説明

最初の有害事象の予測のためのバイオマーカー

本発明の対象は、最初の冠状動脈事象及び心血管系事象の予測のためのアッセイ及びインビトロにおける予測方法、並びにそこで有用なバイオマーカーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の最初の有害事象の予測、診断アッセイ、及びそれらの使用に関係する。
【背景技術】
【0002】
有効な心血管系の予防は、リスクのある個人の正確な同定に依存するが、心血管系事象は従来のリスク因子の負担の低い個人において頻繁に起こる(Khot UN, et al.: Prevalence of conventional risk factors in patients with coronary heart disease. JAMA. 2003;290:898-904)。その結果、従来のリスク評価を補強するために血中バイオマーカーを使用できる可能性に、近年高い注目が集まっている。しかしながら、これまでの調査では、心血管系リスク予測のためのバイオマーカーの有用性に関して異なった結論に至った。一部の報告では、バイオマーカー、例えばC反応性タンパク質(CRP)及びN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT‐プロBNP)などがリスク予測を助けることが示されているが(Ridker PM, et al.: Development and validation of improved algorithms for the assessment of global cardiovascular risk in women: the Reynolds Risk Score. JAMA. 2007; 297: 611-619; Zethelius B, et al.: Use of multiple biomarkers to improve the prediction of death from cardiovascular causes, N Engl J Med. 2008; 358: 2107-2116)、その一方で、その他の調査では、そういったバイオマーカーが、増分情報に対して比較的わずかにしか貢献していないとの結論を出している(Folsom AR, et al.: An assessment of incremental coronary risk prediction using C-reactive protein and other novel risk markers: the atherosclerosis risk in communities study. Arch Intern Med, 2006; 166: 1368-1373; Wang TJ, et al.: Multiple biomarkers for the prediction of first major cardiovascular events and death, N Engl J Med. 2006; 355: 2631-2639)。
【0003】
バイオマーカーが転帰をどれだけ正しく予測するかは、調査した集団や選ばれた特定のバイオマーカーを含めた多くの因子が影響している。高齢者や高リスク集団に焦点を合わせた調査では、バイオマーカー性能の好ましい評価を得ることが多いが(Zethelius B, et al.: Use of multiple biomarkers to improve the prediction of death from cardiovascular causes. N Engl J Med. 2G08;3 58:2107-2116; Blankenberg Ss et al.: Comparative impact of multiple biomarkers and N-Terminal pro-brain natriuretic peptide in the context of conventional risk factors for the prediction of recurrent cardiovascular events in the Heart Outcomes Prevention Evaluation (HOPE) Study. Circulation. 2006; 14:201-208)、しかし、新しいリスクマーカーは低い〜中程度のリスク集団において最も必要とされており、そういった集団に関するデータが最も相反している(de Lemos JA, Lloyd-Jones DM: Multiple biomarker panels for cardiovascular risk assessment. N Engl J Med. 2008; 358: 2172-2174)。新しいバイオマーカーを審査する統計的な基準に関して、予後予測能を評価するのに、基本的な関連尺度、例えばハザード比やオッズ比などでは不十分であることは、広く認められているが、どのような尺度を使用するかについては議論がある(Cook NR.: Use and misuse of the receiver operating characteristic curve in risk prediction, Circulation.2007; 115: 928-935)。より新しい測定基準は、バイオマーカーが患者を臨床リスクカテゴリーにどれくらい正しく割り当てるかを評価するが(Ridker PM, et al.: Development and validation of improved algorithms for the assessment of global cardiovascular risk in women; the Reynolds Risk Score. JAMA. 2007; 297: 611-619; Pencina MJ, et al.: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond, Stat Med. 2008; 27: 157-172)、ほんのいくつかの調査にしかそのような測定基準を組み込んでいない(Zethelius B, et al.: Use of multiple biomarkers to improve the prediction of death from cardiovascular causes. N Engl J Med. 2008; 358: 2107-2116)。別の重要な留意事項は、バイオマーカーの選択である。数種類のバイオマーカーは、従来のリスク因子向けの調節後に確実に心血管系事象を予測するが(Vasan RS.: Biomarkers of cardiovascular disease: molecular basis and practical considerations. Circulation. 2006; 113: 2335-2362)、わずかな一次予防調査しか同時に複数の有益なバイオマーカー、つまり、増分情報をもたらす可能性が最も高いアプローチ、を組み込んでいない(de Lemos JA, Lloyd-Jones DM: Multiple biomarker panels for cardiovascular risk assessment. N Engl J Med.2008; 358: 2172-2174)。
【0004】
アドレノメデュリン(ADM)というペプチドは、1993年に(Kitamura et al.(1993), Biochem. Biophys. Res. Commun. 192: 553-560)、52個のアミノ酸を含んでなる新規降圧ペプチドとして最初に記述されたが、それは、ヒト褐色細胞腫から単離されていた。同年に、185個のアミノ酸を含んでなる前駆体ペプチドのcDNAコード、及びこの前駆体ペプチドの完全アミノ酸配列もまた記述された(Kitamura et al. (1993), Biochem. Biophys. Res. Commun. 194: 720-725)。とりわけ、N末端に21個のアミノ酸から成るシグナル配列を含んでなる前駆体ペプチドは、「プレプロアドレノメデュリン」(プレプロADM)と呼ばれる。
【0005】
ADMペプチドは、プレプロADMの第95〜146アミノ酸を含んでなり、タンパク質分解的開裂によってプレプロADMから形成される。プレプロADMの開裂で形成されるものの一部のペプチド断片、特に生理学的に活性なペプチドアドレノメデュリン(ADM)「PAMP」、つまり、プレプロADM内のシグナルペプチドの第21アミノ酸の次にくる20個のアミノ酸(第22〜41)を含んでなるペプチドが、詳細に特徴づけされた。未知の機能と高い生体外安定性を有する別の断片が、中間領域プロアドレノメデュリン(MR‐プロADM)であり(Struck et al. (2004), Peptides 25(8): 1369-72)、それに関して信頼できる定量方法が開発された(Morgenthaler et al. (2005), Clin. Chem, 51(10): 1823-9)。
【0006】
1993年のADMの発見と特徴づけは、活性の徹底した研究、そして公表の殺到を引き起こし、最近、その結果が様々な総説にまとめられていて、本明細書との関連で、特に、ADMに充てられている「Peptides」誌のある号(Peptides 22 (2001))に存在する論文、特に(Takahashi (2001), Peptides 22, 1691及びEto (2001), Peptides 22S 1693-1711)について申し述べる。対象は、Hinsonら(Hinson et al. (2000), Endocr. Rev. 21 (2), 138-167)の中でさらに概説されている。ADMを多機能性調節ペプチドと見なすこともできる。それは、C末端グリシンによって伸長された不活性型で血液循環内に放出される(Kitamura et al. (1998), Biochem. Biophys. Res. Commun. 244(2), 55l-555)。
【0007】
ADMは、効果的な血管拡張薬である。その降圧効果は、特に、ADMのC末端部分のペプチドセグメントに関連している。その一方、ADMのN末端のペプチド配列は昇圧効果を示す(Kitamura et al. (2001), Peptides 22, 1713-1718)。
【発明の概要】
【0008】
本発明の主題は、ある対象における最初の有害事象の予測方法、又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定方法、並びにそのためアッセイ及び捕獲プローブの使用である。
【0009】
本発明の対象は、健康な対象において有害事象が起こるリスクの予測方法、又は有害事象を起こす高いリスクを有する健康な対象の同定方法であって、以下のステップ:
・前記対象から採取したサンプル中のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを測定し;そして
・前記のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを、単独で又はその他の予後の臨床及び/又は実験室パラメーターと組み合わせて、最初の有害事象の予測に使用する、又は有害事象を起こすリスクをそれから推測する、
を含んでなる。
ある特定の実施形態では、この有害事象は、この対象に関して今までに診断されたことがない最初のものであってもよい。ある場合に、最初の事象は、例えば冠状動脈事象であってもよく、そしてそれは、この対象が冠状動脈事象をこれまで一度も起こしたことがないことを意味している。本発明の好ましい実施形態では、最初の有害事象を起こすリスクが予測され、そして、最初の有害事象を起こす高度なリスクを有する対象が同定される。
【0010】
本発明との関連において、「プロアドレノメデュリン」という用語及び「プロアドレノメデュリン又はその断片」という用語は、プロアドレノメデュリンの分子全体、又はこれだけに限定されるものではないが、アドレノメデュリン、PAMP、及びMR‐プロADMを含めた少なくとも12個のアミノ酸から成るその断片のいずれかを指す。好ましい実施形態では、プロアドレノメデュリンは、プロアドレノメデュリンの分子全体、又は成熟アドレノメデュリン以外の、少なくとも12個のアミノ酸から成るその断片のいずれかを指す。更なる好ましい実施形態では、プロアドレノメデュリンは、プロアドレノメデュリンの分子全体、又は成熟アドレノメデュリン若しくは成熟アドレノメデュリンの断片以外の、少なくとも12個のアミノ酸から成るその断片のいずれかを指す。よって、本発明のある特定の実施形態では、「プロアドレノメデュリン又はその断片のレベルの測定」は、プロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを測定することを指し、ここで、成熟アドレノメデュリン及び/又は成熟アドレノメデュリンの断片のレベルは測定されない。
【0011】
アドレノメデュリンの前駆体ペプチド(プレプロアドレノメデュリン)のアミノ酸配列を、図1(配列番号1)に示す。プロアドレノメデュリンは、プレプロアドレノメデュリンの配列の第22〜185アミノ酸残基に合致する。プロアドレノメデュリン(プロADM)のアミノ酸配列を、図2(配列番号2)に示す。プロADMのN末端の20個のペプチド(PAMP)は、プレプロADMの第22〜41アミノ酸残基に合致する。PAMPのアミノ酸配列を、図3(配列番号3)に示す。MR‐プロアドレノメデュリン(MR‐プロADM)は、プレプロADMの第45〜92アミノ酸残基に合致する。MR‐プロADMのアミノ酸配列を、図4(配列番号4)に提供する。成熟アドレノメデュリン(ADM)のアミノ酸配列を、図5(配列番号5)に示す。
【0012】
タンパク質又はペプチドとの関連で本明細書中に言及される場合、「断片」という用語は、より大きなタンパク質又はペプチドから生じるより小さなタンパク質又はペプチドを指し、したがって、より大きなタンパク質又はペプチドの部分鎖を含んでなる。前記断片は、1つ若しくは複数のペプチド結合のケン化によってより大きなタンパク質又はペプチドから生じる。
【0013】
本発明との関連で、例えば「プロテアーゼのレベル」、「分析物レベル」及び同様の表現などの表現の中の「レベル」という用語は、それぞれの関係で言及されている分子実体の数量を指すか、又は酵素の場合、「レベル」はまた、その酵素活性を指すこともできる。
【0014】
有害事象は、個人の健康を傷つける事象と規定される。前述の有害事象は、これだけに限定されるものではないが、冠状動脈事象、心血管系事象、死亡、心不全、糖尿病、高血圧症を含んでなる群から選択できる。本願発明との関連で、「糖尿病」という用語は、特に明記しない限り、真性糖尿病である。好ましくは、真性糖尿病は、1型糖尿病又は2型糖尿病である。好ましくは、本明細書中で、最初の有害事象は、最初の冠状動脈事象又は最初の心血管系事象である。
冠状動脈事象は、心筋梗塞、又は虚血性心疾患に起因する死亡を含めた致命的若しくは非致命的な急性冠状動脈症候群と規定される。
心血管系事象は、心筋梗塞、致命的又は非致命的な脳卒中、又は心血管系疾患に起因する死亡を含めた致命的又は非致命的な急性冠状動脈症候群と規定される。
本発明の好ましい実施形態では、本発明による方法は、対象における最初の有害事象の予測方法、又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定方法であるが、ここで、前述の有害事象は、冠状動脈又は心血管系事象であるが、冠状動脈事象が特に好まれる。
【0015】
好ましい実施形態では、前述の対象は、これだけに限定されるものではないが:(過去一年以内のあらゆる喫煙と規定される)喫煙、糖尿病、高脂血症、高血圧症、高ボディーマスインデックス(BMI)(すなわち、好ましくは前述の対象は、30未満、好ましくは28未満、より好ましくは27未満、よりいっそう好ましくは26未満、そして最も好ましくは25未満のBMIを有する)、男性、抗高血圧処置、及び年齢(リスクは年齢に従って増加する;好ましくは前述の対象は、55歳未満、好ましくは60歳未満、より好ましくは65歳未満、よりいっそう好ましくは70歳未満、そして最も好ましくは75歳未満の年齢である)を含んでなる群から選択される低負担の従来のリスク因子を有する対象である。
【0016】
本発明の全態様に関する別の好ましい実施形態では、前述の対象は、「健康」であるか又は「外見上健康」である。
本明細書中に使用されるとき、「健康」又は「外見上健康」は、心血管系若しくは冠状動脈事象又は心不全を患ったことが以前にない、あるいは、患ったことに気付いていない個人、及び急性伝染病を患っていない個人に合致する。健康又は外見上健康は、心血管系若しくは冠状動脈事象又は心不全を患っていない個人、及び急性伝染病を患っていない個人に合致することが好ましい。
【0017】
よって、本発明の好ましい実施形態では、「健康」である又は「外見上健康」な対象は、心血管系又は冠状動脈事象を患ったことが以前にない、あるいは、患ったことに気付いていない対象である。前記「健康」又は「外見上健康」な対象が糖尿病及び/又は高血圧症に罹患していないことが、さらに好ましい。
【0018】
外見上健康な対象は、特定の実施形態では、糖尿病、高脂血症、及び/又は高血圧症に罹患していてもよい。この場合、有害事象は、糖尿病及び/又は高血圧症から成る群から選択できない。一実施形態において、外見上健康な対象は、糖尿病に罹患している。この場合、有害事象は糖尿病でない。
【0019】
他の実施形態において、健康な対象は、高血圧症に罹患している。この場合、有害事象は高血圧症でない。最も好ましくは、外見上健康な対象は、いずれの疾患のいずれの症状も示さない。
【0020】
1つの好ましい実施形態では、有害事象は冠状動脈事象であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、糖尿病、高脂血症、及び/又は高血圧症を患っていてもよい。別の好ましい実施形態では、有害事象は心血管系事象であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、糖尿病、高脂血症、及び/又は高血圧症を患っていてもよい。
【0021】
更なる好ましい実施形態では、有害事象は、心血管系又は冠状動脈事象であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、糖尿病に罹患している。別の好ましい実施形態では、有害事象は、心血管系又は冠状動脈事象であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、高血圧症に罹患している。
【0022】
さらに別の好ましい実施形態では、有害事象は心筋梗塞であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、糖尿病、高脂血症、及び/又は高血圧症に罹患している。更なる好ましい実施形態では、有害事象は心筋梗塞であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、いずれの疾患のいずれの症状も示さない。
【0023】
さらに別の好ましい実施形態では、有害事象は、虚血性心疾患に起因する死亡であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、糖尿病、高脂血症、及び/又は高血圧症に罹患している。さらに好ましい実施形態では、有害事象は虚血性心疾患であり、そして「健康」である又は「外見上健康」な対象は、いずれの疾患のいずれの症状も示さない。
【0024】
しかしながら、一般に、「健康」である又は「外見上健康」な対象が特定の疾患に罹患している場合、本発明による又は本明細書中に規定される最初の有害事象は、この特定の疾患であり得ない。例えば、「健康」である又は「外見上健康」な対象が糖尿病に罹患しているのであれば、本明細書中に規定される最初の有害事象は、糖尿病でない。外見上健康な対象が高血圧症に罹患しているのであれば、本明細書中に規定される最初の有害事象は、高血圧症でない。
【0025】
外見上健康な人とは、ある事象又は病態を患っている又は患ったことがあると今までのところ診断されていない人なので、外見上健康な人は健康であると見なされる人であることを意味している前述の対象の健康を含めて、健康及び外見上健康な対象のサブグループは、本願発明によると、同様の対象のサブグループである。
【0026】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、前述のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルが測定され、そして単一マーカーとして使用される。
【0027】
本発明の別の好ましい実施形態では、対象における最初の有害事象の予測、又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定は:CRP、LpLA2、シスタチンC、そして(ANP、プロANP、NT‐プロANP、MR‐プロANP、BNP、プロBNP、NT‐プロBNPを含めた)A型及びB型ナトリウム利尿性ペプチド、並びにそれらの前駆体及び断片、トリグリセリド、HDLコレステロール及びその亜分画、LDLコレステロール及びその亜分画、GDF15、ST2、プロカルシトニン及びその断片、(コペプチン、バソプレッシン、及びニューロフィシンを含めた)プロバソプレッシン及びその断片、(CT‐プロET‐1、NT‐プロET‐1、ビッグエンドセリン‐1、及びエンドセリン‐1を含めた)プロエンドセリン‐1を含んでなる群から選択される実験室パラメーターをさらに測定し、そして使用することによって改善される。
【0028】
以下の:CRP、LpLA2、シスタチンC、(ANP、BNP、プロANP、NT‐プロANP、MR‐プロANP、プロBNP、NT‐プロBNPを含めた)A型及びB型ナトリウム利尿性ペプチド及びそれらの前駆体や断片、GDF15、ST2、プロカルシトニン又はその断片、(コペプチン、バソプレッシン、及びニューロフィシン)プロバソプレッシン及びその断片、(CT‐プロET‐1、NT‐プロET‐1、ビッグエンドセリン‐1、及びエンドセリン‐1を含めた)プロエンドセリン‐1及びその断片、との関連で本明細書中に述べられる場合、これらの用語は、分子全体又は少なくとも12個のアミノ酸から成るその断片のいずれかを指す。
【0029】
「さらに測定すること」という用語、そういった測定が技術的に組み合わせられることを排除することはないが、含意しているとは限らない。「さらに使用すること」という用語は、有害事象を経験する対象のリスク又は有害事象を起こす高いリスクを有する対象を同定についての説明をもたらす‐実験室パラメーターであっても及び/又は臨床パラメーターであっても‐パラメーターのあらゆる種類の数学的組み合わせと規定される。そういった数学的組み合わせの一例が、コックス比例ハザード分析であって、それから有害事象を経験する対象のリスクを導き出すことができるが、その他の方法もまた同じく使用できる。
【0030】
本発明はまた、個人に関するマーカーのレベルを所定の値と比較することも伴う。この所定の値は、様々な形態を取ることができる。それは、単一カットオフ、例えば、中央値、平均、又は集団の75、90、95若しくは99パーセンタイルなどであり得る。例えば、一方の定義群のリスクがその他の定義群のリスクの二倍であるなど、それは、比較群に基づいて定められ得る。それは、範囲であり得、例えば、この場合、試験した集団は、群の中に、例えば低リスク群、中リスク群、及び高リスク群の中に、又は四分位数(最低四分位数が最低リスクを有する個人であり、最高四分位数が最高リスクを有する個人である)の中に均一に(不均一に)分配される範囲である。
【0031】
前記の所定の値は、彼らの習慣、民族性、遺伝的特徴などによって、選択された特定の集団の中で変化し得る。例えば、「健康」又は「外見上健康」な、非喫煙者集団(検出可能な疾患がなく、且つ、心血管系疾患の既往歴がない)には、喫煙集団、又は過去に心血管系生涯に罹患したことがあるメンバーの集団とは異なった「正常」範囲のマーカーがあるかもしれない。従って、選択された所定の値は、個人が入っているカテゴリーを考慮することもある。適当な範囲及びカテゴリーは、当業者によって日常的な実験だけで選択されることができる。
【0032】
先に触れたマーカーのレベルは、いずれかの技術分野で承認されている方法によって得ることができる。典型的には、そのレベルは、体液、例えば、血液、リンパ液、唾液、尿などの中のマーカーのレベル又は活性を計測することによって測定される。そのレベルは、マーカーのレベルを測定するための免疫測定法又はその他の従来型の手法によって測定されることができる。承認されている方法には、計測のために患者の体液サンプルを民間試験所に送ることを含んでいるが、治療の場における計測もまた実施する。
【0033】
マーカーの特定の組み合わせは、対象における有害事象を予測するか、又は有害事象を起こす高いリスクを有する対象を同定するのに特に有益であるように思われる。
【0034】
よって、本発明の一態様では、プロアドレノメデュリン又はその断片と組み合わせた以下のマーカー:プロBNP又は少なくとも12個のアミノ酸を有するその断片若しくは前駆体、CRP、LpLA2、のレベルだけを測定し、そして使用する。この特定の組み合わせは、最初の心血管系事象が対象において予測されるか、又は対象が最初の心血管系事象を起こす高いリスクを有すると同定される場合において特に有益であるように思われる。
【0035】
あるいは又はさらに、測定されたプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルは、おそらく、臨床パラメーターと組み合わせられる。よって、本発明の別の好ましい実施形態では、対象における最初の有害事象の予測、又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定が、プロアドレノメデュリン又はその断片に加えて、以下の:年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧処置、ボディーマスインデックス、糖尿病の存在、習慣的な喫煙から成る群から選択される臨床パラメーターを測定し、そして使用することによって改善される。
【0036】
本発明の別の好ましい実施形態では、対象における有害事象の予測、又は有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定は、プロアドレノメデュリン又その断片に加えて、前述の群から選択される臨床及び実験室パラメーター、例えばバイオマーカーを測定し、そして使用することによって改善される。
【0037】
本発明による方法の別の態様では、プロアドレノメデュリン又はその断片と組み合わせて、以下のマーカー:プロBNP、又は少なくとも12個のアミノ酸を有するその断片若しくは前駆体のレベルだけが測定され、そして使用される。この特定の組み合わせは、対象において冠状動脈事象が予測されるか、又は冠状動脈事象、特に最初の冠状動脈事象が起こる高いリスクを有する対象が同定される場面において、特に有益であるように思われる。
【0038】
本発明による方法の具体的な態様では、前述のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルの使用には、前述のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを閾値レベルと比較することを含んでなり、それにより、前述のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルが前記閾値レベルを超えているとき、対象において心血管系事象若しくは最初の心血管系事象が予測されるか、又は(最初の)有害事象を起こす高いリスクを有する対象が同定される。
【0039】
そういった閾値レベルは、例えば、カプラン‐マイヤー分析(図6)から得ることができるが、ここで、調査された集団における経時的な冠状動脈事象の出現は、集団のMR‐プロADM四分位数に準じて描かれる。この分析によると、調査された集団において75パーセンタイルを超える、すなわち、0.52nmol/Lを超えるMR‐プロADMレベルを有する対象は、最初の有害冠状動脈事象を起こす有意に高いリスクを有する。この結果は、古典的なリスク因子に関する完全な調整を伴ったコックス回帰分析によってさらに裏付けられる:最高MR‐プロADM四分位数(0.52nmol/Lを超えるMR‐プロADMレベルを有するすべての対象)対その他のすべての対象は、最初有害冠状動脈事象を起こす高いリスクに極めて有意に関連している(HR=1.6 95% CI 1.2〜2.2)。
【0040】
その他の好ましいカットオフ値は、例えば、正規母集団の90、95、又は99パーセンタイルである。75パーセンタイルより高いパーセンタイルを使用することによって、当業者は同定される偽陽性対象の数を減らせるが、まだまだ高いリスクであるにもかかわらず、中程度の対象の同定を見逃す恐れがある。よって、当業者は、「偽陽性」も同定することを犠牲にしてリスクを有する対象の大部分を同定することがより適当であると考えるかどうか、あるいは、中程度のリスクを有する数人の対象を見逃すことを犠牲にして高リスクを有する対象を中心に同定することがより適当であると考えるかどうかによってカットオフ値を採用することもできる。
【0041】
個人のMR‐プロADM値とその他の予後実験室及び臨床パラメーターを使用することによって個人のリスクを計算するその他の数学的可能性は、例えば、NRI(正味の再分類指数)又はIDI(統合判別指数)である。指数は、Pencinaに従って計算できる(Pencina MJ, et al.: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond. Stat Med. 2008; 27: 157-172)。
【0042】
簡単に言えば、(ATPIIIリスクアルゴリズム、<10、10〜<20及び20+% 10年リスク、によるCVDリスククラスに基づいて)NRI(正味の再分類指数)は、‐古典的なリスク因子のモデルに対して、例えばMR‐プロADMを追加することによって‐当業者が、実際に事象を起こしたことのある有意に多くの対象をより高リスククラスに移し、そして事象を起こしたことがなかった対象をより低リスククラスに移すかどうか算出する。IDI(統合判別指数)は、同様のことをおこなうが、<10、10〜<20及び20+% 10年リスクの境界を無視し、代わりに「全統合動向(total integrated movement)」を計算する、すなわち、連続的なリスク尺度上を上昇する事象を患った対象、及び連続したリスク尺度上を降下する事象を患わなかった対象にMR‐プロADM動向の追加をおこなう。
【0043】
患者が第二の予防患者として処置されるべきであることを意味し、そのため、(予防に関する心臓学的ガイドラインに従って)処置すべきものを意味する、20%の「不思議な境界」を越えた場合、NRIには臨床的関連性がある。
【0044】
よって、本発明はまた、先の請求項のいずれかにより、対象において有害事象が起こるリスクの予測方法、又は有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定方法に関係するが、ここで、以下の代替手段:
・「健康」である又は「外見上健康」な対象の集団内の所定のサンプルの集合中のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルの中央値を用いた比較、
・外見上健康な対象の集団内の所定のサンプルの集合中のプロアドレノメデュリンのレベルの四分位数(例えば75、90、95又は99パーセンタイル)を用いた比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく、又はリスク指標計算、例えばNRI(正味の再分類指数)やIDI(統合判別指数)など、を使用することによる計算、
から選択することができる方法によって、プロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを単独で、又はその他の予測として有用な実験室又は臨床パラメーターと組み合わせて有害事象を起こす対象のリスクの予測に使用する。
【0045】
本発明による方法の好ましい実施形態では、前述のサンプルは、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、及び尿サンプル、又は先に記載のサンプルのいずれかの抽出物を含んでなる群から選択される。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態では、MR‐プロADMのレベルが計測される。MR‐プロADMは、プレプロADMの第45〜92アミノ酸を含んでなる。
【0047】
本発明の別の好ましい実施形態では、プロアドレノメデュリン又はその断片のレベルは、プレプロADMの第45〜92アミノ酸位置にある1つ若しくは複数のエピトープに向けられた1つ若しくは複数の捕獲プローブを使用した診断アッセイを使用することで計測される。
【0048】
本明細書中で言及される場合、「アッセイ」又は「診断アッセイ」は、診断分野で適用される任意のタイプのアッセイである。そういったアッセイは、一定の親和性を有する1つ若しくは複数の捕獲プローブに対する、検出されるべき分析物の結合に基づくこともできる。捕獲分子と、標的分子又は着目の分子との相互作用に関して、親和定数が108-1より高いことが好ましい。
【0049】
本発明との関連で、「捕獲分子」とは、サンプルから標的分子又は着目の分子、すなわち、分析物を結合するのに使用できる分子である。よって、捕獲分子は、標的分子又は着目の分子を特異的に結合するために空間的に、及び表面特徴、例えば表面荷電、疎水性、親水性、ルイス・ドナー及び/又はアクセプタの有無などに関して、適切に形成されなければならない。これにより、その結合は、捕獲分子と標的分子又は着目の分子の間の、例えば、イオン結合、フェンデルワールス結合、π‐π結合、σ‐π結合、疎水結合、又は水素結合相互作用、あるいは先に触れた相互作用の2つ以上の組み合わせによって媒介され得る。本発明との関連で、捕獲分子は、例えば、核酸分子、炭水化物分子、PNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド又は糖タンパク質を含んでなる群から選択できる。好ましくは、捕獲分子は、標的又は着目の分子に対して十分な親和性を有するそのフラグメントを含めた抗体、及び組み換え抗体又は組み換え抗体フラグメント、並びに前述の抗体又は少なくとも12アミノ酸の長さがある変異鎖由来のそのフラグメントの化学的に及び/又は生化学的に修飾された誘導体を含めた抗体である。
【0050】
好ましい検出法には、例えば、様々な形式の免疫測定法、例えば放射免疫測定法、化学発光及び蛍光免疫測定法など、酵素結合免疫測定法(ELISA)、Luminexベースのビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイ測定法、並びに迅速試験形式、例えばイムノクロマトグラフィーストリップ試験などが含まれる。
【0051】
前記アッセイは、均一系又は不均一系アッセイ、競合及び非競合サンドイッチアッセイである。特に好ましい実施形態では、アッセイはサンドイッチアッセイの形態であり、そしてそれは非競合免疫測定法である、この場合、検出されるべき及び/又は定量されるべき分子は、一次抗体に結合し、そして二次抗体に結合する。その一次抗体は、固相、例えば、ビーズ、ウェル又はその他の容器の表面、チップ又はストリップに結合させることもでき、そして二次抗体は、例えば、色素、放射性同位元素、又は反応性若しくは触媒活性部分で標識されている抗体である。次いで、分析物に結合した標識抗体の量が、適当な方法によって計測される。「サンドイッチアッセイ」に関連する一般的な組成物及び手順は、十分に確立されており、当業者に知られている(The Immunoassay Handbook, Ed. David Wild, Elsevier LTD, Oxford; 3rd ed. (May 2005), ISBN-13: 978-0080445267; Hultschig C et al, Curr Opin Chem Biol, 2006 Feb; 10(1): 4-10. PMID: 16376134)(これらの文献を本明細書中に援用する)。
【0052】
特に好ましい実施形態では、アッセイには、2つの捕獲分子、できれば、(その中で一次マーキング成分が一次捕獲分子に付着する)液体反応混合物中の分散液の状態で共に存在している抗体が含まれる、この場合、前述の一次マーキング成分は、蛍光又は化学発光クエンチング又は増幅に基づくマーキングシステムの一部であり、そして分析物への両捕獲分子の結合により、サンプルを含んでいる溶液中での形成されたサンドイッチ複合体の検出を可能にする計測可能なシグナルが作り出されるように、前述のマーキングシステムの二次マーキング成分が二次捕獲分子に付着する。
【0053】
前述のマーキングシステムが、蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニン型の色素と組み合わせて、希土類クリプテート又は希土類キレートを含んでいるのがよりいっそう好ましい。
【0054】
本発明との関連で、蛍光ベースのアッセイは色素の使用を含んでなるが、その色素は、以下のものを含んでなる群から選択され得る:例えばFAM(5‐若しくは6‐カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、IRD‐700/800、シアニン色素、例えばCY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7など、キサンテン、6‐カルボキシ‐2’,4’,7’,4,7‐ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6‐カルボキシ‐4’,5’‐ジクロロ‐2’,7’‐ジメトキシフルオレセイン(JOE)、N,N,N’,N’‐テトラメチル‐6‐カルボキシローダミン(TAMRA)、6‐カルボキシ‐X‐ローダミン(ROX)、5‐カルボキシローダミン‐6G(R6G5)、6‐カルボキシローダミン‐6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY色素、例えばBODIPY TMRなど、オレゴングリーン、クマリン、例えばウンベリフェロンなど、ベンズアミド、例えばヘキスト 33258など;フェナントリジン、例えばテキサスレッドなど、Yakima Yellow、Alexa Fluor、PET、エチジウムブロミド、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素など。
【0055】
本発明との関連で、化学発光ベースのアッセイは、Kirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology, 4th ed., executive editor, J. I. Kroschwitz; editor, M Howe-Grant, John Wiley & Sons, 1993, vol.15, p. 518-562の中の化学発光物質に関して記載されている物理原理に基づく、色素の使用を含んでなる(前記文献を、551〜562ページにおける引用を含めて本明細書中に援用する)。好ましい化学発光色素は、アクリジニウムエステルである。
【0056】
特に好ましい実施形態では、0.3nmol/L未満の検出限界、及び対象における最初の有害事象の予測又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定に関して正規範囲内で<30%CVの分析法間精度を有するMR‐プロADMアッセイが使用される。
【0057】
本発明の他の実施形態は、捕獲プローブ、例えば対象における最初の有害事象を予測するか又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象を同定するための、プロアドレノメデュリン又はその断片に対する抗体、の使用である。
【0058】
本発明との関連で、プレプロADMの第45〜92アミノ酸位置の中に含まれているエピトープに対する1つ若しくは複数の抗体の使用が特に好まれる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】アドレノメデュリン(ADM)前駆体ペプチド(プレプロADM)のアミノ酸配列。第1〜21アミノ酸は、シグナルペプチドを形成する。第22〜41アミノ酸は、プロADM N‐20端末ペプチド(プロADM N20)を形成する。第45〜92アミノ酸は、MR‐プロADMペプチドを形成する。成熟ADMは、第95〜146アミノ酸を含んでなる。第148〜185アミノ酸は、プロADM C末端断片を形成する。
【図2】プロアドレノメデュリンペプチド(プロADM)のアミノ酸配列。
【図3】プロアドレノメデュリンN末端20ペプチド(プロADM N20;PAMP)のアミノ酸配列。PAMPペプチドは、アミド化されたC末端をもつこともある。
【図4】MRプロアドレノメデュリン(MR‐プロADM)のアミノ酸配列。
【図5】成熟アドレノメデュリンペプチド(ADM)のアミノ酸配列。ADMペプチドは、アミド化されたC末端をもつこともある、及び/又はグリコシル化されていることもある。
【図6】MR‐プロADM四分位数の中で分類された調査される集団の冠状動脈事象に関するカプラン‐マイヤープロット。
【実施例】
【0060】
以下の実施例は、本発明についてさらに詳細に概説するが、本発明の内容を制限するものではない。
方法
調査対象集団
Malmo Diet and Cancer(MDC)調査は、1991年〜1996年の間に登録された28449人から成る地域密着型のプロスペクティブ疫学的コホートである。このコホートから、6103人をMDC心血管系コホートに無作為に選択した。そのコホートは、アテローム性動脈硬化症の疫学を調査するために設計された。心疾患リスク因子と血漿バイオマーカーに関する完全なデータは、4707人の対象について入手可能であった。ベースラインにおける高頻度の心血管系疾患を患っている参加者の除外後に、冠状動脈事象の分析の参加者は4601人、そしてすべての心血管系事象の分析の参加者は4483人だった。
【0061】
臨床検査とアッセイ
すべての参加者が、病歴、身体的検査、及び標準的な心疾患リスク因子の実験室評価を受けた。血圧を、あおむけでの10分間の安静後に水銀血圧計を使用して計測した。真性糖尿病を、6.0mmol/L超の空腹時血糖値、自己申告による医師の糖尿病診断、又は抗糖尿病薬物療法の使用と規定した。喫煙は、過去一年以内のあらゆる喫煙と規定された現在の喫煙があれば、自己記入アンケートによってわかった。我々は、空腹時総コレステロール、HDLコレステロール、及びトリグリセリドをDepartment of Clinical Chemistry, University Hospital Malmoの標準的な手法に従って計測した。LDLコレステロールを、フリードワルドの式に従って計算した。
【0062】
採血直後に−80℃にて冷凍した空腹時血漿標本を使用して、参加者全員が、心血管系バイオマーカーの評価を受けた。C反応性タンパク質を、高感度アッセイによって計測した(Tina-quant CRP, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)。LpPLA2活性を、基質として[3H]‐血小板活性化因子を使用して二重反復試験で計測した(Persson M, et al.: Elevated Lp-PLA2 levels add prognostic information to the metabolic syndrome on incidence of cardiovascular events among middle-aged nondiabetic subjects. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007; 27: 1411-1416)。MR‐プロANP及びMR‐プロADMを、それぞれのペプチドの中間領域内のアミノ酸を標的とした免疫発光サンドイッチアッセイを使用して計測した(BRAHMS, AG, Germany)(Morgenthaler NG, et al.: Immunoluminometric assay for the midregion of pro-atrial natriuretic peptide in human plasma. Clin Chem. 2004; 50: 234-236; Morgenthaler NG, et al.: Measurement of midregional proadrenomedullin in plasma with an immunoluminometric assay, Clin Chem. 2005; 51: 1823-1829)。NT‐プロBNPを、Dimension RxL N‐BNP(Dade-Behring, Germany)を使用して測定した(Di SF, et al.: Analytical evaluation of the Dade Bearing Dimension RxL automated N-Terminal proBNP (NT-proBNP) method and comparison with the Roche Elecsys 2010. Clin Chem Lab Med. 2005; 43: 1263-1273)。シスタチンCを、粒子増強免疫比濁分析測定法(N Latex Cystatin C, Dade Behring, IL)を使用して計測した(Shlipak MG, et al.: Cystatin C and the risk of death and cardiovascular events among elderly persons. N Engl J Med. 2005; 352: 2049-2060)。
【0063】
臨床の終点
我々は2つの一次転帰:冠状動脈事象及びすべての心血管系事象を調べた。転帰事象を確かめる手順は、先に詳述した(Rosvall M, et al.; Incident coronary events and case fatality in relation to common carotid intima-media thickness. J Intern Med. 2005; 257: 430-437; Rosvall M, et al.; Incidence of stroke is related to carotid IMT even in the absence of plaque. Atherosclerosis. 2005; 179: 325-331)。冠状動脈事象を、心筋梗塞を含めた致命的若しくは非致命的な急性冠状動脈症候群、又は虚血性心疾患に起因する死亡と規定した。すべての心血管系事象を、心筋梗塞を含めた致命的若しくは非致命的な急性冠状動脈症候群、致命的若しくは非致命的な脳卒中、又は心血管系疾患に起因する死亡と規定した。2冊の登録簿‐スウェーデンの病院の退院登録簿及びスウェーデン人の死亡登録簿‐と、スウェーデン市民それぞれの10桁の個人識別番号との関連によって、事象を同定した。心筋梗塞を、国際疾病分類第9版及び第10版(ICD9及びICD10)のそれぞれコード410及び121に基づいて規定した。虚血性心疾患に起因する死亡を、スウェーデンの死因登録簿のコード412と414(ICD9)又は122‐123と125(ICD10)に基づいて規定した。致命的若しくは非致命的な脳卒中には、コード430、431、及び434(ICD9)を使用している。これらの登録簿を使用した転帰の分類は、すでに妥当性が確認されている(Engstrom G, et al.: Geographic distribution of stroke incidence within an urban population: relations to socioeconomic circumstances and prevalence of cardiovascular risk factors, Stroke, 2001; 32: 1098-1103)。転帰に関する経過観察を、2003年12月31日まで延長した。
【0064】
統計的分析
傾斜分布をもつ連続性バイオマーカー変数を、分析前にlog変換した。我々は、多変数コックス比例ハザードモデルを実施して、バイオマーカーと付随事象との関連性を調べた。我々は、ハザード仮定の比例性を満たしていることを確認した。ハザード比を、それぞれのバイオマーカーにおいて1SD増分単位で表した。各バイオマーカーを、従来のリスク因子(年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧処置の使用、現在の喫煙、糖尿病、LDLコレステロール、HDLコレステロール、及びボディーマスインデックス)に関する調整を伴った各終点に対して個別に試験した。次に、転帰との有意な相関を示すバイオマーカーのすべてを、従来のリスク因子を押し込みながら変数減少モデルに組み込んだ。
このモデル中にバイオマーカーを保持するための評価基準として、P<0.05を使用した。
【0065】
モデル識別を評価するために、我々は、バイオマーカーのあるなしにかかわらず従来のリスク因子を含むモデルについてC統計値を計算した。C統計値は、受信者動作特性曲線下面積の一般化である(Pencina MJ, et al.: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond. Stat Med. 2008; 27; 157-172)。我々は、転帰として10歳の時に冠状動脈又は心血管系事象の発生率を使用した。リスクモデルの全体的な較正を評価するために、我々は、バイオマーカーのあるなしにかかわらずモデルについてホスマー‐レメショウ統計値について計算した。ホスマー‐レメショウ統計値についての有意ではないp値は、予測リスクの十分位数の全域での予測された事象率と観察された事象率の間の良好な一致を意味する。
【0066】
我々はまた、先に示した方法に従って、全米コレステロール教育プログラムの成人処置パネルIII(ATP3)リスクカテゴリー全域でリスクを再分類するバイオマーカーの能力も評価した(Ridker PM, et al.: Development and validation of improved algorithms for the assessment of global cardiovascular risk in women: the Reynolds Risk Score. JAMA. 2007; 297: 611-619; Pencina MJ, et al.: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond. Stat Med. 2008; 27: 157-172)。従来のリスク因子スコアに基づいて、参加者を、最初に、彼らの冠状動脈事象の予測される10年リスクが、それぞれ<10%、10%〜<20%、又は≧20%であった場合に、低、中、又は高リスクとして分類した。次いで、参加者は、バイオマーカーデータを追加して異なるカテゴリーに再分類されることを許容された。我々は、再分類された参加者数を算定し、そして以下に記載のとおり、ネット再分類指数(NRI)と統合判別指数(IDI)も計算した(Pencina MJ, et al.: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond. Stat Med. 2008; 27: 157-172)。NRIの計算では、個人は、彼らがより高いカテゴリーに再分類され、それに続いて冠状動脈事象を発症した場合か、又はより低いカテゴリーに再分類され、そして経過観察の間、事象なしのままであった場合、正確に再分類されたと見なされた。IDIはモデル性能と似た尺度であるので、リスクモデルが事象を発症する人により高い確率を割り当て、事象がないままの人により低い確率を割り当てるとき、IDIが改善する。NRIとは対照的に、IDIは、連続確率に基づいているので、そのため、指数単位の改善は、リスクカテゴリー閾値全域の動向に依存していない。
【0067】
R(www.r‐project.org)用のサバイバルパッケージを使用して実施したハザード仮定の比例性に関する検定、及びR用のROCRパッケージを使用して作成したC統計値を除いたすべての分析を、Stataソフトウェア・バージョン8.0(StataCorp)を使用して実施した。両側P値が0.05未満であった場合に、検定が有意であると見なした。
【0068】
結果
調査サンプルの特徴を表1に示す。サンプルの平均年齢は58歳であった。
単一バイオマーカーを使用した心血管系事象の予測
10.6年の平均経過観察中、最初の心血管系事象及び最初の冠状動脈事象が、それぞれ288人及び169人の参加者に起こった。個々のバイオマーカーと心血管系事象との関連に関するコックス比例ハザードモデルの結果を、表2に示す。従来のリスク因子に関する調整後に、6種類のバイオマーカーのうちの5種類(NT‐プロBNP、CRP、シスタチンC、MR‐プロADM、LpPLA2)が、付随的な心血管系事象の有意な予測因子であった。
【0069】
古典的なリスク因子に個々のバイオマーカーを追加することによる予後予測能をまとめるために、いくつかの測定基準を使用した(表2)。古典的なリスク因子に基づいたモデルには、0.772のC統計値があり、個々のバイオマーカーの追加がC統計値の微増をもたらした(<0.005)。モデルは、バイオマーカーが含まれているかどうかにかかわらず、ホスマー‐レメショウp値>0.05に十分に較正された。NRIもIDIも、すべてのバイオマーカーに関して有意でなかった。
【0070】
単一バイオマーカーを使用した冠状動脈事象の予測
冠状動脈事象に関するコックス比例ハザードモデルの結果を、表3に示す。古典的なリスク因子と共に個別にモデルに入力されるとき、6種類のバイオマーカーのうちの4種類(NT‐プロBNP、MR‐プロANP、シスタチンC、MR‐プロADM)が、付随的な冠状動脈事象の有意な予測因子であった。NT‐プロBNPとMR‐プロADMの上昇は、それぞれ1.24(95%の信頼区間、1.07〜1.44)及び1.25(95%の信頼区間、1.10〜1.42)の1SD増分あたりの調整ハザード比で、冠状動脈事象に関する最も高いハザードに関連した。
【0071】
冠状動脈事象の予測に関する古典的なリスク因子に関連したC統計値は、0.777であった。心血管系事象を用いた場合、個々のバイオマーカーの追加は実質的にC統計値を上げなかった(表3)。モデル較正は、バイオマーカーの有無にかかわらず、良好であった(ホスマー‐レメショウ p>0.05)、そしてNRIは有意ではなかった。IDIは、MR‐プロADMに関して有意であり(p=0.02)、及び境界はNT‐プロBNPに関して有意であった(p=0.05)。
【0072】
心血管系事象及び冠状動脈事象に関する複合バイオマーカー
バイオマーカーの組み合わせを、心血管系事象及び冠状動脈事象に関する予測モデルにバイオマーカーを1セットとして入力することによって検定した。次いで、保持基準としてp<0.05を使用した段階的変数減少法を使用して、有益とはいえないバイオマーカーを排除した。3種類のバイオマーカーを心血管系事象の予測のために保持し(NT‐プロBNP、CRP、及びLpPLA2)、そして2種類のバイオマーカーを冠状動脈事象の予測のために保持した(NT‐プロBNP及びMR‐プロADM)。両転帰に関して、多変数コックス比例ハザードモデルの結果を、表4に示す。心血管系事象及び冠状動脈事象に関する予測モデルへの有意バイオマーカー・セットの組み込みは、c-統計値のわずかな増分(約0.01)につながった。NRIは、いずれの転帰に関しても有意でなかった。その一方、IDIは、心血管系事象について0.06のp値、そして冠状動脈事象について0.02のp値をもっていた。
表5には、それぞれ心血管系事象(パネルA)及び冠状動脈事象(パネルB)に関してバイオマーカーを使用して再分類した参加者の数を示す。心血管系事象に関しては、バイオマーカーの使用が、273人の参加者(6%)をより高い若しくはより低いリスクカテゴリーに移された。39人(0.8%)の参加者だけが、高リスクカテゴリーに移行した(10年予測リスク≧20%)。冠状動脈事象に関しては、137人(3%)の参加者が、より高い若しくはより低いリスクカテゴリーに再分類され、22人(0.5%)だけが高リスクカテゴリーに移された。
【0073】
単純バイオマーカーリスクスコアを、各終点について構成した。心血管系事象を予測する3種類のバイオマーカーに関するベータ係数は、冠状動脈事象を予測する2種類のバイオマーカーに関するベータ係数と大きさが類似していた。よって、我々は、バイオマーカーリスクスコアと同じように、バイオマーカーのそれぞれに加重することを決めた。心血管系疾患に関しては、平均を1SD超上回るレベルを有すると規定される、上昇したバイオマーカーの数に対応した0、1、2、又は3のスコアを各参加者に割り当てた。同じような形で、冠状動脈事象に関して、0、1、又は2のスコアを各参加者に割り当てた。図6は、バイオマーカーリスクスコアの値による、心血管系事象(パネルA)又は冠状動脈事象(パネルB)の累積発現率を描く。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康な対象において有害事象が起こるリスクの予測方法、又は有害事象を起こす高いリスクを有する健康な対象の同定方法であって、以下のステップ:
・前記対象から採取したサンプル中のプロアドレノメデュリン又は少なくとも12個のアミノ酸から成るその断片のレベルを測定し;そして
・前記のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを、最初の有害事象の予測に使用するか、又は最初の有害事象を起こすリスクをそれから推測する、ここで、前記対象は健康である、
を含んでなる前記方法。
【請求項2】
前記有害事象が、冠状動脈事象又は心血管系事象である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、以下の:喫煙、糖尿病、高脂血症、高血圧症、高いボディーマスインデックス、男性、抗高血圧処置、及び年齢を含んでなる群から選択される従来のリスク因子の点では負担が低い対象である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを測定し、そして単一マーカーとして使用する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、以下の:CRP、LpLA2、シスタチンC、そして(ANP、プロANP、NT‐プロANP、MR‐プロANP、BNP、プロBNP、及びNT‐プロBNPを含めた)A型及びB型のナトリウム利尿性ペプチド並びにそれらの前駆体及びその断片、トリグリセリド、HDLコレステロール又はその亜分画、LDLコレステロール又はその亜分画、GDF15、ST2、プロカルシトニン及びその断片、(コペプチン、バソプレッシン、及びニューロフィシンを含めた)プロバソプレッシン及びその断片、(CT‐プロET‐1、NT‐プロET‐1、ビッグエンドセリン‐1、及びエンドセリン‐1を含めた)プロエンドセリン‐1及びその断片を含んでなる群から選択される追加的なマーカーのうちの少なくとも1種類のレベルを測定し、そして使用することによって、対象における最初の有害事象の予測又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定が改善される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
プロアドレノメデュリン又は断片と組み合わせて、以下のマーカー:プロBNP又は少なくとも12個のアミノ酸をもつその断片若しくは前駆体、CRP、LpLA2、のレベルだけを測定し、そして使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
最初の心血管系事象が対象において予測されるか、又は対象が、最初の心血管系事象を起こす高いリスクを有すると同定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プロアドレノメデュリン又は少なくとも12個のアミノ酸をもつその断片と組み合わせて、以下のマーカー:プロBNP又は少なくとも12個のアミノ酸をもつその断片若しくは前駆体のレベルだけを測定し、そして使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
最初の冠状動脈事象が対象において予測されるか、又は対象が最初の冠状動脈事象を起こす高いリスクを有すると同定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
さらに、以下の:年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧処置、ボディーマスインデックス、真性糖尿病の存在、現在の喫煙を含んでなる群から選択される臨床パラメーターのうちの少なくとも1種類を測定する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の、対象において有害事象が起こるリスクの予測方法、又は有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定方法であって、以下の代替手段:
・「健康」である又は「外見上健康」な対象の集団内の所定のサンプルの集合中のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルの中央値を用いた比較、
・「健康」である又は「外見上健康」な対象の集団内の所定のサンプルの集合中のプロアドレノメデュリン又はその断片のレベルの四分位数を用いた比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく計算、又はリスク指標計算、例えばNRI(正味の再分類指数)若しくはIDI(統合判別指数)などを使用することによる計算、
から選択することができる方法によって、プロアドレノメデュリン又はその断片のレベルを単独で、又はその他の予測として有用な実験室又は臨床パラメーターと組み合わせて有害事象を起こす対象のリスクを予測するために使用する、前記方法。
【請求項12】
前記のMR‐プロADMのレベルを、プレプロADMの第45〜92アミノ酸位置にある1つ又は複数のエピトープに対する1つ又は複数の捕獲プローブを含んでなる診断アッセイを使用して計測する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
0.3nmol/L未満、及び/又は健康な対象の集団の中央値を下回る検出限界、そして対象における最初の有害事象の予測又は最初の有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定に関して正規範囲内で<30%CVの分析法間精度を有するMR‐プロADMアッセイの使用。
【請求項14】
対象における有害事象を予測又は有害事象を起こす高いリスクを有する対象の同定のための、プロアドレノメデュリン又はその断片に対する捕獲プローブの使用。
【請求項15】
前記捕獲プローブが、プレプロADMの第45〜92アミノ酸位置にあるエピトープに向けられている、請求項14に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−505388(P2012−505388A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530422(P2011−530422)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007301
【国際公開番号】WO2010/040564
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(508093584)ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (27)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)