説明

暖機運転制御装置

【課題】軸効率の向上を図った暖機制御が実施できなくなる機会を減らす。
【解決手段】走行駆動源として機能するエンジンの回転出力の一部を用いて発電し、その発電電力をバッテリに充電する充電システムを備えた車両に適用され、消費燃料量に対するエンジンの回転出力の割合を軸効率と呼び、軸効率が最大になるエンジンの回転速度とトルクの組み合わせを最適軸効率点A,B1,C1,D1,E1と呼び、エンジン出力毎の最適軸効率点を繋げた線を最適軸効率動作線Emと呼ぶ場合において、エンジンの熱損失が大きくなる側に最適軸効率動作線を補正して得られた暖機動作線Eh1,Eh2を、予め設定して記憶させておき、暖機動作線Eh1,Eh2上の回転速度とトルクでエンジンを暖機運転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力の一部を用いて発電し、その発電電力をバッテリに充電する充電システムを備えた車両に適用された、暖機運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1等には、エンジンを暖機運転させるにあたり、点火時期を遅角することにより熱損失量を増大させて、エンジンの温度上昇を促進させる旨が記載されている。
【0003】
ここで、単位時間当たりに発揮されたエンジンの仕事量であるエンジン出力には、クランク軸からの回転出力(運動エネルギ)と熱損失(熱エネルギ)が含まれており、燃料消費量に対する回転出力の割合(軸効率)が高いほど、熱損失を低減させて燃費(燃料消費率)を向上できる。しかしながら、上述した点火遅角を実施すると、熱損失が増大することにより暖機を促進できるものの、その背反として軸効率が悪化して燃費が悪くなる。
【0004】
これに対し、回転出力の一部を用いて発電し、その発電電力をバッテリに充電する充電システムを備えた車両(例えばハイブリッド車両)においては、特許文献2に記載の如く、エンジン出力を増大させて温度上昇を促進させつつ、エンジン出力増大に伴う回転出力増大分を発電に割り当ててバッテリに充電するので、軸効率を悪化させることなく温度上昇を促進させることができる。
【0005】
例えば、軸効率が最大になるエンジンの回転速度とトルクの組み合わせを最適軸効率点A,B1,C1,D1,E1(図3参照)と呼び、エンジン出力毎の最適軸効率点を繋げた線を最適軸効率動作線Em(図3参照)と呼ぶ場合において、暖機運転に要求されるエンジンの温度上昇量が不足する場合には、最適軸効率点の回転速度とトルクになるよう、最適軸効率動作線Emに沿ってエンジン出力を増大させていく。これにより、軸効率を悪化させることなく温度上昇を促進できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3673200号公報
【特許文献2】特許第4300600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2記載の暖機制御をバッテリ蓄電量が多い時に実施すると、暖機制御中にバッテリ蓄電量が増加していき満充電になることがあり、この場合には暖機制御が実施できなくなる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、軸効率の向上を図った暖機制御が実施できなくなる機会を減らすようにした、暖機運転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、走行駆動源として機能するエンジンの回転出力の一部を用いて発電し、その発電電力をバッテリに充電する充電システムを備えた車両に適用され、消費燃料量に対する前記エンジンの回転出力の割合を軸効率と呼び、前記軸効率が最大になる前記エンジンの回転速度とトルクの組み合わせを最適軸効率点と呼び、エンジン出力毎の前記最適軸効率点を繋げた線を最適軸効率動作線と呼ぶ場合において、前記エンジンの熱損失が大きくなる側に前記最適軸効率動作線を補正して得られた暖機動作線を、予め設定して記憶させておき、前記暖機動作線上の回転速度とトルクで前記エンジンを暖機運転させることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、エンジン出力を増大させて暖機促進を図るとともに、そのエンジン出力増大に伴う回転出力増大分を発電に割り当ててバッテリに充電させる暖機制御を実施するにあたり、熱損失が大きくなる側に最適軸効率動作線を補正した暖機動作線を用いて、エンジン出力を増大させる時の回転速度とトルクが設定される。そのため、軸効率の向上を図りつつ上述の暖機制御を実施できるとともに、その暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会を低減できる。
【0012】
請求項2記載の発明では、暖機運転を実施することによる前記エンジンまたは冷却水の温度と、前記バッテリの蓄電量との最適バランスを表した最適バランス線を、予め設定して記憶させておき、前記温度の増大よりも前記軸効率の向上を優先させる軸効率優先度合いを、現時点でのエンジンまたは冷却水の温度、現時点でのバッテリ蓄電量、および前記最適バランス線に基づき決定し、決定した前記軸効率優先度合いに応じて、前記最適軸効率動作線に対する前記補正の量を可変設定することを特徴とする。
【0013】
ここで、暖機目的でエンジン出力を増大させれば、回転出力(発電量)と熱損失(温度上昇量)の両方が増大することは避けられない。したがって、暖機制御の実施によりバッテリ蓄電量と温度がともに上昇していくが、これら両者をバランス良く上昇させていくことが望ましい。例えば、蓄電量を優先して上昇させていくと、温度上昇させたいにも拘わらず充電できない状態に陥る。また、温度を優先して上昇させていくと、未だ充電させる余裕があるにも拘わらず、軸効率の悪い暖機制御を実施して暖機が完了することになるので、燃費が悪くなる。
【0014】
これらの点を鑑みた上記発明では、エンジンまたは冷却水の温度と蓄電量との最適バランスを表した最適バランス線(図5中の符号Lb参照)を予め設定して記憶させておき、現時点での蓄電量、温度および最適バランス線に基づき軸効率優先度合いを決定する。そのため、最適バランス線に近づくように軸効率優先度合いを決定できる。
【0015】
そして、決定した軸効率優先度合いに応じて最適軸効率動作線に対する補正の量を可変設定するので、例えば、現時点での蓄電量および温度が最適バランス線よりも蓄電量が多い側にあれば(図5中の符号P1参照)、軸効率優先度合いを低くして前記補正の量を増大させることができる。その結果、蓄電量の上昇が抑制されるとともに温度上昇が促進され、蓄電量と温度が最適バランス線Lbに沿ってバランス良く上昇するようになる。よって、暖機制御中に満充電になるおそれを低減できる。
【0016】
逆に、現時点での蓄電量および温度が最適バランス線よりも温度が高い側にあれば(図5中の符号P2参照)、軸効率優先度合いを高くして前記補正の量を減少させることができる。その結果、蓄電量の上昇が促進されるとともに温度上昇が抑制され、蓄電量と温度が最適バランス線Lbに沿ってバランス良く上昇するようになる。よって、補正量を小さくして軸効率を向上できる。
【0017】
なお、上記発明の具体例としては、図3に例示するように、補正量の異なる複数の暖機動作線Eh1,Eh2を予め設定して記憶させておき、これら複数の暖機動作線の中から、軸効率優先度合いに応じた動作線を選択し、選択した動作線を用いて暖機制御を実施することが挙げられる。
【0018】
或いは、図3に例示する複数の暖機動作線Eh,Eh1および最適軸効率動作線Emの中から、軸効率優先度合いに応じた動作線を選択し、選択した動作線を用いて暖機制御を実施することが挙げられる。或いは、補正量がゼロである最適軸効率動作線Emと、図6に例示する暖機動作線Ehのいずれかを軸効率優先度合いに応じて選択し、選択した動作線を用いて暖機制御を実施することが挙げられる。
【0019】
請求項3記載の発明では、エンジン出力が低い場合であるほど、前記補正の量を小さくすることを特徴とする。なお、請求項2を請求項3に組み合わせた発明の場合、軸効率優先度合いを決定するにあたり、エンジン出力が低い場合であるほど軸効率優先度合いを大きくすればよい。
【0020】
ここで、エンジン出力が低い領域(回転速度およびトルクが低い領域)では、エンジン出力を僅かに増大させるだけで軸効率が大幅に向上する。この点を鑑みた上記発明では、エンジン出力が低い場合であるほど、最適軸効率動作線に対する補正の量を小さくするので、軸効率を大幅に向上でき、燃費向上の効果を促進できる。
【0021】
例えば、エンジン出力が所定値未満である場合には補正量をゼロにした動作線(つまり最適軸効率動作線)を用いて暖機制御を実施し、エンジン出力が所定値以上である場合には暖機動作線を用いて暖機制御を実施することが具体例として挙げられる(図6参照)。
【0022】
請求項4記載の発明では、前記バッテリの温度が低温であることに起因して、前記バッテリへ流れる充電電流が制限されている場合には、その制限値を超えないようにエンジン出力を上昇させることを特徴とする。
【0023】
ここで、バッテリが極低温の場合には、充放電に伴い生じるバッテリ内部での化学反応が起こりにくくなり、充放電電流が制限されるようになる。そのため、バッテリに蓄電の空きがある場合であっても前記制限により十分な充電が為されなくなる。この点を鑑みた上記発明では、その制限値を超えないようにエンジン出力を上昇させるので、充電可能量を超えてエンジン出力を上昇させることを回避して、燃費悪化を抑制できる。
【0024】
ちなみに、バッテリの温度が上限値を超えて高温になっている場合には、バッテリが熱損傷することが懸念されるため、このような場合には、バッテリ温度が上限値を超えないようにエンジン出力を制限することが望ましい。
【0025】
請求項5記載の発明では、前記バッテリの蓄電量が所定値以上である場合には、車両に搭載された電熱装置による発熱量を増大させることを特徴とする。
【0026】
これによれば、電熱装置による発熱量増大により暖機を促進できるとともに、暖機制御による蓄電量上昇を抑制できるので、暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会低減の効果を促進できる。
【0027】
請求項6記載の発明では、前記バッテリの蓄電量が所定値以上である場合には、車両に搭載されたサブバッテリへ前記バッテリから送電することを特徴とする。
【0028】
これによれば、暖機制御によるバッテリ蓄電量の上昇を抑制できるので、暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会低減の効果を促進できる。
【0029】
請求項7記載の発明では、車両の運転期間中に、前記バッテリの蓄電量が上限値未満となるように前記バッテリの充放電状態を制御するハイブリッド車両に適用され、次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測される場合には、暖機不要と予測される場合に比べて前記上限値を低く設定することを特徴とする。
【0030】
これによれば、暖機が必要になると予測される次回のエンジン始動時には、暖機不要予測時よりもバッテリ充電量が少なくなっている。よって、次回の暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会低減の効果を促進できる。
【0031】
請求項8記載の発明では、前記車両の運転停止時に、外部電源から前記バッテリを充電させるプラグイン車両に適用される場合において、次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測される場合には、暖機不要と予測される場合に比べて、前記外部電源から充電する際の蓄電量の上限値を低く設定することを特徴とする。
【0032】
これによれば、暖機が必要になると予測される次回のエンジン始動時には、暖機不要予測時よりもバッテリ充電量が少なくなっている。よって、次回の暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会低減の効果を促進できる。
【0033】
ちなみに、この種のプラグイン車両は走行開始時にはモータ走行させるのが一般的であり、この場合にはエンジンを即座に暖機することは要求されない。しかし、先述したバッテリの極低温時等、十分なモータ走行を開始できない場合には走行開始時点で直ぐにエンジン暖機が要求されることとなり、この場合において、上記発明による暖機制御の効果が好適に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に適用される、車両のシステム全体構成を示す図。
【図2】第1実施形態において、暖機駆動制御の処理手順を示すフローチャート。
【図3】燃料消費率(軸効率)の等高線を示すとともに、最適軸効率動作線および暖機動作線を示す図。
【図4】熱損失率の等高線を示す図。
【図5】最適バランス線を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態で用いられる、最適軸効率動作線および暖機動作線を示す図。
【図7】本発明の第3実施形態における充電制御内容を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0036】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる暖機運転制御装置が適用される車両の、システム全体構成を示す。同図に示すように、本システムは、走行駆動源として機能するエンジン10およびモータ(MG11)を備えている。このモータは発電機としても機能する。
【0037】
エンジン10およびMG11の駆動力は、クランク軸(駆動軸12)を介して変速機13に伝達され、さらにデファレンシャル14を介して駆動輪15に伝達される。なお、変速機13には、摩擦によって変速比を連続的に変化させることで、無段階での変速を可能としたものが採用されている。
【0038】
一方、車両の減速時には、駆動輪15の回転力が、デファレンシャル14を介して変速機13に伝達され、MG11に伝達される。これによりMG11にて回生発電が為される。また、エンジン10の駆動力(回転出力)でMG11を発電作動させることもできる。
【0039】
エンジン10のシリンダブロックやシリンダヘッドの内部にはウォータジャケットが形成されており、このウォータジャケットに冷却水が循環供給されることで、エンジン10の冷却が行われる。ウォータジャケットには冷却水配管等からなる冷却水循環経路21が接続されており、その循環経路21には、冷却水を循環させるための電動ポンプ22が設けられている。そして、電動ポンプ22の吐出量が変更されることにより、循環経路21を循環する冷却水の流量が調整される。
【0040】
循環経路21は、エンジン10の出口側においてヒータコア23に向けて延び、ヒータコア23を経由して再びエンジン10に戻るようにして設けられている。ヒータコア23には、ブロアファン24から空調風が送り込まれるようになっており、空調風がヒータコア23又はその付近を通過することで、ヒータコア23からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。
【0041】
このような構成において、電動ポンプ22の吐出量及びブロアファン24の駆動状態が制御されることにより、冷却水からヒータコア23を介して車室内へ供給される熱量が制御される。
【0042】
また、本システムは、ヒートポンプシステム30(電動熱源)を備えている。このヒートポンプシステム30は、電動コンプレッサ31と、コンプレッサ用インバータ32と、室内熱交換器37(熱交換部)と、室外熱交換器34と、ファン35と、膨張弁36と、アキュムレータ33と、これらを接続する冷媒配管等からなる冷媒循環経路39と、ヒートポンプ制御装置38とを備えている。
【0043】
電動コンプレッサ31は冷媒を圧縮して加熱し、この加熱された冷媒が室内熱交換器37へ送出される。そして、上記ブロアファン24から空調風が送り込まれ、空調風が室内熱交換器37の付近を通過することで、室内熱交換器37からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。このとき、冷媒は放熱により冷却される。
【0044】
室内熱交換器37を流通した冷媒は膨張弁36により減圧され、室外熱交換器34へ送出される。そして、ファン35により室外熱交換器34へ外気が送り込まれ、この外気からの受熱により冷媒が加熱される。この加熱された冷媒は、アキュムレータ33を経由して電動コンプレッサ31に送出される。
【0045】
電動コンプレッサ31はコンプレッサ用インバータ32から供給される電力により駆動され、インバータ32はヒートポンプ制御装置38によって制御される。そして、ヒートポンプ制御装置38及びインバータ32を通じて、電動コンプレッサ31の駆動状態が制御されることにより、ヒートポンプシステム30から室内熱交換器37を介して車室内へ供給される熱量が制御される。
【0046】
本システムは、電源として、エンジン10の駆動力(回転出力)により駆動される発電機41、及び充放電を行うメインバッテリ43を備えている。MG11および発電機41で発電された電力はメインバッテリ43に充電される。メインバッテリ43に蓄電された電力は、インバータ32や電動ポンプ22、各種の電気負荷42に供給される。
【0047】
また、メインバッテリ43よりも出力電圧が低いサブバッテリ44を備えており、低圧電源(例えば12V)で駆動する電動ポンプ22および電気負荷42へはサブバッテリ44から電力供給され、高圧電源(例えば400V)が要求されるインバータ32等の高圧電気負荷へはメインバッテリ43から電力供給される。メインバッテリ43およびサブバッテリ44はDC−DCコンバータを介して接続されているため、メインバッテリ43の電力を降圧してサブバッテリ44へ供給し、サブバッテリ44を充電することができる。
【0048】
本車両は、電源制御装置51、エンジン制御装置52、発電機制御装置53、及び空調制御装置54を備えている。これらの制御装置51〜54は、CPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで各種制御を実施する。
【0049】
電源制御装置51は、空調制御装置54を通じて、上記電動ポンプ22、ブロアファン24、及びヒートポンプ制御装置38を制御する。また、電源制御装置51は、発電機制御装置53を通じて、MG11の制御量を所望に制御すべくインバータ46を通電操作する。
【0050】
エンジン制御装置52は、エンジン10の運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。本システムでは、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ67、吸入空気量や吸気管負圧といったエンジン10の負荷を検出するエンジン負荷センサ68、ウォータジャケット内の冷却水の温度を検出する水温センサ69等を備えている。これら各センサの検出信号は、エンジン制御装置52に適宜入力される。
【0051】
エンジン制御装置52は、上述した各種センサから検出信号を入力し、それらの検出信号に基づいて燃料噴射弁による燃料噴射制御、点火装置による点火時期制御、吸気側及び排気側のバルブ駆動機構によるバルブタイミング制御、スロットルバルブによる吸気量制御を実施する。これにより、エンジン出力が制御される。
【0052】
前記「エンジン出力」とは、単位時間当たりに発揮されたエンジン10の仕事量(つまり仕事率)であり、このエンジン出力には、駆動軸12を回転させることに用いられた仕事率である回転出力(運動エネルギ)と、熱損失(熱エネルギ)が含まれる。
【0053】
さらにエンジン制御装置52は、変速機13の作動を制御することにより駆動軸12と駆動輪15との変速比を制御する。これにより、駆動軸12の回転速度と駆動軸12の回転トルクの割合が制御される。つまり、変速比を制御することでエンジン回転数および回転トルクを所望の値に制御する。ちなみに、駆動軸12の回転速度は単位時間当たりの回転数で表現されることが一般的であり、以下の説明では駆動軸12の回転速度のことを単にエンジン回転数と記載する。
【0054】
上記の各種制御において基本的には、エンジン10の運転状態に応じて軸効率が異なる。この点に鑑み、その時々の運転状態において、エンジン10の軸効率が最高となるように、適合データ等に基づいて各種制御を実施する。なお、前記「軸効率」とは、回転出力の単位出力あたりに要する消費燃料量のことであり、燃料消費率(消費燃料量/回転出力)に相当する。
【0055】
ここで、メインバッテリ43の蓄電量が所定値未満になっている場合や、MG11によるモータ走行では加速要求を十分に満たすことができない場合には、エンジン10を自動始動(通常始動)させる。また、外気温度が低温である場合等、水温センサ69により検出された冷却水温度が所定値未満である場合には、エンジン10の暖機運転が要求され、この場合にもエンジン10を自動始動(暖機始動)させる。
【0056】
エンジン10の暖機運転は、温度を迅速に上昇させて早期に完了させることが要求される。そこでエンジン制御装置52は、冷却水温度に基づき暖機完了に要する時間(目標暖機完了時間)を設定するとともに、この目標暖機完了時間および冷却水温度に基づき温度上昇量の目標値(目標温度上昇量)を設定する。この「温度上昇量」とは、暖機運転を実施しない場合に比べた温度上昇分のことである。
【0057】
エンジン制御装置52は、通常始動時に比べてエンジン出力を増大させることで温度上昇を促進させて暖機運転を実施する。詳細には、エンジン制御装置52(暖機駆動制御手段)は、上述したエンジン出力の増大量と、その時の変速比(つまりエンジン回転数および回転トルクの比)を、その時の冷却水温度、メインバッテリ43の蓄電量、および目標温度上昇量に基づき設定する。そして、設定したエンジン出力、エンジン回転数および回転トルクとなるよう、エンジン10および変速機13を制御(暖機駆動制御)する。
【0058】
また、このような暖機時駆動制御によりエンジン出力を増大させると、熱損失が増大するとともに回転出力も増大する。発電機制御装置53(暖機発電制御手段)は、この回転出力増大分に相当する発電量をMG11で発電させるよう、インバータ46を制御(暖機発電制御)する。これにより、回転出力増大分だけ発電されてメインバッテリ43に充電される。
【0059】
図2は、エンジン制御装置52が有するマイクロコンピュータによる上記暖機駆動制御の処理手順を示すフローチャートであり、当該処理は所定周期で繰り返し実行される。
【0060】
先ず、図2に示すステップS11において、冷却水温度が所定値未満であるか否かを判定する。冷却水温度≧所定値と判定されれば(S11:NO)、暖機運転が不要であるとみなして図2の処理を終了する。なお、冷却水温度に替えてエンジン温度に基づき暖機運転が必要であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0061】
一方、冷却水温度<所定値と判定されれば(S11:YES)、暖機運転を要求するフラグをオンに設定し、続くステップS12において、メインバッテリ43の蓄電量(バッテリ残量)が所定値未満であるか否かを判定する。なお、蓄電量は、メインバッテリ43の充電電流および放電電流の収支に基づき算出してもよいし、バッテリ電圧の検出値から算出してもよい。ちなみに、上記「バッテリ残量」は、充電状態を表すSOC(State of charge:満充電時の充電量に対する充電量の割合)に相当する。
【0062】
バッテリ残量<所定値と判定されれば(S12:YES)、続くステップS13において、メインバッテリ43が許容可能な最大の充電電流(許容充電電流)の値を、バッテリ温度に基づきマップM1を参照して算出する。すなわち、バッテリ温度が低いほど、充放電に伴い生じるバッテリ内部での化学反応が起こりにくくなり、充放電電流が制限されるようになる。この時の制限値が許容充電電流に相当する。
【0063】
続くステップS14では、目標バッテリ残量、現在バッテリ残量および目標暖機完了時間に基づき、暖機運転時に充電可能な電力(許容充電電力)の値を算出する。詳細には、目標バッテリ残量に対する現在バッテリ残量の不足分を目標暖機完了時間で除算し、その除算値に、電力をSOCに変換する係数を乗算して、許容充電電力を算出する(許容充電電力=変換係数×(目標バッテリ残量−現在バッテリ残量)/目標暖機完了時間)。なお、この許容充電電力は、ステップS13で算出した許容充電電流値を超えないように制限して設定する。
【0064】
続くステップS15では、目標水温、現在水温および目標暖機完了時間に基づき、暖機運転に要求される温度上昇量に相当する熱量(要求発生熱量)の値を算出する。詳細には、目標水温に対する現在水温の不足分を、目標暖機完了時間で除算し、その除算値に、水温を熱量に変換する係数を乗算して、要求発生熱量を算出する(要求発生熱量=変換係数×(目標水温−現在水温)/目標暖機完了時間)。
【0065】
続くステップS16では、暖機運転時のエンジン回転数および回転トルクの目標値を、許容充電電力および要求発生熱量に基づき、図3に示す最適軸効率動作線Emおよび複数の暖機動作線Eh1,Eh2を参照して設定する。以下、これらの動作線Em,Eh1,Eh2について説明する。
【0066】
図3中の実線Eは、燃料消費率(軸効率)の等高線を示す。すなわち、エンジン出力が同じであっても、その時のエンジン10の回転トルクと回転数の値が異なれば軸効率は異なってくる。等高線Eは、軸効率が同じになるような回転トルクと回転数の点(動作点)を繋いだ線である。また、図3中の点線P1〜P5はエンジン出力が同じ点を繋いだ線(等パワー線)である。
【0067】
同一の等パワー線上に位置する動作点B1〜B3、動作点C1〜C3、動作点D1〜D3、動作点E1〜E3の各々は、エンジン出力は同じであるがトルクと回転数が異なることに起因して軸効率が異なることを示す。つまり、軸効率は、動作点B1〜E1、B2〜E2、B3〜E3の順に低くなる(図3中の矢印Y1参照)。但し、このように軸効率が低下するほど、図4に示すように熱損失率は増大する(図4中の矢印Y2参照)。
【0068】
図4中の実線Hは、熱損失率の等高線を示す。すなわち、エンジン出力が同じであっても、その時のエンジン10の回転トルクと回転数の値が異なれば熱損失率は異なってくる。等高線Hは、熱損失率が同じになるような回転トルクと回転数の動作点を繋いだ線である。
【0069】
そして、図3中の矢印Y1に示すように、低トルクかつ低回転数であるほど軸効率は低下するのに対し、図4中の矢印Y2に示すように、低トルクかつ低回転数であるほど熱損失率は増大する。要するに、軸効率を増大させるようにトルクおよび回転数を設定すると熱損失率は減少し、軸効率を減少させるようにトルクおよび回転数を設定すると熱損失率は増大する。
【0070】
この点を踏まえて図3の説明に戻り、等パワー線P1〜P5上において、軸効率が最大になる回転数とトルクの組み合わせを最適軸効率点と呼ぶ。図3の例では動作点A,B1,C1,D1,E1が最適軸効率点である。そして、これらの最適軸効率点A,B1,C1,D1,E1を繋いだ線を最適軸効率動作線Emと呼ぶ。
【0071】
そして、熱損失が大きくなる側に最適軸効率動作線Emを補正した線が、先述した暖機動作線Eh1,Eh2である。第1暖機動作線Eh1にかかる補正量h1は、第2暖機動作線Eh2にかかる補正量h2よりも小さく設定されている。つまり、最適軸効率動作線Emは軸効率を熱損失率よりも最優先させた動作線であり、第1暖機動作線Eh1は最適軸効率動作線Emよりも熱損失を優先させ、第2暖機動作線Eh2は第1暖機動作線Eh1よりもさらに熱損失を優先させた動作線である。
【0072】
ここで、図3中の動作点Aは、走行動力要求から決定されるエンジン出力であって、最適軸効率動作線Em上の回転数およびトルクである。そして、暖機要求に伴い動作点Aからさらにエンジン出力を上昇させるにあたり、最適軸効率動作線Emに沿って上昇させていき、熱損失の増大分で暖機を促進させるとともに、回転出力の増大分で発電して充電させることが、軸効率を向上する点で望ましい。しかし、バッテリ残量に十分な空きがなければ、回転出力の増大分が無駄になるため、この場合には、暖機動作線Eh1,Eh2に沿ってエンジン出力を上昇させていき、回転出力の増大を抑制し、熱損失の増大を促進させることが望ましい。
【0073】
したがって、暖機要求に伴い動作点Aからさらにエンジン出力を上昇させる際には、エンジンまたは冷却水の温度Twとバッテリ残量をバランスよく共に上昇させていくことが望ましい。例えば、満充電の状態になるまで最適軸効率動作線Emに沿って出力上昇させ、満充電以降は大幅に補正した暖機動作線に沿って出力上昇させるといった暖機運転を実施すると、暖機運転期間全体における軸効率を十分に向上させることはできない。
【0074】
図5は、温度Twとバッテリ残量をバランスよく共に上昇させる際の、温度Twとバッテリ残量との最適バランスを表した最適バランス線Lbを示す。そして、現時点でのバッテリ残量および温度が最適バランス線Lbよりも蓄電量が多い側にあれば(図5中の符号P1参照)、軸効率優先度合いを低くして、暖機動作線Eh1,Eh2に沿って出力上昇させる。その結果、蓄電量の上昇が抑制されるとともに温度上昇が促進され、バッテリ残量と温度が最適バランス線Lbに沿ってバランス良く上昇するようになる。よって、暖機制御中に満充電になるおそれを低減できる。
【0075】
逆に、現時点でのバッテリ残量および温度が最適バランス線Lbよりも高温側にあれば(図5中の符号P2参照)、軸効率優先度合いを高くして、最適軸効率動作線Emに沿って出力上昇させる。その結果、蓄電量の上昇が促進されるとともに温度上昇が抑制され、バッテリ残量と温度が最適バランス線Lbに沿ってバランス良く上昇するようになる。よって、補正量h1,h2を小さくして軸効率を向上できる。
【0076】
換言すれば、温度上昇量の増大よりも軸効率の向上を優先させる度合いを「軸効率優先度合い」と定義した場合において、現時点でのバッテリ残量と温度がバランス線LbよりもP2側にあれば軸効率優先度合いを高く設定し、P1側にあれば軸効率優先度合いを低くするように設定する。そして、設定した軸効率優先度合いに応じて、最適軸効率動作線に対する補正量h1,h2を可変設定していると言える。
【0077】
以上が、図2のステップS16において、エンジン回転数および回転トルクの目標値を設定する概略である。次に、このようにエンジン出力、回転数およびトルクを設定する具体的な手順の一例について説明する。
【0078】
エンジン制御装置52のメモリには、予め試験を実施して取得しておいた最適軸効率動作線Em、および暖機動作線Eh1,Eh2を記憶させておく。或いは、動作点B1〜B3、C1〜C3、D1〜D3、E1〜E3を記憶させておく。そして先ず、これら各動作点でエンジン10および変速機13を制御した場合における発生熱量および充電電力を算出する。
【0079】
次に、算出した充電電力が、ステップS14で算出した許容充電電力未満となっており、かつ、算出した発生熱量が、ステップS15で算出した要求発生熱量以上となっている動作点を選択する。この条件を満たす動作点が複数存在する場合には、最適バランス線Lbとの距離が最も小さくなる動作点を選択する。或いは、発熱量が最大となる動作点を選択する。そして、選択した動作点の回転数およびトルクを目標値として設定する。要するに、先述した軸効率優先度合いが小さいほど、補正量h1,h2が大きい動作線上の動作点を選択する。
【0080】
続くステップS17では、ステップS16で設定した回転数の目標値となるように、変速機13の変速比を設定する。なお、エンジン停止状態のときには、変速比を所定値(例えば1)に固定する。続くステップS18では、ステップS16で選択した動作点のエンジン出力となるように、エンジン10の燃料噴射量および点火時期等を制御するとともに、ステップS17で設定した変速比となるように変速機13を制御する。
【0081】
なお、先述したステップS12において、バッテリ残量≧所定値と判定された場合には(S12:NO)、ステップS21に進み、電熱装置が冷却水の加熱に利用できる状態にあるか否かを判定する。電熱装置の具体例としては、ヒートポンプシステム30やグロープラグ、電熱線ヒータ等が挙げられる。冷却水加熱に利用可と判定されれば(S21:YES)、続くステップS22において電熱装置の出力を以下のように設定し、電熱装置を作動させる。
【0082】
具体的には、ステップS15で算出した要求発生熱量が、熱損失量q1+加熱量q2未満となり、かつ、ステップS14で算出した許容充電電力がバッテリ空き量未満となるように、電熱装置の出力を設定する。熱損失量q1はエンジン出力増大に伴い生じる熱量であり、加熱量q2は電熱装置による加熱量である。バッテリ空き量は、バッテリ総量からバッテリ残量および電熱装置の消費電力を減算した値である。
【0083】
要するに、メインバッテリ43のバッテリ残量に十分な余裕がある場合(S12:NO)には、電熱装置を作動させることにより冷却水温度上昇を促進させる。また、電熱装置を作動させることにより、メインバッテリ43が満充電状態になり最適軸効率動作線Emに沿ってエンジン出力を上昇させる制御ができなくなる機会を低減させる。
【0084】
さらに、続くステップS31では、サブバッテリ44の残量が所定量未満であるか否かを判定し、肯定判定されれば、続くステップS32においてメインバッテリ43からサブバッテリ44へ送電する。
【0085】
要するに、メインバッテリ43のバッテリ残量に十分な余裕があり(S12:NO)、かつ、サブバッテリ44に十分な空き容量がある(S31:YES)場合に、前記送電を実施することにより、メインバッテリ43が満充電状態になり最適軸効率動作線Emに沿ってエンジン出力を上昇させる制御ができなくなる機会を低減させる。
【0086】
以上により、本実施形態によれば、エンジン出力を増大させて暖機促進を図るとともに、そのエンジン出力増大に伴う回転出力増大分を発電に割り当ててメインバッテリ43に充電させる暖機制御を実施するにあたり、熱損失が大きくなる側に最適軸効率動作線Emを補正した暖機動作線Eh1,Eh2を設定しておき、これら複数の動作線Em,Eh1,Eh2にかかる動作点B1〜E3の中から、エンジン出力を増大させる時の回転数とトルクを設定する。
【0087】
そのため、軸効率の向上を図りつつ暖機制御を実施できるとともに、その暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会を低減できる。ちなみに、走行用のモータ(MG11)が搭載されておらずエンジンだけを走行駆動源とした車両においては、エンジン回転数を増加させる暖機制御が広く普及している。この暖機制御をハイブリッド車両にそのまま適用した場合には、図3および図4に示す動作点Aから等パワー線上の動作点Bに変更することで暖機運転を実施することになる。この場合には軸効率の悪化を招く。
【0088】
(第2実施形態)
図6に示す本実施形態では、要求されるエンジン出力が所定値Pth以上である場合には、上記第1実施形態と同様にして、最適軸効率動作線Em上の複数動作点、および暖機動作線Eh1,Eh2上の複数動作点の中から、暖機制御時の最適な動作点を選択する。但し、要求されるエンジン出力が所定値Pth未満である場合には、最適軸効率動作線Em上の複数動作点の中から、暖機制御時の最適な動作点を選択し、暖機動作線Ehを採用しない。
【0089】
なお、上述の如くエンジン出力が所定値Pth未満である場合に最適軸効率動作線Emを用いることに替え、ステップS15で算出した要求発生熱量が所定値未満である場合に、エンジン出力が所定値Pth未満であるとみなして最適軸効率動作線Emを用いるようにしてもよい。
【0090】
要するに、本実施形態では、先述した軸効率優先度合いを決定するにあたり、エンジン出力が所定値Pth未満である場合に軸効率優先度合いを最大にしていると言える。なお、本実施形態の変形例として、エンジン出力が低い場合であるほど軸効率優先度合いを大きく設定して、補正量h1,h2を小さくするようにしてもよい。
【0091】
ここで、エンジン出力が低い領域では、エンジン出力を僅かに増大させるだけで軸効率が大幅に向上するので、軸効率優先度合いを僅かに大きくするだけで軸効率が大幅に向上する。この点を鑑みた本実施形態では、エンジン出力が所定値Pth未満である場合には、軸効率優先度合いを最大にして(補正量h1,h2をゼロにして)、最適軸効率動作線Emを用いて暖機制御を実施するので、軸効率を大幅に向上でき、燃費向上の効果を促進できる。
【0092】
(第3実施形態)
ここで、車両の運転中において、メインバッテリ43の蓄電量が上限値未満かつ下限値以上となるように充放電制御するのが、一般的なハイブリッド車両の充放電制御である。例えば、モータ走行時に蓄電量が下限値未満となった場合にはエンジン10を自動始動させ、蓄電量が上限値以上となった場合にはメインバッテリ43への充電を禁止して、メインバッテリ43からの放電を促進させる、といった充放電制御である。
【0093】
本実施形態では、このような充放電制御を実施するハイブリッド車両に適用されることを前提としており、次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測される場合には、暖機不要と予測される場合に比べて、前記上限値を低く設定する。
【0094】
例えば、図7(a)に示すように、車両運転中に外気温度が所定値以下であれば(S41:YES)、次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測する。或いは、外気温度の履歴に基づき予測する。そして、上述したメインバッテリ43の上限値を低減する量を、外気温度に応じて設定する(S42)。例えば、図7(b)中の実線に示すように、外気温度が低いほど上限値の低減量を多くしている。
【0095】
これによれば、暖機が必要になると予測される次回のエンジン始動時には、暖機不要予測時よりもバッテリ残量が少なくなっている。よって、次回の暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会を低減できる。また、現時点での外気温度が低いほど、次回エンジン暖機時に要求される熱量(要求発生熱量)は多くなる可能性が高い。この点を鑑みた図7の制御では、外気温度が低いほど上限値の低減量を多くしてバッテリ残量を少なくしておくので、次回の暖機制御中に満充電になる可能性をより一層低減できる。
【0096】
(第4実施形態)
上記第3実施形態では、車両運転中にメインバッテリ43を充電し、車両の運転停止時には充電不可であるハイブリッド車両を適用対象としているが、本実施形態では、車両の運転停止時に外部電源からメインバッテリ43を充電させるプラグイン車両を適用対象とする。この種のプラグイン車両では、外部電源からの充電時に、メインバッテリ43の蓄電量が上限値未満となるように制限するのが一般的である。
【0097】
本実施形態では、このような制限を実施するプラグイン車両に適用されることを前提としており、次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測される場合には、暖機不要と予測される場合に比べて、前記上限値を低く設定する。
【0098】
具体的な処理手順は図7(a)と同様であり、外部電源からの充電時に外気温度が所定値以下であれば(S41:YES)、次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測する。或いは、外気温度の履歴に基づき予測する。そして、上述したメインバッテリ43の上限値(制限値)を低減する量を、外気温度に応じて設定する(S42)。例えば、図7(b)中の点線に示すように、外気温度が低いほど上限値の低減量を多くしている。
【0099】
これによれば、暖機が必要になると予測される次回のエンジン始動時には、暖機不要予測時よりもバッテリ残量が少なくなっている。よって、次回の暖機制御中に満充電になって暖機制御が実施できなくなるといった機会を低減できる。また、現時点での外気温度が低いほど、次回エンジン暖機時に要求される熱量(要求発生熱量)は多くなる可能性が高い。この点を鑑みた図7の制御では、外気温度が低いほど上限値の低減量を多くしてバッテリ残量を少なくしておくので、次回の暖機制御中に満充電になる可能性をより一層低減できる。
【0100】
ちなみに、プラグイン車両の場合には車両の運転開始時にはメインバッテリ43が満充電状態になっていることが想定されるので、運転開始時にエンジン暖機が要求される機会が少ない。但し、外気温度が極低温の場合には、満充電状態であってもメインバッテリ43から十分に放電できなくなるので、その場合には運転開始時にエンジン暖機が要求されることになる。本実施形態ではこの場合を想定して上限値を低減させるものであり、図7(b)中の実線に示すハイブリッド車両の場合に比べて、極低温時には上限値の低減量を大きく設定し、所定温度以上の領域では上限値の低減量を小さく設定している。
【0101】
(第5実施形態)
上述した図2のステップS16では、複数の動作線Em,Eh1,Eh2上の各動作点B1〜E3の全てについて、充電電力および発生熱量を算出し、これらの算出値を、要求発生熱量および許容充電電力と比較することで、動作点を選択している。
【0102】
これに対し本実施形態では、複数の動作線Em,Eh1,Eh2の中から、要求発生熱量および許容充電電力に最適な動作線を選択する。そして、選択した動作線上の各動作点について、充電電力および発生熱量を算出し、これらの算出値を、要求発生熱量および許容充電電力と比較することで、動作点を選択する。
【0103】
本実施形態によれば、全ての動作点B1〜E3について充電電力および発生熱量を算出する上記第1実施形態に比べて、充電電力および発生熱量を算出する動作点の数を減らすことができるので、エンジン制御装置52の演算処理負荷を軽減できる。
【0104】
(第6実施形態)
上記第1実施形態では、複数の動作線Em,Eh1,Eh2上の各動作点B1〜E3の中から最適な動作点を選択しているが、本実施形態では、最適軸効率動作線Emを用いることを廃止して、1本の暖機動作線を用いて最適な動作点を選択する。すなわち、1本の暖機動作線上の各動作点について、充電電力および発生熱量を算出し、これらの算出値を、要求発生熱量および許容充電電力と比較することで、動作点を選択する。
【0105】
本実施形態によれば、全ての動作点B1〜E3について充電電力および発生熱量を算出する上記第1実施形態に比べて、充電電力および発生熱量を算出する動作点の数を減らすことができるので、エンジン制御装置52の演算処理負荷を軽減できる。
【0106】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、各動作線Em,Eh1,Eh2,Ehをエンジン制御装置52に記憶させているが、記憶内容の具体例としては、動作線を表す数式を記憶させる例や、各動作点B1〜E3を記憶する例が挙げられる。
【符号の説明】
【0107】
10…エンジン、30…ヒートポンプシステム(電熱装置)、43…メインバッテリ(バッテリ)、44…サブバッテリ、A,B1,C1,D1,E1…最適軸効率点、Eh1,Eh2,Eh…暖機動作線、Em…最適軸効率動作線、h1,h2…補正量、Lb…最適バランス線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動源として機能するエンジンの回転出力の一部を用いて発電し、その発電電力をバッテリに充電する充電システムを備えた車両に適用され、
消費燃料量に対する前記エンジンの回転出力の割合を軸効率と呼び、前記軸効率が最大になる前記エンジンの回転速度とトルクの組み合わせを最適軸効率点と呼び、エンジン出力毎の前記最適軸効率点を繋げた線を最適軸効率動作線と呼ぶ場合において、
前記エンジンの熱損失が大きくなる側に前記最適軸効率動作線を補正して得られた暖機動作線を、予め設定して記憶させておき、
前記暖機動作線上の回転速度とトルクで前記エンジンを暖機運転させることを特徴とする暖機運転制御装置。
【請求項2】
暖機運転を実施することによる前記エンジンまたは冷却水の温度と、前記バッテリの蓄電量との最適バランスを表した最適バランス線を、予め設定して記憶させておき、
前記温度の増大よりも前記軸効率の向上を優先させる軸効率優先度合いを、現時点でのエンジンまたは冷却水の温度、現時点でのバッテリ蓄電量、および前記最適バランス線に基づき決定し、
決定した前記軸効率優先度合いに応じて、前記最適軸効率動作線に対する前記補正の量を可変設定することを特徴とする請求項1に記載の暖機運転制御装置。
【請求項3】
エンジン出力が低い場合であるほど、前記補正の量を小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載の暖機運転制御装置。
【請求項4】
前記バッテリの温度が低温であることに起因して、前記バッテリへ流れる充電電流が制限されている場合には、その制限値を超えないようにエンジン出力を上昇させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の暖機運転制御装置。
【請求項5】
前記バッテリの蓄電量が所定値以上である場合には、車両に搭載された電熱装置による発熱量を増大させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の暖機運転制御装置。
【請求項6】
前記バッテリの蓄電量が所定値以上である場合には、車両に搭載されたサブバッテリへ前記バッテリから送電することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の暖機運転制御装置。
【請求項7】
車両の運転期間中に、前記バッテリの蓄電量が上限値未満となるように前記バッテリの充放電状態を制御するハイブリッド車両に適用され、
次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測される場合には、暖機不要と予測される場合に比べて前記上限値を低く設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の暖機運転制御装置。
【請求項8】
前記車両の運転停止時に、外部電源から前記バッテリを充電させるプラグイン車両に適用される場合において、
次回のエンジン始動時に暖機が必要になると予測される場合には、暖機不要と予測される場合に比べて、前記外部電源から充電する際の蓄電量の上限値を低く設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の暖機運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112326(P2013−112326A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263424(P2011−263424)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】