説明

有害生物防除組成物

【課題】本発明は、Bacillus thuringiensis(BT菌)を利用しながら、より低薬量にて優れた防除効果を有する有害生物防除剤の開発を目的とする。
【解決手段】A成分:殺虫活性を有するBT菌、及びB成分:昆虫病原性糸状菌(Beauveria bassiana、B.brongniartii等のボーベリア属菌;Verticillium lecanii等のバーティシリウム属菌:Paecilomyces fumosoroseus等のペキロマイセス属菌の少なくともひとつ)を併用することにより、相加効果をはるかに超えた相乗効果が奏される。もって、少量の施用量にて有害生物の防除が効率的に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害生物防除組成物、より具体的には、殺虫活性を有するバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)及び昆虫病原性糸状菌とを含有する有害生物防除組成物等に関する。本発明は、殺虫成分を併用することにより殺虫作用において相乗効果を奏する点ですぐれているだけでなく、殺虫成分でありながらこれらの殺虫成分を併用することによって、殺虫とは全く異なる殺菌作用をも奏する点できわめて特徴的である。
【背景技術】
【0002】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis:以下、BTと略称することがある)は、土壌細菌の一種であり、1901年にカイコの病原細菌として世界で初めて日本人研究者の石渡繁胤により分離された。以来、BTは微生物農薬として幅広く農業害虫や衛生害虫の防除に利用されてきている。BTは栄養細胞中に胞子を形成する際、胞子に隣接して結晶性のタンパク質を産生し、このタンパク質は昆虫の腸内で、プロテアーゼにより活性化され、昆虫に対して殺虫活性を示すことが知られている。BTはその亜種の違いにより殺虫活性が異なっており、例えば亜種クルスタキー(kurstaki)およびアイザワイ(aizawai)は鱗翅目、双翅目昆虫に活性を示し、イスラエレンシス(israelensis)は双翅目昆虫に、またテネブリオニス(tenebrionis)およびヤポネンシス・ブイブイ(japonensis Buibui)は鞘翅目昆虫にそれぞれ活性を示すことが知られている。
【0003】
一方、例えばボーベリア(Beauveria)属菌、バーティシリウム(Verticillium)属菌及びペキロマイセス(Paecilomyces)属菌等の糸状菌を用いて、昆虫等の害虫を防除する方法が知られている。ボーベリア属菌は、鱗翅目、鞘翅目の害虫の防除に、バーティシリウム属菌は、半翅目の害虫防除に、又、ペキロマイセス属菌は、半翅目の害虫防除に用いられることが報告されている。
【0004】
しかしながら、BTと昆虫病原性糸状菌とを併用することによって、相乗的殺虫効果が奏されることは従来知られていない。ましてや、これらの殺虫成分を併用することにより、殺虫のほか更に殺菌効果も同時に奏されることについては全く知られていない。本発明は、BT及び昆虫病原性糸状菌とを含有する殺虫殺菌組成物に関するものであるが、このような特異的な作用を有する組成物は従来知られておらず、本発明が最先である。
【非特許文献1】昆虫病理学 福原敏彦 著(学会出版センター)01641−1104
【非特許文献2】微生物の資材化:研究の最前線 鈴井孝仁、岡田齊夫、国見裕久、牧野孝宏、斎藤雅典、宮下清貴 編集(ソフトサイエンス社)4−88171−092−3
【特許文献1】特開2003−33561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BTを利用しながら、例えば、農園芸における害虫に対して、より低薬量にて優れた防除効果を有する有害生物防除剤の開発が望まれている。また、昆虫病原性糸状菌を利用しながら、例えば、農園芸における害虫に対して、より低薬量にて優れた防除効果を有する有害生物防除剤の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、鋭意検討した結果、単に混合した時に得られると予想される相加効果以上の相乗効果を得ることが出来、使用する薬量の低減を可能とする有害生物防除組成物における組み合わせを見出し、そして更に、これらの殺虫成分を併用したところ、全く予想せざることに、殺虫成分でありながら併用によって殺菌作用という異質にして新規な作用が奏されることもはじめて見出した。本発明は、これらの有用にして新規な知見に基づき更に検討、研究の結果、ついに完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、BTと昆虫病原性糸状菌とを含有する有害生物防除組成物に関するものであって、その実施態様として以下に例示される発明を包含するものである。
【0008】
1.A成分として、殺虫活性を有するバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)、及び、B成分として、1種又は2種以上の昆虫病原性糸状菌を含有し、殺虫作用(特に、相乗的殺虫作用)及びこれら両殺虫成分の併用により殺菌作用を併有すること、を特徴とする有害生物防除組成物(殺虫殺菌組成物、殺虫及び/又は殺菌剤)。
2.前記1において、A成分がバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質であり、B成分が昆虫病原性糸状菌である、前記1項に記載の有害生物防除組成物。
3.殺虫性タンパク質が、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)の生菌体、その菌芽胞、それらを熱若しくは化学的手段により死菌化処理した菌体、又はそれら菌体の破砕物に含まれた状態である殺虫性タンパク質の少なくともひとつであることを特徴とする前記1又は2項に記載の有害生物防除組成物。
【0009】
4.昆虫病原性糸状菌がボーベリア(Beauveria)属、バーティシリウム(Verticillium)属、又はペキロマイセス(Paecilomyces)属の少なくともひとつであることを特徴とする前記1〜3項のいずれかに記載の有害生物防除組成物。
5.昆虫病原性糸状菌がボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・ブロンニアルティ(Beauveria brongniartii)、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)の少なくともひとつであることを特徴とする前記1〜4項のいずれかに記載の有害生物防除組成物。
【0010】
6.処理液1リットル当り、A成分として、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)菌を重量として0.1mg〜1000mgの範囲で、B成分として、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を分生子数として1×106個〜1×1015個の範囲、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)を胞子数として1×106個〜1×1014個の範囲、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)を胞子数として1×103個〜1×1012個の範囲、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)を胞子数として1×103個〜1×1011個の範囲、の少なくともひとつで含有してなることを特徴とする、前記1〜5項のいずれかに記載の有害生物防除組成物。
7.処理液1リットル当り、A成分として、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)菌を重量として1mg〜500mgの範囲で、B成分として、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を分生子数として1×107個〜3×1012個の範囲、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)を胞子数として1×107個〜1×1012個の範囲、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)を胞子数として1×105個〜1×1010個の範囲、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)を胞子数として1×105個〜1×1010個の範囲、の少なくともひとつで含有してなることを特徴とする、前記1〜6項のいずれかに記載の有害生物防除組成物。
8.処理液1リットル当り、A成分として、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)菌を重量として5mg〜100mgの範囲で、B成分として、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を分生子数として5×108個〜4×1010個の範囲、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)を胞子数として7×108個〜2×1010個の範囲、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)を胞子数として3×107個〜5×108個の範囲、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)を胞子数として6×107個〜1×109個の範囲、の少なくともひとつで含有してなることを特徴とする、前記1〜7項のいずれかに記載の有害生物防除組成物。
【0011】
9.バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質と昆虫病原性糸状菌との両者の有効量を、混用又は同時若しくは非同時に併用して、保護すべき植物、有害生物又は有害生物の生息場所に施用することにより、殺虫又は殺菌、あるいは殺虫及び殺菌の双方を行うこと、を特徴とする有害生物防除方法。
10.有害生物が鱗翅目害虫であることを特徴とする前記9に記載の有害生物防除方法。
11.有害生物がハスモンヨトウ(Spodoptera litura)であることを特徴とする前記10に記載の有害生物防除方法。
【0012】
12.殺虫及び/又は殺菌を行う有害生物防除のための、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質と昆虫病原性糸状菌との組み合わせ使用。
【0013】
13.バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が亜種アイザワイ(aizawai)である、上記1〜12のいずれかに記載の有害生物防除組成物及び/又は有害生物防除方法。
14.バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)がABTS−1857株(寄託番号:ATCC/SD−5415)である、上記1〜13のいずれかに記載の有害生物防除組成物及び/又は有害生物防除方法。
15.ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)がGHA株(Strain GHA)であることを特徴とする上記1〜14のいずれかに記載の有害生物防除組成物及び/又は有害生物防除方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、単に混合した時に得られると予想される相加効果以上の相乗効果を得ることが出来、使用する薬量の低減を可能とする有害生物防除組成物を提供可能とする。また、両殺虫成分を混合することにより、殺虫効果において相乗的効果が奏されるほか、殺菌効果という全く新規にして異質且つ予想し得ない著効が奏される。したがって、本発明によれば別途殺菌剤を施用する必要がなく、使用する殺菌剤の薬量の低減も可能となる。
【0015】
したがって、本発明は、農薬の施用量及び施用回数を低減することができ、環境に配慮し且つ農業の省力化にも資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明組成物において有効成分の一つとして用いられるBT菌は、天然から分離してもよいし、菌株保存機関等から購入してもよい。例えば、亜種クルスタキー(kurstaki)、アイザワイ(aizawai)、イスラエレンシス(israelensis)、テネブリオニス(tenebrionis)およびヤポネンシス・ブイブイ(japonensis Buibui)が本発明組成物に好ましく用いることができる。
【0017】
天然から分離する場合には、まず、土壌を野外から採取する。採取された土壌を滅菌水で懸濁させた後、当該懸濁液を、例えば、枯草菌等の微生物分離用固体培地上に塗布し、これを25℃で培養し、数日後に生えてきた菌の独立したコロニーを切り取り、新しい、例えば、枯草菌等の微生物分離用固体培地に移植し、これをさらに25℃で培養する。生育してきた菌について、SNEATH, (P.H.A.), MAIR, (N.S.) SHARPE, (M.E.) and HOLT, (J.G.):Bergey’s manual of Systematic Bacteriology. Vol.2. 1984, Williams and Wilkins, Baltimore.等に記載される方法等に従って、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌であるかを同定することにより、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌を選抜すればよい。つぎに、選抜されたバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌から、例えば、生物活性評価法に従って確認することにより、殺虫活性を示すバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌を選抜すればよい。
【0018】
本発明組成物において有効成分の一つとして用いられる殺虫性タンパク質は、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質であれば特に制限はないが、具体的には例えば、CryIA(a)、CryIA(b)、CryIA(c)、CryIB、CryIC、CryID、CryIF、CryIIA、CryIIB、CryIIIA、CryIIIB、CryIIIC、CryIIID、CryV、CryVI等をあげることができる。これら本タンパク質は、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌により産生されるが、その中でも例えば、クルスタキー(kurstaki)、アイザワイ(aizawai)、テネブリオニス(tenebrionis)、ヤポネンシス・ブイブイ(japonensis Buibui)等の亜種に属する前記細菌により産生されるものが本発明組成物に好ましく用いることができる。
【0019】
また、本タンパク質は、天然に存在するバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌により産生されるものであっても、通常の遺伝子工学的な手法を用いて作製された形質転換体(例えば、大腸菌、枯草菌、植物等)により産生されるものであってもよい。尚、このような形質転換体を作製する際に用いられる、本タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(以下、本遺伝子と記すこともある。)は、(1)天然に存在する遺伝子の中からクローニングされたものであってもよいし、(2)天然に存在する遺伝子であっても、このクローニングされた遺伝子の塩基配列において、その一部の塩基の欠失、置換又は付加が人為的に導入されてなる遺伝子(即ち、天然に存在する遺伝子を変異処理(部分変異導入法、突然変異処理等)を行ったもの)であってもよいし、(3)人為的に合成されたものであってもよい。
【0020】
本発明組成物で用いられる本タンパク質は、当該タンパク質自体そのままでもよいが、例えば、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)の生菌体、その菌芽胞、それらを熱若しくは化学的手段により死菌化処理された菌体、又はそれら菌体の破砕物に含まれた状態である殺虫性タンパク質であってもよい。
【0021】
尚、殺虫性タンパク質を産生し得るバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌を培養する培地としては、一般的細菌用培地、普通ブイヨン液体培地等があげられるが、当該細菌が増殖する培地であれば何でもよい。前述の如く、上記の培地を用いて培養されたバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌及びその産生物を培地ごと遠心分離及び/又は乾燥して本発明組成物の一つの有効成分である本タンパク質として用いるか、或いは公知の方法に従って前記培地から分離された殺虫性タンパク質自体そのままを用いればよい。因みに、本タンパク質自体そのままの分子量は、数万〜十数万ダルトンであり、所定回数の分裂を繰り返したバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌が崩壊する際に菌芽胞とともに放出される結晶性物質である。
【0022】
本発明組成物で用いられるバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)および本タンパク質は、市販のBT製剤品を用いてもよく、例えば、エコマスターBT(商品名)(クミアイ化学工業株式会社)、フローバックDF(商品名)(住友化学株式会社)又はチューンアップ顆粒水和剤(商品名)(アグロ カネショウ株式会社製)等をあげることができる。
【0023】
本発明組成物において他の一つの有効成分として用いられる昆虫病原性糸状菌は昆虫に寄生することにより昆虫を死に至らしめる糸状菌で、鱗翅目昆虫、鞘翅目昆虫、半翅目昆虫、アザミウマ目昆虫などに特に病原性が高いことが知られている。また、害虫の化学殺虫剤に対する感受性低下の問題等から、生物農薬として総合害虫管理技術の一資源として重要視されている。さらに、昆虫病原性糸状菌類は昆虫以外には感染せず、人畜、魚介、鳥類に無害であることから、無公害の殺虫剤として利用が探求されてきた。
【0024】
昆虫病原性糸状菌としては、ボーベリア属、バーティシリウム属、ペキロマイセス属に属する糸状菌が適宜単独又は組み合わせて使用できる。例えば、昆虫病原性糸状菌としては、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)の少なくともひとつが例示される。また、市販品も使用可能である。
【0025】
本発明組成物は、例えば、広範囲な農園芸における有害生物(例えば、昆虫類や有害ダニ類等)の防除に利用できる。特に鱗翅目害虫に対して好適に用いることができる。その代表例として、下記のものが挙げられる。
【0026】
鱗翅目害虫:ニカメイガ(Chilo suppressalis)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)、ヨーロピアンコーンボーラー(Ostrinia nubilalis)、シバツトガ(Parapediasia teterrella)等のメイガ類、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(Mamestra brasicae)、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)、タマナギンウワバ(Autographa nigrisigna)、ヘリオティス属(Heliothis spp.)、ヘリコベルパ属(Helicoverpa spp.)、エアリアス属(Earias spp.)等のヤガ類、モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora)等のシロチョウ類、チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai)、リンゴコカクモンハマキ(Adoxophyes orana fasciata)、ナシヒメシンクイ(Grapholita molesta)、コドリングモス(Cydia pomonella)等のハマキガ類、モモシンクイガ(Carposina niponensis)等のシンクイガ類、モモハモグリガ(Lyonetia clerkella)等のチビガ類、キンモンホソガ(Phyllonorycter ringoniella)等のホソガ類、ミカンハモグリガ(Phyllocnistis citrella)等のコハモグリガ類、コナガ(Plutella xylostella)などのスガ類、ドクガ(Euproctis taiwana)、マイマイガ(Lymantria dispar)、モンシロドクガ(Euproctis similis)などのドクガ類、ヒメクロイラガ(Scopelodes contracus)などのイラガ類、マツカレハ(Dendrolimus spectabilis)などのカレハガ類、ピンクボールワーム(Pectinophora gossypiella)等のキバガ類、ヒトリガ類、ヒロズコガ類等。
【0027】
双翅目害虫:マメハモグリバエ(Liriomyza trifolii)、ナスハモグリバエ(Liriomyza bryoniae)、トマトハモグリバエ(Liriomyza sativae)、ヨメナスジハモグリバエ(Liriomyza asterivora)、ナモグリバエ(Chromatomyia horticola)等のハモグリバエ類、イエカ類、ヤブカ類、ハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ハナバエ類、タマバエ類、ミバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、アブ類、ブユ類、サシバエ類等
【0028】
鞘翅目害虫:ハムシ類、コガネムシ類、ゾウムシ類、オトシブミ類、テントウムシ類、カミキリムシ類、ゴミムシダマシ類等
【0029】
本発明組成物は、有害昆虫類やダニ類の防除に利用できるほか、植物病害の防除にも利用できる。本発明組成物が防除できる植物の病原菌としては、代表例として下記のものが挙げられる。
【0030】
シュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)属菌、例えばキュウリべと病菌(Pseudoperonospora cubensis)、ベンチュリア(Venturia)属菌、例えばリンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)、エリシフエ(Erysiphe)属菌、例えばコムギうどんこ病菌(Erysiphe graminis)、ピリキュラリア(Pyricularia)属菌、例えばイネいもち病菌(Pyricularia oryzae)、ボトリチス(Botrytis)属菌、例えばキュウリ灰色かび病菌(Botrytis cinerea)、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、例えばイネ紋枯病菌(Rhizoctonia solani)、クラドスポリウム(Cladosporium)属菌、例えばトマト葉かび病菌(Cladosporium fulvum)、コレトトリカム(Colletotrichum)属菌、例えばイチゴ炭そ病菌(Colletotrichum acutatum)、パクシニア(Puccinia)属菌、例えばコムギ赤さび病菌(Puccinia recondita)、セプトリア(Septoria)属菌、例えばコムギふ枯病菌(Septoria nodorum)、スクレロティニア(Sclerotinia)属菌、例えばキュウリ菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)、ピシウム(Pythium)属菌、例えばキュウリ苗立枯病菌(Pythium debaryanum Hesse)、ゲワマノマイセス(Gaeumannomyces)属菌、例えばコムギ立枯病菌(Gaeumannomyces graminis)、フザリウム(Fusarium)属菌、例えばイネばか苗病菌(Fusarium moniliforme)、また細菌として、バークホルデリア(Burkholderia)属菌、例えばイネ苗立枯細菌病菌(Burkholderia plantarii)、アシドボラックス(Acidovorax)属菌、例えばイネ褐条病菌(Acidovorax avenae)などをあげることができるが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0031】
本発明に係る有害生物防除剤が施用される作物としては、穀類(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソバ)、イモ類(例えば、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ)、マメ類(例えば、ダイズ、インゲン、アズキ、エンドウ)、野菜類(例えば、ウリ類、トマト、ナス、ピーマン、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、レタス、ニンジン、ネギ、タマネギ、イチゴ、ホウレンソウ、セロリ)、果樹(例えば、リンゴ、ナシ、オウトウ、モモ、ブドウ、カキ、カンキツ類、キウイ)、特用作物(例えば、ワタ、ナタネ、ヒマワリ、ビート、サトウキビ、タバコ)、芝、樹木、観賞用植物(例えば、バラ、キク、チューリップ、カスミ草、トルコキキョウ、等)などをあげることができるが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。また、本発明の有害生物防除剤は、遺伝子組み換え等の技術により形質転換された作物にも同様に使用できる。
【0032】
本発明組成物において、BT菌と昆虫病原性糸状菌との混合割合としては、例えば、処理液1リットル当り、BT菌を重量として0.1mg〜1000mgの範囲で、昆虫病原性糸状菌を分生子胞子数として1×103個〜1×1015個の範囲で混合する。好ましくは、処理液1リットル当り、BT菌を重量として1mg〜500mgの範囲で、昆虫病原性糸状菌を胞子分生子数として1×105個〜3×1012個の範囲で混合する。さらに好ましくは、処理液1リットル当り、BT菌を重量として5mg〜100mgの範囲で、昆虫病原性糸状菌を胞子分生子数として3×107個〜1×109個の範囲で混合する。
【0033】
本発明組成物を用いる場合には、他の何らの成分も加えず、そのまま用いてよいが、通常は当該混合物にさらに担体、必要により界面活性剤、その他の製剤用補助剤を加えることにより、油剤、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、水中懸濁剤・水中乳濁剤等のフロアブル剤、粉剤、粒剤、エアゾール、マイクロカプセル剤、毒餌剤等として用いることが好ましい。これらの製剤には、有効成分として本発明組成物を、通常、重量比で約0.01〜95%含有させることがよい。
【0034】
これらの製剤は公知の方法で製造することができる。かかる方法は、例えば有効成分と、製剤化に一般的に用いられる担体、界面活性剤、固着剤、分散剤、安定剤または泡沫形成剤等とを配合することによって行うことができる。
【0035】
製剤化の際に用いられる固体坦体としては、例えば、粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク類、セラミック類、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末や粒状物があげられる。
【0036】
液体坦体としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、非芳香族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等)、酸アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、ジメチルスルホキシド、植物油(大豆油、綿実油等)等があげられる。
また、ガス状担体、即ち、噴射剤としては、例えばフロンガス、ブタンガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス等があげられる。
【0037】
界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類及びそのポリオキシエチレン化合物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体等があげられる。
【0038】
その他の製剤用補助剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールおよび3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール)、植物油、鉱物油、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0039】
毒餌剤の基材としては、例えば、穀物粉、植物油、糖、結晶セルロース等の餌成分、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアイアレチン酸等の酸化防止剤、デヒドロ酢酸等の保存料、トウガラシ末等の誤食防止剤、チーズ香料、タマネギ香料等の誘引性香料等が挙げられる。
【0040】
本発明組成物は、各々の有効成分を上記の製剤手法により製剤した後、これら製剤を混合することにより調製することもできる。即ち、本発明組成物は、その製剤形態によっては、各々の有効成分をそれぞれ予め製剤化したものを混合することにより調製してもよく、また、それらを施用時に混用又は同時若しくは非同時に併用することもできる。
【0041】
このようにして製剤化された本発明組成物は、そのままで、あるいは水等に希釈して用いる。また、さらに他の殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、除草剤、植物成長調節剤、共力剤、肥料、土壌改良剤、動物用飼料等を混用又は同時若しくは非同時に併用することもできる。
これらの農薬成分は市販されているか、または農薬として知られた成分であり、これらの成分は、農薬ハンドブック(2002年)、農薬要覧(2005年)(いずれも日本植物防疫協会)、クミアイ農薬総覧(2005年)、SHIBUYA INDEX(2005年)(いずれも全農)などで知られる。
本発明組成物は、その有効量を、有害生物、有害生物の生息場所、有害生物から保護すべき植物等に処理される。その際、本発明組成物が乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等に製剤化されたものである場合には、通常、水等で希釈して処理される。
【0042】
本発明組成物を、例えば、農園芸における有害生物に対して処理する場合には、本発明組成物の有効量又は施用量は、通常、1000m2当たりの施用量で約0.1〜1000gである。尚、粒剤、粉剤、油剤等のまま施用する場合には、通常、上記の有効量又は施用量となるように何ら希釈することなくそのまま施用すればよい。また、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等を水に希釈して施用する場合でも、上記の有効量又は施用量となるように水で希釈して施用すればよい。
【0043】
上記の有効量又は施用量は、いずれも製剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、害虫の種類、被害程度等の状況によって異なり、上記の範囲に関わることなく増減して適宜選択することができる。
【0044】
本発明組成物は、既存の有害生物防除剤に抵抗性を獲得した前述の有害生物等にも防除効果を示す。特に有機リン系化合物、カーバメート系化合物、合成ピレスロイド系化合物、アシルウレア系化合物あるいは既存の殺虫剤に抵抗性を示す害虫に対して有効である。
【0045】
本発明組成物は、遺伝子組換え、人工交配等で害虫耐性、病害耐性、除草剤耐性等の特性を獲得した植物にも使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を製剤例及び試験例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0047】
なお、後述された「BT菌培養物」とは、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌由来の生芽胞を1ml当たり1×103個含む胞子懸濁液100μlを、500mlフラスコに入れて滅菌されたL−broth液体培地(100ml)に接種し、25℃の条件下で、2〜5日間程度振とう培養(150rpm)を行い、その後、得られた培養液からバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)に属する細菌由来の芽胞と形成殺虫性タンパク質との両者を遠心分離により回収し、乾燥することにより得られた培養物(即ち、本タンパク質の一つの形態)を意味する。市販品も使用可能である。
【0048】
後述された「昆虫病原性糸状菌培養物」とは、感染虫より分離した昆虫病原性糸状菌を、マルトース(SMY)培地(組成;ペプトン10g、酵母エキス10g、マルトース20g、寒天20g、蒸留水1000ml)上の一面に塗布して27℃で2週間静置培養し、その後、蒸留水を用いて培地上を洗い、分生子を集めた培養物を意味する。市販品も使用可能である。
また、製剤例の使用割合を示す「部」は特にことわりのない限り重量部を意味する。
【0049】
(製剤例1:乳剤)
BT菌培養物10部と、昆虫病原性糸状菌培養物1部とを、キシレン36.5部及びジメチルホルムアミド36.5部に溶解し、これにポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル10部及びドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部を加え、よく攪拌混合して乳剤を得る。
【0050】
(製剤例2:水和剤)
BT菌培養物45部と、昆虫病原性糸状菌培養物5部とを、ラウリル硫酸ナトリウム4部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、合成含水酸化珪素微粉末22部及び珪藻土22部を混合した中に加え、よく攪拌混合して水和剤を得る。
【0051】
(製剤例3:粒剤)
BT菌培養物5部に、昆虫病原性糸状菌培養物1部、合成含水酸化珪素微粉末5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、ベントナイト30部及びクレー54部を加え、よく攪拌混合し、次いでこれらの混合物に適当量の水を加え、さらに攪拌し、増粒機で製粒し、通風乾燥して粒剤を得る。
【0052】
(製剤例4:粉剤)
BT菌培養物4部と、昆虫病原性糸状菌培養物0.5部、合成含水酸化珪素微粉末1部、凝集剤としてドリレスB(三共株式会社製)1部及びクレー8部とを乳鉢でよく混合した後にジュースミキサーで攪拌混合する。得られた混合物にカットクレー86.5部を加えて、充分攪拌混合して粉剤を得る。
【0053】
(製剤例5:フロアブル剤)
BT菌培養物10部と昆虫病原性糸状菌培養物1部及びソルビタントリオエレート1.5部とを、ポリビニルアルコール2部を含む水溶液24.5部中に加え、よく攪拌混合し、次いでこれらの混合物をサンドグラインダーで微粉砕(粒径3μm以下)した後、この中に、キサンタンガム0.05部及びアルミニウムマグネシウムシリケート0.1部を含む水溶液48部を加え、さらにプロピレングリコール15部を加えて攪拌混合してフロアブル剤を得る。
【0054】
次に本発明組成物が優れた有害生物防除効果を示すことを試験例により示す。なお、2種類の有効成分を混合して処理した際に予想される死虫率の理論値は、例えば、コルビー(Colby)の計算式で代表される計算式(即ち、E=a+b−(a×b/100))により求められる。
【0055】
当該式において、
a:有効成分AをM倍の希釈倍数で処理した際の死虫率(%)
b:有効成分BをN倍の希釈倍数で処理した際の死虫率(%)
E:有効成分AをM倍の希釈倍数、有効成分BをN倍の希釈倍数で処理した際に予想される死虫率の理論値(%)
を表している。
【0056】
本発明組成物の有害生物防除効果がコルビーの計算式より求められる理論値(E)より大きい場合は、この組み合わせによる有害生物防除効果は相乗効果を示すこととなる。
【0057】
(試験例1:ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)に対する食葉浸漬試験)
供試薬剤
BT菌製剤品:フローバックDF(商品名)(バチルス・チューリンジエンシス亜種アイザワイ/Bacillus thuringiensis subsp.aizawai)(BT菌の生芽胞及び産生結晶毒素10%)(住友化学株式会社)、昆虫病原性糸状菌製剤品:ボタニガードES(商品名)(ボーベリア・バシアーナ/Beauveria bassiana)(分生子1.6×1010個/ml)(アリスタライフサイエンス株式会社製)、昆虫病原性糸状菌製品:バイオリサ・カミキリ(商品名)(ボーベリア・ブロンニアティ/Beauveria brongniartii)(1×107cfu/cm2)(出光興産株式会社製)、昆虫病原性糸状菌製剤品;プリファード水和剤(商品名)(ペキロマイセス・フモソロセウス/Paecilomyces fumosoroseus)胞子数1×109cfu/g)(東海物産株式会社製)
上記のBT菌製剤品と所定の上記の昆虫病原性糸状菌製剤品とをそれぞれ所定の希釈倍数になるように混合し、水で希釈して、展着剤(マイリノー:日本農薬株式会社製)を当該希釈液の1/10000量加え、供試薬液を調製した。また、上記の製剤品単独の希釈液もしくは水に展着剤を同様に加え、比較及び無処理として供試した。
【0058】
ダイズ葉を切り取り、これを前記試験用薬液に浸漬した。風乾後、容量60mlのプラスチックカップに入れ、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の2齢幼虫を5頭接種した(3反復)。処理6日後に供試虫の生死を観察し、下記の数1によって補正することにより補正死虫率(%)を算出した。また、下記の表1の基準にしたがって、食害度を求めた。その結果を表2に示す。なお、バイオリサ・カミキリは、水溶液中で製剤担体を振とうし、溶液中の胞子数をトーマ血球計算版を用いて計数し、供試した。
【0059】
【数1】

Mt:供試化合物処理区における死虫率(%)
Mc:供試化合物無処理区における死虫率(%)
【0060】
〔表1〕
食害度:0(食害なし)
1(食害面積が葉全体面積の0%超〜5%以下)
2(食害面積が葉全体面積の5%超〜25%以下)
3(食害面積が葉全体面積の25%超〜50%以下)
4(食害面積が葉全体面積の50%超〜75%以下)
5(食害面積が葉全体面積の75%超〜100%以下)
【0061】
【表2】

【0062】
(試験例2:タマナギンウワバ(Autographa nigrisigna)に対する圃場試験)
供試薬剤
BT菌製剤品:フローバックDF(商品名)(バチルス・チューリンジエンシス亜種アイザワイ/Bacillus thuringiensis subsp.aizawai)(BT菌の生芽胞及び産生結晶毒素10%)(住友化学株式会社)、病原性糸状菌製剤品:ボタニガードES(商品名)(ボーベリア・バシアーナ/Beauveria bassiana)(分生子1.6×1010個/ml)(アリスタライフサイエンス株式会社製)
【0063】
上記のBT菌製剤品と昆虫病原性糸状菌製剤品とをそれぞれ所定の希釈倍数になるように混合し、水で希釈して、展着剤(マイリノー:日本農薬株式会社製)を当該希釈液の1/5000量加え、供試薬液を調製した。また、上記の製剤品単独の希釈液もしくは水に展着剤を同様に加え比較及び無処理として供試した。
【0064】
1区7.2m2(6m×1.2m)当り、本葉6〜7枚のキャベツ(品種:彩音)20株を株間60cm、2条植えで定植した。定植1ヶ月後に、CO2スプレーヤーを用いて、200L/10a相当量の上記の供試薬液を散布した。両端計8株を除く中央12株について、全葉の自然発生の寄生虫数を調査した。得られた結果を下記表3に示した。なお、試験は2反復で行った。
【0065】
【表3】

【0066】
(試験例3:イネいもち病予防効果試験)
供試薬剤
BT菌製剤品:フローバックDF(商品名)(バチルス・チューリンジエンシス亜種アイザワイ/Bacillus thuringiensis subsp.aizawai)(BT菌の生芽胞及び産生結晶毒素10%)(住友化学株式会社)、昆虫病原性糸状菌製剤品:ボタニガードES(商品名)(ボーベリア・バシアーナ/Beauveria bassiana)(分生子1.6×1010個/ml)(アリスタライフサイヱンス株式会社製)、上記のBT菌製剤品と昆虫病原性糸状菌製剤品とをそれぞれ所定の希釈倍数になるように混合し、水で希釈して、展着剤(クミテン:クミアイ化学工業株式会社製)を当該希釈液の1/3000量加え、供試薬液を調製した。また、上記の製剤品単独の希釈液もしくは水に展着剤を同様に加え、比較及び無処理として供試した。
【0067】
直径7.5cmの素焼鉢に催芽したイネ種子(品種:愛知旭)を約18粒ずつ播種し、温室内で4葉期まで育成した。イネ苗を素焼鉢当り約15茎になるように間引き、上記の供試薬液をスプレーガンを用いて噴霧散布した。風乾後、25℃の湿室内でイネいもち病菌(Pyricularia oryzae)の分生胞子懸濁液を噴霧接種し、24時間、暗黒下で感染を促した。その後、温室内に設置した25℃のビニール湿室に移し、接種5日後に第4葉の病斑敬を調査した。得られた結果を下記表4に示した。
【0068】
【表4】

【0069】
(試験例4:ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)に対する食葉浸漬試験)
供試薬剤
BT菌製剤品:チューンアップ顆粒水和剤(商品名)(バチルス・チューリンジエンシス亜種クルスタキー/Bacillus thuringiensis subsp. kurstaki)(BT菌の生芽胞及び産生結晶毒素10%)(アグロ カネショウ株式会社製)、昆虫病原性糸状菌製剤品:ボタニガードES(商品名)(ボーベリア・バシアーナ/Beauveria bassiana)(分生子1.6×1010個/ml)(アリスタライフサイエンス株式会社製)
【0070】
所定の上記のBT菌製剤品と上記の昆虫病原性糸状菌製剤品とをそれぞれ所定の稀釈倍数になるように混合し、水で希釈して、展着剤(マイノリー:日本農薬株式会社製)を当該希釈液の1/10000量加え、供試薬液を調製した。また、上記の製剤品単独の希釈液もしくは水に展着剤を同様に加え、比較及び無処理として供試した。
【0071】
ダイズ葉を切り取り、これを前記試験用薬液に浸漬した。風乾後、容量60mlのプラスチックカプセルにいれ、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の2齢幼虫を5頭接種した(3反復)。処理6日後に供試虫の生死を観察し、前記の数1によって補正することにより補正死虫率(%)を算出した。また、前記の表1の基準にしたがって、食害度を求めた。その結果を表5に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
上記した試験例1〜4からも明らかなように、BTおよび昆虫病原性糸状菌の併用によって相乗殺虫作用及び相乗殺菌作用が奏されることが立証された。
【0074】
以上述べたように、本発明は、BT及び昆虫病原性糸状菌の併用によって、単に混合したときに得られると予想される相加効果以上の相乗効果を得ることが出来、使用する薬量の低減を可能とする有害生物防除組成物を提供可能とするものである。有害生物には昆虫、ダニ、植物病害菌が包含されるので、本発明は、すぐれた殺虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤を提供することができ、更には殺虫殺菌剤のように2つ又はそれ以上の作用を併せ持った薬剤を提供することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A成分として、殺虫活性を有するバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)、及び、B成分として、1種又は2種以上の昆虫病原性糸状菌を含有し、殺虫作用及びこれら両殺虫成分の併用により殺菌作用を併有すること、を特徴とする有害生物防除組成物。
【請求項2】
請求項1において、A成分がバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質であり、B成分が昆虫病原性糸状菌であること、を特徴とする請求項1に記載の有害生物防除組成物。
【請求項3】
殺虫性タンパク質が、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)の生菌体、その菌芽胞、それらを熱若しくは化学的手段により死菌化処理された菌体、又はそれら菌体の破砕物に含まれた状態である殺虫性タンパク質の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有害生物防除組成物。
【請求項4】
昆虫病原性糸状菌がボーベリア(Beauveria)属、バーティシリウム(Verticillium)属、又はペキロマイセス(Paecilomyces)属の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物。
【請求項5】
昆虫病原性糸状菌がボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物。
【請求項6】
処理液1リットル当り、A成分として、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)菌を重量として0.1mg〜1000mgの範囲で、B成分として、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を分生子数として1×106個〜1×1015個の範囲、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)を胞子数として1×106個〜1×1014個の範囲、 バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)を胞子数として1×103個〜1×1012個の範囲、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)を胞子数として1×103個〜1×1011個の範囲、の少なくともひとつで含有してなること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物。
【請求項7】
処理液1リットル当り、A成分として、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)菌を重量として1mg〜500mgの範囲で、B成分として、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を分生子数として1×107個〜3×1012個の範囲、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)を胞子数として1×107個〜1×1012個の範囲、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)を胞子数として1×105個〜1×1010個の範囲、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)を胞子数として1×105個〜1×1010個の範囲、の少なくともひとつで含有してなること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物。
【請求項8】
処理液1リットル当り、A成分として、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)菌を重量として5mg〜100mgの範囲で、B成分として、ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)を分生子数として5×108個〜4×1010個の範囲、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)を胞子数として7×108個〜2×1010個の範囲、バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)を胞子数として3×107個〜5×108個の範囲、又はペキロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)を胞子数として6×107個〜1×109個の範囲、の少なくともひとつで含有してなること、を特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物。
【請求項9】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質と昆虫病原性糸状菌との両者の有効量を、混用又は同時若しくは非同時に併用して、保護すべき植物、有害生物又は有害生物の生息場所に施用することにより殺虫及び/又は殺菌を行うこと、を特徴とする有害生物防除方法。
【請求項10】
有害生物が鱗翅目害虫であること、を特徴とする請求項9に記載の有害生物防除方法。
【請求項11】
有害生物がハスモンヨトウ(Spodoptera litura)であること、を特徴とする請求項10に記載の有害生物防除方法。
【請求項12】
殺虫及び/又は殺菌を行う有害生物防除のための、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が産生し得る殺虫性タンパク質と昆虫病原性糸状菌との組み合わせ使用。
【請求項13】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)が亜種アイザワイ(aizawai)であること、を特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物及び/又は有害生物防除方法。
【請求項14】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)がABTS−1857株(寄託番号:ATCC/SD−5415)であること、を特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物及び/又は有害生物防除方法。
【請求項15】
ボーベリア・バシアーナ(Beauveria bassiana)がGHA株(Strain GHA)であること、を特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の有害生物防除組成物及び/又は有害生物防除方法。

【公開番号】特開2009−286708(P2009−286708A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138735(P2008−138735)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】