説明

有孔コールシートを使用した複合パーツの樹脂注入

【課題】繊維構成要素の領域全体の樹脂の供給の最適化を可能にすることにより、構成要素の特定領域への樹脂の供給量を制御すると同時に、剥離層の必要を除去できる、樹脂注入の方法及び装置が必要である。また、パーツに跡を残すことなく、注入される構成要素の上に直接樹脂供給のハードウェアを位置づけすることにより、工具の適応性を向上させると同時に滑らかに仕上がった硬化パーツを提供する樹脂注入装置も必要である。
【解決手段】樹脂が注入された複合パーツは、パーツ全体の樹脂の流れを最適化し、複雑なパーツに対して簡素化された工具及び消耗品の構成を可能にすると同時に、滑らかな空気力学的コール側面又はバッグ側面仕上がりを達成するために、孔を有するコールシートを使用して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、特に樹脂注入技術を使用した複合構造の製造に関し、さらに具体的には繊維構成要素全体の樹脂の流れを最適化する有孔コールシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合パーツを製造するためのある技術には、樹脂注入と呼ばれる工程を使用して乾燥繊維構成要素に樹脂を注入することが含まれる。この工程の一形態は真空補助樹脂注入と呼ばれ、繊維構成要素が工具上で真空バッグ処理された後で、真空化することにより、繊維構成要素を圧縮し、また構成要素全体に樹脂を引き込んで、圧縮され樹脂が注入されたパーツが作製される。
【0003】
樹脂注入工程にはある用途において幾つかの問題が存在しうる。これらの問題のうちの一つでは、樹脂供給源から注入されている構成要素の中の樹脂の流れを制限する傾向を持ちやすい剥離層を使用する必要が生じる。別の問題は、樹脂配分媒体が樹脂を繊維構成要素の面積全体に均一に配分する傾向にあることに起因して、構成要素の面積全体の樹脂の流れの調整が難しいことに関するものである。別の問題では、例えば、流路、管、及びランナー等の樹脂供給要素を繊維構成要素以外の場所に位置づけすることにより、これらの要素が注入部分にいかなる跡も残さないようにする必要が生じる。これらの樹脂供給要素を繊維構成要素以外の場所に位置づけすることによって、樹脂の供給が制限される可能性があり、注入距離を増加させる可能性があり、注入時間が長引く可能性があると同時に、特定要素の樹脂の供給の最適化が制限される。
【0004】
既存の樹脂注入工程に伴うさらに別の問題は、柔軟性のある剥離層と柔軟性のある樹脂配分媒体を繊維構成要素と接触させて配置する必要から生じる。この直接的な接触により、一般にバッグ側面仕上がりで知られる、パーツの表面の仕上がりが比較的粗いものとなり、これは、空気力学的表面の仕上げが要求される航空機等の、滑らかな表面仕上がりが要求される用途において許容不能であり得る。
【0005】
複数のパーツを含む統合構成要素の注入に関連して別の問題が生じる。統合構成要素の場合には、シンプルな工具を使用する従来の注入技術において、複雑なバッグ処理及び/又は消耗品の構成が要求され、その一方で、シンプルなバッグ処理及び/又は消耗品の構成を使用する注入技術においては複雑な工具が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、繊維構成要素の領域全体の樹脂の供給の最適化を可能にすることにより、構成要素の特定領域への樹脂の供給量を制御すると同時に、剥離層の必要を除去できる、樹脂注入の方法及び装置が必要である。また、パーツに跡を残すことなく、注入される構成要素の上に直接樹脂供給のハードウェアを位置づけすることにより、工具の適応性を向上すると同時に滑らかに仕上がった硬化パーツを提供する樹脂注入装置も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の実施形態は、繊維構成要素への正確な適合した樹脂供給を可能にし、その結果注入時間を削減しながら、同時に構成要素のバッグ側面に滑らかな空気力学的表面仕上がりを提供し、複合構成要素に対する工具の簡素化を可能にする、樹脂注入の方法及び装置を提供する。パーツの良好な注入の信頼性を向上させることが可能であり、スクラップの再補修及び修理を減らすことができる。本方法及び装置は、消耗品の積層を簡素化し、製造及び労働費用を削減することができる。繊維構成要素の異なる区域に適合した浸透性を有する注入媒体を提供することによって、開示の実施形態は、さらに広い範囲の構成要素に樹脂が注入されると同時に、内部の工具の複雑度と、消耗品の皺形成の可能性を減らすことが可能になり得る。実施形態はまた、より望ましい工具の配置を可能にすると同時に、繊維構成要素の樹脂が注入される側面のOML表面の仕上がりを比較的滑らかにすることができ得る。実施形態は、例えば統合構成要素を有するパーツ等の複雑なパーツの樹脂注入の場合にさらなる利点を提供する。統合構成要素にバッグ処理及び消耗品のシンプルな工具及びシンプルな構成を使用して樹脂注入すると同時に、コール側面又はバッグ側面の滑らかで航空力学的な仕上がりを達成することが可能である。
【0008】
ある実施形態によれば、繊維構成要素全体の樹脂の流れを制御するための孔を有するコールシートを含む、樹脂が注入された複合パーツを製造するための装置が提供されている。孔はテーパー状断面を有することができ、コールシートの領域上に非均一に位置していてよい。
【0009】
別の実施形態によれば、樹脂が注入された複合パーツを製造する方法が提供されている。本方法は、繊維構成要素を工具上に配置し、構成要素の上に有孔コールシートを配置し、コールシートの複数の孔を通して構成要素に樹脂を注入することを含む。本方法はさらに、孔の分布、孔の密度又は孔のサイズを制御することによって、構成要素への注入を制御することを含むことができる。本方法はさらに、コールシートのおおむね中央の位置でコールシート上に樹脂を流すことを含む。
【0010】
さらなる実施形態によれば、繊維構成要素の上に有孔コールシートを配置し、その後に繊維構成要素に樹脂を注入することを含む、樹脂が注入された複合パーツを製造する方法が提供されている。注入は、コールシートを使用して構成要素への樹脂の流れを制御することを含むことができる。
【0011】
本発明はまた:
樹脂が注入された複合パーツを製造する方法であって:
樹脂が注入される構成要素の上に有孔コールシートを配置し;
構成要素に樹脂を注入し、これにはコールシートを使用して構成要素への樹脂の流れを制御することが含まれる
ことを含む方法に関する。
【0012】
上述した方法では:
構成要素への樹脂の流れの制御は、下記:
孔の位置;
孔のサイズ;
孔の密度
のうちの少なくとも一つを選択することによって行われる。
【0013】
上述した方法は:
構成要素及びコールシートの間に剥離層を配置する
ことをさらに含む。
【0014】
上述した方法は:
コールシートの上に樹脂分配媒体を配置する
ことをさらに含む。
【0015】
上述した方法は:
コールシートと構成要素の上に真空バッグを密封し;
バッグを真空化する
ことをさらに含む。
【0016】
上述した方法は:
コールシートのおおむね中央の位置において構成要素の上に樹脂流を導入する
ことをさらに含む。
【0017】
樹脂が注入された複合パーツを製造する方法であって:
コールシートを製造し、これには樹脂が注入される構成要素への樹脂の流れの望ましい分配に基づき、コールシートに孔を形成することが含まれ;
雄型工具上に構成要素を配置し;
構成要素の上に剥離層を配置し;
剥離層の上にコールシートを配置し;
コールシートの上に樹脂分配媒体を配置し;
工具の上に真空バッグを密封し;
バッグを真空化して、工具とコールシートの間で構成要素を圧縮し;
構成要素の上のおおむね中央の位置でバッグに樹脂流を導入し;
コールシートの孔を使用して、構成要素への樹脂の注入を最適化する
ことを含む方法。
【0018】
樹脂が注入された複合パーツを製造する装置であって:
上に構成要素を配置する工具と;
構成要素を覆うおおむね剛性のコールシートであって、コールシートを通って構成要素の中へ流れる樹脂の望ましい分配に基づいて孔を有するコールシートと;
構成要素及びコールシートの間の剥離層と;
コールシートを覆っている樹脂分配媒体と;
工具に密封され、構成要素、剥離層、コールシート及び樹脂分配媒体の組合せを覆う真空バッグと;
樹脂の供給源と;
樹脂供給源から樹脂を供給するために、バッグを貫通し、コールシートの上のおおむね中央に位置する樹脂注入口と;
バッグを貫通する樹脂排出口
を含む装置。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】繊維構成要素の樹脂を注入する装置の断面図である。
【図2】図1に示す装置で使用されるコールシートの一部の等角図である。
【図3】図2の線3−3に沿って切り取った断面図である。
【図4】図3と同様の図であるが、構成要素の中に注入された樹脂を示す図であり、この図では樹脂がコールシートの孔の中に残っている。
【図5】図4と同様の図であるが、注入された構成要素から分離されたコールシートを示す図である。
【図6】明確にするために、パーツが部分的に分解されている樹脂注入の成層アセンブリの図である。
【図7】図6に示す成層アセンブリを使用した樹脂注入の方法のフロー図である。
【図8】適合した樹脂注入を行うために、異なる孔密度を有するコールシートを示す、樹脂注入装置の一部の平面図である。
【図9】統合構成要素への樹脂注入のための工具及び成層構成の図である。
【図10】航空機の製造及び就航方法のフロー図である。
【図11】航空機のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照すると、樹脂注入装置20は、工具22、有孔コールシート26で覆われた繊維構成要素24、樹脂分配媒体25、真空バッグ28及び樹脂供給源34を広く含む。本明細書で使用される「構成要素」及び「繊維構成要素」は、樹脂注入工程を使用して樹脂が注入される乾燥繊維又は(「プレフォーム」としても知られる)部分含浸繊維構成要素を指している。繊維構成要素24は、予め形成された形状を有することができる、又は有しなくて良い。消耗排出品32は工具22と繊維構成要素24の間に位置づけされており、コールシート26は構成要素24の上部に直接置かれている。構成要素24を覆うバッグ28、コールシート26及び樹脂分配媒体25は、周囲シール30によって工具22に封止される。
【0021】
樹脂の供給源34は、樹脂供給ライン36によって、バッグ28の内部の、コールシート26の上のおおむね中央に位置する注入ポート38に連結される。供給源34からの樹脂は、注入ポート38を通ってバッグ28の中に導入され、注入路40と分配媒体25を通って、コールシート26全体、そして外へと流れる。過剰な樹脂は排出路42、消耗排出品32及び排出口(図1に図示せず)を通ってバッグ28から除去され、排出口では排出ライン44を通って排出真空貯蔵タンク46に引き込まれる。コールシート26上の注入ポート38及び注入路40の中央への位置づけは、最初の樹脂34の分配制御、及び樹脂34がコールシート26の上を流れる際の樹脂34の波面76の形成(図8)に役立つ。有孔コールシート26によって可能となった、樹脂34の構成要素24の上での最初の分配を制御する能力、及び構成要素24の適合注入により、硬化パーツの繊維体積率の変化を減らすことができ、したがってパーツの品質が向上する。
【0022】
注入ポート38及び注入路40は、分配媒体25及びコールシート26の上部に直接置かれている。他の実施形態では、注入ポート38及び注入路40はコールシート26の上部の他の位置に位置していてよい。さらに別の実施形態では、一又は複数のマニホールド(図示せず)を注入ポート38に連結させて、樹脂をコールシート26の異なる箇所に分配することができる。有孔コールシート26の相対剛性により、パーツに大きな跡を残さずに、構成要素24の上に直接、樹脂供給ハードウェア、すなわち注入ポート38及び注入路40を配置することが可能になる。一般に、コールシート26の上の中央に注入ポート38及び注入路40を位置づけすることで、注入時間を最小限に抑えることが可能である。有孔コールシート26は、流れを制限する剥離層(図示せず)を使用する必要を除去することができ、孔密度を変化させて、構成要素24の特定領域に供給される樹脂の量を変える能力によって、構成要素への樹脂の供給を最適化することができる。しかしながら、ある用途においては、注入された構成要素24の望ましい表面仕上がりを得るために、剥離層(図示せず)をコールシート26と構成要素24の間に配置することができる。
【0023】
ここで図1及び2の両方を参照すると、コールシート26は例えば非限定的に、表面仕上がりが用途に合っているステンレス鋼又はアルミニウム等の、任意の比較的硬いシート材料でできていてよい。コールシート26の表面仕上がりが実質的に構成要素24に付与されるため、注入された構成要素24の表面仕上がりが比較的滑らかであることが望ましいところでは、コールシート26の表面仕上がりも比較的滑らかであるべきである。ある典型的な用途では、コールシート26の厚さは約0.8〜2mmであってよいが、特定の用途及び製造要件にあった他の任意の厚さを有していて良い。ある用途では、下記の理由により、コールシート26には、複合物の熱膨張係数とは実質的に異なる熱膨張係数(CTE)を有する材料を選択することが望ましい場合がある。
【0024】
コールシート26は、最終的なパーツ形状と一致する平坦及び湾曲形状を含む任意の形状に形成することができ、また変形することにより工具22の形状に一致する能力を有することができ、これには工程中の真空下での変形が含まれる。コールシート26は、多数の孔48を有しており、これを通って樹脂がコールシート26の上部26aから、媒体25によって分配されて、コールシート26の底部26bと対面接触している構成要素24の中へ流れることができる。コールシート26の孔48の数、サイズ、密度、位置及び分布は、構成要素24の構成、形状及び厚さの変化に依存して変わり得る。良好な結果をもたらすある実際的な実施形態では、例えば非限定的に、約15〜25mmの間隔を空けて配置された孔48は約1.5〜2.5mmの直径を有することができる。良好な結果をもたらす別の実際的な実施形態では、互いに約4mmの間隔を置いて配置され得る孔48は約0.5mmの直径を有し得る。
【0025】
下に更に詳しく説明するように、コールシート26の孔48のパターン及び分布は、下層の構成要素24の樹脂供給要件に合うように、比較的密度が高いものから比較的密度が低いものまで変化し得る。実際に、コールシート26の幾つかの領域(図示せず)には孔48がなくてもよく、これにより下層の構成要素24が上からの活発な樹脂の供給を必要としないところでは、不浸透性である。孔48の数及び直径はまた少なくとも一部では、樹脂の粘度によっても変化し得る。
【0026】
図3を参照すると、孔48はコールシート26を部分的に又は完全に貫通して延び得るテーパー形状50を有していてよい。図4は、注入工程及び硬化の後で、コールシート26の上部の分配媒体25を満たし、完全にテーパー状になった孔48を通過して、孔48を樹脂52で満たした樹脂52を示す。図5を参照すると、樹脂52の硬化後に、矢印56で示すように、コールシート26は硬化された構成要素24から離れるように分離し、その結果、硬化樹脂プラグ55が孔52の中に残される。テーパー形状50のために、樹脂分配媒体25がコールシート26の上部から剥がされる時に、プラグ55をコールシート26から取り除くことができる。テーパー形状50が孔48の全深を通して延びている図示した実施形態では、プラグ52を構成要素24の表面24aからきれいに剥がすことができ、実質的に跡がない実質的に滑らかな表面24aが残る。コールシート26のCTEが複合物52のCTEと大幅に異なる用途では、硬化後に冷却中のコールシート26の縮小により、樹脂プラグ52が下層の硬化された構成要素24からせん断される結果となり、コールシート26が硬化された構成要素24から分離しやすくなる。
【0027】
ここで、湾曲したコールシート26がIML(内側モールド線)工具面60を有するIML工具58と組み合わせて使用される、別の工具構成を示す図6に注目する。この実施例では、構成要素24はコールシート26とIML工具面60の間に配置される。樹脂注入の注入口/排出口と、結合路は、説明を簡略化するために図6には示していない。樹脂分配媒体25及び真空バッグ28はコールシート26の上に配置される。図に示していないが、バッグ28はその周囲を工具58に密封(図示せず)されている。この実施例では、バッグ28に導入された樹脂が、分配媒体25によってコールシート26全体に分配され、コールシート26の孔48を通過し、繊維構成要素24に注入される。バッグ28は、コールシート26によって画定されたIML工具面60及びOML工具面62の間で構成要素24を圧縮する。この構成により、実質的に滑らかなIML及びOML表面仕上がりを有する完成パーツが得られる一方で、工具58と構成要素24の間の消耗品の必要、及び複雑な雌工具の必要が回避される。比較的滑らかなIML及びOML表面仕上がりがパーツに残ることにより、パーツ硬化後のさらなる表面仕上げ作業の必要が減る又は除去される。
【0028】
図7は、上述した有孔コールシート26を使用した樹脂注入方法のステップを示す。64で開始し、繊維構成要素24は例えば図6に示すような工具58の上に配置される。次に66において、有孔コールシート26及び樹脂分配媒体25は繊維構成要素24の上に配置される。真空バッグ28が次に媒体25、コールシート26及び工具58の上に配置される。69において、バッグ28が真空化され、構成要素24が圧縮及び強化される。最後に、ステップ70において、有孔コールシート26を通して乾燥構成要素24に樹脂が注入される。
【0029】
ここで、コールシート26の相対浸透率がコールシート26の特定領域において異なる有孔コールシート26を示す図8に注目する。この浸透率の差は、孔48のサイズ及び/又は孔48の密度を変えることによって得られる。図8に示す実施例では、コールシート26のパターン化された領域75の孔の密度は、コールシート26の他の領域77の孔の密度よりも高い。この密度の変化により、コールシート26の浸透性が変化し、コールシート26を通して下層の乾燥構成要素24(図8に図示せず)に供給された樹脂の注入パターンをより良く制御することが可能になる。図面に示していないが、コールシート26は、構成要素24が活発な樹脂の供給を必要としないところには、全く孔を含まない領域を有することができる。
【0030】
図8はまた、コールシート26の上部及びコールシート26の深さ「W」全体のおおよそ中間に位置する注入ポート38及び注入路40も示す。注入ポート38及び注入路40のこの中央への位置決めにより、構成要素24に注入するために樹脂が移動しなければならない距離「W」が基本的に半分割(W/2)され、これにより、樹脂が構成要素24の側面から供給される構成と比較して、樹脂注入時間が削減される。単一の真っ直ぐな、中央に位置する注入路40を図示した実施形態で示したが、前述したように、マニホールド(図示せず)を形成する多数の流路を使用して樹脂を分配することが可能である。
【0031】
樹脂が注入ポート38を通って、注入路40を流れた結果、コールシート26を横切って、矢印74で表される樹脂分配媒体25(図8に示していない)を介した樹脂の外向きの流れができる。実質的に均一な樹脂の流れの線を表している波面の輪郭が76に示されている。樹脂流の波面76はコールシート26によって制御されている。図示した実施例では、孔48の密度が高いコールシート26の領域75は、下層の構成要素24の厚い部分(図示せず)を覆う一方で、孔48の密度が低いコールシート26の領域77は、下層の構成要素24の薄い部分(図示せず)を覆っている。孔48の密度が高い領域75には結果的に、下層の構成要素24の対応する部分にさらに樹脂が供給される。この結果、構成要素24の厚い領域と薄い領域に実質的に均一の割合で注入することができ、樹脂流の実質的に均一な波面74により、詰まった領域ができるのを回避することができる。
【0032】
面積全体の浸透性にばらつきのあるコールシート26の使用を用いて、構成要素24への注入パターン及び樹脂の供給をより良く制御し、選択的に変化するが、堅固な構成要素24への樹脂の含浸を達成することが可能である。コールシートの浸透性を変化させることによって、必要な領域、例えばしばしば層のパッドアップと呼ばれる(孔あき領域75の下の)構成要素24の厚い領域により多くの樹脂を供給し、同じ構成要素の薄い領域、例えば下層の孔あき領域77に少なく供給することができる。コールシート26の孔48の直径は、構成要素24への樹脂の注入比率を制御するために、変化させることができる。コールシート26の浸透性のばらつきは、望ましい注入パターンを達成するのに役立ち、例えば詰まった領域、孔隙、及び/又は樹脂が欠乏している領域等の望ましくない流れ特性を回避することができる。上記注入パターンは、孔あきパターン、及び関連の構成要素の成層を含む、コールシート26の注入工程モデリングを通して、最適化することができる。
【0033】
図9に、この実施例ではハット形ストリンガー88を含む2つの部品が統合した構成要素24に樹脂を注入するのに使用される工具の一部である有孔コールシート26の使用を示す。構成要素24は、IML工具80の空洞86に配置され、マンドレル82はハット形構成要素24の内部に配置される。コールシート26はストリンガー88の基部90の上に配置され、バッグ28は樹脂分配媒体25及びコールシート26の上に配置される。コールシート26は、ストリンガー88に実質的に滑らかなOML表面仕上がりを付与するOML工具として機能する。この工具の構成により、内部の工具構造に注入消耗品を一致させる必要が回避され、結果的に基部90上に滑らかなOML工具表面90が得られる。コールシート26は、空洞86内の構成要素24のハット部分87の中へ十分な樹脂が注入されるように、ハット部分87の上層の領域85に、高い密度及び/又は直径の大きい孔48を含むことができる。ハット部分87への十分な樹脂の注入はまた、空洞86の端部(図示せず)へ樹脂を導入し、これによりハット部分87に、コールプレート26を通して行った樹脂注入に加えて、長手方向の注入を行うことによって達成可能である。上記の構成により、シンプルな工具及びバッグ処理と消耗品のシンプルな構成を使用することが可能になる一方で、滑らかな空気力学的コール側面又はバッグ側面仕上がりを有するパーツが得られるため特に有利である。
【0034】
次に図10及び11を参照すると、本発明の実施形態は図10に示すような航空機の製造及び就航方法92及び図11に示すような航空機94において、使用可能である。試作段階においては、例示の方法92は航空機94の仕様及び設計96と、材料調達98を含むことができる。製造段階においては、航空機94の部品及びサブアセンブリの製造100と、システム統合102がおこなわれる。ステップ100の間、開示された方法及び装置を採用して、ステップ102において次に組み立てられる胴体部分等の複合パーツを製造することができる。そのあとに、航空機94は、認可及び納品104を経て就航106される。顧客によって就航されている間、航空機94には所定の整備及び保守108(変更、再構成、改装も含むことができる)が予定される。
【0035】
本方法92の各工程は、システムインテグレータ、第三者、及び/又はオペレータ(例えば顧客等)によって行う又は実施することができる。この説明のために、システムインテグレータは限定しないが、任意の数の航空機メーカー、及び主要システムの下請け業者を含むことができ;第三者は限定しないが、任意の数の供給メーカー、下請け業者、及びサプライヤを含むことができ;オペレータは、航空会社、リース会社、軍部、サービス組織等であってよい。
【0036】
図11に示すように、例示の方法92で製造された航空機94は、複数のシステム112と内装114を有する機体110を備えることができる。開示された方法及び装置を採用して、機体110の一部を形成する胴体部分を製造することができる。高レベルシステム112の例は、一又は複数の推進システム116、電気システム118、油圧システム120、及び環境システム122が挙げられる。任意の数の他のシステムを含むことができる。航空宇宙での実施例を示したが、本発明の原理は例えば自動車産業等の他の産業分野に応用することが可能である。
【0037】
本明細書に具現化された装置は、製造及び就航方法92の任意の一又は複数の段階において採用することができる。例えば、製造プロセス100に対応する部品又はサブアセンブリは、航空機94が就航している間に製造される部品又はサブアセンブリと同じ方法で加工又は製造することができる。また、一又は複数の装置の実施形態、方法の実施形態、又はこれらの組み合わせを、例えば、航空機94を実質的に組立てしやすくする、又は航空機94にかかる費用を削減することによって、製造段階100及び102において用いることが可能である。同様に、一又は複数の装置の実施形態を、航空機94が就航している間に、例えば限定しないが、整備及び保守108に用いることができる。
【0038】
本発明の実施形態を特定の実例となる実施形態に関連させて説明してきたが、当然ながら特定の実施形態は説明のためであり、限定するものではなく、当業者が他の変形例を発想することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
20 樹脂注入装置
22 工具
24 繊維構成要素
25 樹脂分配媒体
26 有孔コールシート
26a コールシートの上部
26b コールシートの底部
28 真空バッグ
30 周囲シール
32 消耗排出品
34 樹脂供給源
36 樹脂供給ライン
38 注入ポート
40 注入路
42 排出路
44 排出ライン
46 排出真空貯蔵タンク
48 コールシートの孔
50 テーパー形状
52 樹脂プラグ
55 プラグ
58 IML工具
60 IML工具面
62 OML工具面
75 コールシートの領域
76 樹脂の波面
77 コールシートの下層の孔あき領域
80 IML工具
82 マンドレル
85 ハット部分の上層の領域
86 空洞
87 ハット部分
88 ストリンガー
90 ストリンガーの基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂が注入された複合パーツを製造する装置であって:
樹脂を注入している間に、構成要素全体の樹脂の流れを制御するための孔を有するコールシート
を含む装置。
【請求項2】
孔がテーパー状断面を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
孔がコールシートの領域の上に不均一に位置する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
コールシートがおおむね剛性である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
コールシートの幾つかの領域の孔の密度が、コールシートの他の領域よりも高い、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
幾つかの孔のサイズが他の孔よりも大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
樹脂をコールシート全体に分配するための、コールシートを覆う樹脂分配媒体をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
構成要素及びコールシートの間に剥離層をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
樹脂が注入された複合パーツを製造する方法であって:
繊維構成要素を工具上に配置し;
有孔コールシートを構成要素上に配置し;
コールシートの孔を通して構成要素に樹脂を注入する
ことを含む方法。
【請求項10】
コールシートの領域全体の孔の分布、
コールシートの領域全体の孔の密度、及び
孔のサイズ
のうちの少なくとも一つを制御することによって、構成要素への注入を制御することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
コールシートと構成要素の間に剥離層を配置することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
コールシートの上に樹脂分配媒体を配置することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
コールシートのおおむね中央の位置において、コールシートの上に樹脂を流す
ことをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
コールシートを使用して構成要素の中の樹脂の流れを制御する
ことをさらに含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−101536(P2012−101536A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−238929(P2011−238929)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】