説明

有価金属の製造方法

【課題】銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物から、粗鉛、粗銅及び粗錫をそれぞれ容易かつ効率良く、しかも安全に分離回収できる方法を提案する。
【解決手段】銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物を加熱して溶融し、この溶湯に水酸化ナトリウムを添加すると共に攪拌して錫のナトリウム塩を形成させ、該錫のナトリウム塩及び銅を含有する脱銅ハリス滓を回収すると共に、残部としての粗鉛を回収し、前記脱銅ハリス滓を水に投入して錫を水に溶解させ、固液分離することにより、溶液に溶解している錫と、非溶解物としての銅を分離するようにして、粗鉛、粗銅及び粗錫を得ることを特徴とする、有価金属の製造方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物から、粗鉛及び粗錫などをそれぞれ分離回収することができる、有価金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛の精製プロセスでは、浮遊選鉱による鉛精鉱や飛灰の処理過程で生じる鉛含有残渣などを湿式処理して得た硫酸鉛を電気炉で溶融還元して「粗鉛」を得るプロセスが実施されている。この粗鉛には、錫や銅がそれぞれ数%程度含まれているため、鉛を精製するためには、後工程で電解に供する前に錫や銅を低減する必要がある。
また、廃棄された電子基板やバッテリーは、鉛、銅、錫などを含んでいるため、これらから鉛を回収するには、銅や錫を分離除去する必要がある。
【0003】
このような銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物から銅を分離回収する一般的な方法として、例えば非特許文献1には、溶鉱炉で得られた粗鉛溶湯を、粗鉛の融点近くまで冷却し、銅を10〜20%程度含む脱銅ドロスとして溶湯に浮上させ、粗鉛から銅を分離し、次に、銅を含む脱銅ドロスを反射炉などの炉で、銅をカワ(マット:硫化物)・ヒカワ(スパイス:砒化物)として濃縮し、銅製錬の原料とする方法が記載されている。
【0004】
また、脱銅ドロスを分離した後の粗鉛から、錫などの不純物を分離する方法として、例えば、高温では鉛よりも錫の方が酸素との親和力が大きいことを利用して錫を酸化させてドロスとして回収する方法が知られている。より具体的には、反射炉を用いて溶湯を700〜900℃の高温にして錫を酸化する手法や、その他、塩基性酸化物との親和性を利用して錫を鉛溶湯から回収する方法、すなわち、例えば水酸化ナトリウムや硝酸ナトリウムを用いて500℃以下の温度で錫酸ナトリウムを含むハリス滓として錫を鉛溶湯から分離する方法がハリス法として知られている。
【0005】
また、例えば特許文献1などには、粗鉛から分離した銅を含む混在物、特に銅と錫が金属間化合物を形成している混在物の原料から錫やインジウムを回収する方法として、銅、鉛、錫およびインジウムを含有するドロスなどの混在物の原料を、水酸化ナトリウムなどの水酸化アルカリ溶融浴に投入し、錫およびインジウムを溶融浴中に抽出してアルカリ滓を得、このアルカリ滓を水で抽出することで、錫を錫酸ソーダ溶液として抽出し、銅・鉛・インジウムを含む殿物から分離離回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「鉛製錬」.渡辺元雄著.朝倉書店.初版昭和34年
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−322031公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、鉛製錬では、銅及び錫などを含有し、鉛を主体とする金属混合物(粗鉛)を融点近くまで加熱して銅を脱銅ドロスとして浮上分離した後、錫を分離回収する場合は、残った鉛を主体とする溶湯に水酸化ナトリウムを添加して500℃以下の温度で酸化させて、錫のナトリウム塩を含むハリス滓として分離し、粗鉛を精製すると同時に錫を回収する方法が行われてきたが、効率をさらに高めることが求められると共に、特に錫の回収率を高めることが求められていた。
【0009】
また、特許文献1に開示されている方法では、過剰の水酸化ナトリウムが必要であり、回収効率が悪いという問題があったほか、水酸化アルカリ溶融浴を調製するために、水酸化ナトリウムを溶融させること自体がたいへん危険なことであるため、実操業設備や実操業方法を検討すると安全性や生産性の面で課題があった。
【0010】
そこで本発明は、鉛はもちろん、錫なども効率よく回収することができる、新たな有価金属の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物を加熱して溶融し、得られた金属混合物溶湯に水酸化ナトリウムを添加すると共に攪拌して錫のナトリウム塩を形成させ、該錫のナトリウム塩及び銅を含有する脱銅ハリス滓を回収すると共に、残部としての粗鉛を回収し、前記脱銅ハリス滓を水に投入して錫を水に溶解させ、固液分離することにより、溶液に溶解している錫と、銅を含有する非溶解物とを分離するようにして、粗鉛及び粗錫を得ることを特徴とする、有価金属の製造方法を提案する。
【0012】
特許文献1に開示されている方法は、粗鉛から一旦銅と錫が金属間化合物(例えばCu3Sn)などの銅錫合金を含むドロスを形成させる工程の後に、この銅錫合金を含むドロスを、水酸化アルカリ溶融浴に投入することにより、銅及び錫を分離回収する方法であったため、Cu3Snのような銅錫合金を分解するために過剰の水酸化ナトリウムが必要であったのに対し、本発明は、金属混合物を加熱溶融した溶湯中で、銅と錫が新たに金属間化合物を形成する前に、水酸化ナトリウムを添加することができ、水酸化ナトリウムと粗鉛中の錫とを積極的に反応させて錫のナトリウム塩を形成させることができるから、過剰の水酸化ナトリウムが必要でない。しかも、錫のナトリウム塩を含む脱銅ハリス滓は、粗鉛溶湯から簡単に分離回収することができ、回収した脱銅ハリス滓は、銅と錫の金属間化合物(例えばCu3Sn)をほとんど含んでいないため、水に投入して攪拌するだけで、水に溶解する錫と、溶解しない金属成分(銅や鉛など)とに簡単かつ効率良く分離することができ、鉛はもちろん、錫の回収率を高めることができる。
よって、本発明によれば、銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物から、粗鉛及び粗錫をそれぞれ容易かつ効率良く分離回収することができ、さらには、処理に必要な量の水酸化ナトリウムのみ添加することで、従来の方法と比較してより安全に分離回収することができ、しかも、使用する水酸化ナトリウム量も少ないという利益を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の有価金属の製造方法に係る処理方法の工程の一例を示した図である。
【図2】実施例において、水酸化ナトリウムの添加量と錫回収率との関係を示したグラフである。
【図3】実施例において、水酸化ナトリウム添加終了後の反応時間(投入終了からの経過時間)と錫・銅回収率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態の例(以下、「本実施形態」という)について説明するが、本発明が下記本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る有価金属の製造方法(「本製法」と称する)は、図1に示すように、銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物(A)を加熱して溶融し、この溶湯に水酸化ナトリウムを添加すると共に攪拌して錫のナトリウム塩を形成させ、該錫のナトリウム塩及び銅を含有する脱銅ハリス滓(C)を回収すると共に、残部としての粗鉛(B)の溶湯を回収し(「脱銅・脱錫工程」)、前記脱銅ハリス滓(C)を水に投入して錫を水に溶解させ、固液分離することにより、溶液に溶解している溶解物分(D)と非溶解物分(E)とに分離し(「錫分離工程」)、溶解物分(D)から粗錫(F)を回収し(「錫回収工程」)、非溶解物分(E)から粗銅(G)を回収し(「銅回収工程」)、粗鉛(B)及び粗錫(F)、さらには粗銅(G)を得ることができる有価金属の製造方法である。
【0016】
<原料>
本製法の原料としての金属混合物(A)は、銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物であればよい。
この際、「鉛を主体とする」とは、金属混合物(A)中に占める鉛の割合が50質量%以上であるとの意味であり、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。
より具体的に言えば、本製法の原料としての金属混合物(A)は、鉛(Pb)を85〜99質量%、銅(Cu)を0.1〜5質量%、錫(Sn)を0.1〜5質量%含有する金属混合物であるのが好ましく、中でも鉛(Pb)を90〜99質量%、その中でも95〜99質量%含有するのがさらに好ましい。また、銅(Cu)を0〜1質量%、その中でも0.1〜0.7質量%含有するのがさらに好ましい。また、錫(Sn)を0.1〜1質量%、その中でも0.2〜0.9質量%含有するのがさらに好ましい。
なお、金属混合物(A)は、銅、錫及び鉛の他に、アンチモン、ヒ素、セレン、ニッケル、ビスマス等を含有してもよく、これらを含有しても同様に粗鉛(B)及び粗錫(F)、さらには粗銅(G)を得ることができる。
また、金属混合物(A)には、銅と錫の金属間化合物(Cu3Sn)はほとんど含まれておらず、含まれていても0〜2質量%である。
【0017】
金属混合物(A)は、例えば、鉛の精製プロセスなどで得られる浮遊選鉱による鉛精鉱や、飛灰の処理過程で生じる鉛含有残渣などを湿式処理して得た硫酸鉛を原料とし、これを電気炉で溶融還元して得られる粗鉛や、廃棄された電子基板やバッテリーの粗砕物や、ISP法の鉛溶鉱炉から出る粗鉛残渣などのうちの1種類、或いは、2種以上を混合したものをそのまま用いることもできるし、また、必要に応じて予備処理を行って本製法の原料とすることもできる。
【0018】
原料の予備処理としては、例えば、鉛を含有する回収原料を溶鉱炉に投入して1200℃程度で熔解すると、コークスで還元されたメタル分は比重差によって炉の底部にたまり、酸化物(スラグ)及び硫化物(マット)はその上に積層し、煤煙は炉の上部から排出されるため、メタル分としての粗鉛と、酸化物としてのマット・スラグと、煙灰とに分離する方法を挙げることができる。そして、そのようにして得られた粗鉛を金属混合物(A)として用いることができる。
また、このようにして得られた粗鉛に、別の粗鉛を加えて金属混合物(A)として用いることもできる。
【0019】
<脱銅・脱錫工程>
本工程では、金属混合物(A)を加熱して溶融し、この溶湯に水酸化ナトリウムを添加すると共に攪拌して錫のナトリウム塩を形成させ、該錫のナトリウム塩及び銅を含有する脱銅ハリス滓(C)を回収すると共に、残部としての粗鉛(B)の溶湯を回収することができる。
【0020】
より具体的には、例えば金属混合物(A)を鍋内に投入して加熱溶融させ、溶湯温度を350〜550℃に保持して、水酸化ナトリウムを添加すると共に攪拌して、水酸化ナトリウムと錫を積極的に反応させると、錫と銅が金属間化合物を形成する前に、錫は水酸化ナトリウムと反応して錫のナトリウム塩を形成し、溶融塩(餅状)として溶湯中を浮上する。この際、銅を主成分とする脱銅ドロス(粉状)も一緒になって浮上するため、これらを掬い取るなどして溶湯から回収することで、脱銅ハリス滓(C)と、残された粗鉛(B)の溶湯を得ることができる。
【0021】
この際、水酸化ナトリウムを添加するタイミングとしては、脱銅ドロスが溶湯上に本格的に浮上する前に投入するのが好ましく、特に溶湯中で銅と錫が金属間化合物(Cu3Sn)を新たに形成する前に投入するのが好ましい。但し、この際、脱銅ドロスが溶湯上に浮上する前と言っても、若干浮上してくる脱銅ドロスは存在する。
観点を変えると、溶湯を攪拌してから0分〜5時間、特に溶湯を攪拌してから5分〜1時間以内、特に5分〜30分以内に水酸化ナトリウムを添加するのが好ましい。この際、金属混合物(A)を加熱して溶融し始めてから30分〜1時間程度は、溶湯上下での温度勾配を解消すると共に未溶解の塊を溶解させて、溶融状態を均一にするために攪拌するのが好ましい。
また、金属混合物を加熱溶融させて溶融状態になってから1時間以内に水酸化ナトリウムを添加するのが好ましい。
このように銅と錫が金属間化合物(Cu3Sn)を形成する前に水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、錫と水酸化ナトリウムを反応させて錫のナトリウム塩を形成させることができると同時に、銅と錫が金属間化合物(Cu3Sn)を形成するのを妨げることができる。
この際、脱銅ドロスが浮上する前に添加しないと、浮上した脱銅ドロス中に錫が取り込まれてしまって、銅と錫が金属間化合物(Cu3Sn)を形成する可能性がある。
【0022】
水酸化ナトリウムの添加量は、少な過ぎると、錫と十分に反応しなかったり、溶湯中で新たに錫−銅の合金が形成したりする可能性がある一方、多過ぎると、Naが飽和状態となり、錫の溶解反応が進行せず錫の抽出率が高まらない可能性があるほか、脱銅ハリス滓の軟化によって回収困難になる可能性があるため、金属混合物(A)に含まれる錫に対して1.0kg/kg〜10.0kg/kgの質量比率で添加するのが好ましく、特に7.0kg/kg以下、中でも特に1.5kg/kg以上、或いは5.0kg/kg以下とするのがより一層好ましい。
【0023】
水酸化ナトリウムは一度に添加するのではなく、攪拌しながら徐々に添加するのが好ましい。
そして、所定量の水酸化ナトリウムを添加した後、脱銅ハリス滓(C)を回収するまでの時間、言い換えれば水酸化ナトリウムを反応させる時間は、1.0時間以上、特に3.5時間以上、中でも6.5時間以上であるのが好ましい。1.0時間以上であれば、Snを十分にNaと反応させることができ、Snの回収率を十分に高めることができる。他方、あまり長くてもエネルギー効率が悪いため、上限は10.0時間、特に9.0時間以下、中でも8.5時間以下とするのが好ましい。
【0024】
こうして得られる粗鉛(B)は、鉛を多く含む一方、錫及び銅の含有割合は低いものとして得ることができる。例えば、鉛(Pb)を95〜99質量%、銅(Cu)を0.1〜0.4質量%、錫(Sn)を0〜0.02質量%含有する粗鉛、好ましくは鉛(Pb)を97〜99質量%、銅(Cu)を0〜0.1質量%、錫(Sn)を0〜0.01質量%含有する粗鉛を得ることができる。
【0025】
また、こうして得られる脱銅ハリス滓(C)は、錫のナトリウム塩を含有し、かつ銅と錫の金属間化合物(Cu3Sn)の含有割合が低く、錫、銅及び鉛を含有するという特徴を有している。例えば、銅(Cu)を5〜20質量%、錫(Sn)を5〜20質量%、鉛(Pb)を5〜40質量%含有し、好ましくは銅(Cu)を5〜15質量%、錫(Sn)を10〜15質量%、鉛(Pb)を10〜30質量%含有する。
【0026】
<錫分離工程>
本工程では、前記工程で回収した脱銅ハリス滓(C)を水に投入して錫を水に溶解させ、固液分離することにより、溶液に溶解している溶解物分(D)と非溶解物分(E)とを分離回収することができる。
【0027】
錫のナトリウム塩を含有する脱銅ハリス滓(C)を水に投入して攪拌すると、脱銅ハリス滓(C)には、銅と錫の金属間化合物(Cu3Sn)がほとんど含まれていないため、殆どの錫は錫酸塩として水に溶解し、鉛や銅は金属のまま沈降するため、適宜固液分離手段により溶解物分(D)と非溶解物分(E)とを分離回収することができる。また、一部の金属は水酸化物の浮遊殿物として回収される。
【0028】
脱銅ハリス滓(C)を投入する水は、特に限定するものでない。また、錫のナトリウム塩等と水との反応熱で水が発熱するため、特に加熱する必要はないが、必要であれば加熱してもよい。
【0029】
溶解物分(D)と非溶解物分(E)とを分離する手段としては、例えば比重分離、濾過等による物理的な分離方法により、溶解物分(D)を選択的に液中に分離することができる。
【0030】
<錫回収工程>
本工程では、前記工程で回収した溶解物分(D)から粗錫(F)を回収する。
具体的には、溶解物分(D)を、例えば電解採取、中和、晶析、消石灰添加などにより、金属錫またはその中間品としての粗錫(F)として回収することができる。
【0031】
<銅回収工程>
本工程では、前記工程で回収された非溶解物分(E)から粗銅(G)を回収することができる。
具体的には、非溶解金属成分(E)を、アンモニアを含む溶媒、硫酸、塩酸や硝酸などの銅を溶解する溶液で浸出し、固液分離することにより溶液に溶解している銅を分離するようにして、粗銅(G)を得ることができる。中でも、溶解の容易さ、次工程への供用の容易さの観点から、アンモニアを含む溶媒で浸出し、固液分離することにより溶液に溶解している銅を非溶解物の浸出残渣と分離するようにして、粗銅を得るのが好ましい。
但し、このような方法に限定するものではなく、一般的な公知の方法によって銅を分別回収し、粗銅(G)を分離回収してもよい。
【0032】
<鉛精製工程>
上記の如く回収された粗鉛(B)は、一般的な公知の方法によって鉛を精製すればよい。例えば粗鉛を電解して電気鉛を精製することができる。
【0033】
<その他>
なお、脱銅ハリス滓では、アンチモン(Sb)は水に溶解しないことが確認されている。
【0034】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
<実施例1>
製錬工程で副産物として発生したドロス、鉛原料及び廃棄基板類を混合し、鉛溶鉱炉で1200℃に加熱して熔解し、スラグマット及び煤煙を除去し、金属混合物(A)を得た。この金属混合物(A)の組成は、鉛98.5質量%、銅0.09質量%、錫0.27質量%であった。
【0037】
金属混合物(A)187tを加熱鍋に入れて加熱して溶融させ、溶湯温度を435〜445℃に保持しながら攪拌し、攪拌開始から30分後のタイミングで、粉末状の水酸化ナトリウム2,500kg(金属混合物(A)の錫質量に対する比率5.0kg/kg)を3.6時間かけて順次添加し、添加終了後も攪拌させながら4.5時間反応させた。
水酸化ナトリウムの添加終了から4.5時間後、溶湯上に浮上した泥状の溶融塩をバケットクレーンによって掬って9.00tの脱銅ハリス滓(C)を回収すると共に、残部としての粗鉛(B)の溶湯178.00tを得た。
この際、水酸化ナトリウムを添加し始めた際のタイミングは、金属混合物(A)の溶湯中で、銅と錫が新たに金属間化合物を形成する前であり、脱銅ドロスが本格的に浮上する前であった。また、そのタイミングは、金属混合物(A)が溶融状態になってから少なくとも1時間以内であった。
【0038】
得られた粗鉛(B)の溶湯178.00tを電解精製することにより、粗鉛(鉛純度99.999%)176.00tを得ることができた。
他方、脱銅ハリス滓(C)9.0tは、水(市水)14,300kL中に投入して攪拌し、沈降法によって固液分離することで、溶解物分(D)2,200kgと非溶解物分(E)6,800kgとを分離回収した。
【0039】
このようにして得られた溶解物分(D)2,200kgを電解採取して、粗錫(F)(錫純度99.5%以上)598kgを得た。
また、非溶解物分(E)6,800kgを、アンモニアを含む溶媒(溶媒の名前Lix84I、アンモニア濃度3〜5規定、温度60℃)110kLに投入して浸出させ、フィルタープレスで固液分離することにより、溶液に溶解している銅と非溶解物の浸出残渣と分離するようにして、粗銅(G)(銅純度99.99%)620kgを得た。
【0040】
<実施例2>
上記実施例1において、水酸化ナトリウムの添加量、水酸化ナトリウムを添加するタイミング、並びに添加後の反応時間を、下記表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、粗鉛(B)、脱銅ハリス滓(C)、溶解物分(D)、非溶解物分(E)、粗錫(F)及び粗銅(G)を得た。
【0041】
なお、表1において、「水酸化ナトリウム添加状況ごとの撹拌時間」の項目において、「添加前」は、水酸化ナトリウムを添加する前の攪拌時間を示し、「添加中」は水酸化ナトリウムを添加開始から添加終了までの時間を示し、「反応中」は水酸化ナトリウムの添加終了後に攪拌を続けて反応させた時間を示す。
また、鉛の回収率は、金属混合物(A)に含まれる鉛に対する、得られた粗鉛(B)中の鉛の質量割合(%)を示し、錫の回収率は、金属混合物(A)に含まれる錫に対する、得られた粗錫(F)中の錫の質量割合(%)を示し、銅の回収率は、金属混合物(A)に含まれる銅に対する、得られた粗銅(G)中の銅の質量割合(%)を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
金属混合物を加熱溶融した溶湯中で、銅と錫が新たに金属間化合物を形成する前に、水酸化ナトリウムを添加して、水酸化ナトリウムと粗鉛中の錫とを積極的に反応させて錫のナトリウム塩を形成させることにより脱銅ハリス滓を容易に回収でき、この脱銅ハリス滓から粗錫を容易に回収でき、錫の回収率をより一層高めることができることが分かった。また、粗銅の回収も容易である上、銅の回収率も高いことが分かった。
【0044】
錫の回収率を80%以上にすることができ、さらには銅の回収率を70%以上にすることができるという観点からすると、水酸化ナトリウムの添加量は、金属混合物(A)の錫質量に対する比率として1.0kg/kg〜10.0kg/kgの質量比率で添加するのが好ましく、特に7.0kg/kg以下、中でも特に1.5kg/kg以上、或いは5.0kg/kg以下とするのがより一層好ましいことが分かった。
また、水酸化ナトリウムの添加終了後に攪拌を続けて反応させる時間としては、1.0時間〜10.0時間が好ましく、特に3.5時間〜9.0時間時間、中でも特に6.5時間〜8.5時間がより一層好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅及び錫を含有し、鉛を主体とする金属混合物を加熱して溶融し、得られた金属混合物溶湯に水酸化ナトリウムを添加すると共に攪拌して錫のナトリウム塩を形成させ、該錫のナトリウム塩及び銅を含有する脱銅ハリス滓を回収すると共に、残部としての粗鉛を回収し、前記脱銅ハリス滓を水に投入して錫を水に溶解させ、固液分離することにより、溶液に溶解している錫と、銅を含有する非溶解物とを分離するようにして、粗鉛及び粗錫を得ることを特徴とする、有価金属の製造方法。
【請求項2】
金属混合物を加熱溶融した溶湯中で、銅と錫が新たに金属間化合物を形成する前に、水酸化ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
金属混合物を加熱溶融させて溶融状態になってから1時間以内に水酸化ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
銅を含有する非溶解物を、アンモニアを含む溶媒、硫酸、塩酸や硝酸などの銅を溶解する溶液で浸出し、固液分離することにより溶液に溶解している銅を分離するようにして粗銅を得ることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の有価金属の製造方法。
【請求項5】
銅を含有する非溶解物を、アンモニアを含む溶媒で浸出し、固液分離することにより溶液に溶解している銅を非溶解物の浸出残渣と分離するようにして、粗銅を得ることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の有価金属の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−214021(P2011−214021A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80490(P2010−80490)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】