方に範囲を広げ、60秒後全体の50%程度が薄いピンク色となる。色はこれ以上あまり濃くならない。
(5)最初全体がピンク色であるが、30秒ほど経過すると、下に青色が見え、これが次第に上方に範囲を広げ、40秒後ほど経過すると、下方には緑色が見え始める。この青と緑の領域が次第に上方に拡大していく。
(6)最初全体が紅色であるが、15秒ほど経過すると、下に黄色が見え、これが次第に上方に範囲を広げ、25秒ほど経過すると、急に全体の50%程度の領域まで橙色になり、下方に向かって黄色になるグラデーションを見せる。次第にこの黄色と橙色の部分は上方に拡大していく。この急な色の変化は美しい。
(7)最初全体が黄色であるが、20秒ほど経過すると、下に青色が見え、これが次第に上方に範囲を広げ、30秒ほど経過すると、急に全体の50%程度の領域まで緑色になり、下方に向かって青色になるグラデーションを見せる。この急な色の変化は美しい。次第にこの青色と緑色の部分は上方に拡大し、50秒後にはほとんどの領域が青になる。
(8)最初全体が紅色であるが、15秒ほど経過すると、下に黄色が見え、これが次第に上方に範囲を広げ、30秒ほど経過すると、急に全体の50%程度の領域まで橙色になり、下方に向かって黄色になるグラデーションを見せる。次第にこの橙色と黄色の部分は上方に拡大する。
【実施例9】
【0086】
[請求項1]、[請求項4]及び[請求項12]を適用した手品の演出方法を、実施例を用いて説明する。酸の量(酸の濃度)を変えたとき、変色が始まるまでの準備時間を変えることができるということをこの例によって示す。
【0087】
以下の調合の酸性にしたpH指示薬と酸化剤としての過酸化水素の混合溶液10mlを、管状の容器に流し入れる。但しpH指示薬、塩酸の混合割合を、以下(1)、(2)の2種類を容易して、別々の容器に作成する。
(1)
過酸化水素 : 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
フェノールレッド : 0.002%
(2)
過酸化水素 : 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.00175%
フェノールレッド : 0.002%
【0088】
この溶液に、予め80重量%の濃度に調整したチオ硫酸ナトリウム水溶液を、各(1)、(2)の容器中の溶液に各3滴ずつ滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
このチオ硫酸ナトリウム水溶液は、周囲の溶液と少しずつ混合しながら下方に向かって落ちていき、容器の底に滞留する。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、チオ硫酸ナトリウム溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、各(1)、(2)の溶液について、以下のような変化を示した。
(1)最初全体が黄色であるが、20秒ほど経過すると下に紅色が見え始め、これが次第に上方に範囲を広げ、45秒ほど経過すると、急に全体の50%程度の領域まで橙色になり、下方に向かって紅色になるグラデーションを見せる。この急な色の変化は美しい。次第にこの橙色と紅色の部分は上方に拡大していく。
(1)最初全体が黄色であるが、5秒ほど経過すると下に紅色が見え始め、これが次第に上方に範囲を広げ、15秒ほど経過すると、急に全体の50%程度の領域まで橙色になり、下方に向かって紅色になるグラデーションを見せる。この急な色の変化は美しい。次第にこの橙色と紅色の部分は上方に拡大していく。
このように、初期の酸の量を調整することで、変色が始まるまでの準備時間を変えることができるということをこの例で示したが、手品として演出する場合には、この時間を手品のタネが判らないように準備する時間に充てることができる。
【実施例10】
【0089】
[請求項1]、[請求項4]及び[請求項12]を適用し、pH指示薬として、発明者らが先に出願した特許願である特願2005−12252の、[請求項12](1)及び(6)で記述したものを用いた実施例を以下に示す。
【0090】
(1)
過酸化水素 : 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.00175%
ブロムチモールブルー: 0.0002%
フェノールレッド : 0.0009%
食用黄色4号 : 0.001%(タートラジン)
(2)
過酸化水素 : 0.045%
(3%過酸化水素水0.15mlを10mlの水に溶かしたもの)
塩酸 : 0.0035%
ブロムチモールブルー: 0.0012%
フェノールレッド : 0.008%
【0091】
この溶液に、予め80重量%の濃度に調整したチオ硫酸ナトリウム水溶液を、各(1)、(2)の容器中の溶液に各3滴ずつ滴下する。ここで、一滴の実測値は0.05mlであった。
このチオ硫酸ナトリウム水溶液は、周囲の溶液と少しずつ混合しながら下方に向かって落ちていき、容器の底に滞留する。
ここで、酸化剤とpH指示薬水溶液の混合物中に、チオ硫酸ナトリウム溶液が空間的な濃度分布をもって混合され、チオ硫酸ナトリウムの酸化によって水酸イオン(OH−)が生じ、各(1)、(2)の溶液について、以下のような変化を示した。
(1)最初全体が黄色であるが、10秒ほど経過すると下に赤色が見え始め、これが次第に上方に範囲を広げ、20秒ほど経過すると、急に全体の50%程度の領域まで橙色になり、下方に向かって赤色になるグラデーションを見せる。この急な色の変化は美しい。次第にこの橙色と赤色の部分は上方に拡大していく。
(2)最初全体が黄色であるが、30秒ほど経過すると下に青色が見え始め、これが次第に上方に範囲を広げる。45秒ほど経過すると、下から紫、藍、青、緑、黄色のグラデーションを見せ、60秒後には全体の50%程度の領域にまでこの下から紫、藍、青、緑と、それより上方の黄色のグラデーションを見せる。この色のグラデーションは美しい。次第にこの紫、藍、青、緑と、それより上方の黄色のグラデーションは上方に拡大する。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、視覚的美しさを訴えるとともに、現象の不思議さから科学への興味を持たせる手品や演示物の演出方法を与え、これを適用した手品やインテリア等を提供することができる。
鮮やかな色が時間経過と共に出てきたり、連続したグラデーションを持った虹の7色が時間経過と共に発生して、この色の様子が時間と共に次々と変化していくような、一種の不思議を感じさせるような手品などを演出することができる。
【0093】
また溶液の色彩が鮮やかであり、内容物の色が変わったり、容器内の場所によって色が異なるという不思議さから、特に子供たちにこの現象の起きている原理に興味を持たせ、この科学的な現象を演示して説明することにより、楽しみながら色の3原色や酸・アルカリの概念、酸・アルカリの強さであるpHの概念、酸化還元反応といった科学的な内容を子どもたちに教えるような、教育的な側面にも効果のある教材を提供することができる。
【0094】
発明者らは、例えば以上述べたような「ちょっとした面白いもの」や「自然科学や化学への興味を引き出させるもの」の考案を趣味としており、本発明もそうした趣味の活動の一環として行ったものである。
特に、何もしていないのに色が急に変化し出したり、虹の7色が発生して次々に変化してくる演出は、科学又は化学や手品に興味のある子どもたちにとって、非常に面白いものであるらしく、これを演出して見せると歓声があがり、演出する方も大変やりがいのあるものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の一実施例を示す図。
【図2】本発明の一実施例による演出効果を示す図。
【符号の説明】
【0096】
1 細長い透明な管状容器
2 濃度の高いチオ硫酸塩溶液
3 酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ硫酸塩と、
チオ硫酸塩を酸化するための過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤と、
pHによって色の変わる物質(以下略称をpH指示薬という)の水溶液から構成され、
これらチオ硫酸塩と酸化剤とpH指示薬水溶液を混合し、チオ硫酸塩が酸化されることによって発生する水酸イオン(OH−)により、時間経過と共にpH指示薬水溶液の色が変わっていくことを視覚的に利用した手品や演示物の演出方法において、
これらの混合水溶液中にチオ硫酸塩又は酸化剤又はそれらの両方の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項2】
チオ硫酸塩と、
チオ硫酸塩を酸化するための過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤と、
酸化剤によるチオ硫酸塩の酸化を触媒促進する2価又は1価の銅塩、ないしは3価又は2価の鉄塩と、
pH指示薬の水溶液から構成され、
これらのチオ硫酸塩と、酸化剤と、銅塩ないしは鉄塩と、pH指示薬水溶液を混合し、チオ硫酸塩が酸化されることによって発生する水酸イオン(OH−)により、時間経過と共にpH指示薬水溶液の色が変わっていくことを視覚的に利用した手品や演示物の演出方法において、
これらの混合水溶液中に、触媒である銅塩ないしは鉄塩の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項3】
内部の溶液が容易に混合されない細長い透明な管状容器の底に、
濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩を少量入れ、
ここに酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぐことにより、これらの混合水溶液中にチオ硫酸塩の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項4】
透明な容器に、
酸化剤とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、
ここに濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩を少量、滴下するなどの方法で入れ、
チオ硫酸塩が拡散しながら容器の底に沈み、
底のチオ硫酸塩濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態を作り出し、
これらの混合水溶液中にチオ硫酸塩の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項5】
内部の溶液が容易に混合されない細長い透明な管状容器の底に、
過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤の溶液を、
グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量入れ、
ここにチオ硫酸塩とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぐことにより、これらの混合水溶液中に酸化剤の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項6】
透明な容器に、
チオ硫酸塩とpH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、
ここに過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液を、
(1)グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れる、又は
(2)エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れ、
酸化剤溶液が拡散しながら
(1)容器の底に沈み、底の酸化剤溶液濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態を作り出し、あるいは
(2)容器の上方に浮き、上方の酸化剤溶液濃度が最も高く、下方にいくほど薄い状態を作り出し、
これらの混合水溶液中に酸化剤溶液の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項7】
透明な容器に、
pH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、
(1)ここに過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液を、
グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れ、あるいは
(1’)エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れ、
(2)ここに濃度の高いチオ硫酸塩溶液または固体状のチオ硫酸塩を少量、滴下するなどの方法で入れ、
酸化剤溶液が拡散しながら
(1)容器の底に沈み、あるいは
(1’)容器の上方に浮き
同様に
(2)チオ硫酸塩溶液が拡散しながら容器の底に沈み、
底の酸化剤及びチオ硫酸塩溶液の濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態、あるいは
上方の酸化剤の濃度が最も高く、下方にいくほど薄く、底のチオ硫酸塩溶液の濃度が最も高く、上方にいくほど薄い状態を作り出し、
これらの混合水溶液中に酸化剤及びチオ硫酸塩溶液の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
なお、上記の(1)あるいは(1’)と(2)を入れる順序は逆でもよいものとする。
【請求項8】
透明な容器に、
チオ硫酸塩と、過酸化水素又は過ヨウ素酸塩などの酸化剤溶液と、pH指示薬水溶液の混合溶液を注ぎ、あるいは[請求項7]の方法でチオ硫酸塩と酸化剤をpH指示薬水溶液の混合溶液に導入し、
ここに[請求項2]で記載した触媒溶液を、
(1)グリセリンや砂糖などのような溶液比重を増加させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れる、又は
(2)エチルアルコールなどのような溶液比重を減少させるための溶質と混合して少量、滴下するなどの方法で入れることにより、
(1)触媒が容器の底に沈んで、底の方へいくほど濃度が高い、あるいは
(2)触媒が容器の上方に浮いて、上の方へいくほど濃度が高い状態を作り出し、
これらの混合水溶液中に触媒の空間的な濃度分布を作り出すことによって、空間的なpH指示薬の色変化を生じさせると共に、この空間的に生じた色変化が時間的に変わっていくことを視覚的に利用した、手品や演示物の演出方法。
【請求項9】
内部の溶液が容易に混合されない細長い透明な管状容器で、その両端又は片端が開閉可能な容器の両端あるいは片端に、
スポイト状の容器を栓の代わりとして配置し、そのスポイト状容器の内部にチオ硫酸塩溶液、又は酸化剤をを充填し、
この管状容器内にpH指示薬水溶液と、チオ硫酸塩又は酸化剤溶液の混合物を入れ、
前記スポイト状の容器を押すことにより、あるいは、スポイト状容器からの自然拡散によって、スポイト状の容器内部の溶液を指示薬水溶液中に入れ、
段階的に色の変わっている状態を時間経過と共に作り出し、
その段階的に色の変わっている状態が長い時間持続するようにしたことを特徴とする手品や演示物の演出方法。
【請求項10】
[請求項1]又は[請求項3]又は[請求項4]又は[請求項5]又は[請求項6]又は[請求項7]又は[請求項9]に示した演出方法において、酸化剤溶液又はチオ硫酸塩溶液又はpH指示薬水溶液に、2価又は1価の銅塩、ないしは3価又は2価の鉄塩を混合することを特徴とした手品や演示物の演出方法。
【請求項11】
[請求項1]から[請求項10]の演出方法で適用されるpH指示薬として、以下(1)から(7)のいずれかの組み合わせを最低限もつことを特徴とした手品や演示物の演出方法。
(1)メチルレッドとクレゾールレッドとブロムチモールブルー
(2)メチルレッドとクレゾールレッドとブロムチモールブルーとフェノールフタレイン
(3)メチルレッドとブロムチモールブルーとフェノールフタレイン
(4)メチルレッドとブロムチモールブルーとチモールブルーとフェノールフタレイン
(5)上記(2)又は(4)のフェノールフタレインをo−又はp−クレゾールフタレインに置き換えたもの
(6)上記(1)から(4)のブロムチモールブルーをブロムキシレノールブルーに置き換えたもの
(7)上記(1)から(3)のブロムチモールブルーをチモールブルーに置き換えたもの
【請求項12】
[請求項1]から[請求項11]の手品や演示物の演出方法において、
酸化剤溶液又はチオ硫酸塩溶液又はpH指示薬水溶液に酸を加え、
これを混合したときにpH指示薬水溶液が酸性側の発色を示した状態を作り出し、
その後のチオ硫酸塩が酸化されることによって発生する水酸イオン(OH−)の空間的な濃度分布により、
空間的にpH指示薬の色変化を生じさせ、
時間経過と共に指示薬の色の状態が変わっていくことを視覚的に利用した手品や演示物の演出方法。
【請求項13】
[請求項1]から[請求項12]に示した材料と演出方法のうち、少なくとも一つを適用することを特徴とする手品、学習用教材、インテリア、ディスプレイ、玩具、アクセサリ。(以下、これら手品、学習用教材、インテリア、ディスプレイ、玩具、アクセサリの総称を「インテリア等」という。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−300984(P2006−300984A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117957(P2005−117957)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(304007352)
【出願人】(304007330)