説明

更年期障害改善用医薬組成物ならびに飲食物

【課題】従来の方法に代わる、又は、従来方法との併用によって更年期障害時の諸症状を改善し、それに伴いQOLを改善できる手段を提供する。
【解決手段】ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする更年期障害改善及びQOL改善用医薬組成物ならびに飲食物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更年期障害の改善に有効な、すなわち更年期障害の治療・予防用の医薬組成物ならびに飲食物、及び更年期障害時の生活の質(Quality of Life ; 以下、「QOL」ということがある)の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
更年期障害は、「閉経前後5年間を更年期といい、この期間に現れる多種多様の症候群の中で、器質的変化に相応しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」と定義され、「更年期症状、更年期障害の主原因は卵巣機能の低下であり、加齢に伴う身体変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境要因などが複合的に影響することにより症状が発現すると考えられる」とされている。更年期障害の発症には、閉経に伴う内分泌ホルモン(卵胞ホルモン;エストロゲン)の発現減少といった身体的変化が関わっていることはもちろんであるが、社会的な環境の変化などによるストレスも関係しているとされている。また、20代から30代にかけて発症する若年性更年期障害の患者も増えている。若年性更年期障害患者の増加は、既婚者の不妊率の上昇、ひいては少子化をもたらす一因となっていると考えられる。
【0003】
医学の進歩は日進月歩であるにもかかわらず、更年期障害は生命の維持に関わるものではないため、医療業界において軽視されがちである。更年期障害で現れる症状は多種多様であるが、日本人の一般女性において、肩こり(62.1%)、頭痛(39.3%)、腰痛(35%)、冷え(29%)等の自覚症状が生じたと報告されている(非特許文献1)。
【0004】
ところで、先に言及した更年期障害の発症原因については、以下のように分類することができる。
【0005】
[ホルモン要因]
一般的に、女性は、40代に入ると卵巣機能が低下し始め、50歳前後で閉経を迎える(日本人女性の平均閉経年齢:49.5歳)。卵巣機能の低下に伴い、卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が減少すると、排卵中枢である視床下部や下垂体などが活発に働き、卵巣を刺激する。卵巣がそのような刺激に対しても反応しないと、視床下部は卵巣刺激ホルモンを出す。卵巣刺激ホルモンによってもエストロゲンは十分には分泌されないという現象が生ずると、ホルモン・バランスの乱れが生じ、これが視床下部や下垂体に混乱を生じさせる。混乱が生じた視床下部や下垂体の近傍には、自律神経系が存在するため、そのような混乱の影響により、自律神経系の異常、すなわち不定愁訴が生じる。
【0006】
[環境要因]
身近な人との人間関係の変化なども、不定愁訴をもたらすとされている。例えば、親などの介護の開始、夫の退職による夫との関係の変化、子供の自立や仕事上の立場の変化が、更年期障害発症の契機となる。
【0007】
[気質要因]
本人の性格も、更年期障害の発症やその程度に影響を与える。真面目で、几帳面で完全主義者の人が、更年期障害になりやすいとされている。
【0008】
このように、更年期障害の主因は、卵巣機能の衰退によるエストロゲンの産生低下であるが、これに環境要因や気質要因が加わり、症状の悪化が引き起こされる。その症状は、各種臓器に現れ、多様である。現在実施されている対処又は治療方法として、薬物療法であるホルモン補充療法(HRT)や漢方薬療法などが挙げられる。ホルモン補充療法は、産生が低下しているエストロゲンを補うものであるが、子宮内膜癌、乳癌、肝障害などの副作用が生じる場合もある。漢方薬療法は、副作用は殆ど現れないが、症状が強い患者に対しては、ホルモン補充療法と比べて効果が低い。また、これらの療法を併用する場合もある。
【0009】
エストロゲンは、子宮内膜などにも作用し、多くの遺伝子を発現させ、蛋白質を産生させることが知られている。エストロゲン応答遺伝子の一つとして、ラクトフェリン遺伝子が知られている。エストロゲンが存在すると、ラクトフェリンのメッセンジャーRNAの発現が300倍以上にまで増加することが知られている(非特許文献2)。一方、エストロゲン様活性を有するフィトエストロゲンの一種である大豆イソフラボンなどをマウスに摂取させても、ラクトフェリンの発現や効果は現れる場合とそうでない場合がある、すなわち、フィトエストロゲンの摂取による効果は不安定である、との報告もある(非特許文献3)。
【0010】
ラクトフェリンは、鉄結合性蛋白質である。1939年に、牛乳中におけるその存在が発見され、その後、ウシ以外の多くの哺乳動物の乳汁中に含まれていることが判明した。1960年には、牛乳及び人乳からはじめて純粋な蛋白質として分離され、1987年には、ベーカー等により、X線回折法によってその構造が決定された(非特許文献4)。ラクトフェリンは、その後、ヒトでは、乳汁はもとより、涙、鼻汁、唾液、気管支、子宮粘液、精液、胆汁、膵液などの外分泌液、血漿、尿、羊水などの体液、好中球の二次顆粒などからも分離された。このように、ラクトフェリンは体内に広く分布することから、いろいろな分野でその応用が検討されてきた。ラクトフェリンが示す効果について言及されている論文や特許文献を、次に挙げる。
【0011】
原田、林田及び竹内らは、ラットのフットパッドにフォルマリンを注射する痛覚刺激モデルを使い、髄腔内にウシラクトフェリン及び遺伝子組換えヒトラクトフェリンを注入すると、痛覚刺激によって惹起される反応が用量依存的に減弱すること、すなわち鎮痛効果が現れること、この鎮痛効果は、μオピオイドの拮抗物質であるナロキソンの同時投与により打ち消されることを報告した(非特許文献5)。さらに、彼らは、ラットの痛覚刺激モデルにおいて、鎮痛効果をまったく示さない微量のラクトフェリンをモルヒネと一緒に投与すると、モルヒネによる鎮痛効果が50乃至100倍増幅されること、ラクトフェリン及びモルヒネを持続点滴する条件下でラクトフェリンの鎮痛増幅効果は1週間後でも変化しないが、モルヒネの鎮痛効果は時間とともに減弱し、4日後には完全に消失することを報告した(非特許文献6)。つまり、ラクトフェリンは、それ自身が中枢性の鎮痛効果を示すのではなく、エンドルフィンのような内因性オピオイド及び外因性オピオイド(モルヒネ)の鎮痛効果を増幅するのである。しかも、ラクトフェリンは、痛みが発生している局所に適用しても疼痛を鎮めること、すなわち、中枢性疼痛だけでなく末梢性疼痛にも鎮痛増幅効果を示すことが確かめられた(非特許文献7)。
【0012】
究極の鎮痛剤として使われるモルヒネには、(1)投与を重ねるにつれて容易に薬剤耐性が誘発され、鎮痛効果が低下していくので、次第に増量せねばならない、(2)鎮痛効果が得られる最少投与量は、副作用が生じる投与量の10倍なので、必然的に副作用が生じる、という欠点があった。驚くべきことに、ラクトフェリンには、それ自体には薬剤耐性が誘発されないことに加え、モルヒネと併用するとその薬剤耐性発現を遅延させる作用があることもわかってきた(非特許文献8)。
【0013】
モルヒネのもう一つの欠点は、依存性を引き起こすことである。モルヒネは、多幸感、恍惚感を醸成するので、耽溺してしまう。実際、悲惨なモルヒネ依存症があとを絶たない。一方、内因性オピオイドにも耽溺誘発性があることが知られているが、生体内ではごく少量しか産生されないらしく、耽溺に陥ることは絶無である。ラクトフェリンは、モルヒネと同様に脳神経のμオピオイド受容体に作用するので、鎮痛とは異なる精神作用を示すことも確かである。一例をあげると、生後10日のラット新生仔を母親から引き離すと、仔ラットは母親を捜して動き回り、超音波の鳴き声で母親を呼ぶ。つまり、母親から引き離されたことが、精神的なストレスになって捜索行動を生じさせ且つ鳴き声をあげさせるのである。しかし、母親から引き離す前にラット新生仔にラクトフェリンを投与すると、捜索行動が減少し、鳴き声をあげる頻度も低下したことが報告されている(非特許文献9)。さらに興味深いのは、ラクトフェリンが母親のストレスをも緩和することである。母ラットは、毎日5時間、我が子から引き離されると、次第に常軌を逸した行動をとるようになった。しかし、引き離しに先立ってラクトフェリンを与え続けると、異常な行動が有意に抑制されたことが報告されている(非特許文献10)。
【0014】
また、ラクトフェリンは、骨粗鬆症に対して効果を示すことも報告されている(非特許文献11)。しかし、非特許文献5〜11には、更年期障害については言及されていない。
【0015】
本出願人は、「月経時のQOL改善に用いられるラクトフェリンを有効成分とする医薬組成物ならびに加工食品」に関する発明の特許出願を行った(特許文献1)。当該発明に係る医薬組成物ならびに加工食品を摂取することにより、ラクトフェリンによる月経痛軽減効果が得られ、これにより、月経時の生活の質(QOL)が改善される。しかし、特許文献1に開示されているのは、あくまでも、月経痛の軽減に伴うQOLの改善である。また、月経痛の原因は、エストロゲンによるCOX−2の活性化を起因とするPGE2の産生によるとされている。
【0016】
特許文献2には、「ラクトフェリンを有効成分として含有する卵巣機能改善剤」に関する発明が開示されている。特許文献2によると、ラクトフェリンは、経口投与により、卵胞細胞の減少を抑制する効果を示す。したがって、例えば抗癌化学療法による卵巣機能障害及びそれによって引き起こされる妊孕能の低下を抑制できるのである。特許文献2に、ラクトフェリンと更年期障害との関係は言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008―44879
【特許文献2】再表WO2009/101789
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Melissa K. Melby, Margaret Lock, Patricia Kaufert, Human Reproduction Update, 11巻, 5号, 495-512頁, 2005年
【非特許文献2】Pentecost BT, Teng CT,J. Biol. Chem.,262巻,10134-10139頁,1987年
【非特許文献3】Tansey G, Hughes CL Jr, Cline JM, Krummer A, Walmer DK, Schmoltzer S, Proc. Soc. Exp. Biol. Med.,217巻,340-344頁,1998年
【非特許文献4】Anderson BF, Baker HM, Dodson EJ, Norris GE, Rumball SV, Waters JM, Baker EN, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,84巻,1769-1773頁,1987年
【非特許文献5】Hayashida K, Takeuchi T, Shimizu H, Ando K, Harada E, Brain Res.,965巻,239-245頁,2003年
【非特許文献6】Hayashida K, Takeuchi T, Shimizu H, Ando K, Harada E, Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol.,285巻,R306-312頁,2003年
【非特許文献7】Hayashida K, Takeuchi T, Harada E, Eur. J. Pharmacol.,484巻,175-181頁,2004年
【非特許文献8】Tsuchiya T, Takeuchi T, Hayashida K, Shimizu H, Ando K, Harada E, Brain Res.,1068巻,102-108頁,2006年
【非特許文献9】Takeuchi T, Hayashida K, Inagaki H, Kuwahara M, Tsubone H, Harada E, Brain Res.,979巻,216-224頁,2003年
【非特許文献10】Kanemori N, Takeuchi T, Hayashida K, Harada E, Brain Res.,1029巻,34-40頁,2004年
【非特許文献11】Blais A等, Am. J. Physiol. Endocrinol Metab.,296巻,E1281-1288頁,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
更年期障害に対する現在の対処又は治療方法の中、最も効果の高いホルモン補充療法(HRT)は、副作用が出やすく、その副作用のためにQOLが損なわれることもある。また、漢方薬療法は、その効果が十分であるとはいえない。したがって、これらの従来の方法に代わる、又は、従来方法との併用によって、更年期障害時の諸症状を改善し、それに伴いQOLを改善できる手段の提供が、強く求められている。また、求められている手段は、どのような観点からもQOLを損なわないものであって、しかも、経済的な負担が小さいものであることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、長年にわたり、ラクトフェリンの作用について研究を重ねてきた。そして、前記の非特許文献9及び10における報告から、ラクトフェリンが親子引き離しに起因するストレスを緩和する効果を示す可能性があることに気が付いた。そして、本発明者等は、更年期障害の三大要因の中、人間関係に影響される「環境要因」と本人の性格に基づく「気質要因」に起因する不安やストレスが克服又は軽減されれば、更年期障害時の諸症状も克服又は軽減できる可能性があると考え、そのような不安やストレスの解消に、ラクトフェリンが有効であるかもしれないと考えた。その後、ラクトフェリンが更年期障害改善効果を示すか否かについて研究を行い、本発明を完成した。
【0021】
すなわち本発明は、ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする更年期障害改善用医薬組成物に関する。この医薬組成物は、例えばラクトフェリンの腸溶性製剤である。ここで、「医薬組成物」は、ヒト用に限定されず、ペットや家畜として飼育されている犬や猫などの哺乳動物用の医薬組成物を含む。このような医薬組成物のヒトに対する投与量は、ラクトフェリンの量に換算して、好ましくは10mg乃至15,000mg/日である。
【0022】
また、本発明は、ラクトフェリンを摂取させることを含む、更年期障害時の生活の質の改善方法に関する。ラクトフェリンを摂取させる、すなわち投与の対象は、哺乳動物、特にペットや家畜として飼育されている犬や猫などの哺乳動物(ヒトを除く)である。ラクトフェリンは、例えば経口摂取、好ましくは腸溶性製剤の形態で経口摂取させる。この方法の実施に際し、ラクトフェリンの1日あたりの摂取量は、好ましくは0.2mg乃至300mg/kg体重/日である。
【0023】
さらに、本発明は、本発明の医薬組成物を含有することを特徴とする更年期障害改善用飲食物に関する。ここで、「飲食物」は、ヒト用に限定されず、ペットや家畜として飼育されている犬や猫などの哺乳動物用の餌料を含む。また、「飲食物」の概念には、通常の飲料や食品の他、いわゆるサプリメントや健康食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、特定保健用食品などが包含される。「飲料」の概念には、液体のみならず、摂取直前に水などの液体に混合又は溶解されて摂取される、粉末、顆粒、錠剤などの形態のものも包含される。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、更年期障害改善に有効な医薬組成物ならびに飲食物が提供される。また、本発明により、更年期障害時のQOLの改善方法が提供される。
【0025】
本発明の医薬組成物及び飲食物の有効成分であるラクトフェリンは、いろいろな哺乳動物の乳汁中に含まれていると共に、ヒトでは、涙、鼻汁、唾液などの外分泌液や、血漿、尿、羊水などの体液にも含まれている蛋白質である。したがって、本発明の医薬組成物及び飲食物は、安全性が非常に高い。
【0026】
本発明の医薬組成物ならびに飲食物は、従来の更年期障害の治療方法によって改善されなかったケースについても改善効果があり、また、単独での投与・摂取でも従来の通常の治療と同じ症状以上のものに改善効果がある。したがって、本発明に係る医薬組成物ならびに飲食物を用いた更年期障害改善方法を実施することにより、副作用のおそれがあるホルモン補充療法を止めたり、ホルモン摂取量を低減することができる。また、漢方薬療法を実施しているが、その効果が十分ではなかった患者については、本発明に係る医薬組成物ならびに飲食物を用いた更年期障害改善方法に代える又は本発明に係る医薬組成物ならびに飲食物を用いた更年期障害改善方法を併用することにより、更年期障害時のQOLも十分に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ラクトフェリンの摂取前後における「熱感」症状の自覚の程度を示すグラフである。
【図2】ラクトフェリンの摂取前後における「不眠」症状の自覚の程度を示すグラフである。
【図3】ラクトフェリンの摂取前後における「神経質・憂鬱」症状の自覚の程度を示すグラフである。
【図4】ラクトフェリンの摂取前後における「倦怠感」症状の自覚の程度を示すグラフである。
【図5】ラクトフェリンの摂取前後における「記憶障害」症状の自覚の程度を示すグラフである。
【図6】ラクトフェリンの摂取前後における「胸部症状」の自覚の程度を示すグラフである。
【図7】ラクトフェリンの摂取前後における「疼痛症状」の自覚の程度を示すグラフである。
【図8】ラクトフェリンの摂取前後における「知覚異常」症状の自覚の程度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の医薬組成物又は飲食物は、更年期障害改善に有効なものである。また、本発明は、更年期障害改善方法に関する。更年期は、閉経前後の5年間程度の期間を指す。その期間には、内分泌学的な変化、特に卵巣機能の低下によるエストロゲンの欠乏に起因して、様々の不快な症状が発現する。更年期障害と呼称されるそのような症状の具体例としては、のぼせ(ホットフラッシュ)、発汗、肩こり、ほてり、頭痛、易疲労感、腰痛、不眠などがある。
【0029】
本発明の医薬組成物の有効成分は、ラクトフェリンである。また、本発明の飲食物は、そのようなラクトフェリンを有効成分とする本発明の医薬組成物を含有するものである。本発明において使用されるラクトフェリンは、ラクトフェリンの生物活性があるものであればよい。その例を挙げると、ヒトを初めとする各種哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなど)から得られる天然のラクトフェリン(例えば、ウシの乳に含まれるウシラクトフェリン)、ラクトフェリンから常法によって鉄を除去したアポラクトフェリン、アポラクトフェリンに金属(鉄、銅、亜鉛、マンガンなど)イオンをキレートさせた金属飽和又は非飽和ラクトフェリン、遺伝子工学技術により生産されるラクトフェリン、これらのラクトフェリンにポリエチレングリコール鎖を結合させたものなどがある。なお、遺伝子工学技術により生産されるラクトフェリンには、改変されたラクトフェリン遺伝子に基づいて産生される組換え型ラクトフェリンのほか、トランスジェニック動物が泌乳するラクトフェリン、ラクトフェリンの活性フラグメントなどの機能的等価物も包含される。
【0030】
本発明では、上記のようなラクトフェリンの中から、1種又は2種以上の組合せを適宜選択して用いることができる。ラクトフェリンは公知の物質であるので、市販品を用いることができる。また、ラクトフェリンを含有する乳などから、公知の方法、例えばスルホン化担体を用いてラクトフェリンを精製する方法(特開平3−109400号公報)によって精製したラクトフェリンを使用することができる。さらに、用途によっては、乳などからの分画物であってラクトフェリンを高濃度で含有するもの(例えば、乳から糖類を除去した分画物)を使用することもできる。
【0031】
本発明の医薬組成物や飲食物は、ラクトフェリンを唯一の必須成分とするが、当該医薬組成物や飲食物は、所望により、製薬又は食品業界で公知の種々の成分や添加剤であって、ラクトフェリンと配合禁忌ではない成分や添加剤を含んでいてもよい。ラクトフェリンとの配合を避けることが好ましい成分の例としては、還元性の単糖類及び二糖類が挙げられる。ラクトフェリンのε−アミノ基とアミノカルボニル反応を生じ、蛋白質を変性させるからである。還元性の単糖の例としては、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒドなどのすべての単糖が挙げられ、還元性の二糖の例としては、アラビノース、マルトース、が挙げられる。
【0032】
本発明の医薬組成物や飲食物が含んでいてもよい添加剤としては、製薬又は食品業界で日常的に使用されている賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、香料などを挙げることができる。これらの添加剤は、所望の剤型に応じて、適宜選択される。
【0033】
本発明の医薬組成物や飲食物の形態は、特に限定されない。したがって、本発明の医薬組成物や飲食物が、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの形態である場合には、ラクトフェリンと共に、一般的には澱粉、スクロース、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などの賦形剤を使用する。また、必要に応じ、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料などを適宜使用することができる。より具体的には、結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。また、崩壊剤としては、例えば、澱粉、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステルなどが、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが、流動性促進剤としては、無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが、それぞれ挙げられる。
【0034】
本発明の医薬組成物や飲食物の投与経路は、例えば、経口、経皮、注射、経腸、直腸内投与などである。本発明の医薬組成物や飲食物の好ましい形態は、経口投与用の腸溶性製剤である。ラクトフェリンをそのまま経口投与した場合、胃内で容易にペプシンにより消化分解されることが知られているからである。一方、ラクトフェリンの吸収作用部位は小腸を中心とする腸管に存在すると考えられているので、ラクトフェリンの効果を十分に発揮させるには、胃での消化分解を免れるような製剤的な工夫、例えば腸溶性製剤として、ラクトフェリンが分解されずに腸管まで届くようにすることが好ましいからである。
【0035】
ラクトフェリンを腸溶性製剤に加工する方法は、特に限定されない。例えば、先ず、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル或いは顆粒に加工し、それにコーティングを施して腸溶性とする。コーティング剤としては、pH4以下の酸性条件下では溶けにくく、pH5以上で溶解しやすいヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルローズ、酢酸フタール酸セルロース、メタクリル酸コポリマー、トウモロコシ由来のタンパク質であるツェイン(ゼイン)、天然油脂由来のシェラックなどが適宜用いられる。
【0036】
腸溶性製剤の使用以外で、ラクトフェリンを腸管まで届けることができる方法としては、脂質2重層からなるリポソーム製剤の使用が挙げられる。リポソーム製剤も、胃内で崩壊せず、小腸で胆汁により乳化、崩壊するので、ラクトフェリンを腸管の吸収部位にまで届けることができるのである。或いは、単純に胃内のpHを高くして、すなわちアルカリ剤を併用して、ラクトフェリンにペプシンが作用しなくなるようにする方法であってもよい。
【0037】
本発明の更年期障害改善方法は、ラクトフェリンを経口摂取することを含む。すなわち、経口摂取できる形態に加工・製剤化された、好ましくは経口腸溶性製剤とされた本発明に係る医薬組成物や飲食物を、経口摂取する。
【0038】
更年期障害の改善に有効なラクトフェリンの1日あたりの摂取量は、その製剤形態、投与方法、摂取者の体重などによって異なるが、ヒトでは、好ましくは10mg乃至15,000mg/日であり、より好ましくは50mg乃至6,000mg/日である。また、ペット等の哺乳動物(ヒトを除く)では、好ましくは0.2mg乃至300mg/kg体重/日である。
【0039】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。
【0040】
[実施例1] ラクトフェリン錠の製造
牛乳から抽出したラクトフェリン原末(蛋白質として純度95%以上;蛋白質中のラクトフェリンは90%以上)20kgに、乳糖45.6kg、結晶セルロース(商品名:アビセル)16kg、カルボキシメチルセルロース・カルシウム塩1.6kg、ショ糖脂肪酸エステル0.8kgを加え、得られた混合物をミキサーで粉砕し、100メッシュを通過する粉末とした。この混合粉末を打錠機により打錠して、長径8.5mm、重量210mgの錠剤とした。1錠中には、ラクトフェリン原末50mgが含有されている。
【0041】
[実施例2] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その1)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT−48N)に、実施例1で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、シェラック9.6質量%、L−アルギニン1.5質量%、ソルビトール1.9質量%、ショ糖脂肪酸エステル2.4質量%、エタノール4.8質量%、精製水79.8%よりなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で8〜9質量%の腸溶性コーティングを施して製品とした。
【0042】
[実施例3] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その2)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT−48N)に、実施例1で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、カルボキシメチルセルロース9質量%、グリセリン脂肪酸エステル1質量%、エタノール45質量%、塩化メチレン45質量%よりなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で12質量%の腸溶性コーティングを施して製品とした。
【0043】
[実施例4] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その3)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT−48N)に、実施例1で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、トウモロコシ穀粒から得られる蛋白質であるゼイン8質量部、グリセリン2質量部を、70質量%エタノール水溶液150質量部に溶解してなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で10質量%のコーティングが施されてなる錠剤を得た。
【0044】
[実施例5] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その4)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT−48N)に、実施例1で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、セラック30質量部、ヒマシ油7質量部をイソプロパノール63質量部に溶解してなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で10質量%のコーティングが施されてなる錠剤を得た。
【0045】
[試験例]
実施例1で製造した錠を用いて実施例2で製造した腸溶性ラクトフェリン錠を、ボランティアの被験者に経口摂取させ、更年期障害の自覚症状が改善するか否かを試験した。
【0046】
被験者は、本発明者らが所属する施設を受診し、更年期障害の治療を行っている患者である。被験者に対しては、倫理的配慮を行った。まず、これから行う説明の内容に関し、説明を受けた者は守秘義務を負う旨を説明した。次いで、研究の趣旨について文書を用いて説明し、同意書を手渡して、同意の得られた者を被験者とした。同意後でも同意の撤回が可能である旨を記載した文書を手渡し、また、同意を撤回しても不利益を被ることはないことを説明した。なお、本試験は、2009年12月1日に、株式会社NRLファーマの治験審査委員会審査を受けて実施した。
【0047】
(プロトコール)
本試験のプロトコールは、次のとおりであった。
(1)被験者は、試験開始前の更年期障害の自覚症状について、その程度(更年期スコア;日本女性医学会が制定)を記入した。
(2)被験者は、試験開始に先立ち、ラクトフェリンについて説明を受けた。先ず、ラクトフェリンが生体内で産生・分泌されること及びその機能の説明を受け、更年期障害の際にも現れるドライアイ(角膜乾燥症)、ドライマウス(口腔乾燥症)に対して効果があるとの説明を受けた。また、動物実験において、鎮痛効果が既に証明されているとの説明を受けた。この試験は、更年期障害に対して効果が得られるか否かを調査するためのものであり、現在行っている治療は継続してもよい旨の説明を受けた。
(3)被験者は、試験開始から3ヶ月間、与えられた腸溶性ラクトフェリン錠(1錠中にラクトフェリンを50mg含有)3錠を毎日摂取した(非盲検試験)。被験者は、朝、昼、晩の食前あるいは食後に各1錠を服用するか、又は、1日に一度、3錠を服用した。
(4)被験者は、試験終了直後に、更年期障害の自覚症状について、その程度(更年期スコア)を記入した。
【0048】
(評価)
被験者が更年期スコアを記入した症状は、熱感に関するもの(1.顔がほてる、2.上半身がほてる、3.のぼせる、4.汗をかきやすい)、不眠に関するもの(5.夜なかなか寝付けない、6.夜眠っていても目をさましやすい)、神経質・憂鬱感に関するもの(7.興奮しやすく、イライラすることが多い、8.いつも不安感がある、9.神経質である、10.くよくよし、憂鬱になることが多い)、倦怠感に関するもの(11.疲れやすい、12.目が疲れる)、記憶障害に関するもの(13.物事が覚えにくくなったり、物忘れが多い)、胸部症状に関するもの(14.胸がどきどきする、15.胸がしめつけられる)、疼痛症状に関するもの(16.頭が重かったり、度々頭痛に見まわれる、17.肩や首がこる、18.背中や腰が痛む、19.手足の節々(関節)に痛みがある)、知覚異常に関するもの(20.腰や手足が冷える、21.手足(指)がしびれる、22.音に敏感となっている)である。被験者は、ビジュアル・アナログ・スケール(VAS)に、各症状についてその強度(無乃至強)の位置に印を付けた。印の位置を、症状が無い場合を0とし且つ強い場合を10として、数値化した。
【0049】
[結果の統計処理方法]
データの解析は、統計ソフトJAMP8を用い、一元配置検定(カイ2乗近似)で処理した。平均値と標準誤差とを求めた。
【0050】
[結果]
被験者は、48歳乃至53歳の女性8名(平均値±標準偏差;50.25±2.05)であった。本試験開始前、全員がホルモン補充療法又は漢方薬治療を行っていた。結果を表1及び図1乃至8に示す。表1及び図1乃至8には、平均値±標準誤差の値を示した。なお、図1乃至8において、黒棒は試験開始前(「0か月」と表示)を、白棒は試験終了直後(「3か月」と表示)のデータを示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1及び図1乃至8から明らかなように、3ヶ月間のラクトフェリンの摂取により、すべての評価項目について症状が軽減され、試験開始前と比べてスコアの平均値が上昇した項目は一つもなかった。9項目(p<0.05が4項目、p<0.01が5項目)で有意に症状の軽減が見られた。したがって、ラクトフェリンは、更年期障害時の諸症状を改善する効果を示し、それにより、生活の質を改善することができる。
【0053】
また、この試験の実施中、副作用に関する報告はなかった。したがって、この試験で使用した腸溶性ラクトフェリン錠は、安全性が高いといえる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする更年期障害改善及びQOL改善用医薬組成物ならびに飲食物。
【請求項2】
経口製剤である、請求項1記載の医薬組成物ならびに飲食物。
【請求項3】
腸溶性製剤である、請求項1又は2記載の医薬組成物ならびに飲食物。
【請求項4】
ラクトフェリンの1日あたりの投与量が10mg乃至15,000mgである、請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物ならびに飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79218(P2013−79218A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220787(P2011−220787)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(599012167)株式会社NRLファーマ (18)
【Fターム(参考)】