説明

有効成分とスルホベタインとを含む医薬組成物

本発明は、活性薬剤と非界面活性スルホベタイン(NDSB)とを含む医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非界面活性スルホベタイン(NDSB)を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有効医薬成分を含む医薬組成物は公知である。既存の医薬組成物は一般に医薬に許容される種々の賦形剤を含んでおり、これらの賦形剤は種々の特性(例えば、有効医薬成分の安定化、pHの調整及び/または維持、有効医薬成分の溶解度に対する効果、医薬組成物の等張性の維持など)によって、有効医薬成分を医薬組成物に使用できるようにする。医薬に許容される賦形剤は多くの文献に記載されている。例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients,Ainley Wade and Paul J.Weller,American Pharmaceutical Association,1994参照。
【0003】
治療有効タンパク質も医薬組成物中の有効医薬成分として記載されている。これらの医薬組成物も、治療有効タンパク質を含む安定な医薬組成物の調製を可能にするような特性を有している種々の医薬賦形剤を含んでいる。このような医薬組成物は多くの文献に記載されている。例えば、Yu−Chang John Wang and Musetta A.Hanson(1988),J of Parenteral Science & Technology,42:S4−S26;Wong D.& Parasrampuria J.(1997),Biopharm:November 52−61参照。
【0004】
治療用タンパク質として顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を含む安定な医薬組成物は欧州特許EP373679に開示されており、低導電率及びpH2.75−4.0の範囲の酸性溶液中で主としてG−CSFを安定化すると記載されている。安定性を改善するために、種々の糖、アミノ酸、ポリマー及び界面活性剤が添加されている。G−CSFを含む組成物のpHは、凝集体の形成を抑えることによって安定性を増すために4未満でなければならないことが特に強調されている。4.0を上回るpHで凝集体の形成及び安定性の低下が生じることは従来技術の文献のデータに符合する。(Kuzniarら(2001),Pharm Dev Technol 6(3):441−7;Bartkowskiら(2002),J Protein Chem 21(3):137−43;Narhiら(1991), J Protein Chem 10 (4):359−367;Wang W(1999),Int J Pharmaceut 185:129−188.
【0005】
特許及び科学文献に記載された別の医薬組成物では、医薬組成物中のG−CSFの安定性が種々の安定剤によって与えられており、例えば、スルフェートイオン(欧州特許EP1129720)、種々の保存剤、アミノ酸及び界面活性剤の混合物(欧州特許EP607156)、界面活性剤の存在下の種々のバッファ系(リン酸塩、クエン酸塩、アルギニン、酢酸塩)(欧州特許EP674525)、高分子化合物、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなど(英国特許GB2193621)、界面活性剤(欧州特許EP1060746)、種々のバッファ系(TRIS、HEPES、TRICINE)(欧州特許EP0988861)、糖例えばセロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、ラフィノース、トレハロースなど(欧州特許EP0674524)、及び、1種以上のアミノ酸(欧州特許EP1197221、国際特許WO51629、欧州特許EP1260230及びEP1329224、EP0975335)が添加されている。G−CSFを含む医薬組成物は低いイオン強度をもつことが好ましいにもかかわらず、大半の場合にはG−CSFを安定化するために種々の界面活性剤及びその他の安定剤が使用されている。尚、大半の場合にはpHを維持するために種々のバッファ系が更に使用されている。
【0006】
タンパク質再生に伴う可溶化剤として非界面活性スルホベタイン(NDSB)類を(溶液の約1Mという高濃度で)使用することは文献に記載されている(Chong Y and Chen H.(2000),Biotechiques 29(6):1166−7;Vuillard Lら(1995),Biochem J 305:337−43;Vuillard Lら(1995),Electrophoresis 16(3):295−7;Vuillard Lら(1998),Eur J Biochem 256:128−135;Goldberg M Eら(1995),Folding & Design 1:21−27)。
【0007】
安定化された医薬組成物を提供することは差し迫った要望である。医薬組成物中のNDSBの記載は科学文献にも特許文献にも見出されたことはない。
【発明の開示】
【0008】
NDSBが医薬組成物の賦形剤として使用できることが本発明によって知見された。NDSBを使用することによって安定化された医薬組成物を提供できる。
【0009】
従って本発明は、NDSBを含む医薬組成物に関する。
【0010】
本発明の第一の態様によれば、有効医薬成分と非界面活性スルホベタイン(NDSB)とを含む医薬組成物が提供される。
【0011】
本発明の有効医薬成分は、治療的に有効な合成または天然の有機分子(例えば、水に難溶性の合成及び天然の有機分子)及び治療的に有効なタンパク質(例えば、水に難溶性及び/または疎水性のタンパク質)及び/または治療効果をもつその他の有効医薬成分から成るグループから選択される。有効医薬成分は好ましくは治療有効量で含まれている。本文中に使用した“治療有効量の有効医薬成分”という用語は、治療効果を有している量の有効医薬成分を意味する。
【0012】
本発明の医薬組成物は、非界面活性スルホベタイン(NDSB)を含む。
【0013】
本文中で使用した“非界面活性スルホベタイン”という用語は、水溶液中でミセルを形成しないスルホベタインを意味する。
【0014】
本発明の医薬組成物の好ましい実施態様では、NDSBが第四アンモニウム塩であり、そのR1、R2、R3及びR4−SO基が中心窒素原子に結合しており、R1は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはそれらの誘導体を表し、R2は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはそれらの誘導体を表し、R3は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはそれらの誘導体を表し、R1、R2、R3及びR4のすべての組合せが(CHであり、ここにnは1−6であり、最も好ましくはnが3である。
【0015】
第四窒素原子はまた脂肪族または芳香族環構造の一部でもよい。
【0016】
従って、本発明の医薬組成物の好ましい実施態様では、NDSBが式1:
【0017】
【化2】

[式中、R1、R2及びR3は同じ基及び/または異なる基でよく、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはそれらの誘導体から成るグループから選択され、R4は(CHであり、nは1−6であり、最も好ましくはnが3である]
の第四アンモニウム塩である。
【0018】
好ましくは本発明の医薬組成物中に使用されるNDSBが、ジメチルエチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウム塩(SB195,Vuillardら(1994) FEBS Letters,353,294−296;Goldbergら(1995/1996) Folding & Design,1,21−27)、3−(1−ピリジノ)−1−プロパンスルホネート(SB201)、ジメチルベンジルアンモニウムプロパンスルホネート(SB256)、ジメチル−t−ブチル−(3−スルホプロピル)アンモニウム塩(SB222t)、3−(1−メチルピペリジン)−1−プロパンスルホネート(SB221)及びジメチル−(2−ヒドロキシエチル)−(スルホプロピル)−アンモニウム塩(SB211;Vuillardら(1995) Anal Biochem,230,290−294)から成るグループから選択される。
【0019】
上記のNDSBの2種類以上をすべての可能な組合せで使用することもできる。好ましくは、ジメチル−t−ブチル−(3−スルホプロピル)アンモニウム塩(SB222t)、ジメチルエチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウム塩(SB195)及び3−(1−メチルピペリジン)−1−プロパンスルホネート(SB221)が使用される。最も好ましくはジメチル−t−ブチル−(3−スルホプロピル)アンモニウム塩(SB222t)が使用される。
【0020】
使用されるNDSBの濃度は調整及び/または維持すべきpHの値に従属する。濃度は、1−1000mM、好ましくは5−100mMの範囲から選択される。本発明の医薬組成物のpHは、2−9、好ましくは3−8、最も好ましくは3.5−7.5の範囲である。
【0021】
本発明の第二の態様によれば、治療有効タンパク質と非界面活性スルホベタイン(NDSB)とを含む医薬組成物が提供される。
【0022】
本文中で使用した“治療有効タンパク質”という用語は、治療効果をもつタンパク質を意味する。本発明の医薬組成物に使用される治療有効タンパク質は、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターフェロン(IFN)類、例えば、IFN−アルファ2a、INF−アルファ2b、IFN−ベータ、IFN−ガンマ1b、インターロイキン(IL)類、例えば、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5からIL−10、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、上皮増殖因子(EGF)、エリトロポエチン(EPO)、濾胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト血清アルブミン(HSA)、デオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)、線維芽細胞増殖因子(aFGFまたはbFGF)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−アルファ)及び腫瘍壊死因子ベータ(TNF−ベータ)、カルシトニン、ヘマトプロテイン、プラスミノーゲンアクチベーター及びそれらの前駆体(t−PA、ウロキナーゼ、プロ−ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、プロテインC)、サイトカイン、TNFリガンドファミリー(TRAIL、FasL、osteoprotegerin)、可溶性受容体(p55、p75)、成長ホルモン例えばヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン及び傍甲状腺ホルモン、リポタンパク質、アルファ−1−アンチトリプシン、インスリン、プロインスリン、インスリンのサブユニットA、インスリンのサブユニットB、グルカゴン、血液凝固因子例えばVIII因子、IX因子、組織因子、ホンビルブラント因子、ボンベシン、トロンビン、エンケファリナーゼ、マクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−アルファ)、リラキシンAサブユニット、リラキシンBサブユニット、プロリラキシン、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ホルモン受容体または成長因子受容体、インテグリン、プロテインA、プロテインD、リウマトイド因子、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロピン−3、−4、−5または−6、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(aFGF及びbFGF)、形質転換増殖因子(TGF−アルファ及びTGF−ベータ)、インスリン様増殖因子(IGF1及びIGF2)、トロンボポエチン(TPO)、骨形成タンパク質(BMP)、スーパーオキシドジスムターゼ、上記タンパク質の生物活性フラグメント、及び、その他の治療有効タンパク質から成るグループから選択される
【0023】
本発明の治療有効タンパク質は治療有効量で使用される。
【0024】
本文中で使用した“タンパク質の治療有効量”という用語は、治療効果をもつタンパク質の量を意味する。
【0025】
最も好ましい有効医薬成分は、好ましくは治療有効量で使用されるG−CSFである。
本発明によればG−CSFと非界面活性スルホベタイン(NDSB)とを含む医薬組成物が提供される。
【0026】
本文中で使用した“G−CSF”という用語は、哺乳動物の造血細胞の分化及び増殖、並びに、造血系の成熟細胞の活性化を調節するタンパク質を意味する。これらは、ヒトG−CSF及び以下に定義するようなその誘導体及び類似体から成るグループから選択される。好ましくはG−CSFが、大腸菌中の発現によって産生させた組換えヒトG−CSFを表す。
【0027】
本発明の医薬組成物はすべての種類のG−CSFに使用できる。特に、メチオニルG−CSF(Met−G−CSF)、グリコライズした、または、酵素的及び化学的に修飾(例えばPEG付加)したG−CSF、G−CSF類似体及びG−CSFを含む融合タンパク質のようなG−CSFの誘導体化形態の単離の場合にも使用できる。
【0028】
本文中に使用した“治療有効量のG−CSF”という用語は、治療効果を発揮できるG−CSFの量を意味する。
【0029】
本発明の医薬組成物は場合によっては更にポリオールを含む。
【0030】
“ポリオール”という用語は、多価アルコール、即ち、分子あたり1個または複数のヒドロキシル基を含有している化学的化合物を意味する。
【0031】
好ましくはポリオールが、ソルビトール、グリセロール、イノシトール、トレハロース及びマンニトールから成るグループから選択される。好ましいポリオール濃度は1%−10%(m/v)の範囲である。
【0032】
本発明の医薬組成物は場合によっては更に1種以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。
【0033】
医薬的に許容される賦形剤は、金属カチオンスカベンジャー(例えば、EDTA及び同様のキレート化剤)、溶媒及びフリーラジカルスカベンジャー(例えば、DMSO)、種々の酸(例えば、酢酸、シトロン酸、メタンスルホン酸、リン酸、塩酸など)、種々の塩基(例えば、NaOHまたは有機N塩基、例えば、TRIS、TES、HEPESのようなグッドの緩衝剤)、種々のバッファ系(例えば、酢酸/酢酸塩、グルタミン酸/グルタミン酸塩、マレイン酸/マレイン酸塩、クエン酸/クエン酸塩、リン酸/リン酸塩など)、溶液の等張性を維持するための医薬的に許容される種々の賦形剤(例えば、CaCl及びNaClのような無機塩)、及び、タンパク質安定剤、から成るグループから選択され、タンパク質安定剤は、グリコール及びグリセロールエステル、マクロゴールエステル及びエーテル、ソルビタン誘導体またはポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート80)、アミノ酸、ポロキサマー(プルロニックF68)、ポリビニルピロリドン(PVP)などのような界面活性物質から成るグループから選択される。好ましくは医薬的に許容される賦形剤がEDTA及びDMSOから成るグループから選択される。
【0034】
本発明の医薬組成物中のNDSBは、上記に挙げた1種以上の医薬的に許容される賦形剤と組合せることができる。
【0035】
本文中に使用した“安定剤”という用語は、有効医薬成分(例えば、G−CSFのようなタンパク質)を安定化し得る医薬に許容される賦形剤を意味する。
【0036】
本文中に使用した“タンパク質安定剤”という用語は、タンパク質(例えば、G−CSF)を安定化し得る医薬的に許容される賦形剤を意味する。
【0037】
本文中に使用した“タンパク質安定性”(例えば、G−CSF)という用語は、タンパク質(例えば、G−CSF)の含量の維持、及び、タンパク質(例えば、G−CSF)の生物活性の維持を意味する。タンパク質(例えば、G−CSF)の安定性の低下は、特に、容器壁へのタンパク質の吸着、タンパク質の変性または劣化、凝集体形成、例えばタンパク質ダイマー(例えば、G−CSFダイマー)及び/またはタンパク質マルチマー(例えば、G−CSFマルチマー)及び/または同様の高分子量分子の形成などのプロセスによる影響を受け易い。これらのプロセスは、温度上昇、不適切な容器、不適切なタンパク質安定剤の使用、光照射、凍結/解凍、不適切な製造手順及び/または不適切な保存のような種々の要因の結果であろう。
【0038】
本発明の医薬組成物は、冷蔵温度(2−8℃)よりも高温で、また、室温(即ち25℃以下)で、また、もっと高い温度(例えば約40℃)でタンパク質を安定化し得る。
【0039】
本発明の医薬組成物はタンパク質(例えば、G−CSF)安定化及び溶液の適正pH維持のために医薬的に許容される賦形剤を1種類だけ、即ち、NDSBだけを含んでいてもよい。
【0040】
従って本発明の別の態様によれば、有効医薬成分(上記に概説)を含み、更に単一賦形剤としてNDSBを含む医薬組成物が提供される。
【0041】
医薬組成物中のNDSBは、タンパク質を安定させる保護分子として機能し、従って、他の医薬組成物で使用されるタンパク質安定剤(例えば、糖、アミノ酸など)に代替でき、また、溶液を適正pHに調整する分子として、他の医薬組成物で溶液を適正pHに調整するために使用される酸(酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、リン酸、塩酸など)に代替できる。NDSBはまた適正pHを維持することができるので、他の医薬組成物に使用される種々のバッファ系及び/またはそれらの組合せ(例えば、酢酸/酢酸塩、グルタミン酸/グルタミン酸塩、マレイン酸/マレイン酸塩、クエン酸/クエン酸塩、リン酸/リン酸塩など)に代替できる。それぞれが異なる機能を有している2種類以上の分子の使用に比較して、異なる複数の機能を有している1種類の分子の使用は、製造コストを節減できる、医薬組成物をより容易にかつ迅速に製造できる、など経済面からも好ましく、また、添加物の体内摂取量を減少させるので患者自身にも好ましい。NDSBの特徴は、光、温度、種々の酸化剤(例えば、空気酸素)及び加水分解に感受性でない簡単な分子であること、化学的反応性の分子でないこと、広いpH範囲で双イオン性を有していること、即ち、広いpH範囲で相互作用メカニズムが実質的に変化しないことであり、これらの特徴によって付加的な利点が得られる。
【0042】
本発明の1つの態様は、医薬組成物の安定剤としてNDSBを使用することである。
【0043】
本発明の1つの態様は医薬組成物のタンパク質安定剤としてNDSBを使用することである。
【0044】
本発明の1つの態様は医薬組成物のpH調整剤としてNDSBを使用することである。
【0045】
本発明の1つの態様は医薬組成物の緩衝剤としてNDSBを使用することである。
【0046】
本発明の好ましい医薬組成物は液体医薬組成物である。しかしながら本発明では凍結乾燥タンパク質含有医薬組成物中にNDSBを使用することも制限されない。
【0047】
本発明の医薬組成物は、再構成、希釈またはその他の事前準備を要せずに皮下、静脈内または筋肉内に非経口投与することが可能である。上記のような事前準備は、有効医薬成分例えばG−CSFのようなタンパク質の活性低下を招いたり、投与時の技術的問題を新たに生じたりし易い。
【0048】
本発明の医薬組成物はウイルス汚染の可能性があるヒト血清タンパク質を含有しないのが好ましい。そうすれば、ヒト血清アルブミンの投与の結果として生じ得る種々のアレルギー反応の発生確率が低下する。組成物は、医薬的に許容されかつ望ましくない結果を生じない等張溶液として調製される。
【0049】
本発明の医薬組成物中のタンパク質の治療有効量は、市場に存在するタンパク質の治療有効量に対応する。G−CSFを使用する場合、G−CSFの治療有効量は、0.3mg/ml−1.2mg/mlの範囲から選択される。しかしながら、本発明はこの範囲に限定されない。
【0050】
本発明の医薬組成物は、上記に挙げたような治療有効タンパク質が処方される疾患(治療)用医薬の製造及びこれらの疾患の治療に使用できる。
【0051】
本発明の医薬組成物はまた、G−CSFが処方されるすべての疾患の治療、及び、その治療用医薬の製造に使用できる。処方対象は、好中球減少症及びその臨床的後遺症、化学療法後の有熱性好中球減少症の入院期間短縮、造血胚細胞の可動化、ドナー白血球の代替注入、慢性好中球減少症、好中球減少性及び好中球非減少性感染症、移植受容者、慢性炎症疾患、敗血症及び敗血症ショック、好中球減少性及び好中球非減少性感染症の危険低減、罹患率低減、致死率低減及び入院日数のの短縮、好中球減少性及び好中球非減少性患者の感染症及び感染合併症の予防、院内感染の予防、院内感染の死亡率及び発生率の低減、新生児への経腸投与、新生児の免疫系強化、集中治療室の患者及び重態患者の臨床結果の改善、ワクチン接種、火傷、皮膚の潰瘍及び病変の管理、化学療法及び/または放射線療法の補強、汎血球減少症、抗炎症サイトカインの増加、G−CSFの予防使用による高用量化学療法のインタバル短縮、光動力学的治療の抗腫瘍効果の増強、種々の脳機能不全によって生じる疾患の予防及び管理、血栓症及びそれらの合併症の治療、放射線照射後の赤血球産生の回復、から成るグループから選択され得る。
【0052】
本発明の1つの態様は医薬組成物を調製するためにNDSBを使用することである。
【0053】
本発明の医薬組成物は、アンプル、注射器及びバイアルから成るグループから選択された医薬パッケージングに充填できる。この医薬パッケージングは、(一回の投与あたり)0.2ml−2mlの範囲の容量を適用できる。
【0054】
更に、本発明の態様はまた、本発明の医薬組成物の製造方法である。本発明の医薬組成物の製造方法は、NDSBを治療有効量の有効医薬成分(例えば、タンパク質、例えばG−CSF)と混合する段階を含む。
【0055】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。具体的には実施例は本発明の好ましい実施態様に関する。
【0056】
(実施例)
分析方法
本発明の医薬組成物を分析するために以下の方法を使用した:サイズ排除を伴う高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及びin vivo生物活性の測定。
【0057】
SE−HPLC
SE−HPLCはG−CSF凝集体、特にダイマー及びより高分子の凝集体の濃度を測定するために使用する。ダイマー及びより高分子の凝集体の定量検出限界は0.01%である。
【0058】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、UVデテクタ、オンライン脱ガス器、二連ポンプモジュール及び恒温制御オートサンプラーから成る(例えば、Waters Alliance HPLCシステム)。分析は以下の条件下で行う。
【0059】
クロマトグラフィー条件:
カラム:TSK G3000 SW,10m,300×7.5mmID
カラム温度:30℃
移動相:リン酸塩バッファpH7.0(5mMのリン酸ナトリウム、50mMのNaCl)
流速:0.8ml/分、アイソクラチック式
検出:UVデテクタ、波長215nm
注入量:20μl(タンパク質の注入量:6−12μg)
オートサンプラー温度:+2から+8℃
処理時間:20分
【0060】
RP−HPLC
RP−HPLCはG−CSF含量の測定及び疎水性の程度に応じて変化する不純物の定量に使用する。HPLCシステムは、UVデテクタ、オンライン脱ガス器、二連ポンプモジュール及び恒温制御オートサンプラー及び恒温制御カラム部から成る(例えばWaters Alliance HPLCシステム)。分析は以下の条件下で行う。
【0061】
クロマトグラフィー条件:
カラム:YMC−Pack ODS−AQ,200Å,球形,3μm,150×4.6mmi.d
カラム温度:65℃
移動相:相A:水中に0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)と
50%アセトニトリル(ACN)
相B:HPLC用水中に0.1%TFAと95%ACN
流速:1.0mL/分
勾配:
【0062】
【表1】

【0063】
検出:UVデテクタ、波長215nm
注入量:10μL(タンパク質の注入量:3−6μg)
オートサンプラー温度:+2から+8℃
処理時間:25分
【0064】
SDS−PAGE
SDS−PAGEは、存在するタンパク質ダイマー及び他の凝集形態(トライマー及びより高分子量の重合体)の目視検出に使用される。
【0065】
充填サンプルは還元剤非含有の充填用バッファ中で調製する。
【0066】
バーチカルSDS−PAGE,NuPAGE Bis−Tris12%ゲル8×8cm,厚さ1.0mm,15レーン(Invitrogen),MOPS SDS電気泳動バッファ(Invitrogen)。
【0067】
電気泳動処理は200Vの定電圧で1時間行う。サンプルをクーマシーブルー色素(0.1% Phast Gel Blue R 350、30%メタノール中)で染色する。
【0068】
G−CSFのin vitro生物活性試験
G−CSFのin vitro生物活性は、公知方法(Hammerling, U.ら,J Pharm Biomed Anal 13,9−20(1995))を使用し、国際標準ヒト組換えG−CSF(88/502、酵母細胞由来;NIBSC Potters Bar,Hertfordshire,UK;Mire−Sluis,A.Rら,v J Immunol Methods 179,117−126(1995)参照)を使用して細胞増殖(NFS−60細胞)の刺激に基づく方法によって測定する。
【0069】
pH値の測定
pHはMA 5741(Iskra)pH計及びBiotrode(Hamilton)電極を使用して測定する。適当な新しい校正バッファでpH計を3.0−5.0のpH範囲に校正する。pHを温度25℃で測定する。pH測定値の標準偏差はpH値の0.003(0.3%)である。
【0070】
医薬組成物中のG−CSF安定性試験の条件
4℃:冷蔵温度(+4℃−+6℃の範囲)の冷蔵庫に保存
40℃:40℃±2℃で保存
25℃:Vibromix314EVTシェーカーで75rpmで振盪中の1ml充填注射器に入れたものを25℃−30℃の室温で保存。
【実施例1】
【0071】
安定性試験
以下の液体医薬組成物を調製する。
FP1 0.3mg/mlのG−CSF,39mMのNDSB,5mMのNa EDT
A,pH4.4
FP2 0.3mg/mlのG−CSF,39mMのNDSB,5mMのNa EDT
A,5%のDMSO pH4.4
FP3 0.3mg/mlのG−CSF,7mMのNDSB,5%のソルビトール,p
H4.4
FP4 0.6mg/mlのG−CSF,6mMのNDSB,8%のソルビトール,p
H4.6
FP5 0.6mg/mlのG−CSF,13mMのNDSB,8%のソルビトール,
pH4.3
FP6 0.6mg/mlのG−CSF,10mMのNDSB,8%のソルビトール,
pH4.5
FP7 0.6mg/mlのG−CSF,10mMのNDSB,5%のソルビトール,
pH4.4
FP8 0.6mg/mlのG−CSF,10mMのNDSB,10%のソルビトール
,pH4.4
FP9 0.6mg/mlのG−CSF,10mMのNDSB,8%のイノシトール,
pH4.4
FP10 0.6mg/mlのG−CSF,10mMのNDSB,8%のトレハロース,
pH4.4
FP11 0.6mg/mlのG−CSF,50mMのNDSB,8%のソルビトール,
pH4.9。
【0072】
対照医薬組成物:
A(S16−10ACT):0.3mg/mlのG−CSF,10mMの酢酸,5%(
m/v)のソルビトール、0.004%のトゥイーン80
、NaOHでpHを4.0に調整(Neupogenと同
じ)。
【0073】
G−CSF濃度0.6mg/mlのサンプルを40℃で1ヶ月間保存する。
これらをSE−HPLCを使用して分析する。6μgのG−CSFをカラムに充填する。図1はそれぞれの結果を示す(AU=吸収単位)。
【0074】
図1の記号の説明:
1 FP1
2 FP2
RS 16−10ACT
【0075】
G−CSF濃度0.6mg/mlのサンプルを40℃で1ヶ月間保存する。
これらをSE−HPLCを使用して分析する。カラムに充填したG−CSFは6μgである。結果を図2に示す(AU=吸収単位)。
【0076】
図2の記号の説明:
4 FP4
5 FP5
9 FP9。
【0077】
安定性試験の結果
40℃で1ヶ月間保存したサンプルFP1及びFP2のSE−HPLC分析は、凝集体及び疎水性分解産物の含量の目視できる増加がないのでサンプルが安定であることを示す(表1、図1)。安定性は、参照サンプル(AS16−10ACT)と同等である。参照サンプルは、市場で入手可能なG−CSF含有医薬組成物(Neupogen,G−CSF=0.3 mg/ml)に等しい。RP−HPLC分析でも安定性が確認され、保存期間後に不純物またはタンパク質含量の本質的な変化を示していない。これらの結果は、SDS−PAGE分析の結果(結果示さず)及びin vitro生物活性測定の結果と符合する。試験に使用したG−CSFのin vitro生物活性は国際標準レベルである(Cat.no.88/502;NIBSC,UK)。サンプルFP1及びFP2のin vitro生物活性は試験条件下の保存後に変化しない(結果示さず)。
【0078】
【表2】

【0079】
結果は、NDSB含有医薬組成物の安定性が参照サンプル(AS16−10ACT)と同等であることを示す。NDSB濃度が高いほど安定性に有利な効果を与えることが判明した。
【0080】
25℃で1週間及び1ヶ月間保存したサンプルFP4−FP11のSE−HPLC分析は、凝集体及び疎水性分解産物の顕著な増加がないのでサンプルが安定であることを示す(表2、図2)。安定性は、参照サンプル(AS16−10ACT)と同等である。参照サンプルは、市場で入手可能なG−CSF含有医薬組成物(Neupogen,G−CSF=0.3mg/ml)に等しい。RP−HPLC分析でも安定性が確認される。この分析では、保存期間後に不純物またはタンパク質の含量の本質的な変化を示していない。これらの結果は、SDS−PAGE分析の結果(結果示さず)及びin vitro生物活性測定の結果と符合する。試験に使用したG−CSFのin vitro生物活性は国際標準のレベル(Cat.no.88/502;NIBSC,UK)である。サンプルFP4−FP11のin vitro生物活性は試験条件下の保存後に変化しない(結果示さず)。
【0081】
【表3】

【0082】
表2の結果は、NDSBを添加した医薬組成物が安定であることを示す。より極端な条件(1ヶ月、40℃)を与えたサンプルでは参照サンプルに比べて安定性がやや低下することが観察される(表1)。また、当業界で明らかなように4.0を上回るpHがG−CSFに好ましくないので安定性がやや低下したことも考えられる。参照サンプルはpH4.0で調製されている。
【実施例2】
【0083】
本発明のG−CSF医薬組成物の組成
本発明の医薬組成物の組成を表3に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
バルク濃縮物調製
バルク濃縮物を調製するためのG−CSF出発材料は大腸菌中の発現によって産生させる。
【0086】
バルク濃縮物は純酸(酢酸またはHCl)を含むpH4.4の溶液中でG−CSF濃度1.5mg/mlを使用して調製する。バルク濃縮物のSE−HPLC分析は、ダイマー及びそれ以上の高分子凝集体の含量が検出限界以下であることを示す。RP−HPLCで測定した不純物のアッセイは2−4%の範囲である。(新しいNeupogenサンプルの分析は不純物の量が同等であることを示す)。
【0087】
材料品質
NDSB:分析用NDSB−195(Calbiochem),ソルビトール: Ph.Eur.品質;グリセロール:Merck;分析用;イノシトール:ミオ−イノシトール(Fluka:>99.5%HPLC),トレハロース(Fluka:>99.5%HPLC),EDTA(Sigma:99%),DMSO(Merck:>99.5%),トゥイーン80(Sigma,低過酸化物レベル, 抗酸化剤としてBHT含有);注射用水:Ph.Eur.品質;分析用水:Milli−Q(Millipore).
【0088】
参照医薬組成物の調製
A(S16−10ACT):G−CSFモノマーを含むゲル濾過画分をプールし、10mMの酢酸と5%のソルビトールとを注射用水中に含むバッファで置換する。バッファのpHをNaOH溶液で3.96に調整する。置換は、LabscaleTM TFFシステム/Millipore上で3つのUltracel−5 PLCCC膜を使用して行う。トゥイーン80を0.004%の濃度が得られるまで加える。置換後の最終溶液のpHは4.0、濃度は0.304mg/mlである。
【0089】
本発明の医薬組成物の調製
総論
本発明の医薬組成物は、0.2PES/Nalgeneフィルターで予め濾過した適当な滅菌バッファ溶液でバルク濃縮物を希釈することによって調製する。最終G−CSF濃度はそれぞれ0.3mg/mlまたは0.6mg/mlである。
【0090】
医薬組成物FP1及びFP2を無色ガラスから成る加水分解タイプ1の2ml容のバイアルに入れ、洗浄し、滅菌し、アルミニウム冠の付いたブロムブチルゴム栓で閉鎖する。
FP1、FP2、FP3:1部のバルク濃縮物に4部の適当なバッファ溶液を加える。表3に示した最終濃度が得られる。pHの調整なし。
【0091】
FP4−FP11:4部の濃縮物に6部の適当なバッファ溶液を加える。表3に示した最終濃度が得られる。pHの調整なし。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】40℃(±2℃)で1ヶ月間(40)保存した本発明サンプル及び基準サンプルのSE−HPLC。
【図2】40℃(±2℃)で1ヶ月間(40)保存した本発明サンプルのSE−HPLC。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効医薬成分と非界面活性スルホベタイン(NDSB)とを含む医薬組成物。
【請求項2】
有効医薬成分が治療的に有効な合成または天然の有機分子及び治療有効タンパク質から成るグループから選択される請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
治療有効タンパク質が、顆粒球コロニー刺激因子、インターフェロン、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、上皮増殖因子、エリトロポエチン、濾胞刺激ホルモン、ヒト血清アルブミン、デオキシリボヌクレアーゼ、線維芽細胞カルシトニン、ヘマトプロテイン、プラスミノーゲンアクチベーター及びそれらの前駆体、サイトカイン、TNFリガンドファミリー、可溶性受容体、成長ホルモン、リポタンパク質、アルファ−1−アンチトリプシン、インスリン、プロインスリン、インスリンのサブユニットA、インスリンのサブユニットB、グルカゴン、血液凝固因子、ボンベシン、トロンビン、エンケファリナーゼ、マクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−アルファ)、リラキシンAサブユニット、リラキシンBサブユニット、プロリラキシン、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子、ホルモン受容体または成長因子受容体、インテグリン、プロテインA、プロテインD、リウマトイド因子、骨由来神経栄養因子、ニューロトロピン−3、−4、−5または−6、神経成長因子、血小板由来増殖因子、線維芽細胞増殖因子、形質転換増殖因子、インスリン様増殖因子、トロンボポエチン、骨形成タンパク質、及び、スーパーオキシドジスムターゼから成るグループから選択される請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
治療有効タンパク質がG−CSFである請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
NDSBが式1:
【化1】

[式中、R1、R2及びR3は同じ基及び/または異なる基でよく、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはそれらの誘導体から成るグループから選択され、R4は(CHであり、nは1乃至6の値である]
の第四アンモニウム塩である請求項1から4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
NDSBが、ジメチルエチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウム塩、3−(1−ピリジノ)−1−プロパンスルホネート、ジメチルベンジルアンモニウムプロパンスルホネート、ジメチル−t−ブチル−(3−スルホプロピル)アンモニウム塩、3−(1−メチルピペリジン)−1−プロパンスルホネート及びジメチル−(2−ヒドロキシエチル)−(スルホプロピル)−アンモニウム塩から成るグループから選択される請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
NDSBがジメチル−t−ブチル−(3−スルホプロピル)アンモニウム塩である請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が場合によっては更にポリオールを含む請求項1から7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ポリオールがソルビトール、グリセロール、イノシトール、トレハロース及びマンニトールから成るグループから選択される請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が場合によっては更に1種以上の医薬に許容される賦形剤を含む請求項1から9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
医薬に許容される賦形剤がEDTA及びDMSOから成るグループから選択される請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が好ましくはNDSBと治療有効量の有効医薬成分とを混合することによって調製される医薬組成物の製造方法。
【請求項13】
医薬組成物を製造するためのNDSBの使用。
【請求項14】
医薬組成物中の安定剤としてのNDSBの使用。
【請求項15】
医薬組成物中の緩衝剤としてのNDSBの使用。
【請求項16】
医薬組成物中のpH調整剤としてのNDSBの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−516281(P2007−516281A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546933(P2006−546933)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/SI2004/000043
【国際公開番号】WO2005/060989
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504359293)レツク・フアーマシユーテイカルズ・デー・デー (60)
【Fターム(参考)】