説明

曲線状物体の製造方法

本発明は、ポリマー繊維を含有する少なくとも1つの積み重ねられたプライのパッケージからの高温でのその変形による、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体の製造方法であって、かけられた引張応力での繊維の融点と該融点より20℃低い温度との間にある温度で、繊維が延伸されるのに十分なほど高い引張応力を繊維にかける工程を含む方法に関する。本方法は、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体が、低い内部および/または相互変形性を持った平らな繊維プライを使用して材料が制御されたやり方でダイ中へ引き込まれることなく、感知できるほどのしわなしにフラット繊維プライから製造されることを可能にする。本発明はまた、本発明による方法によって得ることができる、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー繊維を含有する少なくとも1つの積み重ねられたプライのパッケージからの高温でのその変形による、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体の製造方法に関する。本発明はまた、本発明による方法で得ることができる、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体にも関する。
【背景技術】
【0002】
かかる方法は、2003年7月14〜18日に、カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego、California)で開催されたICCMの紀要でのC.A.J.R.Vermeerenらによる刊行物「連続繊維強化熱可塑性樹脂のゴム形成プロセス用の開発ツールとしての高性能ブランクホルダ(The Smart Blankholder as a Development Tool for the Rubber Forming Process of Continuous Fiber Reinforced Thermoplastics)」から公知である。
【0003】
当該刊行物は、ポリマー繊維を含有する、積み重ねられたフラットプライ(本明細書では以下単に繊維プライと言われる)からの、ヘルメットなどの、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体の製造でのしわの問題に取り組んでいる。解決策としてそれは、ダイが閉ざされる時に材料が適切な場所でおよび好適な量でダイ中へ引き込まれるように、使用されるダイの中空部の最上面上へ制御されたやり方で繊維プライの縁を固定することを提案している。フラットプライから曲線状物体への変形メカニズムとして、それは、過剰の材料が制御されたやり方で局部的な部分でダイ中へ引き込まれるのを可能にすることに加えて、様々なプライ間でおよびプライ内で起こる剪断またはスリップに言及している。さらに、布または編物などの繊維プライのケースでは、それらの構築による伸びもまたある役割を明らかに果たす。
【0004】
ブランクホルダの制御された調節、すなわち、固定メカニズムは複雑であり、時間のかかる問題である。さらに、前記論文によれば、前述の剪断およびスリップの可能な量は制限され、しわはいずれにせよダイ中へ引き込まれた材料にあるポイントで起こるであろう。
【0005】
NL 8802114A号明細書から、円形凹所を有するブランクホルダを用いることは公知である。当該公報はまた、繊維プライの変形性は決定的に重要な要件であり、変形性が最大である方向により大きな力が繊維プライに加えられるようにブランクホルダはデザインされると述べている。従って、この方法では、繊維方向は好ましくはすべてのプライで本質的に同じである。これは、ここでもまた、材料が制御されたやり方でダイ中へ引き込まれること、および繊維プライのパッケージに起こる剪断およびスリップが利用されることを暗示している。
【0006】
NL 9000079A号明細書では、先行文献のものに匹敵するブランクホルダが適用され、制御されたやり方で固定するためにダイ上に取り付けられている。ここでもまた、繊維プライのパッケージの変形性が形成プロセスで利用されている。
【0007】
このように、記載された両特許の方法は同じ前述の欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、当該欠点を持たないまたはそれをより少ない程度に有する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、かけられた引張応力で繊維の融点と前記融点より20℃低い温度との間にある温度で、繊維が延伸されるのに十分なほど高い引張応力を繊維にかける工程を本方法が含むことで、本発明により達成される。
【0010】
本方法は、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体が、低い内部および/または相互変形性を持った平らな繊維プライを使用して材料が制御されたやり方でダイ中へ引き込まれることなく、感知できるほどのしわなしにフラット繊維プライから製造されることを可能にする。
【0011】
繊維プライの変形性および制御された材料添加に完全に依存することよりもむしろ繊維プライ中の繊維の延伸性を利用することによって、物体でのフラット−湾曲転移で必要とされる形状変化は、各場所での必要とされる長さの変化がその中に存在する繊維の延伸によりもたらされることで可能にされる。
【0012】
本発明による方法のさらなる利点は、パッケージのプライ中の繊維が2つ以上の方向に、さらに任意のおよびすべての方向に配向されることもあり、それによってより均質な特性のしわなしの物体が得られることである。
【0013】
Vermeerenらによる上に引用された論文で、変形挙動はドレープ(Drape)と命名されたコンピュータ・プログラムを用いて予測されている。このプログラムは、剪断、スリップおよび場合により構築による低い弾性歪みまたは伸びなどの変形メカニズムの影響に完全に基づいている。
【0014】
2004年4月付けのおよび表題「加工誘発繊維配向による布強化複合材製品における形状変形(Shape distortions in fabric reinforced composite products due to processing induced fibre orientation)」のE.A.D.Lamers(Twente工業大学(オランダ国)(Technical University of Twente(NL))による学位論文で、繊維歪みが無視できると仮定されて、剪断に基づく変形モデルがまた利用されている。
【0015】
このように、繊維の延伸性を繊維プライのパッケージの変形メカニズムとして利用できるという洞察は当該技術の主題分野では全く存在しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本方法は1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体の製造に関する。その例には、レードーム、ヘルメット、肩用の弾道保護パネルまたは例えば、兵士用の他の保護手段および自動車用のもしくは軍用ヘリコプタ用の装甲パネルが挙げられる。
【0017】
物体はポリマー繊維を含有する少なくとも1つのプライのパッケージから形成される。好適なポリマー繊維は、その高分子がかけられた応力の影響下に、融点未満の温度、すなわち固体状態である程度の鎖スリップを示すポリマー材料から製造される。その例には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらの、場合により他のモノマーとの共重合体などの様々なポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ならびにポリアミドおよびポリエステル、特に少なくとも1つの脂肪族モノマー単位を含有するポリアミドおよびポリエステルが挙げられる。好ましくは、ポリオレフィン繊維、特にポリエチレン繊維が適用される。ポリエチレン繊維は好ましくは線状ポリエチレン、すなわち100炭素原子当たり少なくとも10個の炭素原子を含有する1つ未満の側鎖、より好ましくは300炭素原子当たり1つ未満の側鎖のポリエチレンから製造される。
【0018】
様々な形の繊維を本発明による方法で用いることができる。「繊維」は、その長さが横寸法よりはるかに大きい本体を含み、そしてモノフィラメント、マルチフィラメント糸、ストリップ、リボンまたはテープなどを構成する。好適な繊維には、フィラメントの厚さおよび数が決定的に重要ではない、マルチフィラメント糸が含まれる。好適な糸は、例えば100〜4000デシテックスのタイターを有する。糸を構成するフィラメント当たりの厚さは例えば0.2〜20dpfに変わってもよい。短いフィラメントまたはステープルファイバーから紡績された糸を使用することもまた可能である。しかしながら、好ましくは、マルチフィラメント糸が使用される。
【0019】
好ましくは、いわゆる高性能糸が使用され、これらは優れた機械的性質の、特に少なくとも2GPaの引張強度および少なくとも50GPaの引張弾性率の繊維である。より好ましくは、引張強度は少なくとも2.5そしてさらに3GPaであり、弾性率は少なくとも70そしてさらに90GPaである。繊維の引張特性は、ASTM(米国材料試験協会)D885Mに明記されているような方法によって測定される。かかる高い弾性率および引張強度の繊維の使用は、ヘルメットなどの、物体が非常に良好な機械的性質および弾道特性ならびに外部からの力に対する高い耐性を持って製造されることを可能にする。
【0020】
芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリベンゾイミダゾールまたはポリベンゾオキサゾールなどの、リオトロピックまたはサーモトロピック液晶挙動を示すポリマーをベースにする高性能繊維は本発明による方法での使用に不適当であるまたはあまり好適でないことが分かった。このタイプの繊維は所望の高い機械的剛性および強度を有し、従ってヘルメットなどの物体での使用に好適であるが、融点未満の温度で何のまたはほとんどいかなる不可逆歪みも示さない。同様な理由で、高性能ガラス繊維および炭素繊維は本方法での使用に不適当と分かる。
【0021】
驚くべきことに、優れた機械的性質を同様に有する幾つかの繊維、特に超高分子ポリエチレンをベースにする繊維が本発明による方法での使用に適していることが分かった。
【0022】
かかる強い繊維は好ましくは超高分子量ポリエチレン(UHPE)から製造される。UHPEは、少なくとも4dl/g、好ましくは少なくとも8dl/gの固有粘度(デカリン中の溶液について135℃で測定される際の、IV)の好ましくは線状ポリエチレンであると理解される。これらの繊維の製造および特性は、英国特許出願公開第204214A号明細書および国際公開第01/73171A1号パンフレットをはじめとする多数の公報に記載されており、かかる繊維は、例えばDSM(オランダ国)の商品名ダイニーマ(Dyneema)(登録商標)、ハニーウェル(Honeywell)(米国)のスペクトラ(Spectra)(登録商標)で商業的に入手可能である。
【0023】
繊維を含有するプライ、また繊維プライは好ましくは連続繊維を含有する。これは、繊維の少なくとも90%がプライの全体にわたって伸びており、プライの外縁に始まる、および終わるまたは逆方向に向きを変えることを意味する。好適なプライは布の形状をとってもよいが、また、プライ中の繊維が平行に配置されている一方向プライ、または繊維がランダム方向を有するマットなどのいわゆる不織布であってもよい。繊維のたて糸およびよこ糸は同じまたは類似の繊維からなってもよいが、高性能繊維がまたどちらかの方向に、そしてそれほど優れていない機械的性質の繊維が他の方向に適用されてもよい。布は、ほぼ同じ数の繊維が両方向に存在することを意味する、バランスのとれたものであってもよいが、一方向性の布である、バランスのとれていないものであってもまたは単織り構造を有してもよい。その好適な例は、例えば欧州特許第1144740B1号明細書に記載されている。繊維はモノフィラメントとして存在してもよいが、また撚られたまたは撚られていない糸束として存在してもよい。
【0024】
好ましくは、多数の積み重ね繊維プライのパッケージから開始される。一方向プライが使用される場合、各プライ中の繊維方向は好ましくは、隣接プライ中のそれらに対して、ある角度、例えば約90°にある。特別な実施形態では、繊維方向はパッケージ中に一様に分布する。これは、加えられる力のより等方的な分布を形成プロセスで与え、こうしてその特性の点でより均質である物体を与える。
【0025】
繊維プライは、繊維のみからなってもよいが、プライはまた繊維と、その中に繊維が内蔵されるマトリックスとして、50質量%以下のバインダー、例えば好適なポリマーとからなってもよい。用語「バインダー」は本明細書では、繊維を完全にまたは部分的に包み、加工中および加工後に繊維を一緒に保持する材料を意味する。バインダーはマトリックス材料であってもよいが、繊維方向に対してある角度で置かされた接着ストリップであってもよい。バインダーは、特定の区域にのみ、または繊維にわたって均一に分布して、様々な形の1つから、例えばフィルムとして適用されてもよいが、ポリマー・メルト、懸濁液または溶液として適用されてもよい。異なるバインダーの組合せもまた適用されてもよい。好適なバインダーは、例えば欧州特許第0191306B1号明細書、欧州特許出願公開第1170925A1号明細書および欧州特許第0683374B1号明細書に記載されている。
【0026】
好ましくは、バインダーはポリマー材料、熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂またはそれらの混合物であり、破断時の材料の歪みは、プライが曲線状物体をもたらすために成形されるので、繊維の最大延伸歪みより好ましくは大きい。下記はかかる最大延伸歪みの例として役立つこともある:フラットプライから半球体を形成する際に、繊維は、約1.6の延伸比と一致する1/2πの係数以下で歪むであろう。
【0027】
好適なポリマーバインダーは例えば国際公開第91/12136 A1号パンフレット(15−21ページ)に述べられているものである。ビニルエステル、不飽和ポリエステルおよびエポキシ樹脂またはフェノール樹脂が好ましくは熱硬化性ポリマーとして使用される。好ましくは、熱可塑性バインダーは例えばポリウレタン、ビニルポリマー、ポリアクリレート、ポリオレフィンまたはポリイソプロペン−ポリエチレン−ブテン−ポリスチレンもしくはポリスチレン−ポリイソプレンブロック共重合体などの熱可塑性ブロック共重合体である。特別な実施形態では、バインダーは本質的に、繊維中の個々のフィラメントをカバーする、かつ40MPa未満の引張弾性率(ASTM D638に従って25℃で測定された)を有する、熱可塑性エラストマーからなる。かかるバインダーは、高い柔軟性のプライおよび剛性と靱性との組合せの物体をもたらす。弾丸の衝撃などの様々な対象からの保護を提供しなければならない、ヘルメットなどの物体の成形のために、より高い剛性のバインダー材料が好ましくは利用され、あるいはまた、曲線状物体の剛性を高める材料がパッケージに添加される。
【0028】
フィルム、好ましくは熱可塑性材料、例えば、後述のポリマーの熱可塑性エラストマー変型およびより好ましくはその融点が好ましくは繊維のそれより低いポリエチレンをはじめとする、例えばポリエチレン、ポリプロピレンもしくはそれらの共重合体などのポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミドまたはポリウレタンもまた繊維プライでバインダーとして使用されてもよく、そのフィルムは次に、物体の製造が行われる温度で溶融し、繊維を完全にまたは部分的にカバーするまたは包むことができる。好適なフィルムは、例えば、20、15未満またはさらに10ミクロン未満の厚さを有する。かかるフィルムはまた、バインダー、例えばマトリックス材料を既に含有する一方向繊維プライの積み重ね上の外プライとして適用されてもよい。
【0029】
好ましくは、繊維プライ中のバインダーの量は30質量%、より好ましくは25、20以下またはさらに15質量%以下であり、これは、繊維が所望の機械的または弾道的性質に最も寄与するからである。
【0030】
特別な実施形態では、繊維プライは繊維のみを含有し、その繊維は本発明による方法の前またはその間に、温度、圧力および時間の組合せによって、表面で、焼結としても知られる、部分的に溶融および融合する。繊維は張力をかけたまま保持され、このようにして、良好な機械的性質が分子緩和の結果として失われるまたは著しく減少するのを防ぐ。焼結繊維プライでのかかる物体は、レーダービームを高度に通し、このようにして、強く二重に湾曲している、例えばレードームでの使用にもまた好適である。
【0031】
パッケージは、所望の厚さが達せられるように多数の繊維プライで構築されてもよい。本発明による方法で、多くの異なる繊維形状、ならびに組合せが繊維プライで原則として可能である。選択肢は様々な布、ランダムにまたは一方向に配向した繊維プライでの不織布である。これは、成形が平面剪断によってほとんど専ら達成される、出発材料中に2つ以上の繊維方向が存在する場合に困難になる公知の方法より有利な点である。パッケージを構成する個々のプライが3つ以上の繊維方向を有する場合には特に、しわなしの生産を達成することは公知の方法ではほとんど不可能である。本発明による方法では、繊維方向の数に何の制約もなく、実際に、多くの異なる繊維方向は、高度に均一な特性の物体が得られるという点で有利である。
【0032】
発射体を止めるようにデザインされる、ヘルメットなどの、いわゆる弾道物体のためには、比較的薄い個々の繊維プライ、例えば一方向プライを使用することが有利である。一般に、より薄いプライは、等しい総重量で、より少ないがより厚いプライのパッケージより良好な結果を与える。好ましくは、個々の繊維プライは0.1mmより薄く、より好ましくは0.05mmより薄く、さらにより好ましくは0.03mmより薄い。
【0033】
繊維プライのパッケージは、互いに結びつけられなかったプライのルーズな積み重ねでありうるが、例えば、接着剤を用いて、および/またはプレスで圧力下におよび繊維の融点未満の高温でプライを圧縮することによってルーズなプライが一体化させられる例えば先行工程の結果として、プライが互いに結びつけられているシートでもありうる。前者のケースでは、本発明による方法は好ましくはまた、プライが圧力下におよび繊維の融点未満の高温で一緒にプレスされる工程を含む。この工程は、引張応力の賦課に直ちに続いてもよいし、またはそれと完全にまたは部分的に同時に起こってもよい。ルーズに積み重ねられた繊維プライ間の結びつけは、繊維プライ中のバインダーの存在から、前述の焼結効果から生じてもよいし、または例えば前に記載されたようなフィルムの形での、接着プライなどの、パッケージ中のさらなるプライの存在から生じてもよい。
【0034】
所望の数の所望の繊維方向で積み重ねられた繊維プライは、それを高温で変形すること(熱変形)によって所望の形状にされる。かかる変形は、加熱されたダイ、および必要ならば補助マスター金型を用いての成形などの、それ自体公知の好適な技術を用いて達成されてもよい。ここで、繊維プライは、支持表面中の開口部の一面に、特に金型開口部の一面に置かれ、閉ざされた縁付きブランクホルダを用いて支持表面上へ開口部の外側にスリップなしに固定される。「スリップなし固定」はここでは、以下に説明される繊維プライへの引張応力の賦課によって固定繊維プライに加えられる力の下で、繊維プライが所定の位置のままであり、公知の方法とは違って、たとえあったとしても、金型中へほとんど引き込まれないような力で支持表面に押し付けることを意味する。好ましくは、最大ドローインは、繊維プライが熱変形で受けなければならない30%以下、好ましくは20%以下の伸びがブランクホルダの下からスリップして離れる繊維プライから生じるようなものであり、したがって、延伸されつつある繊維の結果は少なくとも70%、好ましくは80%である。
【0035】
その後、所望の形状を有するダイが直角に繊維プライ上へ持ってこられ、閉ざされた縁内に置かれたプライの部分に縁によって画定される平面に対して本質的に垂直にダイが力を加えて、開口部を通して押される。このようにして、繊維は引張応力を受ける。
【0036】
ブランクホルダで固定される前に、繊維プライは、例えばオーブン中で、繊維ポリマーの融点未満である温度にされ、あるいはまた、繊維は、固定された後に例えば赤外線加熱によってまたはホットエアによって所望の温度にされる。好ましくは、この温度は、以下に明らかにされる、ダイおよび、用いられる場合、金型の温度に等しい。
【0037】
ダイおよび、用いられる場合、金型は、繊維ポリマーの融点より10℃以下高い温度とこの融点より20℃以下低い温度、好ましくは15℃以下低い温度との間にある温度にされている。加熱されたダイと外側繊維プライとの接触により、当該プライおよびさらなるプライは繊維ポリマーの融点とこの融点より20℃以下低い温度との間の温度と推測される。
【0038】
繊維の融点はそれらが張力をかけられている場合(それは、ダイが開口部を通して強く押される場合である)に高くなるので、ダイは繊維ポリマーそれ自体の融点より高い温度を有する可能性がある。
【0039】
ダイによって繊維プライに加えられる力は繊維に引張応力をもたらし、それは、十分に大きい場合、前記温度範囲で繊維の不可逆歪みまたは延伸を誘発する。その目的に向け、かけられる応力は好ましくは繊維の引張強度の5〜90%であるべきである。そのためにダイによってパッケージに加えられるべき力は、プライ中の繊維の量およびそれ引張強度によって決定される。好ましくは、かけられる応力は繊維の引張強度の10またはさらに20%に、かつその80またはさらに70%以下に達する。より高い応力は繊維の緩和を妨げる。
【0040】
延伸プロセスは、かけられた応力での融点である繊維の実際の融点に温度がより近づくに従って、およびかけられる繊維応力がより高くなるに従ってより速く進行するであろう。延伸プロセスがより遅く進行するに従って、繊維での分子緩和のリスクが増え、それは繊維の強度および弾性率に、それ故成形される物体の特性に悪影響を及ぼす。実際の融点より高い温度は繊維の良好な特性の損失をもたらし、繊維の引張強度より高い、かけられた応力は繊維の破断につながる。
【0041】
本発明による方法の特殊な実施形態では、繊維プライは、強い型枠に異なる方向で繊維を巻きつけて様々なプライを形成することによって金型中へ引き込まれることを防止される。型枠が変形しない場合、かけられた引張応力は、巻かれる繊維が追加のブランクホルダを用いずに、延伸されることをもたらすにすぎないであろう。
【0042】
上の指針は、当業者が所望の時間内に繊維を適切に延伸するように温度と繊維張力との好適な組合せを選ぶことを可能にする。所望の変形および延伸は普通、超高分子ポリエチレンでできた繊維を含有するパッケージについては、温度、引張応力および達成されるべき変形の量に依存して、約1〜40分、好ましくは約2〜30分で起こるであろう。
【0043】
本発明による方法で用いられるパッケージがあらかじめプレスされたパッケージなどの、互いに結びつけられたプライのパネルである場合、補助ダイまたは金型の使用は任意である。金型および加圧を用いることの利点は、成形物体の特性のさらなる改善である。用いられるパッケージが繊維プライのルーズな積み重ねである場合、引張応力の影響下に繊維を延伸する工程とまた部分的に同時に起こってもよい次工程で、パッケージが繊維の融点未満の高温でダイと金型との組合せによって加圧されそして繊維プライが互いに結びつけられているまたは連結されている物体が得られるように補助金型を用いることが好ましい。パッケージに加えられる圧力は広く、例えば約0.1MPa〜約30MPaで変動してもよく、より高い圧力はより良好な結果をもたらす。
【0044】
成形および場合により加圧後に、繊維の望ましくない緩和プロセスを避けて物体の改善された寸法合わせを達成するために、好ましくは物体が約80℃より低い温度を有するまで、物体は好ましくは適所に保持されているダイで冷却される。
【0045】
本発明による方法の追加の利点は、延伸プロセスが繊維の機械的性質を、特に緩和が妨げられる時に、さらに改善させることである。
【0046】
さらなる利点は、本発明による方法が多様なダイおよび金型を用いて、多数の製品をパッケージから同時に容易に製造させることである。公知の方法では、繊維プライはダイが押し込まれるにつれて広範囲に移動する。多数の製品が1つのパッケージから同時に製造される場合、パッケージ中のプライの変形は成形物体の品質に悪影響を及ぼすであろう。このように、本発明による方法では、多数の物体をより高い品質で、および材料のより少ないエッジ損失で1つのパッケージから同時に製造することができる。
【0047】
本発明による方法によって製造された物体は、金型への引き込み、剪断およびスリップが変形メカニズムである、公知の方法によって製造された物体とはより均質な構造によって区別される。物体はしわなしであり、それは、それが何のまたはほとんどいかなるしわも持たず、2つの隣接するプライ中の繊維間の角度が物体の全体にわたってあまり違わないことを意味する。公知の物体で明確な差は、物体の特性の不均質性をもたらす、ブランクホルダの下からの金型での繊維プライの一様でない引き込みおよび変形の結果として、および発生する剪断および互いに関するスリップの結果として前記パラメーターに見ることができる。
【0048】
それ故、本発明はまた、上記のような本発明による方法によって得ることができる、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体にも関する。
【0049】
本発明の特性は、繊維が形成プロセス中に歪んでいることである。歪みの量は、物体の異なる位置の繊維について異なる。繊維体積は実質的に同じであるので、ぴんと張っている間繊維径は減少する。本発明の方法によって得ることができる物体の特徴は、物体中の繊維の平均直径が出発パッケージ中の繊維の平均直径より小さいことである。繊維径は通例統計的広がりを示す。平均直径はここでは大部分の繊維に共通な直径と定義される。つまり、当該直径は、繊維径の総計的分布のグラフ表示でピークが最高であるものである(フィラメント径ヒストグラム)。繊維のフィラメント径分布は、供給業者ホーニック・ファイバーテック(Hornik Fibertech)(スイス国(CH))の取扱説明書に従って、例えばOFDA 100自動射影顕微鏡での画像解析と組み合わせた例えば光学技法によって測定することができる。繊維プライのプレスされたパネルまたは成形物体のケースでは、プラークを調製することが可能であり、その断面で繊維径は顕微鏡、例えば光学顕微鏡または電子顕微鏡で目に見える。
【0050】
本発明による方法によって得ることができる、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体は、最大と最小測定平均値との差が少なくとも7%(伸びで約15%差に相当する)で、前述の定義に従って、異なる位置で異なる平均繊維径を示す。最大測定値はその時パッケージの繊維プライ中の繊維の平均繊維径の初期値に実質的に等しい。これは、引張応力を加える前に、ある特有の平均繊維径の繊維を含有した繊維プライのパッケージから物体が得られる場合に特に適用される。それ故、本発明はまた、直径にかかる差がある繊維を含有する曲線状物体にも関する。好ましくは、前記差は10%より大きく、より好ましくは15%(伸びでの約30%差に相当する)より大きく、最も好ましくは25%より大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー繊維を含有する少なくとも1つの積み重ねられたプライのパッケージからの高温でのその変形による、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した物体の製造方法であって、
かけられた引張応力での繊維の融点と前記融点より20℃低い温度との間にある温度で、繊維が延伸されるのに十分なほど高い引張応力を繊維にかける工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記温度がかけられた引張応力での繊維の融点と前記融点より15℃低い温度との間にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記引張応力が前記繊維の引張強度の5%と90%との間にある請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維が少なくとも2GPaの引張強度および少なくとも50GPaの弾性率のポリエチレン繊維である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
プライ中の前記繊維が本質的に平行に配置されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
プライ中の前記繊維が隣接プライ中の繊維に対してある角度をなしている請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パッケージが少なくとも3つのプライを含有し、そして前記繊維の方向が360°にわたって等しく分布している請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プライが繊維およびバインダーの総量に対して0〜50質量%の繊維用バインダーを含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
バインダーの前記量が25質量%以下である請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記バインダーがポリエチレンフィルムである請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記物体がヘルメットであるかまたはドーム形である請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記引張応力が前記パッケージの外縁を固定することによってかけられ、かつ、力が前記外縁内に置かれたプライの区域に加えられ、その力が前記外縁によって画定される平面に垂直である請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる物体。
【請求項14】
前記物体がヘルメットである請求項13に記載の物体。
【請求項15】
ポリマー繊維を含有する少なくとも1つのプライを含む、1つもしくはそれ以上の方向に湾曲した、しわなしの物体であって、最大と最小平均値との差が少なくとも7%である状態で、大部分の繊維に共通した直径である、異なる平均繊維径を異なる場所で示す物体。

【公表番号】特表2007−517959(P2007−517959A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549161(P2006−549161)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000004
【国際公開番号】WO2005/065910
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】