説明

曲がりスライドファスナー

【課題】構造が簡単で製作が容易なテープ面にしわや波打ち状の凹凸面の発生を確実に防止した曲がりスライドファスナーを提供する。
【解決手段】一対のファスナーテープ(2,2)の対向側縁部に沿って、それぞれファスナーエレメント列(3,3)が取り付けられたエレメント取付縁部(2a,2b)を備えた曲がりスライドファスナーに関する。前記一対のファスナーテープ(2,2)は、一方のファスナーテープ(2,2)の少なくとも一部領域が、そのエレメント取付縁部(2a)とは反対側の側縁部を外側に向けて凸状となるように湾曲させた第1湾曲部(A)を有し、前記第1湾曲部(A) と対向するファスナーテープ(2,2) の領域が、そのエレメント取付縁部(2b)を対向側のエレメント取付縁部(2a)側に向けて凸状となるように湾曲させた第2湾曲部(B) を有している。前記第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部(2b)とは反対側の縁部に沿って伸縮性部材(18)が配されている。伸縮性部材(18)は、縮長した状態でファスナーテープに固定され、ファスナーテープの地組織を収縮させた状態を保持し、テープ面にしわや隆起が生じることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞄や衣服等の物品の開閉に使用されるスライドファスナーに関するものであり、特にファスナーテープをそのテープ面に対して水平方向に所定の曲率で湾曲させた曲がりスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
鞄の開口部分や、上着の前身頃、ズボンの前開き部分等を開閉するために取り付けられるスライドファスナーには、ファスナーテープをそのテープ面に対して水平方向に所定の曲率で湾曲させた曲がりスライドファスナーを用いることがある。このような曲がりスライドファスナーは、通常、ファスナーテープを直線状に連続して織成又は編成し、所定長さに切断した後に、湾曲形態に変形させている。
【0003】
これは、一般にテープを所定の曲率で湾曲するように織成又は編成することは、織成方向又は編成方向に並列して直線状に走行する複数の経糸は伸縮性に乏しく、織成方向又は編成方向に加える糸張力を調整するだけでは、テープをテープ面に対して水平に湾曲させることは出来ず、また仮に伸縮性の経糸を用いたとしても、張力制御が複雑化するばかりでなく、各種メンテナンスの煩雑化を招き、効率のよい生産が困難なためである。
【0004】
ファスナーテープを上述のように湾曲する形態に変形させた曲がりスライドファスナーが、米国特許第3003212号明細書(特許文献1)に開示されている。この特許文献1に開示されている曲がりスライドファスナーは、対向する一対の杉綾織りからなり長さの異なる第1及び第2のファスナーテープのうち、長い方の第1のファスナーテープには、そのファスナーエレメント取付縁部に沿って、同ファスナーテープの長さよりも短いコード(芯紐)を縫い付け、第1のファスナーエレメント取付縁部と対向する短い方の第2のファスナーテープには、そのファスナーエレメント取付縁部に沿って、同ファスナーテープの長さより長いコード(芯紐)を縫い付け、各ファスナーエレメント取付縁部に取り付けられたエレメント列を噛合させたとき一方向に湾曲する。更に、前記第2のファスナーテープのコードが縫い付けられていない側の側縁部に沿って、第2のファスナーテープの長さよりも短いコードや帯を取り付けてもよいとしている。
【0005】
一方、特公平7−59205号公報(特許文献2)には、ファスナーテープに溶剤膨潤性の合成繊維、例えばポリウレタン繊維を編み込み又は織り込み、片側のファスナーテープのみに溶剤を塗布することで、片側のファスナーテープのポリウレタン繊維が膨張し、これにより片側のファスナーテープのみが経方向に伸長して、スライドファスナーを湾曲状に整形することが開示されている。更に、特許文献2は、スライドファスナーを湾曲状に整形した後、ファスナーテープにホットメルト型接着剤を塗布して湾曲形態を固定することを開示している。
【特許文献1】米国特許第3003212号明細書
【特許文献2】特公平7−59205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような特許文献1や特許文献2の曲がりスライドファスナーは、ファスナーテープの湾曲形態を常時安定して維持する利点を有するものの、それぞれ以下のような欠点を有していた。
【0007】
まず、前記特許文献1に記載されている曲がりスライドファスナーは、ファスナーエレメント取付縁やその反対側側縁に沿って、ファスナーテープよりも長いコード(芯紐)、又はファスナーテープよりも短いコードを取り付けることから、ファスナーテープをコードの長さに合わせて無理に伸長又は縮長させることになり、たとえ杉綾織り製のファスナーテープであっても、コードを取り付けた部分以外のテープ面にしわや波打ち状の凹凸面が相変わらず発生する問題があった。しかも、ファスナーエレメント取付縁部に限らず、その反対側の側縁部にコード又は帯体を縫い付ける場合には、部品点数が増加する上に作業工程が増加し、経済的にも作業効率からも不利である。
【0008】
また、前記特許文献2に記載されている曲がりスライドファスナーは、片側のファスナーテープの溶剤膨潤性繊維に溶剤を塗布することで膨張させ、ファスナーテープを経方向に伸長させて湾曲形態を整形することから、溶剤膨潤性繊維を所定量膨張させるように膨張の程度を適切に制御する必要がある。しかし、この膨張の程度は、作業環境や、溶剤膨潤性繊維の物性、溶剤の塗布量等により変化しやすく、所定の曲率に湾曲した曲がりスライドファスナーを得ることが困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、ファスナーテープが湾曲する形態に有する曲がりスライドファスナーにおいて、構造が簡単で製作が容易なテープ面にしわや波打ち状の凹凸面の発生を確実に防止した曲がりスライドファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明により提供される曲がりスライドファスナーは、基本的な構成として、一対のファスナーテープの対向側縁部に沿って、それぞれファスナーエレメント列が取り付けられたエレメント取付縁部を備え、前記一対のファスナーテープは、一方のファスナーテープの少なくとも一部領域が、そのエレメント取付縁部とは反対側の側縁部を外側に向けて凸状となるように湾曲させた第1湾曲部を有し、前記第1湾曲部(A) と対向する他方のファスナーテープの領域が、そのエレメント取付縁部を対向側のエレメント取付縁部に向けて凸状となるように湾曲させた第2湾曲部(B) を有してなり、前記第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部とは反対側の縁部に沿って伸縮性部材が配されていることを最も主要な特徴としている。
【0011】
ここで、本発明におけるスライドファスナーの上記第1及び第2の湾曲部(A),(B) は、左右一対のファスナーテープのうちの一方が全長にわたり連続して第1の湾曲部(A) に形成され、他方のファスナーテープが全長にわたり連続して第2の湾曲部(B) に形成されている場合を当然に含むものであるが、一対のファスナーテープの双方が長さ方向にあって第1湾曲部(A) と第2湾曲部(B) とを交互に有する場合をも含んでいる。ただし、いずれにしても一対のファスナーテープは全長において、一方のファスナーテープの第1及び/又は第2の湾曲部(A)/(B) と、相手方のファスナーテープの第2及び/又は第1の湾曲部(B)/(A) とが対向関係にある。
【0012】
また、本発明にあって特徴部とするところは、上記伸縮性部材をファスナーテープの第2湾曲部(B)のエレメント取付縁部とは反対側の縁部に沿って配するに当たっては、真っ直ぐなファスナーテープに対して伸縮性部材を伸長状態において固定することにある。
【0013】
本発明に係る曲がりスライドファスナーにおいて、前記伸縮性部材は、経方向に伸縮する弾性糸を構成糸として含む帯材であって、前記第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部とは反対側の縁部に沿って接着されていることが好ましい。このとき、伸縮性の帯材を伸長した状態で第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部に沿って接着する。
また、前記ファスナーテープは編成テープであって、前記第1湾曲部(A) のエレメント取付縁部とは反対側の側縁部の地組織を、他の部分の地組織に比して最も粗組織に形成していることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る曲がりスライドファスナーは、一対のファスナーテープの対向側縁部に沿って、それぞれファスナーエレメント列が取り付けられたエレメント取付縁部を備えている。前記一対のファスナーテープは、一方のファスナーテープの少なくとも一部領域が、そのエレメント取付縁部とは反対側の側縁部を外側に向けて凸状となるように湾曲させた第1湾曲部(A)を有し、前記第1湾曲部(A) と対向する他方のファスナーテープの領域は、そのエレメント取付縁部を対向側のエレメント取付縁部に向けて凸状となるように湾曲する第2湾曲部(B) に形成される。そのため、前記第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部とは反対側の縁部に沿って伸縮性部材が配されている。
【0015】
このような構成を備えた本発明の曲がりスライドファスナーであれば、伸縮性部材によって、ファスナーテープを縮長させようとする力が作用することから、相手方のファスナーテープのエレメント取付縁部に向けて凸状に湾曲して第2湾曲部(B) が形成される。いま、このファスナーテープの第2湾曲部(B) のエレメント取付縁部のエレメント列と相手方のファスナーテープのエレメント取付縁部のエレメント列とを噛合させると、相手方のファスナーストリンガーは、その噛合領域において相手方のファスナーストリンガーの第2湾曲部(B) の湾曲形状に追従して、そのエレメント取付縁部とは反対側のテープ側縁が外側に凸状に湾曲して第1湾曲部(A) を形成する。その結果、各ファスナーストリンガーのエレメント列が噛合状態にあるときは第1及び第2湾曲部(A),(B) は全体として一方向に湾曲する湾曲形状を保持する。
【0016】
このとき第2湾曲部(B) は伸縮性部材の縮長に基づきファスナーテープのエレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部を縮長させるため、そのファスナーテープの地組織が変形し、テープ面のしわや隆起を吸収して、平坦なテープ面を形成する。一方、第2湾曲部(B) と噛合一体化した第1湾曲部(A) のエレメント取付縁部は第2湾曲部の湾曲形状に倣って湾曲し、そのエレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部を外側に向けて凸状に突出する湾曲形状を呈するようになる。
【0017】
また、ファスナーテープの長手方向に第1湾曲部(A) と第2湾曲部(B) とが交互に形成される場合、第2湾曲部(b) のエレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部に沿って、所要の間隔をおいてそれぞれに伸縮性部材を伸長状態で固着すると、その二つの固着部分は伸長部材の縮長により、それぞれエレメント取付縁部が外側に向いて凸状に湾曲して第2湾曲部が形成される。この湾曲に伴って、二つの第2湾曲部(B,B) の間は、逆方向、すなわちエレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部は外側に向けて凸状に湾曲する第1湾曲部(A) が形成され、全体的には略S字状に湾曲するファスナーテープが形成されることになる。
【0018】
本発明の曲がりスライドファスナーにおける伸縮性部材の好適な態様は、経方向に伸縮する弾性糸を構成糸として含む帯材である。また、伸縮性部材はファスナーテープの第2湾曲部(B) を構成する領域とは反対側のテープ縁部に沿って、そのテープ面に接着される。これにより、ファスナーテープのテープ面に所定幅の伸縮領域を簡単に形成することができ、伸縮性部材とファスナーテープとを強固に固定することができる。
【0019】
特に、本発明の曲がりスライドファスナーを編テープから製造する場合は、エレメント取付縁部とは反対側の縁部の地組織の隙間を他の領域の隙間より大きく形成しておく。これにより、その隙間の大きい領域の編糸が移動して変形しやすくなり、第2湾曲部(B) のエレメント取付縁部とは反対側の縁部が収縮しても、隙間を狭めてテープ面にしわや隆起を発生させることなく、また、第1湾曲部のエレメント取付縁部とは反対側の縁部が伸長しても、隙間を広げながら前記第2湾曲部の湾曲形態に追随して容易に変形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、実施例に基づき図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない範囲において様々な変更が可能である。例えば、ファスナーエレメントの形態は合成樹脂線条からなるコイル状に連続する線条ファスナーエレメントに限定されず、ジグザグ状に連続する線条ファスナーエレメントや、ファスナーテープの長さ方向へ所定の間隔毎に射出成形により固定した合成樹脂製ファスナーエレメントや、加締めて固定した金属製ファスナーエレメントであってもよい。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係る曲がりスライドファスナーの正面図である。また、図2は、本実施例1に係る曲がりスライドファスナーの背面図であり、図3はその要部縦断面図である。
【0022】
実施例1に係る曲がりスライドファスナー1は、図1に示すように、左右一対のファスナーテープ2,2と、各ファスナーテープ2,2の対向側縁に沿って取り付けられたファスナーエレメント列3,3と、ファスナーエレメント列3,3を噛合又は分離させるため、ファスナーエレメント列3,3に沿って摺動するスライダー4とを備えている。また、各ファスナーエレメント列3,3の上端には、それぞれ上止5,5が固定され、ファスナーエレメント列3,3の下端には一個の下止6が固定され、ファスナーエレメント列3の上端と下端とからスライダー4が抜脱しないようにしている。なお、前記下止6に代えて、蝶棒と箱棒とを有する図示せぬ開き具又は逆開き具を固定する場合もある。
【0023】
ファスナーテープ2は、図1及び図2に示すように、ファスナーテープ2のテープ面2cと同一水平面内で略S字状に湾曲する形態を呈している。各ファスナーテープ2,2は、対向する側縁、すなわち一方のエレメント取付縁部2aとは反対側のテープ縁部が外側に向けて凸状に湾曲する第1湾曲部Aと、前記エレメント取付縁部2aに対向する他方のエレメント取付縁部2bが外側に向けて凸状に湾曲する第2湾曲部Bとが対向して配置され、これがテープ長手方向に沿って交互に配されている。
【0024】
本実施例にあっては、前記第2湾曲部Bのエレメント取付縁部2bとは反対側のテープ縁部に沿って伸縮性部材18が固着されている。この伸縮性部材18は、経方向に伸縮する弾性糸を一部または全部に配した帯材19からなる。
【0025】
本実施例におけるファスナーテープ2は、図4に示すように、複数の編糸によって編成された経編テープからなり、左右ファスナーテープ2,2の対向側縁に沿った第1〜第4ウェールW1〜W4にエレメント取付縁部2a,2bを形成し、その他の第5〜第13ウェールW5〜W13がテープ主体部2e,2eを形成し、前記エレメント取付縁部2a,2bとは反対側の最も外側の縁部に形成される第14ウェールW14が耳部2dを形成している。左右のエレメント取付縁部2a,2bの地組織は、0−1/1−0の編組織の鎖編糸7と、1−0/1−2の編組織のトリコット編糸8と、4−4/0−0の編組織の緯挿入糸9と、0−0/3−3の編組織の緯挿入糸10と、0−0/1−1の編組織の経挿入糸11とにより編成されている。一方、テープ主体部2eと耳部2dの地組織は、1−0/1−2の編組織のトリコット編糸8と、4−4/0−0の編組織の緯挿入糸9とにより編成されている。ファスナーテープ2を上述した地組織の編構造とすることにより、編糸間に隙間が形成され、伸長状態で伸縮性部材18が取り付けられたときに、地組織の編糸が伸縮性部材18の縮長作用に応じて隙間内を移動して変形し易くなっている。
なお、これら編糸にはポリエステル又はナイロンを材質とした合成繊維のマルチフィラメントが用いられている。
【0026】
耳部2dには、ファスナーテープ2の編成時において、上述した編組織に加え、0−1/1−0の編組織の鎖編糸12が編成されている。この鎖編糸12は水溶性糸であり、ファスナーテープ2を編成した後、水中に浸漬することで溶かすことができる。鎖編糸12が存在しなくなった耳部2dは、鎖編糸12の編目が無くなり、トリコット編糸8の編目8aが残存する形態、すなわち1コースごとに編目が存在せず、ウエール方向(ファスナーテープの長さ方向)に隣り合う編目8a間に広い間隙を有した地組織が形成されることとなる。これによって、耳部2dは、エレメント取付縁部2a,2bやテープ主体部2eに比べて糸本数が少ない最も粗い地組織となり、ファスナーテープ2が長さ方向に伸長又は縮長して湾曲形態に変形されると、編目8a間の間隙を容易に広げながら、又は狭めながら変形する。
【0027】
また、ファスナーテープ2は、図5に示すように、経糸13と緯糸14とによって織成された織成テープであってもよい。ファスナーテープ2の一側縁に沿ってエレメント取付縁部2a,2bを形成し、他の部分にはテープ主体部2eを形成し、エレメント取付縁部2a,2bとは反対側のテープ主体部2eの縁部に耳部2dが形成されている。このファスナーテープ2は、テープ主体部2eにおける耳部2d寄りに配される経糸の本数を他の部分に配される経糸の本数よりも少なくなるように織成し、テープ主体部2eの耳部2d寄り部分が他の部分よりも織糸密度が小さな地組織となるようにしている。
【0028】
なお、図示例ではファスナーテープの形状を略S字状に湾曲させているが、例えば一方のファスナーテープ2がエレメント取付縁部を外側に向けて凸状に連続して湾曲させた第2湾曲部Bだけで形成され、他方のファスナーテープ2がエレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部を外側に向けて凸状に連続して湾曲させた第1湾曲部Aだけで形成されているような場合がある。即ち、ファスナーエレメントが噛合した状態でファスナーチェーンが単一の円弧状に湾曲した形状となる場合である。
【0029】
この場合、例えば第1湾曲部Aを構成する一方のファスナーテープ2のエレメント取付縁部2aとは反対側のテープ縁部の経糸に他の経糸よりも伸長回復率の低い糸条を使うとともにエレメント取付縁部側の経糸に熱収縮率の高い糸条を使い、第2湾曲部Bを構成する他方のファスナーテープ2のエレメント取付縁部2bとは反対側のテープ縁部の経糸に両ファスナーテープ2,2の経糸のうちで最も高い熱収縮率をもつ熱収縮糸を使えば、双方のファスナーテープ2に引っ張り力を付与して伸長後に熱セット或いは高温染色を行えば、一方がエレメント取付縁部とは反対側のテープ縁部を外側に向けて凸状に湾曲する第1湾曲部Aの形態を有するファスナーテープが形成され、他方がエレメント取付縁部を外側に向けて凸状に湾曲する第2湾曲部Bの形態を有するファスナーテープ2が形成される。上述のごとき伸縮性部材と併用することにより、その曲率半径を小さくしたより湾曲形状が明確な曲がりスライドファスナーが得られるし、ファスナーテープ部分に波打ち形状を等のしわが発生しない。
【0030】
ここで前記伸長回復率は、JIS L1096に準じて各糸長を測定し、次式(1)をもって求めることができる。しかして、この伸長回復率はファスナーテープの構成糸条の種類により異なり一律には決めがたいが、通常のマルチフィラメントやモノフィラメントの伸長回復率Rはせいぜい80%に止まる。しかしながら、例えばナイロンのマルチフィラメントの伸長回復率は94.3%であるのに対して、例えばポリエステルからなるマルチフィラメントの伸長回復率は67.0%とナイロンのマルチフィラメントと比較して極めて低い。
R={(L1−L2)/(L1−L0)}×100 ………(1)
ただし、L0は元の糸長、L1は所定の張力下で引っ張られたときの糸長、L2は無張力下における回復後の糸長を示す。
【0031】
JIS L1096に準じる糸長の測定には、引張試験機又は同等の性能もつ装置を用い、試験片の一端を上部クランプで固定し、他端に初荷重を加え、試験片のクランプ下端から20cmk 位置に印を付ける。次いで、静かに14.7N(1.5kgf)の荷重を加え1時間放置後、印間の長さを計測する。次に荷重を取り除き、30秒後と1時間後に初荷重加えて再び印間の長さを計測し、上記式(1)により伸長回復率R(%)を求め、30秒後と1時間後について、それぞれ3回の平均値を算出する。
【0032】
また、上記ファスナーテープ2に代えて、ファスナーテープ2のテープ主体部2eの耳部2d寄り部分を構成する幾つかの経糸13に水溶性糸を用い、ファスナーテープ2の織成後に、ファスナーテープ2を水中に浸漬することで水溶性糸を溶かし、経糸13が存在しない部分を形成してもよい。これにより、テープ主体部2eの耳部2d寄り部分は、織糸間に広い隙間が形成された地組織となり、同部分に伸縮性部材18が取り付けられたときに、地組織の織糸が伸縮性部材の縮長作用に応じて隙間内を移動して変形し易くすることができる。
【0033】
図示例によるファスナーエレメント列3は、合成樹脂製のモノフィラメントをコイル状に巻回しながらその長さ方向に連続して形成されている。このファスナーエレメント列3を構成する各ファスナーエレメント15は、図3に示すように、相手方のファスナーエレメント15と噛合する噛合頭部15aと、噛合頭部15aの上端と下端とから並行して延出する上脚部15bと下脚部15cと、ファスナーエレメント列3の長さ方向に隣り合うファスナーエレメント15の上脚部15bと下脚部15cとを連結する反転部15dとを有している。上脚部15bと下脚部15cの間には芯紐16が挿通され、芯紐16とファスナーエレメント15とが縫糸17によってファスナーテープ2の表面側のテープ面に固定されている。
【0034】
各ファスナーテープ2におけるエレメント取付縁部2bとは反対側の縁部すなわち耳部2d側には、上述のようにファスナーテープ2の長さ方向に伸縮可能な伸縮性部材18が、ファスナーテープ2の裏面側のテープ面2cに対面し、ファスナーテープ2の長さ方向すなわち経方向に沿って取り付けられている。伸縮性部材18は、ファスナーテープ2が湾曲した形状を維持するための補強材として機能し、同伸縮性部材18をファスナーテープ2に取り付けるときは伸長状態として取り付け、通常は縮長した状態で、ファスナーテープ2の地組織を収縮させた状態に保持して、第2湾曲部Bのテープ面2cにしわや波打ち状の隆起が発生することが極力抑えられる。
【0035】
また、伸縮性部材18は、ファスナーテープ2の長さ方向に引っ張り力が加わったときに、ファスナーテープ2の変形に応じて伸長することができ、引っ張り力が解除されたときには元の縮長形態に弾性復帰する。これにより、伸縮性部材18はファスナーテープ2の長さ方向に伸長した形態に弾性変形できるので、曲がりスライドファスナー1を物品に縫製するときに加わる引っ張り力に応じて伸長し、ファスナーテープ2が物品に対して元の湾曲形態から僅かに曲率が異なる湾曲形態に変形した状態で縫製されたとしても、テープ面にしわや隆起が殆ど発生させず、平坦な状態を維持することができる。
【0036】
伸縮性部材18は、図6に示すように、経糸19aと緯糸19bとにより織成された帯材19からなり、経糸19aには弾性糸が用いられ、帯材19の長さ方向すなわち経方向に伸縮可能に形成されている。また、帯材19の裏面すなわちファスナーテープ2のテープ面2cと対向する面には、ポリエステル系又はナイロン系のホットメルト接着剤による接着層23が設けられ、この接着層25がテープ面2cに接着され、伸縮性部材18をファスナーテープ2に固定することができる。なお、接着層25の材質は、ファスナーテープ2への接着強度を高くするため、ファスナーテープ2の材質と同様の材質であることが好ましい。
【0037】
伸縮性部材18の他の形態として、図7に示すように、0−1/1−0の編組織の鎖編糸20aと、1−0/1−2の編組織のトリコット編糸20bと、4−4/0−0の編組織の緯挿入糸20cと、0−0/1−1の編組織の経挿入糸20dとで編成された帯材20であってもよい。上記編糸のうち経挿入糸20dに弾性糸が用いられ、帯材20の長さ方向すなわち経方向に伸縮可能に形成されている。
【0038】
また、伸縮性部材18の他の形態として、図8に示すように、表布22と裏布23とを有した2層構造の帯材21としてもよい。表布22は経糸22aと緯糸22bとにより織成され、裏布23は経糸23aと緯糸23bとにより織成され、表布22と裏布23とは接結糸24により連結されている。なお、接結糸24に代えて、表布22と裏布23の対向面同士を部分的に接着して連結させたものであってもよい。帯材21は、表布22の経糸22aと裏布23の経糸23aのうち少なくとも表布22の経糸22aに弾性糸を用い、帯材21の長さ方向すなわち経方向に伸縮可能に形成されている。また、裏布23におけるファスナーテープ2のテープ面2cと対向する面には、ホットメルト接着剤による接着層25を設け、この接着層20をテープ面2cに接着する。
【0039】
更に、伸縮性部材18の他の形態として、図9に示すように、ファスナーテープ2のテープ面2cに、ゴム製の帯材26をファスナーテープ2の長さ方向に連続して帯状にコーティングしたものであってもよい。帯材26は、ゴムを加熱して軟化させた状態でファスナーテープ2にコーティングされ、ゴムがファスナーテープ2の繊維間に入り込んで、ファスナーテープ2と一体に固定される。このため帯材26とファスナーテープ2との固定には接着層を必要としない。
【0040】
伸縮性部材18は帯状に形成されているので、この伸縮性部材18をファスナーテープ2のテープ面2cに取り付けることで、ファスナーテープ2のテープ主体部2eの幅方向に所定幅寸法の伸縮領域を簡単に設けることができる。また、テープ主体部2eの地組織を広範囲にわたって変形させ、テープ面2cに生じるしわや隆起を確実に吸収することができる。
【0041】
また、伸縮性部材18をテープ主体部2eにおける耳部2d側に取り付けることにより、ファスナーテープ2を鞄や衣服等の物品の生地Cに縫製する際に、テープ主体部2eの略中央に位置する縫製ラインと伸縮性部材18の取り付け位置とが重ならないようにする。これにより、物品とファスナーテープ2とを固定する縫糸27が伸縮性部材18を刺通しないようにして、伸縮性部材18が縫製の邪魔となることがなく、また縫糸27によって伸縮性部材18の伸縮機能が損なわれることがない。
【実施例2】
【0042】
図10は、本発明の実施例2に係る曲がりスライドファスナーの要部縦断面図である。本実施例は、防水性スライドファスナーを上記実施例1のごとく湾曲形態とするため、ファスナーテープ2のテープ面2cの耳部2d側に伸縮性部材18を取り付けている。伸縮性部材18は織成又は編成された帯材であり、ホットメルト接着剤による接着層25によってファスナーテープ2の裏面側のテープ面2cに接着されている。ファスナーエレメント列3はファスナーテープ2の裏面側のテープ面2cに配置されている。
【0043】
また、ファスナーテープ2の表面には防水層28が形成されている。防水層28は、ファスナーテープ2の表面全体を被覆し、ファスナーテープ2の表面側から裏面側に向けて水が通過しないようにしており、弾力性を備えた合成樹脂材料、例えばポリウレタン樹脂を用いて成形されている。ファスナーテープ2の地組織の隙間には防水層28を形成するポリウレタン樹脂が充満しているので、地組織の織糸又は編糸が隙間内を移動して変形することは不可能である。しかるに、防水層28自体が弾性変形できることから、防水層28は伸縮性部材18の伸縮に応じてファスナーテープ2の長さ方向に変形し、伸縮性部材18が縮長した状態にて、防水層21の通常の形態を保持している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、鞄や衣服等の開口部に取り付けられて、開口部を開口又は閉鎖させることができるとともに、開口部に開口形状に変化を与え、美観を呈しさせるスライドファスナーに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1に係る曲がりスライドファスナーの正面図である。
【図2】同曲がりスライドファスナーの背面図である。
【図3】同曲がりスライドファスナーの要部縦断面図である。
【図4】ファスナーテープの組織図である。
【図5】ファスナーテープの変形例を示した正面図である。
【図6】伸縮性部材を部分的に拡大して示した正面図である。
【図7】伸縮性部材の変形例を示した組織図である。
【図8】伸縮性部材の他の変形例を示した側部断面図である。
【図9】伸縮性部材の更に他の変形例を示した縦断面図である。
【図10】実施例2に係る曲がりスライドファスナーの要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 曲がりスライドファスナー
2 ファスナーテープ
2a,2b エレメント取付縁部
2c テープ面
2d 耳部
2e テープ主体部
3 ファスナーエレメント列
4 スライダー
5 上止
6 下止
7、12 鎖編糸(ファスナーテープ)
8 トリコット編糸(ファスナーテープ)
8a 編目
9、10 緯挿入糸(ファスナーテープ)
11 経挿入糸(ファスナーテープ)
13 経糸(ファスナーテープ)
14 緯糸(ファスナーテープ)
15 ファスナーエレメント
15a 噛合頭部
15b 上脚部
15c 下脚部
15d 反転部
16 芯紐
17 縫糸
18 伸縮性部材
19 帯材
19a 経糸(帯材)
19b 緯糸(帯材)
20 帯材
20a 鎖編糸(帯材)
20b トリコット編糸(帯材)
20c 緯挿入糸(帯材)
20d 経挿入糸(帯材)
21 帯材
22 表布
22a 経糸(表布)
22b 緯糸(表布)
23 裏布
23a 経糸(裏布)
23b 緯糸(裏布)
24 接結糸
25 接着層
26 帯材
27 縫糸
28 防水層
A 第1湾曲部
B 第2湾曲部
C 生地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のファスナーテープ(2,2)の対向側縁部に沿って、それぞれファスナーエレメント列(3,3)が取り付けられたエレメント取付縁部(2a,2b)を備え、
前記一対のファスナーテープ(2,2)は、一方のファスナーテープ(2,2)の少なくとも一部領域が、そのエレメント取付縁部(2a)とは反対側の側縁部を外側に向けて凸状となるように湾曲させた第1湾曲部(A)を有し、前記第1湾曲部(A) と対向するファスナーテープ(2,2) の領域が、そのエレメント取付縁部(2b)を対向側のエレメント取付縁部(2a)側に向けて凸状となるように湾曲させた第2湾曲部(B) を有してなり、
前記第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部(2b)とは反対側の縁部に沿って伸縮性部材(18)が配されてなる、
ことを特徴とする曲がりスライドファスナー。
【請求項2】
前記伸縮性部材(18)は、経方向に伸縮する弾性糸を構成糸として含む帯材(19,20,21)であって、前記第2湾曲部(B)の前記エレメント取付縁部(2b)とは反対側の縁部に沿って接着されてなる請求項1記載の曲がりスライドファスナー。
【請求項3】
前記ファスナーテープ(2,2 )は編成テープであって、前記第1湾曲部(A) のエレメント取付縁部(2a)とは反対側の側縁部(2d)の地組織を、他の部分(2a,2b,2e)の地組織と比べて最も粗組織に形成してなる請求項1記載の曲がりスライドファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−93210(P2008−93210A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279130(P2006−279130)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】