説明

月経時痛の改善のための食品

【課題】日常的に摂取することができ、副作用等の問題の少ない、いわゆる健康食品や機能性食品等の食品により、月経時の下腹部痛、腰痛等の痛みを伴う症状である月経時痛を緩和する。
【解決手段】有効成分として鉄化合物を含む月経時痛の改善のための食品、特に、有効成分としてヘム鉄、好ましくはヘモグロビンをタンパク質分解酵素により分解し、限外濾過により分離して得られるヘム鉄を含む、月経時痛、特に月経時の下腹部痛及び腰痛を改善するための食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月経時痛の改善のための食品に関する。
【背景技術】
【0002】
女性の約60〜70%が、月経時に、下腹部痛、腰痛、頭痛等の何らかの痛みを伴う症状(以下、「月経時痛」と記載する)を有すると言われている。痛みの程度には個人差があるが、重傷の場合には「月経困難症」と言われ、通常の日常生活を営むことが困難になる。このような症状に対する対処方法としては、下腹部の保温、マッサージ等の方法もあるが、痛みの激しい場合には鎮痛薬の服用により疼痛を緩和する方法が一般的である。鎮痛薬としては、一般的な解熱鎮痛剤が用いられているが、特に月経痛を緩和するための医薬組成物として、特開2000−229853には、イブプロフェンとビタミンCからなる医薬組成物が開示されている。また、イブプロフェン座剤(米本繁之,月経困難症へのアプローチ イブプロフェン座剤の効果,基礎と臨床,1982, VOL.16 No.7,p3824-3826)、デキスケトプロフェン及びケトプロフェン(EXCURDIA,M et al., Comparison of the Efficacy and Tolerability of Dexketoprofen and Ketoprofen in the Treatment of Primary Dysmenorrhea, J Clin Pharmacol, 1998, vol.38, No.12 supplement, p655-735)及びアセトアミノフェン、エテンザミド、無水カフェイン、カンゾウ粗エキス及びシャクヤクエキスからなる製剤(小塚良允他、月経痛に対するペレタック顆粒の臨床効果,基礎と臨床,1985,VOL.19 No.13,p6670-6674)の月経時痛に対する鎮痛効果も報告されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−229853号公報
【非特許文献1】米本繁之,月経困難症へのアプローチ イブプロフェン座剤の効果,基礎と臨床,1982, VOL.16 No.7,p3824-3826
【非特許文献2】EXCURDIA,M et al., Comparison of the Efficacy and Tolerability of Dexketoprofen and Ketoprofen in the Treatment of Primary Dysmenorrhea, J Clin Pharmacol, 1998, vol.38, No.12 supplement, p655-735
【非特許文献3】小塚良允他、月経痛に対するペレタック顆粒の臨床効果,基礎と臨床,1985,VOL.19 No.13,p6670-6674
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
月経時痛は、女性の日常生活、社会生活に多大な影響を及ぼしているにも拘わらず、その対処方法についての研究は少ない。痛みの激しい場合には鎮痛薬を服用するのが一般的であるが、鎮痛薬は副作用の心配があり、また医師の処方が必要な場合もあるため、月経のたびに服用することを躊躇する女性も少なくない。また、体質によっては副作用のために服用できない場合もある。
【0005】
従って、副作用等の心配が少なく、日常的に摂取できるいわゆる健康食品や機能性食品により、月経時痛を緩和することが望まれていた。
本発明の発明者は、鉄化合物、特にヘム鉄を含む食品の摂取により、月経時痛、特に下腹部痛及び腰痛が緩和されることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の食品に関する。
(1)有効成分として鉄化合物を含む月経時痛の改善のための食品。
(2)前記月経時痛が下腹部痛または腰痛である前記(1)の食品。
(3)前記鉄化合物がヘム鉄である(1)または(2)の食品。
(4)前記鉄化合物が、ヘモグロビンを酵素により分解し、限外濾過により分離して得られるヘム鉄である(1)〜(3)のいずれかの食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の食品により、月経時痛を改善することができる。特に、本発明の食品は、下腹部痛及び腰痛の緩和に対して優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、「月経時痛」は、月経時の下腹部痛、腰痛、頭痛、乳房痛等の痛みを伴う症状を意味する。
本発明において、鉄化合物としては、硫酸鉄、塩化鉄のような無機の鉄化合物、クエン酸鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、ピロリン酸鉄、ヘム鉄のような有機の鉄化合物が挙げられるが、特にヘム鉄が好ましい。
【0009】
本明細書において、「ヘム鉄」は、赤血球に含まれるヘモグロビン、筋肉に含まれるミオグロビン、酵素の一種であるシトクロム等のヘムを有するタンパク質を、タンパク質分解酵素で処理して生じる、ヘムにペプチド鎖が結合したヘム−ペプチド複合体、特にヘモグロビンをタンパク質分解酵素で処理して生じるヘム−ペプチド複合体を意味する。「ヘム」は、ポルフィリン環に鉄が配位したものを意味する。
【0010】
ヘム鉄の調製方法には、タンパク質分解酵素による処理により得られるヘム鉄を限外濾過により分離する限外濾過法、タンパク質分解酵素による処理により得られるヘム鉄を等電点沈殿処理により分離する等電点沈殿法等がある。本発明で使用するヘム鉄は、限外濾過法により得られたものであるのが好ましい。また、本発明のヘム鉄は、好ましくは鉄分0.5〜5重量%、より好ましくは0.7〜2.6重量%を含む。
【0011】
ヘム鉄は、例えば、赤血球を溶血させ、これをタンパク質分解酵素で処理した後、限外濾過、等電点沈殿等の手段によりヘム鉄を分離することにより調製することができる。赤血球は、と畜血液を遠心分離等の手段により分離したものを用いても、赤血球の凍結品、凍結乾燥品または粉末品を使用してもよい。また、赤血球ではなく、精製したヘモグロビンを使用してもよい。
【0012】
と畜血液としては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の家畜類やニワトリ等の家禽類の血液を使用することができる。食品の形態によっては、赤血球膜の断片等が製品に混入することにより異臭が生じるのを防ぐため、精密濾過等の手段により予め赤血球膜を除去しておくのが望ましい。
【0013】
なお、タンパク質分解酵素で処理する前に、ヘモグロビンを変性して酵素が作用しやすいようにしておくことが望ましい。変性は、例えばアルカリを加えることにより行うことができる。
使用するタンパク質分解酵素によるが、タンパク質分解酵素による分解は、例えば25〜90℃の温度で、pH7〜11で行われる。
【0014】
タンパク質分解酵素としては、例えばトリプシン、キモトリプシン、ブロメリン、パパイン、アルカラーゼ等を使用することができる。
限外濾過法、等電点沈殿法によるヘム鉄の分離は、例えば、特公平1−24137号公報に記載の方法により行うことができる。
【0015】
限外濾過法によりヘム鉄を調製する場合、限外濾過膜としては、分画分子量5000〜50000、好ましくは5000〜10000、例えば6000の限外濾過膜を使用するのが好ましい。限外濾過は、pH7〜10で行うのが望ましい。
酵素反応が終了した反応液を限外濾過膜で濾過すると、ヘムを含まないペプチドは限外濾過膜を透過し、ヘム−ペプチド複合体は原液側に残る。この操作を繰り返すことにより、ヘムを含まないペプチドをヘム−ペプチド複合体の画分から除去することができる。
【0016】
等電点沈澱処理は、酵素反応の終了した反応液のpHを4〜6に調整してヘム鉄及びヘムを含まないペプチドを沈殿させることにより行うことができる。
得られたヘム鉄の溶液に、加熱処理を行い、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法等の方法による乾燥を行うことによって粉末状のヘム鉄が得られる。
【0017】
ヘム鉄としては、水溶性ヘム鉄及び非水溶性ヘム鉄を使用することができるが、水溶性ヘム鉄を使用するのが好ましい。
本発明のヘム鉄の分子量は、好ましくは1000〜6000である。
【0018】
本発明の食品は、鉄分として、例えば1日当たり0.1〜40mg、好ましくは0.1〜28mg、より好ましくは1〜12mg、特に4〜8mgとなる量で摂取される。
本発明の食品が、鉄化合物としてヘム鉄を含むものである場合、ヘム鉄としては、1日あたり例えば5〜4000mg、好ましくは5〜2800mg、より好ましくは50〜1200mg、特に200〜800mgとなる量で摂取される。
【0019】
本発明の食品は、散剤、顆粒剤、液剤、錠剤、カプセル剤、腸溶製剤等の形態であってもよい。この場合、本発明の食品は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、希釈剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて、常法により製剤化される。
本発明の食品が、上記製剤の形態であり、鉄化合物としてヘム鉄を含む場合、1製剤当たりヘム鉄を好ましくは50〜300mg、より好ましくは100〜200mgとなる量で含有する。
【0020】
希釈剤(賦形剤)としては、乳糖、デキストロース、サイクロデキストリン、ショ糖、ブドウ糖、オリゴ糖、還元麦芽糖、麦芽糖、ソルビトール、エリスリトール、トレハロース、セルロース、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉等を使用することができる。滑沢剤としては、微粒二酸化ケイ素、ナタネ硬化油、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール等を使用することができる。結合剤としては、デンプン類、タルク、トウモロコシタンパク、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、カラギーナン、トラガントガム、キサンダンガム、ジェランガム、ペクチン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を使用することができる。液体の製剤の場合、賦形剤として水、グリセリン、脂肪油、ソルビトール等を使用することができる。懸濁液及び乳濁液の場合は、担体として、例えば天然ゴム、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、天然ワックス(ミツロウ)、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を含有することができる。
【0021】

本発明の食品は、菓子(飴、グミ、ゼリー、クッキー、ビスケット、チョコレート等)、乳製品(ヨーグルト、チーズ等)、乳飲料(牛乳、コーヒー牛乳、乳酸飲料等)、豆乳、炭酸飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、茶等の食品であってもよい。
【0022】
本発明の食品は、有効成分としてヘム鉄のみを含有していてもよいが、所望により、他の有効成分を含んでいてもよい。他の有効成分の例を下記に示す:カルシウム、マグネシウム等のミネラル、ビタミンA、ビタミンB、B、B、B12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム等のビタミン類、グルタミン、グルタミン酸、イノシン酸、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン等のアミノ酸、ニンジン、月見草、ハトムギ、イカリソウ、ジオウ等の生薬またはそのエキス、クローブ、ペパーミント、カモミール、ローズヒップ、サフラン、ハイビスカス等のハーブ類、その他、イソフラボン、ロイヤルゼリー、プロポリス、コラーゲン、コエンザイムQ10、ビフィズス菌、乳酸菌等。
【0023】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
ブタ血液由来の赤血球粉末80kgを解凍し、700kgの水を加えて溶血した。これに24重量%のNaOH溶液を添加してpHを10.5に調整した後、55℃に加温してノボ社製アルカラーゼ2.4Lを2.5kg添加し、55℃で反応させた。反応液のpHは、24重量%NaOHを添加することによりpH9.0に調整し、NaOHの添加量で酵素反応の進み具合を追跡した。NaOHの添加量が15kgになった時点で反応液を冷却し、旭化成ケミカルズ社製限外濾過膜SPI−3013(分画分子量6000)で限外濾過を行った。同じ操作を再度繰り返し、ヘム鉄の濃縮液を得た。この濃縮液をpH9.0のまま90℃に加熱して殺菌した後、ドラムドライ法で乾燥することにより、ヘム鉄15kgを得た。得られたヘム鉄をショ糖脂肪酸エステルと、ヘム鉄:ショ糖脂肪酸エステルが98:2(重量比)となる割合で混合した。
これにより得られた組成物200mg(鉄量として約2mg)をカプセルに充填し、カプセル剤とした。
【実施例2】
【0025】
限外濾過を行わず、酵素反応後の溶液をpH5.0にすることによりヘム鉄を沈殿させ、遠心分離により回収すること以外は、実施例1と同様の方法により、ヘム鉄を製造した。得られたヘム鉄をショ糖脂肪酸エステルと、ヘム鉄:ショ糖脂肪酸エステルが98:2(重量比)となる割合で混合した。
これにより得られた組成物200mg(鉄量として約2mg)をカプセルに充填し、カプセル剤とした。
試験例:
【0026】
有経女性11名(平均年齢20才)を被験者とした。評価は、上記実施例1で製造したカプセル剤を1日3カプセル(鉄分として約6mgに相当)、12週間投与した群(I群,5名)、上記実施例2で製造したカプセル剤を1日3カプセル(鉄分として約6mgに相当)、12週間投与した群(II群,3名)、プラセボカプセル(コーンスターチ:イカスミ色素:ショ糖脂肪酸エステル=77:20:3(重量比)の組成物200mgをカプセルに充填したもの,鉄量が1カプセル当たり約0.01mgである)を12週間投与した群(III群,3名)の3群について、二重盲検法で行った。12週間後に月経時痛の改善についてアンケート調査した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示されるように、プラセボ投与群(III群)については月経痛の改善は見られなかったのに対し、ヘム鉄投与群(I群及びII群)については、合計8名中3名が改善を認めた。さらに、投与停止後4週間後に再度アンケート調査を行ったところ、月経時痛が改善されたと回答した被験者の全員が、投与中に比べると痛みを感じるが、投与前に比べると痛みが改善されたと回答した。従って、本発明の食品は、月経時痛の改善のみではなく、月経時痛を起こしやすい体質を改善し、月経時痛を予防する効果もあると考えられる。また、本発明の食品は、月経時痛以外の月経時の不快症状及び月経前症候群に対しても効果を有する可能性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、月経時痛、特に下腹部痛及び腰痛を緩和することのできる食品が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として鉄化合物を含む月経時痛の改善のための食品。
【請求項2】
前記月経時痛が下腹部痛または腰痛である請求項1記載の食品。
【請求項3】
前記鉄化合物がヘム鉄である請求項1または2に記載の食品。
【請求項4】
前記鉄化合物が、ヘモグロビンを酵素により分解し、限外濾過により分離して得られるヘム鉄である請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品。

【公開番号】特開2006−333790(P2006−333790A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163312(P2005−163312)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000222200)東洋カプセル株式会社 (14)
【Fターム(参考)】