説明

有害物質除去材

【課題】抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、捕集効率が高いとともに長期の使用が可能であり、抗体を効率的に活用することが可能な有害物質除去材の提供。
【解決手段】抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、該担体が、ポリオレフィン系繊維からなる層と少なくとも一種以上の他の繊維からなる層とを含み、前記の他の繊維上に抗体が担持されている有害物質除去材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質除去材に関する。より詳しくは、本発明は、抗体が担持された担体からなる捕集効率の高い有害物質除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体担持フィルタは、液相や気相中のウイルスや雑菌などの有害物質の不活化を行う材料として有用である。抗体担持フィルタにおいてはまず、フィルタにより有害物質が捕集され、次に捕集された有害物質が抗体により不活化されると考えられる。従って、基材(担体)となるフィルタが十分な捕集効率を有さなければ、効率のよい不活化はできない。
特許文献1においては、担体に抗体を担持した有害物質除去材が開示されている。担体として、繊維材料が挙げられているが捕集効率を上げるための手段については記載がない。
【0003】
特許文献2には、羊毛繊維と異種の繊維を組み合わせた、静電気の漏洩、及び捕集効率の低下が少ないロングライフの静電式空気ろ過フィルタが開示されている。しかし、使用される羊毛繊維は、公定水分率が高い、引っ張りや摩耗に弱い、また、動物繊維のため虫がつきやすいという欠点がある。
【特許文献1】特許第3642340号
【特許文献2】特開2001-269520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、捕集効率が高いとともに長期の使用が可能であり、抗体を効率的に活用することが可能な有害物質除去材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意研究を行った結果、上記課題を解決する担体を見出し、この知見をもとに本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記[1]〜[6]を提供するものである。
【0006】
[1]抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、該担体が、ポリオレフィン系繊維からなる層と少なくとも一種以上の他の繊維からなる層とを含み、前記の他の繊維上に抗体が担持されている有害物質除去材。
[2]前記のポリオレフィン系繊維がマイナスに帯電し、他の繊維がプラスに帯電している[1]に記載の有害物質除去材。
[3]前記の他の繊維が、セルロースエステル系繊維、アクリル系繊維、及びポリアミド系繊維からなる群より選択される何れか1種以上の繊維である[1]又は[2]に記載の有害物質除去材。
[4]前記の他の繊維の公定水分率が1%以上7%未満である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有害物質除去材。
[5]前記抗体が、鶏卵抗体である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有害物質除去材。
[6][1]〜[5]のいずれか一項に記載の有害物質除去材を用いる有害物質除去方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、捕集効率が高く担持されている抗体を効率的に活用することが可能な有害物質除去材が提供される。この捕集効率は通常の使用によって持続させることができるので本発明の有害物質除去材は長期の使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の有害物質除去材は、抗体を担持した担体からなる有害物質除去材である。担体すなわち、抗体を担持する基材としては捕集効率を上げるため帯電している基材を用いる。本発明の有害物質除去材に使用される基材は、マイナス帯電を帯びやすいポリオレフィン系繊維と、ポリオレフィン系繊維に対し帯電列表のプラス側にある他の繊維とを含み、これをエレクトリック化することにより形成すればよい。上記の他の繊維は1種以上であればよく、1種であることが好ましい。繊維の種類、作製方法については後述する。
このように形成される基材はシート状の織布や不織布を用いる。好ましくは不織布であればよい。帯電した不織布は一般にエレクトレット不織布(又は不織布エレクトレット)と呼ばれている。
【0009】
本発明の有害物質除去材においては、帯電している基材を担体として用いることにより捕集効率を上げることができる。また、基材は帯電列の異なる2種以上の繊維を含むため、この2種以上の繊維間で、例えば、風の通過を通して、摩擦が発生することによって自然に帯電し、エレクトレット効果が発現し、ひいては捕集効率が持続する。
【0010】
抗体は他の繊維(プラス側に帯電する繊維)に担持することが好ましい。一般に空気中の浮遊物は、マイナス電荷を帯びやすい。また、一部のエンベロープを有するウイルスはエンベロープがマイナス荷電を帯びている。従って、プラス側に帯電した繊維に抗体を担持することによって、捕集効率が上昇し易くなり、同時に抗体による有害物質の不活化が達成され易くなる。
帯電列の異なる2種以上の繊維は、それぞれを不織布などの平面状の形態の繊維として、層として重ね合わせればよい。これらの層は互いに貼り合わされて接触していてもよい。層が互いに接触していれば、互いに接触する部分の摩擦により帯電が容易である。貼り合わせは後述の接着点形成処理で用いられる加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の使用と同様の処理により行えばよいが、例えばホットメルト系接着剤の方法が好ましく挙げられる。有害物質除去剤として有効な部分以外のみを貼り合わせ、有効な部分は常に摩擦が発生する形態になっていることが好ましい。貼り合わせる部分は例えば外周部分であればよい。有害物質除去剤として有効な部分とは例えば、抗体を担持している部分または、抗体を担持している部分に対応する部分を意味する。
【0011】
帯電基材の作製(エレクトリック化)は、オレフィン系からなる不織布に対して定法に従ってコロナ放電により帯電処理を行うことにより行う。帯電方法としては、エレクトロエレクトレット、熱エレクトレット、ラジオエレクトレット、メカノエレクトレット、フォトエレクトレット、マグネットエレクトレットなどが挙げられるが、工業的に不織布フィルタで用いられているものは、主にエレクトロエレクトレットおよび熱エレクトレットであり、好ましくは、コロナ放電を利用したエレクトロエレクトレットが利用される。帯電列の異なる不織布と重ね合わせることにより、界面の電化分離がポリオレフィンエレクトレット不織布単独より、発生し、荷電が維持される。
以下に、主な物質の帯電列表を参考に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
本発明の有害物質除去材においては、担体として、ポリオレフィン系繊維とポリオレフィン系繊維に対し帯電列表のプラス側にある他の繊維とを組み合わせて用いればよい。
このように繊維を選択することによって、上記の帯電処理により、ポリオレフィン系繊維をマイナスに、他の繊維をプラスに帯電させることができる。
【0014】
ポリオレフィン系繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリスチレンが挙げられる。これらのうち、ポリプロピレンが特に好ましい。ポリオレフィン系繊維不織布はメルトブローン法により作製することができる。
【0015】
他の繊維としては帯電列がポリオレフィン系繊維の帯電列よりプラス側にあるものであれば特に限定されない。ポリオレフィン系繊維は機械的強度を維持する機能があるため、他の繊維としては抗体の活性を維持する機能を有していることが好ましい。
好ましい他の繊維としてはセルロースエステル系、アクリル系、又はポリアミド系の繊維を挙げることができる。
【0016】
セルロースエステルとは、セルロースの水酸基を有機酸でエステル化されているセルロース誘導体を指す。エステル化に用いる有機酸は、例えば酢酸・プロピオン酸・酪酸などの脂肪カルボン酸、安息香酸・サリチル酸などの芳香族カルボン酸などがある。単独もしくは併用したものであってもよい。セルロースの水酸基のエステル基置換率について特に制限はないが、60%以上であることが好ましい。
【0017】
セルロースエステル系繊維としては、セルロースアシレート繊維が望ましい。セルロースアシレートは、セルロースの水酸基を構成する水素原子の一部又は全部がアシル基で置換されているセルロースエステルを指す。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブチリル基など挙げられる。これらの基は1種のみが置換されて構成されていてもよいし、2種以上のアシル基が混合置換されていてもよい。アシル基置換度の総和は、好ましくは2.2〜3.0であり、より好ましくは2.2〜2.8であり、特に好ましくは2.2〜2.7である。なかでも、この置換度を満たすセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートブチレートのいずれかであることが好ましく、セルロースアセテートであることが最も好ましい。一般にセルロースアシレートは、エステル化度によって溶剤が異なることが知られているが、あらかじめエステル化率の高いセルロースアシレートで担体を作製したのちに、アルカリ加水分解処理等を行って表面を親水化してもよい。
【0018】
本明細書において、ポリアミド系の繊維とは、化学構造単位が主としてアミド結合で結合されている線状高分子からなる繊維を指す。
ポリアミドの中でも、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸との結合体である直鎖型脂肪族ポリアミドが好ましい。特に、ナイロン66が好ましい。
【0019】
前記のジアミン及びジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸等を単独又は共重合成分として用いた脂肪族ポリアミドを用いることもできる。特に、ε−カプロラクタムの単独使用で製造されるナイロン6が好ましい。
【0020】
これらの他に、原料の脂肪族ジアミンとして一部又は全部をシクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1、4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジアミンを用いた脂肪族ポリアミド、及び/又は、ジカルボン酸として一部又は全部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0021】
更に、脂肪族パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を部分的な原料として用いて、吸水性の低減や弾性率向上を実現したポリアミドも含まれる。また、ポリアクリル酸アミド、ポリ(N−メチルアクリル酸アミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリル酸アミド)などのような側鎖にアミド結合を有するポリマーであってもよい。
【0022】
ポリアミドの中で最も望ましいのは、ナイロン66又はナイロン6である。アミド結合に由来する適度な吸湿性、適度な長さの長鎖脂肪酸からなる分子鎖を繊維軸配向させやすく比較的延伸性が高いこと、融解熱が高く熱容量が大きいことから動力学的にも速度論的にも溶融しにくい(耐溶融性)、長鎖脂肪鎖からなる分子鎖の可とう性や、アミド結合間の水素結合形成のためにフィブリル化やキンクバンドが生じにくい性質、すなわち繰返し屈伸性など、担体として好ましい性能を活用することができるためである。
【0023】
同様に強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0024】
本明細書において、アクリル系繊維とは、アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で40%以上含む繊維を指し、例えば、アクリロニトリルのホモポリマーや、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの非イオン性モノマーとアクリルニトリルのコポリマー、ビニルベンゼンするスルホン酸、アリルスルホン酸などのアニオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマー、あるいは、ビニルピリジン、メチルビニルピリジンなどのカチオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマーなどの例がある。アクリロニトリルとミルクカゼインのから形成されるいわゆるプロミックス繊維も本カテゴリーに包含される。
【0025】
アクリル系の繊維は一般に、有機系湿式紡糸法で製造することが多い。この方法では、紡糸原液が凝固浴中で凝固糸を形成するときに、凝固剤である水がノズルより紡出される紡糸原液中に浸入する一方で、紡糸溶剤が紡出した原液から外部に拡散し、このとき、水と有機溶剤(DMF、DMAcなど)が相互拡散することで重合体が析出して無数の空洞が網目状につながった構造をもつ凝固糸条が形成される。また、凝固過程で溶剤が凝固浴中に拡散することによる体積収縮により形成される繊維断面の変形や表面のマクロフィブリル構造形成による凹凸形成が特徴である。これらの微細構造は本発明で使用する担体の構造としては、非表面積向上や抗体担持のし易さの点で好ましい。
【0026】
アクリル系繊維は、原料ポリマーの組成や紡糸法、製造工程内の後処理条件などにより変動するが、一般に、適度な親水性、耐候性が高い、かさ高い繊維が得られやすいという利点がある。
【0027】
上述のポリオレフィン系繊維および他の繊維以外に、強度や寸度安定性をさらに向上させる等の目的で、ポリエステル系繊維等のポリオレフィン系繊維および他の繊維以外の繊維との混紡繊維として担体を形成してもよい。
【0028】
また、本発明で用いる担体を構成する繊維の20℃の水に対する体積膨潤度は1.1%以上10%未満であり、好ましくは1.1%以上8%未満であり、特に好ましくは1.1%以上6%未満であり、最も好ましくは1.1%以上5%未満であればよい。なお、本明細書において20℃の水に対する繊維の体積膨潤度とは、乾燥繊維を20℃の純水に1時間浸漬する前後の繊維の密度を密度勾配管法(JIS−K7112)にて求めた体積膨潤度をさす。
【0029】
担体を構成する繊維の機械的物性ならびに寸法安定性については、乾燥時伸度が25%以上であることが望ましい。ここで乾燥時伸度とは、十分に長い時間かけて乾燥した繊維の20℃における引張試験における破断伸度をさす。一般に乾燥時伸度が10%以上で製布等の加工に適することが、フィルタ加工及び実用時の破壊(ろ過効率の低下につながる)を防止するには25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが最も好ましい。
【0030】
担体を構成する繊維の公定水分率は、1.0%以上7.0%未満であることが好ましく、3.0%以上6.5%未満であることがより好ましく、5.0%以上6.5%未満であることが最も好ましい。また、特に、他の繊維(プラス側に帯電した繊維)が、繊維の機械的強度及び抗体活性の維持のために、公定水分率が1%以上7%未満であることが好ましい。
本領域の公定水分率において、担持した抗体の活性の発現と、担体の機械的強度、剛性、環境(特に湿度)に対する寸法安定性が得られ、ひいてはフィルタとしての高い性能と信頼性を示すことができる。
【0031】
なお、ここで言う水分率とは公定水分率のことであり、公定水分率とは繊維を20℃、相対湿度65%の環境下に長時間放置したときに繊維に含まれる水分率のことを指す。また、他の繊維との混紡繊維の場合にはその混紡繊維全体の公定水分率を指すものとする。
【0032】
担体を構成する繊維の表面は、数十ナノメートルから数マイクロメートルスケールの微細な凹凸構造を有することが好ましい。凹凸の形状は、繊維方向と平行方向に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよいし、繊維方向と垂直すなわち軸に対して同心円状に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよく、これらの立体形状は繊維方向と平行方向から垂直方向迄の任意の角度で形成されたものが任意の比率、密度で存在してもよい。公知のセルロースアセテート繊維の紡糸法で得られる試料には、表層のスキン層形成と溶剤乾燥に伴うスキン層の陥没により、繊維断面が不定形の菊型を形成することが知られているが、この凹凸は本発明においても好ましい形態である。
【0033】
ナノメートルからマイクロメートルスケールの微細な凹凸構造は、空孔状及び/又は突起状であってもよい。平均径にして50nmから1μmの空孔又は突起であることが望ましい。これらの空孔や突起は、例えば溶液のキャビテーションや微細分散質を分散させた溶液(例えば硫酸バリウム粒子を分散させたスラリーとの混合)を利用するなどの方法により紡糸工程で形成させたり、アシル基の加水分解や表面酸化処理など方法(例えばアルカリ水溶液により繊維表面をセルロース化したのち、酵素処理により繊維表面にミクロクレーターを発現させたりするなど)により後工程によって形成させたりすることができる。
【0034】
担体として用いられる繊維の平均繊維径は、50μm以下であることが望ましく、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。なお、本明細書において平均繊維径とは走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の300箇所における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めた数値である。
【0035】
本発明において担体として用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸もしくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、さらに加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、及び167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用することが好ましい。
【0036】
紡糸に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水など、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば何でも用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0037】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、さらに塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0038】
担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが望ましい。かような構造をとることにより、加工ならびに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着はSEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0039】
接着点を形成する方法としては、乾式紡糸法で形成される癒着や溶融紡糸法で形成される融着点で形成してもよいし、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
このようにして上述の帯電化処理に付する不織布を作製することができる。
【0040】
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0041】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0042】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液又は融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鶏卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鶏卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0043】
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は鶏卵抗体であることが好ましい。
【0044】
前記担体に抗体を担持する(固定化する)方法としては、前記担体に抗体を物理的に吸着させる方法のほか、担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0045】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0046】
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0047】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0048】
前記抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的にはマレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
【0049】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
上記のように抗体は他の繊維(プラス側に帯電する繊維)に担持することが好ましい。
【0050】
本発明の有害物質除去材によって、気相中又は液相中の有害物質の除去が可能である。
本発明の有害物質除去材は、空気清浄機用フィルタ、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。
本発明の有害物質除去材においては、抗体が気相に面しているドライな環境においても、抗体の活性が高く、捕集効率が高く、かつ該捕集効率が維持されやすい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0052】
(フィルタ1の作製)
SEMで測定された平均繊維径が12μmである、目付量100g/m2のポリプロピレン製不織布(メルトブローン法)を温度100℃に加熱し、十分乾燥させた後、定法に従い、コロナ放電を施し、帯電処理を行った。
その後、抗原を投与したニワトリが産んだ免疫卵を精製して作製したインフルエンザウイルス抗体(IgY抗体)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、抗体濃度100ppmになるように調製した液を霧吹きにて前記フィルタに噴霧し、繊維表面に抗体を付与させた。これをさらに、50℃で一晩乾燥させ、フィルタ1を得た。
【0053】
(フィルタ2の作製)
SEMで測定された平均繊維径が20μmである目付量50g/m2のセルロースアセテート不織布(メルトブローン法)にフィルタ1作製時と同様に抗体を担持した。得られたセルロースアセテート不織布を十分乾燥させ、フィルタ1の作製で使用したものと同じエレクトレット処理を施したポリプロピレン製不織布50g/m2と、溶融したポリオレフィン系のホットメルト接着剤(松村石油(株)製:モレスコメルト)を用いて、互いの外周部分で接着させ、フィルタ2を得た。
【0054】
(フィルタ3の作製)
SEMで測定された平均繊維径が12μmである、目付量50g/m2のエレクトレット処理を施したポリエチレン製不織布とSEMで測定された平均繊維径が21μmである、目付量50g/m2のアクリル不織布(メルトブローン法)を用いた以外は、フィルタ2と同様に、フィルタ3を作製した。
(フィルタ4の作製)
セルロースアセテート不織布を、SEMで測定された平均繊維径が21μmである目付量50g/m2のナイロン不織布(メルトブローン法)に変更した以外は、フィルタ2と同様に、フィルタ4を作製した。
【0055】
(フィルタ5の作製)
ポリプロピレン製不織布の代わりに、SEMで測定された平均繊維径が20μmである、目付量100g/m2のセルロースアセテート製不織布(メルトブローン法)を用いた以外はフィルタ1と同様にフィルタ5を作製した。
(フィルタ6の作製)
セルロースアセテート不織布の代わりに、SEMで測定された平均繊維径が10μmである、目付量50g/m2のセルロース不織布(メルトブローン)に変更する以外は、フィルタ2と同様に、フィルタ3を作製した。なお、セルロースはポリプロピレンに対しプラスに帯電する。
【0056】
<ウイルス不活性化効率評価>
抗体フィルタ1〜4について、ウイルス不活性化効率評価を行った。
供試ウイルス液としては精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したもの(ウイルス濃度20万プラーク/mL)を使用した。前記各フィルタを5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収用装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルス液を噴霧した。マスク下流側には、ゼラチンフィルタを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。
試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルタを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、サンプル通過後のウイルス感染価を求めた。サンプル有り無しでのゼラチンフィルタのウイルス感染価の比較から、各サンプルのウイルスの一過性除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0057】
<捕集性能試験>
前記フィルタを150mm角に打ち抜いてサンプルホルダーにセットし、同口径の試験用ダクト内に設置した。労働安全衛生法第42条に基づき定められた、防塵マスク規格の中に記載された粒子捕獲効率試験を実施し、捕集効率、NACL100mgを堆積させた後の補修効率を最終捕集効率として測定した。結果を表2に示す。
【0058】
<水分率の測定>
作製したフィルタの組み合わせる前の、各不織布サンプルを温度20℃相対湿度65%の環境に1週間以上放置し、その後各サンプルの水分率を、ハロゲン水分計MB35(OHAUS社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2から明らかなように、本発明の有害物質除去材によれば、ポリオレフィン系繊維と帯電列がポリオレフィン系繊維よりプラス側にある繊維とからなる摩擦により発生する静電気により、捕集効率があがっている。また、プラスに帯電する繊維の水分率1%〜7%の間では、ウイルスの不活性化効率が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、
該担体が、ポリオレフィン系繊維からなる層と少なくとも一種以上の他の繊維からなる層とを含み、
前記の他の繊維上に抗体が担持されている有害物質除去材。
【請求項2】
前記のポリオレフィン系繊維がマイナスに帯電し、他の繊維がプラスに帯電している請求項1に記載の有害物質除去材。
【請求項3】
前記の他の繊維が、セルロースエステル系繊維、アクリル系繊維、及びポリアミド系繊維からなる群より選択される何れか1種以上の繊維である請求項1又は2に記載の有害物質除去材。
【請求項4】
前記の他の繊維の公定水分率が1%以上7%未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有害物質除去材。
【請求項5】
前記抗体が、鶏卵抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有害物質除去材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有害物質除去材を用いる有害物質除去方法。

【公開番号】特開2009−226840(P2009−226840A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77543(P2008−77543)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】