説明

有害物質除去材の製造方法及び有害物質除去材

【課題】特異的に有害物質を捕捉する抗体を用いた、有害物質除去材の製造方法であって、担体を抗体液に連続的に浸せきした際にも、担体の抗体液への浸せき先端から末端までの抗体固定量が安定し、担体の浸せき方向のどの部分においても、抗体の効果が安定して発現する有害物質除去材を製造する有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により製造された有害物質除去材の提供。
【解決手段】担体を、抗体を含む抗体含有液中に連続的に浸せきして前記抗体を前記担体に担持する有害物質除去材の製造方法において、前記担体を前記抗体含有液中に連続的に浸せきする過程で、抗体を含む抗体含有補充液を少なくとも一回添加し、かつ、前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度よりも高いことを特徴とする、有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により製造された有害物質除去材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により製造された有害物質除去材に関する。具体的には、本発明は、抗体を用いた有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により製造された有害物質除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルゲン物質、ウイルス、各種細菌といった有害物質を除去する方法として、各種のフィルターを用いた吸着やろ過方法が提案されている。液相中や、気相中の有害物質を除去する方法として、各種の機能性を付与したフィルターが開示されている。
特許文献1には、アレルゲンを不活化する方法として、アレルゲン低減化成分として芳香族ヒドロキシ化合物を固定化した不織布が開示されている。但し、このようなアレルゲン低減化成分は非特異的なものであって、アレルゲン以外のものも吸着し、アレルゲン不活化効果がすぐに失われる問題があった。
【0003】
アレルゲンを捕捉し、アレルゲン溶出を抑制する方法として、アレルゲンを特異的に捕捉する抗体の利用が考えられる。例えば、特許文献2には、鶏卵抗体を固定化したマスクなどに用いることが出来る有害物質除去材が開示されている。鶏卵抗体を担体に固定化する方法として、担体をシラン化し、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体を共有結合させる方法や、抗体のFc部分に選択的に結合する分子を担体に導入し、抗体を結合させる方法が開示されているが、前処理できる担体が限られることや、抗体担持工程が煩雑になる問題があった。
また、特許文献2には、未処理の担体を抗体の水溶液に浸せきする方法も開示されているが、該方法による有害物質除去材の製造についての詳細は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−313778号公報
【特許文献2】特開2004−313755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献2に記載されるような、未処理の担体を抗体の水溶液に浸せきする場合、抗体が選択的に担体へ吸着し、担体を連続的に抗体の水溶液に浸せきした際に、連続的に浸せきした担体における抗体担持量が安定しない(すなわち、連続的に浸せきした担体の浸せき方向において、担体の浸せき方向の先端側から末端側にかけて抗体の担持量が減少する)という新しい課題を発見した。このような課題を解決することは、均質で効果にムラのない有害物質除去材を、連続的かつ安定的に工業スケールで製造する上で重要である。
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、上記課題を解決する、抗体含有液の濃度調整により、抗体担持量を安定化する方法を見いだし、この知見をもとに本発明を解決するに至った。
すなわち、本発明の目的は、特異的に有害物質を捕捉する抗体を用いた、有害物質除去材の製造方法であって、担体を抗体含有液に連続的に浸せきした際にも、担体の抗体含有液への浸せき先端から末端までの抗体固定量が安定し、担体の浸せき方向のどの部分においても、抗体の効果が安定して発現する有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により製造された有害物質除去材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記構成により上記課題が達成できることを見出した。
【0008】
[1]
担体を、抗体を含む抗体含有液中に連続的に浸せきして前記抗体を前記担体に担持する有害物質除去材の製造方法において、
前記担体を前記抗体含有液中に連続的に浸せきする過程で、抗体を含む抗体含有補充液を少なくとも一回添加し、かつ、前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度よりも高いことを特徴とする、有害物質除去材の製造方法。
[2]
前記担体の長さが100m以上であり、担体の長さ方向に沿って前記担体を、前記抗体含有液を含む浸せき槽に導入することを特徴とする、上記[1]に記載の有害物質除去材の製造方法。
[3]
前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度に対して、1.1倍以上であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の有害物質除去材の製造方法。
[4]
前記担体が前記抗体含有液に浸せきする時間が、0.5秒以上10秒以下であることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
[5]
前記担体が不織布であることを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
[6]
前記抗体が、鳥類卵由来の抗体であることを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
[7]
前記不織布を形成している繊維が、ポリエステル、ポリアミド及びビニロンのうち少なくとも1種類が、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する繊維であることを特徴とする、上記[5]又は[6]に記載の有害物質除去材の製造方法。
[8]
前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度が、1μg/ml以上100μg/ml以下であることを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
[9]
前記抗体が、花粉由来アレルゲンに対する抗体であることを特徴とする、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
[10]
上記[1]〜[9]のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法により製造された、有害物質除去材。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、特異的に有害物質を捕捉する抗体を用いた、有害物質除去材の製造方法であって、担体を抗体含有液に連続的に浸せきした際にも、担体の抗体含有液への浸せき先端から末端までの抗体固定量が安定し、担体の浸せき方向のどの部分においても、抗体の効果が安定して発現する有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により製造された有害物質除去材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0011】
本発明の有害物質除去材の製造方法は、担体を、抗体を含む抗体含有液中に連続的に浸せきして前記抗体を前記担体に担持する有害物質除去材の製造方法において、前記担体を前記抗体含有液中に連続的に浸せきする過程で、抗体を含む抗体含有補充液を少なくとも一回添加し、かつ、前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度よりも高いことを特徴とする。
本発明の有害物質除去材の製造方法は、抗体含有液中に含まれる抗体の濃度を、担体を抗体含有液中に連続的に浸せきする過程において調整することにより、抗体担持量を安定化することを特徴とする。
まず、本発明の有害物質除去材の製造方法について詳細を説明する。
【0012】
<抗体の担持方法>
本発明の担体に抗体を担持する方法は、担体を、抗体を含む抗体含有液に連続的に浸せきして抗体を担体に担持する方法であって、前記担体を抗体含有液中に連続的に浸せきする過程で、抗体を含む抗体含有補充液を少なくとも一回添加し、かつ、前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度よりも高いことを特徴とする。
本明細書において、「連続的に浸せきする」とは、典型的には、ロール状などの長尺状の担体を、長尺状の担体の長さ方向に途切れなく浸せきすることを意味する。また、長尺状の担体は、典型的には、切断されていない一つのユニットからなる担体であるが、複数のシート等の複数のユニットが抗体含有液中に連続的に供給されることにより、あたかも長尺状の担体を形成するような態様も本発明に含まれる。
担体を連続的に抗体含有液に浸せきする方法は、特に限定されないが、担体の長さ方向に沿って担体を、前記抗体含有液を含む浸せき槽に導入する方法が挙げられる。この際に、担体を、導入リールなどを用いて浸せき槽に導入することが好ましい。
本発明の一態様としては、長さが100m以上である担体を、担体の長さ方向に沿って、抗体含有液を含む浸せき槽に導入することが好ましく、該担体がロール状であることがより好ましい。
【0013】
担体の形状は長尺状であれば特に限定されないが、ロール状であることが連続的供給の容易さの観点で好ましい。担体を浸せき槽に導入する過程や、浸せき後に搬送する過程においてガイドロールを用いても良い。抗体含有液に担体を浸せきさせた後、ニップロールにて絞液し、担体への抗体含有液の含浸量を安定させることが好ましい。またニップロールよって絞られた液は、浸せき槽に戻るように構成されていることが好ましい。含浸後、担体は、風(好ましくは温風)をあてて乾燥させることが好ましい。
【0014】
初期に準備する抗体含有液の抗体濃度(すなわち、担体を浸せきする前の抗体含有液の抗体濃度)は、目的とする抗体の担持量と、担体の含有液保持量にあわせて、設定することが出来る。担体を浸せきする前の抗体含有液の抗体濃度は、一般的には0.1μg/ml以上1000μg/ml以下であり、好ましくは1μg/ml以上100μg/ml以下である。このような範囲とすることで、用途に合わせて抗体の効果が充分に発現し、残液を減らしてコストを抑制でき、また本発明の効果が大きく得られる。
【0015】
抗体含有補充液(担体を抗体含有液中に連続的に浸せきする過程で少なくとも一回添加される抗体含有液)の抗体濃度は、担体への抗体の選択的吸着量にあわせて設定することができる。
抗体含有補充液の抗体濃度は、担体を浸せきする前の抗体含有液の抗体濃度に対して、1.05倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.1倍以上である。また、抗体含有補充液の抗体濃度は、担体を浸せきする前の抗体含有液の抗体濃度に対して、一般的に10倍以下であり、好ましくは5倍以下である。このような範囲とすることで、抗体担持量が安定するので好ましい。
【0016】
抗体含有補充液を、浸せき槽に含まれる抗体含有液へ添加する方法は特に限定されないが、準備した抗体含有補充液を一定時間毎に浸せき槽に追添する方法や、連続的に追添する方法を用いることが出来る。
本発明では、抗体含有補充液を、一定時間毎に浸せき槽に添加する方法が好ましく、「一定時間」としては、例えば、一定の送り出し速度で浸せき槽に導入される担体が、「一定の長さ」分導入されるための時間が挙げられる。担体の浸せき槽への送り出し速度は、一般的に1m/分〜100m/分であり、担体が十分に乾燥する条件で設定される。補充液の追加は、初期の抗体含有補充液の抗体濃度が、70%に減少する前に補充液を添加することが好ましい。
担体を浸せきする前の抗体含有液の液量は、目的に合わせて適宜変更可能であり、担体の抗体含有液保持量により、最初に準備するべき抗体含有液量を設定することができる。
【0017】
担体への抗体の選択的吸着量を測定する方法は、特に限定されないが、電気泳動法、酵素免疫測定法、吸光度法、蛍光法、化学発光法、などを用いることが出来る。抗体含有液の抗体量(抗体濃度)と、担体を浸せきした後に絞液した液の抗体量(抗体濃度)を測定することにより、抗体の選択的吸着量を知ることができる。
抗体含有液への担体の浸せき時間(すなわち、担体上のある一点が、抗体含有液中に浸せきしている時間)は、0.5秒以上10秒以下が好ましく、0.5秒以上5秒以下がより好ましく、0.5秒以上2秒以下が特に好ましい。
【0018】
<担体>
抗体を担持させる担体としては、特に限定されないが、繊維で形成される担体が好ましく、織布、不織布がより好ましく、不織布が特に好ましい。
これらを形成している繊維としては、合成繊維、天然繊維(綿、絹など)、再生繊維の何れでもよい。
合成繊維としては例えば、ポリビニルアルコール繊維(例えばビニロン)、ポリエステル繊維(たとえばポリエチレンテレフタラート繊維)、ポリアミド繊維(たとえばナイロン6、ナイロン66などのナイロン、ポリアクリルアミド繊維等)、ポリオレフィン繊維(たとえばポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、セルロース繊維、セルロースエステル繊維などが挙げられる。
繊維としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ビニロン、アクリルのうち少なくとも1種類を主成分とする繊維が好ましく、ポリエステル、ポリアミド及びビニロンのうち少なくとも1種類を主成分とする繊維がより好ましい。本発明でいう主成分とは、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する成分であることを指す。
【0019】
本明細書においてポリアミドとは、化学構造単位が主としてアミド結合で結合されている線状高分子からなる繊維を指す。
【0020】
ポリアミドの中でも、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸との結合体である直鎖型脂肪族ポリアミドが好ましい。特に、ナイロン66が好ましい。
【0021】
前記のジアミン及びジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸等を単独又は共重合成分として用いた脂肪族ポリアミドを用いることもできる。特に、ε−カプロラクタムの単独使用で製造されるナイロン6が好ましい。
【0022】
これらの他に、原料の脂肪族ジアミンとして一部又は全部をシクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1、4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジアミンを用いた脂肪族ポリアミド、及び/又は、ジカルボン酸として一部又は全部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0023】
更に、脂肪族パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を部分的な原料として用いて、吸水性の低減や弾性率向上を実現したポリアミドも含まれる。また、ポリアクリル酸アミド、ポリ(N−メチルアクリル酸アミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリル酸アミド)などのような側鎖にアミド結合を有するポリマーであってもよい。
【0024】
ポリアミドの中で最も望ましいのは、ナイロン66又はナイロン6である。アミド結合に由来する適度な吸湿性、適度な長さの長鎖脂肪酸からなる分子鎖を繊維軸配向させやすく比較的延伸性が高いこと、融解熱が高く熱容量が大きいことから動力学的にも速度論的にも溶融しにくい(耐溶融性)、長鎖脂肪鎖からなる分子鎖の可とう性や、アミド結合間の水素結合形成のためにフィブリル化やキンクバンドが生じにくい性質、すなわち繰返し屈伸性など、担体として好ましい性能を活用することができるためである。
【0025】
本明細書においてポリオレフィンとは、オレフィン類をモノマーとして合成される高分子からなる繊維を指す。
ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、ポリプロピレンが好ましい。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを用いることが出来る。
【0026】
本明細書においてポリエステルとは、化学構造単位が主としてエステル結合で結合されている線状高分子からなる繊維を指す。
ポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0027】
本発明で用いるポリウレタンは、単量体相互の結合部分又は基本となる基材重合体相互の結合部分が主としてウレタン結合による線状合成高分子からなる繊維を指す。ポリウレタンセグメントを質量比で85%以上含むことが望ましい。低融点で柔らかい分子量数千までのソフトセグメントと、剛直性で凝集力の高い高融点のハードセグメントからなるセグメント化ポリウレタンのブロック共重合であることが望ましい。ソフトセグメントとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ハードセグメントとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどで形成されるウレタン基を用いることができる。ポリウレタンは一般に高い弾性を示すのが特徴で、両セグメントの化学構造や分布など高分子鎖の一時構造の違いや、製糸条件の違いなどからくる二次構造の違いによって異なるが、よく伸びる、伸縮回復力が高い、ゴム材料に比べて老化しにくい・細い繊維が得られるなどの特徴があり、担体として用いた場合にもこれらの性質を活用することができる。
【0028】
本明細書において、ビニロンとは、ビニルアルコール単位を65質量%以上含む線状高分子からなり、温度20℃湿度65%の環境に1週間以上放置した後の水分率が7%以下である繊維を指す。ビニルアルコールの水酸基をホルマール化したものであってもよいが、水酸基をホウ酸架橋したポリマーや、公知のアルカリ紡糸法や冷却ゲル紡糸法などの方法により耐水化処理が施された非ホルマール化繊維であってもよい。ビニルアルコール単位以外の成分としてはエチレン鎖、酢酸ビニル鎖などが含まれていてもよいが、ビニルアルコール担体から形成される繊維であることが好ましい。更に、均質で高配向度・高結晶化度であるために、優れた機械的特性と信頼性が得られるという点で、冷却ゲル紡糸による非ホルマール化繊維であることが最も望ましい。
【0029】
ビニロンは一般に、他の繊維に対して、高強度、高弾性率、適度な親水性、耐候性、耐薬品性、接着性などに優れており、担体としてこれらの好ましい性能を活用することができる。
【0030】
本明細書において、アクリルとは、アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で40%以上含む繊維を指し、例えば、アクリロニトリルのホモポリマーや、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの非イオン性モノマーとアクリルニトリルのコポリマー、ビニルベンゼンするスルホン酸、アリルスルホン酸などのアニオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマー、あるいは、ビニルピリジン、メチルビニルピリジンなどのカチオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマーなどの例がある。アクリロニトリルとミルクカゼインのから形成されるいわゆるプロミックス繊維も本カテゴリーに包含される。
【0031】
アクリル系の繊維は一般に、有機系湿式紡糸法で製造することが多い。この方法では、紡糸原液が凝固浴中で凝固糸を形成するときに、凝固剤である水がノズルより紡出される紡糸原液中に浸入する一方で、紡糸溶剤が紡出した原液から外部に拡散し、このとき、水と有機溶剤(DMF、DMAcなど)が相互拡散することで重合体が析出して無数の空洞が網目状につながった構造をもつ凝固糸条が形成される。また、凝固過程で溶剤が凝固浴中に拡散することによる体積収縮により形成される繊維断面の変形や表面のマクロフィブリル構造形成による凹凸形成が特徴である。これらの微細構造は本発明で使用する担体の構造としては、非表面積向上や抗体担持のし易さの点で好ましい。
【0032】
本発明で用いるアクリル系繊維は、原料ポリマーの組成や紡糸法、製造工程内の後処理条件などにより変動するが、一般に、適度な親水性、耐候性が高い、かさ高い繊維が得られやすいという利点がある。
その他、セルロースエステル等の繊維としては、特開2009−113030の担体として記載されているものを用いることができる。
【0033】
上記繊維は単独でも十分に実用的な有害物質除去材用の担体を形成することが可能であるが、強度や寸度安定性を更に向上させる等の目的で、他の繊維との混紡繊維により担体を形成してもよい。混紡繊維として用いる場合には、主とする繊維(好ましくはポリエステル、ポリアミド又はビニロン)の質量分率が50%以上であることが望ましく、70%以上であることが更に望ましい。
【0034】
また混紡繊維としては、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維であることも好ましい。抗体を担体に担持すると、抗体が担持された担体の表面は一般的に親水的になるが、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維を担体として用いることにより、抗体を担持しやすい傾向にある親水的な繊維が抗体を担持しつつ、抗体を担持しにくい傾向にある疎水的な繊維が、疎水的な表面を維持することで、混紡繊維全体として、抗体の担持後も疎水性がある程度維持される。本発明においては、有害物質除去材はある程度疎水的であることも好ましいので、親水的な繊維と疎水的な繊維との混紡繊維が好ましく使用される。
そのような混紡繊維として具体的には、ビニロンとポリエステルとの混紡繊維が挙げられ、混紡繊維における質量比がビニロン/ポリエステル=30/70〜70/30であることが好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましい。
また、芯部と鞘部の材質が異なる芯/鞘構造の繊維でも良い。
【0035】
また強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0036】
担体として用いられる繊維の平均繊維径は、50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが最も好ましい。担体として用いられる繊維の平均繊維径は、一般的に0.5μm以上である。なお、本明細書において平均繊維径とは走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の300箇所における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めた数値である。
担体として用いられる繊維の厚さは、0.05〜20mmであることが好ましく、0.1〜15mmであることがより好ましい。フィルターの使用対象によって、適宜決めることができる。例えば、マスク用途であれば、0.1〜0.3mmであることがより好ましい。
担体として用いられる繊維の坪量は、5〜300g/mであることが好ましく、10〜250g/mであることがより好ましい。フィルターの使用対象によって、適宜決めることができる。例えば、マスク用途であれば、10〜30g/mであることがより好ましい。
【0037】
<担体の製造方法>
本発明において担体として用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸若しくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、更に加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、及び167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用することが好ましい。
【0038】
紡糸に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水など、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば何でも用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0039】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、更に塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0040】
<担体の構造>
本発明の有害物質除去材の担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが望ましい。かような構造をとることにより、加工並びに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着はSEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0041】
接着点を形成する方法としては、乾式紡糸法で形成される癒着や溶融紡糸法で形成される融着点で形成してもよいし、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
【0042】
本発明に担体として用いられる繊維は、不織布を形成していることが好ましい。不織布の製造方法については特に制限はなく、目的・用途に応じて、乾式法、湿式抄造法、メルトブローン法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、エアレイド法などで得られたウェブを水流交絡法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法などの物理的方法、サーマルボンド法などの熱による接着方法、レジンボンドなどの接着剤による接着方法で強度を発現させる方法を適宜組み合わせて製造することができる。
【0043】
また繊維をプラズマ、酸、アルカリ、酵素等で処理してもよい。このような処理を行うことで表面の親疎水性を調節できる。
【0044】
<抗体>
抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、一般的に分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0045】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0046】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液又は融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、鳥類、特にニワトリ又はダチョウに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鳥類卵抗体(例えば、ニワトリ卵抗体又はダチョウ卵抗体)を精製する方法、卵黄液を脱脂、硫安分画、透析により精製して鳥類卵抗体液(例えば、鶏卵抗体液又はダチョウ卵抗体液)を精製する方法を挙げることができる。
【0047】
これらのうちでも、鳥類卵(例えば、鶏卵又はダチョウ卵)から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0048】
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は鳥類卵由来の抗体であることが好ましく、鶏卵抗体又はダチョウ卵抗体であることがより好ましく、ダチョウ卵抗体であることが特に好ましい。
具体的には、ダチョウに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末からダチョウ卵抗体を精製する方法、卵黄液を脱脂、硫安分画、透析により精製してダチョウ卵抗体液を精製する方法が好ましく挙げられる。より具体的には、国際出願公開第2007/026689公報の[0009]から[0019]に記載の方法と同様に行うことが出来る。
【0049】
動物又は鳥類に免役する抗原は、花粉由来アレルゲンを含有するものも好ましく、例としては、花粉粒子、花粉の粗抽出物、花粉アレルゲン精製物、合成ペプチド、組み替えタンパク質などが挙げられ、花粉粒子、花粉の粗抽出物がより好ましい。すなわち、本発明における抗体は、花粉由来アレルゲンに対する抗体であることが好ましい。
花粉としては特に限定されないが、例としては、スギ、ヒノキ、ブタクサ、イネ、マツ、イチョウ、ヤナギ、カバノキ、ブナ、ニレ、ヨモギ、タデ、イラクサ、クワ、キク、カモガヤ、シラカバの花粉などが挙げられ、ヒノキ科植物の花粉が好ましく、スギの花粉がより好ましい。
ここでスギは、ヒノキ科(Cupressaceae)、スギ亜科(Taxodioideae)、又はスギ科(Taxodiaceae)に分類される木を含むが、好ましくはスギ属(Cryptomeria)、より好ましくはCryptomeria japonicaである。
【0050】
免役する抗原としての花粉由来アレルゲンとしては特に限定されないが、上述の花粉由来のアレルゲンが挙げられる。具体的には、スギ花粉由来のCry j 1、Cry j 2、ヒノキ花粉由来のCha o 1、Cha o 2、ブタクサ花粉由来のAmb a 1、カモガヤ由来のDac gなどが挙げられ、スギ花粉由来のCry j 1、Cry j 2が好ましい。
免役する抗原としてウイルスも、好ましく用いられる。ウイルスとしては、特に限定されないが、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。ウイルスとしては、不活化ウイルス、ウイルスの一部も用いることができる。
【0051】
本発明の有害物質除去材は、除去する有害物質や、使用形態によって、適宜決めることができる。
【0052】
前記担体に抗体を担持する(固定化する)方法としては、前述の抗体の担持方法が用いられる。
【0053】
本発明の有害物質除去材の製造方法は、抗体を含む溶液(抗体含有液)に担体を浸漬して抗体を担体に結合させることにより製造する方法を採用している。例えば、後述の抗体安定化剤を、上記抗体含有液及び/又は抗体含有補充液に溶解又は分散させてもよく、別に抗体安定化剤を溶解又は分散した溶液を用意し、抗体の担持前又は後に担体を浸漬させてもよい。このうち、抗体及び抗体安定化剤を含む抗体含有液及び/又は抗体含有補充液を用いることが好ましい。抗体と抗体安定化剤とを同時に担体に担持させることが可能であるためである。
該溶液は、抗菌剤、抗カビ剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0054】
なお、抗体含有液における抗体と抗体安定化剤との含有量比は、通常本発明の有害物質除去材において担体に担持される抗体と抗体安定化剤との含有量比に反映されるものと考えることができる。
【0055】
不織布に抗体を担持する場合、抗体含有液に、不織布を浸せきする。抗体含有液を素早く不織布に浸透させるにために、抗体含有液に有機溶剤を加え、静的表面張力を下げる方法が、好ましく用いられる。
有機溶剤としては水と混和する有機溶剤であれば特に限定されないが、アルコール型溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールがより好ましい。
抗体含有液における有機溶剤の濃度は、好ましくは0〜15質量%であり、より好ましくは5〜10質量%である。このような濃度範囲とすることで、抗体含有液の静的表面張力を下げることができ、かつ、有機溶剤を混和しすぎることにより抗体が失活することが抑制されるので好ましい。
【0056】
<抗体安定化剤等>
本発明の有害物質除去材は、抗体安定化剤として糖、アミノ酸、SH基保護剤、界面活性剤から選択される少なくとも1種類を含んでもよい。これらの抗体安定化剤を含むことによって、担体に担持されている抗体の変性が防止でき、使用環境に左右されずに、抗体の活性が長期間保持される。
【0057】
糖としては特に限定されないが、例としては、グルコース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖類;サッカロース、マルトース、トレハロース、セロビオースラクトースなどの二糖類;フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖、マルトトリオース、及びラフィノースなどのオリゴ糖;エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール;デンプン、デキストリン、グリコーゲンなどの多糖類などが挙げられる。この中でグルコース、ガラクトース、フルクトース、サッカロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、マルトトリオース、ラフィノース、マンニトール、及びソルビトールが好ましい。これらの糖は1種を用いても2種以上を用いてもよく、また、その他の抗体安定化剤と同時に用いてもよい。
【0058】
糖は、その原料並びに製法に係らず用いることができる。デンプンを酵素分解したもの(グルコース、マルトース、デキストリンなど)、デンプンを還元したもの(ソルビトール、マルチトール)、デンプンを酵素転移したもの(トレハロース、カップリングシュガーなど)、砂糖を酵素転移したパラチノース、砂糖を還元したパラチニット、ラクトースを還元したラクチトール、キシランを酵素分解したキシロース、キシランを還元したキシリトールなどを用いることができ、特に限定されない。
【0059】
本発明における糖の望ましい添加量は、抗体種・糖種や目的、用途により異なるが、抗体の含量(質量)に対して一般に1〜200質量%、より好ましくは2〜100質量%、特に好ましくは5〜50質量%である。二糖類又は三糖類を添加する場合は、前記抗体の含量に対して、質量比で1倍〜1000倍、より好ましくは10倍〜500倍、特に好ましくは、20倍〜200倍である。これらの添加量よりも低い場合は安定化効果が小さく、高い場合は、抗体活性が低下する、又は粘度が高くなって含有量の制御やハンドリングが難しくなるといった問題が生ずる場合がある。
【0060】
アミノ酸としては特に限定されず、いずれの天然アミノ酸、修飾アミノ酸を用いてもよい。好ましくは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、プロリン、リシン、及びグルタミン酸が用いられる。これらのアミノ酸は1種を用いても2種以上を用いてもよく、また、その他の抗体安定化剤と同時に用いてもよい。
【0061】
本発明におけるアミノ酸の望ましい添加量は、抗体種・アミノ酸種や目的、用途により異なるが、一般に抗体の含量(質量)に対して1〜50質量%、より好ましくは2〜20質量%、特に好ましくは5〜10質量%である。これらの添加量よりも低い場合は安定化効果が小さくなり、高い場合には抗体活性が低下して所望の性能を発揮できなくなる場合がある。
【0062】
SH基保護剤としては特に限定されないが、例としては 2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、グルタチオン、エチレンジアミン4酢酸塩などが挙げられる。この中で2−メルカプトエタノール又はジチオスレイトールが好ましい。これらのSH基保護剤は1種を用いても2種以上を用いてもよく、また、その他の抗体安定化剤と同時に用いてもよい。SH基保護剤のみを抗体安定化剤として用いてもよいが、抗体の不活性化はSH基の酸化以外の原因が複合している場合が多いため、糖、アミノ酸、界面活性剤等の別の種類の抗体安定化剤と併用することが好ましい。
【0063】
本発明におけるSH基保護剤の望ましい添加量は、抗体種、SH基保護剤種により、又は目的・用途により異なるが、抗体の含量(質量)に対して一般に1〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%、特に好ましくは5〜10質量%であればよい。これらの添加量よりも低い場合は安定化効果が小さくなり、高い場合には抗体活性が低下したり、臭気の問題が発生したりする場合がある。
【0064】
界面活性剤としては、カチオン系、アニオン系、ベタイン系、ノニオン系のいずれの界面活性剤を用いてもよい。カチオン系界面活性剤としては、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムなどが挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、パルミトイルリゾレシチン、3−[3−コラミドプロピルジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネートなどが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(7)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテルなどが挙げられる。界面活性剤としては、ベタイン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤を用いることが好ましく、特に3−[3−コラミドプロピル]ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)を用いることが好ましい。界面活性剤は1種を用いても2種以上を用いてもよく、また、その他の抗体安定化剤と同時に用いてもよい。
【0065】
界面活性剤は、抗体担持工程(抗体の吸着阻害など)、使用時(有害物質の吸着阻害)や評価(抗体や捕捉有害物質の溶出、細胞毒性、クロマトグラフィーへの影響など)の際に妨害物質となることがあるので、種類と量に関しては他の安定化剤よりも慎重に選択する必要がある。
【0066】
本発明で望ましい界面活性剤の添加量は、抗体種・界面活性剤種や目的・用途により異なるが、抗体の含量(質量)に対して5〜20質量%、より好ましくは8〜15質量%、特に好ましくは10〜12質量%である。これらの添加量よりも低い場合は安定化効果が小さくなり、高い場合には抗体活性が低下するほか、抗原抗体反応を阻害する場合がある。
【0067】
<有害物質除去材>
本発明は、本発明の有害物質除去材の製造方法により製造された、有害物質除去材にも関する。本発明の有害物質除去材の製造方法により製造された有害物質除去材は、担体の抗体含有液への浸せき方向に対して抗体が均一に担持されるため、担体の抗体含有液への浸せき先端から末端までの抗体固定量が安定し、担体の浸せき方向のどの部分においても、抗体の効果が安定して発現する。本発明の有害物質除去材は、均質で効果にムラがないので、連続的かつ安定的な工業スケールでの製造に適する。
【0068】
本発明の有害物質除去材は、気相中又は液相中の有害物質除去に用いることができる。本発明の有害物質除去材は、例えば空気清浄機用フィルター、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。
空気清浄機用フィルターとして使用する際には、粗塵を除くためのプレフィルター、除塵フィルター、消臭効果を示す光触媒フィルター、他の有害物質を除去する抗菌フィルター、VOC吸着フィルターなど任意の公知のフィルターと組み合わせて使用してもよい。このような空気清浄機用フィルターは、例えば、特許第3450287号公報に記載のような空気清浄機に適用できる。
【0069】
マスクとして使用する際には、上述の有害物質除去材を用いていれば特に限定されず、公知の構成をとることができる。マスクは一般的に、織布や不織布などの通気性材料、非通気性シートに孔を設けて通気性を持たせたものなどによる通気性布部と、該布部を口を覆うように固定する紐などの保持部とから成る。具体的には、特開2005−169105に記載の構造などを用いることができる。
本発明の有害物質除去材は、この通気性布部を構成する材料に含まれることが好ましい。
通気性布部が多層構成の場合、有害物質除去材が多層のうちの少なくとも一層を構成していることが好ましい。この際、抗原の溶出を避けるため、有害物質除去材が中心より口に近い層に設けられていることが好ましく、口側表面又は表面から2番目の層が有害物質除去材による層であることが好ましい。
有害物質除去材は、マスクに固定されている必要はなく、例えば既成のマスクに差し込んで使用してもよい。
また、マスクは口を覆うものに限らず、鼻孔内に設置するものや、フルフェイス型のヘルメットの通気部に貼り付けるものであってもよい。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0071】
<フィルターの作製>
【0072】
[例1]
担体として、厚さ0.15mm、坪量20g/m、平均繊維径20μmのナイロン製スパンボンド不織布(商品名:エルタスN01020、ユニチカ社製)を用いた。
抗体としては、スギ花粉粗抽出物を投与したダチョウが産んだ免疫卵の卵黄液を、脱脂、硫安分画、透析により精製して得たダチョウ卵抗体液を用いた。
ダチョウ卵抗体液を希釈した担持液(抗体濃度24μg/ml、以下「初期担持液」とも言う)に前記担体を1秒間浸せきし、ニップローラーによって絞液した。初期担持液及び絞り液の抗体濃度を、電気泳動法によって測定したところ、絞り液の抗体濃度は、初期担持液の抗体濃度の80質量%であった。すなわち、担持液中の抗体は、担体に選択的に吸着したことが確認された。また、絞り後に担体に残る抗体含有液量は18g/m、絞り液量は100g/mであった。
以上の測定結果から、初期抗体含有液の抗体濃度24μg/ml、体積35L(初期抗体含有液E−1)に対し、抗体濃度54μg/mlの追添抗体含有補充液1.5L(追添抗体含有補充液T−1)を、担体100mの浸せき毎に添加することを定めた。
前記担体を幅1m×長さ1000m準備し、浸せき槽に毎分20mの速さで担体を送り出すことにより担体を連続的に抗体含有液へ浸せきし、浸せき後、ニップローラーによって絞液し、その後乾燥させてフィルターF−1を得た。担体100mの浸せき毎に、1.5Lの追添抗体含有補充液T−1を添加した。担体の浸せき槽中の抗体含有液への浸せき時間は0.8秒〜1.2秒であった。
【0073】
[比較例1]
担体及び抗体は例1と同じものを用いた。
抗体濃度31.68μg/mlの抗体含有液E−2を48.5L準備した。浸せき槽に抗体含有液E−2を35L添加した。前記担体を幅1m×長さ1000m準備し、浸せき槽に毎分20mの速さで担体を送り出すことにより担体を連続的に抗体含有液へ浸せきし、浸せき後、ニップローラーによって絞液し、その後乾燥させてフィルターF−2を得た。担体100mの浸せき毎に、1.5Lの抗体含有液E−2を添加した。担体の浸せき槽中の抗体含有液への浸せき時間は0.8秒〜1.2秒であった。
【0074】
<抗体固定量の測定>
フィルターF−1及びF−2について、担体における抗体の担持先端から、表1に記載の長さ毎にサンプリングし、BCA法を用いて、各サンプルの抗体固定量を測定した。抗体固定量は、Micro BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて測定した。結果はフィルター試料F−1における抗体の担持先端から1mの箇所のサンプルの抗体固定量を基準とした相対値で表した。
【0075】
<アレルゲン溶出量の測定>
フィルター試料F−1及びF−2の上記各サンプル(以下、単に「フィルター試料」とも言う)について、花粉を付着させ、水に濡れた際に溶出されるアレルゲンであるCry j 1の溶出量を測定した。
[花粉の付着]
浮遊花粉をフィルター試料に通過させることで、フィルター試料に花粉を付着させた。供試花粉はスギ花粉を使用した。前記各フィルター試料を5cm角に切り、花粉飛散試験装置の空気回収口に取り付けた。花粉飛散試験装置の底面中央にアルミカップを設置し、0.01g花粉を入れた。アルミカップ上側から空気を噴射し、花粉を飛散させた。空気回収口にて線速0.1m/s分の吸引速度で5分間試験装置内空気を吸引し、花粉を各フィルター試料に付着させた。
【0076】
[アレルゲン溶出試験]
花粉を付着させたフィルター試料をステンレスシャーレにのせ、溶出液1mlを滴下した。溶出液にはリン酸緩衝生理食塩水を使用した。滴下後、ピペッティングによってフィルター全体に溶出液を浸透させた。滴下30分後、フィルターをマイクロチューブに回収し、遠心分離によってアレルゲン溶出液を回収した。回収後ELISA法によって、アレルゲン溶出液中のCry j 1量を求めた。結果はフィルター試料F−1における抗体の担持先端から1mの箇所のサンプルのアレルゲン溶出量を基準とした相対値で表した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1から明らかなように、本発明の製造方法では、担体の抗体含有液への浸せき先端から末端までの抗体固定量が安定し、担体の長さ方向(浸せき方向)のどの部分においても、抗体の効果が安定して発現することがわかった。一方で、比較例の製造方法では、塗布先端から末端までの抗体固定量が安定しないため、抗体の効果発現が安定しないことがあることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体を、抗体を含む抗体含有液中に連続的に浸せきして前記抗体を前記担体に担持する有害物質除去材の製造方法において、
前記担体を前記抗体含有液中に連続的に浸せきする過程で、抗体を含む抗体含有補充液を少なくとも一回添加し、かつ、前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度よりも高いことを特徴とする、有害物質除去材の製造方法。
【請求項2】
前記担体の長さが100m以上であり、担体の長さ方向に沿って前記担体を、前記抗体含有液を含む浸せき槽に導入することを特徴とする、請求項1に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項3】
前記抗体含有補充液の抗体濃度が、前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度に対して、1.1倍以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項4】
前記担体が前記抗体含有液に浸せきする時間が、0.5秒以上10秒以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項5】
前記担体が不織布であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項6】
前記抗体が、鳥類卵由来の抗体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項7】
前記不織布を形成している繊維が、ポリエステル、ポリアミド及びビニロンのうち少なくとも1種類が、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する繊維であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項8】
前記担体を浸せきする前の前記抗体含有液の抗体濃度が、1μg/ml以上100μg/ml以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項9】
前記抗体が、花粉由来アレルゲンに対する抗体であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の有害物質除去材の製造方法により製造された、有害物質除去材。

【公開番号】特開2012−187448(P2012−187448A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50654(P2011−50654)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】