説明

暗号記録媒体

【課題】 視覚復号型秘密分散法を用いながらも、2つのシェア画像から元となる画像を復元する際に復元画像の画線部と背景部が容易に判別できる暗号記録媒体を提供することを課題とする。
【解決手段】 視覚復号型秘密分散法により生成される2つの暗号画像のうち、基材21上に回折格子22による暗号画像を配置し、透明基材25上に隠蔽層26による暗号画像を配置する。暗号パターンをそれぞれ異なる色で着色する。媒体A5の上に、媒体B6と所定の位置で重ね合わせると、復元される画像の背景部は回折格子22が隠蔽層26により隠され隠蔽層26の不規則なパターンが観察されるのに対し、画線部は回折格子22によるパターンが表れるため、回折格子特有の視覚効果により、背景部と画線部が明瞭に判別でき、画線部の形状が判読できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の状態では記録された画像が目視認識できないよう不規則なパターンに暗号化された状態で記録され、復元時には、復号用のパターンを重ね合わせることによって可視化される暗号記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子からなるホログラムを用いて商品や物品の真正性を確認する手法は、従来より広く用いられている。典型的な用法は、ホログラムをシール状に加工し、真偽判定媒体として物品に貼り付ける、などである。ホログラムが偽造防止分野で重用される理由としては、その独特の視覚効果による「見てわかる」便利さと、製作に微細加工技術を要することによる偽造の困難さが挙げられる。しかし、近年、回折格子の製作技術が知られるにつれホログラムの偽造品も出回るに至り、ホログラムにもさらに高度な偽造防止効果が望まれている。
【0003】
一方、「見てわかる」簡便さを持ちながら情報秘匿に優れた手法として、視覚復号型暗号技術がある。これは元となる画像情報を、不規則なパターンで構成される複数の暗号画像(シェア画像と呼ぶ)に分散させることによって目視認識できない状態の画像に加工し、これらのシェア画像を重ね合わせることによって元の画像情報を視認可能な状態に復元(すなわち復号)させる技術である。このように、複数のシェア画像からもとの情報を復元するため、シェア画像を記録した媒体も複数用いることになるが、復元に特段の器具も必要とせず、結果が見るだけでわかる簡便さが特徴である。
【0004】
例えば、特許文献1は、視覚復号型暗号技術の代表例であって、視覚復号型秘密分散法を用いて、隠蔽層等の手段によらずに情報を隠蔽する記録媒体の構成および製作に関する技術を開示している。
なお、視覚復号型秘密分散法やシェア画像の生成手段等については種々の方式のものが提案されているが、特に先駆的論文である非特許文献1に原理や生成法が詳しく述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−118122号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Naor and A.Shamir,"Visual Cryptography", Proc. of Eurocrypt'94 May 1994
【0007】
このように、視覚復号型暗号技術は、目視による手操作により復元が可能となる簡便さが利点であるが、反面、複数のシェア画像を重ねて元の画像を復元することから、複数の媒体を精密に重ね合わせる操作が必要となる。
【0008】
図6は、視覚復号型秘密分散法を用いて暗号化および復元する過程を表わす図であるが、図6に示すように、暗号化の過程では、元画像10は不規則なパターンからなるシェア画像に分解される。このように生成したシェア画像A11およびシェア画像B12は、それぞれ単独では不規則パターンが視認されるのみで、有意な情報は判読できない。

このように、通常の視覚復号型秘密分散法においては、シェア画像を構成する各画素は白と黒のセルの集合によって構成される。ここでシェア画像を印刷等で作成することを想定すると、白のセルとは何も塗布しない領域のことを指し、フィルム等の透明物体においては透明のままの領域となる。また、黒のセルとはインキ等の色材が塗布される領域を指し、図6では黒色で表わされているが、黒のセルに塗布される色材は黒色に限らず有彩色であってもよい。
【0009】
シェア画像から元画像を復元するにはシェア画像A11およびシェア画像B12を所定の位置で重ね合わせればよい。これにより復元画像13のようなパターンが現われ、図6に示すように、不規則パターンを背景部として、元画像の「T」の形状(背景部に対して「画線部」と呼ぶ)が判読できる。これは、背景部は黒白が混淆した不規則なパターンとなるのに対し、画線部は黒で塗りつぶされた状態となるため、濃淡の差により画線部が現れるからである。
このように、元画像の形状を表わす画線部を形成するのは黒のセルのみであり、白のセルは背景部にのみ分布することから、本発明においては、黒のセルに対応するセルを情報セル15、白のセルに対応するセルを余白セル16と呼ぶこととする。
【0010】
ところで、図6のような白と黒のセルからなるシェア画像では、復元の際の重なりの僅かのズレがあっても白の部分が現われ、背景との濃淡差が小さくなるため、復元すべき画像と背景の判別が難しくなるという問題がある。図7(A)(B)は、位置ズレの有無による復元画像の態様を示したものであり、位置ズレのない復元画像73では「8」の形状が判読できるのに対し、重ね合わせに位置ズレが生じたズレのある復元画像74では著しく視認性が劣化し画線部と背景部の判別が困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、視覚復号型秘密分散法を用いながらも、2つのシェア画像を重ね合わせ元となる画像を復元する際に、復元画像が容易に判読できる暗号記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の暗号記録媒体は、
第1の基材に第1の暗号画像が形成された記録媒体と、可視透明性を有する第2の基材に第2の暗号画像が形成された記録媒体を組とし、第1および第2の暗号画像は、元となる画像から視覚復号型秘密分散法により生成され、第1の暗号画像が前記第1の基材の所定位置に、第2の暗号画像が前記第2の基材の所定位置にそれぞれ形成され、かつ、前記第1の暗号画像の上に前記第2の暗号画像を重ね合わせて前記第2の基材の表面側から見たときに前記元となる画像を視認可能に復号する暗号記録媒体であって、
前記第1の暗号画像と前記第2の暗号画像は、該暗号画像を構成する各画素がマトリクス
状に分割されたセルの集合からなり、前記セルは、情報セルまたは余白セルの何れかからなり、前記第1の暗号画像中の情報セルは、前記第1の基材上に回折格子により形成され、前記第2の暗号画像中の情報セルは、前記第2の基材上に隠蔽層により形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の暗号記録媒体によれば、2つの媒体を重ね合わせた際に、背景部は回折格子のパターンが隠蔽される一方、画線部は回折格子のパターンで形成されるため、回折格子の視覚効果により画線部が明確に視認できる。よって、重ね合わせの際の位置精度についても厳密な位置合わせを必要とせずに復元画像が視認可能となる。特に、手操作による位置合わせに要する試行錯誤の手間が著しく削減される効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の暗号記録媒体を示す図
【図2】本発明の暗号記録媒体の構成を示す図
【図3】従来の視覚復号型秘密分散法による暗号パターンを示す図
【図4】本発明の暗号記録媒体の暗号パターンを示す図
【図5】本発明の暗号記録媒体による復元の様子を示す図
【図6】視覚復号型秘密分散法の概念図
【図7】従来の視覚復号型秘密分散法による復元画像を示す図
【図8】本発明の暗号記録媒体の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の偽造判定媒体の模式図である。
本発明の暗号記録媒体1は、媒体A5および媒体B6を組としており、図1は、第1の暗号画像にあたる暗号画像a7が記録された媒体A5と、第2の暗号画像にあたる暗号画像b8が記録された媒体B6とが重ね合わされる様子を表わす。媒体B6の基材は可視透明性を有し、暗号画像a7と暗号画像b8が所定の位置で重ね合わされると復元画像9が現われる。なお、暗号画像a7および暗号画像b8は視覚復号型秘密分散法により生成されるシェア画像である。
【0016】
図2は、本発明の偽造判定媒体の構成図であり、媒体A5の上に媒体B6が所定の位置で重ね合わされた状態で、かつ、両媒体のセル同士が重なり合った態様を表わす。
媒体A5は、第1の基材(基材21)と回折格子22により形成された情報セルを有し、一方、媒体B6は、第2の基材(透明基材25)と隠蔽層26により形成された情報セルを有する。なお、情報セル以外のセルは余白セルである。
このように重ね合わされた状態で図示の視線方向から暗号記録媒体1を観察すると、媒体A5の情報セルのうち、媒体B6の情報セルが重なる部分が隠蔽層26により隠されるため、同部分の回折格子は不可視となる。また、隠蔽層26がないところ(余白セル)は透明基材25を通して透視状態となり、媒体A5の同所に回折格子22があれば回折格子22による反射光が視認される。
【0017】
以下、図3〜6を用いて、本発明の特徴を詳細に説明する。
まず、従来の視覚復号型秘密分散法によるシェアパターンについて説明する。
従来の視覚復号型暗号技術によるシェアパターンは、図3に示すように、元の画像を構成する画素(元画像の画素30)を整数比(図例では2×2)の小領域であるセルに分割し、分割されてできた各セル35に白(余白セル)または黒(情報セル)を割り当てることにより生成される。このように白または黒が配置されたセルの集合をシェアパターンと呼ぶ。
【0018】
このように生成されたシェアパターンがシェア画像Aおよびシェア画像Bを構成する画素である。すなわち、シェアパターンa(符号32a)およびシェアパターンa(符号33a)のパターンがシェア画像Aの画素となり、シェアパターンb(符号32b)およびシェアパターンb(符号33b)のパターンがシェア画像Bの画素となる。そしてシェア画像Aとシェア画像Bとを重ね合わせ元の画像を復元する際は、シェアパターンa(32a)とシェアパターンb(32b)のような2つのパターンの重ね合わせが復元画素32のように「白」と「黒」が交雑した「背景部」を表わす画素となり、シェアパターンa(33a)とシェアパターンb(33b)の2つのパターンの重ね合わせが復元画素33のように「黒」のみの「画線部」を表わす画素となる。
【0019】
続いて、本発明の暗号記録媒体の暗号パターンについて説明する。
本発明の暗号記録媒体の暗号パターンの生成にあたっては、図4に示すように、まず、図3と同様に2×2の小領域であるセル45に分割する。ここで、本発明の暗号パターンでは、セル45のうち情報セル46に、前記黒に代わって回折格子または隠蔽層を配置する。すなわち、シェアパターンaの系列には回折格子を、また、シェアパターンbの系列には隠蔽層を配置すると、回折格子の情報セルからなる42a、43a、のシェアパターンと、隠蔽層の情報セルからなる42b、43bのシェアパターンが生成される。この結果、シェアパターンa(符号42a)およびシェアパターンa(符号43a)のパターンがシェア画像Aを構成する画素となり、シェアパターンb(符号42b)およびシェアパターンb(符号43b)のパターンがシェア画像Bを構成する画素となる。
なお、図4においては、回折格子および隠蔽層に異なる網掛けを施し区別している。
【0020】
シェア画像Aとシェア画像Bとを重ね合わせると、シェアパターンa(42a)とシェアパターンb(42b)のような2つのパターンの重ね合わせが復元画素42のような「背景部」を表わす画素となり、シェアパターンa(43a)とシェアパターンb(43b)の2つのパターンの重ね合わせが復元画素43のような「画線部」を表わす画素となる。
【0021】
この結果、回折格子と隠蔽層とが重なった部分では、回折格子が隠蔽層で隠されるため復元画素42に示すように隠蔽層のみが現われる。この復元画素42が背景部を形成する。また元の画像の形状を表わす画線部は、回折格子と隠蔽層とで埋められた領域として現われる。このように、回折格子が見えない背景部と、回折格子が散在して視認される画線部では視覚効果が異なるため、画線部の形状が明瞭に判読できる。
【0022】
図5は、本発明の暗号記録媒体における暗号化と復元の過程を示す図である。
まず、元画像10は視覚復号型秘密分散法を用いてシェア画像A11およびシェア画像B12に分解される。続いて、本発明の暗号記録媒体では、シェア画像A11の「黒」の領域に、所定の格子角度、格子ピッチ、格子密度の回折格子を配置する(格子画像51)。また、シェア画像B12の「黒」の領域には可視光を遮蔽する特性を持つ隠蔽層を配置する(隠蔽層画像52)。
なお、図5においては、回折格子55を黒ベタで表わし、隠蔽層56を網掛けで表わすことにより両者を区別している。
【0023】
回折格子55で構成される格子画像51および隠蔽層56で構成される隠蔽層画像52を、隠蔽層画像52を上にして所定の位置で重ね合わせると復元画像53が現れる。このとき、「背景部」では、回折格子55が隠蔽層56で隠蔽されるため、回折格子は見えず、隠蔽層56の不規則なパターンが現わる。一方、「画線部」は、回折格子セル58と隠蔽層セル59が不規則に分布した状態で現われる。この結果、「画線部」では、反射光の角度依存性や干渉色の発現など回折格子独特の視覚効果により背景部と画線部との見え方に差異が生じ、画線部の形状(元画像の「T」の形状)が視認できる。
また、重ね合わされたシェア画像に図8(C)(D)に見られるような僅かなズレがあっても、背景部と画線部との間で色や光沢の違いがあるため、画線部の形状は明確に視認できる。
【0024】
図8は、本発明の暗号記録媒体の構成例であり、比較のため図2と同等の構成例の図8(A)を併せて示している。
図8(B)では、媒体A5と媒体B6とが、隠蔽層25と回折格子22が密着するよう重ね合わされており、隠蔽層26は透明基材25を通して観察される。図8(B)の構成は、隠蔽層25と回折格子22が密着するため、観察する際に視差が生じない利点がある。
なお、図6(B)の構成では、隠蔽層26が形成される面と回折格子22が形成される面とが対向して重ね合わされるため、回折格子22と隠蔽層26を基材に対して同じ面から見た場合、互いに鏡像の関係になる。
【0025】
本発明の暗号記録媒体の基材としては種々の素材のものが適用できるが、媒体A5に適した基材としては紙、樹脂シートなどがあり、例えばカード用途であれば、ポリ塩化ビニール樹脂、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)樹脂、ポリカーボネ−ト樹脂、ポリ乳酸樹脂などがある。また、媒体A5用の基材は、透明であっても、不透明であってもよい。
また、媒体B6用の基材としては透明性を有する高分子が適しており、ポリ塩化ビニール樹脂、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)樹脂、ポリカーボネ−ト樹脂、ポリ乳酸樹脂などがある。
【0026】
隠蔽層26は、簡便な方法としては印刷やインクジェット等により遮光性のあるインキを用いてシート状基材の上に形成することができる。用いるインキとしては、特殊なものは必要とせず、入手の容易な顔料型色材のインキが適用できる。また、隠蔽層26の色は、黒色に限らず、白色であっても有彩色であってもよい。
回折格子22は、視認性のよい反射型のものが望ましく、これは樹脂シートの表面に形成した回折格子にアルミ蒸着などの反射膜を付加することにより作成できる。また、回折格子は、格子角度、格子ピッチ、格子密度などをそれぞれ変化させることにより、反射光の角度、強度、色彩など視覚効果を変化させることができるので、視認性の向上や、さらには暗号記録媒体に装飾性を付加することも可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 暗号記録媒体
5 媒体A
6 媒体B
7 暗号画像a
8 暗号画像b
9 復元画像
10 元画像
11 シェア画像A
12 シェア画像B
21 基材
22 回折格子
25 透明基材
26 隠蔽層
30 元画像の画素
31 分割パターン
40 元画像の画素
41 分割パターン
42 復元画素
43 復元画素
51 格子画像
52 隠蔽層画像
53 復元画像



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材に第1の暗号画像が形成された記録媒体と、可視透明性を有する第2の基材に第2の暗号画像が形成された記録媒体を組とし、
第1および第2の暗号画像は、元となる画像から視覚復号型秘密分散法により生成され、第1の暗号画像が前記第1の基材の所定位置に、第2の暗号画像が前記第2の基材の所定位置にそれぞれ形成され、かつ、前記第1の暗号画像の上に前記第2の暗号画像を重ね合わせて前記第2の基材の表面側から見たときに前記元となる画像を視認可能に復号する暗号記録媒体であって、
前記第1の暗号画像と前記第2の暗号画像は、該暗号画像を構成する各画素がマトリクス
状に分割されたセルの集合からなり、前記セルは、情報セルまたは余白セルのいずれかからなり、前記第1の暗号画像中の情報セルは、前記第1の基材上に回折格子により形成され、前記第2の暗号画像中の情報セルは、前記第2の基材上に隠蔽層により形成されていることを特徴とする不可視情報の重畳された暗号記録媒体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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