説明

曲げ加工性に優れた冷延鋼板およびその製造方法

【課題】実際のプレス成形において良好な成形性を得ることができる、曲げ加工性に優れた冷延鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.005%以下、Si:0.1%以下、Mn:0.5%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、N:0.005%以下およびAl:0.1%以下を含有し、さらにTi:0.020%以上0.1%以下を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成にすると共に、TiNの大きさを0.5ミクロン以下、Ti硫化物および/またはTi炭硫化物の大きさを0.5ミクロン以下、フェライト粒径を30ミクロン以下とし、さらに(111)//NDのX線ランダム強度比を3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比を1以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品等の輸送機材や、住居、家具、机などの構造材の素材として好適な、曲げ加工性に優れた冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。
なお、本発明の冷延鋼板には、溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
薄鋼板は、その成形性の良さから、多種多様な構造体の素材として用いられている。通常は、プレス成形で2次元の板形状のものを3次元構造体とし、これらを接合してさらに複雑な3次元の構造体に形成していく。
【0003】
従来、このような薄鋼板には、Cを0.03質量%程度含有する低炭素鋼板が用いられてきた。低炭素鋼板では、Cを粗大なセメンタイトとして析出させることによって加工性を向上させていた。しかしながら、構造体の形状が複雑化するにつれて、より加工性のよい鋼板が必要とされるようになった。通常、低炭素鋼板をプレス加工すると、セメンタイトが亀裂の発生源となることから、このセメンタイトを減じたり、生じないようにする試みがなされてきた。
【0004】
特許文献1には、Cを0.003質量%以下に低減し、TiとNbを添加し、さらにS量を規定すると共に、熱間圧延での仕上温度をMn,S,NbおよびC含有量に応じて規定することで、成形性と化成処理性を向上させる技術が開示されている。
しかしながら、この技術では、優れた伸びとr値を得ることはできるものの、曲げ加工を行うと表面に亀裂が生じてしまうという問題があった。
【0005】
特許文献2には、Cを0.0025質量%以下に低減し、さらにフェライト粒径を15μm以下とすることで、耐二次加工脆性を向上させた薄鋼板が開示されている。
しかしながら、この技術でも、曲げ加工を行うと曲げ変形外側表面に亀裂が生じてしまい、曲げ加工性は必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
特許文献3には、Cを0.0030質量%以下に低減すると共に、C,N,S含有量に応じて適量のTiを添加し、さらに連続鋳造後、室温まで冷却すること無しに熱間圧延を開始し、粗圧延後に粗圧延バーを加熱昇温することで、深絞り性に優れた薄鋼板を得る方法が開示されている。
しかしながら、この技術では、r値や耐二次加工脆性は向上するものの、やはり曲げ加工性については必ずしも満足できるものではなかった。
【0007】
さらに、特許文献4には、Cを0.0015質量%以下にまで低減すると共に、AlをN量に応じて積極的に添加することで、耐食性および成形性を改善した薄鋼板が開示されている。
しかしながら、この技術でも、単純な引張試験での伸びやr値の向上は認められるものの、実際の成形において必ず伴われる曲げ加工については、やはり満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2712986号公報
【特許文献2】特許第3807177号公報
【特許文献3】特許第3428318号公報
【特許文献4】特許第3241429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したとおり、従来の技術では、実際のプレス成形において必ず伴われる曲げ加工に優れた冷延鋼板を得ることは困難であった。
本発明は、上記した従来技術が抱える問題を有利に解決するもので、実際のプレス成形において良好な成形性を得るために必要な曲げ加工性に優れた冷延鋼板を、その有利な製造方法と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来、冷延鋼板の成形性は、一般的に引張試験での伸びが指標として用いられてきたが、この伸びは、板厚方向に歪み分布がない、もしくは考えなくてもかまわないプレス成形に対して用いることができる指標である。
しかしながら、実際のプレス加工では、板厚方向に歪み勾配をもつ曲げ加工が必ず入り、伸びは良好な値であるにも係わらず、実際のプレス成形では割れてしまう場合が発生する。
すなわち、真の曲げ加工性は、引張試験では正当に評価することができなかった。
【0011】
そこで、発明者らは、実際のプレス成形における冷延鋼板の変形挙動について調査を行った。
その結果、プレス加工における曲げは、曲げ外側表面は引っ張り、内側表面は圧縮であり、曲げ外側表面での亀裂発生によって破断に至る。そして、曲げ加工での亀裂は、鋼材内部の析出物周辺で起こり易いことを突き止めた。
【0012】
そこで、発明者らは、さらに、良好な曲げ加工性を得る各種要因について鋭意検討を重ねた。
その結果、
(1) 鋼板の集合組織を制御して変形時の板厚方向の厚さ変化を抑制する、
(2) 粗大なTiNの生成を抑制する、
(3) Tiの硫化物(TiS)やTiの炭硫化物(Ti4C2S2)の粗大化を抑制する、
(4) フェライト粒径を30ミクロン以下とする、さらに
(5) 粗大なNbの炭窒化物(Nb(C,N))の生成を抑制する
ことが、曲げ加工性の改善に有効であることを知見した。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
【0013】
1.質量%で、
C:0.005%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:0.5%以下、 P:0.03%以下、
S:0.02%以下、 N:0.005%以下および
Al:0.1%以下
を含有し、さらに
Ti:0.020%以上0.1%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、TiNの大きさが0.5ミクロン以下、Ti硫化物および/またはTi炭硫化物の大きさが0.5ミクロン以下、フェライト粒径が30ミクロン以下で、(111)//NDのX線ランダム強度比が3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比が1以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【0014】
2.質量%で、
C:0.005%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:0.5%以下、 P:0.03%以下、
S:0.02%以下、 N:0.005%以下および
Al:0.1%以下
を含有し、さらに
Nb:0.001%以上0.08%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、MnSの大きさが0.5ミクロン以下、Nb炭窒化物の大きさが0.5ミクロン以下、フェライト粒径が30ミクロン以下で、(111)//NDのX線ランダム強度比が3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比が1以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【0015】
3.質量%で、
C:0.005%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:0.5%以下、 P:0.03%以下、
S:0.02%以下、 N:0.005%以下および
Al:0.1%以下
を含有し、さらに
Ti:0.020%以上0.1%以下および
Nb:0.001%以上0.08%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、TiNの大きさが0.5ミクロン以下、Ti硫化物および/またはTi炭硫化物の大きさが0.5ミクロン以下、Nb炭窒化物の大きさが0.5ミクロン以下、フェライト粒径が30ミクロン以下で、(111)//NDのX線ランダム強度比が3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比が1以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【0016】
4.さらに質量%で、
B:0.0030%以下
を含有することを特徴とする、前記1〜3のいずれかに記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【0017】
5.さらに質量%で、
Cu,Sn,Ni,Ca,Mg,Co,As,Cr,Sb,W,Mo,Pb,Ta,REM,V,Cs,ZrおよびHfのうちから選んだ一種または二種以上:1%以下
を含有することを特徴とする、前記1〜4のいずれかに記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【0018】
6.表面にめっき皮膜をそなえることを特徴とする、前記1〜5のいずれかに記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【0019】
7.前記1〜5のいずれかに記載の成分組成からなる鋼素材に、熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、コイルに巻き取り、ついで酸洗後、冷間圧延を施したのち、焼鈍することによって冷延鋼板を製造するに際し、
オーステナイト単相域に加熱後、仕上げ圧延温度:890℃以上で熱間圧延を終了したのち、550〜720℃の温度で巻き取り、ついで鋼板表面のスケール除去後、50%以上の圧下率で冷間圧延したのち、700℃以上で焼鈍を施すことを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0020】
8.前記焼鈍後、めっき処理を施すことを特徴とする前記7に記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来に比べて曲げ加工性、ひいてはプレス加工性が大幅に向上した冷延鋼板を得ることが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、冷延鋼板の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.005%以下
Cは、鋼中で炭硫化物を成形し、曲げ加工時のボイドの発生基点となって、曲げ加工性を劣化させる。そのため、可能な限り低減するのが望ましい。特にC含有量が0.005%を超えると、フェライト粒界に、鋼が曲げ加工されたときにボイドの発生源となる炭硫化物量が多くなり、加工性が劣化することから、上限を0.005%とした。好ましくは0.003%以下である。さらに好ましくは0.0020%以下である。
【0023】
Si:0.1%以下
Siは、固溶強化元素であるだけでなく、製造工程での元素の分配を促進する元素であることから、曲げ加工性には有害な元素である。特にSi含有量が0.1%を超えると、組織の不均一や元素濃度の不均一が生じやすくなり、また曲げ外側表面のフェライトの強度が高くなりすぎて表面に割れが生じやすくなる。従って、Si含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下である。
【0024】
Mn:0.5%以下
Mnは、Siと同様の作用を有する元素である。そのため、本発明では低減する必要があり、優れた曲げ加工性を得る観点からMn含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.35%以下である。
【0025】
P:0.03%以下
Pは、固溶強化元素であり、鋼板表面の伸びを低下させて曲げ加工性を劣化させるため、本発明では低減する必要がある。特にP含有量が0.03%を超えると曲げ加工時の外側表面での割れの発生が助長される。従って、P含有量は0.03%以下とする。好ましくは0.02%以下である。
【0026】
S:0.02%以下
Sは、Tiと結合してTiSやTi4C2S2を形成する。このため、S量が多いと粗大なTiSやTi4C2S2およびこれらの複合析出物が大量に発生して曲げ加工時に割れの発生原因となる。特にS含有量が0.02%を超えると曲げ加工に良くない粗大なTiSとTi4C2S2との複合析出物が生じやすくなることから、本発明では、Sの含有量を0.02%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
【0027】
N:0.005%以下
Nは、粗大なTiNを形成し、曲げ加工性時の割れ発生原因となる。このため、本発明では、極力低減する必要がある。特にN含有量が0.005%を超えるとTiNが粗大となるため、N含有量は0.005%以下とする。
【0028】
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。この効果を得るためには0.001%以上含有させることが望ましいが、0.1%を超える含有はAl2O3介在物量を増やして曲げ加工性を劣化させる。このため、Al含有量は0.1%以下とする。
【0029】
TiおよびNbは、本発明において重要な元素であり、TiとNbのどちらか一方または両方を含有させることで、有利な作用効果を得ることができる。
Ti:0.020%以上0.1%以下
Tiは、NやSやCを析出物として固定して曲げ加工性を向上させる。しかしながら、これらの析出物が粗大となると曲げ加工性が劣化してしまう。Ti含有量が0.020%未満では、NやSやCを析出物として固定する効果に乏しく、曲げ加工性が向上しない。一方、Ti含有量が0.1%を超えると、粗大なTiSとTi4C2S2の複合析出物が析出して曲げ加工性を劣化させる。従って、Ti含有量は0.020%以上0.1%以下とする。
【0030】
Nb:0.001%以上0.08%以下
Nbは、Tiと同様、CやNを、NbCまたはNb(C,N)等の析出物として固定する。このため、添加することが望ましい。Tiが添加されない場合、Nb量が0.001%を下回るとCを完全に炭化物として固定することができず、曲げ加工性が劣化する。一方、0.08%を超えると析出物が粗大化してやはり曲げ加工性の劣化を招く。そのため、添加量は0.001%以上0.08%以下とした。
【0031】
以上、基本成分について説明したが、本発明では、その他にも、以下に述べる元素を必要に応じて適宜含有させることができる。
B:0.0030%以下
Bは、Ti,Nbによる炭化物、窒化物形成で清浄化された粒界を強化するために添加することができる。しかしながら、B添加量が0.0030%を超えると固溶強化により曲げ加工性が低下する。このため、Bを添加する場合の上限を0.0030%とした。
【0032】
Cu,Sn,Ni,Ca,Mg,Co,As,Cr,Sb,W,Mo,Pb,Ta,REM,V,Cs,ZrおよびHfのうちから選んだ一種または二種以上:1%以下
Cu,Sn,Ni,Ca,Mg,Co,As,Cr,Sb,W,Mo,Pb,Ta,REM,V,Cs,ZrおよびHfは いずれも、耐食性の向上に有用な元素であるが、合計量が1%を超えると曲げ加工性が劣化することから、単独添加または複合添加いずれの場合も1%以下で含有させるものとした。好ましくは0.5%以下である。
【0033】
なお、上記した以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
【0034】
以上、鋼板の成分組成範囲について説明したが、本発明で所期した効果を得るには、成分組成を上記の範囲に調整するだけでは不十分で、鋼中に析出する窒化物や硫化物などの大きさや、フェライト粒径および集合組織が所定の条件を満足する範囲に制御することが重要である。
TiN:0.5ミクロン以下
TiNが鋼中に粗大に生成すると、曲げ加工性が劣化する。このため、TiNの大きさの上限を0.5ミクロンとした。
【0035】
Ti硫化物および/またはTi炭硫化物:0.5ミクロン以下
Tiは、TiNの他に、硫化物や炭硫化物を形成する。これらは単独もしくは複合して生成することがあるが、いずれも粗大になると曲げ加工性を劣化させる。このため、本発明では、これらの大きさを0.5ミクロン以下とした。
【0036】
Nb炭窒化物:0.5ミクロン以下
Tiが添加されない場合、Nbは炭窒化物(Nb(C,N))を形成するが、このNb炭窒化物が粗大であると曲げ加工性を劣化させるため、本発明ではその上限を0.5ミクロンとした。
【0037】
MnS:0.5ミクロン以下
Tiが添加されない場合、SはMnSとして析出する。このMnSの大きさが0.5ミクロンを超える場合には、MnSとフェライト界面より亀裂が生じやすくなり、曲げ加工性が劣化する。このため、MnSが析出する場合にはこの大きさを0.5ミクロン以下とした。
【0038】
フェライト粒径:30ミクロン以下
曲げ加工では、曲げ外側の鋼板表面から割れが生じる。この割れはフェライト粒界より生じる。このため、フェライト粒が粗大であると変形が特定の粒界に集中して割れが生じやすくなる。かような加工歪みを分散させるためには、ある程度の粒界を必要とすることから、本発明ではフェライト粒径を30ミクロン以下とした。
【0039】
なお、各種析出物の大きさおよびフェライト粒径は、後述する方法によって測定することができる。
【0040】
(111)//NDのX線ランダム強度比:3以上
曲げ変形では板厚方向に歪み勾配が生じる。このため、曲げ加工時に曲げ部表面で板厚方向に鋼板が変形する。すなわち板厚さが薄くなると応力状態が複雑となり、小さい歪みで割れが生じやすくなる。このため、板厚方向の変形を小さくするために、集合組織を制御する必要がある。発明者らの研究によれば、変形時に板厚方向の変形を抑制する集合組織(111)//NDを発達させることで、板厚方向の変化を低減できることが判明した。そこで、本発明では、(111)//NDのX線ランダム強度比を3以上とした。好ましくは3.2以上、さらに好ましくは3.5以上である。
【0041】
(100)//NDのX線ランダム強度比:1以下
同様に、(100)//NDは板方向の変形を大きくする集合組織である。このため、本発明では この集合組織の発達は好ましくない。そこで、本発明では、(100)//NDのX線ランダム強度比を1以下に制限した。好ましくは0.7以下である。
【0042】
上記したように、(111)//NDのX線ランダム強度比を3以上で、かつ(100)//NDのX線ランダム強度比を1以下にするには、製造工程のうち、とりわけ熱延巻取工程と冷間圧延工程が重要で、これらの工程において、巻取温度範囲を所定の温度範囲550℃から720℃とし、冷間圧延率を50%以上に高めることで、所望の集合組織とすることができる。
【0043】
なお、X線ランダム強度比は、X線回折で得られたX線回折強度から求めることができる。すなわち、標準試料としてランダム方位を有する試料で6面の結晶面からの回折強度を測定し、これを基準とする。ついで、供試材のサンプルのX線回折強度を6面すべてについて求め、各ピーク高さをそれぞれ同じ面指数の標準試験片からのピーク高さで割り、すべてを加えた値を求める。この合計値で、供試材のピーク高さを割った値が各結晶面のX線ランダム強度比となる。
【0044】
また、本発明の冷延鋼板は、表面にめっき皮膜を有するものとしてもよい。鋼板表面にめっき皮膜を形成することにより、冷延鋼板の耐食性が向上する。なお、めっき皮膜としては、例えば溶融亜鉛めっき皮膜や合金化溶融亜鉛めっき皮膜、さらに電気亜鉛めっき、Zn−Ni電気合金めっき等が挙げられる。
【0045】
次に、本発明の冷延鋼板の製造方法について説明する。
本発明では、好適には連続鋳造で得られたスラブを鋼素材とし、熱間圧延後、冷却してコイルに巻き取り、ついで酸洗後、冷間圧延したのち、焼鈍を施すことによって冷延鋼板とする。
【0046】
本発明において、鋼素材の溶製方法は特に限定されず、誘導炉や転炉、電気炉等、公知の溶製方法いずれもが適合する。鋳造方法も特に限定はされないが、連続鋳造法が好適である。また、スラブを熱間圧延するに際しては、加熱炉でスラブを再加熱した後に熱間圧延しても良いし、温度補償を目的として1250℃以上の加熱炉で短時間加熱した後に熱間圧延に供しても良い。
上記のようにして得られた鋼素材に、熱間圧延を施すが、粗圧延と仕上げ圧延による熱間圧延でも、粗圧延を省略して仕上げ圧延のみの圧延としてもよい。
【0047】
スラブ加熱温度:オーステナイト単相となる温度域
スラブ加熱温度が、オーステナイト単相域に満たないフェライト−オーステナイト二相域であると、熱間圧延の際に混粒組織となるとともにフェライト域圧延で集合組織が好ましくないものに変化してしまうので、スラブを加熱する場合にはオーステナイト単相域(Ac3点以上)まで加熱する必要がある。
【0048】
仕上げ圧延温度:890℃以上
仕上げ圧延温度が890℃を下回ると、圧延方向に展伸した結晶粒が生じやすくなり、曲げ加工性が劣化する。このため、仕上げ圧延温度は890℃以上とした。なお、仕上げ圧延温度の上限は1000℃程度で十分である。
【0049】
巻取温度:550〜720℃
巻取温度が550℃を下回ると、析出物が熱延板中に析出しにくくなり、冷延後の焼鈍時に再結晶に先立って析出するようになる。このように再結晶時における析出は再結晶の成長を抑制し、再結晶後でも圧延方向に展伸した結晶粒を生させる。このため、巻取温度の下限は550℃とした。一方、巻取温度が720℃を超えると粗大な析出物が生成して、曲げ加工性が劣化しやすくなる。このため、巻取温度の上限は720℃とした。
【0050】
冷間圧延における圧下率:50%以上
冷間圧延における圧下率が50%に満たないと、フェライト粒が混粒となったり、粗大組織が生じやすくなる。その結果、曲げ加工性は劣化する。そこで、本発明では、冷間圧延における圧下率は50%以上とした。なお、圧下率の上限は90%程度で十分である。
【0051】
焼鈍温度:700℃以上
焼鈍温度が700℃を下回ると圧延方向に展伸したフェライト粒が残留して曲げ加工性が劣化する。このため、焼鈍温度は700℃以上とした。なお、焼鈍温度の上限は900℃程度で十分である。
【0052】
なお、本発明では、上述のようにして製造された冷延鋼板に対し、めっき処理を施すことにより、鋼板表面にめっき皮膜を形成することができる。例えば、めっき処理として、鋼板表面に溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、あるいはかような溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化処理を施すことにより、合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成してもよい。このとき、溶融亜鉛めっきと焼鈍を一つのライン内で行ってもよい。その他、Zn−Ni電気合金めっき等の電気めっきにより、めっき皮膜を形成してもよい。
【実施例1】
【0053】
表1に示す成分組成になる溶鋼を、連続鋳造して、厚み:270mmのスラブ(鋼素材)とした。ついで、得られたスラブを、表2に示すAc3点以上のオーステナイト単相域のスラブ加熱温度に加熱後、表2に示す温度で仕上げ圧延した後、同じく表2に示す温度で巻き取りって、板厚:2.8mmの熱延鋼板とした。ついで、酸洗後、鋼板表面のスケールを除去したのち、表2に示す圧下率で冷間圧延し、その後焼鈍を施した。なお、一部の冷延鋼板については、490℃の亜鉛めっき浴(0.1%Al−Zn)中に浸漬し、片面での付着量:50g/m2の溶融亜鉛めっき皮膜を両面に形成したのち、530℃で合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。
【0054】
上記のようにして得られた冷延鋼板から試験片を採取して、引張試験を行うと共に、透過型電子顕微鏡を用いて、TiやNbを含む析出物の大きさ、またTiを含まない場合にはMnを含む析出物の大きさを測定した。また、(111)//NDおよび(100)//NDのX線ランダム強度比を求めた。さらに、曲げ試験を行って、曲げ加工性の良否について調査した。
試験方法および測定方法は次のとおりである。
【0055】
(i)組織観察
得られた冷延鋼板から作製した薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)によって倍率:120000〜260000倍で観察し、TiまたはNbを含む析出物の粒子径を求めた。
なお、粒子径は、260000倍での10視野の観察結果をもとに、円近似を用いた画像処理で個々の粒子径を求め、求めた粒子径を算術平均し、平均粒子径とした。
また、析出物に電子線を当てて発生した特性X線をエネルギー分散型X線分光器で分光して析出物中の構成元素を同定した。たとえば、TiとCが検出されれば、TiC、TiとNが検出されればTiN、TiとSとCが検出されればTi4C2S2とした。
【0056】
(ii)フェライト粒観察
圧延方向に平行な板厚断面を鏡面研磨して、ナイタール腐食液でフェライト粒を現出させた。組織写真を100倍で撮影し、板厚方向、圧延方向にそれぞれ10本の線を実施の長さで100ミクロン以上の間隔で引き、粒界と線との交点の数を数えた。全線長を交点の数で割ったものをフェライト粒一つあたりの線分長としこれに1.13を乗じてASTMフェライト粒径を求めた。
【0057】
(iii)引張試験
得られた冷延鋼板から、圧延方向に対して平行方向を引張方向とするJIS 5号引張試験片(JIS Z 2201)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠した引張試験を行い、引張強さと伸びを測定した。
【0058】
(iv)X線ランダム強度比
試料板面を0.2mm研削後、さらに0.1mm化学研磨を行い、研磨面でX線回折を行った。X線回折では、Feの(222),(211),(200),(110),(220),(310)の6面の積分ピーク高さを求めた。また、ランダム方位(例えば、Fe粉末)を有する標準試験片の上記面の積分ピーク高さも同時に測定した。各面ごとに試料の積分ピーク高さと標準試験片の積分ピーク高さの比を取り、各面の規格化したピーク高さを計算する。この規格化したピーク高さの合計を取り、規格化した各面のピーク高さを規格化ピーク高さの合計で割ることで、各面のX線ランダム強度比を得ることができる。すなわち、ランダムに方位分散した試料の6面のX線ランダム強度比は1/6で、方位が集積すると1/6以上となる。また、逆に集積がないと1/6以下の数値となる。
【0059】
(v)曲げ試験
頂角:90°の曲げ試験ジグを作成して試験を実施した。得られら冷延鋼板より長手方向:100mm、幅方向:35mmの短冊状の試験片を採取し、この試験片の長手方向中央を曲げの稜線が圧延直角方向に曲がるように曲げ試験を行った。この時に曲げ試験ジグの頂角の曲率半径を変化させ、試験片表面に割れが認められない最小の試験ジグ先端半径を求め、それを限界曲げ半径とした。
限界曲げ半径が2mm以下であれば、曲げ加工性に優れているといえる。さらに、限界曲げ半径が1mm以下であれば、曲げ加工性に極めて優れているといえる。
得られた結果を表3に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表3に示したとおり、発明例はいずれも、限界曲げ半径が2mm以下であり、曲げ加工性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.005%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:0.5%以下、 P:0.03%以下、
S:0.02%以下、 N:0.005%以下および
Al:0.1%以下
を含有し、さらに
Ti:0.020%以上0.1%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、TiNの大きさが0.5ミクロン以下、Ti硫化物および/またはTi炭硫化物の大きさが0.5ミクロン以下、フェライト粒径が30ミクロン以下で、(111)//NDのX線ランダム強度比が3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比が1以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項2】
質量%で、
C:0.005%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:0.5%以下、 P:0.03%以下、
S:0.02%以下、 N:0.005%以下および
Al:0.1%以下
を含有し、さらに
Nb:0.001%以上0.08%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、MnSの大きさが0.5ミクロン以下、Nb炭窒化物の大きさが0.5ミクロン以下、フェライト粒径が30ミクロン以下で、(111)//NDのX線ランダム強度比が3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比が1以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項3】
質量%で、
C:0.005%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:0.5%以下、 P:0.03%以下、
S:0.02%以下、 N:0.005%以下および
Al:0.1%以下
を含有し、さらに
Ti:0.020%以上0.1%以下および
Nb:0.001%以上0.08%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、TiNの大きさが0.5ミクロン以下、Ti硫化物および/またはTi炭硫化物の大きさが0.5ミクロン以下、Nb炭窒化物の大きさが0.5ミクロン以下、フェライト粒径が30ミクロン以下で、(111)//NDのX線ランダム強度比が3以上、(100)//NDのX線ランダム強度比が1以下であることを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項4】
さらに質量%で、
B:0.0030%以下
を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項5】
さらに質量%で、
Cu,Sn,Ni,Ca,Mg,Co,As,Cr,Sb,W,Mo,Pb,Ta,REM,V,Cs,ZrおよびHfのうちから選んだ一種または二種以上:1%以下
を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項6】
表面にめっき皮膜をそなえることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成からなる鋼素材に、熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、コイルに巻き取り、ついで酸洗後、冷間圧延を施したのち、焼鈍することによって冷延鋼板を製造するに際し、
オーステナイト単相域に加熱後、仕上げ圧延温度:890℃以上で熱間圧延を終了したのち、550〜720℃の温度で巻き取り、ついで鋼板表面のスケール除去後、50%以上の圧下率で冷間圧延したのち、700℃以上で焼鈍を施すことを特徴とする曲げ加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍後、めっき処理を施すことを特徴とする請求項7に記載の曲げ加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−104114(P2013−104114A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250084(P2011−250084)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】