説明

最適化解析ナビゲーションシステム

【課題】ユーザが如何なる最適化解析手法を用いるのか等を意識することなく種々の最適化解析を実行することが可能な最適化解析ナビゲーションシステムを提供する。
【解決手段】最適化解析を行う最適化解析ナビゲーションシステムには、複数の最適化解析手法に応じた複数の解析ソフトウェア4がリンクされている。中央処理部5では、複数の最適化解析手法に関連付けられる複数の文章群をユーザが選択可能なようにユーザに提示する。そして、入力装置2により、文章群に応じて目的関数、拘束関数、設計変数に関連付けられるキーワードをユーザにより入力可能としている。システムは、選択された文章群に応じて、必要な解析ソフトウェアを選択し、入力されたキーワードを用いて、目的関数、拘束関数、設計変数を決定して解析ソフトウェアを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は最適化解析ナビゲーションシステムに関し、特に、ユーザからの指示により複数の最適化解析手法から必要なものを適宜選択して実行可能な最適化解析ナビゲーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
最適化解析とは、コンピュータを用いて製品の設計や製造、工程設計等を事前に解析・検討することをいい、CAE(Computer Aided Engineering)ともいわれるものである。CAEには製品の最適な設計、量産品の性能検証、設計変更を行う場合の最適条件等、種々の用途があり、これら最適設計のための支援ツールが種々開発されている。最適化の例としては、曲面応答法最適化、感度解析を使った最適化、ベーシスベクトル法最適化、多目的最適化等が挙げられる。現在市場で入手可能な最適化解析ソフトウェアとしては、LMS OPTIMUSやiSIGHT等が知られている。これらのソフトウェアは、上記の曲面応答法最適化、感度解析を使った最適化、ベーシスベクトル法最適化、多目的最適化等を行うことが可能である。
【0003】
これらCAE解析においては、最適化解析手法を使いこなすには数値解析に必要な数学的知識や物理法則等の理解が要求されるため、相当の訓練が必要であり専門のオペレータに頼らざるを得ないものであった。そのため、簡単にCAE解析を行うことができるように種々の試みがされている。例えば、初心者でも解析の収束性を判断できるようにし、解析条件の傾向を調べることによって解析条件を修正できるようにしたシステムとして、特許文献1に開示のものがある。
【0004】
また、特許文献2には、複数台の端末装置を用いて同じ解析対象物に対してCAE解析を行うシステムが開示されている。さらに、特許文献3には、CAEの汎用操作部分をナビゲーション形式の汎用作業手順とすることにより、汎用的に使用することができるシステムが開示されている。さらにまた、特許文献4には、解析を行おうとする特定の対象物の解析ノウハウの部分を変更することで汎用解析ソフトを専用解析ソフトとすることが可能なシステムが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−268422号公報
【特許文献2】特開2005−276151号公報
【特許文献3】特開2003−316832号公報
【特許文献4】特開2002−202997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来のシステムは何れも未だ簡単に使いこなせるものではなかった。最適化解析を行うためには、最適化解析手法の選択、目的関数、拘束関数、設計変数の選択、解析を可能とするソフトウェアの選択等が必要となるが、最適化解析を初めて行うユーザはこれらの選択を簡単に行うことができなかった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ユーザが如何なる最適化解析手法を用いるのか等を意識することなく種々の最適化解析を実行することが可能な最適化解析ナビゲーションシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による最適化解析ナビゲーションシステムは、複数の最適化解析手法に応じた複数の解析ソフトウェアとリンクするリンク手段と、複数の最適化解析手法に関連付けられる複数の文章群をユーザが選択可能なようにユーザに提示し、文章群に応じて目的関数、拘束関数、設計変数に関連付けられるキーワードをユーザにより入力可能な入力手段と、入力手段により選択される文章群に応じて、複数の最適化解析手法から必要な最適化解析手法を実行可能な解析ソフトウェアを選択する選択手段と、入力手段により入力されるキーワードを用いて、目的関数、拘束関数、設計変数を決定し、選択手段により選択される解析ソフトウェアを、リンク手段を介して実行する実行手段と、を具備するものである。
【0009】
さらに、実行手段による実行手順に対応する課題及び解決手段を履歴情報として蓄積する蓄積手段と、入力手段からの入力情報に応じて蓄積手段に蓄積される過去の履歴情報から類似の実行手順に対応する課題及び解決手段を検索する検索手段と、検索手段により検索される類似の課題及び解決手段を表示する表示手段と、を具備していても良い。
【0010】
また、入力手段は、インタラクティブに入力可能であれば良い。
【0011】
さらに、入力手段は、キーボード及び/又は音声により入力可能であっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の最適化解析ナビゲーションシステムには、ユーザが単に文章群を選択してキーワードを入力するだけで、システムが必要な最適化解析手法を選択して実行できるため、誰でも簡単に最適化解析が行えるようになるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムの概略を説明するためのブロック図である。図示の通り、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムは、コンピュータ等の電子計算機1と、それに接続される入力装置2及び表示装置3とからなるハードウェアを用いるものである。また、複数の最適化解析手法に応じた複数の解析ソフトウェア4が最適化解析ナビゲーションシステムとリンクしている。解析ソフトウェア4は、例えば、曲面応答法最適化、感度解析を使った最適化、ベーシスベクトル法最適化、多目的最適化等を行うのにそれぞれ適したソフトウェアである。また、解析ソフトウェア4は電子計算機1以外の他のコンピュータや記憶装置に蓄積されるものであっても良いし、電子計算機1内の記憶装置に蓄積されるものであっても良い。解析ソフトウェアと最適化解析ナビゲーションシステムとのリンクについては、複数の解析ソフトウェアに対して実行プログラムの指定や所定のパラメータの受け渡しができるようになっていれば良い。
【0014】
本発明の最適化解析ナビゲーションシステムにおいては、ユーザが所定の文章群を選択可能なように表示装置3を介してユーザに提示し、ユーザが所定のキーワードを入力装置2を介して入力できるような構成となっている。そして、中央処理部5では、ユーザにより選択された文章群に応じて複数の最適化解析手法から必要な最適化解析手法を把握し、これを実行可能な解析ソフトウェアを選択する。選択された解析ソフトウェアに対しては、ユーザにより入力されたキーワードを用いて、リンクを介して実行される。実際に解析ソフトウェアを実行するハードウェアは電子計算機1であっても良いし、他のコンピュータ等であっても良い。また、中央処理部5は、電子計算機1とは異なるハードウェアやソフトウェアを用いて構成されても良いし、電子計算機1内で動作可能なプログラムとして提供されても良い。解析が実行された結果は、表示装置3を介してユーザに提供される。
【0015】
以下、ユーザからの最適化解析ナビゲーションシステムへの情報の入力部分についてより詳細に説明する。まず、最適化解析ナビゲーションシステムは、ユーザに対して複数の最適化解析手法に関連付けられる複数の文章群を提示する。具体的には、各最適化解析手法のそれぞれに用意された代表的な文章を提示する。代表的な文章群は、例えば、図2に示されるようなものである。図2は、複数の文章群の一例を説明するためのリストである。複数の文章群は、例えばそれぞれ第1群、第2群、第3群、第4群というように内部でカテゴリ分けされており、それぞれの群が例えばそれぞれ曲面応答法最適化、感度解析を使った最適化、ベーシスベクトル法最適化、多目的最適化に関連付けられている。そして、各文章群は、必要な目的関数、拘束関数、設計変数に関連付けられるキーワードの入力を促すような表示となっている。図2に示される例では、目的関数、拘束関数、設計変数に関連付けられるキーワードは、括弧書きや選択肢により任意に入力できるように構成されている。
【0016】
最適化解析ナビゲーションシステムを使用する場合、まず、ユーザに図2に示されるような複数の文章群を提示する。ユーザは、その中から自分がこれから行いたいことに一番近い文章群を選択する。そして、括弧書きの部分に任意の数値を入力したり選択肢を選択したりする。ユーザからの入力は以上である。なお、文章群はプルダウンメニュー形式で提示しても良いし、すべての文章群を一度に提示しても良い。また、マウスやキーボードだけではなく、音声によりシステムに入力できるようにしても良い。すなわち、ユーザが行いたいことをシステムに話しかけると、システムはこれに近い文章群を選択するように構成されていても良い。
【0017】
すべての情報が入力されると、最適化解析ナビゲーションシステムは、まず、選択された文章群に応じて、複数の最適化解析手法から必要な最適化解析手法を実行可能な解析ソフトウェアを選択する。本発明によれば、複数の文章群は、各最適化解析手法にそれぞれ関連付けられているため、ユーザが文章群を選択するだけで、ユーザは最適化解析手法を意識することなく、システムが必要な解析ソフトウェアを選択することが可能となる。
【0018】
そして、最適化解析ナビゲーションシステムは、ユーザにより入力された括弧書きの部分の数値や選択肢等のキーワードを用いて、解析ソフトウェアの目的関数、拘束関数、設計変数を決定した後、解析ソフトウェアを実行する。
【0019】
以下、より具体的な例を挙げて説明する。最適化解析ナビゲーションシステムが、複数の文章群を提示し、ユーザに対して「最も近い文章を選んでください」というようなナビゲーションを行い、ユーザに選択を促す。そして、ユーザが例えば第2群の文章3を選択したとする。文章3は、例えば以下のようなものである。
文章3:「補強部材貼付により複数の固有振動数をターゲット周波数まで(大幅に)上げます。この際、補強部材を全面に貼った場合の重量増加をWとしますと、重量増加は0.1W以下を拘束条件としています。」
【0020】
最適化解析ナビゲーションシステムでは、ユーザにより文章が選択されると、具体的には例えば以下のような流れでナビゲーションが行われ、ユーザに解析ソフトウェアを意識させることなく、最適化解析を行うことが可能となる。すなわち、
ナビゲーション:「この例では、1次から4次までの固有振動数を、ターゲットとする周波数にできるだけ近つけるということですので、次の一般化固有値指標が目的関数となります。すなわち一般化固有値指標の最小化問題です。位相最適化問題ですので、客室を囲む全パネル面の各有限要素の密度が設計変数となります。

ナビゲーション:「対応するモデルを構造解析ナビゲーターから呼び出して下さい。」
システム:構造解析ナビゲーションシステムから、モデルと現行の第1〜第4固有周波数を提示。
ナビゲーション:「ターゲットとする周波数は、f1から順に、f2、f3〜fmとして、mはいくつですか。」
ユーザ:m=5を入力。
ナビゲーション:「式(1)でm=5、n=2 w1〜w5をそれぞれ0.2とします。次にフレームの貼付範囲をモデル上で示して下さい。」
システム:インタラクティブにユーザにわかり易くモデルを表示。
ユーザ:モデル上で補強部材を貼付する範囲を指定。
ナビゲーション:「今指示頂いた全範囲に補強部材を貼付しますと、重量増加は20.0kgです。この削減率を記して下さい。」
ユーザ:削減率を30%と入力。
ナビゲーション:「了解です。これで準備OKです。計算しますので今暫らくお待ち下さい。」
【0021】
上述のように、最適化手法の選択やこれに必要な目的関数、設計変数、拘束関数をユーザに認識させずに誘導することで、最適化解析されたモデルが最終的に得られる。例えば、トラックのキャビネット部分の設計について、このようにして最適化された結果を図3に示す。図3に示されるように、補強部材の配置の例(図中の黒枠の部分が上述の貼付した30%の削減率の補強部材)を適用したモデルをユーザに分かりやすく表示することが可能である。
【0022】
また、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムにおいては、上述のようなナビゲーションにより解析ソフトウェアが実行されたときに、この実行手順に対応する課題及び解決手段を履歴情報として蓄積し、これを後の最適化解析において用いることも可能である。ここで、課題とは、例えば、強度剛性の場合には、最大変位をいくら以下にするのか、各部に発生する応力を降伏応力以下にできるのか、といった問題である。また、振動問題の場合には、上記の問題の他に、固有周波数を何倍にするのか、ターゲット周波数をいくつにするのか、最大振動量をいくら以下にするのか、といった問題である。そして、解決手段とは、上記の課題に対して、そのときに用いた最適化解析手法のことである。
【0023】
さらに、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムは、図1に示されるように、中央処理部5により実行された実行手順に対応する課題及び解決手段を履歴情報として蓄積するためのデータベース6が、中央処理部5に接続されていても良い。そして、データベース6に蓄積された過去の課題及び解決手段を検索するための検索部7が中央処理部5及びデータベース6に接続されている。最適化解析を行うにあたり、ユーザからの入力情報に応じて、検索部7はデータベース6に蓄積される過去の履歴情報から、類似の実行手順に対応する課題及び解決手段を検索する。そして、検索された過去の類似の解析結果の一例を、表示装置3に表示してユーザに提示する。これにより、ユーザは過去に同様の最適化解析を行った場合の課題及び解決手段を事前に把握することが可能となる。さらに、例えば図3に示されるような解析結果のモデルも同時に提示することにより、最適化解析を行うとどのように最適化されるかということが、視覚的にも分かるようになる。
【0024】
なお、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。図示例の文章群もあくまでも一例であって、文章群が所定の最適化解析手法に関連付けられるものであり、それをユーザに意識させないものであれば、その具体的な文章内容は上述のものや図示例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムの概略を説明するためのブロック図である。
【図2】図2は、複数の文章群の一例を説明するためのリストである。
【図3】図3は、本発明の最適化解析ナビゲーションシステムの解析結果の一例を表した図である。
【符号の説明】
【0026】
1 電子計算機
2 入力装置
3 表示装置
4 解析ソフトウェア
5 中央処理部
6 データベース
7 検索部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最適化解析を行う最適化解析ナビゲーションシステムであって、該システムは、
複数の最適化解析手法に応じた複数の解析ソフトウェアとリンクするリンク手段と、
複数の最適化解析手法に関連付けられる複数の文章群をユーザが選択可能なようにユーザに提示し、文章群に応じて目的関数、拘束関数、設計変数に関連付けられるキーワードをユーザにより入力可能な入力手段と、
前記入力手段により選択される文章群に応じて、複数の最適化解析手法から必要な最適化解析手法を実行可能な解析ソフトウェアを選択する選択手段と、
前記入力手段により入力されるキーワードを用いて、目的関数、拘束関数、設計変数を決定し、前記選択手段により選択される解析ソフトウェアを、前記リンク手段を介して実行する実行手段と、
を具備することを特徴とする最適化解析ナビゲーションシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の最適化解析ナビゲーションシステムであって、さらに、
前記実行手段による実行手順に対応する課題及び解決手段を履歴情報として蓄積する蓄積手段と、
前記入力手段からの入力情報に応じて前記蓄積手段に蓄積される過去の履歴情報から類似の実行手順に対応する課題及び解決手段を検索する検索手段と、
前記検索手段により検索される類似の課題及び解決手段を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする最適化解析ナビゲーションシステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の最適化解析ナビゲーションシステムにおいて、前記入力手段は、インタラクティブに入力可能であることを特徴とする最適化解析ナビゲーションシステム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の最適化解析ナビゲーションシステムにおいて、前記入力手段は、キーボード及び/又は音声により入力可能であることを特徴とする最適化解析ナビゲーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−276658(P2008−276658A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121933(P2007−121933)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000189109)湘南技術センター株式会社 (4)
【出願人】(507145950)株式会社インターローカス (2)
【Fターム(参考)】