曲面壁被覆用タイルパネル
【課題】トンネル壁面に沿わされた基板とそれに貼着したタイルの裏面に不可避的に生じる隙間に厚薄が生じてもタイルの剥離を抑制し、シンプルな形状のタイルの量産を実現した曲面壁被覆用タイルパネルを提供する。
【解決手段】タイル2は角部2aが膨らみを形づくるように丸められた形状であり、その角部で形成される花びら状スポットの目地交叉部4には目地幅より大きい寸法のアンカー固定可能スペース4Aが確保される。タイル2は20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮する弾性接着剤でもって基板に貼着される。基板3をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金5は、対面空間に形成された接着層に力を及ぼすことのない目地交叉部4に配置される。
【解決手段】タイル2は角部2aが膨らみを形づくるように丸められた形状であり、その角部で形成される花びら状スポットの目地交叉部4には目地幅より大きい寸法のアンカー固定可能スペース4Aが確保される。タイル2は20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮する弾性接着剤でもって基板に貼着される。基板3をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金5は、対面空間に形成された接着層に力を及ぼすことのない目地交叉部4に配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は曲面壁被覆用タイルパネルに係り、詳しくは、アンカーを打ってトンネル壁に固定される際に、磁器タイルを貼着した基板が上下方向に湾曲するトンネル壁に沿うごとく面変形できるようになっている直張り用タイルパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車が走行するトンネルでは、壁面が排気ガスによって汚れる。汚れが酷くなるとトンネル内の照明効果を低下させることになり、壁面の清掃頻度を上げねばならず、保守点検に多大の労力と時間を費やす。最近では、トンネル内照明用電力の節減や清掃の簡便化を図るために、釉薬により光沢ある面を持った磁器質タイルでコンクリートの壁面を覆うことが多くなってきている。
【0003】
タイルが覆う壁面は立ち上がり壁であって天井壁まで及ぶことはないが、タイルの平面寸法は例えば200×100ミリメートル程度であるので、これを壁面に個々に張りつけるとすれば作業量が極めて厖大となる。そこで、図12のに示すごとく、接着剤21を塗布した基板3上に複数のタイル23を縦横に配置して貼着させたタイルパネル22が使用される。軽量化の目的もあってタイル23の厚みは例えば1センチメートルに満たなく、例えば1メートル四方程度の大きさの基板3も1センチメートル未満の板材とされ、作業中の取り扱いに支障の来さない嵩ばりと重量にとどめられる。
【0004】
このようなタイルパネルは例えば後掲する特許文献1に記載され、よく知られたものとなっている。その文献では、タイルパネルのトンネル壁への取りつけに関して一つの提案がなされている。細かい構成を省いて概略すれば、符号24で表された金具により「浮かし張り」式に支持する構造となっている。受け用の支持金具24Aが壁面の所定位置にアンカー6を介して固定され、これに基板3の下縁を支持させる。倒れ止め用支持金具24Bを基板3の上縁に被せ、壁面の所定位置に固定したアンカー6に挿入されるボルトのヘッド11で押さえるなどして、パネルがトンネル壁7からある程度浮かした状態で取りつけられる。
【0005】
昨今では、タイルを基板に配置して接着したパネルをトンネル壁に直にあてがい、基板を壁面に固定する「直張り」も行われ始めている。この場合、上記した金具を使用しないから、アンカーに螺着されるボルトなどでタイルパネルをトンネル壁に直接固定することになる。しかし、脆くて硬いタイルに孔をあけるわけにもいかないから、目地交叉部4が利用される。ところが、目地は狭く、図13の(e)の左上部分4qのような箇所に止め孔をあけるスペースを確保することはほとんどの場合難しい。目地の拡幅が許されないとなると、特許文献2で提案されているタイルの角部を欠落させる手段によって問題を解消しなければならなくなる。
【0006】
図13の(a)の矩形のタイル23の角部に、(b)から(d)にあるように三角状に切り落としたチャンファ(面とり)23aを与えたり、円弧状凹み23bや矩形状凹み23cを設ければ、(e)の上部右および下部右および下部左に示すように、交叉部に臨む四つの角部で、菱形4m、円形4n、正方形4pといったスペースを生じさせることができる。例えば円形スペースを生じさせるべくタイルのかたちを統一すると、いずれのタイルにもその四つの角部それぞれに四分の一円弧凹み23bを形成させることになる。この場合、パネル上の全ての目地交叉部は円形となるが、アンカー位置となるのはそのうちの幾つかに過ぎないため、壁面に取りつけられたタイルパネルには円形スペースを散在させることになる。これは模様と言うよりは、パネル面の不連続さを印象づけ、面の拡がり感を損なわせる。
【0007】
このような形のタイル角切除では、円弧縁とそれに隣接する辺縁との境に角が立つ。このことは、角度の大きさに違いがあってもチャンファ23aや矩形凹み23cを与える場合も同様である。角の立った箇所が残るということは、タイルの運搬や保管時の取り扱いが些か厄介となり、また壁面被覆作業時に、アンカーやそれに使用される押さえ座金との間でせり合うなどするから、作業者にとってはそれを避けねばならない煩わしさが強いられる。加えて、目地埋めしない場合には交叉部での水切り作用が弱く、図14に示すうちとりわけ円弧凹み23bや矩形凹み23cを採用した場合には、液滴1aを滞留させがちとなる。これでは、排気ガス含有成分やタイヤ跳ね上げ粉を混入させることになって、目地交叉部での汚れを早める。
【0008】
ところで、基板がガラスなどの繊維強化セメント板であると、アンカーを打つために基板を貫通して壁面に下孔をあけるとき、繊維がドリルに絡みセメントを多少なりとも剥落させる。孔の周囲で繊維が部分的に露出してほぐれたようになれば、アンカーに基板を固定するボルトの挿通孔縁の耐力が落ちることになる。アンカーの使用箇所を増やすなどしなければならず、工事の手間が増して作業の能率化を損なう。
【0009】
孔周囲に作用する応力を軽減させたり分散させるため、座金が使用されることはよく知られるところである。座金5を上記した凹みに嵌めたときタイルに立つ角と接触すると、図14中の黒矢印が指す箇所において無用の力を集中して及ぼしあう。座金5はボルトのヘッド11で押さえられるから影響を大きく受けるのはタイルの側であり、タイルが欠けたりすれば目地交叉部の形が崩れる。(d)に示したように、交叉部を覆って四つのタイルに跨がる大きい径の座金5Aを採用する場合には、一つのタイルに着目すると座金がその一角のみを圧するから、以後除去されることのないこの負荷が一角部を支点にしてタイルを基板から起こすように作用し、剥離を促す。また、パネル面に点在する座金5Aがタイルの光沢を損ない、見栄えや反射効果を減退させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−73531
【特許文献2】特開2006−265847
【特許文献3】特開2005−83031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、図15に示す上下方向に湾曲するトンネル壁7に上下で隣り合うタイルパネル22A,22Bにおけるそれぞれの面変形可能な基板3を固定した状態において、基板とそれに貼着されたタイル23との関係を述べる。図16の(a)は、自由状態で真っ直ぐであった一点鎖線で示す基板3をトンネル壁7にアンカー6によって止めた模式的かつ誇張して表した取付図である。基板は面変形可能なものであるとはいえ、図のごとく湾曲したトンネル壁に基板の全面が完全に密着するものでない。すなわち、囲い楕円E内で上下に隣り合うアンカー6,6の間にある部分基板25は、さらに誇張して(b)に示したように、アンカーの位置でトンネル壁7に密着して壁面と同じかそれより大きい曲率を呈するが、それ以外の箇所は壁面より小さい曲率となって、壁面からは浮く。
【0012】
この部分基板25を図17の(a)に水平な姿勢で表す。それに3枚のタイル23が(b)のように貼着されているとする。タイルは破線で示した接着剤21によりその裏全面が基板に密着されるから、タイルパネルをトンネル壁面に沿わせたとき、磁器質などであって面変形しえないタイルが基板の変形を阻止しようとする。その結果、基板3は目地26で局部的に折れ曲がる自由しか与えられなくなる。ところが、部分基板25は(a)のように変形するのであるから、(c)に示すように、その中央は(b)に近い状態に保たれるとしても、曲率を変えようとするアンカー寄りの箇所ではタイル23から離隔しようとするのは避けられない。
【0013】
この箇所では言うまでもなく剥離部27が生じ、固化している接着剤の付着力をおおいに減退させる。さらに、曲がることのないタイルの端縁が基板と交差角をなすことになるから、端縁が接着層を介して基板と力を及ぼしあう。タイルの端縁が基板から力を受けると、タイル中央部位の基板からの離隔を助長し、ますます剥離が進行しやすい状態におかれる。
【0014】
(c)に見られる剥離27の発生を回避するためにはタイルの裏面端縁を切除すればよいわけで、上掲した特許文献3にはそのような処置を施した(d)に示すタイル23Aが提案されている。タイルは舟形に加工されることになり、接着面においては中央、左右の別なく、タイル23Aと部分基板25との隙間の均厚化を図ろうとする。すなわちタイルの裏面に基板が変化した後の円弧に類した形を予め与えておこうとしたり、タイルの端縁と基板との界面に接着層を最初から形成させないようにして端縁と基板とが相互に力を及ぼしあわなくしておき、圧縮力の受け方の弱い接着層のみで密着を維持してタイルの剥落を抑止しておこうとする。
【0015】
ところが、タイルの端縁を切除するための切削加工は製作負担を極めて大きくする。タイルの成形時点で端縁を切除しておく場合は、焼成時にタイル面に反りを発生させやすくなり、歩留りを高めるのは決して容易でない。ところで、タイルが部分基板に3枚のときの例で言えば、(d)中に丸く囲んだ符号28に含まれる部位、すなわち中央に配置されるタイルの両端部、左右に配置されるタイルの反アンカー側端は切除部の存在で接着層から浮いた状態となる。これを避けるためには、特許文献3の記載にもあるように、端縁の両方を切除したものだけでなく片側だけを切除したものも準備することが必要となる。一枚のタイルパネルに使用されるタイルの形が増えるのは、大量に製造しなければならないタイルパネルの生産性を著しく損なう。
【0016】
本発明は上記した問題に鑑みなされたもので、その目的は、トンネル壁面に沿わされた基板とそれに貼着したタイルの裏面に不可避的に生じる隙間に厚薄が生じてもタイルの剥離を抑制し、そのために必要とされたタイルの裏面端縁の切除処理を排除して、可及的にシンプルな形状のタイルの量産を実現した曲面壁被覆用タイルパネルを提供することである。さらには、漏水等の侵入による接着層の劣化・剥離が避けられなかったとしても、剥離の進展を抑えて接着状態の安定を図りやすくできること、タイルにアンカーの打ち込みスペースを確保するに際して、目地交叉部近傍でタイルの角が立たないようにしておくこと、目地交叉部にアンカー用座金を配置したとき座金とタイルとが接触することになっても、当たり部での荷重がタイルの局部に集中することなく割れや欠けの発生を回避し遅らせることができること、基板が繊維強化セメント板である場合、アンカー下孔形成時に孔周縁の耐力低下の影響を少なくできるようにすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、トンネル壁を覆うための複数のタイルが基板上に縦横に貼着され、打設されたアンカーを介してトンネル壁に固定される際に、基板が上下方向に湾曲する壁面に沿うごとく面変形できる直張り用タイルパネルに適用される。その特徴とするところは、図2を参照して、タイル2は角部2aが切除された形状であり、その角部で形成される目地交叉部4には目地幅より大きい寸法のアンカー固定可能スペース4Aが確保される。タイル2は20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮する弾性接着剤でもって基板に貼着される。その基板3がトンネル壁に固定された時点で、剛直なタイル2と面変形した基板3との対面空間の接着層10には、図1の(d)に示すタイル2の上端縁2m,下端縁2nおよびその近傍で挟圧されて縮んだ薄層化部8sが形成されるとともに、タイル中央部位2pおよびその近傍で引っ張られて伸びた厚層化部8tが形成されるようるする。そして、図2のごとく、基板3をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金5は、対面空間に形成された接着層に力を及ぼすことのない目地交叉部4に配置されるようにしたことである。
【0018】
図9に示すように、タイル2を基板3に貼着する時点の弾性接着剤8は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるようかつ一つのタイルに対して複数の横延びビード8a,8b,8c・・・を形成するように塗布される。
【0019】
基板は鋼板3S(図3を参照)としておく。それに代えて、基板3を繊維強化セメント板3C(図7を参照)としておいてもよい。図6を参照して、アンカー固定可能スペース4Aは個々のタイルの角部が円弧状膨らみを形づくるように丸められて形成される花びら状であり、押さえ座金12には目地交差部を押さえる主座部12Aから左右方向に延びて横目地1Hに嵌められる副座部12Bを突設させておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、タイルの角部は切除された形状としておくから、この角部で形成される目地交叉部には目地幅より大きい幅もしくは径を有した寸法のアンカー固定可能スペースが確保される。そのスペースを利用してアンカー固定が可能となることにより、浮かし張りのときのような金具が必要でなくなる。
【0021】
タイルは伸びが20%を超える弾性接着剤により基板に貼着されるので、基板がトンネル壁に固定された時点で、剛直なタイルの裏面と面変形した基板の表面が対向する対面空間を、厚みが容易に増減変化される接着層で埋めておくことができる。層厚の拡縮が許容されて層内分離や層剥離が生じることは可及的になくなる。
【0022】
タイルの上端縁もしくは下端縁においては稠密化された薄層化部が基板との干渉を和らげる。タイルと基板との干渉を回避するためタイルの端縁を薄くしておくといった加工手間も必要でなくなり、均等厚みの成形品として歪みの少ないタイルの焼成が可能で、光沢面における反射機能を損なうこともない。対面空間が拡大する箇所にあっては接着剤が伸長した厚層化部を形成することになるから、タイルの剥落は可及的に抑えられる。
【0023】
基板をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金は、対面空間に形成された接着層に影響することのない目地交叉部に配置されるので、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されるなどの影響を受けることもない。
【0024】
タイルを基板に貼着する時点での弾性接着剤は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるように、また一つのタイルに対して複数の横延びビードを形成するように塗布される。その横延びビードは、圧着養生後も横延びビード縁全域で相互連接させることのないようにしているから、個々に受けた負荷を隣のビードに及ぼすことがない。
【0025】
地下漏水はトンネル壁を伝ってタイルパネルに及び、タイルパネル上縁に位置する横延びビードに到達するが、そのビードが劣化しても、その劣化や剥離の影響が実質的に縁の切れている下方のビードへは及ばない。剥がれの下方延進による接着機能の根こそぎ的崩れは回避され、タイルパネルの耐用性を向上させる。
【0026】
タイル上端における横延びビードは基板の湾曲により圧縮力を受け、中央部位の横延びビードは引張力を受ける。横延びビードは上下には繋がっていないから、縮みによって接着層に生じた圧縮力が隣のビードに及ぶことはないし、伸びによって接着層に生じた引張力が隣のビードに及ぶこともない。一つのビードには同じ向きの荷重がほぼ同じ大きさで作用するだけであるから、層内分布応力が均等化し、層内安定が図られる。
【0027】
基板を鋼板としておけばトンネル壁面に沿わせやすくなる。反面、タイルと基板との隙間は大きくなるが、弾性接着剤は厚層化して支障を来さない。鋼板の採用は基板を薄くすることを可能にし、荷積み時の嵩張りの半減化も促す。
【0028】
基板を繊維強化セメント板としておくこともできる。これは鋼板よりも曲がりにくいので、トンネル壁面からの離隔量は鋼板より概して大きくなる。しかし、弾性接着剤は局部的に厚層化するように伸びて接着剤の剥離を生じさせず、端縁では薄層化してタイルと基板との当たりを阻止し、タイルの基板に対する密着が強く長く維持される。
【0029】
個々のタイルの角部は円弧状膨らみを形づくるように丸められるので、タイルの四つの角部に尖り部が生じない。ハンドリング性の極めてよいタイルとなる。この円弧状輪郭の成形は、焼成後のタイルの反りや変形を防止するための特別の操作も必要とされなくなって都合がよい。
【0030】
タイルは同一形状ばかりでタイルパネルを構成させることができるから、目地交叉部は尖り花弁を十字状に持った花びら状スペースを形成する。目地交叉部にはアンカー打ち込み用スペースが確保されるが、アンカーが打たれない目地交叉部はタイル面の不連続さを目立たせず、しかもタイルの持つ硬質感を和らげる美麗なパネルとすることができる。目地交叉部での液滴の流落も促され、汚れの発生が抑えられる。
【0031】
基板は主座部に副座部を突設させた座金で押さえられるようにしておくから、挿通孔周縁部のセメント剥落による繊維の露出で耐圧性が低下しても、横目地に嵌まる副座部が非剥落部にまで跨がって座し、アンカー反力を脆弱部に集中させることなく分散して基板に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】弾性接着剤の層厚変化の説明であって、(a)は変形した基板の単独図、(b)は3枚のタイルが貼着されている場合の接着剤の層厚増減図、(c)は変形前の接着層の単独図、(d)は圧縮により生じた薄層化部と引張りを受けて伸びた厚層化部を持った状態の接着層単独図。
【図2】タイルの各角部で形成された一つの目地交叉部(花びら状スポット)へのアンカー螺着用ボルトの配設図。
【図3】本発明に係るトンネル壁面被覆用タイルパネルの一つで、(a)は鋼板製基板に適用された場合の正面図、(b)はA−A線矢視断面図。
【図4】(a)は座金がタイルの角部と突き当たらないことの説明図、(b)は座金の位置ずれ許容の説明ならびに目地を伝う液滴の流下状態図。(c)は翼つき座金の場合の説明図、(d)はその位置ずれ許容の説明ならびに液滴の流下状態図。
【図5】(a)は鋼板製基板と繊維強化セメント板製基板との変形の比較図、(b)はタイルの端縁を接着剤不在域とした弾性接着剤の層厚変化の説明図。
【図6】タイルの各角部で形成された目地交叉部に翼つき座金を介したアンカー配設図。
【図7】基板に繊維強化セメント板を適用したトンネル壁面被覆用タイルパネルの正面図および側面図。
【図8】アンカーの構造ならびに固定説明図。
【図9】横延びビードを適用する場合であって、(a)は塗布時点の横延びビードから圧着後の横延びビードに変化する状態の説明図、(b)は横延びビード塗着ノズルの一例の斜視図。
【図10】横延びビードを適用したタイルパネルであって、(a)はタイル圧着前のタイルパネル側面図、(b)はタイル圧着後のタイルパネル側面図、(c)は横延びビードの場合の剥がれ模式図、(d)は上下連続接着層の場合の剥がれ模式図。
【図11】接着層における引張力・圧縮力の作用例で、(a)は上下連続接着層の場合の模式図、(b)は横延びビードの場合の模式図。
【図12】タイルパネルを壁面に固定する先行技術例で、(a)は浮かし張りパネルの正面図、(b)はM−M線矢視断面図。
【図13】形の異なる角部を持つタイルとそれによって形成される目地交叉部の説明であって、(a)は極く一般的な形をしたタイルの輪郭例、(b)ないし(d)は角部に凹みなどを与えた例、(e)は四つの角部で形成された目地交叉部平面形例。
【図14】目地部に配置された座金がタイルと接触する様子の説明図。
【図15】タイルパネルを上下方向に湾曲するトンネル壁に沿わせた工事完成図。
【図16】(a)は自由状態で真っ直ぐな基板の模式的かつ誇張して表したトンネル壁面取付図、(b)はトンネル壁と変形した部分基板の相関図。
【図17】基板の変形に基づくタイルの接着状態説明の一連図および端縁を切除したタイルでの剥落防止対策図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明をその実施の形態を表した図面に基づいて説明する。図3は本発明に係る直張り形式の曲面壁被覆用タイルパネル1であって、1,200以上の温度で焼成されて変形することのない幾つもの硬質タイル2が面変形可能な基板3の上に縦横に貼着されている。タイルの目地交叉部4に押さえ座金5を配してアンカー6に固定すると、基板3を図15に示した上下方向に湾曲するトンネル壁7に取りつけることができ、タイルにより壁面が美麗に覆われる。
【0034】
個々のタイル2は、図3の(b)に示すように、接着剤8により基板3に貼りつけられる。これは図2に表されるごとく、角部2aが切除された形状となっている。この例では円弧状膨らみを形づくるように丸められ、横目地1Hと縦目地1Vとの交点である目地交叉部4が尖り花弁を十字状に備え、目地幅Wより大きい寸法の花びら状スポット4fを形成させている。これが後述するごとく、トンネル壁面に沿うごとく面変形できるタイルパネルを直張りするためのアンカー固定可能スペース4Aを提供する。基板3を固定するアンカー螺着用ボルト6bは接着層に力を及ぼすことがなく、したがって層厚を乱すこともなければ、タイルを起こし剥がすような作用をすることもない。
【0035】
接着剤8として使用されるのは弾性接着剤である。これは、20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮するものである。ところで、基板3がトンネル壁に固定された時点で図1の(a)のように変形することは、図17の(a)の説明と同じである。タイル2と基板3との界面、すなわち剛直なタイルの裏面と面変形した基板の表面とが対向する対面空間9には、図1の(b)に示すように層厚を増減変化させた接着層10が形成され、かつそれのみで占められる。ちなみに、傾向としては、塗布後にタイルに挟まれて養生された後の接着層を薄くしておく場合は大きい伸びを呈する接着剤が採用され、厚くしておきたい場合は小さな伸びを呈する接着剤で済ますことができる。
【0036】
弾性接着剤は弾性変形する範囲で使用するかぎり圧縮においても弾性変形するが、層厚にもよるものの、通常の大きさのトンネル半径に対して200ミリメートル角までの通常の大きさのタイルを使用するかぎりは、40ないし90%程度の伸びを呈する弾性接着剤で十分なことが多い。なお、伸びが20%より小さい接着剤により接着層を形成させようとすると、塗布厚を大きくしなければならなくなって塗布量の増大を招き好ましくない。110%を超えると接着層は薄くできるといっても現実性のない薄さまでを適用可能にすることになり、逆に大きい層厚に適用すれば接着性能自体の増強が余儀なくされ、品質の過剰化を来す。すなわち、トンネル壁の通常の曲率に適しない厚み変化や高強度接着を強いることになるので、伸び範囲が大きいほどよいというものではない。
【0037】
基板に塗布した接着剤にタイルを載せて押さえ、養生したパネル完成時に図1の(c)に示すごとく均等厚Taであった接着層8Aは、基板が曲がったとき(d)に誇張して示すようにレンズ状の層8Bに変化する。タイル2の上下の端縁2m,2nおよびその近傍ではタイルと基板に挟圧されてδs縮んだ薄層化部8sを生じさせ、タイルの中央部位2pおよびその近傍では、基板の弓なり変形により引っ張られてδt伸びた厚層化部8tを生じさせるからである。このように層厚が変化しても弾性物質ゆえに接着機能は低下することがなく、タイルは基板に全面接着された状態におかれる。ちなみに、基板3の全面が半径5,000ミリメートルのトンネル壁に密着しているとすれば、変形の総計δs+δtは計算上0.25ないし0.30ミリメートル程度である。
【0038】
もう少し詳しく述べれば、基板3の変形によって基板がタイルの上端縁2mや下端縁2nに接近してきても、その辺りや近傍の接着層は挟圧されるとはいえ、層厚を残しかつ層密が大きくなって縮んでいるだけで弾力性が残っていて破れにくく、タイル端縁が基板と競ったり当たるという接触や相互干渉をひき起こすことはない。一方、タイルの中央部位2pおよびその近傍は接着層の層厚方向に引っ張られて層密が小さくなるとしても、伸びて厚層化するだけであるので、亀裂や分離による空隙を生じさせることがなく、剥離を誘う原因を排除しておくことができる。
【0039】
ちなみに、エポキシ樹脂などの接着剤は通常養生すると硬直化して弾力を失い、タイルの剥落を招く。弾性接着剤は常時弾力性を保つことは言うまでもなく、変成シリコーン樹脂系(例えばセメダイン(株)PM582)もしくはそれと同等の接着剤を採用すればよい。ところで、接着層が厚い場合は小さな伸びを呈する接着剤で済ますことができるとすでに述べたが、厚いと0.25ないし0.30ミリメートル程度の吸収は小さな伸び率でカバーできるからである。トンネル壁の通常の曲率にそぐわない厚み変化を接着層に強いる必要はなく、層厚方向の引張耐力低下の少ない接着層とすることを優先できることにもなる。一方、接着層が薄い場合は大きい伸び率を呈する接着剤が採用されることを上で述べたが、そうすることによってタイル中央部位での基板の湾曲変形により大きくなった隙間を埋める伸びを発揮させることができる。
【0040】
ところで、トンネルは例えば5,000ミリメートル半径の曲がり壁面とされ、基板としてはトンネル壁面にある程度順応して変形するものが採用されるが、それに鋼板3Sを充てた場合には、後で述べる繊維強化セメント板3Cの場合よりもトンネル壁の形状に馴染ませやすい。したがって、タイルの中央部位における接着層の層厚方向の伸びは繊維強化セメント板の場合よりも大きく要求され、かつタイル端縁における縮みも大きく要求されることになる。
【0041】
変形した鋼板製の基板とタイルの裏面との隙間は、例えば200×100ミリメートルの横置きタイルではその端縁部位と中央部位における水平距離差が例えば0.30ミリメートルとなる。例示すれば、接着層が0.4ミリメートルの母体厚Taとして、38%増の0.55ミリメートルまで伸びるなら、基板の曲がりによるタイルとの間に生じた離隔量0.30ミリメートルをその厚みの一部で埋め、タイル端縁では0.25ミリメートルの層を残して干渉回避しておくことができる。この場合の増厚量δtと減厚量δsはともに0.15ミリメートルとなる。なお、塗布量は、タイルを圧着して養生させた接着層が0.4ミリメートルになる量とすればよい。
【0042】
ところで、このような鋼板3Sにはアンカー固定用ボルトを挿通するための孔が設けられるが、その位置はすでに触れたようにタイル2の目地交差部4(図2を参照)に形成された花びら状スポット4fとされる。アンカー6としては後述する図8やその同等品を使用するが、それは挿通孔を通してトンネル壁面の所定位置に穿った下孔に挿入される。そのアンカーには、基板を押さえるボルトが螺着され、タイルパネルを壁面に固定する。なお、図8では座金は後述する翼つき座金12となっているが、鋼板3Sに対しては翼つきである必要はなく、座金5は次に示す円形で十分である。
【0043】
スリーブに挿通されるボルトのヘッドと基板との間には座金が介在されるが、この押さえ座金5は図2や図4の(a)に示すように、目地幅WH ,WV より大きい直径Dの円形をなす。タイルの角部2aには外に膨らむ丸みが与えられていることから、位置ずれしていても図4の(b)のようになって、角で当たるといったことはありえず、タイルの欠けや割れの発生を可及的に少なくする。ちなみに、ボルトのヘッド11には例えば四角のレンチ孔11aが形成され、タイルが周囲から迫っていても容易に回転させることができるようにされている。
【0044】
鋼板3Sが数ミリメートルもしくは1ミリメートル未満の厚みであれば、トンネル壁面に容易に沿わせることができる。セメント板などよりは曲がりやすいためにタイルとの隙間は全体的に大きくなる傾向にあるが、弾性接着剤は伸びが可能で、厚層化に好適な資材であるから、図17の(d)のようにタイルを舟形に加工しておく必要もない。量産化するに極めて都合のよいシンプルな形のタイルとしておくことができる。
【0045】
このように、基板を鋼板製としておけばトンネル壁面に沿わせやすくなる反面、タイルと基板との隙間は大きくなるものの、弾性接着剤は厚層化して支障を来すことはない。鋼板の採用は基板を薄くすることを可能にし、荷積み時の嵩張りの減少をもたらす。セメント板よりは靱性が飛躍的に高いゆえ、接着層の弾力化とあいまって、工事現場等への輸送効率の向上や破損率の低下にも大いに寄与する。
【0046】
これらの説明から分かるように、個々のタイルの角部は円弧状膨らみを形づくるように丸められているので、タイルの四つの角部に尖り部が生じることはない。一連の作業において角部の欠け落ち防止を気づかうことは少なくて済み、ハンドリング性の良好なタイルとなる。この円弧状膨らみの輪郭成形は、それを型押しする時点で各辺縁での締め固め作用も二次的に発生させ、焼成後のタイルの反りや変形を防止するための額縁(裏面周辺の締め固め操作により生じた枠状の凹み)形成操作も必要とされなくなる利点がある。
【0047】
タイルは同一形状のものばかりであり、製造から輸送に到るまでの扱いが容易となって歩留りも高い。基板に貼着されるタイルの形が同じであるから、タイルパネルに形成される目地交叉部は尖り花弁を十字状に持った花びら状となるが、これはアンカーを打たない箇所でもタイル面の不連続さを目立たせない。しかもタイルの持つ硬質感を和らげ、ソフトで安定感漂う美麗な花模様パネルを実現する。なお、図4の(b)からも把握できるように、目地埋めしない場合に目地交叉部4での液滴1aの流落も促される。トンネル壁の洗浄や壁を伝う地下漏水の溜まり現象は可及的に少なく、排気ガスに含まれる油分、タイヤが跳ね上げる粉塵などが付着しまた混入して汚れを酷くしたり、それが拡がるのを抑えておくことができる。
【0048】
弾性接着剤で占められた接着層では、層厚の拡縮により層内分離や層剥離が生じることがなくなる。すでに触れたが、タイルの上端縁または下端縁と基板との干渉は、層厚圧縮で稠密化された薄層化部の存在により和らげられまた回避される。タイルの端縁における裏面の舟底状成形は必要でなくなり、歪みの少ない均等厚みの成形品としてタイルを製作し、使用することができる。タイル製作における加工手間も軽減され、均厚なシンプルな形状による歪の少ないタイル焼成が可能となり、量産化における歩留り低下要因も可及的に排除できる。もちろん、光沢面側の平坦度も保たれ、安定した反射作用を発揮させることができる。一方、対面空間が拡大する箇所にあっては接着層が引張力を受けるものの硬直しない接着剤は膨容化した厚層化部を形成する。タイルと基板の対向面の接着機能は持続され、タイルの剥落は可及的に抑えられる。
【0049】
基板をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金は、対面空間に形成された接着層に影響を及ぼすことのない花びら状スポットに配置されるから、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されたり無用の荷重を受けるといったことはない。タイルに部分的にも力を及ぼすことがないから、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されるなど影響を受けることもない。目地交叉部に弾性接着剤が存在する場合には、座金が減振作用のある弾性材で受けられることになるから、走行車両の振動の伝播が和らげられる。アンカーに使用されるボルトの緩みも少なくなる。
【0050】
次に、基板が繊維強化セメント板3Cである場合について述べる。使用される繊維の代表的なものはガラスである。図5の(a)に示したように、繊維強化セメント板3Cは先に述べた鋼板3Sよりも曲がりにくいので、トンネル壁に沿わせたとき、概して鋼板よりは曲率が小さくなる。トンネル壁面からの離隔量が鋼板よりも大きくなるということは、アンカーの近傍の領域Nにおいては鋼板の場合以上に曲率の変化が激しくなることを意味する。アンカー間に3枚のタイルがあるとすると、中央のタイルと基板とは鋼板のときよりも接着層厚の変化が少ないが、上方および下方のタイルにおいては厚層化部と薄層化部の層厚の差が激しくなる。弾性接着剤はこの層厚の増減量に見合う母体厚Taを選定して対応することができるから、タイルの基板への密着は鋼板同様に長く強く保持させておくことができる。
【0051】
上記した補強繊維はガラスであるか否かにかかわらず、基板にアンカー止めのための挿通孔をあける場合、ドリルに繊維が絡むなどして毛羽立つことがあり、孔周囲のセメントがほぐされる。そのためアンカーに使用される座金は翼つき座金12とされる。これは、図6に示すように、目地交叉部4のアンカー螺着用ボルト6bから左右方向に延びる横目地1Hに嵌められる翼状をした副座部12Bを、目地幅Wより大きい直径Dの主座部12Aに突設させたもので、脆弱化した孔周囲に押さえ荷重が集中しないようにしておくことができる。なお、副座部12Bがタイルと角で当たりあうということもないので、図4の(c),(d)に示したごとくなり、図4の(a),(b)と同様の作用効果が発揮される。
【0052】
上記した翼つき座金12を備えたアンカー6は、図8に示される。座金12は(a)のごとく厚み一定であり、(c)から分かるようにスリーブ6aの外径よりは小さいがボルト6bの径より大きい座孔12aが形成される。(e)のようにボルトを通す座孔12aを持つ主座部12Aの左右には、目地交叉部から左右に延びる副座部12Bが一体に設けられる。その主座部12Aは図4の(c)に示すように目地交叉部4にしか嵌まらない直径とされることは言うまでもない。アンカーは、スリーブ6a、ボルト6b、コーン6cを備え、スリーブ端にはスリット6dが設けられる。基板を押さえるボルトヘッド11の回転による螺進でボルト6bがコーンを孔奥でアンカースリーブに引き入れ、コーンがスリットのあるスリーブ端を拡径させる。これにより、アンカーのトンネル壁からの抜け止めがなされ、同時に座金が基板を押さえ、タイルパネルが図8の(f)のようにトンネル壁面に固定される。なお、スリット6dの基端は抜き窓6eに連なり、スリーブ端の拡径が容易となるように配慮されている。
【0053】
図7の場合も図3と同様に、基板3には例えば左と右の各一つの縦目地上にある交叉部4a,4b,4cの3箇所がアンカー打ち込み位置として選定される。ドリルを立てて基板に挿通孔をあけ、それに続いてトンネル壁面にアンカー下孔を穿つ。繊維補強セメント板にあけられた挿通孔の周縁部分のセメントが一部剥落するのは避けられない。挿通孔の縁部で繊維が露出するほどに乱されると、主座部12Aのための座面耐圧が低下する。繊維の露出は概ね交叉部内に留まるので、セメント剥落のない部分にまで延びて座す副座部12Bは、アンカー反力を分散して基板に及ぼす。
【0054】
このように翼つき座金で押さえるようにしていると、基板にあけられた挿通孔の縁部セメントが部分的に剥落し繊維が露出して耐圧性が低下しても、横目地に嵌まる副座部は非剥落部に跨がって座し、アンカー反力を脆弱部に集中させることなく分散して基板に伝達することができる。この翼つき座金においても、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されたり無用の荷重負担を受けることはない。目地交叉部に適量の弾性接着剤が存在する場合は上記と同様に振動伝播が軽減され、またアンカーに使用されるボルトの緩みも少なくなる。車両通過のたびに受ける風圧で微振動する基板を支える挿通孔の拡径化も抑制され、タイルパネルの耐久性も向上する。もちろん、基板によっては挿通孔縁部のセメント剥落がないか極めて少ない場合があり、そのときには、図2のような翼なし座金を採用することに特に問題はない。
【0055】
以上の説明から分かるように、ガラスなどによる繊維強化セメント板の場合、全体的には鋼板製基板よりも曲がりにくい。その結果、鋼板よりもトンネル壁面からの離隔量は概して大きくなる。それは、基板とタイル裏面との隙間が鋼板の場合より狭くなることを意味する。しかし、アンカーと隣り合う位置にあるタイルにあっては、アンカー寄りの部位での曲率の急変で基板とタイルとの隙間が局部的に大きくなる傾向にある。このような場合でも、弾性接着剤は局部的に厚層化するように伸び、一方、端縁では縮みを可能にして薄層化するからクッション性は高まりタイル端縁が基板に当たることもなく、接着剤の剥離もなくタイルの基板への貼着の永続性は高いものとなる。
【0056】
基板が鋼板であれ繊維強化セメント板であれ、目地交叉部のスペースを利用してタイルパネルのアンカー固定が可能となるから、浮かし張りのときのような支持金具(図12中の符号24を参照)は必要でなくなる。ちなみに、アンカー固定可能スペースは、図13の(e)に表した菱形4m、円形4n、正方形4pなどの形とすることもできる。目地交叉部に存する弾性接着剤もしくは目地交叉部にはみ出てきた弾性接着剤が座金の座りをよくし、翼の有無に関係なく、座金とタイル角切除により生じた尖り部との競り合いを軽減するなどの効果が発揮されるからである。
【0057】
以上は、弾性接着剤をタイルの少なくとも裏面上下方向全長に塗着させる図で説明してきた。しかし、図5の(b)に示すように、タイル端縁においては弾性接着剤8が塗布されない接着剤不在域8nを持つ形態とすることもできる。この場合接着剤が目地に現れないから、目地埋めするなどの防炎対策は必要に応じて排除することができる。また、接着層厚の増減率は上記の説明の場合よりも少なくなるから、薄層化する部分の接着剤消費量の節減も図られる。
【0058】
ところで、図9の(a)を参照して、タイル2を基板(図示せず)に貼着する時点での弾性接着剤8は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるように、また一つのタイルに対して複数の横延びビード8a,8b,8c・・・を形成するように塗布することもできる。その横延びビード8は、実線の表示から点模様のように、すなわち図10の(a)のような高さであった塗布層がタイル圧着養生後には(b)のようにやや薄くなるが、幅は拡がる。図9の(a)に点の集合体で示したように、ビードの上縁および下縁は他のビードに繋がるか繋がらないかの状態にまで拡げられる。
【0059】
これは、タイル圧着後可及的に相互近接する拡がりが生じる程度の塗布幅と塗布量を決めているからにほかならない。しかし、圧着養生後も横延びビードの形を顕在化するようにしているので、すなわちビード縁全域で相互連接することのない拡がりに抑えているから、接着層は力の伝播を実質的に上下方向で断った状態におく。ちなみに、非接着部は僅かな面積に留まるから、全面接着の最低基準とされる75%を大きく上回った接着面積が確保され、特に問題となることはない。ちなみに、横延びビードは、図9の(b)に示す接着剤トラフ13もしくは基板(図示せず)を移動させることにより、ノズル14からの接着剤8をビード状に形成させることができる。タイルはその後に全枚一度に載せられ、圧着される。
【0060】
タイルパネルにはトンネル壁からしばしば漏水の液滴が及ぶ。漏水は、車両の排気ガス成分を吸収したり巻き上げ粉塵を取り込んだりもする。これが接着層に至ると層の劣化を早めまた付着力の低下を来して剥離の進行も促す。図10の(c)に示すように、タイル上縁に位置する横延びビード8aに液滴1aが原因して剥がれ15Aが生じても、実質的に縁の切れている下方のビード8b,8c・・・へは、劣化や剥がれを伝播させない。下方のビード8bは上方のビード8aが全壊してはじめて漏水攻撃を受けることになるからである。図10の(d)に示すように上下連続した接着面が形成されている場合に起こる剥がれ15Bの下方進行や、接着層の根こそぎ的進展はなくなり、タイルパネルの耐用性が向上する。
【0061】
次に、個々のビードの層に着目する。タイル端における接着層は図11に示すように、基板3の湾曲により圧縮力を受け、中央部位は引張力を受ける。前者の力によって接着層は縮み、後者による場合は伸びる。(a)に示すように上下連続した接着面が形成されている場合は、一つの面をなす接着層に異なる大きさや異なる向きの力が作用する。異なる力が作用する接着層は相互に変形を抑制したり増強したりするから、接着層内に生じる応力は一定しなく、湿潤な境遇におかれたりすると、これが接着層の劣化を早める。
【0062】
一方、図11の(b)では横延びビード8a,8b,8c・・・が上下に繋がっていないから、個々のビードが受けた負荷を原則的には隣のビードに及ぼすことがない。すなわち、圧縮により接着層に生じた縮みが隣のビードに影響しないし、引張により接着層に生じた伸びの影響を隣のビードに及ぼすこともない。一つのひとつのビードには同じ向きのほとんど同じ大きさの荷重が作用するだけであるから層内分布応力は均等化されており、他層の影響を受けずに各層の挙動の安定が保たれる。
【0063】
ちなみに、基板としては繊維強化セメント板としたが、押出成形セメント板など他の板材とすることも、トンネル壁に沿わせやすい材料であれば差し支えない。また、主座部には副座部を突設させるだけでなく、図示しないが、目地交叉部から上下方向に延びる縦目地に嵌められる第二の副座部を持ったものとしてもよい。その第二副座部は基板の湾曲変形を抑制するように作用する関係で、横目地に嵌められる第一の副座部よりは短くしておくことが好ましい。
【0064】
このようなトンネル壁面被覆用タイルパネルは、新規トンネルを構築する場合のみならず、既設のトンネルにおける壁面のリニューアル工事においても適用することができる。いずれの例においても、接着層が弾性接着剤により形成されているから、それ相応の荷重負荷に耐えながらも弾力性が発揮される。基板の熱膨張収縮がタイルのそれより大きいのが通常であるが、タイル圧着環境温度とタイルパネル設置環境温度に差が大きい場合、接着層にせん断力が生じる。このような事態に到っても、界面ずれは柔軟な接着層の変形により吸収されることになる。したがって、接着剤が非弾性材の場合に起こる接着層破壊は来さず、これが原因でのタイルの剥落も回避される。
【符号の説明】
【0065】
1…タイルパネル、1H…横目地、2…タイル、2a…角部、2m…上端縁、2n…下端縁、2p…中央部位、3…基板、3S…鋼板、3C…繊維強化セメント板、4,4a,4b,4c…目地交叉部、4f…花びら状スポット、4A…アンカー固定可能スペース、5…座金、6…アンカー、7…トンネル壁、8…接着剤(弾性接着剤)、8s…薄層化部、8t…厚層化部、8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g…横延びビード、9…対面空間、10…接着層、12…翼つき座金、12A…主座部、12B…副座部、W,WH ,WV …目地幅、D…座金の直径。
【技術分野】
【0001】
本発明は曲面壁被覆用タイルパネルに係り、詳しくは、アンカーを打ってトンネル壁に固定される際に、磁器タイルを貼着した基板が上下方向に湾曲するトンネル壁に沿うごとく面変形できるようになっている直張り用タイルパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車が走行するトンネルでは、壁面が排気ガスによって汚れる。汚れが酷くなるとトンネル内の照明効果を低下させることになり、壁面の清掃頻度を上げねばならず、保守点検に多大の労力と時間を費やす。最近では、トンネル内照明用電力の節減や清掃の簡便化を図るために、釉薬により光沢ある面を持った磁器質タイルでコンクリートの壁面を覆うことが多くなってきている。
【0003】
タイルが覆う壁面は立ち上がり壁であって天井壁まで及ぶことはないが、タイルの平面寸法は例えば200×100ミリメートル程度であるので、これを壁面に個々に張りつけるとすれば作業量が極めて厖大となる。そこで、図12のに示すごとく、接着剤21を塗布した基板3上に複数のタイル23を縦横に配置して貼着させたタイルパネル22が使用される。軽量化の目的もあってタイル23の厚みは例えば1センチメートルに満たなく、例えば1メートル四方程度の大きさの基板3も1センチメートル未満の板材とされ、作業中の取り扱いに支障の来さない嵩ばりと重量にとどめられる。
【0004】
このようなタイルパネルは例えば後掲する特許文献1に記載され、よく知られたものとなっている。その文献では、タイルパネルのトンネル壁への取りつけに関して一つの提案がなされている。細かい構成を省いて概略すれば、符号24で表された金具により「浮かし張り」式に支持する構造となっている。受け用の支持金具24Aが壁面の所定位置にアンカー6を介して固定され、これに基板3の下縁を支持させる。倒れ止め用支持金具24Bを基板3の上縁に被せ、壁面の所定位置に固定したアンカー6に挿入されるボルトのヘッド11で押さえるなどして、パネルがトンネル壁7からある程度浮かした状態で取りつけられる。
【0005】
昨今では、タイルを基板に配置して接着したパネルをトンネル壁に直にあてがい、基板を壁面に固定する「直張り」も行われ始めている。この場合、上記した金具を使用しないから、アンカーに螺着されるボルトなどでタイルパネルをトンネル壁に直接固定することになる。しかし、脆くて硬いタイルに孔をあけるわけにもいかないから、目地交叉部4が利用される。ところが、目地は狭く、図13の(e)の左上部分4qのような箇所に止め孔をあけるスペースを確保することはほとんどの場合難しい。目地の拡幅が許されないとなると、特許文献2で提案されているタイルの角部を欠落させる手段によって問題を解消しなければならなくなる。
【0006】
図13の(a)の矩形のタイル23の角部に、(b)から(d)にあるように三角状に切り落としたチャンファ(面とり)23aを与えたり、円弧状凹み23bや矩形状凹み23cを設ければ、(e)の上部右および下部右および下部左に示すように、交叉部に臨む四つの角部で、菱形4m、円形4n、正方形4pといったスペースを生じさせることができる。例えば円形スペースを生じさせるべくタイルのかたちを統一すると、いずれのタイルにもその四つの角部それぞれに四分の一円弧凹み23bを形成させることになる。この場合、パネル上の全ての目地交叉部は円形となるが、アンカー位置となるのはそのうちの幾つかに過ぎないため、壁面に取りつけられたタイルパネルには円形スペースを散在させることになる。これは模様と言うよりは、パネル面の不連続さを印象づけ、面の拡がり感を損なわせる。
【0007】
このような形のタイル角切除では、円弧縁とそれに隣接する辺縁との境に角が立つ。このことは、角度の大きさに違いがあってもチャンファ23aや矩形凹み23cを与える場合も同様である。角の立った箇所が残るということは、タイルの運搬や保管時の取り扱いが些か厄介となり、また壁面被覆作業時に、アンカーやそれに使用される押さえ座金との間でせり合うなどするから、作業者にとってはそれを避けねばならない煩わしさが強いられる。加えて、目地埋めしない場合には交叉部での水切り作用が弱く、図14に示すうちとりわけ円弧凹み23bや矩形凹み23cを採用した場合には、液滴1aを滞留させがちとなる。これでは、排気ガス含有成分やタイヤ跳ね上げ粉を混入させることになって、目地交叉部での汚れを早める。
【0008】
ところで、基板がガラスなどの繊維強化セメント板であると、アンカーを打つために基板を貫通して壁面に下孔をあけるとき、繊維がドリルに絡みセメントを多少なりとも剥落させる。孔の周囲で繊維が部分的に露出してほぐれたようになれば、アンカーに基板を固定するボルトの挿通孔縁の耐力が落ちることになる。アンカーの使用箇所を増やすなどしなければならず、工事の手間が増して作業の能率化を損なう。
【0009】
孔周囲に作用する応力を軽減させたり分散させるため、座金が使用されることはよく知られるところである。座金5を上記した凹みに嵌めたときタイルに立つ角と接触すると、図14中の黒矢印が指す箇所において無用の力を集中して及ぼしあう。座金5はボルトのヘッド11で押さえられるから影響を大きく受けるのはタイルの側であり、タイルが欠けたりすれば目地交叉部の形が崩れる。(d)に示したように、交叉部を覆って四つのタイルに跨がる大きい径の座金5Aを採用する場合には、一つのタイルに着目すると座金がその一角のみを圧するから、以後除去されることのないこの負荷が一角部を支点にしてタイルを基板から起こすように作用し、剥離を促す。また、パネル面に点在する座金5Aがタイルの光沢を損ない、見栄えや反射効果を減退させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−73531
【特許文献2】特開2006−265847
【特許文献3】特開2005−83031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、図15に示す上下方向に湾曲するトンネル壁7に上下で隣り合うタイルパネル22A,22Bにおけるそれぞれの面変形可能な基板3を固定した状態において、基板とそれに貼着されたタイル23との関係を述べる。図16の(a)は、自由状態で真っ直ぐであった一点鎖線で示す基板3をトンネル壁7にアンカー6によって止めた模式的かつ誇張して表した取付図である。基板は面変形可能なものであるとはいえ、図のごとく湾曲したトンネル壁に基板の全面が完全に密着するものでない。すなわち、囲い楕円E内で上下に隣り合うアンカー6,6の間にある部分基板25は、さらに誇張して(b)に示したように、アンカーの位置でトンネル壁7に密着して壁面と同じかそれより大きい曲率を呈するが、それ以外の箇所は壁面より小さい曲率となって、壁面からは浮く。
【0012】
この部分基板25を図17の(a)に水平な姿勢で表す。それに3枚のタイル23が(b)のように貼着されているとする。タイルは破線で示した接着剤21によりその裏全面が基板に密着されるから、タイルパネルをトンネル壁面に沿わせたとき、磁器質などであって面変形しえないタイルが基板の変形を阻止しようとする。その結果、基板3は目地26で局部的に折れ曲がる自由しか与えられなくなる。ところが、部分基板25は(a)のように変形するのであるから、(c)に示すように、その中央は(b)に近い状態に保たれるとしても、曲率を変えようとするアンカー寄りの箇所ではタイル23から離隔しようとするのは避けられない。
【0013】
この箇所では言うまでもなく剥離部27が生じ、固化している接着剤の付着力をおおいに減退させる。さらに、曲がることのないタイルの端縁が基板と交差角をなすことになるから、端縁が接着層を介して基板と力を及ぼしあう。タイルの端縁が基板から力を受けると、タイル中央部位の基板からの離隔を助長し、ますます剥離が進行しやすい状態におかれる。
【0014】
(c)に見られる剥離27の発生を回避するためにはタイルの裏面端縁を切除すればよいわけで、上掲した特許文献3にはそのような処置を施した(d)に示すタイル23Aが提案されている。タイルは舟形に加工されることになり、接着面においては中央、左右の別なく、タイル23Aと部分基板25との隙間の均厚化を図ろうとする。すなわちタイルの裏面に基板が変化した後の円弧に類した形を予め与えておこうとしたり、タイルの端縁と基板との界面に接着層を最初から形成させないようにして端縁と基板とが相互に力を及ぼしあわなくしておき、圧縮力の受け方の弱い接着層のみで密着を維持してタイルの剥落を抑止しておこうとする。
【0015】
ところが、タイルの端縁を切除するための切削加工は製作負担を極めて大きくする。タイルの成形時点で端縁を切除しておく場合は、焼成時にタイル面に反りを発生させやすくなり、歩留りを高めるのは決して容易でない。ところで、タイルが部分基板に3枚のときの例で言えば、(d)中に丸く囲んだ符号28に含まれる部位、すなわち中央に配置されるタイルの両端部、左右に配置されるタイルの反アンカー側端は切除部の存在で接着層から浮いた状態となる。これを避けるためには、特許文献3の記載にもあるように、端縁の両方を切除したものだけでなく片側だけを切除したものも準備することが必要となる。一枚のタイルパネルに使用されるタイルの形が増えるのは、大量に製造しなければならないタイルパネルの生産性を著しく損なう。
【0016】
本発明は上記した問題に鑑みなされたもので、その目的は、トンネル壁面に沿わされた基板とそれに貼着したタイルの裏面に不可避的に生じる隙間に厚薄が生じてもタイルの剥離を抑制し、そのために必要とされたタイルの裏面端縁の切除処理を排除して、可及的にシンプルな形状のタイルの量産を実現した曲面壁被覆用タイルパネルを提供することである。さらには、漏水等の侵入による接着層の劣化・剥離が避けられなかったとしても、剥離の進展を抑えて接着状態の安定を図りやすくできること、タイルにアンカーの打ち込みスペースを確保するに際して、目地交叉部近傍でタイルの角が立たないようにしておくこと、目地交叉部にアンカー用座金を配置したとき座金とタイルとが接触することになっても、当たり部での荷重がタイルの局部に集中することなく割れや欠けの発生を回避し遅らせることができること、基板が繊維強化セメント板である場合、アンカー下孔形成時に孔周縁の耐力低下の影響を少なくできるようにすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、トンネル壁を覆うための複数のタイルが基板上に縦横に貼着され、打設されたアンカーを介してトンネル壁に固定される際に、基板が上下方向に湾曲する壁面に沿うごとく面変形できる直張り用タイルパネルに適用される。その特徴とするところは、図2を参照して、タイル2は角部2aが切除された形状であり、その角部で形成される目地交叉部4には目地幅より大きい寸法のアンカー固定可能スペース4Aが確保される。タイル2は20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮する弾性接着剤でもって基板に貼着される。その基板3がトンネル壁に固定された時点で、剛直なタイル2と面変形した基板3との対面空間の接着層10には、図1の(d)に示すタイル2の上端縁2m,下端縁2nおよびその近傍で挟圧されて縮んだ薄層化部8sが形成されるとともに、タイル中央部位2pおよびその近傍で引っ張られて伸びた厚層化部8tが形成されるようるする。そして、図2のごとく、基板3をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金5は、対面空間に形成された接着層に力を及ぼすことのない目地交叉部4に配置されるようにしたことである。
【0018】
図9に示すように、タイル2を基板3に貼着する時点の弾性接着剤8は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるようかつ一つのタイルに対して複数の横延びビード8a,8b,8c・・・を形成するように塗布される。
【0019】
基板は鋼板3S(図3を参照)としておく。それに代えて、基板3を繊維強化セメント板3C(図7を参照)としておいてもよい。図6を参照して、アンカー固定可能スペース4Aは個々のタイルの角部が円弧状膨らみを形づくるように丸められて形成される花びら状であり、押さえ座金12には目地交差部を押さえる主座部12Aから左右方向に延びて横目地1Hに嵌められる副座部12Bを突設させておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、タイルの角部は切除された形状としておくから、この角部で形成される目地交叉部には目地幅より大きい幅もしくは径を有した寸法のアンカー固定可能スペースが確保される。そのスペースを利用してアンカー固定が可能となることにより、浮かし張りのときのような金具が必要でなくなる。
【0021】
タイルは伸びが20%を超える弾性接着剤により基板に貼着されるので、基板がトンネル壁に固定された時点で、剛直なタイルの裏面と面変形した基板の表面が対向する対面空間を、厚みが容易に増減変化される接着層で埋めておくことができる。層厚の拡縮が許容されて層内分離や層剥離が生じることは可及的になくなる。
【0022】
タイルの上端縁もしくは下端縁においては稠密化された薄層化部が基板との干渉を和らげる。タイルと基板との干渉を回避するためタイルの端縁を薄くしておくといった加工手間も必要でなくなり、均等厚みの成形品として歪みの少ないタイルの焼成が可能で、光沢面における反射機能を損なうこともない。対面空間が拡大する箇所にあっては接着剤が伸長した厚層化部を形成することになるから、タイルの剥落は可及的に抑えられる。
【0023】
基板をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金は、対面空間に形成された接着層に影響することのない目地交叉部に配置されるので、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されるなどの影響を受けることもない。
【0024】
タイルを基板に貼着する時点での弾性接着剤は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるように、また一つのタイルに対して複数の横延びビードを形成するように塗布される。その横延びビードは、圧着養生後も横延びビード縁全域で相互連接させることのないようにしているから、個々に受けた負荷を隣のビードに及ぼすことがない。
【0025】
地下漏水はトンネル壁を伝ってタイルパネルに及び、タイルパネル上縁に位置する横延びビードに到達するが、そのビードが劣化しても、その劣化や剥離の影響が実質的に縁の切れている下方のビードへは及ばない。剥がれの下方延進による接着機能の根こそぎ的崩れは回避され、タイルパネルの耐用性を向上させる。
【0026】
タイル上端における横延びビードは基板の湾曲により圧縮力を受け、中央部位の横延びビードは引張力を受ける。横延びビードは上下には繋がっていないから、縮みによって接着層に生じた圧縮力が隣のビードに及ぶことはないし、伸びによって接着層に生じた引張力が隣のビードに及ぶこともない。一つのビードには同じ向きの荷重がほぼ同じ大きさで作用するだけであるから、層内分布応力が均等化し、層内安定が図られる。
【0027】
基板を鋼板としておけばトンネル壁面に沿わせやすくなる。反面、タイルと基板との隙間は大きくなるが、弾性接着剤は厚層化して支障を来さない。鋼板の採用は基板を薄くすることを可能にし、荷積み時の嵩張りの半減化も促す。
【0028】
基板を繊維強化セメント板としておくこともできる。これは鋼板よりも曲がりにくいので、トンネル壁面からの離隔量は鋼板より概して大きくなる。しかし、弾性接着剤は局部的に厚層化するように伸びて接着剤の剥離を生じさせず、端縁では薄層化してタイルと基板との当たりを阻止し、タイルの基板に対する密着が強く長く維持される。
【0029】
個々のタイルの角部は円弧状膨らみを形づくるように丸められるので、タイルの四つの角部に尖り部が生じない。ハンドリング性の極めてよいタイルとなる。この円弧状輪郭の成形は、焼成後のタイルの反りや変形を防止するための特別の操作も必要とされなくなって都合がよい。
【0030】
タイルは同一形状ばかりでタイルパネルを構成させることができるから、目地交叉部は尖り花弁を十字状に持った花びら状スペースを形成する。目地交叉部にはアンカー打ち込み用スペースが確保されるが、アンカーが打たれない目地交叉部はタイル面の不連続さを目立たせず、しかもタイルの持つ硬質感を和らげる美麗なパネルとすることができる。目地交叉部での液滴の流落も促され、汚れの発生が抑えられる。
【0031】
基板は主座部に副座部を突設させた座金で押さえられるようにしておくから、挿通孔周縁部のセメント剥落による繊維の露出で耐圧性が低下しても、横目地に嵌まる副座部が非剥落部にまで跨がって座し、アンカー反力を脆弱部に集中させることなく分散して基板に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】弾性接着剤の層厚変化の説明であって、(a)は変形した基板の単独図、(b)は3枚のタイルが貼着されている場合の接着剤の層厚増減図、(c)は変形前の接着層の単独図、(d)は圧縮により生じた薄層化部と引張りを受けて伸びた厚層化部を持った状態の接着層単独図。
【図2】タイルの各角部で形成された一つの目地交叉部(花びら状スポット)へのアンカー螺着用ボルトの配設図。
【図3】本発明に係るトンネル壁面被覆用タイルパネルの一つで、(a)は鋼板製基板に適用された場合の正面図、(b)はA−A線矢視断面図。
【図4】(a)は座金がタイルの角部と突き当たらないことの説明図、(b)は座金の位置ずれ許容の説明ならびに目地を伝う液滴の流下状態図。(c)は翼つき座金の場合の説明図、(d)はその位置ずれ許容の説明ならびに液滴の流下状態図。
【図5】(a)は鋼板製基板と繊維強化セメント板製基板との変形の比較図、(b)はタイルの端縁を接着剤不在域とした弾性接着剤の層厚変化の説明図。
【図6】タイルの各角部で形成された目地交叉部に翼つき座金を介したアンカー配設図。
【図7】基板に繊維強化セメント板を適用したトンネル壁面被覆用タイルパネルの正面図および側面図。
【図8】アンカーの構造ならびに固定説明図。
【図9】横延びビードを適用する場合であって、(a)は塗布時点の横延びビードから圧着後の横延びビードに変化する状態の説明図、(b)は横延びビード塗着ノズルの一例の斜視図。
【図10】横延びビードを適用したタイルパネルであって、(a)はタイル圧着前のタイルパネル側面図、(b)はタイル圧着後のタイルパネル側面図、(c)は横延びビードの場合の剥がれ模式図、(d)は上下連続接着層の場合の剥がれ模式図。
【図11】接着層における引張力・圧縮力の作用例で、(a)は上下連続接着層の場合の模式図、(b)は横延びビードの場合の模式図。
【図12】タイルパネルを壁面に固定する先行技術例で、(a)は浮かし張りパネルの正面図、(b)はM−M線矢視断面図。
【図13】形の異なる角部を持つタイルとそれによって形成される目地交叉部の説明であって、(a)は極く一般的な形をしたタイルの輪郭例、(b)ないし(d)は角部に凹みなどを与えた例、(e)は四つの角部で形成された目地交叉部平面形例。
【図14】目地部に配置された座金がタイルと接触する様子の説明図。
【図15】タイルパネルを上下方向に湾曲するトンネル壁に沿わせた工事完成図。
【図16】(a)は自由状態で真っ直ぐな基板の模式的かつ誇張して表したトンネル壁面取付図、(b)はトンネル壁と変形した部分基板の相関図。
【図17】基板の変形に基づくタイルの接着状態説明の一連図および端縁を切除したタイルでの剥落防止対策図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明をその実施の形態を表した図面に基づいて説明する。図3は本発明に係る直張り形式の曲面壁被覆用タイルパネル1であって、1,200以上の温度で焼成されて変形することのない幾つもの硬質タイル2が面変形可能な基板3の上に縦横に貼着されている。タイルの目地交叉部4に押さえ座金5を配してアンカー6に固定すると、基板3を図15に示した上下方向に湾曲するトンネル壁7に取りつけることができ、タイルにより壁面が美麗に覆われる。
【0034】
個々のタイル2は、図3の(b)に示すように、接着剤8により基板3に貼りつけられる。これは図2に表されるごとく、角部2aが切除された形状となっている。この例では円弧状膨らみを形づくるように丸められ、横目地1Hと縦目地1Vとの交点である目地交叉部4が尖り花弁を十字状に備え、目地幅Wより大きい寸法の花びら状スポット4fを形成させている。これが後述するごとく、トンネル壁面に沿うごとく面変形できるタイルパネルを直張りするためのアンカー固定可能スペース4Aを提供する。基板3を固定するアンカー螺着用ボルト6bは接着層に力を及ぼすことがなく、したがって層厚を乱すこともなければ、タイルを起こし剥がすような作用をすることもない。
【0035】
接着剤8として使用されるのは弾性接着剤である。これは、20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮するものである。ところで、基板3がトンネル壁に固定された時点で図1の(a)のように変形することは、図17の(a)の説明と同じである。タイル2と基板3との界面、すなわち剛直なタイルの裏面と面変形した基板の表面とが対向する対面空間9には、図1の(b)に示すように層厚を増減変化させた接着層10が形成され、かつそれのみで占められる。ちなみに、傾向としては、塗布後にタイルに挟まれて養生された後の接着層を薄くしておく場合は大きい伸びを呈する接着剤が採用され、厚くしておきたい場合は小さな伸びを呈する接着剤で済ますことができる。
【0036】
弾性接着剤は弾性変形する範囲で使用するかぎり圧縮においても弾性変形するが、層厚にもよるものの、通常の大きさのトンネル半径に対して200ミリメートル角までの通常の大きさのタイルを使用するかぎりは、40ないし90%程度の伸びを呈する弾性接着剤で十分なことが多い。なお、伸びが20%より小さい接着剤により接着層を形成させようとすると、塗布厚を大きくしなければならなくなって塗布量の増大を招き好ましくない。110%を超えると接着層は薄くできるといっても現実性のない薄さまでを適用可能にすることになり、逆に大きい層厚に適用すれば接着性能自体の増強が余儀なくされ、品質の過剰化を来す。すなわち、トンネル壁の通常の曲率に適しない厚み変化や高強度接着を強いることになるので、伸び範囲が大きいほどよいというものではない。
【0037】
基板に塗布した接着剤にタイルを載せて押さえ、養生したパネル完成時に図1の(c)に示すごとく均等厚Taであった接着層8Aは、基板が曲がったとき(d)に誇張して示すようにレンズ状の層8Bに変化する。タイル2の上下の端縁2m,2nおよびその近傍ではタイルと基板に挟圧されてδs縮んだ薄層化部8sを生じさせ、タイルの中央部位2pおよびその近傍では、基板の弓なり変形により引っ張られてδt伸びた厚層化部8tを生じさせるからである。このように層厚が変化しても弾性物質ゆえに接着機能は低下することがなく、タイルは基板に全面接着された状態におかれる。ちなみに、基板3の全面が半径5,000ミリメートルのトンネル壁に密着しているとすれば、変形の総計δs+δtは計算上0.25ないし0.30ミリメートル程度である。
【0038】
もう少し詳しく述べれば、基板3の変形によって基板がタイルの上端縁2mや下端縁2nに接近してきても、その辺りや近傍の接着層は挟圧されるとはいえ、層厚を残しかつ層密が大きくなって縮んでいるだけで弾力性が残っていて破れにくく、タイル端縁が基板と競ったり当たるという接触や相互干渉をひき起こすことはない。一方、タイルの中央部位2pおよびその近傍は接着層の層厚方向に引っ張られて層密が小さくなるとしても、伸びて厚層化するだけであるので、亀裂や分離による空隙を生じさせることがなく、剥離を誘う原因を排除しておくことができる。
【0039】
ちなみに、エポキシ樹脂などの接着剤は通常養生すると硬直化して弾力を失い、タイルの剥落を招く。弾性接着剤は常時弾力性を保つことは言うまでもなく、変成シリコーン樹脂系(例えばセメダイン(株)PM582)もしくはそれと同等の接着剤を採用すればよい。ところで、接着層が厚い場合は小さな伸びを呈する接着剤で済ますことができるとすでに述べたが、厚いと0.25ないし0.30ミリメートル程度の吸収は小さな伸び率でカバーできるからである。トンネル壁の通常の曲率にそぐわない厚み変化を接着層に強いる必要はなく、層厚方向の引張耐力低下の少ない接着層とすることを優先できることにもなる。一方、接着層が薄い場合は大きい伸び率を呈する接着剤が採用されることを上で述べたが、そうすることによってタイル中央部位での基板の湾曲変形により大きくなった隙間を埋める伸びを発揮させることができる。
【0040】
ところで、トンネルは例えば5,000ミリメートル半径の曲がり壁面とされ、基板としてはトンネル壁面にある程度順応して変形するものが採用されるが、それに鋼板3Sを充てた場合には、後で述べる繊維強化セメント板3Cの場合よりもトンネル壁の形状に馴染ませやすい。したがって、タイルの中央部位における接着層の層厚方向の伸びは繊維強化セメント板の場合よりも大きく要求され、かつタイル端縁における縮みも大きく要求されることになる。
【0041】
変形した鋼板製の基板とタイルの裏面との隙間は、例えば200×100ミリメートルの横置きタイルではその端縁部位と中央部位における水平距離差が例えば0.30ミリメートルとなる。例示すれば、接着層が0.4ミリメートルの母体厚Taとして、38%増の0.55ミリメートルまで伸びるなら、基板の曲がりによるタイルとの間に生じた離隔量0.30ミリメートルをその厚みの一部で埋め、タイル端縁では0.25ミリメートルの層を残して干渉回避しておくことができる。この場合の増厚量δtと減厚量δsはともに0.15ミリメートルとなる。なお、塗布量は、タイルを圧着して養生させた接着層が0.4ミリメートルになる量とすればよい。
【0042】
ところで、このような鋼板3Sにはアンカー固定用ボルトを挿通するための孔が設けられるが、その位置はすでに触れたようにタイル2の目地交差部4(図2を参照)に形成された花びら状スポット4fとされる。アンカー6としては後述する図8やその同等品を使用するが、それは挿通孔を通してトンネル壁面の所定位置に穿った下孔に挿入される。そのアンカーには、基板を押さえるボルトが螺着され、タイルパネルを壁面に固定する。なお、図8では座金は後述する翼つき座金12となっているが、鋼板3Sに対しては翼つきである必要はなく、座金5は次に示す円形で十分である。
【0043】
スリーブに挿通されるボルトのヘッドと基板との間には座金が介在されるが、この押さえ座金5は図2や図4の(a)に示すように、目地幅WH ,WV より大きい直径Dの円形をなす。タイルの角部2aには外に膨らむ丸みが与えられていることから、位置ずれしていても図4の(b)のようになって、角で当たるといったことはありえず、タイルの欠けや割れの発生を可及的に少なくする。ちなみに、ボルトのヘッド11には例えば四角のレンチ孔11aが形成され、タイルが周囲から迫っていても容易に回転させることができるようにされている。
【0044】
鋼板3Sが数ミリメートルもしくは1ミリメートル未満の厚みであれば、トンネル壁面に容易に沿わせることができる。セメント板などよりは曲がりやすいためにタイルとの隙間は全体的に大きくなる傾向にあるが、弾性接着剤は伸びが可能で、厚層化に好適な資材であるから、図17の(d)のようにタイルを舟形に加工しておく必要もない。量産化するに極めて都合のよいシンプルな形のタイルとしておくことができる。
【0045】
このように、基板を鋼板製としておけばトンネル壁面に沿わせやすくなる反面、タイルと基板との隙間は大きくなるものの、弾性接着剤は厚層化して支障を来すことはない。鋼板の採用は基板を薄くすることを可能にし、荷積み時の嵩張りの減少をもたらす。セメント板よりは靱性が飛躍的に高いゆえ、接着層の弾力化とあいまって、工事現場等への輸送効率の向上や破損率の低下にも大いに寄与する。
【0046】
これらの説明から分かるように、個々のタイルの角部は円弧状膨らみを形づくるように丸められているので、タイルの四つの角部に尖り部が生じることはない。一連の作業において角部の欠け落ち防止を気づかうことは少なくて済み、ハンドリング性の良好なタイルとなる。この円弧状膨らみの輪郭成形は、それを型押しする時点で各辺縁での締め固め作用も二次的に発生させ、焼成後のタイルの反りや変形を防止するための額縁(裏面周辺の締め固め操作により生じた枠状の凹み)形成操作も必要とされなくなる利点がある。
【0047】
タイルは同一形状のものばかりであり、製造から輸送に到るまでの扱いが容易となって歩留りも高い。基板に貼着されるタイルの形が同じであるから、タイルパネルに形成される目地交叉部は尖り花弁を十字状に持った花びら状となるが、これはアンカーを打たない箇所でもタイル面の不連続さを目立たせない。しかもタイルの持つ硬質感を和らげ、ソフトで安定感漂う美麗な花模様パネルを実現する。なお、図4の(b)からも把握できるように、目地埋めしない場合に目地交叉部4での液滴1aの流落も促される。トンネル壁の洗浄や壁を伝う地下漏水の溜まり現象は可及的に少なく、排気ガスに含まれる油分、タイヤが跳ね上げる粉塵などが付着しまた混入して汚れを酷くしたり、それが拡がるのを抑えておくことができる。
【0048】
弾性接着剤で占められた接着層では、層厚の拡縮により層内分離や層剥離が生じることがなくなる。すでに触れたが、タイルの上端縁または下端縁と基板との干渉は、層厚圧縮で稠密化された薄層化部の存在により和らげられまた回避される。タイルの端縁における裏面の舟底状成形は必要でなくなり、歪みの少ない均等厚みの成形品としてタイルを製作し、使用することができる。タイル製作における加工手間も軽減され、均厚なシンプルな形状による歪の少ないタイル焼成が可能となり、量産化における歩留り低下要因も可及的に排除できる。もちろん、光沢面側の平坦度も保たれ、安定した反射作用を発揮させることができる。一方、対面空間が拡大する箇所にあっては接着層が引張力を受けるものの硬直しない接着剤は膨容化した厚層化部を形成する。タイルと基板の対向面の接着機能は持続され、タイルの剥落は可及的に抑えられる。
【0049】
基板をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金は、対面空間に形成された接着層に影響を及ぼすことのない花びら状スポットに配置されるから、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されたり無用の荷重を受けるといったことはない。タイルに部分的にも力を及ぼすことがないから、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されるなど影響を受けることもない。目地交叉部に弾性接着剤が存在する場合には、座金が減振作用のある弾性材で受けられることになるから、走行車両の振動の伝播が和らげられる。アンカーに使用されるボルトの緩みも少なくなる。
【0050】
次に、基板が繊維強化セメント板3Cである場合について述べる。使用される繊維の代表的なものはガラスである。図5の(a)に示したように、繊維強化セメント板3Cは先に述べた鋼板3Sよりも曲がりにくいので、トンネル壁に沿わせたとき、概して鋼板よりは曲率が小さくなる。トンネル壁面からの離隔量が鋼板よりも大きくなるということは、アンカーの近傍の領域Nにおいては鋼板の場合以上に曲率の変化が激しくなることを意味する。アンカー間に3枚のタイルがあるとすると、中央のタイルと基板とは鋼板のときよりも接着層厚の変化が少ないが、上方および下方のタイルにおいては厚層化部と薄層化部の層厚の差が激しくなる。弾性接着剤はこの層厚の増減量に見合う母体厚Taを選定して対応することができるから、タイルの基板への密着は鋼板同様に長く強く保持させておくことができる。
【0051】
上記した補強繊維はガラスであるか否かにかかわらず、基板にアンカー止めのための挿通孔をあける場合、ドリルに繊維が絡むなどして毛羽立つことがあり、孔周囲のセメントがほぐされる。そのためアンカーに使用される座金は翼つき座金12とされる。これは、図6に示すように、目地交叉部4のアンカー螺着用ボルト6bから左右方向に延びる横目地1Hに嵌められる翼状をした副座部12Bを、目地幅Wより大きい直径Dの主座部12Aに突設させたもので、脆弱化した孔周囲に押さえ荷重が集中しないようにしておくことができる。なお、副座部12Bがタイルと角で当たりあうということもないので、図4の(c),(d)に示したごとくなり、図4の(a),(b)と同様の作用効果が発揮される。
【0052】
上記した翼つき座金12を備えたアンカー6は、図8に示される。座金12は(a)のごとく厚み一定であり、(c)から分かるようにスリーブ6aの外径よりは小さいがボルト6bの径より大きい座孔12aが形成される。(e)のようにボルトを通す座孔12aを持つ主座部12Aの左右には、目地交叉部から左右に延びる副座部12Bが一体に設けられる。その主座部12Aは図4の(c)に示すように目地交叉部4にしか嵌まらない直径とされることは言うまでもない。アンカーは、スリーブ6a、ボルト6b、コーン6cを備え、スリーブ端にはスリット6dが設けられる。基板を押さえるボルトヘッド11の回転による螺進でボルト6bがコーンを孔奥でアンカースリーブに引き入れ、コーンがスリットのあるスリーブ端を拡径させる。これにより、アンカーのトンネル壁からの抜け止めがなされ、同時に座金が基板を押さえ、タイルパネルが図8の(f)のようにトンネル壁面に固定される。なお、スリット6dの基端は抜き窓6eに連なり、スリーブ端の拡径が容易となるように配慮されている。
【0053】
図7の場合も図3と同様に、基板3には例えば左と右の各一つの縦目地上にある交叉部4a,4b,4cの3箇所がアンカー打ち込み位置として選定される。ドリルを立てて基板に挿通孔をあけ、それに続いてトンネル壁面にアンカー下孔を穿つ。繊維補強セメント板にあけられた挿通孔の周縁部分のセメントが一部剥落するのは避けられない。挿通孔の縁部で繊維が露出するほどに乱されると、主座部12Aのための座面耐圧が低下する。繊維の露出は概ね交叉部内に留まるので、セメント剥落のない部分にまで延びて座す副座部12Bは、アンカー反力を分散して基板に及ぼす。
【0054】
このように翼つき座金で押さえるようにしていると、基板にあけられた挿通孔の縁部セメントが部分的に剥落し繊維が露出して耐圧性が低下しても、横目地に嵌まる副座部は非剥落部に跨がって座し、アンカー反力を脆弱部に集中させることなく分散して基板に伝達することができる。この翼つき座金においても、層厚の変化した接着層が座金に掛かる圧力で乱されたり無用の荷重負担を受けることはない。目地交叉部に適量の弾性接着剤が存在する場合は上記と同様に振動伝播が軽減され、またアンカーに使用されるボルトの緩みも少なくなる。車両通過のたびに受ける風圧で微振動する基板を支える挿通孔の拡径化も抑制され、タイルパネルの耐久性も向上する。もちろん、基板によっては挿通孔縁部のセメント剥落がないか極めて少ない場合があり、そのときには、図2のような翼なし座金を採用することに特に問題はない。
【0055】
以上の説明から分かるように、ガラスなどによる繊維強化セメント板の場合、全体的には鋼板製基板よりも曲がりにくい。その結果、鋼板よりもトンネル壁面からの離隔量は概して大きくなる。それは、基板とタイル裏面との隙間が鋼板の場合より狭くなることを意味する。しかし、アンカーと隣り合う位置にあるタイルにあっては、アンカー寄りの部位での曲率の急変で基板とタイルとの隙間が局部的に大きくなる傾向にある。このような場合でも、弾性接着剤は局部的に厚層化するように伸び、一方、端縁では縮みを可能にして薄層化するからクッション性は高まりタイル端縁が基板に当たることもなく、接着剤の剥離もなくタイルの基板への貼着の永続性は高いものとなる。
【0056】
基板が鋼板であれ繊維強化セメント板であれ、目地交叉部のスペースを利用してタイルパネルのアンカー固定が可能となるから、浮かし張りのときのような支持金具(図12中の符号24を参照)は必要でなくなる。ちなみに、アンカー固定可能スペースは、図13の(e)に表した菱形4m、円形4n、正方形4pなどの形とすることもできる。目地交叉部に存する弾性接着剤もしくは目地交叉部にはみ出てきた弾性接着剤が座金の座りをよくし、翼の有無に関係なく、座金とタイル角切除により生じた尖り部との競り合いを軽減するなどの効果が発揮されるからである。
【0057】
以上は、弾性接着剤をタイルの少なくとも裏面上下方向全長に塗着させる図で説明してきた。しかし、図5の(b)に示すように、タイル端縁においては弾性接着剤8が塗布されない接着剤不在域8nを持つ形態とすることもできる。この場合接着剤が目地に現れないから、目地埋めするなどの防炎対策は必要に応じて排除することができる。また、接着層厚の増減率は上記の説明の場合よりも少なくなるから、薄層化する部分の接着剤消費量の節減も図られる。
【0058】
ところで、図9の(a)を参照して、タイル2を基板(図示せず)に貼着する時点での弾性接着剤8は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるように、また一つのタイルに対して複数の横延びビード8a,8b,8c・・・を形成するように塗布することもできる。その横延びビード8は、実線の表示から点模様のように、すなわち図10の(a)のような高さであった塗布層がタイル圧着養生後には(b)のようにやや薄くなるが、幅は拡がる。図9の(a)に点の集合体で示したように、ビードの上縁および下縁は他のビードに繋がるか繋がらないかの状態にまで拡げられる。
【0059】
これは、タイル圧着後可及的に相互近接する拡がりが生じる程度の塗布幅と塗布量を決めているからにほかならない。しかし、圧着養生後も横延びビードの形を顕在化するようにしているので、すなわちビード縁全域で相互連接することのない拡がりに抑えているから、接着層は力の伝播を実質的に上下方向で断った状態におく。ちなみに、非接着部は僅かな面積に留まるから、全面接着の最低基準とされる75%を大きく上回った接着面積が確保され、特に問題となることはない。ちなみに、横延びビードは、図9の(b)に示す接着剤トラフ13もしくは基板(図示せず)を移動させることにより、ノズル14からの接着剤8をビード状に形成させることができる。タイルはその後に全枚一度に載せられ、圧着される。
【0060】
タイルパネルにはトンネル壁からしばしば漏水の液滴が及ぶ。漏水は、車両の排気ガス成分を吸収したり巻き上げ粉塵を取り込んだりもする。これが接着層に至ると層の劣化を早めまた付着力の低下を来して剥離の進行も促す。図10の(c)に示すように、タイル上縁に位置する横延びビード8aに液滴1aが原因して剥がれ15Aが生じても、実質的に縁の切れている下方のビード8b,8c・・・へは、劣化や剥がれを伝播させない。下方のビード8bは上方のビード8aが全壊してはじめて漏水攻撃を受けることになるからである。図10の(d)に示すように上下連続した接着面が形成されている場合に起こる剥がれ15Bの下方進行や、接着層の根こそぎ的進展はなくなり、タイルパネルの耐用性が向上する。
【0061】
次に、個々のビードの層に着目する。タイル端における接着層は図11に示すように、基板3の湾曲により圧縮力を受け、中央部位は引張力を受ける。前者の力によって接着層は縮み、後者による場合は伸びる。(a)に示すように上下連続した接着面が形成されている場合は、一つの面をなす接着層に異なる大きさや異なる向きの力が作用する。異なる力が作用する接着層は相互に変形を抑制したり増強したりするから、接着層内に生じる応力は一定しなく、湿潤な境遇におかれたりすると、これが接着層の劣化を早める。
【0062】
一方、図11の(b)では横延びビード8a,8b,8c・・・が上下に繋がっていないから、個々のビードが受けた負荷を原則的には隣のビードに及ぼすことがない。すなわち、圧縮により接着層に生じた縮みが隣のビードに影響しないし、引張により接着層に生じた伸びの影響を隣のビードに及ぼすこともない。一つのひとつのビードには同じ向きのほとんど同じ大きさの荷重が作用するだけであるから層内分布応力は均等化されており、他層の影響を受けずに各層の挙動の安定が保たれる。
【0063】
ちなみに、基板としては繊維強化セメント板としたが、押出成形セメント板など他の板材とすることも、トンネル壁に沿わせやすい材料であれば差し支えない。また、主座部には副座部を突設させるだけでなく、図示しないが、目地交叉部から上下方向に延びる縦目地に嵌められる第二の副座部を持ったものとしてもよい。その第二副座部は基板の湾曲変形を抑制するように作用する関係で、横目地に嵌められる第一の副座部よりは短くしておくことが好ましい。
【0064】
このようなトンネル壁面被覆用タイルパネルは、新規トンネルを構築する場合のみならず、既設のトンネルにおける壁面のリニューアル工事においても適用することができる。いずれの例においても、接着層が弾性接着剤により形成されているから、それ相応の荷重負荷に耐えながらも弾力性が発揮される。基板の熱膨張収縮がタイルのそれより大きいのが通常であるが、タイル圧着環境温度とタイルパネル設置環境温度に差が大きい場合、接着層にせん断力が生じる。このような事態に到っても、界面ずれは柔軟な接着層の変形により吸収されることになる。したがって、接着剤が非弾性材の場合に起こる接着層破壊は来さず、これが原因でのタイルの剥落も回避される。
【符号の説明】
【0065】
1…タイルパネル、1H…横目地、2…タイル、2a…角部、2m…上端縁、2n…下端縁、2p…中央部位、3…基板、3S…鋼板、3C…繊維強化セメント板、4,4a,4b,4c…目地交叉部、4f…花びら状スポット、4A…アンカー固定可能スペース、5…座金、6…アンカー、7…トンネル壁、8…接着剤(弾性接着剤)、8s…薄層化部、8t…厚層化部、8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g…横延びビード、9…対面空間、10…接着層、12…翼つき座金、12A…主座部、12B…副座部、W,WH ,WV …目地幅、D…座金の直径。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル壁を覆うための複数のタイルが基板上に縦横に貼着され、打設されたアンカーを介してトンネル壁に固定される際に、基板が上下方向に湾曲する壁面に沿うごとく面変形できるようになっている直張り用タイルパネルにおいて、
タイルは角部が切除された形状であり、該角部で形成される目地交叉部には目地幅より大きい寸法のアンカー固定可能スペースが確保され、
前記タイルは20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮する弾性接着剤でもって基板に貼着され、該基板がトンネル壁に固定された時点で、剛直なタイルと面変形した基板との対面空間の接着層には、タイルの上下端縁およびその近傍で挟圧されて縮んだ薄層化部が形成されるとともに、タイル中央部位およびその近傍で引っ張られて伸びた厚層化部が形成され、
前記基板をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金は、前記対面空間に形成された接着層に力を及ぼすことのない前記目地交叉部に配置されることを特徴とする曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項2】
タイルを基板に貼着する時点の前記弾性接着剤は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるようかつ一つのタイルに対して複数の横延びビードを形成するように塗布されていることを特徴とする請求項1に記載された曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項3】
前記基板は鋼板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項4】
前記基板は繊維強化セメント板であり、前記アンカー固定可能スペースは個々のタイルの角部が円弧状膨らみを形づくるように丸められて形成される花びら状であり、前記押さえ座金には前記目地交差部を押さえる主座部から左右方向に延びて横目地に嵌められる副座部が突設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項1】
トンネル壁を覆うための複数のタイルが基板上に縦横に貼着され、打設されたアンカーを介してトンネル壁に固定される際に、基板が上下方向に湾曲する壁面に沿うごとく面変形できるようになっている直張り用タイルパネルにおいて、
タイルは角部が切除された形状であり、該角部で形成される目地交叉部には目地幅より大きい寸法のアンカー固定可能スペースが確保され、
前記タイルは20%ないし110%までの接着層の厚み方向伸びを発揮する弾性接着剤でもって基板に貼着され、該基板がトンネル壁に固定された時点で、剛直なタイルと面変形した基板との対面空間の接着層には、タイルの上下端縁およびその近傍で挟圧されて縮んだ薄層化部が形成されるとともに、タイル中央部位およびその近傍で引っ張られて伸びた厚層化部が形成され、
前記基板をトンネル壁に沿わせて固定するアンカーの押さえ座金は、前記対面空間に形成された接着層に力を及ぼすことのない前記目地交叉部に配置されることを特徴とする曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項2】
タイルを基板に貼着する時点の前記弾性接着剤は、タイルパネルをトンネル壁に設置したときトンネル路面に平行となるようかつ一つのタイルに対して複数の横延びビードを形成するように塗布されていることを特徴とする請求項1に記載された曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項3】
前記基板は鋼板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された曲面壁被覆用タイルパネル。
【請求項4】
前記基板は繊維強化セメント板であり、前記アンカー固定可能スペースは個々のタイルの角部が円弧状膨らみを形づくるように丸められて形成される花びら状であり、前記押さえ座金には前記目地交差部を押さえる主座部から左右方向に延びて横目地に嵌められる副座部が突設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された曲面壁被覆用タイルパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−193606(P2012−193606A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46435(P2012−46435)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(594087447)宝菱産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(594087447)宝菱産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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