説明

有核細胞混合装置

【課題】細胞ソースから分離した有核細胞を、無菌性を担保しながら簡便に補填材と混合する。
【解決手段】細胞ソースAに含まれる有核細胞を捕捉する細胞捕捉フィルタ2と、該細胞捕捉フィルタ2を間に挟んで該細胞捕捉フィルタ2に接続された、細胞ソースAを収容した細胞ソース容器3、および、細胞捕捉フィルタ2を透過した細胞ソースAを収容する排液容器4と、細胞捕捉フィルタ2を間に挟んで該細胞捕捉フィルタ2に接続された、該細胞補足フィルタ2に流体Bを供給する流体供給手段5、および、補填材Cを収容し該補填材Cを吐出可能な吐出口6dを有する回収容器6とを備え、該回収容器6は、容積が可変であるとともに、エアフィルタ6eが設けられた通気孔6cを有する有核細胞混合装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有核細胞混合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、末梢血などの細胞ソースから有核細胞を回収する装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−5655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置によって回収容器内に回収した有核細胞は、βリン酸三カルシウム(β−TCP)顆粒からなる補填材と混合することにより、骨欠損部に移植される補填体として用いることができる。しかしながら、回収容器から有核細胞を取り出して補填材と混合する操作は無菌性を担保しながら行われなければならず、操作が煩雑になってしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞ソースから分離した有核細胞を、無菌性を担保しながら簡便に補填材と混合することができる有核細胞混合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞ソースに含まれる有核細胞を捕捉する細胞捕捉フィルタと、該細胞捕捉フィルタを間に挟んで設けられた、前記細胞ソースを収容した細胞ソース容器、および、前記細胞捕捉フィルタを透過した前記細胞ソースを収容する排液容器と、細胞捕捉フィルタを間に挟んで設けられた、該細胞補足フィルタに流体を供給する流体供給手段、および、補填材を収容し該補填材を吐出可能な吐出口を有する回収容器とを備え、該回収容器が、容積が可変であるとともに、エアフィルタが設けられた通気孔を有する有核細胞混合装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、細胞ソース容器から排液容器へ細胞ソースを流動させることにより細胞捕捉フィルタに有核細胞を捕捉させた後、流体供給手段によって細胞捕捉フィルタに流体を供給することにより、細胞捕捉フィルタに捕捉された有核細胞を回収容器へ移動させて、回収容器内において補填材と有核細胞とが混合された補填体を調製することができる。
【0008】
この場合に、回収容器内へ有核細胞を移動させた後、回収容器の容積を変化させることにより、補填材と有核細胞とを効率良く混合することができる。また、流体を細胞捕捉フィルタに供給したとき、および、回収容器の容積を変化させたときに、通気孔を介して回収容器の内外で空気が移動するが、通気孔に設けられたエアフィルタによって回収容器内の無菌性は維持される。これにより、細胞ソースから分離した有核細胞と補填材とを無菌性を担保しながら混合することができる。
【0009】
上記発明においては、前記補填材が、ハイドロキシアパタイト(HAP)、コラーゲン、ゼラチンおよびβリン酸三カルシウムのいずれかからなることとしてもよい。
このようにすることで、回収容器内において骨移植用をはじめとする補填体を調整することができる。
また、上記発明においては、前記細胞ソースが、末梢血、臍帯血、骨髄液、脂肪組織、滑膜組織または胎盤組織のいずれかであってもよい。
【0010】
また、上記発明においては、前記回収容器が、その長手方向に伸縮可能な蛇腹状の側壁を有する筒状のハウジング部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、操作者がハウジング部の少なくとも一方の端を押し引きするだけで容易にハウジング部の容積を変化させて補填材と有核細胞とを混合することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記ハウジング部は、前記側壁が半径方向に変形可能な可撓性を有することが好ましい。
このようにすることで、ハウジング部の側壁を半径方向に押圧することによっても補填材と有核細胞とを混合することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記流体が、空気、二酸化炭素および窒素のうちいずれかであることが好ましい。
このようにすることで、細胞捕捉フィルタに捕捉された有核細胞を濃縮された状態で回収することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記回収容器は、少なくとも一部が透明部材からなることとしてもよい。
このようにすることで、補填材と有核細胞との混合状態を操作者が回収容器の外側から容易に視認することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞ソースから分離した有核細胞を、無菌性を担保しながら簡便に補填材と混合することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る有核細胞混合装置の全体構成図である。
【図2】図1の有核細胞混合装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態に係る有核細胞混合装置1について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る有核細胞混合装置1は、図1に示されるように、末梢血Aに含まれる有核細胞を捕捉する細胞捕捉フィルタ2と、該細胞捕捉フィルタ2に無菌的に接続された血液容器(細胞ソース容器)3、排液容器4、シリンジ(流体供給手段)5および回収容器6とを備えている。
【0017】
細胞捕捉フィルタ2は、上側に血液供給ポート2a、下側に血液排出ポート2b、一方の側面に空気供給ポート2c、該空気供給ポート2cと対向する側面に空気排出ポート2dを有している。各ポート2a〜2dは、バルブV1〜V4によってそれぞれ開閉可能になっている。細胞捕捉フィルタ2としては、旭化成クラレメディカル社製のStemQuick(登録商標)のような、末梢血Aに含まれる有核細胞を選択的に捕捉可能なものが採用される。
【0018】
血液容器3は、細胞ソースとして末梢血Aを収容している。血液容器3は、チューブ7を介して血液供給ポート2aに接続され、細胞捕捉フィルタ2よりも高い位置において排出口3aを下方に向けて懸架されている。細胞ソースとしては、末梢血Aの他、臍帯血、骨髄液、脂肪組織、滑膜組織または胎盤組織を使用してもよい。これらの中で粘性の高いものや流動性を有していないものについては酵素処理などを行い、粘性を低下させたり分解したりして液状化させた後に使用することが望ましい。
【0019】
排液容器4は、チューブ7を介して血液排出ポート2bに接続され、細胞捕捉フィルタ2よりも低い位置に配置されている。
バルブV1,V2を開状態にすることにより、血液容器3内の末梢血Aはその自重によって細胞捕捉フィルタ2を通過して排液容器4へ流動するようになっている。
【0020】
シリンジ5は、空気(流体)Bを収容し、空気供給ポート2cに接続されている。V1,V2を閉状態にし、V3,V4を開状態にし、シリンジ5から細胞捕捉フィルタ2に空気Bを圧入することにより、細胞捕捉フィルタ2に捕捉されていた有核細胞が回収容器6へ移動させられるようになっている。符号5aは、シリンジ5内の空気Bに含まれる埃塵やウイルス、菌などの通過を禁止するエアフィルタである。なお、シリンジ5に収容される気体としては、有核細胞への影響が十分に小さい気体であればよく、空気以外に二酸化炭素や窒素を用いることもできる。
【0021】
回収容器6は、長手方向に伸縮可能な蛇腹状の側壁を有する筒状のハウジング部6aと、該ハウジング部6aの両端に設けられた硬質な把持部6bとを備えている。ハウジング部6aは、チューブ7を介して空気排出ポート2dに接続されている。ハウジング部6aは、β−TCP多孔体の顆粒からなる補填材Cを収容している。また、ハウジング部6aは、ポリプロピレンのような可撓性を有し、かつ、可視光に対して透明な材料からなっている。これにより、ハウジング部6aは、側面が押圧されたときにして凹み、押圧から解放されたときに元の筒状に復元するようになっている。また、操作者は外側からハウジング部6aの内部を視認可能となっている。
【0022】
操作者は、ハウジング部6aの長手方向を略水平に向けて把持部6bを把持し、把持部6bを互いに近接する方向と離間する方向に往復運動させることにより、ハウジン部6aを伸縮させてハウジング部6a内の補填材Cを撹拌することができるようになっている。また、操作者は、ハウジング部6aの側面を手で把持して半径方向にハウジング部6aの押圧と開放とを繰り返すことによっても、内部の補填材Cを撹拌することができるようになっている。
【0023】
ハウジング部6aは、外部と連通した通気孔6cと、補填材Cを吐出可能な吐出口6dとを備えている。通気孔6cおよび吐出口6dはそれぞれ、バルブV5,V6によって開閉可能になっている。通気孔6cには、中空糸膜などからなり、ハウジング部6aの外部の空気中の埃塵やウイルス、菌などがハウジング部6aの内部へ侵入することを禁止するエアフィルタ6eが設けられている。
【0024】
これにより、ハウジング部6aが伸縮させられて容積が変化したときに通気孔6cを介してハウジング部6aの内外で空気が移動しても、通気孔6cに設けられたエアフィルタ6eによってハウジング部6a内が無菌状態に維持されるようになっている。
また、細胞捕捉フィルタ2と回収容器6とを接続するチューブ7にはポート8が設けられていてもよい。このポート8に図示しない注射器を差し込んでサイトカイン、成長因子等を注入することにより、有核細胞の増殖能を向上させることができる。また、このポート8に抗生物質を注入することにより、有核細胞を投与した骨欠損部位の炎症を抑えることができる。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る有核細胞混合装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る有核細胞混合装置1を用いて末梢血Aから有核細胞を分離回収するには、バルブV1,V2を開状態にし、血液容器3内の末梢血Aを重力により下降させる。下降する末梢血Aは細胞捕捉フィルタ2を上から下へ向かって流動し、末梢血A内に含有されている有核細胞が細胞捕捉フィルタ2に捕捉される。捕捉される有核細胞には、骨新生を担う骨芽細胞および破骨細胞が含まれている。そして、末梢血Aの他の成分は排液容器4に流入させられる。
【0026】
血液容器3内の末梢血Aが十分に細胞捕捉フィルタ2を通過した時点で、バルブV1,V2を閉状態にする。このときに、細胞捕捉フィルタ2には末梢血Aの血漿成分が残存した状態となるように、末梢血Aの液面が細胞捕捉フィルタ2よりも高い位置に存在するときにバルブV1,V2を閉じる。次に、V3,V4,V5を開け、バルブV6を閉じ、シリンジ5によって空気Bを細胞捕捉フィルタ2に圧入する。これにより、細胞捕捉フィルタ2に捕捉されていた有核細胞が血漿成分とともに回収容器6へ押し出される。
【0027】
次いで、通気孔6cを上側に向けてハウジング部6aを略水平に倒した状態で該ハウジング部6aを伸縮させ、また、ハウジング部6aの側面を押圧する操作を繰り返す。これにより、ハウジング部6a内に収容されている補填材Cと有核細胞とを撹拌して均一に混合し、補填体を調製することができる。このときに、操作者は、補填材Cと有核細胞との混合状態を目視で確認することができる。
【0028】
次いで、バルブV4,V5を閉状態にし、バルブV6を開状態にし、ハウジング部6aを収縮させるまたは押圧することにより、ハウジング部6a内で調整した補填体を吐出口6dから骨欠損部へ移植することができる。このときに、移植操作を容易にするために、バルブV4を閉じた状態で、空気排出ポート2dからチューブ7を取り外すことにより、回収容器6を持ち歩き可能にしてもよい。また、補填体を吐出させる操作を容易にするために、ハウジング部6aを、筒状の硬質のガイド管(図示略)内に挿入することにより補強した状態で一方の把持部6bを押圧しハウジング部6aを収縮させてもよい。
【0029】
このように、本実施形態に係る有核細胞混合装置1によれば、回収容器6に回収した有核細胞を、回収容器6内において簡便な操作のみで補填材Cと混合することができるという利点がある。また、シリンジ5から細胞捕捉フィルタ2へ空気Bを供給したとき、および、ハウジング部6aを伸縮または押圧したときに、通気孔6cを介してハウジング部6aの内外で空気が移動しても、通気孔6cに設けられたエアフィルタ6eによってハウジング部6a内の無菌環境が維持される。これにより、無菌性を担保しながら補填体を調製することができる。
【0030】
また、細胞捕捉フィルタ2に捕捉された有核細胞を空気Bの圧力によって回収容器6に移動させることにより、有核細胞が濃縮された状態で血漿成分中の血清とともに補填材Cと混合される。これにより、十分な数の骨芽細胞および破骨細胞が、これらの細胞が栄養とする血清とともに補填体に含まれることとなり、補填体の骨新生能を向上することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、回収容器6が、変形可能なハウジング部6aを備えることとしたが、これに代えて、図2に示されるように、硬質な筒状のシリンダ6fと、該シリンダ6f内を長手方向に摺動可能なピストン6gと、該ピストン6gをシリンダ6f内で往復運動させるピストンロッド6hとを備えることとしてもよい。
【0032】
このようにしても、操作者が、シリンダ6fの両端から突出するピストンロッド6hを把持し、ピストン6gを互いに近接する方向と離間する方向とに繰り返し往復運動させることにより、シリンダ6fの容積を変化させて該シリンダ6f内に収容された補填材Cと有核細胞とを効率良く撹拌して混合することができる。
【0033】
また、本実施形態においては、細胞捕捉フィルタ2に捕捉された有核細胞を空気Bによって回収容器6へ押し出すこととしたが、これに代えて、液体(流体)によって回収容器6へ押し流すこととしてもよい。
この場合、シリンジ5は、空気Bに代えて、液体を収容する。液体としては、例えば、生理食塩水、ダルベッコリン酸塩緩衝液(D−PBS)、ハンクス液等の緩衝液、RPMI1640等の培地等が使用される。また、効率よく回収するために、一定の血液浸透圧を有する液体を採用してもよく、デキストランやサイトカイン等が添加されていてもよい。
【0034】
また、本実施形態においては、補填材Cとして、β−TCPの顆粒からなるものを用いることとしたが、β−TCP以外の材料からなるもの、または、顆粒等の固形以外の形態のものを用いることとしてもよく、複数種類が混合されたものを用いてもよい。例えば、補填材Cとして、HAPからなる顆粒や、コラーゲンまたはゼラチンからなるゾルを用いることとしてもよい。このように、他の補填材Cを用いた場合でも、無菌性を担保しながら有核細胞を補填材Cと良好に混合して補填体を調整することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 有核細胞混合装置
2 細胞捕捉フィルタ
2a 血液供給ポート
2b 血液排出ポート
2c 空気供給ポート
2d 空気排出ポート
3 血液容器(細胞ソース容器)
3a 排出口
4 排液容器
5 シリンジ(流体供給手段)
6 回収容器
6a ハウジング部
6b 把持部
6c 通気孔
6d 吐出口
6e エアフィルタ
6f シリンダ
6g ピストン
6h ピストンロッド
7 チューブ
8 ポート
A 末梢血(細胞ソース)
B 空気(流体)
C 補填材
V1〜V6 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞ソースに含まれる有核細胞を捕捉する細胞捕捉フィルタと、
該細胞捕捉フィルタを間に挟んで該細胞捕捉フィルタに接続された、前記細胞ソースを収容した細胞ソース容器、および、前記細胞捕捉フィルタを透過した前記細胞ソースを収容する排液容器と、
細胞捕捉フィルタを間に挟んで該細胞捕捉フィルタに接続された、該細胞補足フィルタに流体を供給する流体供給手段、および、補填材を収容し該補填材を吐出可能な吐出口を有する回収容器とを備え、
該回収容器は、容積が可変であるとともに、エアフィルタが設けられた通気孔を有する有核細胞混合装置。
【請求項2】
前記補填材が、ハイドロキシアパタイト、コラーゲン、ゼラチンおよびβリン酸三カルシウムのいずれかからなる請求項1に記載の有核細胞混合装置。
【請求項3】
前記細胞ソースが、末梢血、臍帯血、骨髄液、脂肪組織、滑膜組織または胎盤組織のいずれかである請求項1または請求項2に記載の有核細胞混合装置。
【請求項4】
前記回収容器が、その長手方向に伸縮可能な蛇腹状の側壁を有する筒状のハウジング部を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の有核細胞混合装置。
【請求項5】
前記ハウジング部は、前記側壁が半径方向に変形可能な可撓性を有する請求項4に記載の有核細胞混合装置。
【請求項6】
前記流体が、空気、二酸化炭素および窒素のうちいずれかである請求項1から請求項5のいずれかに記載の有核細胞混合装置。
【請求項7】
前記回収容器は、少なくとも一部が透明部材からなる請求項1から請求項6のいずれかに記載の有核細胞混合装置。

【図1】
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【図2】
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