説明

有害物質の放散試験システム

【課題】ビル等における循環換気状況を模擬し、建物構成材料に対する有害物質の放散試験を行うことを可能にする。
【解決手段】 放散試験システム10は、試料Sが内部に収容されるチャンバー11と、システム外から取り込まれた新鮮空気を清浄する空気清浄装置19と、空気清浄装置19を通過した清浄空気をチャンバー11内に導く給気流路20と、チャンバー11からの排出空気をシステム外に導く排気流路27と、チャンバー11からの排出空気の一部を取り込んで試料Sからの有害物質を捕集する捕集部29と、排気流路27から分岐して給気流路20に繋がる循環流路34と、各流路20,27,34を流れる各空気の流量を制御する制御手段23,31,35とを備えている。システム10では、システム外及び捕集部29に流れる排出空気の総流量が、清浄空気の流量と同一に制御され、清浄空気と排出空気とが所定割合で混合されてチャンバー11内に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル空調を想定した循環換気状況下で、建物の各種構成材料に対する有害物質の放散試験を行うことのできる有害物質の放散試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物内に配置される建築用ボード類等の建材、壁紙、カーペット、施工用の接着剤、及び塗料等(以下、これらを「建物構成材料」と総称する)は、種類によって、揮発性有機化合物、ホルムアルデヒド及びカルボニル化合物等の有害物質を放散し、シックハウス症候群の原因となる室内空気汚染を引き起こす虞がある。
【0003】
従って、建物の施工前に、使用する建物構成材料からの有害物質の放散量を試験的に調査し、各種の建物構成材料の評価をすることが重要となる。このような試験評価手法の一つとして、「JIS A 1901」に規定された小型チャンバー法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この小型チャンバー法は、チャンバーと呼ばれる測定容器内に、評価対象となる建物構成材料の少なくとも一部分となる試料を収容した上で、所定の流量の空気をチャンバー内に供給し、当該チャンバー内を通過した空気から有害物質を捕集することで、試料からの有害物質の放散状況を特定する手法である。
【特許文献1】特開2006−275627号公報(第3頁、「0006」参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ビルでは、冷暖房の効率向上、二酸化炭素放出抑制等の観点から、ビル管理法の規制等により、室内換気時に室内から室外に排出された空気の全量を入れ替えるのではなく、室外に排出された空気の一部を循環させる循環換気システムが採用される。この循環換気システムは、室内から室外に排出された空気のうち、例えば、30パーセントをビル外に排気する一方で当該排気量と同量の新しい空気を取り込み、残り70パーセントの排出空気と混合して室内に供給するシステムであり、排出空気の70パーセントがビル内を循環することになる。
【0006】
そこで、このようなビルの循環換気状況下では、ビル内に配置される建物構成材料からの有害物質の放散試験を行う場合、前述した小型チャンバー法では、実際の換気状況と異なることから、正確に試験評価を行えないという問題がある。つまり、前記小型チャンバー法では、室内から室外への排出空気の一部が循環するビルの換気状況と異なり、チャンバー内から排出された空気の全量が新しい空気に入れ替えられる。このことから、チャンバー法では、建物構成材料を実際にビル内に配置したときと異なる換気状況での試験となってしまい、実際の態様に沿った試験結果が得られないことになる。
【0007】
本発明は、このような問題に着目して案出されたものであり、その目的は、ビル等における循環換気状況を模擬して、建物構成材料に対する有害物質の放散試験を行うことができ、ビル等の循環換気状況下にさらされる建物構成材料に対する有害物質の正確な放散試験評価に寄与する有害物質の放散試験システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、試料が内部に収容されるチャンバーと、このチャンバー内に空気を供給する空気供給部と、前記チャンバー内から空気を排出させる空気排出部とを備え、
前記空気供給部は、システム外から取り込まれた新鮮空気を清浄する空気清浄装置と、当該空気清浄装置を通過した清浄空気を前記チャンバー内に導く給気流路とを備え、
前記空気排出部は、前記チャンバーからの排出空気をシステム外に導く排気流路と、前記チャンバーからの排出空気の一部を取り込んで、前記試料から放散した有害物質を捕集する捕集部と、前記排気流路から分岐し、前記排出空気の一部を前記清浄空気と混合可能に前記給気流路に繋がる循環流路と、これら給気流路、排気流路及び循環流路を流れる各空気の流量を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記システム外及び前記捕集部に流れる排出空気の総流量が、前記清浄空気の流量と同一になるように制御され、前記清浄空気と前記排出空気とが所定の割合で混合されて前記チャンバー内に供給される、という構成を採っている。
【0009】
(2)また、前記清浄空気と前記排出空気との混合空気の湿度を調整する調湿手段を更に備え、当該調湿手段は、前記チャンバーとともに恒温装置内に収容される、という構成を採ることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
前記(1)の構成によれば、排出空気の一部を清浄空気に混合してチャンバー内に供給可能とする循環流路がシステム内に組み込まれ、給気流路、排気流路及び循環流路を通る各種空気の流量が制御されるため、ビル等における実際の循環換気状況をシステム内で再現しながら、排出空気と清浄空気の混合空気をチャンバー内に供給することができ、ビル内に配置される建物構成材料に対する有害物質の放散試験を正確に行うことが可能となる。
【0011】
前記(2)のように構成することで、清浄空気と排出空気が混合してチャンバー内に供給される混合空気の温度及び湿度を所定の値に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る有害物質の放散試験システムの概略構成図が示されている。この図において、放散試験システム10は、試験評価対象となる試料Sが内部空間に収容されるチャンバー11と、チャンバー11内に空気を供給する空気供給部12と、チャンバー11内から空気を排出させる空気排出部13と、チャンバー11内に供給される空気の湿度を調整する調湿手段15と、各種の試験条件が入力される入力装置18とを備えて構成されている。なお、図中実線の矢印は、本システム10内における空気の流れ方向を示しており、以下で用いられる「上流側」、「下流側」は、空気の流れ方向における上流側、下流側を意味する。
【0014】
前記チャンバー11は、上端側に蓋体が設けられた中空の容器状となっており、蓋体を着脱することで、内部空間に対して試料Sを出し入れ可能となっている。また、チャンバー11の内部空間には、空気供給部12及び空気排出部13の各流路20,27が通じており、チャンバー11を閉蓋状態にすると、その内部空間に対する空気の流入及び流出は、空気供給部12及び空気排出部13の各流路20,27を通じてのみ行われる。
【0015】
前記空気供給部12は、システム外から取り込まれた新鮮空気を清浄する空気清浄装置19と、空気清浄装置19を通過した清浄空気をチャンバー11内に導く給気流路20と、給気流路20の途中に設けられて、清浄空気を空気清浄装置19からチャンバー11内に送り込むポンプ22と、ポンプ22の下流側となる給気流路20に設けられ、給気流路20内の清浄空気の流量を調整するマスフローコントローラ23とを備えて構成されている。
【0016】
前記空気清浄装置19は、その周囲の新鮮空気を取り込み、当該新鮮空気をシリカゲル等で除湿した後で、活性炭系の化学吸着剤及び活性炭等の物理吸着剤を使って化学物質を除去し、清浄空気を生成することのできる公知の構造が採用されている。なお、特に限定されるものではないが、本実施形態の空気清浄装置19は、清浄空気の総揮発性有機化合物(TVOC)濃度が10μg/m〜30μg/mとなるように、新鮮空気から化学物質を除去するようになっている。
【0017】
前記マスフローコントローラ23は、通過する空気の流量を計測する流量計としての機能と、通過する空気の流量を入力装置18で設定された所望の値に制御する制御弁としての機能とを備えた公知の装置である。なお、以下のマスフローコントローラ31,35,46についても、ほぼ同一の機能を備えており、以下では、機能説明を省略して作用説明のみを行う点、了承されたい。
【0018】
ここでのマスフローコントローラ23は、給気流路20を通過する清浄空気の流量を計測し、この計測値と入力装置18に入力された清浄空気の必要流量とに基づき、給気流路20を通過する清浄空気の流量が予め設定された一定値になるように動作する。
【0019】
前記空気排出部13は、システム外に通じる排気口25と、チャンバー11からの排出空気を排気口25に導く排気流路27と、チャンバー11からの排出空気の一部を取り込んで、試料Sから放散した有害物質を捕集する捕集部29と、捕集部29の下流側に設けられ、排気流路27内の排出空気の流量を調整するマスフローコントローラ31と、マスフローコントローラ31の下流側に設けられて、チャンバー11から排出空気を吸引するポンプ32と、このポンプ32の下流側で排気流路27から分岐して給気流路20に繋がる循環流路34と、循環流路34に設けられたマスフローコントローラ35とを備えている。
【0020】
前記捕集部29は、排気流路27から分岐した捕集用流路37と、捕集用流路37の途中に設けられた制御弁38と、制御弁38の下流側で捕集用流路37に繋がる捕集管39とを備えて構成されている。
【0021】
前記制御弁38は、捕集用流路37に空気が流れない閉塞状態から、予め設定されたタイミングで捕集管39に所定流量の空気が流れるように開閉可能なっている。
【0022】
前記捕集管39は、制御弁38が開放状態にあるときに、捕集用流路37に流入した空気中の有害物質を捕集可能な公知の吸着剤が用いられる。例えば、空気中の有害物質としてホルムアルデヒドを捕集したい場合は、捕集管39としてDNPH(ジニトロフェニルヒドラジン誘導体固相吸着管)が用いられる。なお、捕集管39で捕集された有害物質は、所定の抽出処理若しくは溶出処理が行われた後で、クロマトグラフィー等の所定の測定機器を使って、空気中における含有濃度等が検出される。例えば、前述したホルムアルデヒドの場合には、捕集管39に誘導体化されたホルムアルデヒドを有機溶媒に溶出させた後、所定条件下で高速液体クロマトグラフィーを使って空気中の含有濃度等が検出される。
【0023】
排気流路27に設けられたマスフローコントローラ31は、チャンバー11から排出される排出空気の流量が予め設定された一定値となるように動作する。また、循環流路34に設けられたマスフローコントローラ35は、循環流路34を流れる排出空気の流量が予め設定された一定値となるように動作する。更に詳述すると、これらマスフローコントローラ31,35では、循環流路34を流れる排出空気の流量をほぼ一定としながら、チャンバー11から排気口25と捕集管39側に排出される排出空気の総流量が給気流路20を流れる清浄空気の流量と同一になるように流量制御がなされる。従って、前記各マスフローコントローラ23,31,35は、給気流路20、排気流路27及び循環流路34を流れる清浄空気及び排出空気の流量を制御する制御手段を構成する。
【0024】
前記調湿手段15は、マスフローコントローラ23の下流側で給気流路20から分岐する流入路41と、流入路41から流入した清浄空気を加湿する加湿装置42と、加湿装置42で加湿された清浄空気が流れるとともに、給気流路20における流入路41との分岐位置よりも下流側で給気流路20に繋がる流出路43と、給気流路20における循環流路34との合流位置よりも下流側に設けられた温湿度センサ45と、流入路41の途中に設けられたマスフローコントローラ46とを備えている。
【0025】
前記加湿装置42は、図示省略したタンク内の水に流入路41からの清浄空気を入れてバブリングさせることにより、清浄空気を加湿して流出路43に排出する公知の構造が採用されている。
【0026】
前記温湿度センサ45は、流出路43と合流後に給気流路20を流れる清浄空気と、循環流路34から給気流路20に合流した後の排出空気とが混合した混合空気の温度及び湿度を測定可能となっている。
【0027】
流入路41に設けられたマスフローコントローラ46は、温湿度センサ45による湿度の測定値から、混合空気に対して予め設定された湿度値を維持できるように、流入路41から加湿装置42に流れる清浄空気の流量を調整するようになっている。つまり、空気清浄装置19からの清浄空気は、給気流路20と流入路41との分岐地点で、加湿装置42を経ないでそのままチャンバー11に向う流れと、流入路41から加湿装置42を経てチャンバー11に向う流れとに分かれ、後者の流れが加湿された上で前者の流れに合流し、更に、循環流路34からの排出空気と合流して混合空気が得られることになる。この際、温湿度センサ45による混合空気の湿度の測定値に応じ、マスフローコントローラ46で加湿装置を経由する清浄空気の流量を調整することにより、清浄空気の加湿割合を適宜変えながら、混合空気の湿度が所望の値に維持されることになる。
【0028】
また、チャンバー11に流入される混合空気の温度を一定に維持するため、チャンバー11、調湿手段15を構成する各種装置、部材、及びこれら周辺の各種流路は、公知の恒温装置50内に収容され、温湿度センサ45で混合空気の温度もモニタリングされるようになっている。
【0029】
次に、本実施形態に係る放散試験システム10内の空気の流れについて説明する。
【0030】
先ず、ビル内に配置される建材等の建物構成材料をほぼ方形板状にした試料Sを用意し、この試料Sをチャンバー11内に収容する。そして、ビル換気を想定し、チャンバー11を通過する空気のうち70パーセントの空気をシステム外に排出させずに循環させ、残り30パーセントの空気をシステム外に排出してシステム外から導入するという条件と、チャンバー11を通過する空気の流量Qとする条件とが入力装置19により入力されたと仮定する。このとき、チャンバー11に供給される混合空気の温度及び湿度の条件も予め入力装置19により入力しておく。
【0031】
前述した条件でシステム10を動作させると、チャンバー11の通過流量Qの30パーセントの清浄空気が新たにシステム外から導入されるため、マスフローコントローラ23では、通過する清浄空気の流量が0.3Qとなるように流量制御される。一方、前記通過流量Qの残り70パーセントの空気がシステム外に排出されずに循環するため、通過流量Qのうち、流量0.7Qが循環流路34に流れるようにマスフローコントローラ35で流量制御される。そして、給気流路20と循環流路34との合流地点で、清浄空気の流量0.3Qと排出空気の流量0.7Qとが混合して、流量Qの混合空気がチャンバー11に供給されることになる。この混合空気は、前述したように、温度及び湿度が恒温装置50及び調湿手段15で所望の値に調整される。また、チャンバー11からの排出空気は、流量Qとなるようにマスフローコントローラ31で流量制御される。ここで、サンプリング(捕集)が行われる場合は、捕集用流路37に一定流量の排出空気が流れるため、当該流量を流量Qから引いた流量の排出空気が、マスフローコントローラ31を通過するように流量制御される。つまり、この場合も、チャンバー11からの排出空気の総流量はQとなる。従って、サンプリングが行われない場合、チャンバー11からの排出空気は、その総流量Qが全てマスフローコントローラ31を通過し、うち流量0.7Qが循環流路34に流れる一方、残りの流量0.3Qが排気口25からシステム外に排出される。一方、サンプリングが行われると、循環流路34を流れる流量0.7Qは変わらずに、捕集用流路37を流れた排出空気の流量分だけ、排出口25から排出される排出空気の流量が減ることになる。
【0032】
従って、このような実施形態によれば、ビルに配置された建物構成材料に対し、ビルの循環換気状況を模擬して有害物質の放散試験を行うことができ、ビル等の循環換気状況下にさらされる各種建物構成材料に対し、実際の配置態様を考慮した正確な放散評価を行うことが可能になるという効果を得る。
【0033】
なお、マスフローコントローラ35により、循環流路34を通過する排出空気の流量をゼロにすれば、循環換気を考慮しない従来のチャンバー法と同様の試験を行うことが可能であり、チャンバー11を通過する空気の状態を、前述の循環換気状態とそうでない状態とに簡単に切り替えることができ、各種試験に汎用的に対応可能となる。
【0034】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係る有害物質の放散試験システムの概略構成図。
【符号の説明】
【0036】
10 放散試験システム
11 チャンバー
12 空気供給部
13 空気排出部
15 調湿手段
19 空気清浄装置
20 給気流路
23 マスフローコントローラ(制御手段)
27 排気流路
29 捕集部
31 マスフローコントローラ(制御手段)
34 循環流路
35 マスフローコントローラ(制御手段)
50 恒温装置
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が内部に収容されるチャンバーと、このチャンバー内に空気を供給する空気供給部と、前記チャンバー内から空気を排出させる空気排出部とを備え、
前記空気供給部は、システム外から取り込まれた新鮮空気を清浄する空気清浄装置と、当該空気清浄装置を通過した清浄空気を前記チャンバー内に導く給気流路とを備え、
前記空気排出部は、前記チャンバーからの排出空気をシステム外に導く排気流路と、前記チャンバーからの排出空気の一部を取り込んで、前記試料から放散した有害物質を捕集する捕集部と、前記排気流路から分岐し、前記排出空気の一部を前記清浄空気と混合可能に前記給気流路に繋がる循環流路と、これら給気流路、排気流路及び循環流路を流れる各空気の流量を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記システム外及び前記捕集部に流れる排出空気の総流量が、前記清浄空気の流量と同一になるように制御され、前記清浄空気と前記排出空気とが所定の割合で混合されて前記チャンバー内に供給されることを特徴とする有害物質の放散試験システム。
【請求項2】
前記清浄空気と前記排出空気との混合空気の湿度を調整する調湿手段を更に備え、当該調湿手段は、前記チャンバーとともに恒温装置内に収容されることを特徴とする請求項1記載の有害物質の放散試験システム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−25255(P2009−25255A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191478(P2007−191478)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(502195835)有限会社アドテック (3)
【出願人】(507247265)三星物産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】