説明

有価金属回収方法

【課題】リチウムイオン電池などの廃電池の処理量が多い場合でも、効率的に有価金属を回収する方法を提供する。
【解決手段】廃電池とフラックスとを熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を回収する乾式工程と、この有価金属の合金から有価金属を分離する湿式工程とを備え、前記乾式工程における有価金属の合金を粒状物、好ましくは平均表面積が1mmから300mmの粒状物として得る。これにより、律速段階となる湿式工程での溶解速度を向上でき、全体の廃電池の処理速度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウムイオン電池などの廃電池に含有する有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの、使用済みあるいは工程内の不良品である電池(以下廃電池という)をリサイクルし、含有する有価金属を回収しようとする処理方法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。
【0003】
乾式法は、破砕したバッテリーを焙焼や熔融処理することによって行われ、回収対象であるニッケル、コバルト、銅などの元素を合金として回収し、鉄などの付加価値の低い元素をスラグとして回収するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、高温の加熱炉を使用し、廃電池にフラックスを添加し、スラグの繰り返し処理をすることで有価金属であるニッケルやコバルトを80%前後回収できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7169206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、乾式法で得られるのは合金であるため、最終的に有価金属を単独元素として回収するには更なる工程が必要である。この際に湿式工程を行なうことが考えられるが、湿式工程は、乾式工程に比べて溶解、沈殿などの単位操作に処理時間を要することから、単に乾式工程に湿式工程を組み合わせただけでは、湿式工程が生産上の律速段階となり、乾式法のメリットである大量迅速処理を充分に活かしきれないという問題点があった。
【0007】
そして、乾式工程後の合金からの具体的な有価金属の回収方法という点については上記の特許文献1にも開示されておらず、乾式法を用いて最終的に有価金属を単独元素として回収できる、経済的なシステムが求められている。
【0008】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、乾式法のメリットを生かしてトータルの処理速度を向上させる廃電池からの有価金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、大量処理が可能な乾式工程の後に湿式工程を組み合わせることに着目し、更に、この際に乾式工程での合金形状を選択することで、後の湿式工程での溶解速度を大幅に向上させることが可能な方法を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 廃電池からの有価金属回収方法であって、
前記廃電池とフラックスとを熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を回収する乾式工程と、
前記有価金属の合金から有価金属を分離する湿式工程と、を備え、
前記乾式工程における前記有価金属の合金を粒状物として得ることを特徴とする有価金属回収方法。
【0011】
(2) 前記粒状物の平均表面積が1mmから300mmである(1)記載の有価金属回収方法。
【0012】
(3) 前記廃電池がリチウムイオン電池である(1)又は(2)記載の有価金属回収方法。
【0013】
(4) 前記廃電池の処理量が1日あたり1t以上である(1)から(3)いずれか記載の有価金属回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乾式工程における有価金属の合金を粒状物、すなわちショット化合金として得ることによって、湿式工程での溶解性を向上させ、乾式法の長所を充分に生かして廃電池の処理能力を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一例である、廃電池からの有価金属回収方法を示すフローチャートである。
【図2】湿式工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、廃電池からの有価金属回収方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態においては、廃電池がリチウムイオン電池である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
<全体プロセス>
図1に示すように、この有価金属回収方法は、廃電池前処理工程ST10と、乾式工程S20と、湿式工程S30とからなる。このように、本発明においては乾式工程S20において合金を得て、その後に湿式工程S30によって有価金属元素を分離回収するトータルプロセスである。なお、本発明における廃電池とは、使用済み電池のみならず、工程内の不良品なども含む意味である。また、処理対象に廃電池を含んでいればよく、廃電池以外のその他の金属や樹脂などを適宜加えることを排除するものではない。その場合にはその他の金属や樹脂を含めて本発明の廃電池である。
【0018】
<廃電池前処理工程ST10>
廃電池前処理工程ST10は、廃電池の爆発防止を目的として行われる。すなわち、廃電池は密閉系であり内部に電解液などを有しているため、このまま乾式の熔融処理を行なうと爆発の恐れがあり危険である。このため、何らかの方法でガス抜きのための開孔処理を施す必要がある。これが廃電池前処理工程ST10を行う目的である。
【0019】
廃電池前処理工程ST10の具体的な方法は特に限定されないが、例えば針状の刃先で廃電池に物理的に開孔すればよい。なお、本発明においては後の乾式処理において熔融工程を経るために、個々の部材の分離などは不要である。
【0020】
<乾式工程20>
乾式工程S20においては、廃電池前処理工程ST10で得られた前処理済廃電池を1500℃付近で熔融する熔融工程ST21を行う。熔融工程ST21は従来公知の電気炉などで行うことができる。
【0021】
なお、ここで酸化度を調整してニッケル、コバルト、銅の回収率を向上するために空気あるいは酸素あるいは酸素富化空気を吹き込む。例えばリチウムイオン電池の正極材料には、アルミ箔が使用されている。また、負極材料としては、カーボンが用いられている。さらに電池の外部シェルは鉄製あるいはアルミ製であり、集合電池の外部パッケージにはプラスチックが用いられている。これらの材質は基本的に還元剤として作用する。このためこれらの材料を熔融しガスやスラグ化するトータルの反応は酸化反応になる。そのため、系内に酸素導入が必要となる。熔融工程ST21において空気を導入しているのはこのためである。
【0022】
他に、熔融工程ST21では、後述するスラグ分離ST22で分離されるスラグの融点低下のためにSiO及びCaOなどをフラックスとして添加する。
【0023】
熔融工程ST21によって、有価金属たるニッケル、コバルト、銅の合金と、鉄やアルミなどの酸化物であるスラグとが生成する。両者は比重が異なるために、両者はそれぞれスラグ分離S22、合金分離ST23でそれぞれ回収される。このとき、スラグ中に酸化され易いアルミが含まれると、高融点で高粘度のスラグとしてアルミナが生成するが、上記のように熔融工程ST21においてスラグの融点低下のためにSiO2及びCaOを添加しているために、スラグの融点低下による低粘性化を図ることができる。このためスラグ分離22を効率的に行なうことができる。なお、熔融工程ST21における粉塵や排ガスなどは、従来公知の排ガス処理ST24において無害化処理される。
【0024】
合金分離ST23を経た後、更に得られた合金から脱リン工程ST25を行なう。リチウムイオン電池においては、有機溶剤に炭酸エチレンや炭酸ジエチルなど、リチウム塩としてLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)などが電解質として使用される。このLiPF中のリンは比較的酸化されやすい性質を有するものの、鉄、コバルト、ニッケルなど鉄族元素との親和力も比較的高い性質がある。合金中のリンは、乾式処理で得た合金から各元素を金属として回収する後工程の湿式工程での除去が難しく、不純物として処理系内に蓄積するために操業の継続ができなくなる。このため、この脱リン工程ST25で除去する。
【0025】
具体的には、反応によりCaOを生じる石灰など添加し、空気などの酸素含有ガスを吹き込むことで合金中のリンを酸化してCaO中に吸収させることができる。
【0026】
このようにして得られる合金は、廃電池がリチウムイオン電池の場合、正極材物質由来のコバルト、ニッケル、電解質由来のリチウム、負極材導電物質由来の銅などが成分となる。
【0027】
<合金ショット化工程S26>
次に、本発明の特徴である合金ショット化工程ST26について説明する。本発明においては乾式工程S20の最後に合金を冷却して得る際に、これを粒状物(ショット化合金又は単にショットとも言う)として得る。これにより、後の湿式工程S30における溶解工程ST31を短時間で行なうことができる。
【0028】
後述するように、本発明は乾式工程を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに湿式工程に投入する処理量も大幅に減らすことで、乾式工程と湿式工程とを組み合わせることを可能とする。しかしながら、湿式工程は基本的に大量処理に向かない複雑なプロセスであるので、乾式工程と組み合わせるためには湿式工程の処理時間、なかでも溶解工程ST31を短時間で行なう必要がある。そこで、本発明においては合金を粒状物化することによって溶解時間を短縮することができる。
【0029】
ここで、粒状物とは、表面積で言えば平均表面積が1mmから300mmであることが好ましく、平均重量で言えば0.4mgから2.2gの範囲であることが好ましい。この範囲の下限未満であると、粒子が細かすぎて取り扱いが困難になること、さらに反応が早すぎて過度の発熱により一度に溶解することができ難くなるという問題が生じるので好ましくなく、この範囲の上限を超えると、後の湿式工程での溶解速度が低下するので好ましくない。合金をショット化して粒状化する方法は、従来公知の流水中への熔融金属の流入による急冷という方法を用いることができる。
【0030】
<湿式工程S30>
【0031】
廃電池からの有価金属回収プロセスは、特許文献1のように合金として回収したままでは意味がなく、有価金属元素として回収する必要がある。そして、本発明においては、廃電池を乾式工程であらかじめ処理することによって、湿式では取り除き難いリンなどの不純物を低減している。そして、上記のような有価金属のみの合金とすることで、後の湿式工程を単純化することができる。このとき、この湿式での処理量は投入廃電池の量にくらべて質量比で1/4から1/3程度まで少なくなっていることも湿式工程との組み合わせを有利にする。
【0032】
このように、本発明は、乾式工程を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに処理量も大幅に減らすことで、乾式工程と湿式工程を組み合わせることを工業的に可能とする点に特徴がある。
【0033】
湿式工程は従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。一例を挙げれば、廃電池がリチウムイオン電池の場合の、コバルト、ニッケル、銅、鉄からなる合金の場合、図2に示すように、酸溶解(溶解工程ST31)の後、脱鉄、銅分離回収、ニッケル/コバルト分離、ニッケル回収及び、コバルト回収という手順で元素分離工程ST32経ることにより有価金属元素を回収することができる。そして、本発明においては、溶解工程ST31に投入する合金が粒状物のショット化合金であるため、速やかな酸溶解が可能となる。この点については実施例において説明する。
【0034】
<処理量>
本発明の方法は大量処理に向く乾式工程と少量処理に向く湿式工程を組み合わせた従来にない廃電池のリサイクル方法である。そして、乾式工程を最初に行なうために大量処理が可能である。少なくとも1日あたり1t以上、好ましくは1日あたり10t以上である場合に本発明を好適に使用できる。
【0035】
廃電池の種類は特に限定されないが、コバルトやリチウムという稀少金属が回収でき、その使用用途も自動車用電池などに拡大されており、大規模な回収工程が必要となるリチウムイオン電池が本発明の処理対象として好ましく例示できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
電気炉内に設置したアルミナ製るつぼ内において、廃リチウム電池をフラックスとともに1450℃で熔融し、酸素を融体中へ吹き込むことにより酸化して得られた合金を、注射器の先にシリコンチューブで繋げた内径約4mmの石英管内に吸い上げ、金属性容器内に張った約20Lの水中に水を攪拌させながら投下した。1回の合金投下量は約3gであった。この操作を数回繰り返した後、水を抜いて、容器底部で粒状になった合金を回収した。合金は球状のショットになっており、粒径はほぼ全量1〜3mmの範囲内(表面積で3.1mmから28.3mmの範囲内)にあった。このショット化合金約15gを200mlの濃度60重量%の硫酸溶液に入れ、約60℃で溶解処理を行ったところ、1時間以内に全量が溶解した。
【0038】
<比較例1>
実施例1と同様の条件で熔融、酸化処理を行った後、そのまま炉内で冷却した後、スラグと分離して得られたボタン状の合金16.5gに対し、実施例1と同様の溶解処理を行ったところ、8時間以上経っても未溶解合金が残留していた。
【符号の説明】
【0039】
ST10 廃電池前処理工程
S20 乾式工程
ST21 熔融工程
ST22 スラグ分離
ST23 合金分離
ST24 排ガス処理
ST25 脱リン工程
ST26 合金ショット化工程
S30 湿式工程
ST31 溶解工程
ST32 元素分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池からの有価金属回収方法であって、
前記廃電池とフラックスとを熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を回収する乾式工程と、
前記有価金属の合金から有価金属を分離する湿式工程と、を備え、
前記乾式工程における前記有価金属の合金を粒状物として得ることを特徴とする有価金属回収方法。
【請求項2】
前記粒状物の平均表面積が1mmから300mmである請求項1記載の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記廃電池がリチウムイオン電池である請求項1又は2に記載の有価金属回収方法。
【請求項4】
前記廃電池の処理量が1日あたり1t以上である請求項1から3いずれか記載の有価金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−41569(P2012−41569A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180965(P2010−180965)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】