説明

有害生物の防除方法

【課題】 本発明の課題は、ボウフラ(蚊の幼虫)などの、水中に産卵する有害生物の防除を、簡便に、持続的で環境汚染の恐れがない方法で行う方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水中で経時的に銀イオンを溶出できる溶解性ガラス、または銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体を、ボウフラ等の水中有害生物の発生する水溜りまたは水溜りの発生する場所等に設置することでボウフラ等の成長を抑制し、防除できることを見出し、発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀イオンを水に溶出させることのできる溶解性ガラス、または銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体を用いた水中の有害生物、特にボウフラ(蚊の幼虫)の防除方法に関する。さらに、本発明の溶解性ガラス、または銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体は、水中で経時的に適量の銀イオンを溶出することが可能なため、過剰の金属イオンによる汚染の恐れがなく、持続的に水中の有害生物の防除を行うことのできる方法である。
【背景技術】
【0002】
水の滞留する場所には、春から秋にかけて蚊の産卵場所となり、ボウフラの成育場所、即ち蚊の発生場所となる。蚊の発生は周辺住民に不快感を与えると共に、ウエストナイル熱、マラリア、デング熱、日本脳炎、チクングニヤなどの多くの伝染病を媒介することが知られており公衆衛生上も好ましくない。また、蚊の他にも、ブユなどの人畜を刺すものや、ユスリカやトビケラなど、直接の害はないが大量発生すると流路を詰まらせたりする不快害虫などが知られている。これらはいずれも水中に産卵するものなので、成長、羽化する前に水路や水の滞留する場所、浄化槽や雨水マスなどに殺虫剤を散布し、幼虫の段階で死滅させることが行われている。しかし、殺虫剤の効果は比較的短期間しか持続せず、また、流水により薬剤が流出してその効果が持続できない上に、環境汚染を引き起こすという問題があった。
【0003】
水中のボウフラの発生抑制に対し、金属銅を使用した発生防止具等が複数提案されている。たとえば、厚さ1.5mm以下の銅板を雨水マス等の水中にいれるボウフラ発生防止具の提案がある(特許文献1参照)。また、銅またはスズを産卵容器内に入れ、容器内のヒトスジシマカなどの蚊の幼虫を死亡あるいは成長抑制させる方法の提案もある(特許文献2参照)。この提案には、成長抑制効果を発現する溶解イオン源には銅が好ましいが、殺虫効果の強いスズや銀イオンでも良いとの記載もある。しかし、銀イオンのボウフラ抑制効果に関する具体的な実施例はなく、銀イオンの有効性は知られていなかった。
【0004】
さらに、銅または銅合金製の管が、多数の連通孔を有する収容物の中に収容されていることを特徴とする殺虫殺菌装置が提案されている(特許文献3参照)。ここでは、銀イオンを供給する電解装置や殺菌マット、ボールなども例示されているが、すべて殺菌効果に関するものであり、やはり銀イオンのボウフラ抑制効果を示す記載はない。
【0005】
銅イオンのボウフラ抑制効果に関しては、複数の事例が開示されているが、銅イオンでボウフラ抑制効果を発現するためには、高い銅イオン濃度が必要となる。高濃度の銅イオンを環境に漏出することは環境負荷上好ましくないため、銅は環境基準値により排出量が規制されている。また、金属銅は安定に銅イオンを溶出させる制御は難しく、過不足ない銅イオン濃度を供給することも現実的には難しい。銀イオンは、わが国では環境基準値の設定がなく、銅よりも安全であると考えられるが、銅よりもイオン化傾向が低いので、金属銀からの銀イオンの溶出は銅イオンよりもしにくく、十分な効果を得るためには多量の銀が必要になることが予想されるから、ボウフラ等の有害生物の防除に金属銀を用いる試みは、実際にはなされたことがなかった。
【0006】
一方、一定速度で抗菌性の金属イオンを溶出するものとして、従来から銀、銅および亜鉛等の抗菌性金属を含有するガラスが、各種用途の樹脂組成物中に配合され、利用されている(例えば、特許文献4,5参照)。しかし、水中に浸漬して使用するこれらガラス質抗菌剤は、細菌等に対する効果は確認されているものの、ボウフラ等の有害生物の防除効果に関する記載は一切ない。
細菌や黴類など微生物に対する抗菌効果を発現するために必要な銀イオンの濃度は知られているが、ボウフラなどの虫に対する効果、特に成長抑制のように数日かけて効果が発現する作用に対する銀イオンの有効性および必要な銀イオンの濃度に関する公知文献は見当たらず、具体的に検討された例はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−38578号公報
【特許文献2】特開平1−273534号公報
【特許文献3】特開2001−69895号公報
【特許文献4】特開2004−262763号公報
【特許文献5】特開平01−313531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ボウフラ(蚊の幼虫)などの、水中に産卵する有害生物の防除を、簡便に、持続的で環境汚染の恐れがない方法で行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水中で経時的に銀イオンを溶出できる溶解性ガラス、または銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体を、ボウフラ等の水中有害生物の発生する水溜りまたは水溜りの発生する場所等に設置することでボウフラ等の成長を抑制し、防除できることを見出し、発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有害生物の防除方法は、水中で経時的に溶解する銀ガラス、または銀置換無機イオン交換体を練りこんだ樹脂成形体を用いることで、いずれも簡便に実施でき、持続的にボウフラ等の水中有害生物の成長を抑制し、防除する効果が得られる。その効果の大きさは、ボウフラの成長抑制効果に必要な濃度でいえば銅イオンの10分の1以下の低濃度で同程度の効果が得られるため、従来知られた銅イオン製剤に比べて、より少ない量で大きな効果を得ることができる。さらに銀イオンには防菌,防黴,防藻の効果も期待できるため、水中を清浄な状態に保つこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明に関して説明する。なお、%は質量%である。また、体積の単位リットルを「L」とも表記する。
本発明の防除方法が対象とする有害生物としては、水中に産卵し、人に害を及ぼす虫であり、具体的にはハエ目蚊科に属するアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ、コガタアカイエカ、トラフカクイカ、ハマダラカ、ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ、トウゴウヤブカ、キンイロヤブカ、セスジヤブカ、オオクロヤブカ、アシマダラヌマカ、キンパラナガハシカ、シマハマダラカ、コガタハマダラカ、チョウバエ科に属するホシチョウバエ、オオショウバエ、ユスリカ科に属するセスジユスリカ、オオユスリカ、アカムシユスリカ、シマユスリカ、オオヤマチビユスリカ、カゲロウ目シロカゲロウ科に属するオオシロカゲロウ、トビケラ目シマトビケラ科に属するコガタシマトビケラ、オオシマトビケラ、ナカハラシマトビケラ、粘管目ヒメトビムシ科に属するムラサキトビムシ、ハエ目、長角亜目ブユ科に属するアシマダラブユ、キアシオオブユなどである。また、水中や容器壁に発生付着する藻類やカビ類や菌類等も含めることができる。
【0012】
○ボウフラとその生態
本発明の防除方法が対象とする有害生物のなかでも、特に有効なのが蚊の防除である。そして、本発明におけるボウフラとは、蚊の幼虫である。蚊は卵、幼虫、蛹、成虫の変態により成育する。蚊の卵は水中や水際に産み付けられその後、成虫になるまでは水中で生育する。卵から蛹までの水中で成育する期間は、凡そ10日〜20日である。本発明における効果は水中に及ぶため、水中で存在する蚊の形態である卵、幼虫および蛹に対して効果を発現する。蚊の種類には、シナハマダラカやオオツルハマダラカなどのハマダラカ亜科、ヤマトヤブカ、トウゴウヤブカ、チシマヤブカ、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ、オオクロヤブカ、チカイエカ、アカイエカネッタイイエカ、コガタアカイエカなどのナミカ亜科、トウダオウカなどのオオカ亜科が国内には存在するが、本発明のボウフラ抑制効果においては蚊の種類は限定されないため、海外の種類の蚊に対しても同等の効果が発現可能である。
【0013】
本発明においてボウフラの成長抑制効果とは、ボウフラが成虫である蚊にならないようにすることを意味しており、単に成長を遅らせることではなく、ボウフラの形態のまま死滅することを目的としている。
ボウフラの発生場所は、池や地面や石、植物の窪み、バケツ、甕、空き缶、各種容器、雨水マスやなどへの雨や結露などによる天然の水溜り、水槽、人工池やプール、または水道水の散水などによる水溜り、下水の滞留箇所など様々な水溜りが対象となる。本発明のボウフラ成長抑制方法は、これらボウフラの発生場所が対象であり、特に制限はない。
【0014】
○銀イオンのボウフラ成長阻害効果
銀イオンのボウフラに対する成長阻害に及ぼす濃度を測定した結果、銅イオンは1ppm程度の溶解濃度が必要であるのに対し、銀イオンでは銅イオンの数十分の1以下の数十ppb程度の溶解濃度でも十分なボウフラ成長抑制効果が発現することがわかった。ただし、ボウフラ成長抑制効果は金属イオン濃度のみに依存するわけでなく金属イオンの暴露時間でも左右され、数十ppbの低濃度であれば数日、数ppmの高濃度であれば短時間での作用となる。一般に、ボウフラの発生日時を特定することは不可能であるので、ボウフラを抑制したい場合は常に一定の銀イオン濃度を水中に供給し続けることが好ましい方法である。
【0015】
○有害生物防除剤
本発明における有害生物防除剤は、水が存在する際には常時溶解することにより銀イオンを供給可能である溶解性ガラスか、またはイオン交換平衡により一定の銀イオンを放出可能な銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体の中の少なくとも一つを用いる。溶解性ガラス、または銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体の形態は、ボウフラの成長抑制効果を容易に発現するために特定の形態を有することが好ましい。例えば、水中で長期間安定に存在するためには、風雨などで水溜りより薬剤が流出せず、水中に沈んでいることが好ましく、この意味で、粉末状ではなく一定以上の大きさであり水中に沈んでいることが好ましい。具体的には、1粒当たりの平均質量が0.5g以上、比重は1.05以上であることが好ましく、さらに好ましくは比重が1.2以上5以下である。比重は25℃における同体積の試料と蒸留水の質量比で定義される。粒径は、例えば形状を問わずランダムに選択した粒子50個の防除剤の最大粒径の平均値で代表させることができる。有害生物防除剤の溶解性ガラスまたは樹脂成型体の粒子があまりにも小さいものは、保持することが困難であるから、本発明の防除方法では粒径が1mm以上であることが必須である。水容器自体の少なくとも一部を銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体とする場合を考慮すると、粒径の上限は特にないが、あまりにも大きいものは成形困難であるので、好ましい上限は1mであり、さらに好ましい粒径は2mm以上100mm以下である。
【0016】
また、溶解性ガラスまたは銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体などの有害生物防除剤は、製造後初めて水中に入れた際の銀の溶出量と水を入れ替えて2回目以降の溶出量が異なる場合がよくある。本発明におけるこれら有害生物防除剤は、水を入れ替えた際の銀の溶出量が前回と比較し±20%以内である溶解性ガラスであることが好ましい。また、屋外での使用で想定される水温やpHの変動があっても銀溶出量が大きく変化せず、±20%以内であることが好ましい。溶解性ガラスと樹脂成形体との比較では、効果に著しい差はないが、減量が目に見えてわかりやすい点で溶解性ガラスの方が好ましい。
【0017】
○溶解性ガラス
本発明で用いることのできる溶解性ガラスは水への溶解性があり、25℃での脱イオン水への銀イオンの好ましい溶解濃度は、0.05mg/g・L・日以上、5mg/g・L・日以下でである。本発明で用いることのできる溶解性ガラスは、水を入れ替えたり、温度やpHなどの条件によっても大きく溶解度が変化しないものであり、雨により水が入れ替わったりしても持続性が発現するものである。
【0018】
本発明で用いることのできる溶解性ガラスの成分組成は、Ag2Oを0.5〜4質量%、K2OまたはNa2Oを3〜10質量%、SiO2を0〜60質量%、B23またはP25を40〜70質量%、Al23、MgO、BaO、ZnOからなる群から選ばれる少なくとも1種以上が0〜20%を含有する。ボウフラ抑制有効成分である銀は、Ag2Oで0.5%以下の配合量では大量に溶解性ガラスを使用しなければ効果が得られず、4%以上のAg2O配合量はガラス化することが困難で金属銀として析出してしまうため、Ag2O配合量は0.5〜4質量%、好ましくは1〜3%、より好ましくは1.5〜2.5%である。
【0019】
ガラスの溶解性を調整する成分として働くK2OまたはNa2Oは、他のアルカリ金属よりガラスの溶解性を長期に渡り制御しやすく、その含有率は3〜10%が好ましく、より好ましくは4〜9%、さらに好ましくは5〜8%である。K2OまたはNa2Oの中でより好ましいのはK2Oであり、溶解性を向上させることができるから、好ましいのはNa2Oを含む溶解性ガラスよりも、Na2Oを含まず、K2Oを含む溶解性ガラスである。ガラスの骨格構造を形成するSiO2、P25およびB23は、全体の比率のバランスでガラスの溶解性を制御し、一般にSiO2の割合が増えると溶解性が低下し、B23の割合が増えると溶解性が向上する。SiO2の好ましい含有率は、0〜60%、より好ましくは0〜15%である。B23の好ましい含有率は、42〜70%、より好ましくは44〜67、特に好ましくは44〜65%である。Al23はSiO2やB23と共にガラスの骨格を形成し、SiO2やB23が主成分である場合にAl23を含有させると一般的に化学耐久性が向上するので、含有することが好ましい。しかし、あまり多く含有するとガラスの溶解性が小さくなりすぎてボウフラ成長抑制効果が発現しにくくなるから、好ましい含有量は5%〜20%であり、さらに好ましくは15〜20%である。
【0020】
その他MgO、BaO、ZnOはガラス骨格成分の間に入り、ガラスを安定化させる作用があるので、必須成分ではないが含まれることが好ましい。好ましい含有量は、0〜10%である。他の成分としてCa、Ba、Zn、Co、Cuなどが混在してもガラス溶解度が長期に渡り影響を及ぼさないような少量であればよい。
【0021】
一般に粒状ガラスの安価な工業的製法は、加熱溶解した高温の液状ガラスを水中に投入し急冷して不定形破砕状のカレットとするか、金属ローラー間を通すことで板状(フレーク状)とする方法である。しかし、カレットでは、粒度の調整が困難で2mm以下の微粒子や粗粒が含有されることで粉砕や分級の必要がある。また、表面に残留応力があるため微細クラックが発生し易く、使用時にクラック部分から破砕が進行していくので破片や細粉を発生し、粒度が変化し易いと言われている。一方、フレークはカレットよりは一定の粒度となりやすいがそれでも十分ではなく、割れたガラス板状の破片も多いため、使用するには危険な場合もある。フレーク状ガラスの製造方法の応用で、熔融した水処理用抗菌ガラスを片面または両面が半球状または円錐状の窪みを有する冷却成形ローラーで成形することで半球状、円錐状、球状などの形状の粒状ガラスを製造することもできる。このような成形物とすることで、割れにくく、一定の形状と粒度を実現することで溶解性の制御が容易になる。
【0022】
本発明に用いる溶解性ガラスの製造方法は、酸化物、水酸化物、ホウ酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の必要成分を含有している化合物を所定の混合量になるようによく混合した後、溶融釜で加熱溶融し、急冷することにより得ることができる。
【0023】
この様にして得られた溶解性ガラスは、溶解度、形状および粒度を調整したことで銀溶出濃度の制御に優れており、適量水中に浸漬すると水中に銀濃度を経時的に溶出しボウフラの成長抑制効果を発現する。また、溶解性ガラス自体が溶解し減量することでボウフラ抑制効果の持続期間が誰にでも容易に目視でわかる。本発明における銀イオンを水に溶出させることのできる溶解性ガラスを水に浸漬した時の銀溶出量は、ガラス組成と成形体の比表面積とで調整することができ、0.05mg/g・L・日以上5mg/g・L・日以下が好ましく、より好ましくは0.1mg/g・L・日以上0.5mg/g・L・日以下である。この範囲の溶解量が3週間以上、可能であれば数ヶ月程度は持続することが好ましい。比表面積は形態から算出できるもので、好ましくは3cm2/g〜500cm2/g、さらに好ましくは5cm2/g〜200cm2/g、より好ましくは10cm2/g〜50cm2/gである。
【0024】
本発明で用いることのできる溶解性ガラスの使用形態は特に制限はなく、粒状のまま使用することも可能であるが、例えば数g〜数十gを不織布やネットに充填、梱包して使用することも可能である。梱包は不織布とネットの二重にしてあることがより好ましく、二重梱包の内側は、溶解性ガラスの漏出を防ぐため目が細かい不織布であることがよく、外側は不織布の強度を維持することが目的であるため、丈夫で水を通水しやすいネット状であることが好ましい。内側の不織布の材質は、親水性を有する材質を用いるとガラスが溶解しやすいので好ましく、例えばナイロンやポリエステルが挙げられる。また、孔やスリットのあいたプラスチック容器に溶解性ガラスを収納して使用することもできる。不織布で梱包された溶解性ガラスがプラスチック容器に出し入れ可能に収納されるのも好ましい形態である。
【0025】
○銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有した樹脂成形体は、公定水分率1%以上10%以下の樹脂に銀置換無機イオン交換体を好ましくは1〜30質量%練り込み加工した樹脂組成物からなる成形体である。
銀置換無機イオン交換体とは、銀をイオン交換した無機陽イオン交換体粉末である。銀の含有量は1%以上20%以下であり、より好ましくは2%以上15%以下である。銀含有量が1%以下ではボウフラ成長抑制効果が発現しにくく、20%以上無機イオン交換体に銀置換することは難しい。無機陽イオン交換体には、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタンなどがあり、特に下記式〔1〕で示されるリン酸ジルコニウムは、高濃度で安定に銀をイオン交換担持できるため有効である。
aZrbHfc(PO43・nH2O 〔1〕
上記式〔1〕において、Mはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、水素イオンおよびオキソニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、bおよびcは、1.75<b+c<2.25で、Mが1価の場合はa+4(b+c)=9を満たす数であり、Mが2価の場合は、2a+4(b+c)=9を満たす数であり、a、bおよびcは正数であり、nは0または2以下の正数である
【0026】
本発明の銀置換無機イオン交換体を樹脂と配合することにより樹脂組成物の成形体を容易に得ることができる。樹脂成形体の加工方法は、公知の方法がどれも採用できる。例えば、(1)銀置換無機イオン交換体粉末と樹脂とが付着しやすくするための添着剤や銀置換無機イオン交換体粉末の分散性を向上させるための分散剤を使用し、ペレット状樹脂またはパウダー状樹脂をミキサーで直接混合する方法、(2)前記のようにして混合して、押し出し成形機にてペレット状に成形した後、その成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(3)銀置換無機イオン交換体粉末をワックスを用いて高濃度のペレット状に成形後、そのペレット状成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(4)銀置換無機イオン交換体粉末をポリオ−ルなどの高粘度の液状物に分散混合したペ−スト状組成物を調製後、このペーストをペレット状樹脂に配合する方法などがある。
【0027】
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体を加工するための成形機には制限はなく、既存の機械が使用できる。例えば、射出成形機、押し出し成形機、ブロー成形、熱プレスなどが例示される。この中でも射出成形機が形状の安定性に加え、熱履歴が少ないため好ましい。熱履歴が多いと樹脂の劣化が進行することで、銀以外の樹脂の分解成分などが水中に溶け出すおそれがあるためである。
【0028】
本発明における樹脂成形体に使用される樹脂の公定水分率とは、温度20℃、相対湿度65%での吸湿率に基づいて定められる樹脂の吸湿率を示す指標である。本発明に用いられる樹脂の公定水分率は、1.0以上10以下であり、好ましくは2以上9以下、より好ましくは3以上8.5以下である。公定水分率が1以下では樹脂成形体の銀溶出の持続性が十分得られず、10%以上では短時間で溶出し銀濃度の制御が難しく、変色しやすくなることで外観上製品価値を低下するおそれもある。
【0029】
一般的な樹脂の公定水分率としては、ポリプロピレン0.0、ポリエチレン0.0、塩ビ0.0、ビニリデン0.0、ポリエステル0.3−0.4、ウレタン1、アクリル1.2−2.0、ポリアセタール2.0、ポリアミド3.5−5.0、アセテート6−7、レーヨン12−14であり、公定水分率の値から最も好ましい樹脂はポリアミドである。ポリアミドは一般にナイロンとも呼ばれ、その種類にはナイロン6、66、46、MDX6、61、9T、610、612、11、12などがあり、これらの単独または混合して使用することも可能である。さらに水に沈ませることが望ましいことから、樹脂の比重は1.1以上が好ましい。ポリアミドの比重は1.15程度であることから比重においてもポリアミドが好ましい。このなかで汎用性、成形性、銀溶出量の制御性などから特に好ましくは、6ナイロンであり、他の種類のナイロンと混合して使用することも可能であり、その場合は50%以上の配合率が好ましい。さらに、6ナイロンの中でも低密度のものほど溶出しやすいため好ましい。
【0030】
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体には、金属石鹸などの分散剤を用いることができる。好ましい分散剤は金属石鹸であり、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどで、より好ましくはステアリン酸マグネシウムである。
【0031】
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体に用いる銀置換無機イオン交換体には、樹脂への練り込み加工性やその他の物性を改善するため、必要に応じて種々の添加剤を混合することもできる。具体例としては酸化亜鉛や酸化チタンなどの顔料、リン酸ジルコニウムやゼオライトなどの無機イオン交換体、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸などの滑剤、防湿剤および増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤などがある。
【0032】
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体には、各種樹脂の特性に合わせてあらゆる公知の加工技術と機械が使用可能であり、適当な温度または圧力で加熱および加圧または減圧しながら混合、混入または混練りの方法によって容易に調製することができ、それらの具体的操作は常法により行えば良い。また、その形状に制限はなく、球状、塊状、スポンジ状、フィルム状、板状、糸状またはパイプ状或いはこれらの複合体など、種々の形態に成形加工でき、用途に応じて適宜設計することができる。
【0033】
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体の比表面積は適正値があり、好ましくは3cm2/g〜500cm2/gである。さらに好ましくは5cm2/g〜200cm2/g、より好ましくは10cm2/g〜50cm2/gである。例えば、3cm2/g〜50cm2/gの比表面積を得るには、球であれば半径0.05cm〜1cm程度であり、10cm角の板状であれば、平均厚みは0.3mmから6mm程度である。比表面積が3cm2/gより小さいと銀の溶出速度が遅くなり、十分な溶出銀濃度が得られない場合がある。一方、比表面積が500cm2/gより大きいと扱いにくい形状となり、また、溶出速度が速すぎ十分な持続性が得られない場合がある。
【0034】
本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体の使用形態には特に制限はなく、成形体をそのまま使用することも可能であるほか、上記溶解性ガラスの使用例と同様にメッシュや不織布などに梱包してもカートリッジ状の容器に充填してもよい。処理したい水に浸漬または通水することで使用可能であり、常時水中に存在させる必要はなく、空気中で一旦乾いても再度水中に戻せばその性能は大きく変化しない。使用量の目安は銀置換量や目的とする効果により適宜調整すればよい。本発明における銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体を対象とする水に浸漬した時の銀溶出量は0.05mg/g・L・日以上5mg/g・L・日以下が好ましく、より好ましくは0.1mg/g・L・日以上0.5mg/g・L・日以下であり、この範囲の溶解量が3週間以上、可能であれば数ヶ月程度は持続することが好ましい。例えば、浸漬して使用する場合は1Lの水に対し比表面積で好ましくは3cm2/g〜500cm2/g、さらに好ましくは5cm2/g〜200cm2/g、より好ましくは10cm2/g〜50cm2/g程度の形態を有するものを用いることができる。
【0035】
○使用方法
本発明におけるボウフラの成長抑制方法は、溶解性ガラスまたは銀置換無機イオン交換体を含有する樹脂成形体を水が溜まった際にボウフラが発生する可能性のある窪みや現に水溜り、既にボウフラが発生している水溜りなどに設置することで適用可能である。使用量は1L当たり1g程度であるが、寿命などを勘案して適宜調製することができる。水の出入りが全くない水に防除剤を用いる場合、防除剤の銀含有率から算出して、徐々に溶出した水中の銀イオン濃度が10ppb以上になれば防除効果が顕れることが期待できるが、現実環境下で、水中有害生物が問題になるような水域では、水の出入りが全くなくい状況は考えにくい。そうすると、水の出入りがあっても有害生物の成長速度に追いつくだけの速さで銀を溶出し、なおかつ、経済的理由からできるだけ少量の防除剤で長期間の防除を行うことが好ましい。この意味で、防除剤の使用量としては、一定体積の水に対して、水中への銀溶出濃度が50ppb/日以上5ppm/日になるように、添加する防除剤の量を決めることが好ましい。具体的には、防除剤からの銀の溶出量が0.1(mg/L・g・日)だとすると、1Lの体積の水系への銀溶出濃度が50ppb/日以上5ppm/日になるために添加する防除剤の量は0.5g〜50gと算出され、このような考え方で使用量の目安とすることができるが、実際の効果も観察しながら適宜使用量を加減することができる。
銀の溶出量が異なる複数種類の有害生物防除剤を併用するのも好ましく、短期間で溶出して早期に防除効果を奏する防除剤と徐々に溶出して長期間にわたって防除効果を持続する防除剤とを併用することにより、防除をさらに効果的なものにすることもできる。
【0036】
○用途
本発明の有害生物防除方法の具体的用途であるボウフラの発生場所を例示すると、プールや池や地面や石、植物の窪み、バケツ、空き缶、各種容器、雨水マスなどへの雨や結露などによる天然の水溜りまたは水道水の散水などによる水溜り、下水の滞留箇所など様々な水溜りが対象となる。本発明のボウフラ成長抑制効果はあらゆるボウフラの発生場所が対象であり、特に制限はない。
【0037】
<作用>
銀イオンは銅イオンの数十分の1の低濃度でボウフラの成長抑制効果がある。主に屋外の水溜りで発生するボウフラを持続的に抑制するためには、流出等しない形態、酸性雨や紫外線などに対する耐久性、水が入れ替わっても継続して銀溶解性が発現する持続性を有するものでないと使用ができない。本発明の有害生物防除方法は、粒度と比重を調整することで流出を抑制し、耐久性に優れ、さらに銀イオンを持続的に溶出し続けるので、長期間にわたりボウフラの成長抑制効果を示し、蚊の発生を低減できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
銀または銅イオンの溶出量は、25℃の1Lの脱イオン水に試料を1g添加し、24時間静置保存したのちの水中の銀または銅イオンの濃度をICP(誘導結合プラズマ発光分析装置、具体的にはセイコー電子工業株式会社製 SPS7700型)にて測定し、試料1g、溶出水1リットルおよび1日あたりの濃度に規格化して溶出量(mg/g・L・日)として表示した。
【0039】
<参考例>
表1に実施例および比較例で試験に供した試料1〜13の明細を示した。
表1に示した試料1、2、5〜9の溶解性ガラスは、ガラス原料調合物を1200℃で加熱溶融後、直径5mmの半球状の窪みを片面に配した金属製の冷却成形ローラーを用いて、冷却、成形し、得られたガラスを叩いて破砕したものを、さらにボ−ルミルにて1時間乾式破砕した後、目開き2.8mmの金網で微粉をふるい落として作成した。試料5は、得られた試料2をさらにボールミルを用いて微粉砕して得た。
【0040】
表1に示した試料3、4,10,11に用いた銀置換無機イオン交換体は、粉末状のリン酸ジルコニウムまたはA型ゼオライトをイオン交換水に10%添加し、さらに無機イオン交換体に対し銀で11%となるように硝酸銀水溶液を加え、1時間攪拌することで銀置換を行った。その後、ろ過、イオン交換水で水洗し、高温で乾燥し、粉砕することで試料3、4,10,11に用いた銀置換無機イオン交換体を得た。銀置換リン酸ジルコニウムの組成は、Ag0.45Na0.470.2Zr1.95Hf0.02(PO43・0.05H2Oであり、銀置換ゼオライトは0.15Ag2O・0.85Na2O・Al23・2.03SiO2・0.7H2Oであった。溶解性ガラスは組成によって溶解性などの物性が大きく異なるため、ガラス組成を表1に示した。なお、銀イオンを溶出する溶解性ガラスを銀ガラス、銅を溶出する溶解性ガラスを銅ガラスと呼ぶ。試料3、4、8、10は、得られた溶解性ガラスまたは銀置換無機イオン交換体粉末をナイロンまたはポリエチレン樹脂粉末と混合後、押し出し成形機で成形したものを直径3mm×4mm厚の円柱状にカットして作成した。試料12の硝酸銀は板状結晶の試薬を用いた。
【0041】
【表1】

成分組成の式中カッコ内の数字は、各構成元素ユニットの質量分率(%)を示す。
【0042】
【表2】

試料1〜13の金属含有率(%)、粒径(mmまたはμm)、比重および金属溶出量(mg/g・L・日)を表2に示した。粒径は、形状を問わずランダムに選択した粒子50個の最大粒径の平均値を示す。ただし、試料No.5および11については、小さすぎて粒子を選んで計測することが困難なため、レーザー回折式粒度分計(マルバーン社製 マスターサイザー2000)で測定した体積基準のメジアン径を用いた。
【0043】
<ボウフラの防除試験>
ポリカップに100mLの市販のミネラルウォーターを入れ、さらに参考例で示した各種防除材の試料を表3に示す量で各々入れた。各水溶液中に、ヒトスジシマカの孵化3時間後の1齢幼虫を10頭ずつ投入した。試験ポリカップは黒色容器内に入れ、26〜27℃暗所保管とし、5日後に死亡虫数を測定した結果を表3に示した。試験後に市販のミネラルウォーター100mlを継ぎ足し、容器から水を溢れさせることで水の一部入れ替えを行った。なお、一部試料ではこの操作で容器からの水の溢れに伴って試料が容器外に漏出するのが確認されたが、漏出の防止は行わずそのままとした。この水入れ替え試験を毎日1回行い、計10回おこなった後に、再度ボウフラを加えた試験を同様に実施した結果を表3に示した。なお、試料をいれない試験も同様におこなって比較例9とした。
【0044】
【表3】

表3の10回後のらんは、水入れ替え試験を毎日1回行い、計10回おこなった後に、再度ボウフラを加えた試験の結果を示す。
【0045】
実施例1〜4は、初期および水入れ替え後にもボウフラの成長を抑制する効果が極めて高かった。比較例2、3の銅ガラスおよび比較例8銅板は銀と比較し溶出濃度自体は高く設定してもボウフラの成長抑制効果は低かった。また、粉末状や水に沈まない比較例1、4、6、7は初期の効果は低くはないが、10回水入れ替え後の効果は著しく低下し、持続的な効果が得られなかった。
【0046】
<実施例6>ボウフラの発生実地試験
屋外の日陰に水を約5L入れたポリバケツを用意し、片方に試料1を5g投入した。雨により貯水の流出や異物の混入などがあったが、約3ヶ月に渡り屋外でそのまま放置した。3ヶ月間に2週間に一度バケツ内のボウフラの発生を観察した結果、試料1を入れていないポリバケツにはボウフラの発生が3度確認されたが、試料1を入れたポリバケツでボウフラの発生は1度も確認できなかった。
【0047】
この実地試験から明らかな様に、本発明の方法による有害生物の防除効果は高く、また長期間に渡り効果が継続することから非常に有用性が高いものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は水中で経時的に銀イオンを溶解できる溶解性銀ガラスまたは銀系無機抗菌剤を練りこんだ樹脂成形体を、水中で有害生物の発生する場所に設置することで有害生物を防除することができるので、人畜の衛生的な生活環境を確保することができ、有害生物の媒介する伝染病を予防することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害生物防除剤として、銀イオンを水に溶出させることのできる溶解性ガラス、または公定水分率が1〜10の樹脂に銀置換無機イオン交換体を含有させた樹脂成形体、の中から選択される少なくとも一つを用い、粒径が1mm以上の有害生物防除剤を水と接触させることにより、水中の有害生物を防除する、有害生物防除方法。
【請求項2】
水中の有害生物がボウフラである、請求項1に記載の防除方法。
【請求項3】
有害生物防除剤からの、水中への銀溶出量が0.05mg/g・L・日以上、5mg/g・L・日以下である、請求項1または2に記載の防除方法。
【請求項4】
水中への銀溶出濃度が50ppb/日以上5ppm/日以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の防除方法。
【請求項5】
有害生物防除剤が水中に沈むものであり、有害生物防除剤を水中に投入することにより水中の有害生物を防除する、請求項1〜4のいずれかに記載の防除方法。
【請求項6】
有害生物防除剤が、比重1.05以上5以下であり、なおかつ比表面積が3cm2/g〜500cm2/gの粒状または成形体である、請求項1〜5のいずれかに記載の防除方法。




【公開番号】特開2012−136454(P2012−136454A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289070(P2010−289070)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】