説明

有効酸化性物質の濃度測定方法

【課題】洗浄に有効な酸化性物質濃度を正確に把握することができる有効酸化性物質の濃度測定方法を提供する。
【解決手段】過硫酸含有硫酸溶液を含む試料液中の全酸化性物質の濃度を測定する工程と、前記試料液中の過酸化水素の濃度を測定する工程と、前記全酸化性物質の濃度と前記過酸化水素の濃度とから有効酸化性物質の濃度を求める工程とを有しているので、試料液中の有効酸化性物質の濃度だけを正確に測定することができる。全酸化性物質の濃度測定には好適にはヨウ素滴定法を用い、過酸化水素の濃度測定には好適には過マンガン酸カリウム滴定法を用いることができる。有効酸化性物質の濃度は、全酸化性物質濃度から過酸化水素濃度を減じて算出することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好適には、不要なレジストなどの汚染物からシリコンウエハ等の電子材料を洗浄するプロセスにおいて、硫酸を電気分解して得られる過硫酸含有硫酸溶液の中に含まれる各種酸化性物質のうち、電子材料の洗浄に有効に作用する酸化性物質を分離定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハからのレジスト剥離工程には、従来から濃硫酸と過酸化水素水を混合するSPMと呼ばれる溶液が用いられている。この洗浄方法では、硫酸や過酸化水素水を大量に消費するので、ランニングコストが高く、また多量の廃液を発生することが欠点である。 そこで、本願発明者らは、硫酸を電気分解して得られる過硫酸(過硫酸はペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸の総称で分子状、イオン状は問わない)などの酸化性物質を含有する電解硫酸を洗浄液としてウエハ洗浄し、洗浄後の硫酸を循環使用する洗浄方法および洗浄システムを提案している(特許文献1および特許文献2参照)。この洗浄システムでは、薬液使用量、廃液量を削減すると同時に高い洗浄効果を得ることができる。
しかし、硫酸を電気分解して得られる酸化性物質には、過硫酸以外も混在しており、洗浄液の性状が十分に把握できず、洗浄効果にばらつきが生じることがある。
【0003】
すなわち、硫酸を電気分解して得られる酸化性物質としては、過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)以外にオゾン、過酸化水素が含まれている(非特許文献1参照)。これらの酸化性物質は、いずれもヨウ素滴定法によって分析することができる(特許文献3および特許文献4参照)。さらに、同様の原理で、電解硫酸液にヨウ素滴定法を採用し、全酸化性物質濃度を把握する方法についても開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−114880号公報
【特許文献2】特開2006−278687号公報
【特許文献3】特許第3981529号公報
【特許文献4】特許第3853882号公報
【特許文献5】特開2008−164504号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid-States Letters,3(2)77-79,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記全酸化性物質濃度を把握する方法では、硫酸を電気分解して得られる全酸化性物質のうち、レジストなどの汚染物をシリコンウエハ等の電子材料から除去洗浄するために有効な酸化性物質を分離定量できないため、分析値が同等であっても洗浄効果が必ずしも一致しないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、過硫酸含有硫酸溶液を洗浄液として電子材料を洗浄するときに、洗浄に有効な酸化性物質濃度を正確に測定することができる有効酸化性物質の濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法のうち、第1の本発明は、過硫酸含有硫酸溶液を含む試料液中の全酸化性物質の濃度を測定する工程と、前記試料液中の過酸化水素の濃度を測定する工程と、前記全酸化性物質の濃度と前記過酸化水素の濃度とから有効酸化性物質の濃度を求める工程とを有することを特徴とする。
【0009】
第2の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1の本発明において、試料液に用いる過硫酸含有硫酸溶液を採取する工程を有することを特徴とする。
【0010】
第3の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1または第2の本発明において、前記有効酸化性物質が、電子材料の洗浄に有効な酸化性物質であることを特徴とする。
【0011】
第4の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第3の本発明において、前記有効酸化性物質の濃度は、前記全酸化性物質濃度から前記過酸化水素濃度を減じて算出することにより求められることを特徴とする。
【0012】
第5の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第4の本発明において、前記有効酸化性物質は、過硫酸およびオゾンであることを特徴とする。
【0013】
第6の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第5の本発明において、前記全酸化性物質の濃度測定は、ヨウ素滴定法により定量されるものであることを特徴とする。
【0014】
第7の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第6の本発明において、前記過酸化水素の濃度測定は、過マンガン酸カリウム滴定法により定量されるものであることを特徴とする。
【0015】
第8の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第7の本発明において、前記試料液に用いる硫酸溶液中の硫酸濃度が、75〜96質量%であることを特徴とする。
【0016】
第9の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第8の本発明において、前記試料液に用いる硫酸溶液の温度が、50〜150℃であることを特徴とする。
【0017】
第10の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第9の本発明において、前記全酸化性物質濃度の測定工程および前記過酸化水素濃度の測定工程の前処理工程として、前記過硫酸含有硫酸溶液を純水で3〜20倍に希釈して前記試料液とする工程を有することを特徴とする。
【0018】
第11の本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法は、前記第1〜第10の本発明において、前記過硫酸含有硫酸溶液が硫酸溶液の電解反応により得られたものであることを特徴とする。
【0019】
半導体ウェハなどの電子材料に付着する有機性の汚染物を剥離/分解によって除去洗浄しようとする場合、過酸化水素は汚染物の剥離、分解効果を示さないため、SPMでは、下記式(1)に示すような反応によってペルオキソ一硫酸を生成し、これによってレジストの除去、洗浄が行われる。
SO+H→HSO+HO・・・(1)
また、硫酸にオゾンガスを吹き込んだ溶液(SOM)で電子材料を除去、洗浄処理する場合には、オゾンやペルオキソ二硫酸が除去、洗浄に有効であることが報告されている(例えば、特許第2981529号公報、米国特許第6032682号公報)。
【0020】
一方、硫酸溶液の電解反応によって生成する全酸化性物質は、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸、オゾン、過酸化水素である。したがって、電解された硫酸溶液においても、全酸化性物質のうち、汚染物の剥離、分解効果を示さない過酸化水素のみを分離定量すると、電子材料の洗浄に有効な酸化性物質の濃度を求めることができる。
【0021】
過酸化水素は、反応する相手によって酸化性または還元性を示すことが知られており、その性質を利用して各種の定量方法が存在する(例えば分析化学辞典、分析化学辞典編集委員会編、共立出版)。例えば、上述した特許文献4において採用しているヨウ素滴定法は、過酸化水素の酸化性を利用する方法であり、溶液中に存在する過酸化水素や他の酸化性物質が反応する。そのため、溶液中の全酸化性物質を定量することができる。しかし、過酸化水素のみを分離定量することはできない。
一方、JIS K 1463に示される過マンガン酸カリウム滴定法は、過酸化水素の還元性を利用するため、過酸化水素のみが反応し、溶液中に混在する他の酸化性物質は反応することがない。そのため、溶液中の過酸化水素のみを定量することできる。
【0022】
すなわち、硫酸を電気分解して得られる全酸化性物質のうち、不要レジストなどの有機性汚染物をシリコンウェハ等の電子材料から除去洗浄するために有効に作用する酸化性物質の濃度は、ヨウ素滴定法などによる全酸化性物質の測定結果と過マンガン酸カリウム滴定法などによる過酸化水素の測定結果から分離定量が可能である。
なお、本発明においては、全酸化性物質の濃度測定はヨウ素滴定法に限定されるものではない。ただし、ヨウ素滴定法は上記のように過酸化水素の酸化性を利用するため、該過酸化水素を含む溶液の全酸化性物質濃度を効果的に測定することができる。また、本発明においては、過酸化水素の濃度測定は、過マンガン酸カリウム滴定法は過酸化水素の還元性を利用するため、該過酸化水素を含む溶液の過酸化水素濃度を効果的に測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように、本発明の有効酸化性物質の濃度測定方法によれば、過硫酸含有硫酸溶液を含む試料液中の全酸化性物質の濃度を測定する工程と、前記試料液中の過酸化水素の濃度を測定する工程と、前記全酸化性物質の濃度と前記過酸化水素の濃度とから有効酸化性物質の濃度を求める工程とを有するので、過硫酸含有硫酸溶液を洗浄液として電子材料を洗浄するときに、洗浄に有効な酸化性物質濃度を把握して、レジストなどの有機性汚染物を電子材料から剥離洗浄するときの洗浄効果を推定することができる。これにより有効酸化性物質濃度を適切に管理することができ、レジスト等の残留を防ぎ、電子材料を効果的に洗浄することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の測定対象である過硫酸含有硫酸溶液が用いられるバッチ式の硫酸リサイクル型洗浄システムを示す図である。
【図2】同じく、枚様式の硫酸リサイクル型洗浄システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本発明の測定対象である過硫酸含有硫酸溶液が用いられるバッチ式の硫酸リサイクル型洗浄システムを示す図である。
【0026】
半導体ウエハ等の電子材料8の洗浄が行われる洗浄槽1には、送り循環ライン2と戻り循環ライン3とが接続されており、送り循環ライン2は、ポンプ4を介して貯留槽9に接続され、戻り循環ライン3は、ポンプ5および冷却器6を介して貯留槽9に接続されている。戻り循環ライン3は、ポンプ5の下流側、冷却器6の上流側で分岐路3aに分岐して、分岐路3aが送り循環ライン2のポンプ4の下流側に接続されており、該分岐路3aには加熱器7が介設されている。
また、洗浄液が貯留されている貯留槽9には、純水供給ラインと濃硫酸供給ラインとが接続されて純水と濃硫酸の適時供給が可能になっている。また、貯留槽9には、送り循環ライン10と戻り循環ライン11とが接続されており、送り循環ライン10は、ポンプ12および冷却器13を介して電解装置14の入液側に接続され、電解装置14の出液側に前記戻り循環ライン11が接続されて、電解装置14内での通液が可能になっている。
【0027】
この洗浄システムでは、貯留槽9に貯留された硫酸溶液がポンプ12によって送り循環ライン10を通じて電解装置14に送液される。この際に硫酸溶液は、冷却器13によって電解に好適な温度に冷却される。電解装置14では、硫酸溶液中の硫酸が電解され、酸化性物質として過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)、オゾン、過酸化水素が生成され、過硫酸含有硫酸溶液となって戻り循環ライン11を通して貯留槽9に送液されて貯留される。
【0028】
貯留槽9内の過硫酸含有硫酸溶液は、ポンプ4によって送り循環路2を通じて洗浄槽1に送液される。一方、既に洗浄槽1で洗浄に使用された硫酸溶液は、ポンプ5によって戻り循環路2を通じて送液され、一部は冷却器6で冷却されて前記貯留槽9に送られる。他部は、分岐路3aを通り、加熱器7で加熱された後、貯留槽9から送られる前記過硫酸含有硫酸溶液と合流して、洗浄液として洗浄槽1に送られる。これら溶液の合流によって過硫酸含有硫酸溶液は瞬時に昇温し、洗浄に好適な温度となる。具体的には好適な温度は50〜150℃であり、80〜100℃の範囲が一層望ましい。洗浄液の温度が低いと、過硫酸による分解が十分に進行せず、電子材料8のレジスト等の剥離効果が小さくなる。また、洗浄液の温度が高すぎると、過硫酸が早期に自己分解してしまい、同じく、十分なレジスト等の剥離効果が得られない。
また、洗浄液の硫酸濃度は、前記電解装置14における電解効率、レジスト等の分解効率などの点から75〜96質量%が好ましく、80〜96質量%がより好ましい。
【0029】
なお、硫酸溶液の電解反応により得られた過硫酸含有硫酸溶液中には、前記のように酸化性物質として過硫酸、オゾン、過酸化水素が生成されて含まれている。通常、オゾンの液体への溶解度は低いため、有効酸化性物質の濃度を測定する際、過硫酸含有硫酸溶液を含む試料液中のオゾン濃度は極めて小さい。また、試料液の温度が高いと、試料液からオゾンが抜けることで、さらにオゾン濃度が小さくなる。そのため、過硫酸含有硫酸溶液中の有効酸化性物質(過硫酸およびオゾン)のうち、過硫酸が相対的によりリッチになる。
【0030】
上記洗浄システムでは、過硫酸含有硫酸溶液における有効酸化性物質の濃度を知ることで、洗浄効果を推定することができる。上記濃度の測定では、システム内から過硫酸含有硫酸溶液を採取して行うことができ、採取の場所は特に限定されない。例えば、戻り循環路11、貯留槽9、送り循環路2などから過硫酸含有硫酸溶液を採取して、全酸化性物質濃度の測定および過酸化水素濃度の測定を行う。ただし高温では過硫酸の分解速度が速いので、循環路2から採取するときは分岐路3aと合流する位置より上流側で採取するのが好ましい。
【0031】
上記ではバッチ式洗浄システムを例示して説明したが、枚葉式洗浄システム(図2)にも適用される。この場合も供給ライン20から採取するときは加熱器23より上流側で採取することが過硫酸の分解速度の関係で好ましい。図2について以下に説明する。なお、図1の洗浄システムと同様の構成については同一の符号を付して説明する。
【0032】
洗浄液が貯留されている貯留槽9には、純水供給ラインと濃硫酸供給ラインとが接続されて純水と濃硫酸の適時供給が可能になっている。また、貯留槽9には、送り循環ライン10と戻り循環ライン11とが接続されており、送り循環ライン10は、ポンプ12および冷却器13を介して電解装置14の入液側に接続され、電解装置14の出液側に前記戻り循環ライン11が接続されて、電解装置14内での通液が可能になっている。
【0033】
さらに、貯留槽9には槽内の硫酸溶液を取り出し可能な供給ライン20が接続されている。該供給ライン20の供給先には枚葉式洗浄装置25が設けられている。該供給ライン20には、枚葉式洗浄装置25の上流側で、貯留槽9内の硫酸溶液を送液する送液ポンプ21と、前記硫酸排液中に含まれるSSを捕捉して硫酸排液から除去するフィルタ22と、加熱器23が順次介設されている。すなわち、加熱された硫酸溶液が本発明の洗浄液として使用される。
【0034】
また、枚葉式洗浄装置25には、被洗浄物の洗浄により排出された硫酸排液を回収して前記貯留槽9へ還流させる還流ライン30の一端が接続されており、該還流ライン30には、分解槽31が介設されている。該分解槽31の下流側では、該還流ライン30に、前記分解槽31内に貯留された硫酸排液を送液する送液ポンプ32と前記硫酸溶液を冷却する冷却器34が順次介設されている。その下流側で還流ライン30の他端側は前記貯留槽9に接続されている。なお、分解槽31の上流側で還流ライン30に排液ライン35を分岐接続しておき、適宜時に、硫酸排液を分解槽31に送液せずに系外に排液できるように構成しても良い。
【0035】
次に、上記システムの動作について説明する。
貯留槽9には、硫酸溶液が、送り循環ライン10を通して電解装置14に供給できるように貯留されている。前記硫酸溶液は、循環ポンプ12により送液され、冷却器13で電解に好適な温度に調整されて電解装置14の入液側に導入される。電解装置14では、硫酸溶液中の硫酸が電解され、酸化性物質として過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)、オゾン、過酸化水素が生成され、過硫酸含有硫酸溶液となって戻り循環ライン11を通して貯留槽9に送液されて貯留される。
【0036】
枚葉式洗浄装置25では、ウェハ100が洗浄対象になり該ウェハ100を回転台26上で回転させつつ、前記供給ライン20によって供給される硫酸溶液を洗浄液としてウエハ100に接触させる。貯留槽9に貯留された過硫酸溶液は、送液ポンプ21により、供給ライン20に介設されたフィルタ22および加熱器23を通して枚様式洗浄装置25に供給される。このフィルタ22で硫酸溶液中のSSが除去される。なお、洗浄液は、加熱器23で加熱されており、ウエハ100に接触させる際に120〜180℃の温度が維持されるようにする。なお、洗浄液の硫酸濃度は、前記と同様に電解装置14における電解効率、レジスト等の分解効率などの点から75〜96質量%が好ましく、80〜96質量%がより好ましい。
【0037】
洗浄に使用された硫酸溶液は、硫酸排液として枚葉式洗浄装置25から排出され、還流ライン30を通して分解槽31に貯留される。前記硫酸排液には枚葉式洗浄装置25で洗浄されたレジストなどの残留有機物が含まれており、分解槽31に貯留されている間に、前記残留有機物が硫酸排液に含まれる酸化性物質によって酸化分解される。
【0038】
分解槽31において含有する酸化性物質が酸化分解された硫酸排液は、送液ポンプ32により還流ライン30に介設された冷却器34を通して貯留槽9に還流される。また、高温の硫酸排液が貯留槽9に還流されると、貯留槽9に貯留されている硫酸溶液中の過硫酸の分解が促進されてしまうため、前記硫酸排液は冷却器34により冷却された後、貯留槽9内に導入される。貯留槽9内に導入された硫酸排液は、硫酸溶液として送り循環ライン10によって電解装置14に送液されて電解により過硫酸が生成され、戻り循環ライン11により再度貯留槽9に還流される。
このようなシステムの動作によって、枚葉式洗浄装置25に洗浄液として硫酸溶液を連続して供給する。
【0039】
なお、上記全酸化性物質濃度の測定工程および過酸化水素濃度の測定工程の前に、前処理工程として、過硫酸含有硫酸溶液を純水で3〜20倍(より好ましくは5〜10倍)に希釈して試料液とすることができる。
このとき、純水の温度は、室温程度で構わない。水量が多くなると高い水和熱が発生しても、さほど昇温されず、また過硫酸含有硫酸溶液の温度が高いときであっても、水量が多いと中和され測定機器に影響を与えるほど高温にはならない。また、塩類などの不純物については、殆ど含まれていないが、たとえ含まれていたとしても多量の水で希釈するため塩類によるリスクは低減されるので問題ない。これらのため希釈を3倍以上とするのが好ましく、5倍以上とするのがより好ましい。ただし、あまりに希釈が大きいとサンプルの希釈液中に存在する酸化性物質濃度が小さくなり、正確な滴定分析が困難になるので、20倍を超えて希釈しない方が好ましく、10倍以下とするのがより好ましい。なお、過硫酸含有硫酸溶液の温度が、例えば100℃以上と高い場合は、反応速度(自己分解速度)が大きいので希釈までの時間を数秒以内にするのが好ましい。
【0040】
上記全酸化性物質濃度の測定は、前記したように、ヨウ素滴定法が好適に用いられる。ヨウ素滴定法は、既知の手順で行うことができ、本発明としては手順が特に限定されるものではない。
さらに過酸化水素の測定は、前記したように、過マンガン酸カリウム滴定法が好適に用いられる。過マンガン酸カリウム滴定法も、既知の手順で行うことができ、本発明としては手順が特に限定されるものではない。
上記で測定された全酸化性物質濃度と過酸化水素の濃度とから、有効酸化性物質濃度を求めることができる。
【0041】
また、この測定方法を利用した分析装置を電解装置または洗浄装置に接続することによって、洗浄液の洗浄性能を直ちに推定することができ、さらには、オンラインで濃度管理しながら電解装置に投入する電流値などを制御することによって、洗浄装置の性能・処理効果を一定に維持することも可能である。
【実施例1】
【0042】
次に、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
【0043】
(実施例1)
図1の洗浄システムにおいて、洗浄槽1の容量約50[L]で、ポンプ5によって約20[L/min]の流量で洗浄液を循環した。そのうちの1.5[L/min]の洗浄液は冷却器6に通して洗浄液を冷却し、貯留槽9に送った。残余の約18.5[L/min]の洗浄液は分岐路3aに送り、加熱器7で加熱した。貯留槽9での保有液量は20[L]であり、電解装置14に6[L/min]の流量で循環させた。電解装置14では、洗浄液を電気分解し、過硫酸を含む各種酸化性物質を生成し、貯留槽9に戻した。過硫酸を含んだ貯留槽9内の洗浄液は、ポンプ4によって洗浄槽8側の循環ラインに1.5[L/min]の流量で返送した。その他の運転条件は以下に示すとおりである。
<洗浄液> 硫酸濃度:80[質量%]
<洗浄槽> 液温度:140℃
<貯留槽> 液温度:60℃
<電解装置> 入口液温度:40℃
投入電流:840[A]
電流密度:0.5[A/cm
【0044】
上記運転条件で洗浄システムを3時間稼働した後、貯留槽中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法(KI)および過マンガン酸カリウム滴定法(Mn)で分析した。便宜上単位を[g as S2−/L]とし、結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
このとき、被洗浄材料として、ArF用でAsイオンを1E+1014[atoms/cm]ドーズされたレジスト塗布シリコンウエハを25枚、洗浄槽に10分間浸漬した。10分後、浸漬したウエハを引き上げて、超純水でリンスし、乾燥後に表面状態を観察した。その結果、洗浄処理したウエハ25枚の全てにおいて、レジストの残留は見られなかった。また、引き上げ直後の洗浄槽1内のTOC濃度は検出限界値(0.5mg C/L)以下であった。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同様の図1の洗浄システムを用いて、運転条件を以下のように変更した。
<洗浄液> 硫酸濃度:77[質量%]
<洗浄槽> 液温度:140℃
<貯留槽> 液温度:85℃
<電解装置> 入口液温度:65℃
投入電流:1000[A]
電流密度:0.6[A/cm
【0048】
上記運転条件で洗浄システムを3時間稼働した後、貯留槽中の酸化性物質濃度を、実施例1と同様にヨウ素滴定法(KI)および過マンガン酸カリウム滴定法(Mn)で分析した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
このとき、前記実施例1と同様のレジスト塗布シリコンウエハを25枚、洗浄槽に10分間浸漬した。10分後、浸漬したウエハを引き上げて、超純水でリンスし、乾燥後に表面状態を観察した。その結果、洗浄処理したウエハ25枚中13枚において、ウエハ上の一部にレジスト残留が目視で観察された。また、引き上げ直後の洗浄槽1内のTOC濃度は20[mg C/L]あり、洗浄槽1内に薄い茶色がかった着色が確認された。
【0051】
表1および表2のKI値より、実施例および比較例の洗浄液中に含まれる全酸化性物質濃度は、ほぼ同じである。しかし、有効酸化性物質の濃度を示す「KI値−Mn値」は、実施例1が大きく、比較例1は小さい。このことから、洗浄液中に含まれる全酸化剤濃度が同等以上含まれる場合でも、有効に作用する酸化性物質濃度が低い場合は、レジストの剥離洗浄効果が低下することがわかる。
すなわち、洗浄液の有効酸化性物質濃度を把握することが重要であり、本発明はこの把握に有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 洗浄槽
8 電子材料
9 貯留槽
14 電解装置
25 枚葉式洗浄装置
100 ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過硫酸含有硫酸溶液を含む試料液中の全酸化性物質の濃度を測定する工程と、
前記試料液中の過酸化水素の濃度を測定する工程と、
前記全酸化性物質の濃度と前記過酸化水素の濃度とから有効酸化性物質の濃度を求める工程とを有することを特徴とする有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項2】
試料液に用いる過硫酸含有硫酸溶液を採取する工程を有することを特徴とする請求項1記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項3】
前記有効酸化性物質が、電子材料の洗浄に有効な酸化性物質であることを特徴とする請求項1または2に記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項4】
前記有効酸化性物質の濃度は、前記全酸化性物質濃度から前記過酸化水素濃度を減じて算出することにより求められることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項5】
前記有効酸化性物質は、過硫酸およびオゾンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項6】
前記全酸化性物質の濃度測定は、ヨウ素滴定法により定量されるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項7】
前記過酸化水素の濃度測定は、過マンガン酸カリウム滴定法により定量されるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項8】
前記試料液に用いる硫酸溶液中の硫酸濃度が、75〜96質量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項9】
前記試料液に用いる前記硫酸溶液の温度が、50〜150℃であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項10】
前記全酸化性物質濃度の測定工程および前記過酸化水素濃度の測定工程の前処理工程として、前記過硫酸含有硫酸溶液を純水で3〜20倍に希釈して前記試料液とする工程を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。
【請求項11】
前記過硫酸含有硫酸溶液が硫酸溶液の電解反応により得られたものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の有効酸化性物質の濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−75467(P2011−75467A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229020(P2009−229020)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】