有害物質を含む液体の前処理装置及び有害物質を含む液体の前処理方法
【課題】土壌中の有害物質を含む液体の前処理を常に監視することなく、かつ、短時間で行うことが可能な前処理装置及びその装置を用いた前処理方法を提供する。
【解決手段】前処理装置1は、有害物質を含む液体である水を密閉して貯留可能な容器2と、容器2内の水を加熱するための加熱器3と、加熱器3による加熱によって容器2内の水が気化した水蒸気を導入可能な熱交換用コンデンサ4と、熱交換用コンデンサ4内を減圧するための真空ポンプ5と、熱交換用コンデンサ4で水蒸気を冷却することにより生じた有害物質を含む水を冷凍して保存するための冷凍装置6と、を備えている。
【解決手段】前処理装置1は、有害物質を含む液体である水を密閉して貯留可能な容器2と、容器2内の水を加熱するための加熱器3と、加熱器3による加熱によって容器2内の水が気化した水蒸気を導入可能な熱交換用コンデンサ4と、熱交換用コンデンサ4内を減圧するための真空ポンプ5と、熱交換用コンデンサ4で水蒸気を冷却することにより生じた有害物質を含む水を冷凍して保存するための冷凍装置6と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置及び有害物質を含む液体の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、土壌中に含まれる有害物質を分析する際の前処理として、この有害物質を含む水を加熱する作業を行っている。
【0003】
例えば、有害物質であるフッ素を分析する場合には、非特許文献1(106頁参照)に記載されているように、フッ素を含む300mlの水が30mlになるまで静かに煮沸する。かかる場合には、加熱時間として6〜8時間程度を要している。
【0004】
また、例えば、有害物質である六価クロム化合物を分析する場合には、非特許文献1(270頁参照)に記載されているように、規定量の硝酸及びアンモニア水を六価クロム化合物を含む水に添加して加熱し、アンモニア臭がなくなるまで静かに煮沸する。かかる場合には、加熱時間として1.5時間程度を要している。
【0005】
そして、これらの加熱中における水の沸きこぼれや析出した残渣物の焦げ付きを防ぐために、常に作業員が側について監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】工業排水試験方法、JIS K 0102 平成10年4月20日改正、日本工業標準調査会審議(日本規格協会発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の方法では、以下のような問題点があった。
(1)加熱時間として、1.5〜8時間程度を要するので、前処理の効率化を図ることが困難である。
(2)作業員が長時間にわたって加熱状況を監視しなければならないので、作業員への負担が大きい。また、試料数が多くなると複数の作業員を確保しなければならない。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、前処理を常に監視することなく、かつ、短時間で行うことが可能な前処理装置及びその装置を用いた前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置であって、
前記有害物質を含む液体を貯留するための筒体と当該筒体内を密閉しながら移動可能な移動部材とを備えた容器と、
前記容器内の液体を加熱するための加熱器と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、容器内の体積が増加する向きへ移動部材を移動させることにより容器内を減圧することができる。そして、容器内を減圧すると容器内の液体の沸点が下がるため、少ない加熱量で液体を気化させることができる。したがって、従来よりも加熱時間を大幅に短縮することができる。
【0011】
また、低い温度で容器内の液体を気化させることができるので、容器内に残る残渣物が容器に焦げ付くことを防止できる。したがって、作業員が常に監視する必要がない。
【0012】
さらに、容器内の残渣物を用いて、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等を分析することができる。
【0013】
本発明は、前記容器に接続されて、前記加熱によって前記液体が気化した気体を導入して冷却するための熱交換用コンデンサと、
前記熱交換用コンデンサ内を減圧するための真空ポンプと、を更に備えることとしてもよい。
【0014】
本発明によれば、熱交換用コンデンサを備えているので、加熱により生じた気体を冷却して砒素及びその化合物、セレン及びその化合物、水銀及びその化合物等を伴う液体(以下、蒸留物という)を採取することができる。
また、真空ポンプで熱交換用コンデンサ内を減圧することにより、加熱により生じた気体を容易に熱交換用コンデンサ内に導入することができる。
【0015】
本発明は、前記熱交換用コンデンサで前記気体を冷却することにより生ずる液体を冷凍するための冷凍装置を更に備えることとしてもよい。
【0016】
本発明によれば、冷凍装置を備えているので、蒸留物を冷凍し、その状態で保存することができる。
【0017】
また、本発明は、土壌中の有害物質を含む液体の前処理方法であって、
前記有害物質を含む液体を容器内に貯留する貯留工程と、
前記容器内を減圧する容器内減圧工程と、
前記減圧工程で減圧された前記容器内の液体を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、土壌中の有害物質を含む液体の前処理を常に監視することなく、かつ、短時間で行うことが可能な前処理装置及びその装置を用いた前処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る前処理装置を示す全体概略図である。
【図2】本実施形態に係る有害物質を含む液体の前処理方法のフロー図である。
【図3】ピストンを下げた状態を示す図である。
【図4】ピストンを上げた状態を示す図である。
【図5】水蒸気を熱交換用コンデンサ内に導入する状態を示す図である。
【図6】ピストンを下げた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置1の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態においては、特に第二種特定有害物質の前処理方法について説明するが、これに限定されるものではない。
【0021】
ここで、第二特定有害物質とは、土壌汚染対策法(環境省)で指定された8種類の有害物質のことをいい、具体的には、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物、砒素及びその化合物、セレン及びその化合物、水銀及びその化合物である。
【0022】
図1は、本実施形態に係る前処理装置1を示す全体概略図である。
図1に示すように、前処理装置1は、有害物質を含む液体である水を密閉して貯留可能な容器2と、容器2内の水を加熱するための加熱器3と、加熱器3による加熱によって容器2内の水が気化した水蒸気を導入可能な熱交換用コンデンサ4と、熱交換用コンデンサ4内を減圧するための真空ポンプ5と、熱交換用コンデンサ4で水蒸気を冷却することにより生じた有害物質を含む水(以下、蒸留物という)を冷凍して保存するための冷凍装置6と、を備えている。
【0023】
前処理装置1は、有害物質を含む水を加熱することにより発生する水蒸気を熱交換用コンデンサ4で冷却して、砒素及びその化合物やセレン及びその化合物や水銀及びその化合物等を水と共に回収する機能を有する。回収した蒸留物を、これらの有害物質の分析に用いる。
【0024】
また、加熱した後に、容器2内に残る残渣物を、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等の分析に用いる。
【0025】
容器2は、有害物質を含む水を貯留するための筒体7と、筒体7の内周面に密着しながら筒体7内を上下に移動可能な円盤状のピストン8と、を備えている。ピストン8には、一端面から他端面までを貫通する貫通孔9が設けられている。
【0026】
筒体7の直下には、加熱器3が設置されており、容器2内の水を加熱することができる。加熱器3により加熱された水は水蒸気となり、第1の送通管11及び第2の送通管13を介して熱交換用コンデンサ4へ送給される。
なお、本実施形態では、加熱器3として、電気にて加熱可能なホットプレートを用いたが、これに限定されるものではなく、マイクロ波にて加熱可能な装置を用いてもよい。
【0027】
第1の送通管11の一端は、ピストン8の貫通孔9に接続されている。また、第1の送通管11の他端部及びピストン8の近傍にそれぞれ第1の開閉バルブ12及び第2の開閉バルブ16が設けられている。第1の開閉バルブ12及び第2の開閉バルブ16を開くことにより、容器2内と外部とが連通した状態となる。
【0028】
第2の送通管13は、一端が第1の開閉バルブ12と第2の開閉バルブ16との間の第1の送通管11に接続され、他端が熱交換用コンデンサ4に接続されている。また、第2の送通管13の途中に第3の開閉バルブ14が設けられている。
【0029】
また、熱交換用コンデンサ4と真空ポンプ5とは第3の送通管15で接続されており、その途中に第4の開閉バルブ18が設けられている。第4の開閉バルブ18を開くことにより、熱交換用コンデンサ4と真空ポンプ5とが連通した状態となる。
【0030】
第2の開閉バルブ16を閉じた状態でピストン8を上方へ移動させることにより、筒体7内を減圧して大気圧よりも低い状態にすることができる。これにより、容器2内の水の沸点が低くなり、より低温で水蒸気を発生させることができる。
【0031】
加熱により容器2内に発生した水蒸気は、第1の開閉バルブ12を閉じ、かつ、第2の開閉バルブ16及び第3の開閉バルブ14を開くことにより、熱交換用コンデンサ4へ導入される。
【0032】
熱交換用コンデンサ4には、冷却板10が設けられており、容器2内より導入された水蒸気を冷却することができる。水蒸気を冷却することによって冷却板10に水滴が付着する。
冷却板10に付着した水滴は、ホース等にて集水されて冷凍装置6に送給される。冷凍装置6に送給された水は冷凍されて固体となり、その状態で保存される。
【0033】
次に、本実施形態に係る有害物質を含む水の前処理方法について、施工手順にしたがって説明する。
図2は、本実施形態に係る前処理方法のフロー図である。また、図3〜図6は、前処理の各工程における前処理装置1の作動状態を示す図である。
【0034】
図2に示すように、有害物質を含む水の前処理方法は、水を容器7内に貯留する貯留工程S10から蒸留物を冷凍する冷凍工程S20までを実施する。そして、まだ容器7内に水が残っている場合には、再び、熱交換用コンデンサ4内を真空にする熱交換用コンデンサ内減圧工程S12から冷凍工程S20までを水が無くなるまで適宜、複数回繰り返し実施するものである。
【0035】
まず、図3に示すように、有害物質を含む水を筒体7内に入れて、第1の開閉バルブ12及び第2の開閉バルブ16を開いた状態でピストン8を液面に接するまで下げる。このとき、ピストン8と水面との間に存在する空気は、ピストン8の貫通孔9及び第1の送通管11を介して外部に排出される。
【0036】
ピストン8を液面に接する位置まで下げたら、第1の開閉バルブ12、第2の開閉バルブ16及び第3の開閉バルブ14を閉じて筒体7内を密閉する(貯留工程S10)。
【0037】
次に、第3の開閉バルブ14を閉じた状態で第4の開閉バルブ18を開き、真空ポンプ5を駆動させて熱交換用コンデンサ4内を減圧し、熱交換用コンデンサ4内を真空状態にする(熱交換用コンデンサ内減圧工程S12)。
熱交換用コンデンサ4内が真空になったら第4の開閉バルブ18を閉じて真空状態を維持する。
【0038】
次に、図4に示すように、第2の開閉バルブ16を閉じた状態でピストン8を上げて、容器2内の体積を増加させることにより容器2内を減圧して真空状態にする(容器内減圧工程S14)。これにより、容器2内に水蒸気を貯留するための空間を確保することができる。そして、ピストン8を固定して真空状態を維持する。
【0039】
次に、加熱器3で真空状態の容器2内の水を加熱する(加熱工程S16)。容器2内は真空なので、大気圧下よりも水の沸点が低くなっており、少ない加熱量で水分を蒸発させることができる。これにより、従来よりも加熱の時間を大幅に短縮できる。
【0040】
また、低い温度で水分を蒸発させることができるので、水分を蒸発させた後に、容器2内に残った残渣物が容器2に焦げ付くことがない。
【0041】
次に、図5に示すように、第1の開閉バルブ12及び第4の開閉バルブ18を閉じた状態で第2の開閉バルブ16及び第3の開閉バルブ14を開いて、容器2内の水蒸気を熱交換用コンデンサ4に送給する。
【0042】
そして、熱交換用コンデンサ4内に水蒸気が充満したら、第3の開閉バルブ14を閉じる。
【0043】
次に、熱交換用コンデンサ4を駆動させて水蒸気を冷却する(冷却工程S18)。水蒸気を冷却することにより生じた水は、集水されて冷凍装置6へ送給される。この水(以下、蒸留物という)には、砒素及びその化合物やセレン及びその化合物や水銀及びその化合物等が含まれている。
【0044】
次に、蒸留物を冷凍装置6で冷凍して固化する(冷凍工程S20)。固化状態の蒸留物は、砒素及びその化合物等を分析する際に解凍して用いられる。
【0045】
なお、本実施形態においては、蒸留物を冷凍する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、蒸留物を採取した後、直ちに分析が可能な場合には、冷凍することなく、分析してもよい。
【0046】
かかる際に、まだ、容器2内に有害物質を含む水が残っている場合には、再び、熱交換用コンデンサ内減圧工程S12から冷凍工程S20までをその水が無くなるまで繰り返し実施する。
【0047】
そして、図6に示すように、容器2内の水が無くなったら、第1の開閉バルブ12を開き、第2の開閉バルブ16を閉じてピストン8を残渣物近傍まで下げる。その後、第2の開閉バルブ16を開いてピストン8を筒体7内から取り出して、筒体7内に残渣された残渣物を取り出す。この残渣物は、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等の分析に用いられる。
【0048】
上述した前処理装置1によれば、有害物質を含む水の存在する容器2内を真空にすることにより、水の沸点が下がり、少ない加熱量で水分を蒸発させることができる。したがって、従来よりも加熱の時間を大幅に短縮することができる。
【0049】
また、低い温度で水分を蒸発させることができるので、残渣物が容器2に焦げ付くことを防止できる。したがって、作業員が常に監視する必要がない。
【0050】
そして、容器2内に残渣された残渣物を用いて、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等の第二種特定有害物質を分析することができる。
【0051】
さらに、熱交換用コンデンサ4を備えているので、水蒸気を冷却して砒素及びその化合物やセレン及びその化合物や水銀及びその化合物等を伴う水を採取することができる。また、冷凍装置6を備えているので、蒸留物を冷凍し、その状態で保存することができる。
【0052】
また、予め真空ポンプ5で熱交換用コンデンサ4内を減圧しておくことにより、水蒸気を容易に熱交換用コンデンサ4内に導入することができる。
【0053】
また、容器2は、簡易な機構なので、損傷しにくい。そして、安価に作製することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 前処理装置
2 容器
3 加熱器
4 熱交換用コンデンサ
5 真空ポンプ
6 冷凍装置
7 筒体
8 ピストン
9 貫通孔
10 冷却板
11 第1の送通管
12 第1の開閉バルブ
13 第2の送通管
14 第3の開閉バルブ
15 第3の送通管
16 第2の開閉バルブ
18 第4の開閉バルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置及び有害物質を含む液体の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、土壌中に含まれる有害物質を分析する際の前処理として、この有害物質を含む水を加熱する作業を行っている。
【0003】
例えば、有害物質であるフッ素を分析する場合には、非特許文献1(106頁参照)に記載されているように、フッ素を含む300mlの水が30mlになるまで静かに煮沸する。かかる場合には、加熱時間として6〜8時間程度を要している。
【0004】
また、例えば、有害物質である六価クロム化合物を分析する場合には、非特許文献1(270頁参照)に記載されているように、規定量の硝酸及びアンモニア水を六価クロム化合物を含む水に添加して加熱し、アンモニア臭がなくなるまで静かに煮沸する。かかる場合には、加熱時間として1.5時間程度を要している。
【0005】
そして、これらの加熱中における水の沸きこぼれや析出した残渣物の焦げ付きを防ぐために、常に作業員が側について監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】工業排水試験方法、JIS K 0102 平成10年4月20日改正、日本工業標準調査会審議(日本規格協会発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の方法では、以下のような問題点があった。
(1)加熱時間として、1.5〜8時間程度を要するので、前処理の効率化を図ることが困難である。
(2)作業員が長時間にわたって加熱状況を監視しなければならないので、作業員への負担が大きい。また、試料数が多くなると複数の作業員を確保しなければならない。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、前処理を常に監視することなく、かつ、短時間で行うことが可能な前処理装置及びその装置を用いた前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置であって、
前記有害物質を含む液体を貯留するための筒体と当該筒体内を密閉しながら移動可能な移動部材とを備えた容器と、
前記容器内の液体を加熱するための加熱器と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、容器内の体積が増加する向きへ移動部材を移動させることにより容器内を減圧することができる。そして、容器内を減圧すると容器内の液体の沸点が下がるため、少ない加熱量で液体を気化させることができる。したがって、従来よりも加熱時間を大幅に短縮することができる。
【0011】
また、低い温度で容器内の液体を気化させることができるので、容器内に残る残渣物が容器に焦げ付くことを防止できる。したがって、作業員が常に監視する必要がない。
【0012】
さらに、容器内の残渣物を用いて、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等を分析することができる。
【0013】
本発明は、前記容器に接続されて、前記加熱によって前記液体が気化した気体を導入して冷却するための熱交換用コンデンサと、
前記熱交換用コンデンサ内を減圧するための真空ポンプと、を更に備えることとしてもよい。
【0014】
本発明によれば、熱交換用コンデンサを備えているので、加熱により生じた気体を冷却して砒素及びその化合物、セレン及びその化合物、水銀及びその化合物等を伴う液体(以下、蒸留物という)を採取することができる。
また、真空ポンプで熱交換用コンデンサ内を減圧することにより、加熱により生じた気体を容易に熱交換用コンデンサ内に導入することができる。
【0015】
本発明は、前記熱交換用コンデンサで前記気体を冷却することにより生ずる液体を冷凍するための冷凍装置を更に備えることとしてもよい。
【0016】
本発明によれば、冷凍装置を備えているので、蒸留物を冷凍し、その状態で保存することができる。
【0017】
また、本発明は、土壌中の有害物質を含む液体の前処理方法であって、
前記有害物質を含む液体を容器内に貯留する貯留工程と、
前記容器内を減圧する容器内減圧工程と、
前記減圧工程で減圧された前記容器内の液体を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、土壌中の有害物質を含む液体の前処理を常に監視することなく、かつ、短時間で行うことが可能な前処理装置及びその装置を用いた前処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る前処理装置を示す全体概略図である。
【図2】本実施形態に係る有害物質を含む液体の前処理方法のフロー図である。
【図3】ピストンを下げた状態を示す図である。
【図4】ピストンを上げた状態を示す図である。
【図5】水蒸気を熱交換用コンデンサ内に導入する状態を示す図である。
【図6】ピストンを下げた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置1の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態においては、特に第二種特定有害物質の前処理方法について説明するが、これに限定されるものではない。
【0021】
ここで、第二特定有害物質とは、土壌汚染対策法(環境省)で指定された8種類の有害物質のことをいい、具体的には、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物、砒素及びその化合物、セレン及びその化合物、水銀及びその化合物である。
【0022】
図1は、本実施形態に係る前処理装置1を示す全体概略図である。
図1に示すように、前処理装置1は、有害物質を含む液体である水を密閉して貯留可能な容器2と、容器2内の水を加熱するための加熱器3と、加熱器3による加熱によって容器2内の水が気化した水蒸気を導入可能な熱交換用コンデンサ4と、熱交換用コンデンサ4内を減圧するための真空ポンプ5と、熱交換用コンデンサ4で水蒸気を冷却することにより生じた有害物質を含む水(以下、蒸留物という)を冷凍して保存するための冷凍装置6と、を備えている。
【0023】
前処理装置1は、有害物質を含む水を加熱することにより発生する水蒸気を熱交換用コンデンサ4で冷却して、砒素及びその化合物やセレン及びその化合物や水銀及びその化合物等を水と共に回収する機能を有する。回収した蒸留物を、これらの有害物質の分析に用いる。
【0024】
また、加熱した後に、容器2内に残る残渣物を、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等の分析に用いる。
【0025】
容器2は、有害物質を含む水を貯留するための筒体7と、筒体7の内周面に密着しながら筒体7内を上下に移動可能な円盤状のピストン8と、を備えている。ピストン8には、一端面から他端面までを貫通する貫通孔9が設けられている。
【0026】
筒体7の直下には、加熱器3が設置されており、容器2内の水を加熱することができる。加熱器3により加熱された水は水蒸気となり、第1の送通管11及び第2の送通管13を介して熱交換用コンデンサ4へ送給される。
なお、本実施形態では、加熱器3として、電気にて加熱可能なホットプレートを用いたが、これに限定されるものではなく、マイクロ波にて加熱可能な装置を用いてもよい。
【0027】
第1の送通管11の一端は、ピストン8の貫通孔9に接続されている。また、第1の送通管11の他端部及びピストン8の近傍にそれぞれ第1の開閉バルブ12及び第2の開閉バルブ16が設けられている。第1の開閉バルブ12及び第2の開閉バルブ16を開くことにより、容器2内と外部とが連通した状態となる。
【0028】
第2の送通管13は、一端が第1の開閉バルブ12と第2の開閉バルブ16との間の第1の送通管11に接続され、他端が熱交換用コンデンサ4に接続されている。また、第2の送通管13の途中に第3の開閉バルブ14が設けられている。
【0029】
また、熱交換用コンデンサ4と真空ポンプ5とは第3の送通管15で接続されており、その途中に第4の開閉バルブ18が設けられている。第4の開閉バルブ18を開くことにより、熱交換用コンデンサ4と真空ポンプ5とが連通した状態となる。
【0030】
第2の開閉バルブ16を閉じた状態でピストン8を上方へ移動させることにより、筒体7内を減圧して大気圧よりも低い状態にすることができる。これにより、容器2内の水の沸点が低くなり、より低温で水蒸気を発生させることができる。
【0031】
加熱により容器2内に発生した水蒸気は、第1の開閉バルブ12を閉じ、かつ、第2の開閉バルブ16及び第3の開閉バルブ14を開くことにより、熱交換用コンデンサ4へ導入される。
【0032】
熱交換用コンデンサ4には、冷却板10が設けられており、容器2内より導入された水蒸気を冷却することができる。水蒸気を冷却することによって冷却板10に水滴が付着する。
冷却板10に付着した水滴は、ホース等にて集水されて冷凍装置6に送給される。冷凍装置6に送給された水は冷凍されて固体となり、その状態で保存される。
【0033】
次に、本実施形態に係る有害物質を含む水の前処理方法について、施工手順にしたがって説明する。
図2は、本実施形態に係る前処理方法のフロー図である。また、図3〜図6は、前処理の各工程における前処理装置1の作動状態を示す図である。
【0034】
図2に示すように、有害物質を含む水の前処理方法は、水を容器7内に貯留する貯留工程S10から蒸留物を冷凍する冷凍工程S20までを実施する。そして、まだ容器7内に水が残っている場合には、再び、熱交換用コンデンサ4内を真空にする熱交換用コンデンサ内減圧工程S12から冷凍工程S20までを水が無くなるまで適宜、複数回繰り返し実施するものである。
【0035】
まず、図3に示すように、有害物質を含む水を筒体7内に入れて、第1の開閉バルブ12及び第2の開閉バルブ16を開いた状態でピストン8を液面に接するまで下げる。このとき、ピストン8と水面との間に存在する空気は、ピストン8の貫通孔9及び第1の送通管11を介して外部に排出される。
【0036】
ピストン8を液面に接する位置まで下げたら、第1の開閉バルブ12、第2の開閉バルブ16及び第3の開閉バルブ14を閉じて筒体7内を密閉する(貯留工程S10)。
【0037】
次に、第3の開閉バルブ14を閉じた状態で第4の開閉バルブ18を開き、真空ポンプ5を駆動させて熱交換用コンデンサ4内を減圧し、熱交換用コンデンサ4内を真空状態にする(熱交換用コンデンサ内減圧工程S12)。
熱交換用コンデンサ4内が真空になったら第4の開閉バルブ18を閉じて真空状態を維持する。
【0038】
次に、図4に示すように、第2の開閉バルブ16を閉じた状態でピストン8を上げて、容器2内の体積を増加させることにより容器2内を減圧して真空状態にする(容器内減圧工程S14)。これにより、容器2内に水蒸気を貯留するための空間を確保することができる。そして、ピストン8を固定して真空状態を維持する。
【0039】
次に、加熱器3で真空状態の容器2内の水を加熱する(加熱工程S16)。容器2内は真空なので、大気圧下よりも水の沸点が低くなっており、少ない加熱量で水分を蒸発させることができる。これにより、従来よりも加熱の時間を大幅に短縮できる。
【0040】
また、低い温度で水分を蒸発させることができるので、水分を蒸発させた後に、容器2内に残った残渣物が容器2に焦げ付くことがない。
【0041】
次に、図5に示すように、第1の開閉バルブ12及び第4の開閉バルブ18を閉じた状態で第2の開閉バルブ16及び第3の開閉バルブ14を開いて、容器2内の水蒸気を熱交換用コンデンサ4に送給する。
【0042】
そして、熱交換用コンデンサ4内に水蒸気が充満したら、第3の開閉バルブ14を閉じる。
【0043】
次に、熱交換用コンデンサ4を駆動させて水蒸気を冷却する(冷却工程S18)。水蒸気を冷却することにより生じた水は、集水されて冷凍装置6へ送給される。この水(以下、蒸留物という)には、砒素及びその化合物やセレン及びその化合物や水銀及びその化合物等が含まれている。
【0044】
次に、蒸留物を冷凍装置6で冷凍して固化する(冷凍工程S20)。固化状態の蒸留物は、砒素及びその化合物等を分析する際に解凍して用いられる。
【0045】
なお、本実施形態においては、蒸留物を冷凍する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、蒸留物を採取した後、直ちに分析が可能な場合には、冷凍することなく、分析してもよい。
【0046】
かかる際に、まだ、容器2内に有害物質を含む水が残っている場合には、再び、熱交換用コンデンサ内減圧工程S12から冷凍工程S20までをその水が無くなるまで繰り返し実施する。
【0047】
そして、図6に示すように、容器2内の水が無くなったら、第1の開閉バルブ12を開き、第2の開閉バルブ16を閉じてピストン8を残渣物近傍まで下げる。その後、第2の開閉バルブ16を開いてピストン8を筒体7内から取り出して、筒体7内に残渣された残渣物を取り出す。この残渣物は、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等の分析に用いられる。
【0048】
上述した前処理装置1によれば、有害物質を含む水の存在する容器2内を真空にすることにより、水の沸点が下がり、少ない加熱量で水分を蒸発させることができる。したがって、従来よりも加熱の時間を大幅に短縮することができる。
【0049】
また、低い温度で水分を蒸発させることができるので、残渣物が容器2に焦げ付くことを防止できる。したがって、作業員が常に監視する必要がない。
【0050】
そして、容器2内に残渣された残渣物を用いて、フッ素及びその化合物、カドミウム及びその化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、シアン化合物等の第二種特定有害物質を分析することができる。
【0051】
さらに、熱交換用コンデンサ4を備えているので、水蒸気を冷却して砒素及びその化合物やセレン及びその化合物や水銀及びその化合物等を伴う水を採取することができる。また、冷凍装置6を備えているので、蒸留物を冷凍し、その状態で保存することができる。
【0052】
また、予め真空ポンプ5で熱交換用コンデンサ4内を減圧しておくことにより、水蒸気を容易に熱交換用コンデンサ4内に導入することができる。
【0053】
また、容器2は、簡易な機構なので、損傷しにくい。そして、安価に作製することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 前処理装置
2 容器
3 加熱器
4 熱交換用コンデンサ
5 真空ポンプ
6 冷凍装置
7 筒体
8 ピストン
9 貫通孔
10 冷却板
11 第1の送通管
12 第1の開閉バルブ
13 第2の送通管
14 第3の開閉バルブ
15 第3の送通管
16 第2の開閉バルブ
18 第4の開閉バルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置であって、
前記有害物質を含む液体を貯留するための筒体と当該筒体内を密閉しながら移動可能な移動部材とを備えた容器と、
前記容器内の液体を加熱するための加熱器と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む液体の前処理装置。
【請求項2】
前記容器に接続されて、前記加熱によって前記液体が気化した気体を導入して冷却するための熱交換用コンデンサと、
前記熱交換用コンデンサ内を減圧するための真空ポンプと、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の有害物質を含む液体の前処理装置。
【請求項3】
前記熱交換用コンデンサで前記気体を冷却することにより生ずる液体を冷凍するための冷凍装置を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の有害物質を含む液体の前処理装置。
【請求項4】
土壌中の有害物質を含む液体の前処理方法であって、
前記有害物質を含む液体を容器内に貯留する貯留工程と、
前記容器内を減圧する容器内減圧工程と、
前記減圧工程で減圧された前記容器内の液体を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む液体の前処理方法。
【請求項1】
土壌中の有害物質を含む液体の前処理装置であって、
前記有害物質を含む液体を貯留するための筒体と当該筒体内を密閉しながら移動可能な移動部材とを備えた容器と、
前記容器内の液体を加熱するための加熱器と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む液体の前処理装置。
【請求項2】
前記容器に接続されて、前記加熱によって前記液体が気化した気体を導入して冷却するための熱交換用コンデンサと、
前記熱交換用コンデンサ内を減圧するための真空ポンプと、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の有害物質を含む液体の前処理装置。
【請求項3】
前記熱交換用コンデンサで前記気体を冷却することにより生ずる液体を冷凍するための冷凍装置を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の有害物質を含む液体の前処理装置。
【請求項4】
土壌中の有害物質を含む液体の前処理方法であって、
前記有害物質を含む液体を容器内に貯留する貯留工程と、
前記容器内を減圧する容器内減圧工程と、
前記減圧工程で減圧された前記容器内の液体を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む液体の前処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−169871(P2011−169871A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36459(P2010−36459)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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