説明

有向グラフ作成装置、有向グラフ作成方法、及び有向グラフ作成プログラム

【課題】複数のイベント連鎖が統合された有向グラフより元のイベント連鎖には存在しない経路を除去すること。
【解決手段】有向グラフ作成装置は、複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定する特定部と、特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成する複製部と、複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する削除部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有向グラフ作成装置、有向グラフ作成方法、及び有向グラフ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
事故等に関するトラブル情報の分析においては、トラブルが起きるまでの経過又は過程を分析することが重要である。経過又は過程を示す情報は、報告書等においてテキスト情報として記述されていることが一般的である。したがって、テキストマイニング技術を利用することにより、トラブルが起きるまでの経過又は過程を示す情報を、イベントの順序情報(以下、「イベント連鎖」という。)としてテキスト情報より抽出することが可能である。
【0003】
図1は、テキスト情報からのイベント連鎖の抽出例を示す図である。同図では、交通事故の報告書を示すテキスト情報から抽出されたイベント連鎖の例が示されている。
【0004】
イベント連鎖の情報を複数の事例にわたってマージした結果を示す有向グラフ(以下、「イベントフロー」という。)を得ることにより、複数の事例に共通するトラブル発生シナリオの抽出や、根本原因等の特定等を行うことができる(図1)。
【0005】
図2は、イベントフローの例を示す図である。同図には、交通事故に関する500件のレポートから作成されたイベントフローが示されている。同図のイベントフローからは、例えば、雨によって路面が不良な状態となり、スリップしてハンドル操作をミスした結果、重傷となった、といったシナリオが読み取れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−236692号公報
【特許文献2】特開2004−178270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イベント連鎖をマージしてイベントフローを作成する方法として、イベント連鎖をイベントの順序付きの二項関係に展開して、それを再構成する方法がある。
【0008】
例えば、図3は、3つの事例に関するイベント連鎖の例を示す図である。同図には、事例Aに関するイベント連鎖A、事例Bに関するイベント連鎖B、及び事例Cに関するイベント連鎖Cが示されている。
【0009】
図3における各イベント連鎖をそれぞれ二項関係に展開すると、図4に示されるようになる。図4は、3つのイベント連鎖を二項関係に展開した例を示す図である。同図には、イベント連鎖A、イベント連鎖B、及びイベント連鎖Cごとに、二項関係に展開された例が示されている。
【0010】
図4に示される各二項関係を、当該二項関係の一方のイベントと他の二項関係の他方のイベントとの一致に基づいて再編成すると、図5に示されるようなイベントフローeF1が得られる。
【0011】
図5は、3つのイベント連鎖に関する二項関係を再編成して得られるイベントフローの例を示す図である。同図では、当初別々であったイベント連鎖がマージされ、全てのノードが相互に直接的又は間接的に接続された一つのイベントフローeF1が形成されている。
【0012】
以上のようなイベントフローの作成方法は、簡便で効率的ではあるが、元々のイベント連鎖には存在しなかったパス(経路)が、イベントフローに作成されてしまうという問題がある。ここでいう、パスは、ノード間の直接的又は間接的な接続関係をいう。
【0013】
図6は、元々のイベント連鎖には存在しなかったパスを示す図である。同図に示されるパスp1〜p4は、図5に示されるイベントフローeF1には含まれるパスであるが、図3に示されるイベント連鎖A〜Cのいずれにも含まれていない。
【0014】
独立して発生した事象が組み合わさることによって、重大なトラブルが発生するということも考えられる。したがって、トラブル分析という目的においては、「存在しないが組み合わせとして考えられるパス」を洗い出すことが重要な場合もある。しかし、実際に起きたことを分析することが目的である場合においては、「もともと存在していたパス」と「もともとは存在していなかったパス」とを切り分けて分析できる必要がある。
【0015】
そこで、複数のイベント連鎖が統合された有向グラフより元のイベント連鎖には存在しない経路を除去することのできる有向グラフ作成装置、有向グラフ作成方法、及び有向グラフ作成プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、有向グラフ作成装置は、複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定する特定部と、特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成する複製部と、複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する削除部とを有する。
【発明の効果】
【0017】
複数のイベント連鎖が統合された有向グラフより元のイベント連鎖には存在しない経路を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】テキスト情報からのイベント連鎖の抽出例を示す図である。
【図2】イベントフローの例を示す図である。
【図3】3つの事例に関するイベント連鎖を示す図である。
【図4】3つのイベント連鎖を二項関係に展開した例を示す図である。
【図5】3つのイベント連鎖に関する二項関係を再編成して得られるイベントフローの例を示す図である。
【図6】元々のイベント連鎖には存在しなかったパスを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるイベントフロー作成装置のハードウェア構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態におけるイベントフロー作成装置の機能構成例を示す図である。
【図9】イベントフローの作成処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図10】ノードの複製の第一の例を示す図である。
【図11】複製に係るノードに接続する下流側の冗長エッジの第一の削除例を示す図である。
【図12】複製に係るノードに接続する上流側の冗長エッジの第一の削除例を示す図である。
【図13】ノードの複製の第二の例を示す図である。
【図14】複製に係るノードに接続する下流側の冗長エッジの第二の削除例を示す図である。
【図15】複製に係るノードに接続する上流側の冗長エッジの第二の削除例を示す図である。
【図16】非存在パスの特定処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図17】イベント連鎖ごとの隣接行列及び可到達行列の例を示す図である。
【図18】全ての可到達行列の論理和の例を示す図である。
【図19】イベント連鎖ごとの隣接行列の論理和の例を示す図である。
【図20】当初存在パスを示す可到達行列と二項関係の統合によって作成されたイベントフローを示す可到達行列との差分の例を示す図である。
【図21】複製対象の選択処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図22】複製対象の選択処理を説明するためのデータ図の一例である。
【図23】イベントの複製処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図24】複製対象のイベントに対応する行及び列の複製の例を示す図である。
【図25】冗長エッジの削除処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図26】複製された各イベントに関する直接下流イベントとの関係の排他的な削除の例を示す図である。
【図27】直接下流イベントの削除後の隣接行列に基づく可到達行列の例を示す図である。
【図28】上流側の関係の削除を説明するための図である。
【図29】上流側の関係の削除を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図7は、本発明の実施の形態におけるイベントフロー作成装置のハードウェア構成例を示す図である。図7のイベントフロー作成装置10は、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置100、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU104、表示装置105、及び入力装置106等を有する。
【0020】
イベントフロー作成装置10での処理を実現するプログラムは、記録媒体101によって提供される。プログラムを記録した記録媒体101がドライブ装置100にセットされると、プログラムが記録媒体101からドライブ装置100を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体101より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0021】
メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムを読み出して格納する。CPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムに従ってイベントフロー作成装置10に係る機能を実現する。表示装置105はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置106はキーボード及びマウス等であり、様々な操作指示を入力させるために用いられる。
【0022】
なお、記録媒体101の一例としては、CD−ROM、DVDディスク、又はUSBメモリ等の可搬型の記録媒体が挙げられる。また、補助記憶装置102の一例としては、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリ等が挙げられる。記録媒体101及び補助記憶装置102のいずれについても、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に相当する。
【0023】
図8は、本発明の実施の形態におけるイベントフロー作成装置の機能構成例を示す図である。同図において、イベントフロー作成装置10は、文書情報記憶部11、イベント連鎖抽出部12、イベント連鎖記憶部21、展開部13、二項関係記憶部14、統合部15、イベントフロー記憶部22、非存在パス特定部16、複製対象選択部17、ノード複製部18、及び冗長エッジ削除部19等を有する。文書情報記憶部11は、例えば、補助記憶装置102、又はイベントフロー作成装置10とネットワークを介して接続される記憶装置若しくはコンピュータを用いて実現可能である。イベント連作記憶部21、二項関係記憶部14、及びイベントフロー記憶部22は、メモリ装置103、補助記憶装置102、又はイベントフロー作成装置10とネットワークを介して接続される記憶装置若しくはコンピュータを用いて実現可能である。等と用いて実現可能である。イベント連鎖抽出部12、展開部13、統合部15、非存在パス特定部16、複製対象選択部17、ノード複製部18、及び冗長エッジ削除部19は、イベントフロー作成装置10にインストールされたプログラムがCPU104に実行させる処理により実現される。
【0024】
文書情報記憶部11は、例えば、事故の報告書等の複数の文書情報群を記憶する。なお、文書情報は、必ずしもテキスト形式のデータでなくてもよい。所定のワープロソフト等によって作成された文書データであってもよい。文書情報は、最終的にテキスト情報を抽出可能なデータであればよい。
【0025】
イベント連鎖抽出部12は、文書情報に含まれているイベント(以下、「イベント」という。)の順序情報(以下、「イベント連鎖」という。)を、文書情報ごとに抽出する。イベント連鎖の抽出方法は、公知技術に従えばよい。イベント連鎖抽出部12は、抽出されたイベント連鎖を、イベント連鎖記憶部21に記録する。
【0026】
展開部13は、イベント連鎖抽出部12によって抽出された各イベント連鎖を、イベントの順序付きの二項関係に展開する。二項関係とは、イベント連鎖において相互に直接的な関係を有する二つのイベントの組み合わせをいう。直接的な関係とは、順序情報において隣接している関係をいう。また、イベントの順序付きであるから、直接的な関係を有する二つのイベントの順序関係は、二項関係において維持される。
【0027】
二項関係記憶部14は、展開部13によって展開された二項関係を示す情報を記憶する。
【0028】
統合部15は、二項関係記憶部14が記憶する各二項関係を、当該二項関係の一方のイベントと他の二項関係の他方のイベントとの一致に基づいて統合(又は接続)することにより、有向グラフを作成する。当該有向グラフの各ノード(節点)は、イベントを示す。また、当該有向グラフのエッジ(枝)は、イベントの順序関係(又は前後関係若しくは因果関係等)を示す。以下、当該有向グラフを、「イベントフロー」という。なお、統合部15は、作成されたイベントフローをイベントフロー記憶部22に記録する。
【0029】
非存在パス特定部16は、イベントフローにおいて、各イベント連鎖においては存在していなかったパスを特定する。なお、イベントフローにおいて、任意のイベント間の経路(又は接続関係)を「パス」という。当該任意のイベントは、直接的に接続されていてもよいし、間接的に接続されていてもよい。また、イベント連鎖においては存在していなかったパスを「非存在パス」という。
【0030】
複製対象選択部17は、統合部15によって作成されたイベントフローにおいて、複製対象とするノード(イベント)を選択する。ノード複製部18は、複製対象選択部17によって選択されたノードの複製を作成する。すなわち、ノードの複製とは、既存のノード及び当該ノードに接続する全てのエッジと同一のノード及びエッジを作成することをいう。したがって、ノードの複製によって、当該ノード及び当該ノードに接続する全てのエッジは2重化される。ノードの複製は、ノードの分割として解釈されてもよい。この場合、分割対象のノードに接続する全てのエッジも分割される。
【0031】
なお、ノードが複製(又は2重化)されるのは、複数のイベント連鎖においては相互に独立していた、同一イベントに関する各ノードが、二項関係を統合する際に一つのノードに統合又は集約されたことが非存在パスの発生の原因であると考えるからである。したがって、一つに統合されたノードを複製によって改めて分割すれば、非存在パスを除去できると考えるからである。但し、闇雲にノードの複製が行われたのでは、元のイベント連鎖に戻ってしまいかねない。したがって、複製対象選択部17は、複数のイベント連鎖に共通なシナリオを把握可能な状態が維持されるように、複製対象とするノードを選択する。
【0032】
冗長エッジ削除部19は、ノードの複製に伴って複製されたエッジのうち、当該エッジを削除したとしても、イベントフローにおいて、元のイベント連鎖が含む経路に影響しないエッジを削除する。元のイベント連鎖が含む経路に影響しないとは、元のイベント連鎖が含むいずれかのパスが失われないことをいう。
【0033】
以下、イベントフロー作成装置10の処理手順について説明する。図9は、イベントフローの作成処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0034】
例えば、入力装置106を介して入力される指示入力に応じ、イベント連鎖抽出部12は、文書情報記憶部11が記憶する文書情報ごとに、イベント連鎖を抽出し、抽出されたイベント連鎖をイベント連鎖記憶部21に記録する(S10)。文書情報からのイベント連鎖の抽出は、テキストマイニング技術等の公知技術を用いて行われればよい。例えば、特開2002−236692号公報の段落番号0066〜0068に開示されている方法などを用いることにより、文書情報からイベントを抽出することが可能である。また、イベントが文書情報から抽出される順番(文書情報での出現位置)を用いることにより、イベント間の順序関係を特定することが可能である。この際、特定の接続詞が含まれる場合には、順序関係の逆転が行われてもよい。
【0035】
なお、ここでは、便宜上、3つの文書情報から、図3に示されるイベント連鎖A〜Cが抽出されたこととする。
【0036】
続いて、展開部13は、イベント連鎖記憶部21に記録されたイベント連鎖A〜Cのそれぞれを、二項関係に展開する(S20)。すなわち、イベント連鎖A〜Cのそれぞれから二項関係が抽出される。ここでは、図4に示される二項関係に抽出される。展開部13は、抽出された二項関係を示す情報を二項関係記憶部14に記録する。なお、二項関係を示す情報の記録形式は、所定のものに限定されない。上流側(原因側)のイベントを示す項目と、下流側(結果側又は終点側)のイベントを示す項目とを含むレコード群が構成するテーブル形式であってもよい。又は、XML(eXtensible Markup Language)形式等の構造化文書形式に当該情報が記録されてもよい。
【0037】
続いて、統合部15は、二項関係記憶部14が記憶する各二項関係を、当該二項関係の一方のイベントと他の二項関係の他方のイベントとの一致に基づいて統合(又は接続)することにより、イベントフローを作成する(S30)。統合部15は、作成されたイベントフローをイベントフロー記憶部22に記録する。ここでは、図5に示されるイベントフローeF1が作成される。なお、二項関係からの有向グラフを作成は、例えば、特開2004−178270号公報に開示されている方法を用いて行われてもよい。
【0038】
続いて、非存在パス特定部16は、イベントフロー記憶部22及びイベント連鎖記憶部21を参照して、イベントフローeF1において、イベント連鎖A、B、又はCのいずれにも存在しないパス(非存在パス)を特定する(S40)。非存在パスの特定は、イベントフローeF1を、イベント連鎖A、B、及びCのそれぞれと比較することにより特定することができる。ここでは、図6に示される、パスp1〜p4が、非存在パスとして特定される。
【0039】
非存在パスが無い場合(S50でNo)、イベントフローeF1が、最終的なイベントフローとして出力される。例えば、イベントフローeF1を示すデータが補助記憶装置102に保存されてもよいし、表示装置105に表示されてもよい。
【0040】
非存在パスが有る場合(S50でYes)、複製対象選択部17は、特定された非存在パスのうちの任意の一つを選択して、当該非存在パス(以下、「カレント非存在パス」という。)上のノードの中から複製対象とするノード(イベント)を選択する(S60)。ここで、複製対象の選択条件は、例えば、以下の通りである。
(1)カレント非存在パスの始点ノードと終点ノードとの間(すなわち、端点ノードの間)に挟まれているノードであること(したがって、当該始点ノード及び当該終点ノード等の端点ノードは選択対象から除かれる)。
(2)(1)に該当するノード群の中で、下流側のエッジが分岐している(下流側に複数のエッジが接続する)ノードのうち最も下流に位置すること。
(3)(2)に該当するノードが存在しない場合、(1)に該当するノード群の中で最も下流に位置すること。
【0041】
例えば、図6のパスp1がカレント非存在パスである場合、複製対象は次のように選択される。
【0042】
まず、パスp1において、始点ノードは「直進」であり、終点ノードは「センターオーバーライン」である。すなわち、この二つのノードは、イベント連鎖A〜Cのいずれにおいても、直接的又は間接的に接続されていない。この二つのノードに挟まれるノードは、「急ブレーキ」及び「スリップ」である(条件(1))。「スリップ」の下流側には二つのノードが接続しており、かつ、「スリップ」は、「急ブレーキ」及び「スリップ」の中で最下流に位置する(条件(2))。したがって、「スリップ」が複製対象として選択される。
【0043】
続いて、ノード複製部18は、選択されたノード及び当該ノードに接続するエッジの複製を作成する(S70)。
【0044】
図10は、ノードの複製の第一の例を示す図である。同図では、ノード「スリップ」の複製により、イベントフローeF2が作成された例が示されている。イベントフローeF2では、「スリップ」というイベントを示すノードが、「スリップn1a」と「スリップn1b」との二つのノードに分割されている。また、ノード「スリップ」に接続する4つエッジ(ed1、ed2、ed3、ed4)の複製(ed11、ed21、ed31、ed41)も作成されている。なお、複製されたエッジは、複製元のエッジと同一の接続関係を維持する。
【0045】
続いて冗長エッジ削除部19は、イベントフローeF2より、複製されたエッジの中から冗長なエッジを削除する(S80)。まず、複製に係るノード(複製元及び複製先の双方を含む)の下流側のエッジに関して、冗長エッジ削除部19は、カレント非存在パスに属するエッジとカレント非存在パスに属さないエッジとに分類する。冗長エッジ削除部19は、複製元及び複製先のノードのいずれか一方からカレント非存在パスに属するエッジを削除し、他方からカレント非存在パスに属さないエッジを削除する。このことは、図上において、相互にクロスする二つのエッジ又は相互にクロスしない二つエッジを削除することに相当する。すなわち、重複するエッジのうち一方が冗長エッジとして削除される。重複するエッジとは、例えば、エッジed3及びエッジed31のように、複製元ノード又は複製先ノードの区別をしない場合に同一のノード間(「スリップ」と「追突」)を接続するエッジである。
【0046】
図11は、複製に係るノードに接続する下流側の冗長エッジの第一の削除例を示す図である。同図では、イベントフローeF2(図10)において相互にクロスしていたエッジed31及びed41が冗長エッジとして削除され、イベントフローeF3が作成された例が示されている。その結果、複製元又は複製先のノード「スリップn1a又はn1b」は、それぞれ一つのエッジed3又はed4に接続されるようになる。但し、エッジed3及びed4が削除対象とされてもよい。
【0047】
ここで、イベントフローeF2(図10)において、エッジed4及びed41は、カレント非存在パス(パスp1)に属し、エッジed3及びed31は、カレント非存在パスに属さない。複製元の「スリップn1a」からは、カレント非存在パスに属するエッジed41が削除され、複製先の「スリップn1b」からは、カレント非存在パスに属さないエッジed31が削除された結果が、イベントフローeF3(図11)である。
【0048】
なお、複製対象のノードが、複製前において下流側に3つ以上のノードと接続されている場合(下流側に3つ以上に分岐している場合)においても、複製後の下流側に接続するエッジの削除方法は基本的に上記した通りである。すなわち、冗長エッジ削除部19は、カレント非存在パスに属するエッジとカレント非存在パスに属さないエッジとに分類する。冗長エッジ削除部19は、複製元及び複製先のノードのいずれか一方からカレント非存在パスに属するエッジを削除し、他方からカレント非存在パスに属さないエッジを削除する。
【0049】
複製ノードの下流側の冗長エッジの削除の後、上流側の冗長エッジの削除が行われる。複製に係るノードの上流側に接続するエッジに関しては、当該エッジを削除したことによって、イベント連鎖A〜Cのいずれかにに含まれるパス(以下、「当初存在パス」という。)がイベントフローeF3から失われない(除去されない)エッジのみが削除される。
【0050】
例えば、「オーバースピード→スリップn1a」に関しては、当該関係を構成するエッジed21が削除されても、当初存在パスのいずれかがが除去されることはない。イベント連鎖Cには、「オーバースピード→スリップ」を含むパスが存在するが、当該パスは、「オーバースピード→スリップn1b」によって維持されるからである。したがって、「オーバースピード→スリップn1a」に係るエッジed21は、冗長エッジとして削除される。一方、「急ブレーキ→スリップn1b」に関しては、当該関係に係るエッジed11が削除されてしまうと、「急ブレーキ→センターライン」という、当初存在パスが除去されてしまう。したがって、エッジed11の削除は行われない。
【0051】
図12は、複製に係るノードに接続する上流側の冗長エッジの第一の削除例を示す図である。同図では、エッジed21が削除され、イベントフローeF4が作成された例が示されている。なお、同図と図6とを比較すると、イベントフローeF4では、非存在パスp3及びp4が除去されていることが分かる。
【0052】
ステップS40以降は、非存在パスが特定されなくなるまで(非存在パスが無くなるまで)繰り返される。本実施の形態では、イベントフローeF4に関して、非存在パスp1及びp2(図6参照)が存在する。したがって、イベントフローeF4に関して、ステップS60以降が実行される。ここでは、パスp1がカレント非存在パスとして選択されたこととする。この場合、イベントフローeF4では、「急ブレーキ」が、ステップS60の選択条件に合致する(S60)。したがって、「急ブレーキ」、及び「急ブレーキ」に接続するエッジの複製が作成される(S70)。
【0053】
図13は、ノードの複製の第二の例を示す図である。同図では、ノード「急ブレーキ」の複製により、イベントフローeF5が作成された例が示されている。イベントフローeF5では、「急ブレーキ」というイベントを示すノードが、「急ブレーキn2a」と「急ブレーキn2b」との二つのノードに分割されている。また、ノード「スリップ」に接続する4つエッジ(ed5、ed6、ed1、ed11)の複製(ed51、ed61、ed1c、ed11c)も作成されている。
【0054】
続いて、イベントフローeF5に関して、冗長エッジが削除される(S80)。まず、複製に係るノードの下流側に関して冗長エッジが削除される。
【0055】
図14は、複製に係るノードに接続する下流側の冗長エッジの第二の削除例を示す図である。同図では、イベントフローeF5(図13)において相互にクロスしていたエッジed11及びed1cが冗長エッジとして削除され、イベントフローeF6が作成された例が示されている。その結果、複製元又は複製先のノード「急ブレーキn2a又はn2b」は、それぞれ一つのエッジed1又はed11cに接続されるようになる。
【0056】
一方、複製に係るノードの上流側に接続するエッジに関しては、当該エッジを削除したことによって、いずれかの当初存在パスがイベントフローeF6から除去されないエッジのみが削除される。
【0057】
図15は、複製に係るノードに接続する上流側の冗長エッジの第二の削除例を示す図である。同図では、エッジed51及びエッジed61が削除され、イベントフローeF7が作成された例外示されている。
【0058】
ここで、図15と図6とを比較すると、イベントフローeF7では、非存在パスp1及びp2が更に除去されていることが分かる。したがって、イベントフローeF7が、最終的なイベントフローとして出力される。
【0059】
上述したように、本実施の形態によれば、二項関係に基づいて再編成されたイベントフローより、イベント連鎖には存在していなかったパスを除去又は排除することができる。た、複製対象が適切に選択されることにより、イベントフローの分割の程度を抑制することができる。その結果、複数のイベント連鎖に共通のシナリオを示すことができ、かつ、それぞれの文書情報に含まれていた順序関係又は因果関係等を示すイベントフローを作成することができる。
【0060】
また、例えば、文書情報に含まれていた因果関係と、文書情報には含まれていなかった因果関係とを区別して分析することが可能となる。
【0061】
ところで、上記において説明した処理手順において、非存在パスの特定、複製対象とするノードの選択、及び削除対象とする関係(冗長エッジ)を判定等に用いるデータのデータ形式は所定のものに限定されない。例えば、XML形式によってイベントフローを表現するデータであってもよいし、他のデータ形式が用いられてもよい。
【0062】
以下においては、行列(マトリクス)を用いてステップS40以降を実行する例を説明する。なお、以下の説明において作成される各行列は、例えば、メモリ装置103に記録される。
【0063】
ステップS40の詳細について説明する。図16は、非存在パスの特定処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0064】
ステップS401〜S404は、イベント連鎖ごとに実行されるループ処理であるが、ここでは、便宜上、イベント連鎖A、B、及びCのそれぞれについて並列的に説明する。但し、実際に並列的に処理が行われてもよい。
【0065】
ステップS401において、非存在パス特定部16は、イベント連鎖A、B、及びCのそれぞれに関して隣接行列を作成する。
【0066】
図17は、イベント連鎖ごとの隣接行列及び可到達行列の例を示す図である。同図において、隣接行列aMA、aMB、及びaMCは、順番に、イベント連鎖A、B、又はCの隣接行列である。すなわち、各隣接行列には、対応するイベント連鎖において直接的な接続関係を有するイベントの組み合わせに対して「1」が記録されている。なお、行方向が上流側(原因側)のイベントであり、列方向が下流側(結果側)のイベントである。
【0067】
隣接行列aMA、aMB、及びaMCは、イベント連鎖A、B、又はCのそれぞれの二項関係を示す行列であるともいえる。したがって、隣接行列aMA、aMB、及びaMCは、二項関係記憶部14が記憶する情報に基づいて生成されてもよい。もちろん、隣接行列aMA、aMB、及びaMCは、イベント連鎖A、B、又はCより生成されてもよい。
【0068】
続いて、非存在パス特定部16は、隣接行列aMA、aMB、及びaMCを、それぞれに対応する新たな可到達行列rMA、rMB、又はrMCに代入する(S402)。なお、図17に示される可到達行列rMA、rMB、又はrMCは、ステップS403及びS404の実行後の状態を示す。ここでは、3つの可到達行列が、隣接行列aMA、aMB、又はaMCによって初期化される。なお、可到達行列は、イベント連鎖において、直接的又は間接的な関係を有するイベントの組み合わせに「1」が記録される行列である。
【0069】
続いて、非存在パス特定部16は、各可到達行列に対して、隣接行列aMA、aMB、又はaMCを乗じ、新たな可到達行列を得る(S403)。ここで得られる可到達行列は、直接的な関係と、一つのイベントを間に挟む間接的な関係とを示す可到達行列である。各可到達行列に対する隣接行列aMA、aMB、又はaMCの乗算は、各可到達行列rMA、rMB、又はrMCが変化しなくなるまで行われる(S404)。すなわち、演算結果が変化しなくなるまで、各隣接行列がN乗される。演算結果が変化しなくなった状態が、図17に示される可到達行列rMA、rMB、及びrMCである。したがって、可到達行列rMA、rMB、及びrMCは、それぞれに対応するイベント連鎖において、各イベントの直接的又は間接的な全ての関係を示す可到達行列である。
【0070】
可到達行列rMA、rMB、及びrMCが得られると(S405でYes)、非存在パス特定部16は、全ての可到達行列(rMA、rMB、及びrMC)の論理和を算出する(S406)。
【0071】
図18は、全ての可到達行列の論理和の例を示す図である。同図に示される可到達行列M1は、可到達行列rMA、rMB、及びrMCの論理和を示す。可到達行列M1は、イベント連鎖A、B、又はCにおいて、全ての当初存在パス(直接的又は間接的なものを含む。)を示す行列である。換言すれば、可到達行列M1において「1」が記録されていないパスは、非存在パスである。なお、可到達行列M1は、後段の処理において、当初存在パスを識別するために利用される。
【0072】
続いて、非存在パス特定部16は、イベント連鎖A〜Cごとの隣接行列(aMA、aMB、及びaMC)の論理和を算出する(S407)。
【0073】
図19は、イベント連鎖ごとの隣接行列の論理和の例を示す図である。同図において、隣接行列M2は、隣接行列aMA、aMB、及びaMCの論理和を示す。
【0074】
続いて、非存在パス特定部16は、隣接行列M2を、隣接行列M2に対応する新たな可到達行列M3に代入する(S408)。続いて、非存在パス特定部16は、可到達行列M3に、隣接行列M2を乗じ、新たな可到達行列を得る(S409)。当該乗算は、可到達行列M3が変化しなくなるまで行われる(S410)。すなわち、演算結果が変化しなくなるまで、隣接行列M2がN乗される。演算結果が変化しなくなった状態が、図19に示される可到達行列M3である。可到達行列M3は、二項関係の統合によって作成されるイベントフローeF1における各イベントの直接的又は間接的な接続関係を示す可到達行列である。
【0075】
ステップS411に進み、非存在パス特定部16は、可到達行列M1(図17)と、可到達行列M3(図19)との差分を抽出する。すなわち、当初存在パスを示す可到達行列M1と、イベントフローeF1を示す可到達行列との差分が抽出される。
【0076】
図20は、当初存在パスを示す可到達行列と二項関係の統合によって作成されたイベントフローを示す可到達行列との差分の例を示す図である。
【0077】
同図では、可到達行列M3において、可到達行列M1との差分に係るセルは太枠で囲まれている。この差分は、図6に示されるパスp1〜p4を示す。すなわち、「直進」と「センターラインオーバー」との組は、パスp1を示す。「直進」と「正面衝突」との組は、パスp2を示す。「カーブ」と「追突」との組は、パスp3を示す。「オーバースピード」と「追突」との組は、パスp4を示す。
【0078】
このようにして、非存在パス特定部16は、非存在パスを特定することができる。
【0079】
続いて、図9のステップS60の詳細について説明する。図21は、複製対象の選択処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0080】
ステップS601において、複製対象選択部17は、非存在パス特定部16によって特定された非存在パスの中から一つの非存在パスを選択する。ここで、選択された非存在パスが、「カレント非存在パス」である。
【0081】
図22は、複製対象の選択処理を説明するためのデータ図の一例である。同図では、図16との対応関係を示すステップ番号が記されている。図22のステップS601では、可到達行列M3において、「直進→センターラインオーバー」に係るパスが選択された例が示されている。
【0082】
続いて、複製対象選択部17は、カレント非存在パスに含まれるイベントの中で、カレント非存在パスの始点のイベントより下流のイベント(以下、「下流イベント」という。)と、カレント非存在パスの終点のイベントより上流のイベント(以下、「上流イベント」という。)とを取得する(S602)。
【0083】
カレント非存在パスの始点のイベントより下流のイベントに該当するイベントは、図22のステップS602に対応する可到達行列M3aにおいて、太枠で囲まれている列に係るイベントである。すなわち、カレント非存在パスに係る行において、「1」が記録されている列のうち、始点のイベント「直進」よりも右側の列に係るイベントである。
【0084】
また、カレント非存在パスの終点のイベントより上流のイベントに該当するイベントは、図22のステップS602に対応する可到達行列M3bにおいて、太枠で囲まれている行に係るイベントである。すなわち、カレント非存在パスに係る列において、「1」が記録されている行のうち、終点のイベント「センターラインオーバー」よりも上側に係るイベントである。
【0085】
続いて、複製対象選択部17は、下流イベント(急ブレーキ、スリップ、センターラインオーバー、正面衝突、追突)と、上流イベント(路面凍結、直進、カーブ、急ブレーキ、オーバースピード、スリップ)との論理積を算出する(S603)。当該論理積によって、カレント非存在パスにおいて始点のイベントと終点のイベントとに挟まれるイベント群が特定される。なお、ここでは、「急ブレーキ」及び「スリップ」が特定される。
【0086】
続いて、複製対象選択部17は、特定されたイベント群の中で、下流から順に未処理のイベントの一つを取得する(S604)。未処理とは、ステップS606以降の処理対象とされていないことをいう。下流から順であるから、最初は、当該イベント群の中で最下流のイベントが取得される。以下、取得されたイベントを「対象イベント」という。
【0087】
対象イベントが取得された場合(S605でYes)、複製対象選択部17は、隣接行列M2を用いて、対象イベントの下流側に直接的に接続されるイベント(以下、「直接下流イベント」という。)を特定する(S606)。
【0088】
図22のステップS606では、隣接行列M2において、「急ブレーキ」と「スリップ」とのそれぞれの直接下流イベントの特定結果が示されている。図19において説明したように、隣接行列M2は、隣接行列aMA、aMB、及びaMCの論理和である。したがって、隣接行列M2は、イベント間の直接的な関係のみを示す。よって、隣接行列M2において、「スリップ」又は「急ブレーキ」の行で「1」が記録されている列に係るイベントは、「急ブレーキ」又は「スリップ」の直接下流イベントということになる。同図では、「急ブレーキ」に関して1つの直接下流イベントと、「スリップ」に関して2つの直接下流イベントとが特定されている。なお、図21のステップS606では、一つの対象イベントに関して直接下流イベントが特定されるが、図22においては、便宜上、カレント非存在パスの始点と終点との間に挟まれる全てのイベントに関して、直接下流イベントが示されている。
【0089】
続いて、複製対象選択部17は、対象イベントに関する直接下流イベントの数は複数であるか否かを判定する(S607)。このことは、対象イベントの下流側のエッジが分岐しているか又は当該エッジが複数有るか否かの判定に相当する。対象イベントに関する直接下流イベントの数が複数である場合(S607でYes)、複製対象選択部17は、対象イベントを複製対象として選択する(S608)。対象イベントが「スリップ」であれば、直接下流イベントの数は複数である。したがって、「スリップ」が複製対象として選択される。なお、ステップS608は、図9のステップS60において説明した選択条件の(2)に該当するケースである。
【0090】
一方、直接下流イベントの数が複数でない場合(S607でNo)、複製対象選択部17は、ステップS604以降を繰り返す。ステップS603において特定されたイベント群の全てを処理しても複製対象が選択されなかった場合(S605でNo)、複製対象選択部17は、当該イベント群の中で、最下流のイベントを複製対象として選択する(S609)。なお、ステップS609は、図9のステップS60において説明した選択条件の(3)に該当するケースである。
【0091】
このようにして、複製対象選択部17は、複製対象を選択することができる。
【0092】
続いて、図9のステップS70の詳細について説明する。図23は、イベントの複製処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0093】
ステップS701において、ノード複製部18は、複製対象のイベントに対応する行及び列の複製を隣接行列M2(図19)に生成する。すなわち、当該行及び列が二重化される。
【0094】
図24は、複製対象のイベントに対応する行及び列の複製の例を示す図である。同図では、隣接行列M2にいて、複製対象として選択された「スリップ」に係る行及び列のそれぞれの複製の生成によって、隣接行列M4が作成された例が示されている。なお、隣接行列M4において、「スリップa」、「スリップb」は、それぞれ、図10等の「スリップn1a」、「スリップn1b」に対応する。
【0095】
続いて、図9のステップS80の詳細について説明する。図25は、冗長エッジの削除処理の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0096】
ステップS801において、冗長エッジ削除部19は、隣接行列M4(図24)において複製に係る各イベントについて、直接下流イベントとの関係を排他的に削除する。ここでいう複製に係る各イベントは、複製元及び複製先の双方を含む。排他的とは、複製元のイベントと直接下流イベントとの関係の中で削除される関係と、複製先のイベントと直接下流イベントとの関係の中で削除される関係とが重複しないことをいう。
【0097】
例えば、図26は、複製された各イベントに関する直接下流イベントとの関係の排他的な削除の例を示す図である。同図に示される隣接行列M4では、スリップa及びbが、複製された各イベントに相当する。
【0098】
隣接行列M4より明らかなように、スリップa及びbの直接下流イベントは、「センターラインオーバー」及び「追突」である。ここで、スリップaに関して、「センターラインオーバー」との関係が削除され、スリップbに関して「追突」との関係が削除される形態が、上記でいう排他的な削除に相当する。同図では、当該排他的な削除の結果、隣接行列M5が生成されている。なお、スリップaに関して、「追突」との関係が削除され、スリップbに関して「センターラインオーバー」との関係が削除されてもよい。
【0099】
すなわち、ここでいう排他的な削除は、複製元及び複製先のノードのいずれか一方からカレント非存在パスに属するエッジを削除し、他方からカレント非存在パスに属さないエッジを削除することに相当する。
【0100】
なお、仮に、スリップa及びbに関して、直接下流イベントが3つ以上有る場合、冗長エッジ削除部19は、当該直接下流イベントをカレント非存在パス上に有るイベントとそうでないイベントとのグループに分類する。冗長エッジ削除部19は、一方のグループに属する各イベントとスリップaとの組み合わせに係るセルの値を「0」とし、他方のグループに属する各イベントとスリップbとの組み合わせに係るセルの値を「0」とする。
【0101】
続いて、冗長エッジ削除部19は、隣接行列M5を、隣接行列M5に対応する新たな可到達行列M6に代入する(S802)。続いて、冗長エッジ削除部19は、可到達行列M6に、隣接行列M5を乗じ、新たな可到達行列を得る(S803)。当該乗算は、可到達行列M6が変化しなくなるまで行われる(S804)。すなわち、演算結果が変化しなくなるまで、隣接行列M5がN乗される。その結果、図27に示される可到達行列M6が得られる。
【0102】
図27は、直接下流イベントの削除後の隣接行列に基づく可到達行列の例を示す図である。同図には、隣接行列M5がN乗されて、可到達行列M6が生成された例が湿されている。
【0103】
ステップS805に進み、冗長エッジ削除部19は、複製に係る各イベント(複製元及び複製先の双方を含む。)のいずれかの上流側の直接的な関係(エッジ)の一つを処理対象として選択する(S805)。
【0104】
続いて、冗長エッジ削除部19は、選択された関係(以下、「選択関係」という。)を隣接行列M5より削除し、削除後の隣接行列に基づく可到達行列を再計算する(S806)。続いて、冗長エッジ削除部19は、再計算された可到達行列と、当初存在パスのみを示す可到達行列M1(図18)とを比較して、選択された関係の削除によって、当初存在パスが除去されたか否かを判定する(S807)。
【0105】
当初存在パスが除去されていない場合(S807でNo)、冗長エッジ削除部19は、選択関係を削除対象とする(S808)。一方、当初存在パスが除去された場合(S807でYes)、選択関係は削除対象とされず、ステップS805以降が繰り返される。
【0106】
上記したステップS805〜S807について、図を用いて説明する。図28及び図29は、上流側の関係の削除を説明するための図である。
【0107】
図28において、隣接行列M5aは、隣接行列M5より、「急ブレーキ→スリップa」に係る関係が削除された結果である。また、可到達行列M6aは、隣接行列M5aに基づいて再計算された可到達行列である。可到達行列M6aと可到達行列M1(図18)とを比較すると、可到達行列M6aには、可到達行列M1に存在している「直進→追突」又は「急ブレーキ→追突」に係る関係(パス)が存在しない。すなわち、「急ブレーキ→スリップa」に係る関係(エッジ)の削除は、当初存在パスの除去を招いてしまう。したがって、「急ブレーキ→スリップa」に係る関係は削除対象とされない。なお、可到達行列M6aには、「直進→スリップa」、「急ブレーキ→スリップa」に係る関係も存在しないが、「直進→スリップb」、「急ブレーキ→スリップb」が存在するため問題は無い。
【0108】
また、図28において、隣接行列M5bは、隣接行列M5より、「急ブレーキ→スリップb」に係る関係が削除された結果である。また、可到達行列M6bは、隣接行列M5bに基づいて再計算された可到達行列である。可到達行列M6bと可到達行列M1(図18)とを比較すると、可到達行列M6bには、可到達行列M1に存在している「急ブレーキ→センターラインオーバー」又は「急ブレーキ→正面衝突」に係る関係(パス)が存在しない。すなわち、「急ブレーキ→スリップb」に係る関係(エッジ)の削除は、当初存在パスの除去を招いてしまう。したがって、「急ブレーキ→スリップb」に係る関係は削除対象とされない。なお、可到達行列M6bには、「直進→スリップb」、「急ブレーキ→スリップb」に係る関係も存在しないが、「直進→スリップa」、「急ブレーキ→スリップa」が存在するため問題は無い。
【0109】
また、図29において、隣接行列M5cは、隣接行列M5より、「オーバースピード→スリップa」に係る関係が削除された結果である。また、可到達行列M6cは、隣接行列M5cに基づいて再計算された可到達行列である。可到達行列M6cと可到達行列M1(図18)とを比較すると、可到達行列M6cには、可到達行列M1における「オーバースピード→スリップ」に対応する「オーバースピード→スリップa」に係る関係(パス)が存在しないが、「オーバースピード→スリップb」に係る関係(パス)が存在するため問題は無い。すなわち、「オーバースピード→スリップa」に係る関係(エッジ)の削除は、当初存在パスの除去を伴わない。したがって、「オーバースピード→スリップa」は削除対象とされる。
【0110】
また、図29において、隣接行列M5dは、隣接行列M5より、「オーバースピード→スリップb」に係る関係が削除された結果である。また、可到達行列M6dは、隣接行列M5dに基づいて再計算された可到達行列である。可到達行列M6dと可到達行列M1(図18)とを比較すると、可到達行列M6dには、可到達行列M1に存在している「オーバースピード→スリップ」、「オーバースピード→センターラインオーバー」、又は「オーバースピード→正面衝突」に係る関係(パス)が存在しない。すなわち、「オーバースピード→スリップb」に係る関係(エッジ)の削除は、当初存在パの除去を招いてしまう。したがって、「オーバースピード→スリップb」に係る関係は削除対象とされない
なお、図28及び図29を用いて説明した削除対象の判定結果は、図12と一致する。
【0111】
上述したように、イベント間の関係を示す行列に基づく処理によって、非存在パスの特定、複製対象とするノードの選択、及び削除対象とする関係(冗長エッジ)の判定等が行われてもよい。
【0112】
なお、本実施の形態において、非存在パス特定部16は、特定部の一例である。冗長エッジ削除部19は、削除部の一例である。イベントフロー記憶部22は、有向グラフ記憶部の一例である。
【0113】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0114】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1)
複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定する特定部と、
特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成する複製部と、
複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する削除部とを有する有向グラフ作成装置。
(付記2)
前記削除部は、複製元のノード又は複製先のノードの下流側に接続するエッジの中で、前記特定された経路に属するエッジを複製元及び複製先のノードの一方より削除し、前記特定された経路に属さないエッジを複製元及び複製先のノードの他方より削除する付記1記載の有向グラフ作成装置。
(付記3)
前記削除部は、前記下流側に接続するエッジを削除した後に、複製元のノード又は複製先のノードの上流側に接続するエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する付記2記載の有向グラフ生成装置。
(付記4)
複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定し、
特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成し、
複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する処理をコンピュータが実行する有向グラフ作成方法。
(付記5)
前記削除する処理は、複製元のノード又は複製先のノードの下流側に接続するエッジの中で、前記特定された経路に属するエッジを複製元及び複製先のノードの一方より削除し、前記特定された経路に属さないエッジを複製元及び複製先のノードの他方より削除する付記4記載の有向グラフ作成方法。
(付記6)
前記削除する処理は、前記下流側に接続するエッジを削除した後に、複製元のノード又は複製先のノードの上流側に接続するエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する付記5記載の有向グラフ生成方法。
(付記7)
複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定し、
特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成し、
複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する処理をコンピュータに実行させる有向グラフ作成プログラム。
(付記8)
前記削除する処理は、複製元のノード又は複製先のノードの下流側に接続するエッジの中で、前記特定された経路に属するエッジを複製元及び複製先のノードの一方より削除し、前記特定された経路に属さないエッジを複製元及び複製先のノードの他方より削除する付記7記載の有向グラフ作成方法。
(付記9)
前記削除する処理は、前記下流側に接続するエッジを削除した後に、複製元のノード又は複製先のノードの上流側に接続するエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する付記8記載の有向グラフ生成方法。
【符号の説明】
【0115】
10 イベントフロー作成装置
11 文書情報記憶部
12 イベント連鎖抽出部
13 展開部
14 二項関係記憶部
15 統合部
16 非存在パス特定部
17 複製対象選択部
18 ノード複製部
19 冗長エッジ削除部
21 イベント連鎖記憶部
22 イベントフロー記憶部
100 ドライブ装置
101 記録媒体
102 補助記憶装置
103 メモリ装置
104 CPU
105 表示装置
106 入力装置
B バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定する特定部と、
特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成する複製部と、
複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する削除部とを有する有向グラフ作成装置。
【請求項2】
前記削除部は、複製元のノード又は複製先のノードの下流側に接続するエッジの中で、前記特定された経路に属するエッジを複製元及び複製先のノードの一方より削除し、前記特定された経路に属さないエッジを複製元及び複製先のノードの他方より削除する請求項1記載の有向グラフ作成装置。
【請求項3】
前記削除部は、前記下流側に接続するエッジを削除した後に、複製元のノード又は複製先のノードの上流側に接続するエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する請求項2記載の有向グラフ生成装置。
【請求項4】
複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定し、
特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成し、
複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する処理をコンピュータが実行する有向グラフ作成方法。
【請求項5】
複数のイベント連鎖を記憶するイベント連鎖記憶部と、該複数のイベント連鎖を統合して作成された有向グラフを記憶する有向グラフ記憶部とを参照して、該有向グラフが含む経路の中で、該複数のイベント連鎖のいずれにも存在しない経路を特定し、
特定された経路において下流側に複数のエッジが接続するノードの中で該経路の端点ノードを除く最下流のノード及び該ノードに接続するエッジの複製を作成し、
複製されたエッジの中で、当該エッジを削除したとしても前記複数のイベント連鎖が含むいずれかの経路が前記有向グラフから除去されないエッジを削除する処理をコンピュータに実行させる有向グラフ作成プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−194708(P2012−194708A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57269(P2011−57269)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】