説明

暗号パターン生成方法および暗号記録媒体

【課題】 2つの暗号パターンを重ね合わせ元の画像情報を復元する視覚復号型秘密分散法を用いながらも、複数の暗号パターンに対し1つの共通暗号パターンを作用させることにより複数の復元画像が得られるような、すなわち1対多による復元画像が可能となる暗号パターンの生成方法および暗号記録媒体を提供することを課題とする。
【解決手段】 複数の元画像から対応する個々の暗号パターンの生成は、元画像と共通暗号パターンとの間で、同一位置のセル同士を比較し、その差分に基づき所定の条件でセルの値を決定することで実現できる。このように生成した複数の暗号パターンは、1つの共通暗号パターンとの組み合わせで複数の復元画像を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の状態では記録された画像が目視認識できないよう不規則なパターンに暗号化された状態で記録され、復元時には、復号用のパターンを重ね合わせることによって可視化される暗号パターン生成方法および暗号記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常状態では隠蔽された状態で記録された情報を、必要となった時点で利用したい、といったニーズは古くからあり、例えば、隠蔽シールや圧着ハガキなどは身近な例である。これらは、ワンタイム用途(使い捨て)であり、一過性の利用には好適であるが、これに対し、非利用時には高度な機密性を保ちながら、利用時には簡便な操作での復元し、かつ、繰り返し利用可能という相反する要求を満たすのは甚だ困難である。
上記のような要求に対する技術の一つとして視覚復号型秘密分散法と呼ばれる視覚復号型暗号技術がある。これは元となる画像情報を、不規則なパターンで構成される複数の暗号パターン(シェア画像と呼ぶ)に分散させることによって目視認識できない状態の画像に加工し、それらのシェア画像を重ね合わせることによって元の画像情報が視認可能な状態に復元される技術である。
例えば、特許文献1は、視覚復号型暗号技術の代表例であって、視覚復号型秘密分散法を用いて、隠蔽層等の手段によらずに情報を隠蔽する記録媒体の構成および製作に関する技術を開示している。
なお、視覚復号型秘密分散法やシェア画像の生成手段等については種々の方式のものが提案されているが、特に先駆的論文である非特許文献1に原理や生成法が詳しく述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−118122号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Naor and A.Shamir,"Visual Cryptography", Proc. of Eurocrypt'94 May 1994
【0005】
上記のように、視覚復号型秘密分散法は、目視による手操作により復元が可能となる簡便さが利点であるが、一方で、元となる画像(元画像)から複数のシェア画像を生成することから、一つの元画像についてシェア画像の数の媒体が必要となり、しかも元の画像を復元するには、これら複数の媒体を精密に重ね合わせる操作が必要となる。
【0006】
図1は、視覚復号型秘密分散法を用いて暗号化および復元する過程を表わす図であるが、図1に示すように、暗号化の過程では、元画像10は不規則なパターンからなるシェア画像に分解される。このように生成したシェア画像a11およびシェア画像b12は、それぞれ単独では不規則パターンが視認されるのみで、有意な情報は判読できない。なお、図1の例ではシェア画像は2つであるが、シェア画像の数は2以上の複数であってもよい。
シェア画像から元画像を復元するには、シェア画像a11およびシェア画像b12が所定の位置で重ね合わせればよい。これにより復元画像13のようなパターンが現われ、図に示すように、不規則パターンを背景として「T」の形状が判読できる。
【0007】
上記のように2つのシェア画像から復元画像13の「T」を得ようとする場合、必要となる媒体の数は2となり、元画像の数が多くなれば、媒体の数も比例して増大する。しかも図2に示すように、重ね合わせて目視することから、少なくとも一方の媒体は透明媒体a21のように透明なシート状であることが必須となる。また、2つのシェア画像を重ねるにあたっては、重なりの僅かのずれで白の部分が現われ背景との濃淡差が小さくなり復元すべき画像と背景の判別が難しくなるため、シェア画像同士の見当合わせには高い精度を要する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、視覚復号型秘密分散法を用いながらも、複数の元画像を暗号化した暗号パターン(シェア画像)に対して、一つの共通暗号パターンで復元可能となるような暗号パターンの生成方法および同暗号パターンを用いた暗号媒体を提供することを課題とする。あわせて、シェア画像同士の見当合わせの際に、精度のよい重ねあわせが可能となる暗号媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、
視覚復号型秘密分散法による暗号パターンの生成方法であって、
複数の元となる画像群(Pn)に対して1つの共通暗号パターン(U)を用意し、
前記画像群(Pn)を構成する個々の画像(pn)と前記共通暗号パターン(U)との差分に基づいて前記個々の画像(pn)に対応する暗号パターン(xn)の集合からなる複数の暗号パターン群(Xn)を生成することを特徴とする。
上記の暗号パターン生成方法により生成された暗号パターンを基材上に記録した暗号記録媒体は、
前記共通暗号パターン(U)を記録する基材と、前記複数の暗号パターン群(Xn)を構成する構成する個々の暗号パターン(xn)を記録する基材の少なくとも一方が可視透明性を有することを特徴とする。
【0010】
このように、本発明の暗号記録媒体は、複数の暗号パターンx12〜xnからなる暗号パターン群(Xn)に対し、1つの共通暗号パターン(U)をもって元となる画像を復元することを特徴とする。
【0011】
さらに、前記共通暗号パターン(U)の記録されている基材と前記個々の暗号パターン(xn)の記録されている基材には、両基材を重ね合わせて位置を決めるための見当マークが設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、前記見当マークは、前記共通暗号パターン(U)の記録されている基材と対応する暗号パターン群(Xn)の個々の暗号パターン(xn)の記録されている基材であることを示す識別マークを兼ねていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による暗号パターンによれば、一つの共通暗号パターンにより複数の元画像を復元することができるため、復元のための媒体の数を削減することが可能となる。例えば、本発明の暗号記録媒体を印刷物等で配布するような場合には、製造コストの低減とともに、配布後の運用管理の負荷を低減することが期待できる。
さらに、本発明の暗号記録媒体の基材に位置合わせのための見当マークを設けることにより、迅速かつ精密な位置合わせが可能となり、さらに、同見当マークがシェア画像同士の組み合せの適否を示す識別情報を持つことにより、組み合せるべきシェア画像の選別が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】視覚復号型秘密分散法の概念図
【図2】視覚復号型秘密分散法の復元の様子を示す図
【図3】本発明の暗号パターンの概念図
【図4】本発明の暗号パターンの例
【図5】本発明の暗号パターンの生成過程を示す図
【図6】本発明の暗号パターンによる復元の様子を示す図
【図7】パターンアレイを示す図
【図8】本発明の暗号記録媒体を表わす模式図
【図9】本発明の暗号記録媒体による位置合わせの態様を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<暗号パターン生成>
以下、図3〜7を用いて、本発明の暗号パターンの詳細について説明する。
図3は、本発明の暗号パターンの概念図であり、暗号パターン群(Xn)を構成する個々の暗号パターンx12〜xnと、一つの共通暗号パターンUとが組み合わされることにより、復元画像y12〜yn(復元画像群(Yn))が出現する様子を表わす。なお、nは自然数を表わす。
【0016】
元画像群(Pn)の各画像p12〜pnにはそれぞれ「1」「2」〜「n」の形状情報が記載されており、これらから生成される個々の暗号パターンx12〜xnは、「1」「2」〜「n」の情報が隠蔽された互いに異なる不規則なパターンである。一方、共通暗号パターンUは一つであり、暗号パターン群(Xn)全体の暗号パターンに共通に作用する。すなわち、個々の暗号パターンx12〜xnの一つと共通暗号パターンUを所定の位置で重ね合わせることにより、復元画像y12〜ynのような画像が現われる。復元画像y12〜ynには、不規則パターンを背景として、元画像に対応する「1」「2」〜「n」のような形状情報が視認できる。
【0017】
図4は、本発明の暗号パターンの例であり、個々の暗号パターンと共通暗号パターンにより元画像の形状情報が復元される様子を表わす。
元画像として2種の画像を用意し、元画像A41には「H」、元画像B42には「T」なる形状が記録されている。これら元画像から生成した暗号パターンA43および暗号パターンB44のそれぞれに対し、一つの共通暗号パターンを重ね合わせると、復元画像A45および復元画像B46が現われる。復元画像A45には「H」の形状、また復元画像B46には「T」の形状が視認できる。すなわち、複数の暗号パターンに対し、一つの共通暗号パターンを作用させることにより復元画像を得ることができる。なお、元画像の数は本例の2に限らず、2以上となっても同様に一つの共通暗号パターンにより復元可能である。
【0018】
続いて、図5、図6を用いて、暗号パターン群(Xn)および共通暗号パターンUの生成と復元の過程を詳述する。
図5は、各暗号パターンの生成過程を表わす。なお、説明にあたっては要点が明快となるよう、元画像を2種とし、隠蔽すべき形状情報は単純な形状としている。
【0019】
元画像は「白」または「黒」の画素(セルと呼ぶ)の集合で構成されており、図示の元画像A51および元画像B52の例では、隠蔽すべき形状情報は「黒」のセルで形成されている。(ステップ1)
【0020】
共通暗号パターン50は、元画像と等しい形状のセルで構成された、元画像と同サイズの画像であり、各セルに「白」または「黒」が1対1の構成比でランダムに配置されたモノクロ2値画像である。(ステップ2)
なお、共通暗号パターン50のような、「白」または「黒」が1対1でランダムに配置されたパターンを作成するには、上記のようにパターン全体に対して1セルごとに「白」または「黒」を配置するような方法に限らず、「白」「黒」が1対1の構成比で形成された複数のパターンの組(以下、パターンアレイと呼ぶ)をランダムに配置する方法であってもよい。
図7はパターンアレイをランダムに配置した共通暗号パターンの例である。
図7(イ)は、2×2の小領域に「白」「黒」を1対1の構成比で配置したパターンアレイの例であり、2×2の場合は「白」「黒」の配置はa〜fのような種類になる。
図7(ロ)は、この2×2のパターンアレイをランダムに配置して共通暗号パターンを構成した例である。
【0021】
暗号パターン群(Xn)を構成する個々の暗号パターン(図示の例では暗号パターンA53および暗号パターンB54)は、元画像と等しい形状のセルで構成された、元画像と同サイズの画像であり、元画像と共通暗号パターンとの差分に基づく条件で決定される「白」または「黒」が各セルに配置されるモノクロ2値画像である。
元画像から個々の暗号パターンを生成する手順は、以下(1)、(2)のルールによる。
(1)元画像のセルが「白」の場合、共通暗号パターンの同一位置のセルの値(白または黒)とする。
(2)元画像のセルが「黒」の場合、共通暗号パターンの同一位置のセルの値を白黒反転させた値とする。
これは、言い換えれば、図5において、元画像の「黒」に重なる部分の共通暗号パターン50のセルを白黒反転させることになる。(ステップ3)
【0022】
このような手順により、元画像A51から暗号パターンA53が生成され、元画像B52から暗号パターンB54が生成される。(ステップ4)
【0023】
図6に復元の様子を示す。
暗号パターンA53に共通暗号パターン50を重ね合わせると復元画像A55のようなパターンが生じ、同様に暗号パターンB54と共通暗号パターン50との組み合わせで復元画像B56が得られる。復元画像A55および復元画像B56からはそれぞれ元画像の形状情報が判読できる。
このように複数の元画像から生成された複数の暗号パターンに対し、それぞれ共通暗号パターンを重ね合わせると複数の復元画像を得ることができる。
【0024】
<暗号記録媒体>
本発明の暗号パターンは、同パターンを印刷等により基材上に形成することにより暗号記録媒体を構成することができる。この場合、個々の暗号パターンを持つ媒体と共通暗号パターンを持つ媒体とを重ね合わせ、両パターンを同時に目視する必要があるため、両暗号記録媒体の基材の少なくとも一方は可視透明性を有する。
図8は、このような暗号記録媒体の模式図であり、暗号パターンa7が記録された媒体A5の上に、暗号パターンb8が記録された媒体B6が重ね合わされる様子を表わす。媒体B6は可視透明であり、両暗号パターンが所定の位置で重なると復元画像9が現われる。
【0025】
なお、暗号パターンと共通暗号パターンを重ね合わせる際は、暗号記録媒体同士の位置合わせを精度よく行う必要があるため、基材上に、重ねあわせの位置決めのための見当マークが形成されていると好適である。
また、見当マークにより、共通暗号パターンUと暗号パターン群の組み合わせの適否が判別できるよう、見当マークが識別マークを兼ねる構成とすると一層好適である。すなわち、暗号パターン群と共通暗号パターンUがそれぞれ複数種類あるような場合、識別マークにより、両者の組み合せの適否が容易に判別可能となる。
【0026】
図9は、本発明の暗号記録媒体による位置合わせの様子を示したものである。
図9に示す暗号パターンx71および暗号パターンu72は、それぞれ個々の暗号パターンおよび共通暗号パターンを想定したもので、実際に暗号パターンとして作成したものである。
また、復元画像75および復元画像76は何れも暗号パターンx71と暗号パターンu72を実際に重ね合わせた際の像であり、復元画像75は正確に重なった状態、また、復元画像76は微少にズレが生じている状態を表わす。
【0027】
暗号パターンx71および暗号パターンu72には、四隅に位置合わせのための見当マークが設けられ、両見当マークは相互に白黒反転の関係にある。また、見当マークには、73および見当マーク74に示すように、同一の暗号パターン群にあることを識別する符号(図示の例では「8」)が付されており、同一の符号同士の組み合わせが有効であることを表わしている。
【0028】
復元画像75では、暗号パターンx71および暗号パターンu72が所定の位置に正確に重ね合わされており「8901」の形状が判読できる。このとき、見当マーク77の像は、反転像同士がズレなく重なっているため一面「黒」の状態で観察される。
一方、復元画像75では、見当マーク78に「白」の部分が現われ、このような状態では復元像から元の形状情報は判読できない。
【0029】
このように、組とする暗号記録媒体に濃淡を反転した見当マークを設けることは重ね合わせの操作の際に極めて有効である。また、見当マークが識別マークを兼ねていれば、組とする媒体同士が有効なものか否かの判定が容易となり一層効果的である。
【0030】
なお、本発明の暗号記録媒体を作成するには、前記暗号パターンおよび共通暗号パターンを印刷等により基材の上に形成すればよい。基材としては紙、樹脂シートなど種々あるが、例えばカード用途であれば、ポリ塩化ビニール樹脂、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)樹脂、ポリカーボネ−ト樹脂、ポリ乳酸樹脂などがある。
また、可視透明性を有する基材としては、ポリ塩化ビニール樹脂、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)樹脂、ポリカーボネ−ト樹脂、ポリ乳酸樹脂などがある。
【符号の説明】
【0031】
1 暗号記録媒体
10 元画像
11 シェア画像a
12 シェア画像b
13 復元画像
21 透明媒体a
22 媒体b
30 元画像p1
31 個々の暗号パターンx1
32 共通暗号パターン
33 復元画像y1
31 個々の暗号パターン
32 共通暗号パターン復元画像
33 復元画像
40、50 共通暗号パターン
41、51 元画像A
42、52 元画像B
43、53 暗号パターンA
44、54 暗号パターンB
55 復元画像A
56 復元画像B
71 暗号パターンx
72 暗号パターンu
73、74、77、78 見当マーク
75、76 復元画像



【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚復号型秘密分散法による暗号パターンの生成方法であって、
複数の元となる画像群(Pn)に対して1つの共通暗号パターン(U)を用意し、
前記画像群(Pn)を構成する個々の画像(pn)と前記共通暗号パターン(U)との差分に基づいて前記個々の画像(pn)に対応する暗号パターン(xn)の集合からなる複数の暗号パターン群(Xn)を生成することを特徴とする暗号パターン生成方法。
【請求項2】
請求項1記載の暗号パターン生成方法により生成された暗号パターンを基材上に記録した暗号記録媒体であって、
前記共通暗号パターン(U)を記録する基材と、前記複数の暗号パターン群(Xn)を構成する構成する個々の暗号パターン(xn)を記録する基材の少なくとも一方が可視透明性を有することを特徴とする暗号記録媒体。
【請求項3】
前記共通暗号パターン(U)の記録されている基材と前記個々の暗号パターン(xn)の記録されている基材には、両基材を重ね合わせて位置を決めるための見当マークが設けられていることを特徴とする請求項2記載の暗号記録媒体。
【請求項4】
前記見当マークは、前記共通暗号パターン(U)の記録されている基材と対応する暗号パターン群(Xn)の暗号パターン(xn)の記録されている基材であることを示す識別マークを兼ねていることを特徴とする請求項3記載の暗号記録媒体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−186129(P2011−186129A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50464(P2010−50464)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】