説明

有価金属回収方法

【課題】廃電池熔融物の酸化度を安定させ、スラグと合金との分離を確実にする方法を提供する。
【解決手段】廃電池を焙焼して酸化処理を行う予備酸化工程ST20と、この予備酸化工程において酸化処理がされた廃電池を熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を分離して回収する乾式工程S20と、を備える。乾式工程S20に先行して、廃電池の焙焼による酸化処理を予め行う予備酸化工程ST20を設けることにより、熔融工程ST21における最適な酸化度を安定的に得ることが可能となり、スラグと合金との分離効率を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウムイオン電池等の廃電池に含有する有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の、使用済み或いは工程内の不良品である電池(以下廃電池という)をリサイクルし、含有する有価金属を回収しようとする処理方法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。
【0003】
乾式法は、破砕した廃電池を熔融処理し、回収対象である有価金属と、付加価値の低いその他の金属等とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収するものである。すなわち、鉄等の付加価値の低い元素を極力酸化してスラグとし、かつコバルト等の有価物は酸化を極力抑制して合金として回収するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、高温の加熱炉を使用し、廃電池にフラックスを添加し、スラグの繰り返し処理をすることで有価金属であるニッケルやコバルトを80%前後回収できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7169206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾式法の処理工程において、廃電池を熔融工程内で酸化する場合、酸化されるべき物質が多数あり、処理バッチ毎にばらつきが大きい。そのため、熔融物に含まれる各物質の酸化度をそれぞれ適切に調整する目的で同一量の酸素を添加しても、毎回同じように各物質について適正な酸化度が得られ難く、安定的に、有価金属が回収できないという問題があった。
【0007】
より具体的には、熔融工程内で熔融物に含まれる多数の物質のなかでも、特にカーボン(炭素)の酸化度の調整が困難であることが問題となっていた。一般にカーボンはリチウムイオン電池の負極材料として廃電池内部の中心付近に含有されている。そのため、熔融工程における厳密な酸化の制御が困難で酸化度にばらつきが生じ易い。そのばらつきが、熔融物内の他の物質の適正な酸化の促進或いは酸化の抑制を妨げる場合があり、酸化処理全体を不安定なものとしていた。つまり、安定的に有価金属を回収するためにはカーボンの酸化を安定的に行なう必要がある。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、乾式法による廃電池からの有価金属の回収における回収率を安定的に高めることのできる有価金属回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、乾式工程に先行して、廃電池の焙焼による酸化処理を予め行う予備酸化工程を設けることにより、最適な酸化の抑制が安定的に可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 廃電池からの有価金属回収方法であって、前記廃電池を焙焼して酸化処理を行う予備酸化工程と、前記予備酸化工程後の廃電池を熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を分離して回収する乾式工程と、を備える有価金属回収方法。
【0011】
(2) 前記予備酸化工程を600℃以上1250℃以下で行う(1)記載の有価金属回収方法。
【0012】
(3) 前記乾式工程中の熔融工程において、追加の酸化処理を行う追加酸化工程を備える(1)又は(2)記載の有価金属回収方法。
【0013】
(4) 前記予備酸化工程における前記酸化処理にキルンを用いる(1)から(3)いずれか記載の有価金属回収方法。
【0014】
(5) 前記廃電池がリチウムイオン電池である(1)から(4)いずれか記載の有価金属回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、廃電池から有価金属を回収する方法において、乾式工程に先行して酸化処理を行う予備酸化工程を設けることにより、従来困難であった熔融工程での安定した酸化度の制御が可能となり、安定的に高い回収率で有価金属を回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一例である、廃電池からの有価金属回収方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の予備酸化工程における酸化処理に用いるキルンの使用状態を示す断面模式図である。
【図3】実施例及び比較例における、合金中への金属鉄と金属コバルトへの分配率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、廃電池からの有価金属回収方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態においては、廃電池がリチウムイオン電池である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
<全体プロセス>
図1に示すように、この有価金属回収方法は、廃電池前処理工程ST10と、予備酸化工程ST20と、乾式工程S20と、湿式工程S30とからなる。このように、本実施例における有価金属回収方法は乾式工程S20において合金を得て、その後に湿式工程S30によって有価金属元素を分離回収するトータルプロセスである。なお、本発明における廃電池とは、使用済み電池のみならず、工程内の不良品等も含む意味である。また、処理対象に廃電池を含んでいればよく、廃電池以外のその他の金属や樹脂等を適宜加えることを排除するものではない。その場合にはその他の金属や樹脂を含めて本発明の廃電池である。
【0019】
<廃電池前処理工程ST10>
廃電池前処理工程ST10は、廃電池の爆発防止を目的として行われる。すなわち、廃電池は密閉系であり内部に電解液等を有しているため、このまま乾式の熔融処理を行なうと爆発の恐れがあり危険である。このため、何らかの方法でガス抜きのための開孔処理を施す必要がある。これが廃電池前処理工程ST10を行う目的である。
【0020】
廃電池前処理工程ST10の具体的な方法は特に限定されないが、例えば針状の刃先で廃電池に物理的に開孔すればよい。なお、本発明においては後の乾式処理において熔融工程を経るために、個々の部材の分離等は不要である。
【0021】
<予備酸化工程ST20>
【0022】
本発明の特徴である予備酸化工程ST20について説明する。予備酸化工程ST20においては、廃電池前処理工程ST10で得られた前処理済廃電池を600℃〜1250℃の温度で焙焼しながら酸素を供給することにより酸化処理を行う。従来の有価金属回収方法においては、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行っていたが、本発明の有価金属回収方法においては、熔融工程ST21の前に予備酸化工程ST20を設け、予め予備酸化処理を行うことが特徴となっている。
【0023】
この予備酸化処理は、乾式工程S20内で熔融工程ST21を行う前の段階に行うものであり、熔融工程ST21を行う溶融炉とは別途に予備酸化炉を設けて当該予備酸化炉内において行う。この予備酸化炉としてはキルンを用いることができる。一例として、従来よりセメント製造等に用いられているロータリーキルンを好適に用いることができるため、以下、ロータリーキルンをキルンの代表例として本発明の実施形態の詳細について説明するが、本発明におけるキルンとはこれに限らない。例えば、トンネルキルン(ハースファーネス)等、予備酸化工程ST20において廃電池を焙焼しながら酸素を供給することにより、その内部で酸化処理を行うことが可能であるあらゆる形式のキルンを含むものである。
【0024】
本実施形態においては、予備酸化工程ST20は、図2に示すキルン1を予備酸化炉として用いることにより行う。図2に示す通り、キルン本体10は厚さ15〜30mmの炭素鋼等からなる筒状の回転式の窯である。内部は耐火煉瓦等で内張りされている。キルン本体10の外側にはキルン本体に回転力を伝える駆動ギヤ11が備えられている。また、キルン本体内部には、内部を熱するための熱風を送風するバーナーパイプ12が備えられている。これらを備えたキルン本体10は、使用時には水平面に対して3〜4%の傾斜をもつように設置される。
【0025】
キルン1を用いた予備酸化工程ST20においては、まず、キルン本体10の内部の温度をバーナーパイプ12より送風する熱風により600〜1250℃となるように加熱する。次に駆動ギヤ11により、キルン本体10をR方向に回転させながら、搬入口13よりA方向へと廃電池を搬入する。廃電池は、キルン本体10の傾斜に沿って攪拌、焙焼されながらキルン本体10内を排出口14の方向に向かって移動してゆく。このとき、キルン本体10内の温度が600℃未満であると酸化が充分に進まず好ましくない。また、キルン本体10内の温度が1250℃を超えると、主に廃電池の外部シェルに用いられている鉄等の一部が熔融してキルン本体10の内壁に付着してしまい、円滑な操業の妨げになったり、或いはキルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。
【0026】
上記の温度で焙焼されながらキルン本体10内を移動してゆく廃電池に対し、酸化度を調整してニッケル、コバルト、銅の回収率を向上するために空気等の酸化剤をキルン本体10内に導入する。例えばリチウムイオン電池の正極材料には、アルミ箔が使用されている。また、負極材料としては、カーボンが用いられている。更に電池の外部シェルは鉄製或いはアルミニウム製であり、集合電池の外部パッケージにはプラスチックが用いられている。これらの材質は基本的に還元剤として作用する。このためこれらの材料をガスやスラグ化するトータルの反応は酸化反応になる。そのため、キルン本体10内に酸素導入が必要となる。予備酸化工程ST20において空気を導入しているのはこのためである。
【0027】
酸化剤は特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体等が好ましく用いられる。これらは予備酸化工程ST20において直接キルン本体10内に送り込まれる。なお、酸化剤の導入量については、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が目安となる。
【0028】
上記過程を経て酸化された廃電池は排出口14からB方向に排出される。酸化処理の過程で発生した排ガスはC方向に排出される。
【0029】
本発明における予備酸化工程ST20は、熔融工程ST21内で酸化処理を行う場合と比べて、より低温での酸化処理であるため、反応速度が比較的緩やかであり、また、筒状のキルン本体10の空間内に所定量の酸素を導入することにより、キルン本体10内を移動していく廃電池を酸化させる方法であるため、酸素量、酸化時間及び温度の調整等により、酸化の制御が容易である。酸化処理全体の安定性を阻害することの多いカーボンについても、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行う場合とは異なり、容易に酸化の制御を行うことができる。具体的には、この予備酸化工程ST20において、カーボンがほぼ全量酸化される程度まで酸化処理を行なう。これにより、次工程の熔融工程ST21におけるカーボンの未酸化によるばらつきを抑えることができ、鉄やコバルトの酸化度をより厳密に調整できる。
【0030】
廃電池の材料を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により一般的に、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化されていく。すなわちアルミニウムが最も酸化され易く、銅が最も酸化されにくい。酸素との親和力が相対的に低いコバルト、ニッケル、銅の回収率を向上するために、予備酸化工程ST20においては、酸素との親和力において近接する鉄とコバルトについて、鉄の酸化度を高める一方で、同時にコバルトの酸化を抑制するという厳密な酸化度の調整が求められる。上述の通り、予備酸化工程ST20においては、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行う場合に比べて、より厳密な酸化度の調整が可能である。このことにより、廃電池からの有価金属の回収率を安定的に高めることができる点が本発明の特徴である。
【0031】
また、乾式工程における熔融した廃電池の酸化処理では、鉄系素材のランスというストロー状の円筒を熔体内に挿入することによる酸素バブリングが安価で一般的な方法であったが、熔融温度が1400℃を超える高温であるために、ランスの熔融による消耗速度が大きい。そのために、交換頻度が大きくなり、作業効率の悪化とランスコストの増大という問題が生じていた。この予備酸化工程ST20は焙焼であるため、ランス消耗の問題は生じないというメリットもある。
【0032】
<乾式工程S20>
乾式工程S20においては、予備酸化工程ST20で酸化処理の行われた廃電池を1500℃付近で熔融する熔融工程ST21を行う。熔融工程ST21は従来公知の電気炉等で行うことができる。
【0033】
本発明の有価金属回収方法においては、予備酸化工程ST20において、予め酸化処理を行うため、従来のように乾式工程において熔融した廃電池に酸化処理を行う必要はない。
【0034】
ただし、予備酸化工程ST20における酸化が不足している場合や、その他、酸化度の調整が必要な場合には、熔融工程ST21において、微小時間の追加酸化処理を行う追加酸化工程を設けることができる。この追加酸化工程により、より微細に適切な酸化度の制御が可能となる。また、追加酸化工程は、従来の熔融時の酸化処理と比較して微少な時間で行うことができるため作業効率への悪影響は少なく、またランスの消耗も少なくて済むのでコストアップの問題も生じにくい。
【0035】
他に、熔融工程ST21では、後述するスラグ分離ST22で分離されるスラグの融点低下のためにSiO(二酸化珪素)及びCaO(石灰)等をフラックスとして添加する。なお、このフラックスの添加は、必ずしも熔融工程ST21に行わなければならないわけではない。熔融工程ST21に先行する予備酸化工程ST20において行っても同様の効果を得ることが可能である。
【0036】
熔融工程ST21によって、鉄やアルミニウム等の酸化物であるスラグと、有価金属たるニッケル、コバルト、銅の合金とが生成する。両者は比重が異なるために、それぞれスラグ分離ST22、合金分離ST23でそれぞれ回収される。このとき、スラグ中の酸化アルミニウムの含有量が相対的に多いと高融点で高粘度のスラグとなるが、上記のように熔融工程ST21においてスラグの融点低下のためにSiO2及びCaOを添加しているために、スラグの融点低下による低粘性化を図ることができる。このためスラグ分離ST22を効率的に行なうことができる。なお、熔融工程ST21における粉塵や排ガス等は、従来公知の排ガス処理ST24において無害化処理される。
【0037】
合金分離ST23を経た後、更に得られた合金に脱リン工程ST25を行なう。リチウムイオン電池においては、有機溶剤に炭酸エチレンや炭酸ジエチル等、リチウム塩としてLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)等が電解質として使用される。このLiPF中のリンは比較的酸化され易い性質を有するものの、鉄、コバルト、ニッケル等鉄族元素との親和力も比較的高い性質がある。合金中のリンは、乾式処理で得た合金から各元素を金属として回収する後工程の湿式工程での除去が難しく、不純物として処理系内に蓄積するために操業の継続ができなくなる。このため、この脱リン工程ST25で除去する。
【0038】
具体的には、反応によりCaOを生じる石灰等を添加し、空気等の酸素含有ガスを吹き込むことで合金中のリンを酸化してCaO中に吸収させることができる。
【0039】
このようにして得られる合金は、廃電池がリチウムイオン電池の場合、正極材物質由来のコバルト、ニッケル、電解質由来のリチウム、負極材導電物質由来の銅等が成分となる。
【0040】
<合金ショット化工程ST26>
本実施形態においては乾式工程S20の最後に合金を冷却して得る際に、これを粒状物(ショット化合金又は単にショットともいう)として得る。これにより、後の湿式工程S30における溶解工程ST31を短時間で行なうことができる。
【0041】
後述するように、乾式工程を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに湿式工程に投入する処理量も大幅に減らすことで、乾式工程と湿式工程とを組み合わせることが可能である。しかしながら、湿式工程は基本的に大量処理に向かない複雑なプロセスであるので、乾式工程と組み合わせるためには湿式工程の処理時間、なかでも溶解工程ST31を短時間で行なう必要がある。その問題については、合金を粒状物化することによって溶解時間を短縮することができる。
【0042】
ここで、粒状物とは、表面積で言えば平均表面積が1mmから300mmであることが好ましく、平均重量で言えば0.4mgから2.2gの範囲であることが好ましい。この範囲の下限未満であると、粒子が細かすぎて取り扱いが困難になること、更に反応が早すぎて過度の発熱により一度に溶解することができ難くなるという問題が生じるので好ましくなく、この範囲の上限を超えると、後の湿式工程での溶解速度が低下するので好ましくない。合金をショット化して粒状化する方法は、従来公知の流水中への熔融金属の流入による急冷という方法を用いることができる。
【0043】
<湿式工程S30>
【0044】
廃電池からの有価金属回収プロセスは、特許文献1のように合金として回収したままでは意味がなく、有価金属元素として回収する必要がある。廃電池を乾式工程で予め処理することによって、上記のような有価金属のみの合金とすることで、後の湿式工程を単純化することができる。このとき、この湿式での処理量は投入廃電池の量にくらべて質量比で1/4から1/3程度まで少なくなっていることも湿式工程との組み合わせを有利にする。
【0045】
このように、乾式工程を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに処理量も大幅に減らすことで、乾式工程と湿式工程を組み合わせることが工業的に可能である。
【0046】
湿式工程は従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。一例を挙げれば、廃電池がリチウムイオン電池の場合の、コバルト、ニッケル、銅、鉄からなる合金の場合、酸溶解(溶解工程ST31)の後、脱鉄、銅分離回収、ニッケル/コバルト分離、ニッケル回収及び、コバルト回収という手順で元素分離工程ST32を経ることにより有価金属元素を回収することができる。
【0047】
<処理量>
従来、乾式工程と湿式工程を組み合わせたトータルプロセスにおいては、乾式工程において、廃電池を熔融した状態で酸化処理を行っていたため、酸化処理における酸化度を適切に調整するために、乾式工程内の熔融工程は、溶炉内で同時に処理する全ての廃電池の酸化処理を終えてから、改めて次の工程を最初から開始するというバッチ処理とする必要があった。本発明の有機金属回収方法によれば、予め予備酸化工程ST20によって酸化処理を終えた廃電池を連続的に溶融炉に投入することにより、乾式工程において廃電池を連続的に処理できるため、従来より大量の処理が可能である。少なくとも1日あたり1t以上、好ましくは1日あたり10t以上である場合に本発明を好適に使用できる。
【0048】
廃電池の種類は特に限定されないが、コバルトやリチウムという稀少金属が回収でき、その使用用途も自動車用電池等に拡大されており、大規模な回収工程が必要となるリチウムイオン電池が本発明の処理対象として好ましく例示できる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
まず、実施例について説明する。実施例1〜6においては、熔融工程に先行して予備酸化工程を設けて予備酸化処理を行い、その後に熔融工程を設けて熔融処理を行った。
【0051】
実施例における予備酸化工程では、21〜25gの廃リチウムイオン電池(以下「試料」という)を、アルミナ製るつぼ内において、窒素雰囲気による昇温により、表1に示す通り、900℃、1100℃、又は1200℃の温度で30分間保持しながら、表1に示す各所定量の酸素をアルミナチューブを通じて吹き込むことにより予備酸化処理を行った。ただし、実施例2については、酸素に代えて所定量の空気を吹き込んだ。
【0052】
【表1】

【0053】
続いて、熔融工程では、予備酸化処理により酸化したアルミナ製るつぼ内の試料に、SiO/CaO比が1の混合フラックス7.2gを添加した後、試料を窒素雰囲気による昇温により表1に示す通り、1450℃から1500℃の範囲内の温度で熔融し、1時間保持することにより熔融処理を行った。このとき酸素吹き込みは行なわなかった。
【0054】
その後、試料を炉冷し、冷却後にスラグと合金を分離回収して、ICP法により分析した合金中への金属鉄と金属コバルトの分配率(質量%)を表1及び図3に示した。
【0055】
次に比較例について説明する。比較例1〜3においては、予備酸化処理を行わずに、熔融工程に移行し、熔融処理中に酸化処理を行った。また、比較例4においては、1300℃の温度で、予備酸化処理を行った。
【0056】
比較例1〜3においては、まず最初の工程として、実施例と同量の試料をアルミナ製るつぼ内において、実施例と同様、窒素雰囲気による昇温により、表1に示す通り、900℃又は1100℃の温度で30分間保持した。ただし、実施例と異なり、この工程内では、酸素の吹き込み、すなわち予備酸化処理は行わなかった。
【0057】
続いて、熔融工程では、アルミナ製るつぼ内の試料に、SiO/CaO比が1の混合フラックス7.2gを添加した後、試料を窒素雰囲気による昇温により表1に示す通り、1450℃から1500℃の範囲内の温度で熔融し、1時間保持することにより熔融処理を行った。そして、この熔融処理と同時に、比較例1については、アルミナ製るつぼ上部5cmの位置に配置したランスから、また、比較例2、3については、アルミナ製るつぼ内に配置したランスから、それぞれ表1に示す各所定量の酸素を吹き込むことにより熔融工程内において酸化処理を行った。
【0058】
比較例4においては、実施例と同量の試料をアルミナ製るつぼ内において、実施例と同様、窒素雰囲気による昇温により、表1に示す通り、1300℃の温度で30分間保持しながら、表1に示す所定量の酸素をアルミナチューブを通じて吹き込むことにより予備酸化処理を行った。なお、比較例4においては、この予備酸化工程の段階で、廃電池の一部が熔融して、るつぼの内壁に付着してしまい、取り出すことができなかったため、以後の工程については実施不能であった。
【0059】
その後、比較例4以外の各試料を炉冷し、冷却後にスラグと合金を分離回収して、ICP法により分析した合金中への金属鉄と金属コバルトの分配率(質量%)を表1及び図3に示した。
【0060】
表1及び図3から解かるように、熔融工程に先行して、廃電池の焙焼による酸化処理を予め行う予備酸化工程を設けることにより、予備酸化処理を行わない場合と比較して、安定的に合金中への金属コバルトの回収率を高めることが可能であった。
【0061】
なお、実施例の試験後のスラグは、いずれも均一熔融しており、表面には残留カーボンは認められなかった。一方、比較例1〜3の試験後のスラグには、いずれも未熔融部が残っており、その未熔融物中にカーボンの存在が認められた。
【0062】
このことより、廃電池からの有価金属の安定的な回収のための課題であったカーボンの酸化処理について、予備酸化工程を設けることにより、確実に酸化処理することが可能となることが解る。
【符号の説明】
【0063】
ST10 廃電池前処理工程
ST20 予備酸化工程
S20 乾式工程
ST21 熔融工程
ST22 スラグ分離
ST23 合金分離
ST24 排ガス処理
ST25 脱リン工程
ST26 合金ショット化工程
S30 湿式工程
ST31 溶解工程
ST32 元素分離工程
1 キルン
10 キルン本体
11 駆動ギヤ
12 バーナーパイプ
13 搬入口
14 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池からの有価金属回収方法であって、
前記廃電池を焙焼して酸化処理を行う予備酸化工程と、
前記予備酸化工程後の廃電池を熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を分離して回収する乾式工程と、を備える有価金属回収方法。
【請求項2】
前記予備酸化工程を600℃以上1250℃以下で行う請求項1記載の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記乾式工程中の熔融工程において、追加の酸化処理を行う追加酸化工程を備える請求項1又は2記載の有価金属回収方法。
【請求項4】
前記予備酸化工程における前記酸化処理にキルンを用いる請求項1から3いずれか記載の有価金属回収方法。
【請求項5】
前記廃電池がリチウムイオン電池である請求項1から4いずれか記載の有価金属回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−172169(P2012−172169A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33177(P2011−33177)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】