説明

最も精密な光学品質を有するレンズ基材の表面に被覆層を転写する方法

【課題】少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法を提供する。
【解決手段】好適な実施例では、透明接着組成物は感圧接着剤およびホットメルト接着剤からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの被覆層をレンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面に転写する改善されたプロセスまたは方法に関し、レンズ基材の変形などの危険性がなく、短時間に実施でき、被覆層をレンズ基材に接着する際に液体硬化型接着組成物の使用を避けることができ、その結果、厚みが均一な接着層を介して被覆層をレンズ基材に接着させることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この分野では、最終製品のレンズの光学的または機械的特性を増強または改善するために、眼科用レンズ、またはレンズブランクなどのレンズ基材の少なくとも1つの主面に、複数の被覆層をコーティングすることが一般的に行われている。これらの被覆層は、一般に機能被覆層と称される。
【0003】
従って、一般に有機ガラス材料で作製されるレンズ基材の少なくとも1つの主面を、レンズ基材の表面から始まって、順次に、耐衝撃性被覆層(耐衝撃性プライマー層)、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層(ハードコート)、反射防止被覆層、および、場合によっては設けられる防汚性トップコート層で被覆することが通常の方法である。また、偏光被覆層、フォトクロミックまたは染色被覆層などの他の被覆層をレンズ基材の片面、または両面に適用することもある。
【0004】
眼科用レンズの表面を被覆する方法としては、数多くのプロセスおよび方法の提案および開示が行われている。
【0005】
特許文献1に記載されている方法は、少なくとも1つの成形部分からレンズブランクの少なくとも1つの幾何学的に定義される面へ、被覆層を転写するプロセスまたは方法であって、
少なくとも1つの幾何学的に定義された面を有するレンズブランクを準備し、
被覆層を担持する内側面と、外側面とを有する支持体、または成形部分を準備し、
レンズブランクの幾何学的に定義された面、または被覆層の上に予備測定された量の硬化型接着組成物を成膜し、
被覆層を硬化型接着組成物に接触させる、または前記硬化型接着組成物をレンズブランクの幾何学的に定義される面に接触させるように、レンズブランクと支持体とを互いに相対的に移動させ、
硬化型組成物が硬化した後の最終接着層の厚みが100マイクロメータ未満になるように、支持体の外側面へ十分な圧力を適用し、
接着組成物の層を硬化させ、
支持体または成形部分を廃棄して、その幾何学的に定義される面に被覆層を接着したレンズブランクを回収する。
【0006】
特許文献1では、液状、光または熱硬化型組成物を用いて、担体からレンズ基材の表面に被覆層を転写する。液体硬化型接着組成物は担体上に露出した被覆層と、レンズ基材の幾何学的に定義される面との両方に接着させる必要がある。この方法は、液体接着剤の過多過少の何れも避け、液体接着組成物を正確に滴下する必要があるので、それによってプロセスが複雑になり、費用効率が下がる。さらに、この方法は、液体接着剤をレンズの曲面に非常に均一に拡がらないと光学的な歪を起こす可能性がある。特に、空気圧力(空気圧膜装置)を用いて液体接着組成物を拡げる場合は、適用された圧力が、必ずしも均一に担体の表面全体に行きわたるわけではなく、その結果、液体接着組成物が不均一に拡がり、最終硬化後の接着層の厚みにばらつきが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,562,466号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の1つの目的は、担体からレンズ基材の幾何学的に定義された面へ少なくとも1つの被覆層を転写するプロセスまたは方法であって、先行技術の上述の欠点を防止し、特に、流動可能な液体硬化型接着組成物の使用を避けるプロセスまたは方法を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、非常に均一な厚みの接着層を介して被覆層がレンズ基材表面に接着するようにレンズ表面を被覆するための上記のようなプロセスまたは方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法であって、
(a)少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する担体を得る工程と、
(b)少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材を得る工程と、
(c)前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかの上に、透明接着組成物を成膜する工程と、
(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、前記層を流動不可状態にする工程と、
(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面、または前記少なくとも1つの機能被覆層のいずれかに直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに相対的に移動させる工程と、
(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかと共に加圧する工程と、
(g)場合によっては設けられる、加圧工程(f)の間に熱を加える工程と、
(h)加圧工程(f)を停止する工程と
(i)前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程とを備える方法が提供される。
【0011】
本発明の1つの実施態様では、担体、好ましくは可撓性担体の主面は複数の機能被覆層の積層を担持する。いうまでもないが、これらの被覆層は、レンズ基材で所望する被覆層の積層の順番に対して、その逆順に担体の表面に適用される。
【0012】
好ましくは、少なくとも1つの機能被覆層は、レンズ基材の裏面の幾何学的に定義される面上に転写される。この被覆層転写プロセスをBST(裏面側転写)プロセスという。いうまでもないが、レンズ基材の表面、または表面と裏面の両方の幾何学的に定義される面を本発明の方法を用いて被覆することができる。レンズ基材の裏面(一般には凹面)は、レンズ基材の面の内、使用時に使用者の眼にもっとも近接する面である。レンズ基材の表面(一般には凸面)は、レンズ基材の面の内、使用時に使用者の眼から最も遠くなる面である。
【0013】
本発明の方法によって取扱うことができる眼科用品は、好ましくは透明ポリマー基材を含む完成品、または半完成品である。
【0014】
本発明において被覆対象となるレンズ基材の幾何学的に定義される面は、適合する球面状の可撓性担体の採用が可能であれば、球面状、円環状、または累進状の面でよい。
【0015】
また、担体が担持する機能被覆層またはレンズ基材の幾何学的に定義される面のいずれかの上に透明接着組成物層が予め成膜され、その膜が流動不可能な状態にされているケースも本発明の範囲に含む。なおその場合は、該透明接着組成膜層は保存されて、後で、本発明のステップe)〜i)において用いられる。
【0016】
本発明の方法の1つの好ましい実施態様では、透明接着組成物は、感圧接着剤(PSA)およびホットメルト接着剤(HMA)からなる群から選択される。
【0017】
本発明の他の目的、特徴、および利点については以下に詳しく記載する。なお、詳細な説明および個々の実施例は、本発明の特定の実施態様を示しているとしても、例示として挙げているに過ぎない。以下の詳細な記載から、本発明の要旨および範囲を逸脱することなく各種の変更や修正を行うことができることは当業者には明らかであろう。
【0018】
上述の本発明の目的、特徴、および利点を当業者がより理解するために、以下に添付の図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1A〜1Cは、少なくとも1つの被覆層をレンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面に転写する本発明の方法の、透明接着組成物の層が少なくとも1つの機能被覆層上に成膜される第1の実施態様の主な工程を示す概略図である。
【図2】図2A〜2Cは、透明接着組成物の層がレンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に成膜される本発明の方法の第2の実施態様の主な工程を示す概略図である。
【図3】図3は、レンズ基材の透明接着組成物の層の厚みのばらつきを示すマップ図である。このレンズ基材にはこの透明接着組成物の層を介して機能被覆層の積層が被覆されている。透明接着組成物の層は、機能被覆層の積層を担持する主面を有する担体上に成膜されている。この被覆層の積層は、本発明の方法に従って、レンズ基材の表面に転写されている。図3は実施例1に関連する。
【図4】図4はレンズ基材の接着層の厚みのばらつきを示すマップである。レンズ基材には、この接着層を介して機能被覆層の積層が被覆されている。この接着層は、先行技術の方法により液体硬化型接着組成物から得られたものである。図4は比較例1に関連する。
【図5】図5は、本発明に係る透明接着組成物の層の厚み測定方法に関する図である。図はレンズ基材全体の表面に成膜された例を示す。この測定方法は実施例1および比較例1において用いられる。
【図6】図6は被覆担体の上に、PSA被覆ライナーを用いてPSA層を適用するための支持要素を形成する方法の概略を図示したものである。
【図7】図7はPSA層をPSA層被覆ライナーから担体に転写するために適した機器の概略図である。
【図8】図8はPSA層被覆ライナーから担体へPSA層を転写する方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願では、担体のベースカーブと称する場合はその担体の作用面のベースカーブを意味する。すなわち、担体を廃棄した後に、レンズ基材の幾何学的に定義される面に転写されるべき被覆層を担持する面のベースカーブを意味する。
【0021】
同様に、レンズ基材のベースカーブは、転写される被覆層を担持する表面のベースカーブを意味する。本出願では、ベースカーブは次のように定義される。
【0022】
曲率半径Rを有する球面状の面の場合は、ベースカーブ(またはベース)=530/R(Rの単位はmm)である。このような定義はこの分野では従来からある定義である。
円環状の面の場合:円環状の面は、2つの主な経線である半径Rおよびr(R>r)を持つ。この円環状の面を定義する曲率半径Rおよびrに各々対応する2つのベースカーブBLRおよびBLr(BLR<BLr)を計算することができる。
【0023】
ベースカーブ(またはベース)は530/曲率半径(単位mm)の比として定義される。従って、
BLR=530/R およびBLr=530/r
Rおよびrの単位はmmである。
本発明に用いる担体は球面状であり、ベースカーブBCを有することが好ましい。
上記の円環状面のベースカーブBLRおよびBLrと、担体のベースカーブBCは、以下の関係を満たすことが好ましい。
a) BLr−BLR<3.5の場合は、
0<BC−BLR<3、および|BC−BLr|<1、
好ましくは、
0.2<BC−BLR<2.5、および|BC−BLr|<0.5
b) BLr−BLR>3.5の場合は、
BLR<BC<BLr
【0024】
剛性の担体を用いる場合は、担体のベースカーブはレンズ基材のベースカーブと同じであることが好ましい。
【0025】
担体とレンズ基材とを互いに相対的に移動する時は、担体の中心部にまず圧力を加え、次のステップで、圧力をレンズ基材の周辺部に向けて半径方向に増加することが好ましい。
【0026】
可撓性担体を用いて、レンズ基材の裏面に被覆層を転写する場合は、担体の凸面の表面の曲率半径が、コーティングを施すレンズ基材の凹面の曲率半径よりも短い場合がある。
【0027】
圧力を中心に加え、レンズ基材の幾何学的に定義される面に適合するように、担体を変形させる。
【0028】
担体の直径は、レンズブランクの直径より大きい場合も、レンズブランクの直径より小さい場合もある。
【0029】
本発明の方法に用いるレンズ基材は、任意の透明基材でよく、光学分野において通常用いられる任意の可塑材料の透明基材が好ましい。レンズ基材は、通常、レンズまたはレンズブランクであり、好ましくは、眼科用レンズ、またはレンズブランクであり、更に好ましくはレンズブランクである。透明可塑性材料で作製されたレンズブランクなどの眼科用レンズブランクの主面は、従来の方法で、表面機械処理が施される。
【0030】
この機械的処理は、完全に研磨された、所望の曲率(光学倍率)を有する主面を持つレンズブランクを製造するための一連の操作を含む。
【0031】
機械的処理は、一般に、研削、精密研削(ファイニングともいう)、および研磨の3つの連続する工程を含む。
研削は、レンズブランクの面に曲率を生成することを目的とする機械的処理工程である。
研削の後に行われる精密研削(ファイニング)は、レンズブランクの研削処理後の面の幾何学的形状を更に変化させるが、処理を施した面にまだかなりの表面粗さを示す、半透明のレンズブランクを生成する。
【0032】
最終工程の研磨は、比較的長い機械的処理工程であって、精密研削処理後の面の幾何学的形状は変化させないが、残っている粗さを可能な限り取り除き、最終の透明レンズブランクを作成する。本発明で用いるレンズ基材は研磨処理を行う場合と、研磨処理を行わずに精密研削だけを行う場合がある。
【0033】
本発明で用いられるレンズブランクは、表面加工または鋳造により所望の幾何学的形状が両面に施された完成レンズであってもよい。これは一般には、所望の表面形状を有する2つの成形型の間に重合性組成物を注ぎ込み、重合させることによって作製される。また、レンズブランクは、製造されたレンズブランクの1つの主面だけに表面加工または鋳造を行い所望の形状になされた半完成レンズであってもよい。その場合、レンズの1つの面、好ましくはレンズの表側の面が既に適切な被覆層(反射防止、ハードコート層、プライマーコート層、耐衝撃性被覆層など)で処理され、残りの面、好ましくはレンズの裏面が本発明の方法を用いて被覆されることが好ましい。その第2面は、その後、必要に応じて表面仕上げが施される。レンズブランクは、また、偏光レンズまたはフォトクロミックレンズであってもよい。
【0034】
コーティングの転写先となる、レンズ基材の幾何学的に定義される面(好ましくは裏(凹)面)は、球面状、円環状、または累進面であってよい。レンズ基材の幾何学的に定義される面とは、光学面、すなわち所望の幾何学形状と滑らかさを有する面、または所望の幾何学形状を有するが、ある程度の粗さを有する面、つまり研削および精密研削が施されているが研磨は施されていない面のいずれかを意味する。
【0035】
精密研削が施されているが、研磨は施されていないレンズ基材の表面の状態もRqによって表現することができる。一般に、精密研削後の面のRqは0.01μmより大きく、好ましくは0.01μm〜0.5μmの範囲であり、更に好ましくは、0.05〜0.25μmの範囲である。一般に、レンズブランクの研磨後の表面粗さRqは0.01μm未満、好ましくはおよそ0.005μmである。Rqは以下の様に求められる。
【0036】
好ましくはTAYLOR HOBSON FTS(Talysurfシリーズ2)粗面計/表面粗さ測定システムを用いて、表面の根二乗平均側面高さRq(2DRq)(上記で、表面粗さRqとも呼ばれているもの)を求める。このシステムは、レーザヘッド(例えば、製品参照番号112/2033−541)および半径2mmの球形/円錐形のヘッドを持つ70mm長のすきまゲージ(製品参照番号112/1836)を備える。システムは選択された部分の面の二次元プロフィールを測定し、曲線Z=f(x)を求める。プロフィールは20mm以上の距離にわたって取得する。このプロフィールから各種表面特性、特にその形状、起伏、および粗さを抽出することができる。
【0037】
このように、Rqを求めるには、プロフィールに形状抽出およびフィルタリングの2種類の異なるプロセスを実施する。フィルタリングは直線抽出に相当する。
このようなパラメータRqは以下の工程により求められる。
−プロフィールZ=f(x)の取得、
−形状抽出、
−フィルタリング(直線抽出)、および
−パラメータRqの決定
【0038】
プロフィール取得工程は、上述のシステムの蝕針を対象となるレンズ表面上で移動させ、表面の高度Zを、変位xの関数として保存する。形状抽出工程では、前工程で取得したプロフィールを理想球体、すなわち、その球体に対して最小のプロフィール差を有する球体に関連付ける。ここで選択したモードはLSアークモード(最良円弧抽出)である。これにより、その面のプロフィールの起伏および粗さの特性を表す曲線が提供される。フィルタリング工程では、所定の波長に対応する欠陥だけを残す。この目的は、欠陥の1つの形態である起伏を除外することであり、表面粗さによる欠陥の波長よりも高い波長を持つ欠陥を除外する。フィルタはGaussian型、カットオフ値は0.25mmを用いる。
【0039】
Rqは次の式を用いて得る曲線から求める。
【数1】

ここで、Znは、フィルタリング中に算出される、各点の平均線に対する代数差Zである。
【0040】
レンズ基材の表面は裸面、すなわち、何も被覆層が成膜されていない表面であってもよく、あるいは、1つまたはそれ以上の被覆層、特にプライマー被覆層によって被覆されていてもよい。
【0041】
レンズ基材は無機ガラスまたは有機ガラスで作製することができるが、有機ガラスで作製されることが好ましい。有機ガラスは、ポリカーボネートおよび熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性材料またはジエチレングリコール ビス(アリルカーボネート)ポリマーおよび共重合体(特に、PPG Industries社のCR39(R))、熱硬化性ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピスルフィド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリチオ(メタ)アクリレート、ならびにそれらの共重合体およびそれらの配合物などの熱硬化性(架橋)材料のいずれでもよい。レンズ基材に好適な材料は、ポリカーボネート、およびジエチレングリコール ビス(アリルカーボネート)共重合体であり、特にポリカーボネートで作製された基材が好ましい。
【0042】
被覆対象となるレンズ基材の幾何学的に定義される面は、透明接着組成物層の接着を促進するように前処理が施されることが好ましい。溶媒処理、NaOH処理、またはコロナ放電処理などの任意の物理的、または化学的接着促進前処理ステップを用いることができる。被覆対象となるレンズ基材の幾何学的に定義される面はコロナ放電による前処理が施されていることが好ましい。
【0043】
透明接着組成物の層は、担体が担持する被覆層または被覆層の積層、あるいは被覆層の転写先のレンズ基材の幾何学的に定義される面のいずれの面上に形成されていてもよいが、担体の被覆層または被覆層の積層の上が好ましい。
【0044】
本発明の方法の重要な特徴の1つは、透明接着組成物の層が、成膜工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、その層を流動不可状態にすることである。これは、少なくとも移動工程(e)および加圧工程(f)の前には、透明接着組成物層が、必要に応じ、予備硬化または乾燥して、特に本発明の加圧工程および任意の加熱工程の際に層が有意に拡がることのないような硬化状態に達していることを意味する。回収された(最終)被覆レンズ基材の透明接着組成物層の厚みは、機能被覆層またはレンズ基材の幾何学的に定義される面上に最初に成膜された乾燥透明接着組成物層の厚みに比べて非常にわずかな差しかないが、接着層の硬化(流動不可)状態が、プロセス中の押圧、および場合によっては加熱に際しても、その層がレンズ基材表面上に流れることはないような状態になっている。
【0045】
もう1つの重要な特徴は、透明接着組成物の層と、その接着層と接触する表面との間に直接接触があることである。特に、透明接着組成物の層と、その接着層と接触する表面との間に、液体層、特に水を主体とした液体が存在しない。
【0046】
1つの好適実施態様では、本発明の方法により回収した被覆レンズ基材は、その透明接着組成物の層の厚みが均一である。均一な厚みであるということは、層面積の全体にわたり厚みが本質的に一定であり、層の厚みのばらつきによる最終レンズの光学倍率への影響がないことを意味する。
【0047】
詳細には、レンズ曲線の形状が球面状、円環状、または累進状のいずれであっても、層の最大厚みと最小厚みの差が2.0μm以下、好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.65μm以下であるときに層の厚みが均一であると考えられる。接着剤の層が事前に均一に貼り付けられていることにより、被覆層の転写プロセスにより起こる可能性のある光学歪のリスクを大きく低減している。従って、非常に精密な光学品質の累進面を有するレンズを含め、あらゆる種類の光学倍率のレンズ上に被覆層を転写することが可能である。
【0048】
一般に、処理条件下で流動不可能な状態にされた透明接着組成物の層の厚みは、0.5〜20μm、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜5μmであり、更に好ましくは1〜3μmである。透明接着組成物層の成膜は、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、またはドライトランスファー法など任意の公知の方法によって実施することができるが、スピンコート法が好ましい。透明接着組成物は、上述のコーティング法により適用することができ、層を処理条件下で流動不可状態にすることができるものであれば、任意の種類のものでよい。透明接着組成物は好ましくは、感圧接着剤(PSA)およびホットメルト接着剤(HMA)からなる群から選択される。
【0049】
「感圧接着剤」(または、「自動硬化接着剤」と呼ばれることもある)とは、接着剤の1つの明確なカテゴリを意味する。PSAは室温または使用温度のときに、乾燥状態(溶媒を含まない)においても粘着性が強力で永久的である。これらは、表面とファンデルワールス結合を形成することによって、僅かな圧力下で各種の異なる表面に強固に接着する能力を持つことを特徴とする。いかなる場合も、接着結合を形成するのに圧力以外の、他の外的エネルギー(例えば、温度、溶媒、紫外線)を必要としない。しかしながら、他のエネルギーを用いて接着性能を強化してもよい。他の条件としては、PSAは、剥がすときに、その表面に残留物を残さず除去可能であるように、十分な凝集力を備えることが要求される。PSAは、溶剤型形態、水性型形態(ラテックス)、およびホットメルト処理により得られる形態の3つの形態がある。本発明に係る乾燥および流動不可PSA層は、液体形態を均一に塗布することによって、あるいは事前に形成された乾燥層をレンズ基材の幾何学的に定義される面上または機能被覆層上に転写することによって形成することができる。液体の場合はその後、成膜した層を熱によって乾燥し流動不可状態にする。通常、加熱は、40℃〜130℃の温度範囲で実施される。
【0050】
「ホットメルト接着剤」とは、室温では固体であるが可撓性のある接着剤で、加熱すると溶融または粘性低下し、冷却すると急速に硬化して結合する接着剤を意味する。好ましくは本発明で用いるHMAは、初期に非常に厳格な条件下で積層されるので加熱工程(g)の後であっても流動可能ではない。被覆層が転写された時の、最終レンズの接着層の厚みのばらつきは、通常2ミクロン未満である。
【0051】
反応性HMAを除いて、HMAは加熱による軟化、冷却による硬化(熱可塑性HMA)を繰返すことができる。反応性HMAは従来のHMAのように用いられるが、架橋して永久的、非再溶融結合を形成する。シロキサン、または水などの添加剤を用いて架橋結合を形成することができる。HMAの1つの重要な特性は、適用温度から冷却したときに、通常の周囲条件下で非常に急速に、好ましくはほぼ瞬時に、固体化、凝結、または「硬化」することである。HMAには、乾燥形態、溶剤型形態、およびラテックスを主体とした形態がある。本発明に係る乾燥および流動不可な層は、レンズ基材の幾何学的に定義される面上、または機能被覆層上のいずれかに液体形態を均一に塗布することによって形成することできる。その後、成膜された液体ラテックス層を加熱して流動不可状態まで乾燥させる。通常、加熱は、40℃〜130℃の温度範囲で実施される。乾燥形態を用いる場合は、容易に流動する温度まで加熱し、レンズ基材の幾何学的に定義される面上、または機能被覆層上のいずれかに塗布する。ホットメルト用押出し機、またはダイス面を用いて所定の位置に押出してもよい。
【0052】
工程(g)は、加圧工程(f)中に加熱する工程である。加える熱は、50〜120℃(粘着温度)の範囲が好ましい。HMAの場合、良好な粘着性を得るために加熱条件および加熱時間は非常に重要である。
【0053】
この分野では公知であるが、ポリマーまたはポリマー配合物が、ここで定義するPSAまたはHMAの特性を有しない場合に、少量の添加剤を混和することにより、PSAまたはHMAとして機能することができる。いくつかの実施態様では、本発明の透明接着組成物は、ポリマー材料の他、粘着付与剤、好ましくは粘着付与樹脂、可塑剤、希釈剤、ワックス、液体油を含み、また粘着性、レオロジー特性(粘性、揺変性などを含む)、接着結合強度特性、「硬化」速度、低温可撓性、色、臭いなどを調整するその他の各種成分を含む。そのような可塑剤または粘着付与剤は、ポリマー配合物と相溶性のあるものが好ましく、脂肪族炭化水素、脂肪族および芳香族混合炭化水素、芳香族炭化水素、水素添加エステルおよびポリテルペンなどが挙げられる。
【0054】
好適な実施態様では、透明接着組成物はレンズ基材の幾何学的に定義される面、および/または転写対象となる機能被覆層、特に耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層との接着性を促進するために、有効量のカプリング剤(以下に定義する)を含むこともある。また、透明接着組成物は、従来の着色料またはフォトクロミック色素も含むこともある。
【0055】
PSA系列は接着剤の組成に用いられる主エラストマに従って分類される。主な系列は、天然ゴムを主体としたPSA、ポリアクリレートを主体としたPSA(ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリn−ブチルアクリレートなど)、スチレンブロック共重合体を主体としたPSA(スチレン−イソプレン(SI)、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)、スチレン−ブタジエン(SB)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)など)、およびそれらの混合物がある。スチレン−ブタジエンランダム共重合体、ブチルゴム、ポリイソブチレン、ケイ素ポリマー、合成ポリイソプレン、ポリウレタン、ポリビニルエチルエステル、ポリビニルピロリドン、およびそれらの混合物もPSA組成物の主体として用いられる。例えば、参照としてここに組み込まれるSobieski et al., Handbook of Pressure−Sensitive Adhesive Technology、 2nd ed.,(ソビエスキ他著の感圧性接着剤技術ハンドブック、第2版)頁508〜517(D. Satas, ed.(D.サタス編))、 Van Nostrand Reinhold, New York (1989)に例示されている。
本発明に用いられるPSAは好ましくは、ポリアクリレートを主体としたPSAおよびスチレンブロック共重合体を主体としたPSAから選択される。
【0056】
HMAの組成に用いることができるポリマーの例としては、無溶媒ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンおよび他のオレフィン系ポリマー、ポリウレタン、ポリビニル ピロリドン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリル系、それらの他の共重合体、およびそれらの混合物が挙げられる。本発明に係るホットメルト接着剤は好ましくは、Zeneca社から商品名Acrylic latex A−639として市販されているアクリルラテックスなどの、乾燥ポリ(メタ)アクリルラテックス、Baxenden社から商品名W−240およびW−234として市販されているラテックスなどの乾燥ポリウレタンラテックス、乾燥ポリエステルラテックス、およびそれらの混合物から選択される。好適なラテックスは、ポリウレタンラテックスである。他の好適なラテックスは、エシロール社の米国特許第6,503,631号に記載のものなどのコア/シェルラテックスであり、特に、ブチルアクリレートまたはブチルメタクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートを主体としたラテックスである。
【0057】
転写する被覆層を担持する担体は、剛性、または可撓性担体である。好ましくは可撓性担体である。可撓性担体は除去可能な担体、すなわち、被覆層転写工程の終了時に除去することが意図されている担体であって、その工程の完了後は被覆層、または被覆層の積層だけがレンズ基材の幾何学的に定義される面に転写される。好適な可撓性担体は、可塑材料、特に熱可塑材料で作製される薄い支持要素であり得る。担体を形成するために用いることができる熱可塑性ポリマー(および共重合体)の例としては、ポリスルホン、メチルポリ(メタ)アクリレートなどの脂肪族ポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、SBM(スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート)ブロック共重合体、ポリフェニレンスルフィド、アリーレンポリオキシド、ポリイミド、ポリエステル、ビスフェノールAポリカーボネートなどのポリカーボネート、PVC、ナイロンなどのポリアミド、それらの他の共重合体、およびそれらの混合物が挙げられる。好ましい熱可塑材料はポリカーボネートである。このような除去可能な可撓性担体の厚みは、一般に、0.2〜5mmであり、好ましくは0.5〜2mmである。
【0058】
通常の機能被覆層は、公知であるが、防汚性トップコート層、反射防止被覆層、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層、耐衝撃性被覆層、偏光被覆層、フォトクロミック被覆層、着色被覆層、プリント層、微細構造層を含む。好ましくは、本発明で用いられる機能被覆層は、防汚性トップコート層、反射防止被覆層、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層、および耐衝撃性被覆層からなる群から選択される。一般に、担体の主面は複数の機能被覆層の積層を担持する。理想的には、この複数の機能被覆層の積層は、担体主面から始まって、防汚性トップコート層、反射防止被覆層(AR被覆層)層、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層(ハードコート)層、および、場合によっては設けられる耐衝撃性プライマー被覆層を、この記載順(光学製品上の最終順序はこの逆)に担持する。なお、透明接着組成物層が耐衝撃性プライマー被覆層として機能することが有利である。次に、透明接着組成物層は、以下に記載する、Tgが30℃未満などの耐衝撃性プライマー被覆層の好適な条件を満たすことが好ましい。
【0059】
また、被覆層または積層の最も外側の被覆層は、それを保護するように機能して本発明の工程を実施する前には除去されるような保護および剥離性被覆層をコーティングしてもよい。
【0060】
最終光学製品においてレンズ基材の最も外側の被覆層を構成する、防汚性トップコート層は、最終光学製品の特に反射防止被覆層の耐汚れ性能を改善させることを意図している。
【0061】
先行技術により公知であるように、防汚性トップコート層は、脱イオン水に対する静的接触角が少なくとも60°であり、好ましくは、少なくとも75°、より好ましくは少なくとも90°、更に好ましくは少なくとも100°の層である。静的接触角は、光学製品上に直径2mmより小さい水滴を形成してその接点角を測定する液滴法により決定される。
【0062】
本発明に用いられる好ましい防汚性トップコート層は、14mジュール/m未満の表面エネルギーをもつものである。本発明は、表面エネルギーが13mジュール/m未満、および更に好ましくは12mジュール/mの防汚性トップコート層を用いると利点がある。
【0063】
ここに示した表面エネルギーの値は、Owens D.K. Wendt R.G.著「ポリマーの表面力エネルギー概算」(J. Appl. Polym. Sci.,1969,51,1741〜1747)に記載されるオーエンス(Owens)ウェンツ(Wendt)法に準じて算出される。
【0064】
このような防汚性トップコート層は、当技術分野において周知であり、通常フルオロシリコーンまたはフルオロシラザン、すなわちフッ素含有基を持つシリコーンまたはシラザンで作製され、これらは疎水性および疎油性の両方を有する。好ましい防汚性トップコート層材料の例としては、商品名KP801Mとして信越化学工業(Shin Etsu)から市販されている製品が挙げられる。
【0065】
このトップコート層はどのような種類の成膜方法を用いて担体上に成膜してもよいが、好ましくは、熱蒸着技術を用いる。
防汚性被覆層の厚みは通常1〜30nm、好ましくは1〜15nm、より好ましくは1〜5nmである。
反射防止被覆層およびその形成方法は当技術分野では周知である。最終光学製品の反射防止性能を改善させるものであれば、いかなる層または積層であってもよい。反射防止被覆層は、好ましくは、SiO、SiOSi、TiO、ZrO、Al、MgFまたはTa、またはそれらの混合物などの誘電体からなる単層膜または多層膜からなる。
【0066】
反射防止被覆層は、特に、以下の技術の1つによる真空成膜法により貼り付けることができる。
1)−場合によってはイオンビームアシストを行う、蒸着
2)−イオンビームによる散布
3)−陰極スパッタリング、あるいは
4)−プラズマアシスト気相化学蒸着
【0067】
反射防止被覆層は、好ましくはスピンコート法を用いて、液体の溶液を塗布することにより行うことができる。
【0068】
反射防止被覆層に単層膜を用いる場合は、その光学的厚みをλ/4に等しくし、ここで、λは450〜650nmの波長である。好ましくは、反射防止被覆層は、高屈折率と低屈折率が交互した3以上の誘電体層を含む多層膜である。
【0069】
勿論、多層反射防止被覆層の誘電体層は最終光学製品で存在すべき順序の逆順で担体、または防汚性トップコート層上に成膜される。
【0070】
好ましい反射防止被覆層は、真空成膜法によって形成される4層の積層を含み、例えば、約100〜160nmの光学厚みをもつ第1のSiO層、約120〜190nmの光学厚みをもつ第2のZrO層、約20〜40nmの光学厚みをもつ第3のSiO層、約35〜75nmの光学厚みをもつ第4のZrO層の4層を含む。
【0071】
好ましくは、上記4層の反射防止積層を成膜後、1〜50nmの厚み(物理的厚み)の薄層のSiOを成膜する。この層は反射防止積層と、通常次に成膜される耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層との間の接着性を促進するものであり、光学的には機能しない。
【0072】
次に成膜する層は耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層である。耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層の形成には公知の光学的耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物がどれでも使用できる。従って、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物はUV硬化性および/または熱硬化性組成物であってよい。
【0073】
耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層は、該耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層を持たないこと以外は同一の光学製品と比べて、最終光学製品の耐摩耗性および/または耐擦傷性を改善させる被覆層である、と定義される。
【0074】
好ましい耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層は、エポキシアルコキシシランもしくはその加水分解物、必要に応じて用いられるコロイド鉱物充填材および硬化触媒を含む前駆体組成物を硬化させることによって作製されるものである。このような組成物としては、たとえば米国特許第4,211,823号、国際特許出願公開94/10230号、米国特許第5,015,523号、欧州特許第614957号に開示されている。
【0075】
最も好ましい耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物は、たとえばγ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン(GLYMO)などのエポキシアルコキシシランおよびたとえばジメチルジエトキシシラン(DMDES)などのジアルキルジアルコキシシラン、コロイダルシリカおよび触媒量の硬化触媒たとえばアルミニウムアセチルアセトネートもしくはその加水分解物を主成分として含むそれであり、残余は、本質的に通常これら組成物の調製に使用される溶媒からなる。
【0076】
耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層の、その次に成膜される耐衝撃性プライマー被覆層に対する密着性、または透明接着組成物の層に対する密着性を改善するために、有効量の少なくとも1つのカプリング剤を耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物に添加することができる。好ましいカプリング剤は、エポキシアルコキシシランと、好ましくはエチレン性二重結合末端を有する不飽和アルコキシシランとの予備縮合液である。
【0077】
エポシキアルコキシシランの例としては、GLYMO、γ−グリシドキシプロピル−ペンタメチルジシロキサン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−ジメチル−エトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−ジイソプロピル−エトキシシランおよびγ−グリシドキシプロピル−ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランが挙げられる。好ましいエポキシアルコキシシランはGLYMOである。
【0078】
不飽和アルコキシシランは、ビニルシラン、アリルシラン、アクリルシラン、またはメタクリルシランなどである。
【0079】
ビニルシランの例としては、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリスイソブトキシシラン、ビニルトリ−tert−ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシ−シラン、ビニルビス(トリメチルシロキシ)シランおよびビニルジメトキシエトキシシランが挙げられる。
【0080】
アリルシランの例としては、アリルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、およびアリルトリス(トリメチルシロキシ)シランが挙げられる。
【0081】
アクリルシランの例としては、3−アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシ−プロピル−トリメトキシシラン、アクリロキシ−プロピルメチル−ジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピル−メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピル−ジメチルメトキシシラン、N−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピル−トリエトキシシランが挙げられる。
【0082】
メタクリルシランの例としては、3−メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメトキシルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシ−プロピル−トリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル−ペンタメチル−ジシロキサン、3−メタ−アクリロキシ−プロピル−メチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシ−プロピルメチル−ジエトキシ−シラン、3−メタクリロキシプロピル−ジメチル−メトキシシラン、3−メタクリロキシ−プロピル−ジメチルエトキシシラン、3−メタクリロキシ−プロペニル−トリメトキシ−シランおよび3−メタクリロキシ−プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシランが挙げられる。
【0083】
好ましいシランは、アクリロキシプロピル−トリメトキシシランである。
カプリング剤の調製に用いられるエポキシアルコキシシラン(類)および不飽和アルコキシシラン(類)の量は、好ましくは次式で表される重量比が0.8≦R≦1.2の条件を満たすものである。
【数2】

【0084】
カプリング剤は、エポキシアルコキシシラン(類)および不飽和アルコキシシラン(類)から得られる固形物を、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%含む。カプリング剤は、液状の水および/または有機溶媒の含有量が、好ましくは40重量%未満、より好ましくは35重量%未満である。
【0085】
「エポキシアルコキシシラン類および不飽和アルコキシシラン類から得られる固形物の重量」とは、これらシラン類からの理論上の乾燥抽出物を意味し、QSiO(4−k)/2(ここでQはエポキシまたは不飽和基を含む有機基)単位の計算重量値であり、QSiO(4−k)/2は、Si−R’が加水分解反応してSi−OHを形成するQSiR’O(4−k)に由来する。
kは1〜3の整数であり、好ましくは1に相当する。
R’は、好ましくはOCHなどのアルコキシ基である。
【0086】
上記した水および有機溶媒は、初期のカプリング剤組成物中に添加されたもの、およびカプリング剤組成物中に存在するアルコキシシラン類の加水分解および縮合により生じる水およびアルコールに由来する。
【0087】
カプリング剤の好ましい調製方法としては下記が挙げられる。
1)アルコキシシラン類の混合
2)好ましくは塩酸などの酸添加による、上記アルコキシシラン類の加水分解
3)上記混合物の攪拌
4)場合によっては有機溶媒を添加
5)1または数種のたとえばアルミニウムアセチルアセトネートなどの触媒の添加
6)攪拌(一般的処理時間:一夜)
【0088】
耐擦傷性被覆層組成物中に導入されるカプリング剤の量は、組成物の総重量の0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0089】
耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物は、スピンコート法、ディップコート法、またはフローコート法などの慣用されているいずれかの方法を用いて、反射防止被覆層上に塗布することができる。
耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物は、単に乾燥させてもよく、あるいは次の耐衝撃性プライマー被覆層(透明接着組成物層でありうる)の適用、または本発明の方法の実施の前に、予備硬化させてもよい。耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層組成物の特徴に応じて、熱硬化、UV硬化、またはその両方の組合せを用いることができる。
硬化後の耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層の厚みは、通常、1〜15μm、好ましくは2〜6μm、より好ましくは3〜5μmの範囲である。
【0090】
耐衝撃性プライマーを耐擦傷性被覆層上に塗布する前に、接着性を高めるために、耐擦傷性被覆層の表面にコロナ処理または真空プラズマ処理を施すことができる。
耐衝撃性プライマー被覆層は、最終光学製品の耐衝撃性を高めるために一般的に使用されるどのような被覆層であってもよい。また、この被覆層は通常最終光学製品の基材上の耐擦傷性被覆層の接着性も強化する。耐衝撃性プライマー被覆層は、該耐衝撃性プライマー被覆層をもたないこと以外は同一の光学製品と比べて、最終光学製品の耐衝撃性を改善する、被覆層である、と定義される。
【0091】
一般的な耐衝撃性プライマー被覆層は、(メタ)アクリル系被覆層、およびポリウレタン系被覆層である。
(メタ)アクリル系耐衝撃性プライマー被覆層は、例として、米国特許第5,015,523号および第6,503,631号に開示されている。一方、熱可塑性および架橋性のポリウレタン樹脂被覆層は、例として、日本特許第63−141001号および第63−87223号、欧州特許第0404111号および米国特許第5,316,791号に開示されている。
【0092】
より具体的に、本発明に係る耐衝撃性プライマー被覆層は、ポリ(メタ)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックスまたはポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から作製することができる。
好ましい(メタ)アクリル系耐衝撃性プライマー被覆層組成物としては、たとえば、テトラエチレン グリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを主体とした組成物ならびにウレタン(メタ)アクリレートおよびそれらの混合物を挙げることができる。
【0093】
耐衝撃性プライマー被覆層は、好ましくは、30℃より低いガラス転移温度(Tg)を有する。好ましい耐衝撃性プライマー被覆層組成物としては、商品名Acrylic latex A−639としてZeneca社から市販されているアクリルラテックス、および商品名W−240およびW−234としてBaxenden社から市販されているポリウレタンラテックスが挙げられる。
【0094】
好ましい実施態様では、耐衝撃性プライマー被覆層は、光学基材および/または耐擦傷性被覆層に対する該プライマー被覆層の接着性を高めるために、有効量のカプリング剤を含んでいてもよい。耐擦傷性被覆層組成物の場合と同量の同種のカプリング剤を耐衝撃性プライマー被覆層組成物にも用いることができる。
【0095】
耐衝撃性プライマー被覆層組成物はスピンコート法、ディップコート法、またはフローコート法などの慣用されているいずれかの方法を用いて、耐擦傷性被覆層上に塗布することができる。
耐衝撃性プライマー被覆層組成物は、単に乾燥させてもよく、あるいは光学基材の成形の前に、予備硬化させてもよい。耐衝撃性プライマー被覆層組成物の特徴に応じて、熱硬化、UV硬化、またはその両方の組合せを用いることができる。
【0096】
硬化後の耐衝撃性プライマー被覆層の厚みは、通常、0.05〜30μm、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは0.6〜15μm、更に好ましくは0.6〜5μmの範囲である。
機能被覆層の可撓性担体はプロセスの完了時に廃棄することを意図していることを前提とすると、本発明のプロセスの最後に除去できる、剥離剤の層を該担体に最初に被覆してもよい。1つの実施態様では、上記に定義される防汚性トップコート層が、非除去剥離剤層として有利に機能する。
【0097】
本発明の方法の加圧工程(f)において適用される力は、特に空気圧力などの圧力または真空を担体に適用することによって得ることができる。適用される圧力は、一般的には、0.35〜4.2バール(5〜60psi)、好ましくは0.35〜3バール、より好ましくは0.35〜2.1バール(5〜30psi)の範囲である。適用圧力として真空を用いる場合は、一般的に適用される力は5ニュートン以上、好ましくは10ニュートン以上、より好ましくは15ニュートン以上である。国際特許出願公開03/004255号に開示される空気圧膜装置を用いて適用することができる。被覆層の転写を可能にする真空構造の概要については、米国特許第4,242,162号中に記載されている。
【0098】
被覆層の転写先であるレンズ基材の表面に対して担体の形状適合性を改善することを目的として、特に転写がレンズ基材の表面に行われる場合に、担体上の圧力を増加するための追加的手段を用いることがある。一般的には、担体の全体の形状に適合し、担体へ加わる圧力を増加することができる、変形可能なパッドを用いる。
【0099】
次に図面、特に図1A〜1Cを参照して説明する。凹(裏)面2を有するレンズ基材1をその凹(裏)面2を上に向けて支持要素(図示省略)上に配置する。可撓性担体3は、その主面には予め少なくとも1つの機能被覆層4および本発明による透明接着組成物の層5が被覆され、該透明接着組成物層は処理条件下で流動不可状態になされている。その可撓性担体3を支持要素(図示省略)上に、透明接着組成物層が下向きになるように配置する。
【0100】
少なくとも1つの機能被覆層4および透明接着組成物の層5を可撓性担体3の表面に成膜するには、真空成膜法、スピンコート法、フローコート法、ディップコート法など光学分野で採用されているいずれかの成膜方法を用いて行うことができる。勿論、成膜方法は、被覆層または積層の特性、または可撓性担体3の表面に成膜されている透明接着組成物の層の特性に依存する。
【0101】
次に、これらの支持要素を、互いに相対的に移動させ、透明接着組成物の層5とレンズ基材1とを直接接触させ、レンズ基材1を変形させない程度の圧力で、これらを共に加圧する。透明接着組成物が、ホットメルト接着剤(HMA)組成物類からなる群から選択される場合は、加圧工程(f)中に熱を加える。透明接着組成物が感圧接着組成物類からなる群から選択される場合は、加圧工程(f)中に加熱しないが、所望により加熱することもある。
【0102】
本発明の上記特定の例では、熱源は70〜120℃の温度の熱風炉、または70℃〜100℃の温水槽、IR熱源、またはマイクロ波源であり得る。加熱時間は数分から30分としてもよく、例えば、3〜30分が適用される。
【0103】
図1Bに示されるように、レンズ基材1、透明接着組成物の層5、少なくとも1つの機能被覆層4および可撓性担体3により形成されるアセンブリを、上記のHMAの特定の例では、装置中に配置し加熱する。この省略可能な加熱工程の後、圧力を解放して可撓性担体3を廃棄し、図1Cに示すように、少なくとも1種の機能被覆層4が透明接着組成物の層5を介してその凹(裏)面2に接着したレンズ基材1を回収する。
【0104】
図2A〜2Cは、透明接着組成物の層5をレンズ基材1の凹(裏)面2の上に形成すること以外は図1A〜1Cに関連して開示される方法と同様の方法の主要工程を示す。
以下に本発明を実施例で説明する。
【実施例】
【0105】
(一般考察)
実施例1〜3では、担体はその凸面に、担体から始まり、防汚性トップコート層、反射防止被覆層、および耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層を含む積層を担持するポリカーボネート(PC)担体(球面状:5.80ベース)である。耐衝撃性プライマー組成物としても機能する透明接着組成物層が耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層上に形成される。被覆層積層および透明接着組成物層のアセンブリを「HMC被覆層」と称する。
HMC被覆層を担持するPC担体を「HMC担体」と称する。
【0106】
(ステップ1:保護および剥離性被覆層の成膜)
保護および剥離性被覆層の組成物を以下に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
PC担体を、石鹸水で洗浄し、乾燥圧縮空気で乾燥する。次に担体の凸面に上述の保護被覆層組成物を、適用速度600rpmで3秒間および乾燥速度1200rpmで6秒間のスピンコートにより被覆する。Fusion System H+ランプを1.524m/分(毎分5フィート)の速度で用いて被覆層を硬化した。
HMC被覆層の転写後、この保護および剥離性被覆層は転写されず担体上に残る。
【0109】
(ステップ2:防汚性トップコート層および反射防止(AR)被覆層の成膜)
保護被覆層の成膜の後、PC担体に以下の方法で真空によるコーティングを行う。
(A) 標準真空AR処理:真空AR処理は標準的ボックスコーター中で公知の真空蒸着処理を用いて行った。以下は担体上にVARを得るための手順の1例である。
1 基材に保護被覆層を塗布した担体を標準ボックスコーター中に挿入し、チャンバを高真空に引く。
2 熱蒸着技術を用いて、防汚性被覆層(信越化学工業KP801M)を、担体上に厚み2〜15nmの範囲に成膜する。
3 次に、高屈折率および低屈折率材料のサブレイヤの積層からなる誘電体多層AR被覆層を正順の逆で成膜する。次に成膜の詳細を記載する。
低屈折率および高屈折率の交互の層の光学的厚みを次の表に示す(担体表面から、記載されている順に成膜される)。
【0110】
【表2】

【0111】
実施例で成膜される好ましい積層では、低屈折率材料がSiOであり、高屈折率材料がZrOである。
(B) 上述の4層の反射防止積層の成膜の完了時に、1〜50nmの物理的厚みを有するSiOの薄層を成膜する。この層は反射防止酸化物の積層と、後にこの被覆担体上に成膜するラッカーのハードコート層との間の接着性を向上させるためのものである。
【0112】
(ステップ3:ハードコート(HC)層およびラテックスプライマー被覆層の成膜)
ハードコート層の組成物は以下のとおりである。
【0113】
【表3】

【0114】
接着剤および耐衝撃性プライマー被覆層の組成物は以下のとおりである。
【0115】
【表4】

【0116】
上記プライマー被覆層組成物を、以下の実施例ではホットメルト接着組成物として用いる。
【0117】
次に、ステップ1および2において保護被覆層、防汚性被覆層、およびAR被覆層を形成したPC担体に、HC溶液を600rpm/1200rpmでスピンコートし、80℃で10分間予備硬化させ、再度、同じ速度で、接着および耐衝撃性プライマー層組成物溶液をスピンコートし、80℃で1時間、後硬化させる(これにより乾燥ラテックス層はおよそ1.8〜2ミクロンの厚みを有する)。
カプリング剤は以下の成分を含む予備濃縮液である。
【0118】
【表5】

【0119】
(試験および検査手順)
3M SCOTCH n°600 透明テープを用い、ISTM 02010に準拠したクロスハッチ接着性試験に従って乾燥接着剤を測定する。25マスを形成する。接着性は以下のように評価される。
【0120】
【表6】

【0121】
湿式接着剤試験:試験を実施する前に試料を100℃の温水で30分間煮沸すること以外は乾燥接着剤試験と同じ方法で行う。
【0122】
(担体の準備)
5.8および6.4ベースを有する射出成形により作製した0.5mmのPC担体の凸面を上述のHMC被覆層でコーティングする。
【0123】
(B&Lベルトメータ(Vertometer))
これはボシュロム(Bausch & Lomb Co)社製のレンズメータであり、光源、移動および回転可能なターゲット、標準レンズ、望遠鏡、眼鏡レンズを標準レンズ前眼部主焦点に保持する手段、ターゲット位置の回転および移動手段、および機械的に同軸にする装置からなる軸対象光学系である。眼鏡レンズを測定位置の中心に合わせ、ターゲットを眼鏡レンズの焦点位置において標準レンズで撮像する位置に位置決めする。この位置において眼鏡レンズによってターゲットが望遠鏡の焦点板上に撮像され、望遠鏡の接眼レンズを通して見ることができる。B&Lベルトメータを用いて、レンズの検査およびレンズ上の光学歪または変形の有無を識別することができる。
【0124】
(実施例1)
上述のHMC担体、すなわち、HMAポリウレタンラテックス材料(Baxenden社のW−234)を含有する耐衝撃性プライマー層および接着被覆層組成物を含むHMC被覆層を担持するPC担体を用いる。このHMAラテックスは、60℃より高温に加熱されると粘着性になる。この粘着挙動は加熱と冷却により反復させることができる。
【0125】
次に図1A〜1Cに関連して記載した方法を用い、室温において、担体上のHMC被覆層をポリカーボネートレンズ(−2.00D、球面状、裏面カーブ5.0)の裏面に貼り付けた。具体的には、外部空気膜圧(12psi〜0.83バール)を加えた後、被覆担体とレンズのアセンブリを、同圧力下の熱風炉内において110℃で、20分間加熱した。次いで、アセンブリを冷却し、担体を除去して、HMC層をレンズ表面に転写した。転写された被覆層はレンズ面上で非常に良好な接着性を有し、その乾燥接着レベルは0であった。この転写中にAR破損はない。得られたレンズをB&Lベルトメータで確認したが光学上の歪または変形はなかった。レンズ表面全体で見られたポリウレタンラテックスの被覆層の最大厚みは1.94μmである。レンズ表面全体で見られた被覆層の最小厚みは1.38μmである。図3は、この実施例で得られた回収されたレンズ基材のHMA層における厚みのバラツキを示すマップである。図からわかるように、厚みは、レンズ表面全体にわたり本質的に均一である。(試料のラテックスの厚みを、図5に示すようにレンズ全体(東西南北)で測定した。図3および4では、y軸はポリウレタンラテックス層のミクロン単位の厚みであり、x軸は試料の各部上の測定の位置である)。B&Lベルトメータによる確認の結果、この方法で作成した3つのレンズは同じく良好な光学結果を有する。
【0126】
また、上記の加圧工程を経た最終製品のHMAの厚みと、初期にスピンコートを用いて成膜した時に得られたHMAの厚みとがほぼ同じであることが確認された。
【0127】
(比較例1:液硬化性接着組成物の使用)
本発明に係るHMAの代わりに、5滴(0.15g以下)のUVアクリル接着溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順を行った。次に、同様の担体とレンズのアセンブリを40秒間UV硬化させた。その後、担体を除去し、HMC層をレンズ表面に転写した。得られたレンズは実施例1と同じ被覆性能を有する。その性能範囲は、Z80.1規格(+/−0.13ジオプトリ)の範囲である。しかしながら、B&Lベルトメータで確認すると、レンズに何らかの光学的歪または光学的変形が見られた。これはレンズの裏側の液体接着層が均一でないことに起因する。レンズ表面全体で見られたアクリル接着層の被覆層の最大厚みは9.80μmである。レンズ表面全体で見られた被覆層の最小厚みは1.57μmである。図4はこの実施例で得られた回収済みのレンズ基材の接着層における厚みのバラツキを示すマップである。図からわかるように、レンズの区域によっては厚みのバラツキが大きいところがある。B&Lベルトメータで確認すると、この方法により作成された3つのレンズは同じく数例の光学的歪/波を有している。
【0128】
この比較例は、本発明に係る転写方法を用いることで、従来の液状接着剤方法に比べてより良好な光学品質が得られることが示すものである。本発明の方法は、均一な厚み(実施例1では1.4〜1.9μm)の接着層を介して接着する被覆層を有する被覆レンズ基材を提供する。従来の液体接着方法は、厚みの均一性(比較例1では厚みは1.6〜9.8μm)の点で劣っている。本発明の被覆層転写方法は、液体接着剤を用いないことと、接着剤の繰出し量、接着剤の使用量、および接着剤の粘度に留意する必要がないことなどの点で従来のものと比較して、はるかに簡略化されている。更に、高価な接着剤ディスペンサーや、UV硬化システムが必要ない。
【0129】
HMA、PSAは、スピンコート法を用いて、非常に高精度の厚みで予め塗布することができる。先行技術と比べて、接着剤の厚みが圧力、接着剤の量、接着剤の繰出し、接着剤の粘度、レンズおよび担体などの積層条件による影響を受けることがない。本発明の接着剤の厚みは、そのレンズ曲面または担体の曲面がどのようであっても、レンズ表面全体を通して非常に良好に調整することができる。一方、液体接着方法を用いた場合は、レンズ裏面カーブに対して担体のカーブが一致しないことが多いため、接着剤の厚みは担体のベースおよびレンズのカーブの影響を受ける。これは、加圧工程中の担体の変形時に液体接着剤が拡がるように担体のベースがレンズのベースよりも高いことを意味する。圧力を一定に維持する場合、担体のベースが異なると液体接着剤に対する拡散圧力またはパターンが異なる。その結果、レンズ倍率の種類毎に接着剤の厚みが僅かに異なる。
【0130】
(実施例2)
UV架橋可能なPSA組成物を用いたこと以外は実施例1と同様の手順を用いた。PSA # US02008(Rahn Inc社製)をMEK (30/70 w/w)中で希釈し、HMC担体(5.80ベース)にスピンコートした。その結果得られる層を、不活性雰囲気下でUV放射に30秒間露出した。露出後の層を乾燥したが、触るとまだ粘性があった。担体上のHMC被覆層をポリカーボネートレンズの裏面(−2.00D、裏面カーブ5.0)に図1A〜1Cに関連して記載した方法で転写した。外部空気圧力(14psi〜0.98バール)を30秒間担体/レンズアセンブリに適用した。その際、UVまたは熱は適用しなかった。圧力を解放した後、レンズの裏面から担体を取外し、被覆層の積層およびPSA層はレンズ上に残した。
【0131】
(実施例3)
2.1gのEscorez 5380樹脂(エクソンモービル社製)と、0.9gのVector 4100ブロック共重合体を20gのトルエンに加え、両方が完全に溶解するまでよく攪拌した。これが初期PSA溶液であり、13%の固体物を含有していた。次に、5gの初期溶液を5gのトルエンで希釈して、その結果6.5%の固体物を有する溶液とし、最終PSA溶液を得た。この後、この溶液を5.8ベースのHMCを予めコーティングした担体の凸面に、スピンコートした。その際のスピンコート条件は以下のとおりである。
【0132】
(スピンコートパラメータ)
低速:500rpm、2秒間
高速:2000rpm、5秒間
PSA層のPSAコーティング後、トルエンの臭気が検知できなくなるまで担体を空気乾燥させた。担体の凸側を、5.0ベースの裏面カーブを有する−2.00Dポリカーボネートレンズの凹側の上に配置し、16psiの膜圧を適用しそれを1分間維持したことと、熱を加えないこと以外は実施例1と同様の手順を用いてBST積層プロセスを実施した。担体を除去した後、HMC積層をレンズの裏面に転写した。この転写中にはAR破損はない。得られたレンズは非常に良好な光学性能を有し、B&Lベルトメータではどんな光学歪も見られなかった。
【0133】
(実施例4)
真空下で転写プロセスを用いて観察される接着剤の厚みをシミュレートする目的で、いくつかのORMAレンズをW−234ラテックス(HMA)でコーティングし、加熱し、次に、米国特許第4,242,162号に記載される真空モジュールを用いて、その表面をポリオレフィンフィルム(被覆層なし)で加圧した。
【0134】
ラテックスを被覆したレンズを90℃に加熱し、10psiの圧力を加えた。
ラテックス被覆層の厚みを、レンズ全体にわたって詳細に観察し、SMR計器を用いて光学的に測定した。
表7〜9は、ポリオレフィンフィルムによる加圧工程の前後に測定した4箇所のラテックスの厚みの値(単位μm)を示す。これらの表から、スピンコートの速度に関係なく、レンズ全体の上記の4箇所における厚みが均一であることと、転写プロセスをシミュレートした後の厚みの変化が最小であることがわかる。特に注目する点は、レンズの中心部と周辺部で同様の結果が得られることである。
【0135】
【表7】

【0136】
【表8】

【0137】
【表9】

【0138】
(レンズ全体の厚み測定方法(実施例1および比較例1))
(A)試料の準備:レンズ試料を、図5に示すように4つの小部分に切出し、顕微鏡で容易に見ることができるようにエポキシ樹脂でブロック/固定した。NWES(北西東南)すべてのCX側が北向きになるように配置した。円盤状になるように試料の回りに液体エポシキを注ぎ、その後、断面部から測定するように、互いに近接させ、平行になるように留意した。各エポキシパック(円盤)の北側に印を付けた。各研磨工程の後、試料を完全に洗浄した。
【0139】
(B)光顕微鏡による厚み測定:明視野および暗視野照明、位相照明を備えるNikon Optiphot 2、対物レンズ 5倍、40倍、60倍、100倍、150倍、Q−imaging社のMicropublisher 冷却型CCDカメラ 3.3MPix、診断撮像用T60Cカプラ、各種フィルタ、Nomarski社の微分干渉カラーコントラスト顕微鏡用プリズム、偏光子および検光子、高圧キセノンまたは超高圧水銀アークランプを用いる落射型蛍光アタッチメント。
【0140】
(実施例5)
この実施例では、PSAの使用について記載する。最初に支持フィルム(以下、「ライナー」と称する)上に成膜したPSA層を、ライナーから担体のHMC積層上に転写する。
次にこのHMC積層を担体からレンズの表面上に転写する。
【0141】
(1 担体の支持要素の準備)
まず最初に、PSA転写プロセス時に担体を支持する支持要素を、図6に概略を示す以下の手順に従って鋳造する。
この手順では、第1の担体1を用いる。
担体1を囲む環状壁2の周辺部を固定して、底面を担体1の裏面の凹側によって区切られ縁部を担体の周辺から上方に突出する環状壁2によって区切られた鋳造成形型を作製する。
重合性組成物としてSilguard(10重量%の重合触媒を含有するシリコーン組成物)を含有する鋳造組成物3を上述の鋳造成形型に注入し、60℃で24時間加熱して重合させる。
担体1および環状壁2を取除いた後に、凸状の支持要素4を得る。この支持要素4の凸面側は担体1の裏面を逆に複製したものである。
凸状支持要素4は本実施例の次の工程で用いられる。この支持要素によって、後述するHMC被覆担体20(図7)のPSA層の転写時の変形を防ぐ。
【0142】
(2 PSA転写)
凸状の表面にHMC反転積層を有する4.5ベースのHMC担体20(直径74mm)を準備する。
HMC積層の表面に圧縮空気を吹付ける。HMC担体20を、上述のように形成された支持要素4の上に、その裏面の凹側を支持要素4の表面の凸側に載せるようにして配置する。上述したように、支持要素4はHMC担体20の裏面側を逆に複製したものなので、担体の表面の凸側に圧力を加えても担体の変形は起きない。
次に、支持要素4の上に配置されたHMC担体20を図7の装置の適合装置1の支持板7上に配置する。
【0143】
PSA層30を担持するフィルムを含むNitto Denko PSAフィルムCS 9621を図7の装置の適合装置1の分離可能なフィルム支持要素8の上に、PSA層が担体20のHMC積層に対面するように配置する。
取外し可能な加熱器(図示省略)をフィルム支持要素(8)の上に配置する。
この加熱器は、加熱空気の対流を用いることにより、PSAフィルムの温度を145℃に上昇させることができる。
この温度に達すると、フィルム支持要素8/着脱式加熱器/フィルム30を含むアセンブリ全体を適合装置1の上に配置し、ブロック手段9によってその周辺をブロックする。
本実施態様では、真空は用いない。
垂直軸yyに沿って垂直に摺動可能な卵形状(曲半径およそ43mm、硬度54ショア硬さ00)の中空のシリコンパッド11を、下方向に移動させ、フィルム30に接触させる。
【0144】
パッド11が軸yyに沿って移動するときの移動速度は3mm/秒である。図8に示すように、パッド11は、−30mmの位置(yy軸上で測定する、パッド11によるフィルム30の予備変形に対応するフィルム30の中心の初期位置からの距離)に到達すると停止する。
次に、第2の工程において、HMC担体20と支持要素4とが載置されているプランジャ2を作動させることによって、HMC担体20を速度3mm/秒で垂直に上方に移動する。
フィルム/PSA層/HMC担体の間で完全な適合接触(conformal contact)に到達すると、この垂直移動が停止する。
PSAフィルムの中心の位置が+10mm(yy軸上で測定する、PSAの中心の初期位置からの距離)であり、80Nのフィルム上にかかる圧力に対応する時にこの完全適合接触に到達する。
【0145】
圧力を5秒間維持し、その後加熱器を停止する。
次にパッド11を速度14mm/秒で垂直に上方に移動させる。
ライナー/PSA/HMC/担体をこの順に備えるHMC担体20を装置1から取り外す。
ライナーを担体の周辺において切断する。
【0146】
(3 HMC転写)
上述の工程2において得られた保護ライナーを用いてPSAを接着し、その保護ライナーを除去した、4.5ベースのHMC担体を、裏面カーブが3.90である、+1.75PCレンズの裏面側につけ、膜圧1.26バール(18psi)下で2分間、小型加圧装置中で積層させる。その後、圧力を解放し、担体をレンズから取り除き、HMC層をレンズの裏面側に完全に転写する。PSA接着層があることにより、この転写プロセスにはUVまたは熱処理が必要ない。転写プロセス全体が非常に短時間で完了する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法であって、
(a)少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する担体を得る工程と、
(b)少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材を得る工程と、
(c)前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかの上に、透明接着組成物を成膜する工程と、
(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、前記層を流動不可状態にする工程と、
(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面、または前記少なくとも1つの機能被覆層のいずれかに直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程と、
(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかと共に加圧する工程と、
(g)場合によっては設けられる、加圧工程(f)の間に熱を加える工程と、
(h)加圧工程(f)を停止する工程と、
(i)前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記回収した被覆レンズ基材において、前記透明接着組成物層は均一の厚みである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記透明接着組成物層の厚みは、0.5〜20μmの範囲である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記透明接着組成物は、感圧接着剤(PSA)およびホットメルト接着剤(HMA)からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記PSAは、ポリアクリレートを主体としたPSAおよびスチレンブロック共重合体を主体としたPSAから選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ホットメルト接着剤は乾燥ポリ(メタ)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス、ポリエステルラテックス、およびそれらの混合物から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記透明接着組成物層はスピンコート法を用いて成膜される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの機能被覆層は、防汚性トップコート層、反射防止被覆層、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層、および耐衝撃性被覆層からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記担体の前記主面は複数の機能被覆層の積層を担持する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の機能被覆層の積層は、前記担体主面から始まって、防汚性トップコート層、反射防止被覆層、耐摩耗性および/または耐擦傷性被覆層、および、場合によっては設けられる耐衝撃性プライマー被覆層を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記耐衝撃性プライマー被覆層は前記透明接着組成物層である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記透明接着組成物層は耐衝撃性被覆層として機能する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記担体は可撓性担体である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記可撓性担体は熱可塑性材料で作製される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記熱可塑性材料はポリカーボネートである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記可撓性担体の厚みは0.2〜5mmである請求項13に記載の方法。
【請求項17】
加圧工程(f)は前記担体に空気圧力を適用することによって行う請求項1に記載の方法。
【請求項18】
加圧工程(f)は真空を適用することによって行う請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記透明接着組成物は、感圧接着剤であり、加圧工程(f)の間、熱を適用しない請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記透明接着組成物はホットメルト接着組成物であり、加圧工程(f)の間、熱を適用する請求項1に記載の方法。
【請求項21】
適用される熱の範囲は50〜120℃である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
熱は3〜30分間適用される請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記担体は球面形状を有し、前記レンズ基材の幾何学的に定義される面は、球面状、円環状、または累進状の面である請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記レンズ基材は、ポリカーボネート、熱可塑性または熱硬化性のポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピスルフィド、ポリ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)共重合体、それらの共重合体、およびそれらの配合物から作製される請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記幾何学的に定義される面はコロナ放電処理によって前処理される請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−212176(P2012−212176A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158036(P2012−158036)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【分割の表示】特願2008−504704(P2008−504704)の分割
【原出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】