説明

暗色シート材

【課題】
シート基材上に樹脂層を有するシート材であって、樹脂層が暗色に着色されるとともに、太陽光に曝露されても温度が上昇しにくいシート材を提供する。
【解決手段】
シート基材上に樹脂層を有するシート材であって、樹脂層が、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である黒色顔料と、380〜780nmの波長領域における平均透過率が30%以上であり、780〜1800nmの波長領域における平均反射率が20%以上である赤外線反射顔料とを含有する、暗色に着色された層である、暗色シート材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗色に着色された樹脂層を有するシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
シート基材上に樹脂層を有するシート材としては、塩化ビニルレザー、合成皮革、人工皮革、本革などがあり、その優れた外観や風合いなどが認められて、車両内装材、インテリア資材、鞄、靴、衣料など様々な分野で用いられている。樹脂層は、目的や用途などに応じて様々な色に着色されるが、高級感が求められる場合には、黒色などの暗色に着色される場合が多い。
【0003】
黒色顔料としては、従来、炭素を主成分とするカーボンブラック顔料が多用されてきた。しかしながら、カーボンブラック顔料は、可視光線(波長領域380〜780nm)のみならず、赤外線(波長領域780〜1800nm)の吸収率も高いため、これを含有する樹脂層が太陽光などの赤外線を含む光に曝露されると、赤外線を吸収して発熱するという問題があった。例えば、車両内装材として、シート(座席)やステアリングホイールなどの表皮材に適用され、炎天下に長時間放置された場合、シート材は、素手での接触が困難なまでに温度が上昇するばかりか、車室内温度をも上昇させ、搭乗者に不快感を与える。さらには、冷却効率を悪化させたり、機器類に影響を及ぼしたり、シート材の劣化を促進したりもする。
【0004】
このような問題を改善するため、例えば特許文献1には、着色ポリウレタン層を有する皮革様シート状物において、ポリウレタン層を着色するための色材として、カーボンブラック顔料に代表される炭素質顔料を用いることなく、赤外線吸収率が50%以下の顔料、特には黒色顔料を用いることにより、暗色でありながらも、太陽光に曝露された場合の発熱を抑えた皮革様シート状物が記載されている。
【0005】
また、特許文献2〜4には、シフトノブ、ライニング、ステアリングホイールなどの車両内装材の表面側の層に、赤外線反射顔料、特にはペリレン系黒色顔料を含有させることにより、暗色でありながらも、炎天下に放置した場合に温度が上昇しにくい車両内装材が記載されている。
【0006】
これらは、基本的に1つの樹脂層により、暗色(すなわち、可視光線吸収率が高い)と遮熱性(すなわち、赤外線吸収率が低い)とを両立させようとするもので、太陽光に曝露された場合の温度上昇という問題に対し、一定の効果を得ることができる。しかしながら、可視光線吸収率が高い顔料、特に黒色顔料は、多かれ少なかれ赤外線を吸収して発熱するため、必ずしも満足できるものではなかった。
【0007】
これに対し、暗色の樹脂層とは別に、赤外線反射層を設けることにより、暗色と遮熱性とを両立させようとする試みも知られている。例えば、特許文献5には、日射を受ける表面層(A)と反射層(B)とを備えるシート状物であって、表面層(A)が、可視光線領域(380〜720nm)において90%以上の日射吸収率を有し、近赤外線領域(720〜1500nm)において30%未満の日射吸収率および50%以上の日射透過率を有する、暗色を呈する層であり、反射層(B)が、可視光線領域および近赤外線領域を通して85%以上の日射反射率を有する層であり、シート状物の近赤外線領域における日射反射率が70%以上である、近赤外線領域光反射性能を有する暗色シート状物が記載されている。かかる暗色シート状物は、反射層(B)の裏面に、織布や不織布などの繊維質基材を設けてもよいとされる。また、特許文献6および7にも、赤外線を反射する下層と、赤外線を透過および/または反射し、発色層(暗色を含む)かつ保護層としての上層とを有する、野外設置構造物の塗装などとして用いられる赤外線反射体が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献6および7に記載の赤外線反射体は、暗色の表面層(上層)が損傷を受けた場合、白色の反射層(下層)が露見し、品位が損なわれるという問題があった。例えば、合成皮革などの可撓性シート材が縫製され、車両内装材に加工された場合は、縫目部が白化して見えてしまう。さらに、これらは、合成皮革などの可撓性シート材を対象とするものではない。
【0009】
ところで、前記の反射層(下層)には、赤外線反射顔料、例えば、酸化チタンなどの金属酸化物や、金属酸化物で被覆された雲母(マイカ)などが添加される。特に、特許文献5の反射層(B)には、赤外線反射性能を向上させるため、赤外線だけでなく可視光線の反射率も高い顔料として、酸化チタン系白色顔料が好ましく添加される。このような顔料を、他の顔料とともに単層構造の樹脂層に用いることにより、着色と遮熱性とを両立させようとする試みもあるが、可視光線の反射率も高くなるため、色によっては、特に暗色においては、概して、目的とする色を得ることができない。そこで、特殊な赤外線反射顔料を用いる試みが報告されている。
【0010】
例えば、特許文献8には、熱可塑性樹脂に対し、雲母の表面に二酸化チタンを薄膜状に被覆した虹彩色パール顔料を配合し、可視光線の透過を大きくすると同時に近赤外線の反射を大きくすることにより、太陽光による昇温・蓄熱防止性を有する樹脂組成物が記載されている。そして、樹脂組成物は建築用部材など各種の成形品に用いられ、用途に応じて様々な色に着色されること、着色のために他の有機顔料、無機顔料が併用されることが記載されている。しかしながら、虹彩色パール顔料そのものが、角度によって色味を帯びて見えるため、暗色、特には深みのある黒色に着色された樹脂組成物を得ることは不可能であった。
【0011】
また、特許文献9には、少なくとも1種の無機系赤外線反射顔料と少なくとも1種の有機系着色剤との組み合わせを含む、屋外または屋内で用いられる成形品のための樹脂組成物であって、暗色で、しかも蓄熱性の低い耐候性樹脂組成物が記載されている。そして、無機系赤外線反射顔料として酸化チタンで被覆された雲母など多くの顔料が例示され、有機系着色剤としてペリレン系顔料など多くの着色剤が例示されている。しかしながら、無機系赤外線反射顔料として好ましく用いられるのは、クロム鉄酸化物やクロム鉄ニッケルブラックスピネルなどの黒色顔料であり、この場合、赤外線を反射するとともにいくらかの赤外線を吸収するため、蓄熱性が十分に低い樹脂組成物を得ることは困難であった。
【0012】
さらに、特許文献8および9に記載の樹脂組成物は、合成皮革などの可撓性シート材を対象とするものではない。
【0013】
このように、十分に満足し得る暗色と遮熱性とを兼ね備えたシート材は、本発明者が知る限りこれまで報告されておらず、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許3180238号公報
【特許文献2】特開2001−113975号公報
【特許文献3】特開2001−122044号公報
【特許文献4】特開2001−187574号公報
【特許文献5】国際公開WO2007/145083号パンフレット
【特許文献6】特開平11−302549号公報
【特許文献7】特開2002−60698号公報
【特許文献8】特開平10−67947号公報
【特許文献9】特表2009−518515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、シート基材上に樹脂層を有するシート材であって、樹脂層が暗色に着色されるとともに、太陽光に曝露されても温度が上昇しにくいシート材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、シート基材上に樹脂層を有するシート材であって、
樹脂層が、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である黒色顔料と、380〜780nmの波長領域における平均透過率が30%以上であり、780〜1800nmの波長領域における平均反射率が20%以上である赤外線反射顔料とを含有する、暗色に着色された層である、
暗色シート材である。
【0017】
前記暗色シート材において、樹脂層における赤外線反射顔料の含有量は、2〜20重量%であることが好ましい。
また、樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率は、30%以下であることが好ましい。
また、樹脂層のCIELAB表色系におけるL値は、40以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分に満足し得る暗色と遮熱性とを兼ね備えたシート材を提供することができる。本発明の暗色シート材は、太陽光に曝露されても温度が上昇しにくいため、周辺温度の上昇や、使用時の不快感、機器類への影響、シート材の劣化などを抑制あるいは軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の暗色シート材は、シート基材上に、暗色に着色された樹脂層を有するものである。
【0020】
本発明においてシート基材とは、例えば、織物、編物、不織布などの繊維布帛や、天然皮革など、シート状の形態を有するものをいう。また、繊維布帛に、公知の無溶剤系、溶剤系または水系の高分子化合物、好ましくは、ポリウレタン樹脂やその共重合体、あるいはポリウレタン樹脂を主成分とする混合物を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固にて固化させたものを用いることもできる。繊維布帛において、繊維の素材は特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維などを挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも強度の観点から合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましい。
【0021】
また、シート基材は、染料または顔料により着色されたものであっても良い。着色に用いられる染料や顔料は特に限定されるものではないが、カーボンブラック顔料のように、赤外線の吸収率が高いものを主体とすることは好ましくない。
【0022】
本発明の暗色シート材は、かかるシート基材上に、暗色に着色された樹脂層を有するものであり、典型的には、シート基材の少なくとも一方の面に直接または接着層を介して樹脂層を積層することにより得られるものである。
【0023】
具体的には、例えば、所定の樹脂液を、ナイフコーター、ロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーターなどの装置を用いて、シート基材の少なくとも一方の面に塗布後、乾式凝固、湿式凝固などにて固化させることにより、シート基材上に、直接、樹脂層を形成して積層する。
【0024】
もしくは、所定の樹脂液を離型性基材に塗布後、固化させることにより樹脂層を形成し、これをシート基材の少なくとも一方の面に圧着にて貼り合わせることにより、シート基材上に、直接、樹脂層を積層する。
【0025】
もしくは、所定の樹脂液を離型性基材に塗布後、完全に固化しない状態のものを、シート基材の少なくとも一方の面に貼り合わせることにより、シート基材上に、直接、樹脂層を積層する。
【0026】
もしくは、所定の樹脂液を離型性基材に塗布後、固化させることにより樹脂層を形成し、これをシート基材の少なくとも一方の面に接着剤を用いて貼り合わせることにより、シート基材上に樹脂層を積層する。
【0027】
なお、本発明の暗色シート材は、かかる方法より得られるものに限定されない。
【0028】
樹脂層を構成する樹脂は特に限定されるものではなく、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸樹脂、塩化ビニル樹脂、SBR樹脂、NBR樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの共重合体などを挙げることができ、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐摩耗性、風合いなどの観点から、ポリウレタン樹脂やその共重合体、またはポリウレタン樹脂を主成分とする混合物が好ましく、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂がより好ましい。樹脂のタイプは、ホットメルト系、無溶剤系、溶剤系、水系など特に限定されない。
【0029】
樹脂液には、後述する顔料の他、必要に応じて、公知の添加剤、例えば可塑剤、安定剤、充填剤、滑剤、発泡剤、離型剤、増粘剤などを含有させてもよい。
【0030】
本発明において特徴的であるのは、樹脂層が、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である黒色顔料と、380〜780nmの波長領域における平均透過率が30%以上であり、780〜1800nmの波長領域における平均反射率が20%以上である赤外線反射顔料とを含有し、これにより暗色に着色されていることである。
【0031】
ここで、顔料の所定の波長領域における平均吸収率、平均透過率および平均反射率の算出方法は以下の通りである。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(例えば、商品名「クリスボンNY−328」、DIC株式会社製)とジメチルホルムアミドからなる溶液を調製する。ここで、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の固形分含量は溶液に対して25重量%とする。この溶液に顔料を樹脂固形分に対し固形分で15重量%となるように含有させて厚さ20μmのフィルムを作る。このフィルムについて、反射率と透過率のスペクトルを分光光度計(例えば、商品名「UV−3100PC」、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。さらに、そのスペクトルから、所定の波長領域における平均反射率と平均透過率を求め、式1に基づいて平均吸収率を算出する。
【0032】
[式1]
平均吸収率(%)={100−(平均反射率+平均透過率)}(%)
【0033】
780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である黒色顔料、すなわち、赤外線を吸収しにくい黒色顔料を用いることにより、樹脂層が暗色を呈しながらも、太陽光に曝露された場合には、赤外線の吸収による発熱を抑制することができるため、温度が上昇しにくいシート材とすることができる。また、かかる黒色顔料と組み合わせて、380〜780nmの波長領域における平均透過率が30%以上であり、780〜1800nmの波長領域における平均反射率が20%以上である赤外線反射顔料、すなわち、可視光線を透過しやすい赤外線反射顔料を用いることにより、黒色顔料による樹脂層の発色を損なうことなく、太陽光に曝露された場合には、赤外線のみを反射して発熱を抑制することができるため、温度がより上昇しにくいシート材とすることができる。
【0034】
前述の通り、黒色顔料の、780〜1800nmの波長領域(赤外線領域)における平均吸収率は30%以下であることが求められる。同波長領域における平均吸収率が30%を超えると、太陽光に曝露された場合に、赤外線の吸収による発熱、および、それに伴う温度上昇を抑制することが困難となる。同波長領域における平均吸収率は、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0035】
なお、黒色顔料は、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である限り、同波長領域における平均反射率および平均透過率は特に限定されない。すなわち、平均反射率が高いことにより平均吸収率が30%以下に抑えられているものであっても、平均透過率が高いことにより平均吸収率が30%以下に抑えられているものであっても構わない。
【0036】
また、黒色顔料とは、可視光線領域のほぼすべての光を吸収して、反射率が0に近いものをいう。
【0037】
かかる黒色顔料としては、例えば、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサン系、キナクリドン系、イソインノリドン系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系、アゾメチン系、アゾメチンアゾ系などの有機顔料、酸化チタン系、複合酸化物系などの無機顔料を挙げることができ、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、可視光線領域における光の吸収性とのバランスを考慮すると、アゾ系、アゾメチンアゾ系、ペリレン系、複合酸化物系の顔料が好ましい。
【0038】
樹脂層における黒色顔料の含有量は、樹脂層が暗色を呈する限り特に限定されないが、10〜40重量%であることが好ましく、15〜35重量%であることがより好ましい。含有量が10重量%未満であると、十分な暗色を呈さない虞がある。含有量が40重量%を超えると、耐摩耗性や耐屈曲性が損なわれる虞がある。
【0039】
ここで、暗色とは、明度が低く、暗い感じのする色のことをいい、例えば、CIELAB表色系におけるL値が40以下の色のことをいう。L値は、後述の方法により求めることができる。
【0040】
次に、赤外線反射顔料であるが、前述の通り、380〜780nmの波長領域(可視光線領域)における平均透過率は30%以上であることが求められる。同波長領域における平均透過率が30%未満であると、可視光線の吸収が相対的に高くなり、色が損なわれる。同波長領域における平均透過率は、35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。
同様の理由により、同波長領域における平均吸収率は、30%以下であることが好ましい。
【0041】
また、赤外線反射顔料の、780〜1800nmの波長領域(赤外線領域)における平均反射率は20%以上であることが求められる。同波長領域における平均反射率が20%未満であると、太陽光に曝露された場合に、赤外線を反射して発熱を抑制する効果が得られない。同波長領域における平均反射率は、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。
同様の理由により、同波長領域における平均吸収率は、30%以下であることが好ましい。
【0042】
かかる赤外線反射顔料として、好ましくは、透明支持材料を、金属酸化物で被覆した顔料を挙げることができる。
透明支持材料としては、例えば、雲母、他の葉状ケイ酸塩、ガラス薄片、薄片状二酸化ケイ素、薄片状酸化アルミニウムなどを挙げることができる。なかでも、汎用性の点から、雲母が好ましい。
かかる透明支持材料を、金属酸化物からなる単層または多層の被膜で被覆する。被膜が単層である場合、被膜は屈折率の高い金属酸化物、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)などから成る。
また、被膜が多層である場合、3層、5層、7層、またはそれ以上の層であることができるが、好ましくは3層である。第1層は、屈折率の高い金属酸化物、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)などから成る。第2層は、屈折率の低い金属酸化物、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム(Al)などから成る。第3層は、再び、屈折率の高い金属酸化物から成り、第1層の金属酸化物と同じまたは異なるものを選択することができる。このような顔料は、光の干渉現象により光沢を発現するもので、干渉顔料とも呼ばれる。
これらは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
樹脂層における赤外線反射顔料の含有量は、2〜20重量%であることが好ましく、4〜15重量%であることがより好ましい。含有量が2重量%未満であると、太陽光に曝露された場合に、赤外線を反射して発熱を抑制する効果が十分に発揮されない虞がある。含有量が20重量%を超えると、黒色顔料による発色が損なわれ、十分な暗色を呈さない虞がある。
【0044】
本発明の暗色シート材は、樹脂層が、以上に説明した黒色顔料と赤外線反射顔料とを含有することにより、暗色に着色されるとともに、太陽光に曝露されても温度が上昇しにくいという性能を有するものである。
【0045】
前述の通り、本明細書において樹脂層が暗色に着色される、あるいは、暗色を呈するとは、樹脂層の、CIELAB表色系におけるL値が40以下であることをいう。特に、L値が30以下であると、本発明に特有の効果をより有効に発揮することができるため好ましい。樹脂層のL値を求めるには、まず、暗色シート材のうち樹脂層を単体でフィルム状に作成する。このフィルムについて、分光光度計(例えば、商品名「Color i5」、GretagMacbeth社製)を用いて、D65光源による反射率のスペクトルを測定し、これを基に、色彩計算ソフトを用いて算出することができる。
【0046】
また、樹脂層の、780〜1800nmの波長領域(赤外線領域)における平均吸収率は、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。同波長領域における平均吸収率が30%を超えると、太陽光に曝露された場合に、赤外線の吸収による発熱、および、それに伴う温度上昇を抑制することが困難となる虞がある。
【0047】
ここで、樹脂層の所定の波長領域における平均吸収率は、暗色シート材のうち樹脂層を単体でフィルム状に作成し、このフィルムについて、顔料の場合と同様にスペクトルを測定して算出する。
【0048】
かくして、本発明の暗色シート材を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、暗色シート材の評価は、以下の方法に従った。
【0050】
(1)白熱電球吸収温度(FAT(5min))
30cm四方の大きさに裁断した試験片を、同じく30cm四方の大きさに裁断した厚さ10mmの発泡ウレタンに、樹脂層が上になるように重ねた。雰囲気温度30℃の条件下で、試験片から30cm離れたところから300Wの白熱電球を100Vで5分間照射した後、赤外線放射温度計を用いて試験片の表面温度を測定した。このときの表面温度から雰囲気温度30℃を引いた値をFAT(5min)として求め、下記の基準に従って評価した。
○ : FAT(5min)が30℃以下
△ : FAT(5min)が30℃を超え、40℃以下
× : FAT(5min)が40℃を超える
【0051】
(2)温感度
30cm四方の大きさに裁断した試験片を、同じく30cm四方の大きさに裁断した厚さ10mmの発泡ウレタンに、樹脂層が上になるように重ねた。雰囲気温度30℃の条件下で、試験片から30cm離れたところから300Wの白熱電球を100Vで5分間照射した後、試験片の表面を10人の被験者に触ってもらい、下記の基準に従って評価した。
一番人数の多かった評価を、その試験片の評価とした。
◎ : 快適(熱く感じずに触れることができる)
○ : やや快適(熱く感じるが触れることができる)
△ : やや不快(熱く感じ長時間触れることができない)
× : 不快(熱く感じ触れることができない)
【0052】
(3)発色への影響
赤外線反射顔料を用いることなく黒色顔料のみで着色した比較例1の暗色シート材を標準色として、CIELAB表色系における△E(色差)を算出し、下記の基準に従って評価した。
○ : △Eが1以下
△ : △Eが1を超え、2以下
× : △Eが2を超える
【0053】
ここで△Eは、以下のように算出した。すなわち、分光光度計(商品名「Color i5」、GretagMacbeth社製)を用いて、標準色試験片および試験片について、D65光源による反射率のスペクトルを測定し、色彩計算ソフトを用いて色彩値(L*、a*、b*)を算出する。標準色試験片および試験片の色彩値を、それぞれ(L1、a1、b1)、(L2、a2、b2)とするとき、△Eは以下の式により求められる。
△E={(L2−L1)+(a2−a1)+(b2−b1)1/2
△Eの値が小さいほど、発色への影響が小さく、標準色に近いことを意味する。
【0054】
[実施例1]
下記処方にて調製した粘度2000cps(B型粘度計、ローター:No4、60rpm)の樹脂液を、ナイフコーターを用いて、ウェット塗布厚が200μmとなるように離型紙に塗布した後、100℃で2分間熱処理して乾燥固化させることにより、樹脂層を得た。樹脂層単体のL値は25であり、780〜1800nmの波長領域(赤外線領域)における平均吸収率は15%であった。
得られた樹脂層に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(商品名「クリスボンTA−205」、DIC株式会社製)にジメチルホルムアミドを加え粘度5000cps(B型粘度計、ローター:No4、60rpm)に調整した接着剤を、ナイフコーターを用いて、ウェット塗布厚が200μmとなるように塗布した後、100℃で1分間熱処理して予備乾燥し、ポリエステルトリコット布と重ねて4kgf/cmで1分間加圧することにより、実施例1の暗色シート材を得た。
評価結果を表2に示す。また、顔料に関するデータを表1に示す。
【0055】
処方
1)商品名「クリスボンNY−328」;100重量部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分20重量%、DIC株式会社製)
2)商品名「Paliogen Black L0086」;6重量部
(黒色顔料(ペリレン系)、BASF社製)
3)商品名「Solarflair870」;2重量部
(赤外線反射顔料(酸化チタンで被覆した雲母)、メルク社製)
4)DMF;40重量部
【0056】
[実施例2〜5および比較例1、2]
樹脂液として、それぞれ表2に示す処方の樹脂液を用いた以外は、実施例1と同様にして、暗色シート材を得た。
評価結果を表2に示す。
【0057】
[実施例6]
下記処方にて調製した粘度40秒(カップ粘度計(アネスト岩田製、NK−2モデル)を用いた吐出落下時間)の樹脂液を、天然皮革(クラスト)の表面に、スプレーコーターを用いて、ウェット塗布量が150g/mとなるように塗布した後、80℃で5分間熱処理して乾燥固化させた。次いで、エージング、エンボス、ミリングの工程を得て、実施例6の暗色シート材を得た。
別途作成した樹脂層単体のL値は25であり、780〜1800nmの波長領域(赤外線領域)における平均吸収率は15%であった。
評価結果を表2に示す。
【0058】
処方
1)商品名「BAYDERM BOTTOM 51UD」;150重量部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35重量%、ランクセス株式会社製)
2)商品名「PRIMAL SB−100」;150重量部
(アクリル樹脂、固形分35重量%、ランクセス株式会社製)
3)商品名「Paliogen Black L0086」;25重量部
(黒色顔料(ペリレン系)、BASF社製)
4)商品名「Solarflair870」;8重量部
(赤外線反射顔料(酸化チタンで被覆した雲母)、メルク社製)
5)商品名「ACRYSOL RM−1020」;1重量部
(増粘剤、固形分20重量%、ランクセス株式会社製)
6)水;100重量部
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表2から明らかなように、実施例1〜3、5、6は、遮熱性(白熱電球吸収温度、温感度)が良好で、かつ、発色への影響が小さく、標準色に近い暗色を呈するものであった。
実施例4は、樹脂層における赤外線反射顔料の含有量が、好ましい範囲の上限値を超えるため、発色への影響がやや認められるものであった。
比較例1は、樹脂層が赤外線反射顔料を含有しないため、遮熱性がやや劣るものであった
比較例2は、可視光線の透過率が低い赤外線反射顔料を用いているため、発色への影響が大きく、十分な暗色を呈さないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材上に樹脂層を有するシート材であって、
樹脂層が、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である黒色顔料と、380〜780nmの波長領域における平均透過率が30%以上であり、780〜1800nmの波長領域における平均反射率が20%以上である赤外線反射顔料とを含有する、暗色に着色された層である、
暗色シート材。
【請求項2】
樹脂層における赤外線反射顔料の含有量が2〜20重量%である、請求項1に記載の暗色シート材。
【請求項3】
樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である、請求項1または2に記載の暗色シート材。
【請求項4】
樹脂層のCIELAB表色系におけるL値が40以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の暗色シート材。

【公開番号】特開2013−75366(P2013−75366A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215019(P2011−215019)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】