説明

有価金属の回収方法及び回収装置

【課題】バナジウム及びニッケルを好適に回収する有価金属の回収方法及び回収装置を提供する。
【解決手段】バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解する酸溶解槽1と、
酸溶解槽1で生じたバナジウムの溶解液に有機溶剤を加えてバナジウムを有機溶剤に抽出する抽出槽3と、
抽出槽3で得られた有機溶剤に炭酸ナトリウムを加えてバナジウムを水相側に逆抽出する逆抽出槽4と、
逆抽出槽4で得られたバナジウムの水溶液にアンモニアを加えてバナジウムを沈殿させる反応槽5と、
反応槽5で沈殿した沈殿物を圧縮してバナジウム濃縮物を回収する第一圧縮手段7と、
酸溶解槽1で残った溶解残渣を圧縮してニッケル濃縮物を回収する第二圧縮手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムとニッケルを回収する有価金属の回収方法及び回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にペトロコークや重質油等の油は、火力発電所等で燃料として利用されていると共にアンモニア合成プラント等で原料として利用されている。又、火力発電所等で生じた燃焼灰やアンモニア合成プラント等からの処理残渣は、大部分が廃棄物として埋め立て処理されている。
【0003】
一方でこのような燃焼灰や処理残渣には、バナジウムやニッケル等の有価金属が含まれており、環境汚染防止や資源再利用の点から有効利用することが求められている。
【0004】
このため、バナジウム、ニッケル等を回収する方法として、燃焼灰を酸性の水溶液に溶解し、鉄を回収した後、溶液をアルカリ化してバナジウム等を回収することが考えられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−352521号公報
【特許文献2】特開2002−166241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように従来の技術においては、pHをアルカリ性、酸性と変えるため、pHを調整する薬品が多量に必要となるという問題があった。更にニッケルを回収する際には減圧処理や冷却処理を利用するため、イニシャル・ランニングコストが高いという問題があった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、バナジウムとニッケルを好適に回収する有価金属の回収方法及び回収装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有価金属の回収方法は、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解する溶解工程と、
該溶解工程から取り出したバナジウムの溶解液に有機溶剤を加えてバナジウムを有機溶剤に抽出する抽出工程と、
該抽出工程から取り出した有機溶剤に炭酸ナトリウムを加えてバナジウムを水相側に逆抽出する逆抽出工程と、
該逆抽出工程から取り出したバナジウムの水溶液にアンモニアを加えてバナジウムを沈殿させる反応工程と、
該反応工程で沈殿した沈殿物を圧縮してバナジウム濃縮物を回収する第一圧縮工程と、
前記溶解工程で残った溶解残渣を圧縮してニッケル濃縮物を回収する第二圧縮工程とを備えるものである。
【0009】
又、本発明の有価金属の回収方法においては、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣は、ペトロコーク又は/及び重質油から生じたものであることが好ましい。
【0010】
更に本発明の有価金属の回収方法においては、前記溶解工程で用いる酸は硫酸又は/及び硝酸であると共に、前記抽出工程で用いる有機溶剤はキレート剤及びケロシンであることが好ましい。
【0011】
更に又、本発明の有価金属の回収方法においては、前記抽出工程で生じた水相側の水溶液を溶解工程に戻すことが好ましい。
【0012】
又、本発明の有価金属の回収方法においては、前記逆抽出工程で生じた有機相側の有機溶剤を抽出工程に戻し、前記第一圧縮工程で分離した炭酸ナトリウム水溶液を逆抽出工程に戻し、前記第二圧縮工程で分離した酸を溶解工程に戻すことが好ましい。
【0013】
本発明の有価金属の回収装置は、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解する酸溶解槽と、
該酸溶解槽で生じたバナジウムの溶解液に有機溶剤を加えてバナジウムを有機溶剤に抽出する抽出槽と、
該抽出槽で得られた有機溶剤に炭酸ナトリウムを加えてバナジウムを水相側に逆抽出する逆抽出槽と、
該逆抽出槽で得られたバナジウムの水溶液にアンモニアを加えてバナジウムを沈殿させる反応槽と、
該反応槽で沈殿した沈殿物を圧縮してバナジウム濃縮物を回収する第一圧縮手段と、
前記酸溶解槽で残った溶解残渣を圧縮してニッケル濃縮物を回収する第二圧縮手段とを備えたものである。
【0014】
又、本発明の有価金属の回収装置においては、前記抽出槽で生じた水相側の水溶液を酸溶解槽に戻す水溶液の戻しラインを備えたことが好ましい。
【0015】
更に本発明の有価金属の回収装置においては、前記逆抽出槽で生じた有機相側の有機溶剤を抽出槽に戻す有機溶剤の戻しラインと、
前記第一圧縮手段で分離した炭酸ナトリウム水溶液を逆抽出槽に戻す炭酸ナトリウム水溶液の戻しラインと、
前記第二圧縮手段で分離した酸を酸溶解槽に戻す酸の戻しラインとを備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有価金属の回収方法及び回収装置によれば、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解するので、アルカリ溶液で溶解した場合に比べてバナジウムの溶解量が増加し、バナジウムを好適に回収することができる。又、燃焼灰や処理残渣からの溶解液のpHを変えることなく、有機溶剤を用いてバナジウムを回収するので、pHを調整する薬品の使用量を削減することができる。更に燃焼灰や処理残渣を酸で溶解した際にはニッケルが燃焼灰等に残るので、燃焼灰等を圧縮してニッケルをニッケル濃縮物として好適に回収することができる。更に又ニッケルを回収する際には、減圧処理や冷却処理を不要にするため、イニシャル・ランニングコストを抑制し、ニッケルを安価に回収することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の有価金属の回収方法及び回収装置を示す全体概要構成図である。
【図2】本発明の抽出槽の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態例を図1、図2を参照して説明する。
【0019】
実施の形態例である有価金属の回収装置は、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解する酸溶解槽1と、該酸溶解槽1で生じた溶解液から沈殿物を分離する第一沈降槽(第一沈殿槽)2と、第一沈降槽2からの溶解液を有機溶剤で抽出処理する抽出槽3と、該抽出槽3で得られた有機相の有機溶剤を逆抽出処理する逆抽出槽4と、該逆抽出槽4で得られた水溶液を反応により沈殿処理する反応槽5と、該反応槽5で生じた沈殿物を沈殿させる第二沈降槽(第二沈殿槽)6と、第二沈降槽6からの沈殿物を圧縮する第一圧縮手段7と、前記酸溶解槽1で残った溶解残渣を圧縮する第二圧縮手段8とを備えている。
【0020】
酸溶解槽1には、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣が投入される投入ライン9と、硫酸又は/及び硝酸が供給される酸供給ライン10とが接続されている。又、酸溶解槽1は、硫酸又は/及び硝酸を溜めて燃焼灰や処理残渣を投入し得るように所定の容積を有する槽で構成されている。更に酸溶解槽1は、溶解を促進するための撹拌手段等(図示せず)を備えている。
【0021】
第一沈降槽2には、酸溶解槽1から溶解液が供給される第一供給ライン11が接続されている。又、第一沈降槽2は、酸溶解槽1からの溶解液を一定時間滞留させる構造を備え、溶解液から沈殿物を沈殿させるようにしている。更に第一沈降槽2には、沈殿物等を酸溶解槽1に戻す水溶液の第一戻しライン12が接続されている。
【0022】
抽出槽3には、酸溶解槽1から溶解液が供給される第二供給ライン13と、有機溶剤が供給される有機溶剤供給ライン14とが接続されている。又、抽出槽3は、溶解液と有機溶剤とを連続的に撹拌混合して抽出分離し得る構成(ミキサセトラ)であって、図2に示す如く第二供給ライン13から溶解液(水相)が供給され且つ有機溶剤供給ライン14から有機溶剤(有機相)が供給される供給室3aと、供給室3aからの溶解液及び有機溶剤をミキサ等の撹拌手段3bにより撹拌混合する混合室3cと、撹拌混合した混合溶液を比重により有機相と水相とに分離する分離室3dとを備えている。更に抽出槽3には、図1に示す如く水相側に分離した水溶液を第一沈降槽2に戻す水溶液の第二戻しライン15が接続されている。
【0023】
逆抽出槽4には、抽出槽3から有機相の有機溶剤が供給される第三供給ライン16と、炭酸ナトリウム又は炭酸ナトリウム水溶液が供給される炭酸ナトリウム供給ライン17とが接続されている。又、逆抽出槽4は、有機溶剤と炭酸ナトリウムとを連続的に撹拌混合して抽出分離し得る構成(ミキサセトラ)であって、抽出槽3と同様に、第三供給ライン16から有機溶剤(有機相)が供給され且つ炭酸ナトリウム供給ライン17から炭酸ナトリウム(水相)が供給される供給室と、供給室からの有機溶剤及び炭酸ナトリウムをミキサ等の撹拌手段により撹拌混合する混合室と、撹拌混合した混合溶液を比重により有機相と水相とに分離する分離室とを備えている。更に逆抽出槽4には、有機相側の有機溶剤を抽出槽3に戻す有機溶剤の戻しライン18が接続されており、有機溶剤の戻しライン18には、抽出槽3に有機溶剤を供給する有機溶剤供給ライン14が接続されても良い。
【0024】
反応槽5には、逆抽出槽4から水相側の炭酸ナトリウム水溶液が供給される第四供給ライン19と、アンモニア水又はアンモニアガスが供給されるアンモニア供給ライン20とが接続されている。又、反応槽5は、炭酸ナトリウム水溶液中のバナジウムとアンモニアとの反応を促す撹拌手段等(図示せず)を備えている。
【0025】
第二沈降槽6には、反応槽5から溶解液が供給される第五供給ライン21が接続されている。又、第二沈降槽6は、反応槽5からの溶解液を一定時間滞留させる構造を備え、溶解液から沈殿物を沈殿させるようにしている。
【0026】
第一圧縮手段7には、第二沈降槽6からの沈殿物を取り出す第一搬送ライン22が接続されており、又、第一圧縮手段7は、沈殿物を濾過するように圧縮するプレス機で構成されている。更に第一圧縮手段7には、沈殿物を圧縮して取り出す第一取出ライン23が接続されていると共に、沈殿物から分離した炭酸ナトリウム水溶液を逆抽出槽4に戻す炭酸ナトリウム水溶液の戻しライン24が接続されており、炭酸ナトリウム水溶液の戻しライン24には、図1に示す如く逆抽出槽4に炭酸ナトリウム水溶液を供給する炭酸ナトリウム供給ライン17が接続されても良い。ここで第一圧縮手段7は、沈殿物と炭酸ナトリウムを分離し得るならばプレス機の代わりに他の手段でも良い。
【0027】
第二圧縮手段8には、酸溶解槽1からの溶解残渣を取り出す第二搬送ライン25が接続されており、又、第二圧縮手段8は、溶解残渣を濾過するように圧縮するプレス機で構成されている。更に第二圧縮手段8には、溶解残渣を圧縮して取り出す第二取出ライン26が接続されていると共に、溶解残渣から分離した酸の水溶液を酸溶解槽1に戻す酸の戻しライン27が接続されており、酸の戻しライン27には、図1に示す如く酸溶解槽1に硫酸又は/及び硝酸を供給する酸供給ライン10が接続されても良い。ここで第二圧縮手段8は、溶解残渣と酸の水溶液を分離し得るならばプレス機の代わりに他の手段でも良い。
【0028】
以下本発明を実施する形態例の作用を説明する。
【0029】
バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を処理する際には、溶解工程、抽出工程、逆抽出工程、反応工程、第一圧縮工程、第二圧縮工程で処理する。
【0030】
具体的には、最初に溶解工程として、酸溶解槽1に硫酸又は/及び硝酸を溜め、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を投入し、燃焼灰や処理残渣を酸で溶解してバナジウムを酸の水溶液に溶かす。
【0031】
ここでバナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣は、ペトロコーク又は/及び重質油を燃焼した燃焼灰や、ペトロコーク又は/及び重質油をガス化処理した処理残渣であり、特に鉄を殆ど含まないペトロコークからの燃焼灰や処理残渣が好ましい。又、燃焼灰や処理残渣は、火力発電所で燃焼したものやアンモニア合成プラントで処理したものに限定されるものではなく、ボイラ等の他の設備で処理したものでも良い。一方、酸溶解槽1に供給する酸は、硫酸、硝酸、その混合液のいずれでも良いが、バナジウムの溶融量を増加させるためには、0.1M以上10.0M以下の硫酸が好ましい。又、液固比は大きいほど好ましく、溶解温度も高いほど好ましい。
【0032】
次に抽出工程として、酸溶解槽1からバナジウムの溶解液を第一供給ライン11により第一沈降槽2へ供給し、第一沈降槽2で溶解液から沈殿物を分離した後(第一沈殿工程)、第一沈降槽2から第二供給ライン13により抽出槽3へ供給し、更に抽出槽3に有機溶剤を加えてバナジウムのみを有機溶剤に抽出する。又、抽出槽3で有機相と分離した水相側の酸の水溶液にはニッケルが含まれることから、水溶液及び沈殿物を、第二戻しライン15、第一沈降槽2、第一戻しライン12を介して抽出槽3から酸溶解槽1へ戻す。
【0033】
ここで、有機溶剤/溶解液の割合は0.1以上、混合時間は30分以上5時間以下が好ましい。又、抽出槽3に供給する有機溶剤は、バナジウムを抽出するものならば特に制限されるものではないが、5,8−ジエチル−7−ヒドロキシ−6−ドデカノン(5,8-Diethyl-7-hydroxy-6-dodecanone)等のキレート剤及びケロシンの混合溶液が好ましい。更にキレート剤の量は、溶液中のバナジウムに対し、モル比にてキレート剤/バナジウム>30が好ましい。
【0034】
続いて逆抽出工程として、バナジウムを抽出した有機溶剤を抽出槽3から第三供給ライン16により逆抽出槽4へ供給し、炭酸ナトリウム又は炭酸ナトリウム水溶液を加えてバナジウムを水相側に逆抽出する。
【0035】
ここで炭酸ナトリウムの濃度は高いほど好ましく、有機溶剤と炭酸ナトリウム水溶液の混合比は2:1から1:2までが好ましい。又、逆抽出槽4では、水相と分離した有機相側の有機溶剤を、有機溶剤の戻しライン18を介して逆抽出槽4から抽出槽3へ戻し、不足分の有機溶剤を新たに有機溶剤供給ライン14から供給する。
【0036】
更に反応工程として、逆抽出槽4から水相側のバナジウムの水溶液を第四供給ライン19により反応槽5へ供給し、アンモニア水を加えて炭酸ナトリウム水溶液中のバナジウムを反応させる。
【0037】
次に、第一圧縮工程として、反応槽5の反応溶液を第五供給ライン21により第二沈降槽6へ供給し、第二沈降槽6で溶解液から沈殿物を沈殿させた後(第二沈殿工程)、第二沈降槽6から沈殿物を第一搬送ライン22により第一圧縮手段7へ搬送し、第一圧縮手段7で圧縮してバナジウム濃縮物と炭酸ナトリウ水溶液に分離し、バナジウム濃縮物を回収する。
【0038】
ここで第一圧縮手段7では、沈殿物と分離した炭酸ナトリウ水溶液を、炭酸ナトリウムの戻しライン24を介して第一圧縮手段7から逆抽出槽4へ戻し、不足分の炭酸ナトリウムを新たに炭酸ナトリウム供給ライン17から供給する。
【0039】
更にバナジウムの回収率を実際に計測したところ、燃焼灰に含まれるバナジウムとニッケルに対し、溶解工程、抽出工程、逆抽出工程、反応工程、第一圧縮工程を介して約89%のバナジウムを回収できることが明らかとなった。
【0040】
一方、第二圧縮工程として、酸溶解槽1から溶解残渣を第二搬送ライン25により第二圧縮手段8へ搬送し、第二圧縮手段8で圧縮してニッケル濃縮物と酸の水溶液に分離し、ニッケル濃縮物を回収する。
【0041】
ここで第二圧縮手段8では、溶解残渣と分離した酸の水溶液を、酸の戻しライン27を介して第二圧縮手段8から酸溶解槽1へ戻し、不足分の酸を新たに酸供給ライン10から供給する。
【0042】
更にニッケルの回収率を実際に計測したところ、燃焼灰に含まれるバナジウムとニッケルに対し、溶解工程、第二圧縮工程を介して約82%のニッケルを回収できることが明らかとなった。
【0043】
而して、このように実施の形態例によれば、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解するので、アルカリ溶液で溶解した場合に比べてバナジウムの溶解量が増加し、バナジウムを好適に回収することができる。又燃焼灰や処理残渣からの溶解液のpHを変えることなく、有機溶剤を用いてバナジウムを回収するので、pHを調整する薬品の使用量を削減することができる。更に溶解工程の酸溶解槽1で燃焼灰を酸により処理するので、燃焼灰の重量を低減し(最大で約50%)、好適に処理することができる。
【0044】
又、燃焼灰や処理残渣を酸で溶解した際にはニッケルの多くが燃焼灰等に残るので、燃焼灰等を圧縮してニッケルをニッケル濃縮物として好適に回収することができる。更にニッケルを回収する際には、減圧処理や冷却処理を不要にするため、イニシャル・ランニングコストを抑制し、ニッケルを安価に回収することができる。更に又ニッケルの精錬等で利用されるニッケル鉱石は、ニッケルの含有濃度が1〜2%であるため、燃焼灰等も十分にニッケル濃縮物とすることができる。
【0045】
更に抽出工程の抽出槽3で溶解液を処理する際には、有機溶剤/溶解液の割合が0.1以上、混合時間は30分以上5時間以下である場合に、バナジウムを好適に抽出して回収することができる。ここで有機溶剤/溶解液の割合が0.1未満の場合にはバナジウムを適切に抽出することができず、混合時間が30分未満の場合にはバナジウムの抽出時間が短すぎ、混合時間が5時間より長い場合には、バナジウムの抽出量が減少する。
【0046】
又、逆抽出工程の逆抽出槽4でバナジウムを含む有機溶剤を処理する際には、炭酸ナトリウムの濃度は10g/L以上で、有機溶剤と炭酸ナトリウム水溶液の混合比は2:1から1:2までの範囲である場合に、バナジウムを好適に逆抽出して回収することができる。ここで炭酸ナトリウムの濃度が10g/L未満で、有機溶剤と炭酸ナトリウム水溶液の混合比が2:1から1:2までの範囲にない場合にはバナジウムを適切に逆抽出することができず、バナジウムの回収が減少する。
【0047】
実施の形態例において、バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣が、ペトロコーク又は/及び重質油から生じたものであると、溶解工程、抽出工程、逆抽出工程、反応工程、第一圧縮工程、第二圧縮工程により、バナジウムとニッケルを分離して好適に回収することができる。又、ペトロコークの場合には鉄をほとんど含まないので、pH調整することなく、バナジウム、ニッケルを好適に回収することができる。
【0048】
実施の形態例において、溶解工程で酸溶解槽1に用いる酸は硫酸又は/及び硝酸であると共に、抽出工程で抽出槽3に用いる有機溶剤はキレート剤及びケロシンであると、バナジウムとニッケルを好適に分離し、回収率を上げて回収することができる。又、硫酸が 0.1M以上10M以下の場合に好適にバナジウムを回収することができる。更に有機溶剤/溶解液中のキレート剤の量は、溶液中のバナジウムに対し、モル比にてキレート剤/バナジウム>30の場合が好適にバナジウムを回収することができる。ここで硫酸が 0.1M未満の場合にはバナジウムの回収率が大幅に低下し、硫酸が10Mより大きい場合には酸の濃度が高くなり過ぎるため、容易に扱うことができず、バナジウムを好適に回収することができない。更に有機溶剤/溶解液中のキレート剤の量は、溶液中のバナジウムに対し、モル比にてキレート剤/バナジウム<30の場合には、バナジウムの回収率が著しく低下する。
【0049】
実施の形態例において、抽出工程の抽出槽3で生じた水相側の水溶液を、水溶液の第二戻しライン15及び第一戻しライン12を介して溶解工程の酸溶解槽1に戻すと、抽出槽3の水相側に含まれるニッケルを酸溶解槽1に戻すので、ニッケルの回収率を上げて回収することができる。
【0050】
実施の形態例において、逆抽出工程の逆抽出槽4で生じた有機相側の有機溶剤を、有機溶剤の戻しライン18を介して抽出工程の抽出槽3に戻すと、有機溶剤の使用量を大幅に減らし、又、第一圧縮工程の第一圧縮手段7で分離した炭酸ナトリウム水溶液を、炭酸ナトリウム水溶液の戻しライン24を介して逆抽出工程の逆抽出槽4に戻すと、炭酸ナトリウム水溶液の使用量を大幅に減らし、更に第二圧縮工程の第二圧縮手段8で分離した酸を、酸の戻しライン27を介して溶解工程の酸溶解槽1に戻すと、硫酸等の酸の使用量を大幅に減らし、結果的にバナジウムとニッケルを好適に回収することができる。
【0051】
尚、本発明の有価金属の回収方法及び回収装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、酸溶解槽、抽出槽、逆抽出槽、反応槽、第一圧縮手段、第二圧縮手段を夫々接続するラインの代わりに人手を介して供給しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1 酸溶解槽
3 抽出槽
4 逆抽出槽
5 反応槽
7 第一圧縮手段
8 第二圧縮手段
12 水溶液の第一戻しライン
15 水溶液の第二戻しライン
18 有機溶剤の戻しライン
24 炭酸ナトリウム水溶液の戻しライン
27 酸の戻しライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解する溶解工程と、
該溶解工程から取り出したバナジウムの溶解液に有機溶剤を加えてバナジウムを有機溶剤に抽出する抽出工程と、
該抽出工程から取り出した有機溶剤に炭酸ナトリウムを加えてバナジウムを水相側に逆抽出する逆抽出工程と、
該逆抽出工程から取り出したバナジウムの水溶液にアンモニアを加えてバナジウムを沈殿させる反応工程と、
該反応工程で沈殿した沈殿物を圧縮してバナジウム濃縮物を回収する第一圧縮工程と、
前記溶解工程で残った溶解残渣を圧縮してニッケル濃縮物を回収する第二圧縮工程とを備えることを特徴とする有価金属の回収方法。
【請求項2】
バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣は、ペトロコーク又は/及び重質油から生じたものであることを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記溶解工程で用いる酸は硫酸又は/及び硝酸であると共に、前記抽出工程で用いる有機溶剤はキレート剤及びケロシンであることを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記抽出工程で生じた水相側の水溶液を溶解工程に戻すことを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
前記逆抽出工程で生じた有機相側の有機溶剤を抽出工程に戻し、前記第一圧縮工程で分離した炭酸ナトリウム水溶液を逆抽出工程に戻し、前記第二圧縮工程で分離した酸を溶解工程に戻すことを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項6】
バナジウムとニッケルを含む燃焼灰や処理残渣を酸で溶解する酸溶解槽と、
該酸溶解槽で生じたバナジウムの溶解液に有機溶剤を加えてバナジウムを有機溶剤に抽出する抽出槽と、
該抽出槽で得られた有機溶剤に炭酸ナトリウムを加えてバナジウムを水相側に逆抽出する逆抽出槽と、
該逆抽出槽で得られたバナジウムの水溶液にアンモニアを加えてバナジウムを沈殿させる反応槽と、
該反応槽で沈殿した沈殿物を圧縮してバナジウム濃縮物を回収する第一圧縮手段と、
前記酸溶解槽で残った溶解残渣を圧縮してニッケル濃縮物を回収する第二圧縮手段とを備えたことを特徴とする有価金属の回収装置。
【請求項7】
前記抽出槽で生じた水相側の水溶液を酸溶解槽に戻す水溶液の戻しラインを備えたことを特徴とする請求項6に記載の有価金属の回収装置。
【請求項8】
前記逆抽出槽で生じた有機相側の有機溶剤を抽出槽に戻す有機溶剤の戻しラインと、
前記第一圧縮手段で分離した炭酸ナトリウム水溶液を逆抽出槽に戻す炭酸ナトリウム水溶液の戻しラインと、
前記第二圧縮手段で分離した酸を酸溶解槽に戻す酸の戻しラインとを備えたことを特徴とする請求項6に記載の有価金属の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−242131(P2010−242131A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89684(P2009−89684)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】