説明

有害生物忌避材

【課題】本発明は、雨が降っても流出しない、特殊な容器を必要とせず、かつ環境汚染をしない、防虫効果が長続きする有害生物忌避材を提供する。
【解決手段】本発明の有害生物忌避材は、樟脳、パラジクロロベンゼン又はナフタレンのような天然由来の又は環境汚染をしない親油性の防虫忌避効果を持つ薬剤をキャノーラ油やオレイン酸のような食用油に溶かして、さらに前記溶解させた食用油を粒状又は塊状の珪藻土やゼオライトのような多孔性物質に含浸させたものであるため、雨が降っても流出しないし、特殊な容器を必要とせず、かつ土壌汚染をしない、防虫効果が長続きするなどの効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊な容器を必要とせず、かつ土壌汚染をしない、雨に強く、防虫効果が長続きする有害生物忌避材に関する。
【背景技術】
【0002】
秋田県秋田市や五城目町では毎年ヤマビルの被害に見舞われ、多数の吸血被害が発生している。そのため、市販の虫除けスプレーなどによりヤマビルの被害を防止しているが、これら虫除け剤には、ディート(DEET)が使用されており、その駆除に大量に使用すると、この薬剤には弱いものの毒性が有るため、生態系に悪影響を与えたり、子供に対しては健康被害がでたりする事も報告されている。また、このような毒性のため、水源地には使用できないなどの問題があった。
また、近年、外来種のカタツムリであるアフリカマイマイやアルゼンチンアリなどが日本でも一部の地域で定着していることが確認されており、人を死に至らせるアフリカマイマイの寄生虫や、人家に侵入し人間をも攻撃対象とするアルゼンチンアリの被害が問題となりつつある。
【0003】
上記問題点を解決するために、本出願人は、屋外の建物周囲などに敷設してヤマビル及びアルゼンチンアリなどの有害生物の侵入を防止する有害生物用忌避袋を開発した(特許文献1を参照)。
この公知技術は、ビニールやポリエチレンなどの透明プラスチック素材により表面を不透水材とし、同素材のメッシュや細孔などで裏面を通気材にし、前記不透水材と通気材を上下に重ねて三方縁を接着して未接着部分の充填開口部を設けた三方袋を形成し、該三方袋に木酢液、竹酢酸、酢酸、塩化カリウム溶液などを含浸させた珪藻土やゼオライトの多孔質物質(有害生物忌避材)を充填した後、未接着部分の充填開口部を接着してヤマビル及びアルゼンチンアリなどの有害生物用忌避袋としたものである。
【0004】
このように、珪藻土やゼオライトの多孔性と吸水性を活用して、環境にやさしく防虫効果が長続きするヤマビル駆除剤を開発したが、この手法では酢酸や乳酸などの水溶性忌避材を使用しているため、近年頻発しているゲリラ豪雨などで、酢酸や乳酸などの水溶性薬剤では流出する恐れが出てきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−46455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、雨が降っても流出しない、特殊な容器を必要とせず、かつ土壌汚染をしない、防虫効果が長続きする有害生物忌避材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有害生物忌避材は、樟脳、パラジクロロベンゼン又はナフタレンのような天然由来の又は土壌汚染をしない親油性の害虫忌避効果を持つ薬剤をキャノーラ油やオレイン酸のような食用油に溶かして、さらに前記溶解させた食用油を粒状又は塊状の珪藻土やゼオライトのような多孔性物質に含浸させたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有害生物忌避材は、樟脳、パラジクロロゼン又はナフタレンのような天然由来の又は土壌汚染をしない親油性の害虫忌避効果を持つ薬剤をキャノーラ油やオレイン酸のような食用油に溶かして、さらに前記溶解させた食用油を粒状又は塊状の珪藻土やゼオライトのような多孔性物質に含浸させたものであるため、雨が降っても流出しないし、特殊な容器を必要とせず、かつ土壌汚染をしない、防虫効果が長続きするなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ヤマビルの忌避動作1を実験した写真図である。
【図2】ヤマビルの忌避動作2を実験した写真図である。
【図3】ヤマビルの忌避動作3を実験した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有害生物忌避材の一実施例を以下に説明する。
本発明の有害生物忌避材は、天然由来の又は土壌汚染をしない親油性の害虫忌避効果を持つ薬剤を食用油に溶かして、さらに前記溶解させた食用油を粒状又は塊状の多孔性物質に含浸させたものである。
ここで、天然由来の又は土壌汚染をしない親油性の害虫忌避効果を持つ薬剤としては、化学合成されたものではなく害虫忌避を持つ植物由来の天然成分や、昇華してしまい土壌には残存しない化学合成の害虫忌避剤などを用いることができる。例えば、これらに限定されるわけではないが、くすのきの精油成分で白色半透明の固体である樟脳(しょうのう)や、ココナッツオイルやヤシ油に含まれる酸で白色の固体であるラウリン酸、シトロネラール、テルピネオール、ティートリー油、パラジクロロベンゼンやナフタレンなどを使用することができる。これらの中でも、ヤマビルに対する効果が高いものとして、樟脳、パラジクロロベンゼン又はナフタレンを用いることが好ましい。ラウリン酸については、食用油に溶かして直接ヤマビルに接触させると効果を発揮するが、本手法では効果が弱い。
前記食用油としては、アブラナの一品種から採れるキャノーラ油や、オリーブオイルやナッツ類に含まれるオレイン酸などの高級脂肪酸や、パーム油、サラダ油、大豆油、コーン油、ごま油などを用いることができる。これらの中でも、安定性と価格の面から、キャノーラ油又はオレイン酸を用いることが好ましい。
前記多孔性物質は、ペレット状に成形した珪藻土や小石状の大きさのゼオライトを使用する。
樟脳、パラジクロロベンゼン又はナフタレンのような天然由来の又は環境に優しい親油性の薬剤をキャノーラ油やオレイン酸に溶かして、さらにそれらを珪藻土やゼオライトに吸油させることにより、雨に強く効果が長続きする有害生物忌避材として使用する。
有害生物としては、ヤマビル、ノビル、ナメクジ、カタツムリ、蟻、毛虫、蚊などの環形動物、軟体動物及び昆虫を対象とすることができるが、特にヤマビルを対象とすることが好ましい。
【0011】
実際の使用例としては、次のような方法を想定している。
直接本忌避材を地面に散布すると、僅かであっても薬剤が土壌と接触する恐れがあるので、薬剤を含まない多孔質素材を予め敷き詰める。この多孔質素材としては、珪藻土や細粒ゼオライトが望ましい。
この上に本忌避材を敷き詰め、有害生物忌避を行う。この手法により、ゲリラ豪雨などで余分な薬剤が流れ出しても、下の多孔質素材が再吸収して緩衝効果を持つため、環境への悪影響を防ぐことができる。
薬液の効果が弱くなった際には、害虫忌避効果を持つ薬剤を溶かし込んだ食用油を忌避材に散布することで、同食用油が自発的に忌避材に吸収され効果が復活する。
なお、りんご酸のような固形水溶性の有機酸を、同食用油の散布前に、忌避材上に撒いておけば、油分が仮に無くなっても、今度は、これら有機酸が雨水によって溶け出し、有害生物忌避効果を補う効果も期待できる。
【0012】
さらに進んだ使用法としては、水溶性の有機酸の飽和溶液を作製し、界面活性剤を用いて、それを害虫忌避効果を持つ薬剤を溶かし込んだ食用油と混合してエマルション化する。これを珪藻土やゼオライトなどの多孔性物質に染み込ませることにより、使用中に油分が少なくなった際に、これら水溶性の有機酸が雨水によって珪藻土やゼオライト内部から溶け出し、有害生物忌避効果を補うことができる。
【実施例】
【0013】
次に、本有害生物忌避材の実験結果を添付図面に基づいて、以下に説明する。
本実験の有害生物忌避材には、樟脳を飽和濃度で溶かし込んだオレイン酸を含浸させたゼオライトを使用した。
図1〜3に示すように、樟脳を溶かし込んだオレイン酸を含浸させたゼオライトを浅皿容器にドーナッツ状となるように敷詰め、円環状中央の空間部にヤマビル一匹を置いた。
図1〜3に示すように、ヤマビルは、移動しようとして尺取虫動作を行おうとするが、近くに樟脳を溶かし込んだオレイン酸を含浸させたゼオライトがあるため、樟脳の臭いを嫌い忌避行動を行う。
しかし、周囲をオレイン酸を含浸させたゼオライトによりドーナッツ状に囲まれているので、ヤマビルは樟脳の臭いを嫌って着地動作をすることができず、図1〜3に示すように旋回動作を行うだけで、円の外へ出ることができなかった。
なお、単にオレイン酸を吸収させたゼオライトで同様の試験を行った場合は、ゼオライトの円を簡単に乗り越えて外へ出た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然由来の又は土壌汚染をしない親油性の害虫忌避効果を持つ薬剤を食用油に溶かし、該薬剤を溶解させた食用油を粒状又は塊状の多孔性物質に含浸させたことを特徴とする、有害生物忌避材。
【請求項2】
前記有害生物が、ヤマビルであることを特徴とする、請求項1に記載の有害生物忌避材。
【請求項3】
前記薬剤は、樟脳、パラジクロロベンゼン又はナフタレンであることを特徴とする、請求項1記載の有害生物忌避材。
【請求項4】
前記食用油は、キャノーラ油又はオレイン酸であることを特徴とする、請求項1記載の有害生物忌避材。
【請求項5】
前記多孔性物質は、珪藻土又はゼオライトであることを特徴とする、請求項1記載の有害生物忌避材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−72083(P2012−72083A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217936(P2010−217936)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(502117778)中央シリカ株式会社 (9)
【出願人】(592142991)ジークライト株式会社 (6)
【Fターム(参考)】