説明

月経前症候群に起因する症状緩和剤およびその症状緩和剤を含有する飲食品

【課題】 松樹皮抽出物およびテアニンを含有することを特徴とする、月経前症候群に起因する症状緩和剤および飲食品を提供すること。
【解決手段】 テアニンを含む組成物に松樹皮抽出物を含有させることで、月経前症候群の症状を緩和することができる。特に、下腹痛や腰痛といった症状を緩和することができる。本発明に記載の月経前症候群に起因する症状緩和剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類または医薬品類として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月経前症候群に起因する症状緩和剤およびその症状緩和剤を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)とは、月経の1〜2週間前から周期的に発症し、月経開始後とともに消失する、精神的および身体的な一群の症状のことをいう。具体的には、下腹痛、腰痛、乳房の張り・痛み、頭痛、イライラ、攻撃的になる、憂鬱になる、集中できない等の症状が挙げられる。これらの症状の程度には個人差があるが、症状が重い場合には、仕事や日常生活に支障をきたす、或いは、家庭や職場における人間関係が悪化する等の問題が生じる。
【0003】
この問題を解決するため、月経前症候群の症状緩和剤が種々開発されている。医薬品としては、例えば、(a)アスピリンおよびイブプロフェンからなる群から選ばれる50〜1000mgの非ステロイド系抗炎症剤および(b)パマブロムおよびヒドロクロロチアジドからなる群から選ばれる5〜50mgの利尿剤のみを本質上含有するヒトの月経困難症および/又は月経前症候群の軽減用単位投薬量形態医薬(特許文献1)の他、(a)50〜1000mgのイブプロフェンおよび(b)5〜50mgのヒドロクロロチアジドのみを本質上含有するヒトの月経困難症および/又は月経前症候群の軽減用単位投薬量形態医薬(特許文献2)が知られている。また、その他にも食品用途としても使用可能なテアニンを含有する月経前症候群抑制組成物(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−36269号公報
【特許文献2】特許第3018160号公報
【特許文献3】特開2000−143508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のテアニンを含有する月経前症候群抑制組成物を継続的に摂取することにより、体の重さ、肩こり、眠気、脚のむくみ、乳房の違和感、集中力の低下、便秘等の月経前症候群の症状を改善することができる。しかしながら、上述のテアニンを含有する組成物では、前述したもの以外の症状、具体的には、下腹痛や腰痛といった症状を改善するまでには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、テアニンに加えて、松樹皮抽出物を含有した組成物を摂取すると、下腹痛や腰痛等といった月経前症候群の症状が大きく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
具体的には、本発明は、松樹皮抽出物およびテアニンを含有することを特徴とする、月経前症候群に起因する症状緩和剤に関するものである。好ましくは、月経前症候群に起因する症状が下腹痛または腰痛である前記症状緩和剤に関するものである。さらに好ましくは、月経前症候群に起因する症状緩和剤を含有する、飲食品に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、症状緩和剤を、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類または医薬品類として摂取することで、月経前症候群に起因する症状を緩和することができるという効果がある。特に、下腹痛や腰痛といった症状を緩和することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、後述の実施形態の記載により限定されるものではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0010】
本発明に用いられる松樹皮抽出物は、主な有効成分の一つとして、プロアントシアニジンを含有する。プロアントシアニジンは、フラバン−3−オールおよび/またはフラバン−3,4−ジオールを構成単位とする重合度が2以上の縮重合体からなる化合物群をいう。プロアントシアニジンは、植物が作り出す強力な抗酸化物質であり、植物の葉、樹皮、果実の皮および種に集中的に含まれている。なお、このプロアントシアニジンは、ヒトの体内では生成することができない物質である。
【0011】
松樹皮抽出物には、プロアントシアニジンとして重合度が2以上の縮重合体が含有される。特に、重合度が低い縮重合体が多く含まれるプロアントシアニジンが望ましい。重合度の低い縮重合体としては、重合度が2〜30の縮重合体(2〜30量体)が望ましく、重合度が2〜10の縮重合体(2〜10量体)がより望ましく、重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)がさらに望ましい。重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)のプロアントシアニジンは、特に体内に吸収されやすい。本明細書では、重合度が2〜4の重合体を、オリゴメリック・プロアントシアニジン(oligomeric proanthocyanidin、以下「OPC」という)という。
【0012】
また、松樹皮抽出物としては、重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体;すなわち、OPC)を15質量%、望ましくは20質量%以上、より望ましくは30質量%の割合で含有し、5量体以上のプロアントシアニジンを10質量%以上、望ましくは15質量%以上の割合で含有する抽出物が望ましい。
【0013】
松樹皮抽出物には、さらにカテキン(catechin)類が含有され得る。このカテキン類は、望ましくは3質量%以上、より望ましくは5質量%以上の割合で含有される。カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称である。カテキン類としては、(+)−カテキン(狭義のカテキンといわれる)、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、およびアフゼレキン等が知られている。松樹皮抽出物からは、(+)−カテキンの他、ガロカテキン、アフゼレキン、ならびに(+)−カテキンまたはガロカテキンの3−ガロイル誘導体が単離されている。
【0014】
カテキン類は、松樹皮抽出物に、3質量%以上含有されていることが望ましい。より望ましくは、OPCを20質量%以上、かつ5量体以上のプロアントシアニジンを10質量%以上含有する松樹皮抽出物に、カテキン類が3質量%以上含有されるのが望ましい。例えば、松樹皮抽出物のカテキン類含有量が3質量%未満の場合、含有量が3質量%以上となるようにカテキン類を添加してもよい。カテキン類を3質量%以上含有し、OPCを20質量%以上、かつ5量体以上のプロアントシアニジンを10質量%以上含有する松樹皮抽出物が望ましい。
【0015】
本発明に用いられる松樹皮抽出物としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダ等の樹皮抽出物が望ましい。中でも、フランス海岸松の樹皮抽出物が望ましい。
【0016】
フランス海岸松は、南仏の大西洋沿岸の一部に生育している海洋性松をいう。このフランス海岸松の樹皮は、フラボノイド類であるプロアントシアニジン(proanthocyanidin)を主要成分として含有する他に、有機酸ならびにその他の生理活性成分等を含有している。この主要成分であるプロアントシアニジンには、活性酸素を除去する強い抗酸化作用があることが知られている。
【0017】
松樹皮抽出物は、松の樹皮を水または有機溶媒で抽出して得られる。水を用いる場合には温水、または熱水が用いられる。抽出に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテン等の食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が好ましく用いられる。これらの水、有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。特に、熱水、含水エタノール、含水プロピレングリコール等が好ましく用いられる。
【0018】
松樹皮抽出物を得るための松樹皮からの抽出方法は特に制限はないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法等が用いられる。
【0019】
超臨界流体抽出法とは、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)等が用いられるが、二酸化炭素が好ましく用いられる。
【0020】
超臨界流体抽出法では、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程と、目的成分と超臨界流体を分離する分離工程とを行う。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0021】
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、抽出流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類を2〜20W/V%程度添加し、この流体を用いて超臨界流体抽出を行うことによって、OPC、カテキン類等の目的とする抽出物の抽出溶媒に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、効率的な松樹皮抽出物を得る方法である。
【0022】
超臨界流体抽出法は、比較的低い温度で操作できるため、高温で変質・分解する物質にも適用できるという利点、抽出流体が残留しないという利点、溶媒の循環利用が可能であるため、脱溶媒工程等が省略でき、工程がシンプルになるという利点がある。
【0023】
また、松樹皮抽出物を得るための松樹皮からの抽出方法は、上述の抽出法以外に、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法等の方法によって行ってもよい。
【0024】
松樹皮抽出物を得るための松樹皮からの抽出方法は、複数の抽出方法を組み合わせてもよい。複数の抽出方法を組み合わせることにより、種々の組成の松樹皮抽出物を得ることが可能となる。
【0025】
上述の抽出により得られた松樹皮抽出物は、限外濾過、あるいは吸着性担体(ダイヤイオンHP−20、Sephadex−LH20、キチン等)を用いたカラム法またはバッチ法により精製を行うことが安全性の面から好ましい。
【0026】
本発明に用いられるテアニンとしては特に制限されるものではなく、通常入手可能なテアニンやテアニンを含有する植物抽出物等を用いることができる。
【0027】
本発明に用いられる松樹皮抽出物およびテアニンの配合比としては、特に制限されないが、松樹皮抽出物1重量部に対して望ましくはテアニンを0.01重量部以上含有し、さらに望ましくは、テアニンを0.1重量部以上、最も望ましくは、テアニンを1重量部以上の比率で含有する。
【0028】
本発明に記載の月経前症候群に起因する症状緩和剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類または医薬品類として用いることができる。
【0029】
飲食品類としては、本発明に記載の月経前症候群に起因する症状緩和剤をそのまま、または種々の栄養成分を加えて、食用に適した形態、例えば、粉末状・粒状・顆粒状・液状・ペースト状・クリーム状・タブレット状・カプセル状・カプレット状・ソフトカプセル状・錠剤状・棒状・板状・ブロック状・丸薬状・固形状・ゲル状・ゼリー状・グミ状・ウエハース状・ビスケット状・飴状・チュアブル状・シロップ状・スティック状等に成形して食品素材として提供することができる。また、水、牛乳、豆乳、果汁飲料、乳清飲料、清涼飲料、青汁、ヨーグルト等に添加して使用してもよい。
【0030】
医薬品類としては、例えば、粉末状・粒状・顆粒状・液状・タブレット状・カプセル状・カプレット状・ソフトカプセル状・錠剤状・棒状・板状・ブロック状・丸薬状等に成形して医薬品として提供することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、後述の実施例に限定して解釈されるものではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0032】
(試験食品の製造)
本実施例では、松樹皮抽出物(株式会社東洋新薬製)およびテアニン(株式会社太陽化学製)を主成分とした250mgの錠剤を作成した。この錠剤1粒当りには、松樹皮抽出物10mg、テアニン25mgが含有される。これ以外の成分としては、セルロース、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素等が配合されている。
【0033】
(月経前困難症の緩和確認試験)
月経前症候群の症状の自覚がある成人女性8名(平均年齢27.8±2.3歳)を選出し、その成人女性には、試験内容を理解してもらった上で、自らの意思で試験に参加してもらった。選出の際、重篤な合併症を有する者、治療を必要とする重篤な疾患に罹患している者、薬物依存やアルコール依存の既往歴あるいは現病歴がある者、食事の摂取状況や摂取時間が不規則な者の他、試験責任医師および試験担当者が被験者として適当でないと判断した者は除外した。
【0034】
被験者には、決められた日に試験食品の摂取を開始してもらった。具体的には1日1回朝食後に試験食品を4粒摂取してもらった。摂取開始後、2回の月経が終了するまでを摂取期間とした。ただし、摂取開始日が月経期間と重なっていた場合には、その次の月経から数えて2回目の月経終了までを摂取期間とした。1回目および2回目の月経期間終了時に被験者に対して後述のアンケート1、2を実施した。
【0035】
(アンケート1)
各アンケートについては、試験前と比較した場合における月経前症候群の症状の変化について評価した。以下の3項目については、「緩和されない」から「とても緩和された」までの5段階評価を行った。
・月経前症候群の症状
・月経痛
・肌の調子
【0036】
(アンケート2)
また、以下の8項目(具体的な月経前症候群の症状)については、「激しくある」から「なし」までの4段階評価を行った。
(身体的症状)
・下腹痛
・腰痛
・頭痛
・乳房の張り・痛み
(精神的症状)
・イライラする
・攻撃的になる
・憂鬱になる
・集中できない
【0037】
(試験結果)
試験開始前に1名、試験開始後に1名の被験者が体調不良のため試験を中止し、計6名(平均年齢28.2±2.6歳)の被験者が試験を完了した。なお、被験者2名の体調不良に関して、試験食品との因果関係はなかった。
【0038】
以下、表1にアンケート1の項目に対して「緩和・改善した」と回答した人数の割合を示す。さらに、表2にアンケート2の結果を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1に示すように、「月経前症候群の症状」については、6名全員に改善が認められた。また、「月経痛」および「肌の調子」については、試験開始時に症状を有した5名中3名に改善が認められた。
【0042】
表2に示すように、月経前症候群の身体的症状では、「下腹痛」については、試験開始時に症状を有した5名中3名に改善が認められた。また、「腰痛」については、6名中4名に改善が認められた。さらに、「頭痛」については、4名中3名に改善が認められた。一方、「乳房の張り・痛み」ついては、改善が認められたのは4名中1名だった。
【0043】
精神的症状では、「イライラする」については、試験開始時に症状を有した6名中5名に改善が認められた。また、「攻撃的になる」、「憂鬱になる」および「集中できない」については、試験開始時に症状を有した全員に改善が認められた。
【0044】
このことから、松樹皮抽出物およびテアニンを含有する組成物を摂取することにより、月経前症候群の症状、とりわけ下腹痛や腰痛等の症状に大きな改善が認められることが分かった。したがって、松樹皮抽出物およびテアニンを含有する組成物は月経前症候群に起因する症状緩和剤として優れた効果を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に記載の月経前症候群に起因する症状緩和剤は、松樹皮抽出物およびテアニンを含有することを特徴としており、月経前症候群に起因する症状に対して優れた緩和作用を示す。本発明に記載の月経前症候群に起因する症状緩和剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類または医薬品類として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
松樹皮抽出物およびテアニンを含有することを特徴とする、月経前症候群に起因する症状緩和剤。
【請求項2】
前記月経前症候群に起因する症状が下腹痛であることを特徴とする、請求項1記載の症状緩和剤。
【請求項3】
前記月経前症候群に起因する症状が腰痛であることを特徴とする、請求項1記載の症状緩和剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の症状緩和剤を含有する、飲食品。

【公開番号】特開2011−168523(P2011−168523A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33141(P2010−33141)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】