説明

有害化学物質拡散防止マット

【課題】有害物質を吸収する層を非常に薄くすることができ、また従来の透水性シートのように比重が小さくなり過ぎず汚染底質への敷設を容易且つ確実にでき、更に覆砂する際に汚染底質の巻き上げを防止できる汚染物質拡散防止マットを提供する。
【解決手段】有害化学物質を含む汚染底質上に敷設される有害化学物質拡散防止マットを、2枚の透水性シート1,1間の略全体に、粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上である有害化学物質溶出抑制層2を四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一な厚さに形成させて構成する。有害物質拡散防止層2の厚さは、0.5〜3.0cmが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化学物質を吸着させる層を非常に薄くすることができ、また従来の透水性シートのように比重が小さくなり過ぎず、汚染底質上への敷設を容易且つ確実にでき、更に船舶のアンカーや底曳網漁業、暴浪等の外力からマットを保護するために覆砂等を行う場合も汚染底質の巻き上げを防止でき、有害化学物質の長期的な溶出抑制効果を有する有害化学物質拡散防止マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼却施設などから排出されるダイオキシン類や農薬として使用されてきた毒性のある有機物質等は残留性有機汚染化合物(POPs)と呼ばれ、その危険性が強く指摘されており、また焼却施設や化石燃料の燃焼に伴って排出される多環芳香族炭化水素類(PAHs)もダイオキシン類と同様に毒性が強く、これらの残留性有機汚染化合物や多環芳香族炭化水素類はその危険性から現在ではその排出が制限されているが、過去に大量に排出されてきたこれらの残留性有機汚染化合物や多環芳香族炭化水素類は大気や河川等を通じて、静穏で閉鎖的な港湾域や河川,湖沼等の底泥に堆積している。そのため現在では、例えば人が摂取するダイオキシン類の大部分は魚介類を通して取り込まれると言われている。
【0003】
また港湾域の底泥にはこのような残留性有機汚染化合物や多環芳香族炭化水素類だけではなく、船舶の防汚剤や殺菌剤として使用されたトリブチルスズ類(TBTs)のような有害化学物質が大量に含有されていることも多い。
【0004】
これらの有害化学物質の処置方法としては、有害化学物質を含む汚染底質を浚渫・掘削除去し、これを適当な処分地に埋め立てる恒久的な対策が基本となっているが、除去した汚染底泥の無害化処理に膨大な費用を要することや、処理・処分地の確保等の問題があり、実用的な課題が多い。
【0005】
また汚染底質をセメント等の固化材を用いて原位置で固化することにより溶出を抑制し、底質の波や流れによる巻き上げ、底質を摂取する底生生物を通じた魚介類への蓄積の経路を遮断する方法もある。この施工方法は、締切りして水を排除し底質を処理するドライ施工方法とそのまま処理を行うウェット施工方法とに区分される。ドライ施工方法の場合は締切りを行い水の排除を行わなければならず、またウェット施工方法の場合は確実な固化と施工時の濁りを防止するため固化処理に先立って覆砂が必要であるなど、非常に大規模な工事が必要となり、費用や工期の面から課題が多い。
【0006】
そこで、汚染底質上を良質な砂で覆うことによって底質からの有害物質の溶出を抑制する暫定的(半恒久的)な対策も検討されている。この覆砂工法は、栄養塩類等への対策として数多くの施工実績があるが、覆砂材として用いる良質な砂は有害化学物質を吸着する能力が低いため、覆砂層の厚さは非常に厚くなり、底質中に含まれる有害化学物質の種類や量及び周囲の環境(底生生物浸入層の厚さ)等にもよるが、およそ100cm程度の厚さで広大な汚染底質に覆砂しなければならない。また水上又は水中から砂を撒くため、汚染底質上に均一の厚さで砂を撒くことが難しく、必要以上に厚く砂を撒く必要がある。従ってこの覆砂工法では大量の砂が必要となり、その調達が大きな問題となっている。また船舶の運航や波浪等の外力による撹乱の影響等から水深の確保が必要な場所には適用できない。
【0007】
またこの覆砂工法では汚染底質上に砂を撒く際に、汚染底質を巻き上げて舞い上がった汚染底質の有害化学物質が覆砂した砂に混入したり、又は覆砂後に舞い上がった有害化学物質が堆積したりするなどの問題も生じ易い。
【0008】
このような問題に対して、水底に透水性土木シートを敷設して底泥を覆った後、透水性土木シート上にスラリー化した覆土材を堆積させることを特徴とする底泥覆土工法がある(特許文献1参照。)。この底泥覆土工法では透水性土木シートを敷設して底泥を覆うことで、覆土の際の底泥の巻き上げを防止している。
またこの底泥覆土工法では、微粒にした覆土材や、スラグ等から成る覆土材や、固化材や不分離材を添加した覆土材を、透水性土木シート上に堆積させることも特徴となっていて(特許文献1 請求項2〜5参照。)、有害化学物質を吸着する能力を上げることで堆積させる覆土材の量を低減できることも示されている。
しかしながら、結局この底泥覆土工法も有害化学物質を吸着するのは堆積させた覆土材であるから、従来の砂を堆積させただけの覆砂工法と大差がなく、また覆土材を均一な厚さで堆積させることが難しいため、どうしても覆土材を必要以上の厚さで堆積させなければならないから、使用する覆土材の量を大幅に低減することは難しい。
更に底泥を覆う透水性土木シートは比較的比重が小さいため、潮流等の影響を受け易く、覆土をするまで位置固定することが難しいという問題もある。
またこの底泥覆土工法では、微粒にした覆土材や、スラグ等からなる覆土材や、固化材や不分離材を添加した覆土材を用いていることから、覆土材からの栄養塩類の溶出、波浪等の外力により覆土材と共に覆土材に吸着された有害化学物質が周辺海域へ流出したり、またこれにより覆土の形状が安定できないなど周辺環境に別の悪影響を及ぼすという問題点もある。
【0009】
更に、このような砂や覆土材のような被覆物をそのまま水中に撒く工法においては、被覆物によって水の濁りが生じるので、この水の濁りが収まるのを待ってその堆積状態を確認しなければならないという問題もある。
【0010】
【特許文献1】特開2004−293265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の問題に鑑み、有害化学物質を吸着させる層を非常に薄くすることができ、また従来の透水性シートのように比重が小さくなり過ぎず、汚染底質上への敷設を容易且つ確実にでき、更に船舶のアンカーや底曳網漁業、暴浪等の外力からマットを保護するために覆砂等を行う場合も汚染底質の巻き上げを防止でき、有害化学物質の長期的な溶出抑制効果を有する汚染物質拡散防止マットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上である有害化学物質溶出抑制層を汚染底質上へ形成させれば、有害化学物質を吸着させる有害化学物質溶出抑制層は吸着能力が高く非常に薄く形成させることができるので、使用する粒子状物質の量を大幅に低減することができ、またその一方で有害化学物質溶出抑制層が薄いため従来よりも汚染底質上に均一に堆積させることがより一層困難となるが、有害化学物質溶出抑制層を2枚の透水性シート間の略全体に四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一の厚さとなるように形成させてマット状にすれば、有害化学物質溶出抑制層の厚さを長期間安定的に均一に保つことができ、また本発明に係る有害化学物質拡散防止マットは薄いので水深の確保が必要な航路や泊地にも使用でき、更に内部に有害化学物質溶出抑制層を有しているので従来の透水性シートのように比重が小さくなり過ぎないため汚染底質上への敷設を容易且つ確実にでき、また全体が透水性シートで覆われているので、本発明に係る有害化学物質拡散防止マットを敷設した後に船舶のアンカーや底曳網漁業、暴浪等の外力からマットを保護するために覆砂等を行う場合も汚染底質の巻き上げが起こらないことを究明して本発明を完成したのである。
【0013】
即ち本発明は、有害化学物質を含む汚染底質上に敷設される有害化学物質拡散防止マットであって、粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上である有害化学物質溶出抑制層が、2枚の透水性シート間の略全体に、四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一な厚さに形成されていることを特徴とする有害化学物質拡散防止マットである。
【0014】
また本発明に係る有害化学物質拡散防止マットは、有害化学物質溶出抑制層の厚さを長期間安定的に維持できるので、マットを必要以上に厚くする必要がないから、有害化学物質を吸収する有害化学物質溶出抑制層の厚さが0.5〜3.0cmであれば、十分な有害化学物質の溶出抑制効果が得られ、費用の抑制や工期の短縮等ができて好ましいのである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る有害化学物質拡散防止マットは、粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上である有害化学物質溶出抑制層が、2枚の透水性シート間の略全体に、四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一な厚さに形成されているから、有害化学物質の吸着能力が高く非常に薄く形成させることができるので、使用する粒子状物質の量を大幅に低減することができ、また有害化学物質溶出抑制層を2枚の透水性シート間の略全体に四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一の厚さとなるように形成させてマット状に形成されているから、有害化学物質溶出抑制層の厚さを長期間安定的に均一に保つことができ、また本発明に係る有害化学物質拡散防止マットは薄いので水深の確保が必要な航路や泊地にも使用でき、更に内部に有害化学物質溶出抑制層を有しているので従来の透水性シートのように比重が小さくなり過ぎないため汚染底質上への敷設を容易且つ確実にでき、また全体が透水性シートで覆われているので、本発明に係る有害化学物質拡散防止マットを敷設した後に船舶のアンカーや底曳網漁業、暴浪等の外力からマットを保護するために覆砂等を行う場合も汚染底質の巻き上げが起こらないのである。
【0016】
また本発明に係る有害化学物質拡散防止マットは、有害化学物質溶出抑制層の厚さを長期間安定的に維持できるので、マットの厚さを必要以上に要しないから、有害化学物質を吸収する有害化学物質溶出抑制層の厚さを0.5〜3.0cmとした場合も、十分な有害化学物質の溶出抑制効果が得られ、費用の抑制や工期の短縮等ができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明に係る有害化学物質拡散防止マットについて詳細に説明する。
図1は本発明に係る有害化学物質拡散防止マットの一実施例の部分断面説明図、図2は本発明に係る有害化学物質拡散防止マットの他の実施例の部分断面説明図である。
【0018】
図面中、1は透水性シートであって、このような透水性シート1の素材としては織布や不織布など特に限定はないが、透水性を有していて後述する有害化学物質溶出抑制層2がこの透水性シート1を通して外部に流失しないような素材であればよい。
【0019】
2は粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上である有害化学物質溶出抑制層であり、この有害化学物質溶出抑制層2は2枚の透水性シート1,1間の略全体に、四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一な厚さに形成されている。
汚染底質は水分を多く含んでおり、汚染底質から水分のみを海中へと通過させる必要があるため、本発明に係る有害化学物質拡散防止マットも、2枚の透水性シート1,1間に全体が粒子状物質から成る有害化学物質溶出抑制層2を形成させて透水性を確保している。
また有害化学物質溶出抑制層2は全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上であるから、有害化学物質を吸着する能力が高く、またこの有害化学物質を吸着する物質も粒子状物質であるから、単位体積当たり(単位質量当たり)の表面積が大きく非常に高い吸着能力を発揮できるのである。なおこのような有害化学物質を吸着する粒子状物質としては、例えば浚渫土、黒ボク土、山土、建設残土等であって全有機炭素濃度(TOC)の高いものが好ましく使用できる。
なお有害化学物質溶出抑制層2を全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上に限定したのは、有害化学物質拡散防止マットに十分な有害化学物質の吸着能力を持たせた状態でその厚さを薄くして敷設し易くするためである。
【0020】
また本発明に係る有害化学物質拡散防止マットには、有害化学物質溶出抑制層2が外部に流出しないように漏れ防止処理が施されているが、その漏れ防止処理の方法としては、図1の如く2枚の透水性シート1,1の互いの四周を接着テープ又は接着剤で接合したり、縫い合わせたり、図示していないが四周にゴムやウレタンなどの伸縮性のある材料を挟み込んで固着したり、または図2の如く四周の有害化学物質溶出抑制層2の側方に固化材や不分離剤や増粘剤を注入するなどの方法がある。
【0021】
また有害化学物質溶出抑制層2は、粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上であるから有害化学物質溶出抑制が高く、四周に漏れ防止処理が施された状態で封じ込められており、長期間安定的にその厚さを維持できるので、有害化学物質を吸収する有害化学物質溶出抑制層の厚さが0.5〜3.0cmであれば、十分な有害化学物質の溶出抑制効果が得られ、費用の抑制や工期の短縮等ができる。なおこの0.5〜3.0cmの厚さはあくまでも好適な厚さであり、有害化学物質溶出抑制層2の厚さはこれに限定されるものではない。
【0022】
実際に本発明に係る有害化学物質拡散防止マットを製作するには、例えば2枚の透水性シート1,1間に有害化学物質溶出抑制層2を形成させながら、2枚の透水性シート1,1の四周を縫製などによって閉じ合わせたり、四周から有害化学物質溶出抑制層の側方に固化材や不分離剤や増粘剤を注入したりすればよく、本発明に係る有害化学物質拡散防止マットはこのように構成物品が少なく構造が簡単であるから、沿岸で製作したり、台船上で製作したりすることができる。
【0023】
また敷設作業も、透水性シート1,1内部に有害化学物質溶出抑制層2が形成されているので、自重で容易に汚染底質上まで沈み、また層厚も均一な状態が維持されるので、従来工法のように、砂や覆土材のような被覆物をそのまま水中に撒くことによって生じる水の濁りが収まるのを待ってその堆積状態を確認するなどの手間を要しない。
【0024】
また敷設作業では各有害化学物質拡散防止マット間に隙間ができないように、各有害化学物質拡散防止マットの端部を重ねる必要があるが、本発明に係る有害化学物質拡散防止マットは非常に薄くできるので、重ね合わせた部分に大きな段差ができることもないのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る有害化学物質拡散防止マットの一実施例の部分断面説明図である。
【図2】本発明に係る有害化学物質拡散防止マットの他の実施例の部分断面説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 透水性シート
2 有害化学物質溶出抑制層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害化学物質を含む汚染底質上に敷設される有害化学物質拡散防止マットであって、粒子状物質から成り全有機炭素濃度(TOC)が5mg/g以上である有害化学物質溶出抑制層(2)が、2枚の透水性シート(1,1)間の略全体に、四周に漏れ防止処理が施された状態で略均一な厚さに形成されていることを特徴とする有害化学物質拡散防止マット。
【請求項2】
有害物質拡散防止層(2)の厚さが0.5〜3.0cmである請求項1に記載の有害物質拡散防止マット。

【図1】
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【図2】
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