説明

曲板または円筒を前縁とする平板羽根の軸流タービン風車

【課題】 本発明は、従来波力発電に使用のウエルズタービンの欠点、例えば、起動時間の長さや低回転域でのトルク維持を解決し、波力を中小型分散電源に利用する高効率、低価格のタービンの提案を行う。つまり、厚さ一様な羽根板と、曲率を有する構造物(円筒または曲板など)を組み合わせる、軽量化と製作が容易で、往復流中でも常に同一方向に回転する、広い低中回転数域で可動な、短起動時間の軸流タービン風車の開発が課題である。
【解決手段】当該羽根板本体は、厚さ一様で、かつ捻じれがないので、従来の翼型の軸流タービンと比較して、軽量化と製作が容易であり、製造設備の廉価を計れる。かつ当該軸流タービン風車は、羽根板の前縁に円筒などの丸みの付加により、静止時から定常回転までの起動時間を大幅に短縮でき、従って、停止時の軸負荷トルクが大きくできるため、低中回転数域でも回転を持続できる性能を有し、作動範囲が広いものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な形状を有する平板羽根の軸流タービン風車に関する。
【背景技術】
【0002】
波浪や風などの自然エネルギーを有効利用することは、資源の少ない我が国にとって解決すべき重要な課題の一つであり、多様化するエネルギー資源の相乗効果を計る上でも開発し、普及しなければならない技術的課題である。
【0003】
波の上下運動によるエネルギーを空気の圧力及び往復流に変換して利用する装置の一つには、対称翼形ブレードを有するウエルズタービンがある。このウエルズタービンは、往復流に対して常に同一方向に回転するが、一方、始動時から定常回転に達するまで起動時間が長く、かつその起動時間の途中において、回転数が急激に増加するジャンピングを有し、中速回転以下では耐負荷性が急減して急停止に至ることなどが指摘されている。起動時間が長いことは、長周期の波を利用する際に不利であり、回転数におけるジャンピング現象は、接続機器の振動や騒音を増加させることがある。しかしながら、このウエルズタービンは、波の上下運動を空気の圧力エネルギーとその速度エネルギーに変換して利用するため、同タービンを海面に垂直に立てた筒内に収納するが、往復流に対しても常に一定の方向に回転するために、流れの向きを切替えるための方向切替弁を不要としており、そのことによって装置が簡易なものとなる。
【0004】
例えば、特公平6−89645号公報は、ウエルズタービンの改良特許であるが、本技術は従来のウエルズタービンの持つ欠点、例えば、起動時間がかかり、又、低トルクでは停止するなどが改善されていないばかりか、2葉タービンの形状の為に製作費が膨大になる。また、特公平6−89645号公報では、ウエルズタービンの改良を提案しているが、本技術は従来のウエルズタービンの持つ欠点、例えば、起動時間がかかり、又、低トルクでは停止するなどが改善されていないばかりか、2葉タービンの形状の為に製作費が膨大になる。また、特開平10−176649号公報では波力により発生した空気流を使った発電機を示しているが、一方向の空気流でしか回転しない為に、空気の流れを制御する弁が必要となり、過大な設備になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−89645号公報
【特許文献2】特開平10−176649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ウエルズタービンに代表される海洋の波力を利用した発電タービンは、起動時間が長く、また、低トルクで停止する或いは設備費が高いなどの欠点を有している。
【0007】
本発明は、ウエルズタービンの欠点を改善して、短い起動時間で所定の回転数に達するタービン、或いは作動回転数域の広い製作が容易な低コストのタービンを開発することを目的とする。本タービンが実用化されれば、波力発電用や風力発電用、あるいは揚水装置や交通機関の駆動源として大いに利用され、社会的にも大きな貢献ができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明者は鋭意検討の結果本発明を完成するに至った。即ち、本発明の第一は、複数枚の厚さ一様な羽根がハブの外周に配列されており、各羽根の回転方向の前縁に、対称的な曲率の構造物を有する軸流タービン風車である。
【0009】
本発明の第二は、羽根が2−8枚である軸流タービン風車である。
【0010】
本発明の第三は、羽根の厚さが2−10mmである軸流タービン風車である。
【0011】
本発明の第四は、羽根がアルミニウム、鉄、繊維強化プラスチック、木材から選ばれる少なくとも1種の材料からなる軸流タービン風車である。特に軽量化及び剛性のアップの為に中空ハニカム構造などは好ましい。
【0012】
本発明の第五は、タービンの外形が高々5mの軸流タービン風車である。
【0013】
本発明の第六は、羽根の弦長に対して曲率を有する構造物の幅の比が0.05−0.3である軸流タービン風車である。
【0014】
本発明の第七は、羽根とハブが一枚の材料からなる軸流タービン風車である。
【0015】
本発明の第八は、羽根とハブを別個に製作し、組付けて組み合わせる軸流タービン風車である。
【0016】
本発明の第九は、曲率が円、楕円或いは放物線である軸流タービン風車である。
【0017】
本発明の第十は、曲率を有する構造物の外端が開放した構造或いは閉じた構造である軸流タービン風車である。
【0018】
本発明の第十一は、無負荷時において静止状態から定常回転数に至るまでの起動時間が同サイズのウエルズタービンに比べて1/5以下である軸流タービン風車である。
【0019】
本発明の第十二は、周速比0と周速比4でのトルク係数の比が1以上である軸流タービン風車である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の軸流タービン風車は、ウエルズタービンと同じく、軸方向の流体の往復流に追従して常に同一方向に回転するタービン型風車であるが、従来のウエルズタービンの欠点を改善したことが特徴である。例えば、無回転から所定の回転数までの起動時間を大幅に短縮し、かつ低回転数域においても高トルクを発生しながら回転を持続して稼動する可能にした。又、ウエルズタービンでは設備コストが高く発電のコストパフォーマンスに課題があったが本発明は円周上に配列した複数の矩形または扇形の平板羽根に曲根や円筒などを組み付けた構造であるため、製作が比較的容易で、かつ製造設備を廉価に製造できること等も大きな特徴であり、比較的小規模の分散電力用発電機として実用性に優れる。
【0021】
したがって、当該風車は、海洋の波に伴う空気の往復流や通常の風のエネルギーを機械的エネルギーへ変換して利用する場合に好ましい。特に中低速回転数域で高トルクを発生して運転することができるので、低回転数で稼動する機械装置や、変速機などを介した発電機の駆動力源として活用できる。特に適当な波高の海域や沿岸、あるいは適当な風力域にある地域や離島などにおいて設置でき、そのための製造施設や関連事業の創出に効果があり、それらの地域や離島などの分散電源や動力源として活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】軸流タービン風車の全体概略
【図2】羽根前縁に組み付ける曲板または円筒
【図3】図3写真Aは4枚羽根の前縁円筒を有するタービン、図3写真Bは6枚羽根の前縁円筒を有するタービンである。
【図4】流れの速度と羽根に作用する流体力の関係
【図5】トルク係数CTと周速比λの関係 記号CMF4Taにおいては、CMFTは前縁円筒付き軸流タービン風車を、数字4は羽根を、添字aは円筒外端に溝(slit)を有する場合を示す。以下、同様。
【図6】出力係数CLと周速比λの関係
【図7】起動時間の比較
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は図1に示すように、平板のハブと複数の羽根からなる極めてシンプルな構造である。流体による往復流を一定方向の回転力に変える為に、羽根の前縁に、対称的な曲率の構造物を有することが特徴である。こうしたシンプルな構成、材料の為に形状の設計は非常に自由にでき、又、製作費も従来のウエルズタービンに比べて大幅に低下する。推進力を出すための曲率をもつ構造物は円筒をつけたものでも良いし、半円筒を取り付けたものでもよい。或いは、放物線、楕円、他任意の曲率を有してもよいが、流体に対して最適な曲率は計算で求めることができる。また、製作コストやメンテナンスの容易さも考慮して選定すればいい。また、本発明のタービンの羽根の枚数は、2枚以上であれば偶数、奇数を問わないが、コスト・性能のバランスで設定すればいい。好ましくは、2−8枚程度である。8枚以上になると製作が面倒なばかりか、重量増加、コスト増加になる。羽根の材質は軽くて剛性が高いものほど大型化、軽量化ができるので好ましいが、好ましくは、アルミニウム、鉄、繊維強化プラスチック、木材などの材料の1種或いはこれらを組み合わせて作ることができる。ハブと羽根を合わせてタービンを形成するがこの外形は余りに大きくなると、発電システムの設備が課題になり実用性がなくなる。従って、高々5m程度である。好ましくは、1−3m程度の小中規摸分散電源として用いる。羽根とハブは別々に作ってリベットやねじ止め或いは溶接で固定してもいいが、或いは、ハブ部と羽根部を一枚の材料から切り出してもよい。3m程度の比較的小型のタービンではこうしたことも大いに可能であり、コスト低減やメンテナンスも容易になる。
【0024】
「曲率を有する構造物の幅と羽根の弦長との比は、前縁円筒の場合に関連しては、本発明では好ましくは0.05−0.3である。この比が0.05より小さくなると、推力が十分に得られないという問題が生じ、0.3より大きくなると構造物の後方流れの剥離域が過大になり、減速しやすく、十分な回転速度が得られなくなる恐れがある。又、設計費も増大する。従来使用されているウエルズタービンではこの比、すなわち羽根最大厚比は、0.12−0.3程度であり、本発明とは下限値が大きく異なる。曲率を有する構造物は全面、後面、或いは上下の端面部は閉じていても良いし、流体の流れを制御する為にどこか開放していてもよい。特に、後面の一部開放は回転の推力にもなり好ましい。開放部の形状、大きさは運転状態等により最適化することができる。
【0025】
本発明は、上述したように単純な構造よりなるために軽量であることも特徴である。従って、微小な流体の流れでも回転が開始する。これは従来のウエルズタービンに比べて大きな特徴である。例えば、同一条件で無負荷時においてタービンの静止状態から所定の回転を有する定常回転数に至るまでの起動時間は通常のウエルズタービンに比べて1/5以下である。即ち、稼働時間が大幅に増えることを示す。又、従来のウエルズタービンでは低回転になるとトルクが0になったが、本発明のタービンは殆ど低速域まで所定のトルクを維持し低回転での発電に有利である。例えば、周速比0と周速比4でのトルク係数の比が1以上である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが本発明は何ら実施例にて制限されるものではない。
【0027】
実施例1
本発明のタービンは、代表的な形状としては[図1]のような形状を有している。ここでは、性能の検証のために[図1]における羽根前縁▲2▼が直径16mmの円筒を有する模型を作製して実験を行った。厚み2mmのアルミニウム板を用い、それぞれ切込みを入れて作成した。羽根車の外径は360mmであり、羽根の内外径=260/360=0.722、弦長は110mm、羽根幅50mmとして、前縁に直径16mmの円筒を縦方向に幅2mmの切り込み(スリット)を付けて組み付けた。車板の厚さは2mm、ベアリングにて軸受に固定する車軸の太さは16mmとした。
【0028】
[図2]は前縁部の曲率を有する構造体(円筒)の形状を示す。この材料にはアルミニウムを用いた。両円筒は内側を斜めに切り込んで尖らせ、外端部は蓋を被せてある。両円筒の相違は、外端近くに回転方向下流側に適当な大きさの開口を付けてあるかどうかである。[図2](1)は開口を設けていない場合であり、[図2](2)は開口を設けてある場合である。実験は、吹き出し型の小型風洞(テストセクションの直径370mm、長さ1300mm)に取り付けて、送風機(定格毎分流量200m、5.5kW)により空気を吸い込み、供試の当該風車を駆動して、回転数とトルクを同時に変化させて測定した。
【0029】
また、[図3](写真A)および[図3](写真B)は同様にして作成したそれぞれ羽根数が4枚(CMF4T)と6枚(CMF6T)のタービン羽根車である。車板は厚さ2mmのアルミニウム板、羽根前縁の円筒は肉厚1mm、外径16mmのアルミニウム円筒によって製作した。
【0030】
[図4](a)および[図4](b)は、本発明のタービンの回転の原理を示す。前縁円筒の平板羽根に速度Vの流れが当たることによって羽根周りの圧力分布に基づく抗力Dと揚力Lの発生によって、羽根が速度uで前進していく場合の速度の三角形と力の関係を示す。αは相対速度Wに対する羽根の迎角である。
【0031】
[図5]は上記で作成したタービン羽根についてのトルク係数Cと周速比λ(=羽根車の外周速度/風速)の実験結果を示す。図中のWT6は、6枚羽根のウエルズタービン(比較例)を示し、他はすべて曲板または円筒を前縁に組み付けた平板羽根の軸流タービン風車(CMF4Tb,CMF6Taほか:本発明例)を示す。添字の”a”は、曲率を有する構造体(円筒)の先端部に開口を設けない場合([図2](1)に対応)を、”b”は設けた場合([図2](2)に対応)を示す。この図から、WT6は周速比が約15まで達し、かつ負荷トルクも大きくなっているが、中速度比(約7)以下では計測不可であり、急激に停止になっている。即ちウエルズタービンの欠点を顕著に表している。一方、本発明の6枚羽根(CMF6TaおよびCMF6Tb)は、最大周速比がほぼ7程度でWT6の約半分であるが、Cは同程度である。開口の有無は周速度にわずかながら影響している。また、4枚羽根、およびその他の羽根車では、Cあるいは周速比λがわずかに小さくなっている。
【0032】
[図6]は出力係数C{=(トルク×角速度)/(風の運動エネルギ)}と周速比λの関係を示す実験結果である。図中の記号は図5に対応している。この図から、WT6(比較例)はλ=7においてCが0.3まで達しているが、これ以下の周速比域では回転停止により出力が得られていない。一方、本発明の6枚羽根CMF6TaおよびCMF6Tbでは、周速比が約4において最大C=0.1程度であるが、負荷トルクの増加により周速比がさらに低下しても回転を持続していることがわかる。同様に4枚羽根、およびその他の羽根車についても、Cは低いが低周速比λにおいて稼動可能であることを示している。
【0033】
次に[図7]は、各羽根車について始動時から定常回転に達するまでの回転数n(rpm)と経過時間t(s、秒)の関係を示す。この図から、WT6(比較例)の起動時間は、45秒とかなり長く、一方、本発明のタービン(CMF4Tb,CMF6Taほか)の起動時間は、5秒程度とかなり短く、WT6のほぼ1/9といえる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
当該風車は、海洋の波に伴う空気の往復流や通常の風のエネルギーを機械的エネルギーへ変換して利用する場合に、特に中低速回転数域で高トルクを発生して運転することができるので、低回転数で稼動する機械装置や、変速機などを介した発電機の駆動力源として活用できる。特に適当な波高の海域や沿岸、あるいは適当な風力域にある地域や離島などにおいて設置でき、そのための製造施設や関連事業の創出に効果があり、それらの地域や離島などの電源や動力源となり得る。
【符号の説明】
【0035】
▲1▼ ハブ(hub,根元部)
▲2▼ 前縁円筒または前縁曲板
▲3▼ 羽根平
▲4▼ 軸孔
▲5▼ 留めネジ孔
▲6▼ 円筒留めネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の厚さ一様な羽根がハブの外周に配列されており、各羽根の回転方向の前縁に、対称的な曲率の構造物を有する軸流タービン風車。
【請求項2】
羽根が2−8枚である請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項3】
羽根の厚さが2−10mmである請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項4】
羽根の材質がアルミニウム、鉄、繊維強化プラスチック、木材から選ばれる少なくとも1種の材料からなる請求項1〜3記載の軸流タービン風車。
【請求項5】
タービンの外形が高々5mである請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項6】
羽根の弦長に対して曲率を有する構造物の幅の比が0.05−0.3である請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項7】
羽根とハブが一枚の材料からなる請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項8】
羽根とハブを別個に製作し、組付けて組み合わせる請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項9】
曲率が円、楕円或いは放物線である請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項10】
曲率を有する構造物の外端が開放した構造或いは閉じた構造である請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項11】
無負荷時において静止状態から定常回転数に至るまでの起動時間が同サイズのウエルズタービンに比べて1/5以下である請求項1記載の軸流タービン風車。
【請求項12】
周速比0と周速比4でのトルク係数の比が1以上である請求項1記載の軸流タービン風車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241705(P2012−241705A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127728(P2011−127728)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】