説明

有機−無機複合分離膜及びその製造方法

【目的】 無機材料の持つ高機械的強度と有機材料が持つ高分離性能とを合わせ持つ分離膜を製造し、且つ高分子材料を無機材料中に十分な量を均一に浸透させることができ、しかも容易に浸透させることができる、有機−無機複合分離膜及びその製造方法を提供する。
【構成】 溶剤容器1からの溶剤を昇圧ポンプ2により昇圧し、超臨界状態とし高分子溶解槽3に導入する。高分子材料6は超臨界流体に溶解する。この高分子材料6を溶解した溶剤を次に充填槽4内に導き、無機多孔質膜7と接触させて、その細孔内に高分子材料6を充填させる。このようにして得られた高分子材料6の薄膜が形成された無機多孔質膜7は、その表面からある深さまで高分子材料6が充填されており、高分子材料6の薄膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は化学製品、医薬、食品等の幅広い分野に利用される膜分離技術における分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】膜分離技術を利用した分離プロセスは化学製品一般、医薬、食品等の幅広い分野で利用されている。その膜分離技術は、その分離対象の大きさにより、それぞれの分離膜が使い分けられており、例えば、精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)、イオン交換膜、透析膜、パーベーパレーション膜(PV膜)などの固体や液体を対象とするものや、気体分離膜など気体を対象とするものがある。
【0003】これらの膜素材には、一般的には高分子材料がその分離性能が優れているために使用される。その高分子材料には、例えば、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、キトサンとその塩、ポリイミド、シリコーン等が使用されている。これらの高分子材料を用いた高分子分離膜では、高い選択分離性能を維持し透過性能を向上させるために、高分子材料の支持膜に別の高分子材料の薄膜が支持された複合膜が主として使用されている。
【0004】一方、無機材料を使用した分離膜は、機械的強度、耐熱性及び耐薬品性に優れ、透過流束が高いという特徴を有するが、その分離性能が高分子材料に比較して低いため、分離対象が0.05μm〜10μmの物質、例えば、液体中に浮遊している微細な懸濁物質やコロイド粒子あるいは気体中の浮遊粒子等に限定されている。したがって、無機材料を使用した分離膜は、主として精密濾過膜として利用されている。
【0005】近年、研究段階ではあるが、無機材料に高分子を付加させて分離膜とする提案がなされており、例えば、高分子を有機溶媒に溶解させて無機材料に塗布または湿漬させて複合化させることにより分離膜とする提案がなされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の高分子材料のみを使用した分離膜は、機械的強度が弱いために、分離膜自体の寿命が短いという問題があった。このような問題は、分離膜を用いる工業分野、例えば、食品、医薬品、化学工業、半導体の分野では深刻であり、したがって、耐久性がよく且つ分離性能のよい分離膜の出現が要望されていた。
【0007】一方、無機材料を使用した分離膜は機械的強度が優れているが、分離性能は高分子材料と比較して著しく小さく、その分離対象も限定されているという問題があった。また、前記無機材料に高分子を付加させて分離膜とする提案は、無機材料の支持層に十分な量の高分子材料を均一に付加させることが困難であることや、有機溶剤を使用するため高分子をある程度の深さまで浸透させるまでに非常に長い時間を必要とする問題点を有していた。
【0008】そこで本発明は、無機材料の持つ高機械的強度と有機材料が持つ高分離性能とを合わせ持つ分離膜を製造し、且つ高分子材料を無機材料中に十分な量を均一に浸透させることができ、しかも容易に浸透させることができる、有機−無機複合分離膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記した問題点を解決するために本発明は、高分子材料を溶解した超臨界流体を多孔質無機材料に適用することにより、多孔質無機材料に高分子材料の薄膜を支持させることを特徴とする有機−無機複合分離膜の製造方法とするものである。
【0010】超臨界状態の流体は、有機溶剤のような液体とは異なった性質を有し、液体と気体の性質を合わせもつような特徴を有している。例えば、その性質は、液体と同様な溶解能力を示す上に、拡散性や粘性が気体に近いため、固体内に容易に浸透する特殊な性質を有する。また、このような超臨界流体の温度、圧力を変化させることで、その超臨界流体に溶解する物質の溶解能力を容易にコントロールできるという性質を持っている。
【0011】本発明は超臨界流体のこれらの性質を利用し、多孔質無機材料の表面に高分子材料を溶解した超臨界流体を適用することにより、多孔質無機材料の表面からその内部に均一に十分に浸透した高分子材料の薄膜を形成することができ、無機材料の優れた機械的強度と高分子材料の優れた分離性能を合わせ持つ有機−無機複合分離膜を製造することができる。
【0012】本発明において、超臨界流体として使用される溶剤には、常温常圧でガス状態のものが望ましく、たとえば二酸化炭素、メタン、プロパンなどが挙げられる。この超臨界流体に高分子材料の溶解性を増す目的のために助溶剤(エントレーナ、第3成分)を用いて、高分子材料を超臨界流体に溶解させてもよい。
【0013】本発明で使用される有機材料には、セルロースアセテート、シリコーン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリスルホン等のほとんどの高分子材料が使用可能である。
【0014】本発明で使用される多孔質無機材料には、アルミナ系、ジルコニア系等のセラミックス多孔質膜、シリカガラス多孔質膜、カーボン多孔質膜、ステンレス多孔質膜等が挙げられる。また、従来使用されていた無機系精密濾過膜あるいは金属系精密濾過膜を用いることもできる。
【0015】本発明の有機−無機複合分離膜の製造方法に使用する装置の概略を図1に示す。本装置は、溶剤を蓄えた溶剤容器1、該溶剤を昇圧して超臨界状態とする昇圧ポンプ2、内部に高分子材料6が充填され、供給された超臨界流体で高分子材料6を溶解するための高分子溶解槽3、無機多孔質膜7が充填され、その無機多孔質膜7に高分子の薄膜を形成するための充填槽4、充填槽4内の圧力を減圧するための圧力調整弁5から構成される。
【0016】前記装置を用いた有機−無機複合分離膜の製造方法を次に説明する。まず充填槽4内に無機多孔質膜7を配置し、高分子溶解槽3内に高分子材料6を充填しておく。溶剤容器1からの溶剤を昇圧ポンプ2により昇圧し、高分子溶解槽3に導入する。溶剤はここで超臨界状態となり高分子材料6を溶解する。この高分子材料6を溶解した超臨界状態の溶剤を次に充填槽4内に導き、無機多孔質膜7と接触させる。
【0017】この時、高分子材料6を溶解している超臨界流体は速やかに無機多孔質膜7の細孔内に浸入していく。所定の深さまで浸入したなら、充填槽4の温度を変化させると溶解した高分子材料6が一部析出することにより、多孔質内を充満していく。なお、高分子材料を析出させる方法として、温度の変化の代わりに圧力を変化させてもよい。その後、充填槽4内部の圧力を圧力調整弁5により大気圧まで減圧して、無機多孔質膜7を取り出す。
【0018】このようにして得られた高分子材料6の薄膜が形成された無機多孔質膜7の断面の模式図を図2に示す。図2に示すように、この無機多孔質膜7はその表面からある深さまで高分子材料6が充填されており、高分子材料6の薄膜が形成されている。
【0019】
【作用】本発明においては、無機多孔質材料の細孔内に有機材料を付加させる方法として、有機材料を溶解している超臨界流体を無機多孔質材料の細孔内に適用しているので、超臨界流体の持つ高い溶解能力と同時に、高い浸透作用により、有機材料は無機多孔質材料の細孔内に容易に浸入することができ、無機多孔質材料の細孔内に有機材料の薄膜を形成することができる。
【0020】この超臨界流体を利用した有機材料の薄膜の形成においては、温度及び/又は圧力を変化させることにより、容易に有機材料の溶解能力をコントロールすることができる。
【0021】無機多孔質材料の細孔内に高分子材料を充填する工程を詳述する。高分子材料を溶解している超臨界流体は時間とともに細孔内部に浸入していく。ここで、温度及び/又は圧力を大きく変化させると超臨界流体の溶解力が低下するため今まで溶解していた高分子材料の大部分が固体として析出してくる。この析出物が細孔内を充満していき図2に示すように、ある深さまで高分子材料が満たされることになる。時間を調整することで浸入深さ(膜厚)を自由に変えることもできる。さらに、異種の高分子材料を同時に溶解して充満させたり、異種の高分子材料を順に一層づつ充満させることにより、高分子複合膜の付加も可能である。
【0022】本発明の有機−無機複合分離膜は、機械的強度の高い多孔質無機膜に、透過性能の優れた高分子材料を該多孔質無機膜の細孔内に充填させているので、得られた有機−無機複合分離膜は、両者の長所である高強度で高分離性能の性質を合わせ持つ。
【0023】
【実施例】
〔実施例1〕温度80℃、圧力300kg/cm2 Gの超臨界二酸化炭素に高分子材料としてポリジメチルシロキサン(シリコーン)を溶解し、この超臨界流体をアルミナ多孔質膜(平均細孔径:0.5μm)の細孔内に浸透させることにより、シリコーンを該細孔内に充填して、複合パーベーパレーション膜(PV膜)を作製した。このPV膜の表面及び断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果、膜表面は高分子材料にて緻密に充填されており、また、断面観察より表面から2μmの深さまでシリコーンが充填されていることが確認された。
【0024】このPV膜のエタノール水溶液(濃度6wt%)の透過性能、即ち、分離係数及び透過流速を測定した。得られた結果を下記の表1に示す。また、比較例1として無処理のアルミナ多孔質膜のみを同様に測定して得られた結果を下記表1に示す。
【0025】
【表1】


なお、分離係数および透過流束は膜性能評価の指標であり、以下のように定義できる。
【0026】
分離係数〔−〕=(YA/YB)/(XA/XB)
XA,XB:供給液中の各成分組成YA,YB:透過液中の各成分組成透過流束〔kg/m2hr]:単位膜面積・単位時間あたりの透過液重量表1によれば、アルミナ多孔質膜にシリコーンを付加してシリコーンの薄膜を形成することにより、エタノールの分離性能がかなり向上したことがわかる。
【0027】〔実施例2〕温度200℃、圧力200kg/cm2 Gの超臨界ブタンに高分子材料としてポリプロピレン(PP)を溶解した超臨界流体を適用し、ジルコニア多孔質膜(平均細孔径:0.25μm)の細孔内にPPを充填し複合PV膜を作製した。このPV膜を走査型電子顕微鏡にて観察した結果、1.0μmの深さまでポリプロピレンが充填されていることが確認された。
【0028】このPV膜のイソプロパノール水溶液(濃度7wt%)の透過性能(分離係数及び透過流速)を測定した。得られた値を下記の表2に示す。比較例2として、無処理のジルコニア多孔質膜のみを同様に測定して得られた結果を下記表2に示す。
【0029】
【表2】


表2によれば、ジルコニア多孔質膜にシリコーンを付加してシリコーンの薄膜を形成することにより、イソプロパノールの分離性能がかなり向上したことがわかる。
【0030】〔実施例3〕厚さ10mmの多孔質ステンレス膜(焼結体)に、下記の表3に示す高分子材料を用いて、前記実施例1に準じた方法により、多孔質ステンレス膜の細孔内に各種の高分子材料を充填させて薄膜を形成し、各種有機−無機複合分離膜を得た。各々の有機−無機複合分離膜中に充填されている高分子材料と、有機薄膜の膜厚、及び得られた有機−無機複合分離膜の分離膜の種類を下記の表3に示す。
【0031】
【表3】


【0032】
【発明の効果】本発明によれば、高分子材料を溶解した超臨界流体を多孔質無機材料に適用して無機多孔質材料に高分子材料の薄膜を支持させているので、次の(1)〜(3)の効果を有する。
【0033】(1)無機多孔質膜の高強度と高分子材料の優れた分離性能を合わせ持つ分離膜が短時間に得られる。
【0034】(2)高分子材料の膜厚(浸入深さ)を超臨界流体の適用時間を調整することにより、自由に設定できる。
【0035】(3)超臨界流体を選定することにより、あらゆる高分子材料が本発明の有機−無機複合分離膜の製造に使用可能である。また、複数種類の高分子材料を付加した有機−無機複合分離膜ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機−無機複合分離膜の製造方法に使用する装置の概略を示す。
【図2】高分子材料の薄膜が形成された無機多孔質膜の断面の模式図である。
【符号の説明】
1 溶剤容器
2 昇圧ポンプ
3 高分子溶解槽
4 充填槽
5 圧力調整弁
6 高分子材料
7 無機多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高分子材料を溶解した超臨界流体を多孔質無機材料に適用することにより、多孔質無機材料に高分子材料の薄膜を支持させることを特徴とする有機−無機複合分離膜の製造方法。
【請求項2】 前記高分子材料を溶解した超臨界流体は助溶剤を含有している請求項1記載の有機−無機複合分離膜の製造方法。
【請求項3】 請求項1又は2記載の有機−無機複合分離膜の製造方法により製造された有機−無機複合分離膜。
【請求項4】 前記有機−無機複合分離膜が、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透膜、パーベーパレーション膜、イオン交換膜、透析膜又は気体分離膜である請求項3記載の有機−無機複合分離膜。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開平7−144121
【公開日】平成7年(1995)6月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−317497
【出願日】平成5年(1993)11月25日
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)