説明

有機−無機複合粒子及び塗料組成物、並びにそれらの製造方法

【課題】有機−無機複合粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】体積平均粒径が1000μm以下の無機粒子と、ラジカル重合性モノマーと、高分子ラジカル開始剤とを水性溶媒中に溶解乃至は分散させた混合液を調製し、その混合液内にて反応させることにより前記無機粒子の表面に前記ラジカル重合性モノマー由来の有機材料からなる有機材料層を形成することにある。無機粒子の共存下、高分子ラジカル開始剤を開始剤としてラジカル重合性モノマーを重合させることによって、無機粒子の表面にラジカル重合性モノマー由来の有機材料層が形成される。これは高分子ラジカル開始剤が高分子量であるため、無機粒子と物理的・化学的に相互作用した状態でラジカル重合を開始することで無機粒子と相互作用を保ったままで重合が進行していき、結果、無機粒子の表面に有機材料層が形成されるものと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子の表面に有機材料からなる有機材料層を形成した有機−無機複合粒子及びそれを利用した塗料組成物、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の無機粒子を含んでいる塗料組成物が知られている(特許文献1)。塗料組成物にはビヒクルとして種々の樹脂が含有されることが多い。また、何らかの溶媒を含むこともある。
【0003】
このように塗料組成物には種々の構成要素を含んでいるため、添加する無機粒子には含まれる構成要素に応じた性能をもつことが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-340832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、無機粒子とビヒクルとの間の親和性の向上などを目的として無機粒子と有機材料との複合化を試みた。また、無機粒子に有機材料を複合化することにより、その他の樹脂組成物に対しても親和性が向上することが期待できる。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、新規な有機−無機複合粒子及びその製造方法を提供する。また、その有機−無機複合粒子が含有された塗料組成物及びその製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係る有機−無機複合粒子の製造方法の構成上の特徴は、体積平均粒径が1000μm以下の無機粒子と、ラジカル重合性モノマーと、高分子ラジカル開始剤とを水性溶媒中に溶解乃至は分散させた混合液を調製し、その混合液内にて反応させることにより前記無機粒子の表面に前記ラジカル重合性モノマー由来の有機材料からなる有機材料層を形成することにある。
【0008】
無機粒子の共存下、高分子ラジカル開始剤を開始剤としてラジカル重合性モノマーを重合させることによって、無機粒子の表面にラジカル重合性モノマー由来の有機材料層が形成される。これは高分子ラジカル開始剤が高分子量であるため、無機粒子と物理的・化学的に相互作用した状態でラジカル重合を開始することで無機粒子と相互作用を保ったままで重合が進行していき、結果、無機粒子の表面に有機材料層が形成されるものと考えられる。なお、「高分子ラジカル開始剤」とは自身が分解等することによりラジカルを生成する化合物であり、且つ、分子量が600以上のものである。
【0009】
上記課題を解決する請求項2に係る有機−無機複合粒子の製造方法の特徴は、請求項1において、前記無機粒子は表面が疎水性であり、
前記高分子ラジカル開始剤はエチレングリコール重合体からなる部分構造をもち、分子量が1000以上であり、
前記混合液は、更に界面活性剤を含むことにある。このような構成を採用することにより、無機粒子の表面に効率的に有機材料層を形成することができる。
【0010】
上記課題を解決する請求項3に係る有機−無機複合粒子の製造方法の特徴は、請求項1又は2において、前記無機粒子は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、ガラス粉末、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上の材料であることにある。
【0011】
上記課題を解決する請求項4に係る有機−無機複合粒子の製造方法の特徴は、請求項1〜3の何れか1項において、前記無機粒子は体積平均粒径が0.1μm〜3.0μmであることにある。本発明によればこのような微小な粒子に対しても有機材料層を形成することが可能になる。
【0012】
上記課題を解決する請求項5に係る有機−無機複合粒子の製造方法の特徴は、請求項1〜4の何れか1項において、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、及び芳香族アルキル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を前記無機粒子の表面に導入する表面処理工程を有することにある。表面処理工程を行うことにより無機粒子への有機材料層の形成を制御できる。
【0013】
上記課題を解決する請求項6に係る有機−無機複合粒子の製造方法の特徴は、請求項1〜5の何れか1項において、前記高分子ラジカル開始剤はエチレングリコール重合体からなる部分構造をもつアゾ化合物であり、分子量が1000〜20000であることにある。
【0014】
上記課題を解決する請求項7に係る有機−無機複合粒子の製造方法の特徴は、請求項1〜6の何れか1項において、前記有機材料層に含まれる炭素原子の質量は前記有機−無機複合粒子全体の質量を基準として1.0%以上であることにある。
【0015】
上記課題を解決する請求項8に係る有機−無機複合粒子の特徴は、体積平均粒径が1000μm以下の無機粒子と、
エチレングリコール重合体からなる部分構造を端部にもつビニル重合体から形成され、前記部分構造にて前記無機粒子表面に付着する有機材料層と、
を有することにある。
【0016】
上記課題を解決する請求項9に係る塗料組成物の特徴は、請求項8に記載の有機−無機複合粒子と前記有機−無機複合粒子を分散するビヒクルとを有することにある。
【0017】
上記課題を解決する請求項10に係る塗料組成物の製造方法の特徴は、請求項1〜7の何れか1項に記載の有機−無機複合粒子の製造方法により有機−無機複合粒子を製造する工程と、
前記有機−無機複合粒子をビヒクル中に混合・分散させる混合分散工程と、
を有することにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機−無機複合粒子の模式図である。
【図2】実施例の結果を示す表である。
【図3】実施例の試験例1の有機−無機複合粒子のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の有機−無機複合粒子及びその製造方法、塗料組成物及びその製造方法について実施形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
(有機−無機複合粒子の製造方法)
本実施形態の有機−無機複合粒子の製造方法は無機粒子とラジカル重合性モノマーと高分子ラジカル開始剤とを水性溶媒中に分散させて混合液を調製し、その混合液内にて重合反応させるものである。その結果、無機粒子の表面にラジカル重合性モノマー由来の有機材料層が形成される。重合反応は加熱、光照射(紫外線照射)などにより行う。重合反応が進行している間には混合液を撹拌したり、混合液に超音波を照射するなどして振動を加えたりすることが望ましい。重合反応は不活性雰囲気下にて行うことが望ましい。例えば重合反応を行う系中に、窒素、希ガスなどを導入することができる。なお、無機粒子、ラジカル重合性モノマー、高分子ラジカル開始剤、及び水性溶媒の混合方法は、それぞれ、一度に全部混合することもできるし、一部ずつ混合することもできるし、滴下などにより少しずつ混合することもできる。 更に、顔料、染料などと共に重合させることで本実施形態の有機−無機複合粒子として任意の色にて着色することができる。その場合、着色は有機材料層に対して行うことになる。
【0021】
無機粒子は体積平均粒径が1000μm以下の粒子である。特に、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、ガラス粉末、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上の材料(複合酸化物、複合材料を含む)であることが望ましい。体積平均粒径が0.1μm〜3.0μmであることが望ましい。無機粒子の円形度は必要に応じて選択できる。円形度が高い方が充填性が良くなる。
【0022】
無機粒子はどのように形成されたものでもよい。例えば、必要な粒径分布、体積平均粒径になるまで粉砕したり、無機粒子が金属酸化物から形成されるものであれば、金属酸化物に対応する金属(アルミナからなる無機粒子であればアルミニウム、シリカであればケイ素、チタニアであればチタン)を、酸化炎中などに投入して燃焼させることにより酸化させて金属酸化物粒子を得る方法(爆燃法)、その金属酸化物粒子を火炎中に投入して熔融させることにより球状化させた後に冷却・固化させる火炎熔融法、爆燃法と火炎熔融法の組み合わせ(金属と金属酸化物とを混合して酸化させる方法)を挙げることができる。これらの方法は必要な無機粒子に求められる粒径、円形度、純度などに応じて選択することができる。サブマイクロメートルオーダーからマイクロメートルオーダー程度の粒径をもつ無機粒子を製造する場合であっても爆燃法や火炎熔融法を採用することで達成可能である。
【0023】
無機粒子の表面は疎水性であることが望ましい。疎水性の表面をもつ無機粒子を採用したり、無機粒子の表面に対して所定の官能基を導入する表面処理工程を採用することができる。所定の官能基としては飽和アルキル基、不飽和アルキル基、及び芳香族アルキル基よりなる群から選択される1種以上の官能基が例示できる。所定の官能基は所定の官能基を分子構造中にもつシランカップリング剤を接触させるなど一般的な方法が採用できる。表面処理工程は重合反応の前に行うこともできるし、重合反応と同時に行うこともできる。
【0024】
ラジカル重合性モノマーはラジカル重合反応により重合体を形成する化合物である。ラジカル重合性モノマーとしてはビニル基をもつものが例示できる。ラジカル重合性モノマーとしては一般式(1)の化合物が例示できる。
【0025】
CR=CR …(1)
(式中、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子又はハロゲン置換もしくは非置換の低級アルキルを示し、Rは有機基を示す)で示される。具体的には、スチレン及びスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル、イソプレン、1,3−ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、スチレン及びスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましい。
【0026】
スチレン及びその誘導体としては、具体的には、スチレン、tert−ブチルスチレン(o、m、p体)、tert−ブトキシスチレン(o、m、p体)、アセトキシスチレン(o、m、p体)、ヒドロキシスチレン(o、m、p体)、イソプロペニルフェノール(o、m、p体)、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン(o、m、p体)、スチレンスルホン酸(o、m、p体)及びその塩等が挙げられる。これらの中でも、スチレン、tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレンがより好ましく使用される。
【0027】
(メタ)アクリル酸及びその誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等がより好ましく使用される。
【0028】
(メタ)アクリルアミド及びその誘導体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアクリルアミド等が挙げられ、なかでもN−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等がより好ましく使用される。
【0029】
ラジカル重合性モノマーを加える量は特に限定しない。無機粒子に形成する有機材料層の量に応じて決定される。ラジカル重合性モノマーを加えた量が全て有機材料層になるわけではないため、予備実験などにより加える量を決定することが望ましい。
【0030】
ここで有機材料層と無機粒子との比は特に限定しないが、有機材料層に含まれる炭素原子の質量は有機−無機複合粒子全体の質量を基準として1.0%以上であることが望ましく、2.0%以上であることが望ましい。上限としては20.0%であることが望ましい。
【0031】
なお、ラジカル重合性モノマー由来の重合体のうち、どの部分が無機粒子の表面に付着した有機材料層であるかは以下のように判断する。すなわち、混合液に含まれる溶媒のうちの有機溶媒によって得られた粉末を繰り返し洗浄した際に除去されない部分が有機材料層であると判断した。有機溶媒での洗浄は、得られた粉末の質量を基準として100倍以上の質量の有機溶媒にて洗浄した後、ろ取する工程を3回繰り返すことで行った。なお、この判定方法は後述する本実施形態の有機−無機複合粒子における有機材料層の判定でも使用する。
【0032】
水性溶媒は、水、若しくは水に対して任意の比率で混合可能な溶媒、又はそれらの混合溶媒である。水性溶媒としては、水の他、アルコール(メタノール、エタノール、(n−又はi−)プロパノール、(n−、i−、s−、又はt−)ブタノールなど)などが挙げられる。水性溶媒中に無機粒子、ラジカル重合性モノマーを溶解乃至分散させる濃度は特に限定しないが、濃度により無機粒子の表面に形成される有機材料層の量や有機材料層を構成する重合体の重合度が変化するため、適正な有機材料層が形成されるように設定する。
【0033】
高分子ラジカル開始剤は分子量が600以上の化合物であり、1000以上であることが望ましく、2000以上であることが更に望ましく、6000以上であることがより望ましい。分子量の上限としては特に限定しないが、20000程度を挙げることができる。高分子ラジカル開始剤はアゾ基、−OO−基などを有し、加熱、光照射などによりラジカルを生成する化合物である。高分子ラジカル開始剤はエチレングリコール重合体からなる部分構造を有することが望ましい。高分子ラジカル開始剤は、この部分構造の部位にて無機粒子表面に付着する。従って、高分子ラジカル開始剤の部分構造としては無機粒子表面と親和性が高い構造をもつことが望ましい。
【0034】
(有機−無機複合粒子)
本実施形態の有機−無機複合粒子は無機粒子1と有機材料層2とを備える(図1(a)、(b))。無機粒子は上述した本実施形態の有機−無機複合粒子の製造方法にて採用したものがそのまま採用できるため更なる説明は省略する。
【0035】
有機材料層を構成する化合物はエチレングリコール重合体からなる部分構造21を端部にもち、その部分構造21に結合するビニル重合体22からなる部分をもつ。エチレングリコール重合体からなる部分構造21の部分にて無機粒子1表面に付着している。有機材料層は無機粒子表面を隙間無く覆うことが望ましい。有機材料層の量は炭素原子の質量が、有機−無機複合粒子全体の質量を基準として1.0%以上であることが望ましく、2.0%以上であることが望ましい。上限としては20.0%であることが望ましい。有機材料層の形成は上述した本実施形態の製造方法による方法の他、どのような方法を用い形成しても良い。有機材料層には、更に、顔料、染料などと共に重合させることで本実施形態の有機−無機複合粒子として任意の色にて着色することができる。
【0036】
(塗料組成物及びその製造方法)
本実施形態の塗料組成物は、上述した本実施形態の有機−無機複合粒子とビヒクルとその他必要に応じて選択される材料とを備える。ビヒクルとしては本実施形態の塗料組成物が適用される対象物、塗装方法などに応じて適正に選択できる。一般的には高分子組成物や、有機溶媒(水系溶媒、油性溶媒など)、水が採用できる。本実施形態の有機−無機複合粒子は顔料などとして配合される。有機−無機複合粒子の製造方法としては上述の有機−無機複合粒子の製造方法が採用できる。
【0037】
得られた有機−無機複合粒子とビヒクルとその他必要に応じて選択される材料とを適正に混合することで本実施形態の塗料組成物を製造できる。
【実施例】
【0038】
本発明の有機−無機複合粒子及びその製造方法について、以下、実施例に基づき更に詳細に説明する。なお、本実施例において「平均粒径」とは特に言及しない限り体積平均粒径のことである。
(試験1:試験例1〜3及び比較例1:ラジカル重合性モノマーの量について)
・表面処理工程により表面を疎水化した無機粒子(疎水性無機粒子)の調製
無機粒子としては球状シリカ粒子及び球状アルミナ粒子を用いた。球状シリカ微粒子には、アドマテックス製シリカ(C1:平均粒径0.3μm、C2:平均粒径0.5μm、C5:平均粒径1.5μm)、球状アルミナ微粒子には、アドマテックス製アルミナ(AO502:平均粒径0.7μm)を用い、それぞれに対して信越化学製ビニルシランカップリング剤 (KBM1003)で表面処理を行い、疎水性無機粒子を得た。なお、ビニルシランカップリング剤を反応させる量としては、それぞれの無機粒子の表面に存するOH基が全て反応できるように選択した。
・疎水性無機粒子のスラリー調製
上述した疎水性無機粒子を40g、イオン交換水45g、イソプロパノール(IPA)15gを混合・分散し、それぞれの無機粒子を40質量%含有するIPA/水混合溶媒スラリーを得た。
・試験例1の有機−無機複合粒子の製造
100mLバイアル瓶に、水40g、界面活性剤としての花王(株)製ネオペレックスG−15(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.01g、和光純薬製のPEG系高分子ラジカル開始剤VPE−0601(分子量6000)を0.3g秤量し、ついで疎水性球状シリカ微粒子(C2:0.5μm)のIPA/水混合溶媒40質量%スラリーを4g秤量後封止し、窒素バブリングを10分行った。
【0039】
一方、5mLのバイアル瓶にラジカル重合性モノマーとしてのメタクリル酸メチル(MMA)を0.5gとメタクリル酸ブチル(BMA)を0.5g秤量後封止し、窒素バブリングを1分行った。シリンジを用いてモノマー混合物をシリカ分散液が入っている100mLバイアル瓶に滴下し、マグネティックスターラーで攪拌しながら70℃で12時間重合した。重合後の溶液を遠心分離によって粒子を沈降させ、試験例1の有機−無機複合粒子を得た。
・試験例2及び3の有機−無機複合粒子の製造
ラジカル重合性モノマーの量を変更した以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。試験例2ではMMA及びBMAを共に0.1gとし、試験例3ではMMA及びBMAを共に1.0gとした。
・評価
(1)有機材料層の形成の有無
得られた有機−無機複合粒子について透過型電子顕微鏡(TEM)により観察して目視で判断した。
(2)有機材料層の量の測定
得られた有機−無機複合粒子についてIPAで洗浄(実施形態で説明した条件で)し、160℃で3時間乾燥後、カーボン量分析装置(HORIBA製 EMIA−321V)によりカーボン量を測定することで有機材料層の量を測定した。
・結果
結果を図2に示す。ラジカル重合性モノマーの量が増えるに従い、有機材料層の形成量も増えることが分かった。試験例1の有機−無機複合粒子についてTEM写真を図3に示す。図より明らかなように無機粒子の周囲に有機材料層が取り囲むように被覆している様子がよく分かった。
(試験2:試験例1、4及び5:高分子ラジカル開始剤の量について)
・試験例4及び5の有機−無機複合粒子の製造
高分子ラジカル開始剤の量を変更した以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。試験例4では高分子ラジカル開始剤VPE601を0.1gとし、試験例5では0.5gとした。
・結果
試験1と同様の評価を行った結果を図2に示す。高分子ラジカル開始剤の量が少ないほど形成される有機材料層の量が増加することが分かった。高分子ラジカル開始剤の量が1.5gから0.3gに減らしたときにはカーボン量が2.4%から2.7%へと変化したのに対し、0.3gから0.1gに減らしたときには2.7%から3.5%へと大きく増加した。
(試験3:試験例1、6〜8:無機粒子の粒径及び種類について)
・試験例6〜8の有機−無機複合粒子の製造
無機粒子の粒径又は種類を変更した以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。試験例6では無機粒子として平均粒径1.5μmのシリカ粒子を、試験例7では平均粒径0.3μmのシリカ粒子を、試験例8では平均粒径0.6μmのアルミナ粒子を用いた。
・結果
試験1と同様の評価を行った結果を図2に示す。無機粒子の粒径、種類によらず、有機−無機複合粒子が得られた。無機粒子としてシリカ粒子を用いた場合には平均粒径が小さくなるにつれて有機材料層の量が増加した。これは粒径が小さいほど比表面積が大きくなるため、より多くの有機材料層が形成できたものと考えられる。無機粒子としてアルミナ粒子を用いた場合には同程度の粒径をもつシリカ粒子(試験例1)よりも多くの有機材料層が形成された。
(試験4:試験例1、9、10:高分子ラジカル開始剤の種類について)
・試験例9、10の有機−無機複合粒子の製造
高分子ラジカル開始剤の種類を変更した以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。試験例9では高分子ラジカル開始剤として和光純薬製PEG系高分子ラジカル開始剤VPE−0201(分子量2000)を、試験例10では和光純薬製シロキサン系高分子ラジカル開始剤VPS−1001を用いた。
・結果
試験1と同様の評価を行った結果を図2に示す。試験例1及び9の結果より、高分子ラジカル開始剤の分子量が2000〜6000の範囲であっても有機材料層が形成されることが分かった。形成される有機材料層の量は分子量が2000の方が僅かに少なかったが殆ど差異が無かった。
【0040】
高分子ラジカル開始剤としてシロキサンを部分構造としてもつものを採用した試験例10は目視で水系溶媒である水/IPA混合溶媒に溶解せず、試験を中断した。
(試験5:試験例1、11:ラジカル開始剤の種類について)
・試験例11の有機−無機複合粒子の製造
高分子ラジカル開始剤に代えて無機系のラジカル開始剤である過硫酸カリウム(三菱ガス化学株式会社製、KPS、分子量152)を用いた以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。その結果、無機粒子の表面に有機材料層の形成は認められなかった。なお、混合したラジカル重合性モノマーは消費され、それらラジカル重合性モノマー由来の重合体が生成した。これは無機系のラジカル開始剤では無機粒子表面への吸着が認められず、無機粒子の存在とは独立してラジカル重合性モノマーの重合反応が進行するためであると考えられる。
(試験6:試験例1、12、13:界面活性剤の種類及び量について)
・試験例12、13の有機−無機複合粒子の製造
試験例12では界面活性剤をエマール2FG(花王製、ラウリル硫酸ナトリウム)に変更した以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。試験例13では界面活性剤を用いなかった以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。
・結果
試験1と同様の評価を行った結果を図2に示す。試験例1及び12の結果より、界面活性剤の種類を変更しても有機材料層が形成されることが分かった。試験例13の結果より、界面活性剤を用いないことにより、有機材料層の形成が少なくなることが分かった。
(試験7:試験例1、14、15:ラジカル重合性モノマーの種類について)
・試験例14、15の有機−無機複合粒子の製造
試験例14ではラジカル重合性モノマーとしてBMAに代えてアクリル酸ブチル(BA)を、試験例15ではMMAに代えてBAを用いた以外は、試験例1の製造方法と同様の方法で製造した。
・結果
試験1と同様の評価を行った結果を図2に示す。ラジカル重合性モノマーの種類を変更しても有機材料層が形成されることが分かった。試験例14及び15の結果より、ラジカル重合性モノマーとしてはMMAの方がBMAよりも有機材料層の形成が多くなることが分かった。
【符号の説明】
【0041】
1…無機粒子
2…有機材料層(及び有機材料層を構成する化合物)
21…ポリエチレングリコールからなる部分構造 22…ビニル重合体からなる部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒径が1000μm以下の無機粒子と、ラジカル重合性モノマーと、高分子ラジカル開始剤とを水性溶媒中に溶解乃至は分散させた混合液を調製し、その混合液内にて反応させることにより前記無機粒子の表面に前記ラジカル重合性モノマー由来の有機材料からなる有機材料層を形成することを特徴とする有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記無機粒子は表面が疎水性であり、
前記高分子ラジカル開始剤はエチレングリコール重合体からなる部分構造をもち、分子量が1000以上であり、
前記混合液は、更に界面活性剤を含む、
請求項1に記載の有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記無機粒子は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、ガラス粉末、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上の材料である請求項1又は2に記載の有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子は体積平均粒径が0.1μm〜3.0μmのシリカである請求項1〜3の何れか1項に記載の有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項5】
飽和アルキル基、不飽和アルキル基、及び芳香族アルキル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を前記無機粒子の表面に導入する表面処理工程を有する請求項1〜4の何れか1項に記載の有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記高分子ラジカル開始剤はエチレングリコール重合体からなる部分構造をもつアゾ化合物であり、分子量が1000〜20000である請求項1〜5の何れか1項に記載の有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記有機材料層に含まれる炭素原子の質量は前記有機−無機複合粒子全体の質量を基準として1.0%以上である請求項1〜6の何れか1項に記載の有機−無機複合粒子の製造方法。
【請求項8】
体積平均粒径が1000μm以下の無機粒子と、
エチレングリコール重合体からなる部分構造を端部にもつビニル重合体から形成され、前記部分構造にて前記無機粒子表面に付着する有機材料層と、
を有することを特徴とする有機−無機複合粒子。
【請求項9】
請求項8に記載の有機−無機複合粒子と前記有機−無機複合粒子を分散するビヒクルとを有することを特徴とする塗料組成物。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1項に記載の有機−無機複合粒子の製造方法により有機−無機複合粒子を製造する工程と、
前記有機−無機複合粒子をビヒクル中に混合・分散させる混合分散工程と、
を有することを特徴とする塗料組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−213865(P2011−213865A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83426(P2010−83426)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【出願人】(598098490)株式会社キョウドー (3)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】