説明

有害大気汚染物質捕集方法及び装置

【課題】自動車排出ガスや環境大気中に含まれる低級カルボニル化合物は、有害大気汚染物の一であり、健康被害の主な原因物質とされているが、その捕集分析に簡便且つ容易な方法がなかった。それは捕集しても、捕集材との反応が更に進み、連続的な反応の抑制が難しかった故である。
【解決手段】低級カルボニル化合物、就中アクロレイン等の捕集にDNPHを使用し、DNPH‐カルボニル化合物とする際に、DNPH担体を冷却し、誘導体化することにより、二量体、三量体への連続反応を阻止する。これにより、有害物質の確実な捕捉が可能になり、正確な測定が出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の有害大気汚染物質を測定するための試料捕集方法及び捕集装置、に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排出ガス中や環境大気中に、微量に含まれる低級カルボニル化合物類は、健康被害の主な原因物質と考えられており、有害大気汚染物質の一つと言われている。中でもアクロレイン(アクリルアルデヒド)は米国EPA(環境保護庁)では、非発ガン有害物質の中で最も重要なものとして位置づけられている。しかしながら、アクロレインは非常に反応性が高く変化しやすい性質のため、これまで良い分析方法がなく信頼できる測定が難しいとされてきた。
【0003】
有害大気汚染物質の一種である低級カルボニル化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレイン、メタアクロレイン、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、トルアルデヒド、ヘキサアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、グルタルアルデヒド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、サリチルアルデヒド、ノナナール、などが代表的な物質である。
【0004】
一方、低級カルボニル化合物の中でも、シックハウス症候群と言われるアレルギーの原因物質となるホルムアルデヒドについては、分析法がJISにより以下のように定められている。
(非特許文献1)
1)4‐アミノ‐3‐ヒドラジノ‐5‐メルカプト‐1,2,4‐トリアゾール吸光光度法。
2)2,4‐ジニトロフェニルヒドラジン(以下、DNPHと略す。)吸収液捕集‐液体クロマトグラフ法またはガスクロマトグラフ法。
3)DNPHカートリッジ捕集‐液体クロマトグラフ法またはガスクロマトグラフ法。
【0005】
1)の方法は、試料ガス中のホルムアルデヒドをほう酸溶液に捕集した後、塩基性とし、4‐アミノ‐3‐ヒドラジノ‐5‐メルカプト‐1,2,4‐トリアゾールを加えて発色させ、その吸光光度を測定するものである。
2)の方法は、試料ガス中のホルムアルデヒドをDNPH吸収液に捕集した後、クロロホルムなどに抽出し、その後、必要に応じて分離法に合うよう溶媒に再溶解するなどしてから液体クロマトグラフまたはガスクロマトグラフに導入し、そのクロマトグラムから分析するものである。
3)の方法は、シリカゲル等の無機系担体にDNPHを含浸コーティングしたカートリッジ(以下、DNPHカートリッジと言う。)を用いるものである。そして、排出ガス中のホルムアルデヒドをDNPHカートリッジ内のDNPHと反応させてヒドラゾン形態に誘導体化することによって該カートリッジ内に捕集した後、溶媒により、生成されたカルボニル化合物誘導体をDNPHカートリッジから溶出させ、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフで分析し、そのクロマトグラムから定量する。
【0006】
2)、3)の方法では、ホルムアルデヒドの他のカルボニル化合物も同時捕集することが出来るため、一斉分析に使用されるようになってきている。中でも、3)の液体クロマトグラフ法は、使い捨てのカートリッジが市販されていること、クロマトグラフ操作が比較的簡便であること、などから一斉分析方法として主流になりつつある。
【0007】
図1には、従来の自動車排出ガス捕集装置の概略図を示す。
1は、排出ガス源としての自動車の排出気口で、試料導管11に連結自在としてある。排出ガスは、ポンプ7により、マスフローコントローラ6に流量制御されながら、試料導管11に、さらにDNPHカートリッジ5に吸引され、送られる。試料導管11の先端部分は水分が凝縮しないように、温度制御装置10から加温コントロールされる、ヒートホース2により覆われている。加温温度は、水分が凝結せず、且つDNPHが分解しない60〜120℃程度に通常設定される。3は、コネクターで、試料導管11とDNPHカートリッジ5に連結する試料導管111とを連結してある。このコネクター3は、フィルター機能を持たせることも出来る。
【0008】
【非特許文献1】JIS K0303:2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、DNPHカートリッジで捕集されたカルボニル化合物などは、DNPH‐カルボニル化合物となり、アセトニトリルなどで抽出後,HPLCで分析される。
しかし、カルボニル化合物の中でも非常に反応性が高いアクロレインは、DNPHカートリッジ内でDNPH‐アクロレインとなった後、速やかに、さらにDNPHと反応し、DNPHの2量体,3量体へと連続的に反応が進んでしまい、DNPH‐アクロレインとして検出できなくなるという問題があり、正確な測定は不可能とされてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明においては、反応性の高いアクロレイン等を簡便にかつ正確・精密に定量することを目的とし、有害大気汚染物質のひとつであり、これまで測定困難とされてきたアクロレイン等の捕集時に捕集カートリッジを冷却することにより、DNPHとアクロレインの連続的な反応を抑えて安定した一斉分析を実現することを提案するものである。
【0011】
特に、自動車排出ガスの場合、エンジン動作によりガスは高温になっており、捕集装置に導くまでに水分が凝縮しないよう加温状態であることが必要である。そのように暖まったガスであっても、効率的に冷却し、DNPH誘導体化反応が連続的に進みやすく測定のしにくいアクロレインなどを正確に捕集し、分析することを特徴とする試料捕集方法であり、微量の有害大気汚染物質の測定に於いて、試料を捕集部にて捕集の際、DNPHを含浸させた担体を冷却し、前記DNPHと試料中の低級カルボニル化合物とを反応させることを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0012】
又、前記冷却の温度を10℃以下とすることを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0013】
又、前記冷却は、DNPHを含浸させた担体の設置された捕集カートリッジを使用することを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0014】
又、前記捕集は、DNPHを含浸させた担体粒子を充填した捕集カートリッジを使用することを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0015】
又、前記捕集は、DNPHを含浸させた一体型多孔質体を設置した捕集カートリッジを使用することを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0016】
又、前記捕集の前に試料を熱交換させるためのバッファー作用を行うことを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0017】
又、前記バッファー作用は、担体の設置されたバッファーカートリッジを使用することを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0018】
又、前記バッファー作用のための担体は、シリカゲルであることを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0019】
又、前記試料の捕集に於いて、試料は第一段、バッファーカートリッジに次いで、DNPHの含浸された担体の設定された捕集カートリッジに送られることを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0020】
又、前記低級カルボニル化合物がアクロレインであることを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法である。
【0021】
又、低温槽内に導入された試料導管に、DNPHを含浸させた担体を設置した捕集カートリッジを着脱自在に設け、捕集カートリッジを温度制御自在に為したことを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集装置である。
【0022】
低温槽内に導入された試料導管の捕集カートリッジの前上流側に、バッファーカートリッジを着脱自在に設けたことを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の詳細について説明する。
図2は、本発明に係る捕集装置の概略図である。図1と同じ部分には同一の番号が付されている。3は、コネクターで、試料導管11と低温槽9内のバッファーカートリッジ4に連結する試料導管111と連結してある。
【0024】
又、このコネクター3は、フィルター機能を持たせることも出来る。6は、捕集流量を制御するマスフローコントローラであり、捕集ポンプ7の操作によって、試料たる自動車排出ガス中の必要成分の捕集を行うことができるように接続されている。
【0025】
10は、温度制御装置で、ヒートホース2と低温槽9の温度を制御自在としてある。試料導管111は、低温槽9内に入り、アルミブロック8により温度制御されるバッファーカートリッジ4及び捕集カートリッジ5を経て、マスフローコントローラー6、ポンプ7を経て試料を系外に排出するように接続されている。
【0026】
ポンプ7を動作させ、マスフローコントローラ6で流量を0.5〜1L/min程度に制御しつつ、一定時間排出ガスを捕集カートリッジ5に引き込み、捕集材たるDNPHと反応させて捕集を行う。そして、捕集時の積算流量(室温、ドライガス換算)を測定する。捕集後の捕集カートリッジ5は、両側に栓をし、抽出操作に移行する。
【0027】
抽出は、捕集後の捕集カートリッジ5にアセトニトリル数mL(1mL以上)を加えて行い、容器に移してメスアップし、分析試料とする。分析試料をHPLCに導入し、検出されるピーク情報より分析測定を行う。
【0028】
捕集部たる捕集カートリッジ5は、低温槽9中のアルミブロック8中に設置される。このときに、捕集カートリッジ5の前上流側に、バッファーカートリッジたるシリカゲルカートリッジ4を接続する。これは、湿度が高く暖まった状態の自動車排出ガスを十分熱交換させるためのバッファー作用を行うためである。このシリカゲルカートリッジ4は、捕集カートリッジ5と同サイズで、DNPHを含浸していないシリカゲルを充填したものが好適である。
環境大気を捕集する場合にも同様の装置が適しているが、温度、湿度がそれほど高くない場合は、ヒートホース2やシリカゲルカートリッジ4は省略可能である。
【0029】
捕集カートリッジ5は、ポリプロピレン製のボディに、DNPHを含浸させた無機系担体ゲルを充填しフリットにて保持したルアーチップタイプの汎用カートリッジを用いることが出来る。無機系担体としては、シリカゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、又は有機物質とそれらのハイブリット体などが利用可能であるが、一般に粒径100から200μm程度のシリカゲル粒子を担体とした使い捨てタイプとして市販されており、手軽に使用することが出来る。
【0030】
又、充填タイプとは異なり、3次元網目状に連続した貫通孔とその貫通孔の内壁に形成された細孔をもつ一体型多孔質体をカートリッジ内に設置し、捕集材として用いると捕集圧力を低く抑えることができるとともに、粒子を封止するフリットがいらないなどメリットが大きい。本発明の捕集方法には、冷却が速やかに伝わり熱交換ができるよう、カートリッジ内径を汎用品より小径に構成するのが好ましいし、又、捕集量を確保するために長形としたものが好適である。その一例として、例えば内径7〜8mm程度が使用される。又、ルアーチップタイプであれば、カートリッジ同士を着脱することも簡単に行うことができる。
【0031】
低温槽9は、捕集カートリッジ5を十分に冷やす構造であれば方式は限定されない。通常冷却に用いられる、蒸気圧縮式(コンプレッサー式)、吸収式、電子冷却式(ペルチェ式、ペルチェ素子と呼ばれる半導体素子による冷却方式)など様々な方式が使用可能であるが、小型で軽量、かつ冷却効率がペルチェ式の数倍にもなるフリーピストン・スタイリングクーラー方式を使用すると低温かつ省エネルギーで使用することが出来る。
又、スクリーニングの目的などで精度をそれほど求めない場合は、市販のワンタッチ冷却パックでカートリッジ4,5を覆うなどでも簡易的に使用することができる。
【0032】
以下、実施例により本発明の効果を明らかなものとする。
【実施例1】
【0033】
図3は、試料の捕集を行う前の予備実験として、室温で市販標準物質試料を希釈してDNPHカートリッジに添加し、アセトニトリルで抽出後、その抽出時回収率をグラフ化したものである。
<実験条件>添加:
カートリッジ:内径12.7mm 長さ32mm
捕集剤:DNPH含浸シリカゲル 120μm 300mg
試料:(1)アクロレイン 低濃度(0.007μg/mL)
(2)アクロレイン 高濃度(0.13μg/mL)
(3)ホルムアルデヒド 低濃度(0.016μg/mL)
(4)ホルムアルデヒド 高濃度(0.25μg/mL)
(それぞれ濃度の高、低 2種ずつ調整)
添加量:30μL
【0034】
抽出後、HPLC:
移動相:A:水/アセトニトリル=50/50
B:アセトニトリル100
グラジエント:B:0〜60%(30min) 60%(35min)
移動相流量:1 mL/min
カラム:Zorbax ODS 4.6mmI.D.×(15+25cm)
カラム温度:50℃
検出器:UV/VIS(波長365nm)
注入量:10μL
分析時間:45min/Sample
【0035】
添加後は、DNPHカートリッジ両側を密栓し、その状態で一定時間保持した後、同様の抽出操作を行った。添加後、時間をあけず速やかに抽出した場合を1とした回収率で捕集量を比較した。
DNPHホルムアルデヒドは1時間後に約80%の回収率に落ちた後、横ばい状態の回収率を保っているが、DNPHアクロレインは1時間後には約30%に落ち、その後は緩やかに下がり続ける結果となった。
【0036】
この結果から、DNPH‐ホルムアルデヒドに比べて、DNPH‐アクロレインは誘導体化反応後にさらに2量体,3量体の状態変化が起こり、短時間のうちにかなりの割合で測定が出来なくなることが分かる。尚、濃度が高い場合も低い場合も、回収率の傾向に違いは見られなかった。
【実施例2】
【0037】
図4は、実施例1と同じ実験条件でアクロレイン高濃度(0.13μg/mL)の添加を行い、カートリッジ温度と回収率の関係をグラフ化したものである。カルボニル化合物とDNPHの第一段階の誘導体化反応は低温でも速やかに進むことが知られている。そこで、2量体,3量体化の反応に温度依存性がみられるか、カートリッジ全体を図2の捕集装置の低温槽で冷却し確認した。各温度は、低温槽設定温度を示している。
(1):−20℃
(2):−15℃
(3):2℃
(4):7℃
【0038】
7℃の場合には30分後に回収率はすでに約60%となり、2時間後には約30%弱に落ち込むことが分かる。温度の降下につれて回収率の落ち込みは小さくなり、−20℃では2時間後でも約90%の高い回収率が確認された。つまり、−20℃ではDNPH‐アクロレインの残存率が高く、2量体,3量体化反応が進まず、経時変化を防ぐことができたと考えられる。
【実施例3】
【0039】
実施例2の結果を踏まえ、実試料である自動車排出ガスを試料として使用し、捕集部の冷却効果を確認する実験を行った。図5にその実験捕集装置の概略図を示す。自動車排出ガスの排出気口1を水分凝結防止のため60℃に加温し、その後、コネクタ3で3方に分岐する。1方に、−20℃の低温槽で冷却されたバッファーカートリッジ4と捕集カートリッジ5、一方に従来法で用いられる室温状態のDNPHカートリッジ5、もう一方に吸収液の入ったインピンジャー12を接続し、同時に同様の条件により排出ガスをポンプで吸引し、捕集を行った。吸収液による測定法は、取り扱いが難しく検出感度が悪いが、ブランク値のばらつきの影響が小さく、今回目的としているアクロレインなどの濃度減少はほとんどないことが知られているため、測定の基準値と考えることにした。
【0040】
<実験条件>捕集:
カートリッジ:内径8.8mm 長さ39.7mm
捕集剤:DNPH含浸シリカゲル 粒径120μm 充填量300mg
吸収液:DNPH 塩酸溶液 2g/L 40mL
試料:自動車排出ガス(アイドリング40sec、1min、2min)
捕集流量:1L/min
捕集時間:30min
(1):吸収液法
(2):本発明による冷却捕集法
(3):従来の室温捕集法
【0041】
抽出後、HPLC:
移動相:A:水/アセトニトリル=50/50
B:アセトニトリル100
グラジエント:B:0〜60%(30min) 60%(35min)
移動相流量:1 mL/min
カラム:Zorbax ODS 4.6mmI.D.×(15+25cm)
カラム温度:50℃
検出器:UV/VIS(波長365nm)
注入量:10μL
分析時間:45min/Sample
【0042】
図6に、自動車エンジンのアイドリング運転を40秒、1分、2分行い、その排出ガスを捕集・抽出した結果を示す。(いずれも、その大気を捕集し、トータルの捕集時間30分とした。)
どの場合でも、基準値と考えられる吸収液法での濃度と、冷却した捕集カートリッジ5の濃度は、ほぼ一致する結果を示した。室温の場合は、およそ50%の濃度となり、おそらく2量体,3量体化反応が進んでしまい、測定されなくなってしまったと考えられる。従って、安定・正確かつ高感度な測定のためには捕集カートリッジの冷却が非常に有効であることが確認された。
【実施例4】
【0043】
図7は、捕集装置各部に熱電対を取り付け、設定温度と各部の冷却状況を実測した結果である。
<実験条件>捕集:
カートリッジ:内径8.8mm 長さ39.7mm
捕集剤:DNPH含浸シリカゲル 粒径120μm 充填量300mg
試料:大気ガス
捕集流量:1L/min
捕集時間:20min
設定ブロック温度:−20℃
測定各部
(1):ヒートホース2による60℃加温部分
(2):コネクター3内部ガス
(3):バッファーカートリッジ4入口部分担体表面
(4):DNPHカートリッジ5入口部分担体表面
(5):アルミブロック8
【0044】
第一段として前上流側に接続したバッファーカートリッジ4の温度は、冷却開始から約8分で5℃安定となり、次いで設置した捕集カートリッジ5は、約−10℃で安定する結果となった。コネクター内部ガスは40℃に保たれているにも関わらず、前上流側に接続したバッファーカートリッジ4が十分なバッファー作用を行い、効率的な熱交換が図られていると考えられる。
【0045】
さらに、捕集流量を1.8L/minに高くすると、暖められたガスが多く流れるようになるため、両カートリッジ温度は上がり、バッファーカートリッジ4は約20分で17℃程度、捕集カートリッジ5は約30分で0℃安定状態となった。
【実施例5】
【0046】
図8に、捕集流量を0.5L/min、捕集時間を30分、アルミブロック8の設定温度を−10℃とした場合の各部温度実測結果を示す。その他の条件は、実施例4に示す捕集流量1L/minの場合と同様で、グラフのプロットも同様に対応している。
【0047】
バッファーカートリッジ4の温度は、約20分で約14℃安定となり、捕集カートリッジ5は約2℃で安定する結果となった。バッファーカートリッジ4は10℃越えてしまうが、0.5L/minのように流量が小さくなると、設定ブロック温度を−10℃に上げても、捕集カートリッジ5は2℃程度に安定した冷却が行われることが確認された。
【実施例6】
【0048】
図9は、捕集冷却温度の検討のため、排出ガス中の有害大気汚染物質を成分ごとに測定した結果である。実試料である排出ガス中の濃度は一定ではないため、冷却しない60℃加温の従来通りの捕集を同時に行い、それを1とし、本発明の方法で冷却した場合との比をグラフ化し、濃度の変化を確認した。
【0049】
低温槽9のアルミブロック8の冷却温度を、室温である25℃から−40℃までの7温度に設定し、同時に捕集カートリッジ5の複数箇所の温度を測定し、その平均温度と最高温度を確認した。
【0050】
<実験条件>捕集:
カートリッジ:内径8.8mm 長さ39.7mm
捕集剤:DNPH含浸シリカゲル 粒径120μm 充填量300mg
試料:ディーゼル排出ガス
捕集流量:0.5L/min
捕集時間:30min
設定ブロック温度:25℃、10℃、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃
測定成分
(1):アクロレイン
(2):ホルムアルデヒド
(3):アセトアルデヒド
(4):メタクロレイン
(5):ベンズアルデヒド
(6):m‐トルアルデヒド
【0051】
抽出後、HPLCの条件は、実施例3と同様である。
グラフでは、プロットが重なり見づらい部分もあるため、グラフ化した元の数値比も別に表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
○で示すアクロレインの濃度は、アルミブロック8の冷却温度が0℃以下であればほぼ安定し、通常捕集時濃度の2.7倍程度となることが分かった。その時の濃度は、最小値0.11μg/mL、最高値0.40μg/mLであった。アルミブロック8の冷却温度0℃の時、捕集カートリッジ5の平均温度は8℃であり、最高温度は9℃であった。全設定温度範囲において、平均温度と最高温度の誤差は最大3℃であり、平均誤差は1.4℃程度であった。以上のことから、実用上、8℃に2℃平均誤差を考慮した10℃以下に、担体温度(平均値)が冷却されていれば信頼できる測定が為されると考えられる。
【0054】
一方、アクロレイン以外の低級カルボニル化合物については、温度変化による捕集量の変化は見られなかった。夫々の成分濃度は、以下の表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
つまり、温度変化は、DNPH誘導体化反応そのものには影響を与えずに、2量体、3量体化反応を抑える作用をしていると考えられる。このため、従来からのカートリッジ捕集法の利点であるアルデヒド類、ケトン類などの有害大気汚染物質である低級カルボニル化合物の一斉定量分析に問題なく、そのまま適用可能であると考えられる。
【0057】
実施例4から低温槽の設定温度を−20℃とすると、捕集カートリッジ5の担体表面は0℃に保たれることが確認出来ている。従って、バッファーカートリッジ4を前上流側に使用し、−20℃設定の低温槽9でアルミブロック8により、捕集カートリッジ5を冷却する本発明の装置が、信頼できる捕集条件を満たすことが確認された。
【0058】
又、流量が小さい場合は、低温槽の設定温度を−10℃としても、捕集カートリッジ5の担体表面温度は10℃以下になることが確認出来ている。従って、流量に応じた冷却設定温度とすることにより、合理的かつ信頼できる捕集条件を十分満たすことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】従来捕集装置概略説明図
【図2】本発明に係る捕集装置概略説明図
【図3】室温でのDNPH‐アクロレイン、DNPH‐ホルムアルデヒドの回収率を示す図
【図4】本発明の温度変化によるDNPH‐アクロレインの回収率を示す図
【図5】本発明実施例概略図
【図6】本発明及び従来例による自動車排出ガス捕集分析結果を示す図
【図7】本発明による捕集装置の温度変化実測図
【図8】本発明による捕集装置の温度変化実測図
【図9】本発明によるアクロレイン等の捕集温度依存結果を示す図
【符号の説明】
【0060】
1 排出気口
2 ヒートホース
3 コネクター
4 バッファーカートリッジ
5 捕集カートリッジ
8 アルミブロック
9 低温槽
10 温度制御装置
11 試料導管
111 試料導管
12 インピンジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量の有害大気汚染物質の測定に於いて、試料を捕集部にて捕集の際、DNPHを含浸させた担体を冷却し、前記DNPHと試料中の低級カルボニル化合物とを反応させることを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項2】
前記冷却の温度を10℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項3】
前記冷却は、DNPHを含浸させた担体の設置された捕集カートリッジを使用することを特徴とする請求項1又2に記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項4】
前記捕集は、DNPHを含浸させた担体粒子を充填した捕集カートリッジを使用することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項5】
前記捕集は、DNPHを含浸させた一体型多孔質体を設置した捕集カートリッジを使用することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項6】
前記捕集の前に試料を熱交換させるためのバッファー作用を行うことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項7】
前記バッファー作用は、担体の設置されたバッファーカートリッジを使用することを特徴とする請求項6に記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項8】
前記バッファー作用のための担体は、シリカゲルであることを特徴とする請求項6又は7の何れかに記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項9】
前記試料の捕集に於いて、試料は第一段、バッファーカートリッジに次いで、DNPHの含浸された担体の設置された捕集カートリッジに送られることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項10】
前記低級カルボニル化合物がアクロレインであることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の低級カルボニル化合物の捕集方法。
【請求項11】
低温槽内に導入された試料導管に、DNPHを含浸させた担体を設置した捕集カートリッジを着脱自在に設け、捕集カートリッジを温度制御自在に為したことを特徴とする低級カルボニル化合物の捕集装置。
【請求項12】
低温槽内に導入された試料導管の捕集カートリッジの前上流側に、バッファーカートリッジを着脱自在に設けたことを特徴とする請求項11に記載の低級カルボニル化合物の捕集装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−151607(P2010−151607A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329936(P2008−329936)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(591056927)財団法人日本自動車研究所 (26)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】