説明

有害物質除去装置及びこれを用いた空気浄化装置

【課題】光触媒を用いて被処理空気中の有害ガス成分を効果的に低減し、且つ、有害ガス成分の分解過程で生成される高揮発性有機物の再放出をも抑制することができる有害物質除去装置を提供する。
【解決手段】有害物質除去装置1は、有害ガス成分を含む被処理空気が流れる経路中に配置された前段処理部2と、前段処理部2の下流側に配置された後段処理部3を備え、前段処理部は、被処理空気中の有害ガス成分を吸着する多孔質吸着剤12と、光触媒13と、光触媒に紫外線を照射する紫外線照射ランプ8を有し、後段処理部は、前段処理部により処理された被処理空気と水を接触させる気液接触部16と、気液接触部にて被処理空気と接触した水を電気化学的に処理する電極21を備えた電解処理部17を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は循環水に捕集された有害ガス成分を分解除去処理する有害物質除去装置及びこれを用いて空調用の空気を浄化する空気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室内空気質の改善を目的として温度調節、湿度調節、換気調節、又は、空気浄化のうちの一つ、若しくは、それらを組み合わせて実行する空調装置において、空気中の有害ガス成分を除去する方法としては、活性炭を使用したフィルタにより物理的にそれらの有害成分を吸着する方法が一般的である。
【0003】
この活性炭は非常に優れた有害ガス成分の除去機能を奏するものであるが、一方で吸着したガス成分の保持能力は活性炭の体積に比例するため、大規模な空調装置に用いる場合には、非常に大量の活性炭が必要となり、空調気流の抵抗が増大してエネルギーロスが増加してしまう問題があった。
【0004】
また、活性炭の吸着能力が飽和(破過)した後は、大量の活性炭を廃棄、或いは、再生しなければならなくなり、メンテナンスコストが高騰するという課題もあった。
【0005】
他方、空気中の有害ガス成分、例えば揮発性有機化合物(例えばトルエン、ホルムアルデヒド)を分解し、浄化する物質として光触媒が知られている。この光触媒を用いて空気浄化を行う場合、アナターゼ型酸化チタン(TiO2)を載置した基材上に、自然光、或いは、紫外線を供給することにより、有害ガス成分を分解するものであるが、光触媒がアナターゼ型の金属結晶であることから、空気中の有害ガス成分を選択的に吸着捕集することが難しい。
【0006】
そこで、活性炭に吸着した有害ガス成分を光触媒により分解するという技術が開発されてきている。ここで、光触媒は上述した如く光エネルギーを励起光として吸収し、還元力の強い電子と非常に酸化力の強い正孔を生成することで触媒作用を示すものであるから、活性炭に吸着した有害ガス成分を分解することにより、活性炭の吸着能力を再生することが可能となる。
【0007】
実際には、有害ガス成分の浄化に光触媒を活用する方法として、ガス吸着性の高い活性炭や珪藻土、ゼオライト等のメソポーラス(1nm〜数十nmの大きさのメソ孔を多数持つ)系の多孔質材料を基材とし、この基材表面に光触媒を担持(コーティング)して膜状に成形した空気清浄機用フィルタが開発されている。係る光触媒フィルタを用いれば、空調用の空気中から捕集した有害ガス成分を高効率で分解することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−97797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで光触媒反応は、トルエンやホルムアルデヒド等の揮発性の有機化合物を、最終的に二酸化炭素にまで分解するものであるが、比較的緩慢な反応であり、その分解過程においては様々な低分子量有機化合物が中間体(中間生成物)として形成される。そして、一般的に高分子量の有機化合物は低分子量のものに分解されることにより、揮発性が高まる。
【0010】
そのため、高速で気流が通過する空調装置において光触媒フィルタを用いた場合、有害ガス成分の分解中間体である高揮発性有機物がフィルタ(活性炭)から脱落し、空調用経路に放出されてしまう。
【0011】
この中間体である高揮発性有機物の代表例としては、ギ酸や酢酸、アルデヒド類、アルコール等の低分子量有機化合物がある。そして、これら低分子量有機化合物は刺激性が強く、腐食性も高いため、気流に乗ってこれらが空調用経路に放出されると、人体の眼や呼吸器の粘膜を刺激し、不快感を与えると共に、喘息等の疾病を持つ患者にとっては、症状を悪化させてしまう。また、空調用経路中の熱交換器等の金属部品を腐食させる。
【0012】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、光触媒を用いて被処理空気中の有害ガス成分を効果的に低減し、且つ、有害ガス成分の分解過程で生成される高揮発性有機物の再放出をも抑制することができる有害物質除去装置及びそれを用いた空気浄化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の有害物質除去装置は、有害ガス成分を含む被処理空気が流れる経路中に配置された前段処理部と、この前段処理部の下流側に配置された後段処理部とを備え、前段処理部は、被処理空気中の有害ガス成分を吸着する多孔質吸着剤と、光触媒と、この光触媒に紫外線を照射する紫外線照射手段とを有し、後段処理部は、前段処理部により処理された被処理空気と水を接触させる気液接触手段と、この気液接触手段にて被処理空気と接触した水を電気化学的に処理する電極を備えた電解処理手段とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明の有害物質除去装置は、上記において紫外線照射手段は、深紫外線を光触媒に照射することを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明の有害物質除去装置は、上記各発明において光触媒は、酸化チタンとチタンの合金、イリジウムと酸化チタンの合金、白金と酸化チタンの合金、又は、白金とイリジウムと酸化チタンの合金であることを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明の有害物質除去装置は、上記各発明において前段処理部は、多孔質吸着剤を内部に保持する通気性のメッシュ体を備え、光触媒は、当該メッシュ体の紫外線照射手段側の面にコーティングされていることを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明の有害物質除去装置は、上記各発明において前段処理部は、当該前段処理部から流出するオゾンを分解するオゾン分解手段を有することを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明の有害物質除去装置は、上記各発明において後段処理部は、気液接触手段と電解処理手段との間で水を循環させることを特徴とする。
【0019】
請求項7の発明の有害物質除去装置は、上記各発明において気液接触手段は、被処理空気が通過する親水性素材のフィルタから成り、後段処理部3は、このフィルタに水を噴霧、若しくは、掛け流す手段を有することを特徴とする。
【0020】
請求項8の発明の有害物質除去装置は、請求項1乃至請求項6のうちの何れかにおいて気液接触手段は、水の霧若しくは膜中に被処理空気を通過させることを特徴とする。
【0021】
請求項9の発明の空気浄化装置は、被処理空気が流れる空調用経路中に請求項1乃至請求項8に記載の有害物質除去装置の前段処理部を配置し、この前段処理部の下流側の空調用経路中に後段処理部を配置したことを特徴とする。
【0022】
請求項10の発明の空気浄化装置は、上記において空調用経路は、それぞれ被処理空気が流れる複数の空調用分岐経路と、各空調用分岐経路を経た被処理空気が合流して流れる空調用主経路を有し、各空調用分岐経路中にそれぞれ前段処理部を配置すると共に、空調用主経路中に後段処理部を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有害物質除去装置によれば、有害ガス成分を含む被処理空気が流れる経路中に配置された前段処理部を備えており、この前段処理部は、被処理空気中の有害ガス成分を吸着する多孔質吸着剤と、光触媒と、この光触媒に紫外線を照射する紫外線照射手段とを有しているので、被処理空気中のトルエンやホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物等の有害ガス成分は多孔質吸着剤に捕集される。そして、この捕集された有害ガス成分は、紫外線照射手段からの紫外線によって励起された光触媒が生成する電子による強い還元力と正孔による強い酸化力によって効率的に分解処理される。
【0024】
また、この前段処理部の下流側に配置された後段処理部を備えており、この後段処理部は、前段処理部により処理された被処理空気と水を接触させる気液接触手段と、この気液接触手段にて被処理空気と接触した水を電気化学的に処理する電極を備えた電解処理手段とを有しているので、前段処理部の光触媒反応で中間的に生成されたギ酸や酢酸、低分子量のアルデヒド等の低分子量有機化合物が多孔質吸着剤から脱落し、放出された場合にも、これらの低分子量有機化合物は下流側に配置された後段処理部の気液接触手段にて水に捕集される。
【0025】
このとき、水に溶けにくい性質を有するトルエン等の揮発性有機化合物が分解された中間体であるギ酸や酢酸等の低分子量有機化合物は水に溶解し易い性質を有するので、気液接触手段では効率的にこれら低分子量有機化合物を捕集することができる。そして、捕集された低分子量有機化合物は電解処理手段の電極で生成される活性酸素種や電極表面での電気化学的反応、電極自体の自己触媒反応によって分解処理される。
【0026】
これらにより、請求項9や請求項10の如き空気浄化装置の空調用経路中に本発明の有害物質除去装置を設置し、被処理空気を高速の気流で通過させた場合にも、前段処理部で中間的に生成された低分子量有機化合物が空調用経路中に放出されてしまう不都合を解消若しくは抑制することができるようになり、人体に不快感を与える不都合や疾病を悪化させる事態を回避若しくは抑制し、且つ、空調用経路中の金属部品の腐食も回避若しくは抑制することが可能となるものである。
【0027】
また、請求項2の発明の如く紫外線照射手段により、深紫外線を光触媒に照射するようにすれば、被処理空気中の有害ガス成分を、より効果的、且つ、効率的に分解処理することができるようになるものである。
【0028】
更に、請求項3の発明の如く光触媒として、酸化チタンとチタンの合金、イリジウムと酸化チタンの合金、白金と酸化チタンの合金、又は、白金とイリジウムと酸化チタンの合金を用いることで、紫外線の照射により容易に光触媒は励起されるようになり、被処理空気中の有害ガス成分をより効果的に分解処理することができるようになるものである。
【0029】
この場合、請求項4の発明の如く前段処理部が多孔質吸着剤を内部に保持する通気性のメッシュ体を備え、光触媒を当該メッシュ体の紫外線照射手段側の面にコーティングすれば、通気性を担保した状態で安定的に多孔質吸着剤を保持しながら、紫外線を支障なく光触媒に照射し、生成された電子や正孔によって多孔質吸着剤に捕集された有害ガス成分を効率的に分解処理することができるようになるものである。
【0030】
更に、請求項5の発明の如く前段処理部に、当該前段処理部から流出するオゾンを分解するオゾン分解手段を設ければ、紫外線照射手段からの紫外線によって空気がオゾナイズされることで生じたオゾンが放出される不都合も回避することができるようになる。
【0031】
また、請求項6の発明の如く後段処理部が、気液接触手段と電解処理手段との間で水を循環させるようにすれば、循環水の補充も最小限に抑えることができるようになり、経済的である。
【0032】
また、請求項7の発明の如く気液接触手段を、被処理空気が通過する親水性素材のフィルタから構成し、後段処理部3にこのフィルタに水を噴霧、若しくは、掛け流す手段を設ければ、フィルタにて前段処理部からの低分子量有機化合物を捕集し、水に溶解させることができるようになるので、高効率な中間体の分解処理を実現することができるようになる。
【0033】
尚、この気液接触手段の構造は請求項8の発明の如き水の霧若しくは膜中に被処理空気を通過させるものでも良く、係る構成によっても低分子量有機化合物を効果的に水に溶け込ませて捕集することが可能である。
【0034】
そして、請求項9の発明の如く空気浄化装置の被処理空気が流れる空調用経路中に上記有害物質除去装置の前段処理部を配置し、この前段処理部の下流側の空調用経路中に後段処理部を配置すれば、空調用の空気を被処理空気として有害ガス成分を除去し、且つ、中間的に生成される低分子量有機化合物の空調用経路への放出も防止若しくは抑制した快適で安全な空気浄化を実現することができるようになる。
【0035】
ここで、請求項10の発明の如く空調用経路に、それぞれ被処理空気が流れる複数の空調用分岐経路と、各空調用分岐経路を経た被処理空気が合流して流れる空調用主経路が存在する場合、各空調用分岐経路中にそれぞれ前段処理部を配置すると共に、空調用主経路中に後段処理部を配置するようにすれば、一台の後段処理部により複数の前段処理部で生じた低分子量の有機化合物を分解処理することができるようになり、設備費用の削減を図ることができるようになるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を適用した実施例の有害物質除去装置の概略構成図である。
【図2】図1の有害物質除去装置の前段処理部の分解斜視図である。
【図3】図1の有害物質除去装置を設置した実施例の空気浄化装置の概略構成図である。
【図4】図1の有害物質除去装置を設置した他の実施例の空気浄化装置の概略構成図である。
【図5】図1の有害物質除去装置を設置したもう一つの他の実施例の空気浄化装置の概略構成図である。
【図6】図1の有害物質除去装置によるホルムアルデヒドの除去効果を示す図である。
【図7】図1の有害物質除去装置によるトルエンの除去効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の有害物質除去装置1は、例えば被調和室(ビルや一般家庭、車両等の室内)の温度調節、湿度調節、換気調節、又は、空気浄化の何れか、若しくは、それらの組み合わせからなる空調を行う空気浄化装置Wに設置され、被調和室内の空気を被処理空気として当該被処理空気中に含まれる有害ガス成分、例えば揮発性有機化合物(トルエン、ホルムアルデヒド、窒素酸化物等)を除去する装置である。
【0038】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を詳述する。図1は本発明を適用した実施例の有害物質除去装置1の概略構成図である。実施例の有害物質除去装置1は、前段処理部2と後段処理部3とから構成されている。
【0039】
先ず、前段処理部2について説明する。実施例の前段処理部2は、送風機4と、この送風機4による被処理空気の気流の上流側に配置されたフィルタ構造体6と、このフィルタ構造体6の下流側に位置し、当該フィルタ構造体6に対向して配置されたもう一つのフィルタ構造体7(オゾン分解手段)と、これらフィルタ構造体6、7の間に配置された紫外線照射手段としての紫外線照射ランプ8とから構成されている。
【0040】
図2に係る前段処理部2の分解斜視図を示す。実施例のフィルタ構造体6、7は何れも、例えば矩形容器状を呈する一対のステンレス製メッシュ体9、11と、各メッシュ体9、11間に挟持されて内部に保持される多孔質吸着剤12とから構成されている。メッシュ体9、11は通気性を有するメッシュ構造であり、紫外線照射ランプ8側に位置するメッシュ体9の少なくとも紫外線照射ランプ8側の面には、光触媒13が担持(コーティング)されている。
【0041】
この光触媒13は、実施例では酸化チタンとチタンの合金、イリジウムと酸化チタンの合金、白金と酸化チタンの合金、又は、白金とイリジウムと酸化チタンの合金が使用される。但し、光触媒13は、紫外線や可視光線の吸収によって励起活性化されるものであればこれに限定されない。
【0042】
また、実施例の多孔質吸着剤12は活性炭が採用されるが、ガス吸着性の高いメソポーラス系の多孔質材料であれば、シリカゲル、ゼオライト、珪藻土、ポーラスメタル、ポーラスシリカ等も使用できる。特に、ゼオライトはオゾン耐性が高いので有効である。また、多孔質吸着剤12自体の構造は、ハニカム状に成形されたものでも、粒状、ペレット状のものでも良く、通気性を有するものであれば使用可能である。但し、形態を保持できない粒状、ペレット状の場合には、メッシュ体9、11内に保持できるように通気性を有した素材のシートにてパックすると良い。
【0043】
更に、実施例の紫外線照射ランプ8は、波長185nmの深紫外線を照射するものが採用される。そして、この紫外線照射ランプ8からの深紫外線はフィルタ構造体6、7のメッシュ体9にコーティングされた光触媒13に照射される構成とされ、送風機4からの被処理空気の気流は、図中白抜き矢印の如くフィルタ構造体6、紫外線照射ランプ8、フィルタ構造体7の順で通風される。そして、このフィルタ構造体7を通過した被処理空気が後段処理部3に通風されるような配置とされる。
【0044】
次に、この後段処理部3について説明する。実施例の後段処理部3は、気液接触部(気液接触手段)16と、電解処理部(電解処理手段)17、気液接触部16の下側に配置された循環水トレイ18、及び、循環水ポンプ19とから構成されている。気液接触部16はハニカム構造などの通気性を有した親水性素材から成るフィルタにて構成されている。尚、気液接触部16の構成はこれに限定されるものではない。
【0045】
この気液接触部16に図中白抜き矢印の如く前段処理部2を通過した後の被処理空気が通風される。電解処理部17には一対の電極21、21が収納されており、この電極21、21に電位が印加されることで電気化学的処理(電気分解)が行われる。循環水ポンプ19は運転されて循環水トレイ18内の水(循環水)を吸引し、電解処理部17に送給する。電解処理部17では循環水ポンプ19から送られた水が電極21、21によって電気科学的に処理され、この電気化学的に処理された水は気液接触部16に上から掛け流される。
【0046】
これにより、送風機4によって通風される前段処理部2からの被処理空気が循環水と接触する。気液接触部16で被処理空気と接触した後の水は循環水トレイ18に受容され、再び循環水ポンプ19に吸引されて電解処理部17に送給される循環を繰り返す。尚、実施例では循環水ポンプ19により気液接触部16に循環水を掛け流す構成としたが、それに限らず、スプレーを設けて循環水を気液接触部16に噴霧するものでも良い。また、実施例ではフィルタ構造の気液接触部16を用いているが、単なる空間とし、その空間(気液接触部)に循環水の霧を噴射し、若しくは、膜を形成し、これら粒、膜中に被処理空気を通風する所謂スクラバー方式としても有効である。
【0047】
次に、係る構成の有害物質除去装置1の設置形態について説明する。図3は空気清浄装置Wに有害物質除去装置1を設置した一実施例を示している。実施例の空気清浄装置1は、例えば三つの被調和室R1〜R3(ビルや一般家庭等の室内)の温度調節、湿度調節、換気調節、又は、空気浄化の何れか、若しくは、それらの組み合わせからなる空調を行うもので、各被調和室R1〜R3に連通した三つの空調用分岐経路BD1〜BD3と、これら空調用分岐経路BD1〜BD3が合流する空調用主経路MDから成る空調用経路Dと、空調装置C等を備えている。
【0048】
そして、この実施例の場合、各空調用分岐経路BD1〜BD3のそれぞれに図1の有害物質除去装置1が設置される。また、この実施例では前段処理部2及び後段処理部3は例えば矩形ダクト状のユニットケース23内に収容され、一体化されている。尚、このユニットケース23の空気流入側には被処理空気中の塵埃等を除去するための図示しないプレフィルタが設けられている。更に、有害物質除去装置1を構成する電気機器、即ち、送風機4、紫外線照射ランプ8、循環水ポンプ19及び電解処理部17を制御する図示しないコントローラもこのユニットケース23内に設けられているものとする。また、実施例では各空調用分岐経路BD1〜BD3にそれぞれ1台の有害物質除去装置1を設置した場合を示しているが、被処理空気の気流に対して直列若しくは並列に複数台の有害物質除去装置1を各空調用分岐経路BD1〜BD3のそれぞれに設置しても良い。
【0049】
そして、各被調和室R1〜R3内の空気、即ち、被処理空気(トルエン、ホルムアルデヒド、窒素酸化物等の揮発性有機化合物(有害ガス成分)を含む)は、空調装置Cの図示しない送風装置、及び、各有害物質除去装置1の前段処理部2の送風機4の運転により、各空調用分岐経路BD1〜BD3に吸引され、そこに設置された有害物質除去装置1をそれぞれ通過した後、空調用主経路MDにて合流し、そこを経て空調装置Cに至る。そして、この空調装置Cにて温度調節、湿度調節、換気調節、又は、空気浄化の何れか、若しくは、それらの組み合わせが行われた後、図示しない経路にて再び各被調和室R1〜R3に戻される循環が行われる。
【0050】
以上の構成で、本発明の有害物質除去装置1の動作について説明する。前記コントローラが、送風機4、紫外線照射ランプ8、循環水ポンプ19及び電解処理部17を運転すると、各被調和室R1〜R3内の被処理空気が送風機4により前述した如く有害物質処理装置1の前段処理部2に流入する。尚、空気浄化装置Wの送風装置の運転により空調用分岐経路BD1〜BD3には各被調和室R1〜R3から被処理空気が有害物質処理装置1に流入する気流が形成されているが、送風機4の運転によりそれが加速されて前段処理部2に通風される。
【0051】
前段処理部2に流入した被処理空気は、先ず上流側のフィルタ構造体6に流入し、そこを通過する過程で被処理空気中の有害ガス成分(トルエン、ホルムアルデヒド、窒素酸化物等の揮発性有機化合物)が多孔質吸着剤12に吸着されて捕集される。このとき、紫外線照射ランプ8が通電されてフィルタ構造体6のメッシュ体9にコーティングされた光触媒13に深紫外線(波長185nm)が照射されるので、光触媒13が励起されて還元力の強い電子と酸化力の強い正孔が生成される。これらにより、多孔質吸着剤12に捕集されたトルエンやホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物は分解されていく。
【0052】
図6及び図7に係る光触媒13と紫外線によりホルムアルデヒドとトルエンの除去した実験結果を示す。各図の上段(A)は光触媒(TiO2)に波長254nmの通常の紫外線(UV)を照射した場合を示し、各図の下段(B)は光触媒に波長185nmの深紫外線(VUV)を照射した場合を示す。図6の(A)(B)及び図7の(B)の前半は前段処理部2におけるホルムアルデヒド又はトルエンの濃度変化を示し、後半は後段処理部3における変化を示している。また、図7の(A)では前半がトルエンを後段処理部3で処理した場合の濃度変化を示し、後半がその後に前段処理部2で処理した場合の変化を示している(前段と後段が逆となっている)。
【0053】
各図から前段処理部2において通常の波長254nmの紫外線を光触媒13に照射した場合には、ホルムアルデヒド、トルエン共に除去効果が低いが、実施例の185nmの深紫外線を照射した場合には、著しく濃度が低下し、除去効果が高いことが分かる。
【0054】
このように、フィルタ構造体6にてトルエンやホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物が捕集され、分解された後の被処理空気は紫外線照射ランプ8を通過し、次にもう一つのフィルタ構造体7に至る。上流側のフィルタ構造体6にて捕集しきれなかった揮発性有機化合物(有害ガス成分)はこの下流側のフィルタ構造体7の多孔質吸着剤12に吸着されて捕集される。そして、フィルタ構造体9にコーティングされた光触媒13にも紫外線照射ランプ8から深紫外線が照射されるので、同様にこの捕集された揮発性有機化合物は分解されていく。
【0055】
ここで、紫外線照射ランプ8からの紫外線の照射により、被処理空気はオゾナイズされてオゾンが生成されるが、このオゾンはこの下流側のフィルタ構造体7の光触媒13により分解される。これにより、下流側の後段処理部3にオゾンが流出する不都合が解消若しくは抑制される。
【0056】
また、トルエンやホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物が光触媒13により分解される過程で低分子量の有機化合物(ギ酸、酢酸、低分子量のアルデヒド類)が生成される。この低分子量の有機化合物は当初各フィルタ構造体6、7の多孔質吸着剤12に吸着されており、そのまま吸着されていれば光触媒13により最終的に二酸化炭素にまで分解されるものであるが、分子量が小さいため多孔質吸着剤12から脱落し、送風機4による高速気流に乗って前段処理部2から出ていく。そして、下流側の後段処理部3の気液接触部16に流入する。
【0057】
この場合、後段処理部3の気液接触部16には循環水ポンプ19の運転により水が掛け流されている。また、これら低分子量の有機化合物は水に溶けやすいので、気液接触部16を通過する過程で被処理空気中の低分子量の有機化合物は循環水に捕集される。この低分子量有機化合物を捕集した水はその後循環水トレイ18に流下し、循環水ポンプ19により吸引されて電解処理部17に送給される。
【0058】
電解処理部17の電極21、21にはコントローラにより所定の電位が印加され、一方がアノード、他方がカソードとされている。そして、これら電極21、21によって循環水が電気化学的に処理されるので、循環水中には次亜塩素酸等の活性酸素種が生成されている。この活性酸素種により、気液接触部16にて捕集された循環水中の低分子量の有機化合物が分解される。また、ギ酸については活性酸素種による分解が難しいが、電極21、21の表面における電気化学的反応及び電極21、21自体の自己触媒反応により分解される。
【0059】
このように、本発明の有害物質除去装置1は、有害ガス成分を含む被処理空気が流れる空調用分岐経路BD1〜BD3中に配置された前段処理部2を備えており、この前段処理部2は、被処理空気中の有害ガス成分を吸着する多孔質吸着剤12と、光触媒13と、この光触媒13に紫外線を照射する紫外線照射ランプ8を有しているので、被処理空気中のトルエンやホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物等の有害ガス成分は多孔質吸着剤12に捕集される。そして、この捕集された有害ガス成分は、紫外線照射ランプ8からの紫外線によって励起された光触媒13が生成する電子による強い還元力と正孔による強い酸化力によって効率的に分解処理される。
【0060】
また、この前段処理部2の下流側に配置された後段処理部3を備えており、この後段処理部3は、前段処理部2により処理された被処理空気と水を接触させる気液接触部16と、この気液接触部16にて被処理空気と接触した水を電気化学的に処理する電極21、21を備えた電解処理部17を有しているので、前段処理部2の光触媒反応で中間的に生成されたギ酸や酢酸、低分子量のアルデヒド等の低分子量有機化合物が多孔質吸着剤12から脱落し、被処理空気中に放出された場合にも、これらの低分子量有機化合物は下流側に配置された後段処理部3の気液接触部16にて水に捕集される。
【0061】
このとき、トルエン等の揮発性有機化合物は、水に溶けにくい性質を有するが、それらが分解された中間体であるギ酸や酢酸等の低分子量の有機酸は水に溶解し易い性質を有するので、気液接触部16では効率的にこれら低分子量の有機酸を捕集することができる。そして、捕集された低分子量有機酸は電解処理部17の電極21、21で生成される活性酸素種や電極21、21表面での電気化学的反応、電極21、21自体の自己触媒反応によって分解処理される。
【0062】
これらにより、空気浄化装置Wの空調用経路D中に本発明の有害物質除去装置1を設置し、被処理空気を高速の気流で通過させた場合にも、前段処理部2で中間的に生成された低分子量有機化合物が空調用経路D中に放出されてしまう不都合を解消若しくは抑制することができるようになり、それらが被調和室R1〜R3に戻されて人体に不快感を与える不都合や呼吸器疾病を悪化させる事態を回避若しくは抑制し、且つ、空調用経路D中に設置される空調装置Cの熱交換器等の金属部品の腐食も回避若しくは抑制することが可能となる。
【0063】
また、紫外線照射ランプ8は、深紫外線を光触媒13に照射するので、被処理空気中の有害ガス成分を、より効果的、且つ、効率的に分解処理することができるようになる。更に、光触媒13としては、アナターゼ型酸化チタンの合金、例えば、酸化チタンとチタンの合金、イリジウムと酸化チタンの合金、白金と酸化チタンの合金、又は、白金とイリジウムと酸化チタンの合金を用いているので、紫外線照射ランプ8からの深紫外線の照射により容易に光触媒13は励起されるようになり、被処理空気中の有害ガス成分をより効果的に分解処理することができるようになる。
【0064】
この場合、前段処理部2は多孔質吸着剤12を内部に保持する通気性のメッシュ体9、11を備えており、光触媒13を当該メッシュ体9の紫外線照射ランプ8側の面にコーティングしているので、通気性を担保した状態で安定的に多孔質吸着剤12を保持しながら、深紫外線を支障なく光触媒13に照射し、生成された電子や正孔によって多孔質吸着剤12に捕集された有害ガス成分を効率的に分解処理することができるようになる。
【0065】
更に、前段処理部2の紫外線照射ランプ8の下流側に位置するフィルタ構造体7は、当該前段処理部2から流出するオゾンを分解するオゾン分解手段としても機能するので、紫外線照射手ランプ8からの深紫外線によって空気がオゾナイズされることで生じたオゾンが有害物質除去装置1から空調用経路D中に放出するされる不都合も回避することができるようになる。
【0066】
また、後段処理部3の循環水ポンプ19は、気液接触部16と電解処理部17との間で水を循環させるので、循環水の補充も最小限に抑えることができるようになり、経済的である。また、気液接触部16を被処理空気が通過する親水性素材のフィルタから構成し、循環水ポンプ19によりこのフィルタに水を掛け流す(若しくは噴霧する)構成としているので、フィルタにて前段処理部2からの低分子量有機化合物を捕集し、水に溶解させることができるようになる。これにより、高効率な中間体の分解処理を実現することができるようになる。尚、この気液接触部16の構造としては、水の霧若しくは膜中に被処理空気を通過させるものでも良く、係る構成によっても低分子量有機化合物を効果的に水に溶け込ませて捕集することが可能である。
【0067】
そして、空気浄化装置Wの被処理空気が流れる空調用経路D中に有害物質除去装置1の前段処理部2を配置し、この前段処理部2の下流側の空調用経路D中に後段処理部3を配置すれば、空調用の空気を被処理空気として有害ガス成分を除去し、且つ、中間的に生成される低分子量有機酸の空調用経路Dへの放出も防止若しくは抑制した快適で安全な空気浄化を実現することができるようになる。
【0068】
尚、図3の実施例では空気清浄装置Wの各空調用分岐経路BD1〜BD3にそれぞれ本発明の有害物質除去装置1を設置したが、それに限らず、図4に示す如く各被調和室R1〜R3内の被処理空気が合流して流れる空調用経路Dの空調用主経路MDに一台、若しくは、被処理空気の気流に対して直列、若しくは、並列に複数台設置するようにしても良い。
【0069】
また、上記各実施例の有害物質除去装置1では、ユニットケース23内に前段処理部2及び後段処理部3が収容され、一体化されているが、それに限らず、前段処理部2と後段処理部3を別体とし、図5に示す如く各空調用分岐経路BD1〜BD3には前段処理部2のみ設置し、後段処理部3は各被調和室R1〜R3からの被処理空気が合流して流れる空調用主経路MDに設置する構成としても良い。
【0070】
係る構成によっても、各前段処理部2を経た被処理空気が合流して後段処理部3に流入するので、前段処理部2からの低分子量有機酸はこの空調用主経路MDの後段処理部3により捕集されて処理されることになる。係る構成によれば、一台の後段処理部3を複数台の前段処理部2に対応させ、一台の後段処理部3により複数の前段処理部2で生じた低分子量有機酸を分解処理することができるようになり、設備費用の削減を図ることができるようになる。
【0071】
但し、この場合はコントローラは前段処理部2の送風機4及び紫外線照射ランプ8を制御する前段処理部用コントローラと、後段処理部3の電解処理部17及び循環水ポンプ19を制御し、前段処理部用コントローラと連携制御可能とされた後段処理部用コントローラとにそれぞれに分けて設置されるものとする。
【0072】
尚、実施例では前段処理部2の紫外線照射ランプ8の上流側と下流側にフィルタ構造体6、7を配置したが、それに限らず、更に複数のフィルタ構造体を紫外線照射ランプ8の周囲に配置しても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 有害物質除去装置
2 前段処理部
3 後段処理部
4 送風機
6、7 フィルタ構造体
8 紫外線照射ランプ(紫外線照射手段)
9、11 メッシュ体
12 多孔質吸着剤
13 光触媒
16 気液接触部(気液接触手段)
17 電解処理部(電解処理手段)
19 循環水ポンプ
21 電極
BD1〜BD3 空調用分岐経路
C 空調装置
D 空調用経路
MD 空調用主経路
R1〜R3 被調和室
W 空気浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害ガス成分を含む被処理空気が流れる経路中に配置された前段処理部と、該前段処理部の下流側に配置された後段処理部とを備え、
前記前段処理部は、前記被処理空気中の有害ガス成分を吸着する多孔質吸着剤と、光触媒と、該光触媒に紫外線を照射する紫外線照射手段とを有し、
前記後段処理部は、前記前段処理部により処理された前記被処理空気と水を接触させる気液接触手段と、該気液接触手段にて前記被処理空気と接触した前記水を電気化学的に処理する電極を備えた電解処理手段とを有することを特徴とする有害物質除去装置。
【請求項2】
前記紫外線照射手段は、深紫外線を前記光触媒に照射することを特徴とする請求項1に記載の有害物質除去装置。
【請求項3】
前記光触媒は、酸化チタンとチタンの合金、イリジウムと酸化チタンの合金、白金と酸化チタンの合金、又は、白金とイリジウムと酸化チタンの合金であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有害物質除去装置。
【請求項4】
前記前段処理部は、前記多孔質吸着剤を内部に保持する通気性のメッシュ体を備え、前記光触媒は、当該メッシュ体の前記紫外線照射手段側の面にコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の有害物質除去装置。
【請求項5】
前記前段処理部は、当該前段処理部から流出するオゾンを分解するオゾン分解手段を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の有害物質除去装置。
【請求項6】
前記後段処理部は、前記気液接触手段と前記電解処理手段との間で前記水を循環させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の有害物質除去装置。
【請求項7】
前記気液接触手段は、前記被処理空気が通過する親水性素材のフィルタから成り、前記後段処理部は、当該フィルタに前記水を噴霧、若しくは、掛け流す手段を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載の有害物質除去装置。
【請求項8】
前記気液接触手段は、前記水の霧若しくは膜中に前記被処理空気を通過させることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載の有害物質除去装置。
【請求項9】
前記被処理空気が流れる空調用経路中に前記前段処理部を配置し、該前段処理部の下流側の前記空調用経路中に前記後段処理部を配置したことを特徴とする請求項1乃至請求項8に記載の有害物質除去装置を用いた空気浄化装置。
【請求項10】
前記空調用経路は、それぞれ前記被処理空気が流れる複数の空調用分岐経路と、各空調用分岐経路を経た前記被処理空気が合流して流れる空調用主経路を有し、前記各空調用分岐経路中にそれぞれ前記前段処理部を配置すると共に、前記空調用主経路中に前記後段処理部を配置したことを特徴とする請求項9に記載の空気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200592(P2012−200592A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99273(P2011−99273)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(506259634)清華大学 (13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】