説明

有機アミンの単離方法

本発明は、有機アミンおよび酸、または有機アミンと酸との塩を含む組成物から有機アミンを単離する方法であって、組成物にアンモニアまたはヒドラジンを加え、それによって、有機アミンリッチな相と酸リッチな相を含む多相系を形成する工程と、工程(i)で得られた有機アミンリッチ相と酸リッチ相を分離する工程と、有機アミンリッチ相から有機アミンを単離する工程とを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、有機アミンおよび酸、または有機アミンと酸との塩を含む組成物から有機アミンを単離する方法に関する。
【0002】
このような方法は、日本国特許出願の特開2004−222569号公報および特開2004−000114号公報により知られている。特開2004−000114号公報に記載の公知の方法では、有機アミンは、1,5−ペンタンジアミンであって、これはカダベリンとしても知られている有機アミンであり、L−リジン塩水溶液にL−リジン脱炭酸酵素を作用させる発酵法によって製造される。L−リジン塩は、例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩または炭酸塩である。カダベリンを含む系は水溶液であり、塩における酸は、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸または炭酸である。カダベリンは、反応溶液にアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウムの任意の1種)を加え、それによりpHを12〜14に増加させ、その後、アニリン、シクロヘキサノン、1−オクタノール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノールおよびクロロホルムなどの極性溶媒でカダベリンを抽出することによって、単離されると言われている。特開2004−222569号公報にも同様の方法が記載されている。特開2004−222569号公報には、さらに、その方法に代わる、溶液からカダベリンを単離する方法も記載されている。この別の方法では、アルカリは使用せず、有機溶媒を添加する。有機溶媒は、アルコール、ケトンおよびニトリルから選択される。酸は、塩酸またはジカルボン酸、例えばアジピン酸、セバシン酸、琥珀酸またはテレフタル酸である。別の方法では、カダベリンは塩酸またはジカルボン酸の塩の形で単離される。カダベリンも、カダベリンのジカルボン酸塩も、ポリアミドを製造するための原料として有用であると言われている。
【0003】
第1の公知の方法の欠点は、過剰のアルカリまたは酸とともに溶解した酸アルカリ塩を含む水溶液の形態の副生物が生成されることであり、この溶液のために、プロセス中で重大な材料の損失を招いたり、あるいは、水溶液から塩、酸および/またはアルカリを単離する煩雑な処理工程を追加したりすることが必要となる。さらに、本発明者らが例えばクロロホルムを用いて特開2004−000114号公報に記載の方法を追試したところ、単離はされたものの、十分な程度ではなかった。別の公知の方法は、これも発酵過程で生成するアミン不純物が、カダベリンの酸塩に容易に取り込まれるという欠点を有している。ポリアミドの製造にそのような未精製のカダベリンジカルボン酸塩を使用すると、重合により特性があまり良好でないポリアミドが得られるか、または、重合が全く不可能となることさえある。他方、簡単な工業プロセスでカダベリンジカルボン酸塩から不純物を除くことは、全く不可能ではないものの、非常に困難である。
【0004】
本発明の目的は、有機アミンおよび酸、または有機アミンと酸との塩を含む組成物から有機アミンを単離する方法であって、第1の公知の方法およびそれに代わる別の公知の方法の欠点がないか、またはより少ない方法を提供することである。
【0005】
この目的は、
(i)組成物にアンモニアまたはヒドラジンを加え、それによって、有機アミンリッチな相と酸リッチな相を含む多相系を形成する工程と、
(ii)工程(i)で得られた有機アミンリッチ相と酸リッチ相を分離する工程と、
(iii)有機アミンリッチ相から有機アミンを単離する工程と
を含む、本発明の方法によって達成された。
【0006】
意外にも、有機アミンおよび酸、または有機アミンと酸との塩を含む組成物に、十分な量のアンモニアまたはヒドラジンを加えると、有機アミンがリッチな相と酸がリッチな相を含む多相系が形成されることがわかった。したがって、有機アミンがリッチな相では、酸が存在しているとしても、その酸含量は低く、他方、酸がリッチな相では、アミンが存在しているとしても、やはりアミン含量は低い。意外にも、有機アミンは、アンモニアリッチ相および/またはヒドラジンリッチ相に対して良好な溶解性または混和性を有するが、酸のアンモニア塩またはヒドラジン塩は、そのような相に対する溶解性または混和性が非常に低いこともわかった。このことは、アンモニアおよび/またはヒドラジンを十分に加えると、別の相が形成されることを示している。本発明の方法の利点は、有機アミンと酸の分離が、上で引用した第1の公知の方法における2工程に代わって、1つの工程、すなわちアンモニアおよび/またはヒドラジンを加えることにより達成されることである。さらに、有機アミンは、アンモニアおよび/またはヒドラジンを含有する相、および、そこに含まれる全てのアミン不純物から、簡単な方法で単離することができる。さらなる利点は、副生物として生成する酸のアンモニウム塩およびヒドラゾニウム塩を、過剰のアンモニアまたはヒドラジンからより容易に分離することができ、また、過剰のアンモニアまたはヒドラジンを、副生物の塩を含まずにより容易に回収し、単離プロセスで再利用することができることである。
【0007】
有機アミンは、ここでは、少なくとも1つの炭素原子に共有結合した少なくとも1つのアミン官能基を含む化合物であると理解されるべきである。
【0008】
本発明の方法で使用することができる有機アミンは、そのままで、または酸との塩として水に溶解し、かつ、アンモニアリッチな相またはヒドラジンリッチな相に溶解するものであれば、いかなるアミンであってもよい。
【0009】
適切には、有機アミンは、第一アミン、第二アミン、または第三アミン、すなわち、第一アミン官能基、第二アミン官能基、または第三アミン官能基をそれぞれ含む有機アミンである。第一アミン官能基は、ここでは、1個の炭素原子に共有結合した1置換アミン官能基であると理解されるべきであり、第二アミン官能基は、ここでは、2個の炭素原子に共有結合した2置換アミン官能基であると理解されるべきであり、第三アミン官能基は、ここでは、3個の炭素原子に共有結合した3置換アミン官能基であると理解されるべきである。アミン官能基に共有結合する置換基は、直鎖であっても、分岐していても、飽和でも不飽和でもよく、および/または環構造を含んでいてもよい。アミン官能基に共有結合する置換基は、適切には、1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子は、ここでは、炭素または水素でない原子と理解されるべきである。
【0010】
本発明の方法で使用することができる適切な有機アミンとしては、例えば、脂肪族アミンおよび芳香族アミン、これらの組み合わせ、並びに、ヘテロ原子で置換されたこれらの誘導体が挙げられる。適切な有機アミンとしては、また、ヘテロ原子で置換されたアミンおよび環状アミン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0011】
脂肪族アミンは、ここでは、アミン官能基に共有結合した1つ以上の脂肪族基を含むアミンであると理解されるべきである。適切な脂肪族アミンは、アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびシクロアルキルアルキルアミンである。適切なアルキルアミンの例としては、ブチルアミンおよびヘキシルアミンが挙げられ、適切なシクロアルキルアミンはシクロヘキシルアミンであり、適切なシクロアルキルアルキルアミンは、ジ(アミノメチル)シクロヘキサンである。適切な第一アミンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ヒドロキシプロピルアミンおよびシクロヘキシルアミンが挙げられ、適切な第二アミンの例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジエタノールアミンが挙げられ、適切な第三アミンの例としては、トリエチルアミンおよびトリエタノールアミンが挙げられる。
【0012】
芳香族アミンは、ここでは、アミン官能基に共有結合した1つ以上の芳香族基を含むアミンであると理解されるべきである。芳香族アミンは、芳香族置換アミンおよびアラルキルアミンであってよい。適切なアラルキルアミンは、ベンジルアミンおよびキシリレンジアミンであり、適切な芳香族置換アミンとしては、アニリンおよびアンフェタミンが挙げられる。適切なヘテロ原子置換誘導体は、上述のヒドロキシエチルアミン、および複素環置換アミン、例えばメラミン、6−フェニル−2,4,7−プテリジントリアミンおよび2−アミノ−5−フェニル−4(5H)−オキサゾリンなどである。適切なヘテロ原子置換アミンの例としては、2−(2−6−ジクロロフェノキシ)エチルアミノグアナジンが挙げられる。適切な環状アミンとしては、ピロリジン、ピリジン、インドールおよび、これらの組み合わせが挙げられる。
【0013】
本発明の方法で使用される有機アミンは、適切には、モノアミン、ジアミン、トリアミンおよびポリアミンを含み、また、これらの混合物も含む。ジアミンは、適切には、第一アミン、第二アミンもしくは第三アミン、またはこれらの組み合わせである。トリアミンおよびポリアミンは、適切には、第二アミン官能基、または第二アミン官能基と1つ以上の第一アミン官能基および/または第三アミン官能基との組み合わせを含む。
【0014】
適切なジアミンの例としては、ブタンジアミン、ペンタンジアミンおよびヘキサンジアミンが挙げられる。適切なポリアミンは、例えばポリエチレンアミンである。
【0015】
好ましくは、有機アミンは、ジアミンを含み、より好ましくは、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるジアミンを含む。その利点は、これらのジアミンがポリアミドの製造に非常に適していることである。
【0016】
また好ましくは、有機アミンは、1アミン官能基当たりの当量が100以下である化合物を含み、好ましくは35〜80の範囲であり、より好ましくは40〜60の範囲である。1アミン官能基当たりの当量が小さい有機アミンの利点は、その有機アミンがアンモニアリッチまたはヒドラジンリッチな液相に対して、より良好な溶解性を有することである。
【0017】
また好ましくは、有機アミンは、200未満の分子量を有する。この利点は、その有機アミンが、蒸留によって液相からより容易に単離されることである。
【0018】
有機アミンを含む組成物中に存在させる酸は、アンモニアリッチな相および/またはヒドラジンリッチな相に溶解もしくは混和しないか、または殆どしないアンモニウム塩またはヒドラゾニウム塩へと移行することができるものであれば、いかなる酸であってもよい。酸が、この目的に適したものであるか否かは、水中に酸のアンモニウム塩またはヒドラゾニウム塩を溶解した濃縮水溶液を調製し、アンモニアを加えることによって、簡単に試験することができる。アンモニアを加えたときに沈殿が生じるならば、その酸は適している。沈殿の生成を維持することができる濃縮水溶液中の塩濃度が低いほど、および/または、沈殿の生成に必要なアンモニアの量が少ないほど、より適した酸である。
【0019】
適切には、酸は、無機酸、有機酸またはこれらの組み合わせを含む。適切な無機酸としては、塩酸、硫酸、スルホン酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物が挙げられる。適切な有機酸の例としては、ジカルボン酸、短鎖および長鎖のモノカルボン酸などのカルボン酸が挙げられる。低分子量、または短鎖カルボン酸(C1〜C4)が特に適しており、この短鎖カルボン酸としては、炭酸(C1)、酢酸(C2)およびオプロピオン酸(C3)、並びにこれらの混合物からなる群から選択される好ましい化合物が挙げられる。
【0020】
好ましくは、酸は無機酸を含み、より好ましくは、無機酸は硫酸もしくはリン酸、またはこれらの混合物を含む。硫酸またはリン酸が酸に含まれることの利点は、これらによって生成するアンモニウム塩またはヒドラゾニウム塩が、有機アミンを調製する発酵プロセスの窒素原料として再利用できることである。
【0021】
よりいっそう好ましくは、酸は、硫酸またはリン酸からなる。特に好ましくは、酸は硫酸からなる。酸が硫酸からなることの利点は、本発明の方法の過程で生成する、そのアンモニウム塩またはヒドラゾニウム塩が、有機アミンを調製する発酵プロセスの窒素原料として再利用できることである。
【0022】
有機アミンおよび酸、または有機アミンと酸との塩を含む組成物は、固体または液体であることが適切である。
【0023】
組成物が固体の場合は、有機アミンおよび酸は、有機アミンと酸との塩の形で、組成物中に存在することが好ましい。固体組成物は、有機アミンと酸との塩の他に、別の成分を含んでいてもよい。有機アミンまたはその塩は、広範囲の濃度で、固体組成物中に存在していてもよい。この範囲は、有機アミンの種類だけでなく、有機アミンと組み合わせて使用する酸の種類にも依存する。有機アミンと酸は、固体組成物中に、固体組成物の全重量に対して、全量で50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、特に好ましくは99〜100重量%の範囲で存在することが適切である。
【0024】
有機アミンおよび酸、または、その塩を含む組成物が固体の場合、添加し、固体と接触させるアンモニアまたはヒドラジンは、気体または液体であることが適切である。アンモニアまたはヒドラジンが気体である場合、固体から有機アミンが取り出され、それによって、有機アミンを含有するアンモニアリッチまたはヒドラジンリッチの気相または液相が形成される。アンモニアまたはヒドラジンが液体の場合、固体から有機アミンが抽出され、それによって、有機アミンを含有するアンモニアリッチまたはヒドラジンリッチの液相が形成される。固相は、有機アミンの含量が徐々に低下していく。固体と、アンモニアまたはヒドラジンとの接触を強めるために、固体を攪拌することができる。
【0025】
有機アミンおよび酸を含有する組成物が固体の場合、アンモニアまたはヒドラジンは液体であることが好ましい。これは、組成物から有機アミンを単離するために必要なアンモニアまたはヒドラジンの量を少なくできるという利点を有する。
【0026】
組成物が液体の場合、組成物は水溶液であることが適切である。有機アミンまたはその塩は、水溶液中に広い範囲の濃度で存在していてもよい。この範囲は、有機アミンの種類だけでなく、有機アミンと組み合わせて使用する酸の種類にも依存する。有機アミンは、水溶液の全重量に対して、少なくとも1重量%の濃度で存在することが適切であり、好ましくは、水溶液の全重量に対して、少なくとも2重量%、または、少なくとも5重量%、10重量%、20重量%であり、特に好ましくは、少なくとも30重量%である。濃度が高いことの利点は、本発明の効果がより促進され、また、酸のアンモニウム塩またはヒドラゾニウム塩の沈殿を伴う2相系を形成するために必要なアンモニアまたはヒドラジンの添加量が大幅に低減されることである。
【0027】
本発明の方法の工程(i)の前に、水溶液を濃縮し、有機アミンおよび酸、またはその塩の濃度を高めておくことが有利である。水溶液の濃縮は、水の蒸発または逆浸透など、この目的に適したものであればいかなる方法で行ってもよい。蒸発は、例えば蒸留によって行うことができる。水溶液の濃縮方法としては、逆浸透法を用いることが好ましい。逆浸透法の利点は、この操作が、より穏和な温度で実施されることにある。したがって、逆浸透法は、蒸留条件下で副生物を生成しやすい生成物に使用すると有利であり、副生物の生成を抑制することができる。
【0028】
水溶液に加えるアンモニアまたはヒドラジンは、多相系を形成するのに十分な量を加えなければならない。必要な量は、水溶液中の有機アミンおよび酸の濃度、アンモニアまたはヒドラジンのいずれを選択するか、さらには、温度のような因子にも依存する。その上、アンモニアまたはヒドラジンは、酸のアンモニウム塩またはヒドラゾニウム塩が可能な限り定量的に沈殿するよう、僅かにまたは大きく過剰に加えられる。多相系の形成および塩の定量的沈殿に必要な量は、当業者であれば、通例の測定から決定することができる。
【0029】
本発明の方法の好ましい実施形態では、工程(i)においてアンモニアが水溶液に加えられる。アンモニアを使用する利点は、安価で、広く入手可能であり、そして、最も重要なことは、発酵プロセスにおける有用な窒素原料であることである。アンモニアは、気体または液体で使用することができ、その上、加える圧力を非常に穏和なままに維持することができる。
【0030】
本発明の方法における水溶液は、有機アミンの製造プロセスのプロセス流れから得ることが適切である。有機アミンの製造プロセスはいかなるプロセスであってもよいが、従来の化学的プロセスが適切である。有機アミンの製造プロセスは、発酵プロセスであることが好ましい。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、水溶液は発酵プロセスのプロセス流れから得られ、その水溶液は酸として硫酸および/またはリン酸を含み、工程(i)でアンモニアを添加し、2相系を形成する。この実施形態の利点は、形成される沈殿が、本発明の方法によって容易に単離することができ、かつ、発酵プロセスの窒素原料として再利用することができる硫酸アンモニウムおよび/またはリン酸アンモニウムを含むことである。
【0032】
本発明の別の好ましい実施形態では、水溶液は、ジアミン、好ましくは、ブタンジアミン、ペンタンジアミンおよび/またはヘキサンジアミンを製造する発酵プロセスのプロセス流れから得られる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、有機アミンリッチ相は液相であり、酸リッチ相は固相である。
【0034】
本発明の方法の工程(ii)における固相と液相の分離では、固相と液相の分離に適したものであればいかなる方法を使用してもよい。適切な方法としては、例えばろ過法、沈降法、スプレー法などが挙げられる。固相と液相の分離に適した方法は、例えば、カーク・オスマー(Kirk Orthmer)エンサイクロペディア・オブ・ケミカル・テクノロジー(Encyclopaedia of chemical technology)に記載されている。
【0035】
適切な沈降法としては、例えば遠心分離を使用する方法が挙げられる。この方法では、上澄みを有する沈降物が生成され、上澄みは、例えばデカンテーションすることができる。沈降法はハイドロサイクロンで行うことが適切である。ハイドロサイクロンは、高揮発性成分と低揮発性成分を分離する蒸発器と接続することが適切であり、それらの成分は、それぞれ高圧蒸留塔および低圧蒸留塔でさらに分離される。
【0036】
液相と固相はハイドロサイクロンで分離することが好ましい。そうしたプロセスには、連続プロセスとしてより容易に実施することができるという利点がある。
【0037】
本発明の方法の工程(iii)において、液相から有機アミンを単離するには、液相から化合物を単離するのに適した方法であればいかなる方法を使用してもよい。適切な方法としては、例えば蒸留法、沈降法および抽出法、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
適切な蒸留法としては、例えば、アンモニアまたはヒドラジンを蒸留除去する方法が挙げられる。この方法は、室温、および/または、アンモニアもしくはヒドラジンが蒸留除去される温度範囲で液体である有機ジアミンに適切に適用される。
【0039】
適切な沈降法としては、例えば、アンモニアまたはヒドラジンとは混和性を有するが、有機アミンに対しては非溶媒である溶媒を添加する方法が挙げられる。この方法は、有機アミンが室温で固体物質である場合に適切に適用される。有機アミンが室温で固体物質であるときの沈降法の利点は、溶媒を加えたときに、有機アミンが液相から沈殿し、その後、液相から固体を単離する通常の方法により、単離することができることである。
【0040】
適切な抽出法としては、例えば、アンモニアまたはヒドラジンとは混和性を有さないが、有機アミンに対しては良好な溶媒である溶媒を添加する方法が挙げられる。
【0041】
有機アミンは、アンモニアおよび/またはヒドラジンが蒸留除去される蒸留によって、液相から単離することが好ましい。この単離方法の利点は、別の溶媒または非溶媒を添加する必要がないことである。この方法のさらなる利点は、有機アミンが液体アミンを含むアミン類の混合物からなるものであって、アミン類を分離し、さらに単離する必要があるプロセスに対して、より簡単に適用できることである。
【0042】
したがって、蒸留は分別蒸留を行うことが好ましい。適切には、分別蒸留は、1工程以上の工程で行うことができる。複数の工程で分別蒸留を行う場合、第1工程で低沸点留分と高沸点留分を分離し、その後、第2の工程、場合によりさらなる工程で、低沸点留分および/または高沸点留分をさらに分離し、これによって液相中の成分を高純度で得ることが適切である。
【0043】
蒸留による単離は、減圧下および/または高温で行うことが適切である。
【0044】
蒸留による単離のさらなる利点は、蒸留で得られるアンモニアまたはヒドラジンが有機溶媒を含有せず、かつ本発明の方法の工程(i)で再利用できることである。
【0045】
蒸留による有機アミンの単離を含む本発明の方法は、図1、図2または図3に示す装置で行うことが適切である。
【0046】
有機アミンリッチ相が気相である本発明の実施形態では、気相から揮発成分を単離するのに適した方法であればいかなる方法で有機アミンを単離してもよい。有機アミンは、選択的な凝縮、蒸留および凝縮操作によって単離することが適切である。
【0047】
図1、図2および図3は、それぞれ、有機アミンを製造する製造プロセスに統合された、本発明の単離方法を実施するのに適した装置の配置図を示す。
【0048】
図1は、本発明の単離方法の実施に適した装置の配置図を示す。図1に示す装置(1)は、導入管(4)および排出管(6)、(8)を備えた膜ユニット(2)を有する。導入管(4)は分離ユニット(10)に接続されており、この分離ユニット(10)は排出管(11)を備え、接続管(12)を介して反応器(14)に接続されている。排出管(8)はミキサー(16)に接続されている。ミキサーは、さらに、導入管(18)および排出管(20)を備えている。排出管(20)は、ハイドロサイクロン(21a)に接続され、排出口(21b)、(21c)を備える。排出口(21a)は蒸発ユニット(22)に接続されている。蒸発ユニット(22)は、2つの排出管(22)および(24)を備え、それらはそれぞれ、低圧蒸留塔(26)および高圧蒸留塔(28)に接続されている。低圧蒸留塔(26)は、2つの排出口、下部排出管(30)および上部排出管(32)を備える。高圧蒸留塔(28)もまた、2つの排出口、下部排出口(34)および上部排出口(36)を備える。上部排出口(36)は導入管(18)に接続することができる。下部排出口(34)、上部排出管(32)、排出口(21b)および排出口(6)の1つ以上を、反応器(16)に接続された導入管(38)に接続してもよい。
【0049】
図1の装置において、有機アミンを含み、かつ接続管(12)、分離器(10)および導入管(4)を経由して流れて来たプロセス流れは、膜ユニット(2)に供給される。膜ユニットでは、逆浸透法によってプロセス流れから水が分離され、それによりプロセス流れが濃縮される。水は排出口(6)から排出され、濃縮プロセス流れは、排出口(8)を介してミキサー(16)へ供給される。アンモニアおよび/またはヒドラジンが導入管(18)を介してミキサー(16)へ供給され、濃縮プロセス流れと混合され、これによって液相および固相を含む多相系が形成される。混合物は、排出管(20)を介して、液相と固相とを分離可能なハイドロサイクロン(21a)に供給される。液相は、排出管(21b)を介して蒸発ユニット(22)へ導入される。液相は、蒸発ユニット(22)において、低圧沸点留分と高圧沸点留分に分離される。低圧沸点留分は、排出管(22)を介して低圧蒸留塔(26)に導入され、高圧沸点留分は排出管(24)を介して高圧蒸留塔(28)に導入される。低圧蒸留塔(26)で、アンモニアまたはヒドラジンが、低圧沸点留分中の他の成分から分離され、場合により排出管(32)を介してミキサー(16)に戻される。高圧蒸留塔(28)で、有機アミンが、高圧沸点留分中の他の成分から分離され、排出管(38)を介して排出される。
【0050】
場合により、膜ユニット(2)、ハイドロサイクロン(21a)、低圧蒸留塔(26)および/または高低圧蒸留塔(26)からの、廃棄物流れまたは第2の流れを、導入管(48)を介して反応器(16)に戻してもよい。
【0051】
図2は、本発明の単離方法の実施に適した装置の配置図を示すものであり、膜ユニット(2)の代わりに蒸発器(40)を用いている点を除いて、図1に示すものと同様である。蒸発器では、プロセス流れが蒸留によって濃縮される。
【0052】
図3は、本発明の単離方法の実施に適した装置の配置図を示すものであり、膜ユニット(2)の代わりに晶析装置(42)を用いている点を除いて、図1に示すものと同様である。晶析装置では、有機アミンは、酸との塩の形でプロセス流れから単離される。この場合、ミキサー(16)へ供給されるのは塩である。
【0053】
以下の実施例および比較実験により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0054】
[分析方法]
硫酸イオン(SO2−)含量は、小容量アニオン交換カラムを用いてイオンクロマトグラフィにより測定した。
【0055】
アンモニウムイオン(NH4)含量は、小容量カチオン交換カラムを用いてイオンクロマトグラフィにより測定した。
【0056】
アミン含量は、HPLCにより測定した。測定の前に、アミン含有サンプルをNBD塩化物により処理して誘導体化しておき、その後、HPLC装置に注入し、誘導体をクロマトグラフィにより分離し、蛍光により検出した。
【0057】
クロロホルム含量は、非極性カラムを使用したGC−FIDで測定した。定量化は内標準法によって行った。
【0058】
[材料]
次のアミン:1,2−ジアミノエタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサンおよび1−アミノブタンを使用した。
【0059】
[実施例I]
1.5オートクレーブに、353gの1,4−ジアミノブタン水溶液(水中67重量%)を加え、その後、712gの硫酸水溶液(水中37重量%)を加えて混合し、565gの水中に500gの1,4−ジアンモニウムブタンスルフェートを含む溶液を調製した。溶液を常圧下で80℃にまで加熱し、その後、真空引きして水を除去した。乾燥した固体の塩が得られた。分析の結果、1,4−ジアミノブタンとSO2−のモル比が1に近いことがわかった。この塩を次の工程で使用した。連続的に攪拌しながら、495gの1,4−ジアンモニウムブタンスルフェート塩に550gの液体純アンモニアを加えた。スラリーを1時間攪拌した。攪拌停止後、固体粒子が沈降し、上澄み液が形成された。上澄み液の組成は以下のようにして分析した。9.1gの液体をサンプリングし、881gの水に加えた。この水溶液を分析した結果、液体サンプルは、11.2重量%の1,4−ジアミノブタン、88.4重量%のアンモニアおよび0.5重量%未満のSO2−を含有していることがわかった。1,4−ジアミノブタン:SO2−のモル比は、≧24.4と計算された。
【0060】
[実施例II]
1.5オートクレーブに、160gの1,4−ジアミノブタン水溶液(水中67重量%)、322gの硫酸水溶液(水中37重量%)および84gの水を加え、226gの1,4−ジアンモニウムブタンスルフェートと340gの水からなる溶液を調製した。サンプルとして45gを採取した。分析の結果、サンプル中の1,4−ジアミノブタン、SO2−および水の濃度は、それぞれ20重量%、21重量%および59重量%であった。したがって、出発溶液は41重量%の1,4−ジアンモニウムブタンスルフェートを含有していた。液体の純アンモニアを、残りの水溶液(521g)に徐々に加えた。固体が直ちに液体プール中に生成したが、攪拌すると溶解した。アンモニアを200ml(約120gに対応)加えると、生成した固体は再溶解しなかった。全量で380ml(約230gに対応)のアンモニアを加えたところで攪拌器を停止し、固体粒子が沈降した後、液体サンプルを採取した。分析の結果、サンプル中の1,4−ジアミノブタン、SO2−、アンモニアおよび水の濃度は、それぞれ17.6重量%、3.5重量%、40重量%および38.9重量%であった。1,4−ジアミノブタン:SO2−のモル比は、5.5と計算された。
【0061】
[比較実験A]
1.5オートクレーブに、85gの1,4−ジアミノブタン水溶液(水中67重量%)、171gの硫酸水溶液(水中37重量%)および344gの水を加え、120gの1,4−ジアンモニウムブタンスルフェートと480gの水からなる溶液を調製した。サンプルとして33gを採取した。残りの水溶液(567g)に液体の純アンモニアを徐々に加えた。固体が直ちに液体プール中に生成したが、攪拌すると溶解した。全量で350ml(約210gに対応)のアンモニアを加えたところで攪拌器を停止した。固体を含まない透明な溶液が得られる。
【0062】
実施例1〜2および比較実験aから、水の量が少ないほど、硫酸塩からの1,4−ジアミノブタンの分離が良好になることがわかる。
【0063】
[実施例III]
1.5オートクレーブに、66gの1,6−ジアミノヘキサン、149gの硫酸水溶液(水中37重量%)および87gの水を加え、121gの1,6−ジアンモニウムヘキサンスルフェートと181gの水からなる溶液を調製した。サンプルとして31gを採取した。残りの水溶液(271g)に液体の純アンモニアを徐々に加えた。固体が直ちに液体プール中に生成したが、攪拌すると溶解した。アンモニアを190ml(約114g)加えると、生成した固体は再溶解しなかった。260ml(約156g)のアンモニアを加えたところで攪拌を停止し、固体を沈降させ、得られた液相のサンプルを採取した。液相を分析した結果、サンプル中の1,6−ジアミノヘキサン、SO2−、アンモニアおよび水の濃度は、それぞれ11.8重量%、4.4重量%、35.0重量%および48.8重量%であった。1,6−ジアミノヘキサン:SO2−のモル比は、2.2と計算された。
【0064】
[実施例IV]
1.5オートクレーブに、60gの1,2−ジアミノエタン、265gの硫酸水溶液(水中37重量%)および70gの水を加え、158gの1,2−ジアンモニウムエタンスルフェートと237gの水からなる溶液を調製した。液体の純アンモニアを徐々に加えた。固体が直ちに液体中に生成したが、攪拌すると溶解した。アンモニアを190ml(約114g)加えると、生成した固体はもはや溶解しなかった。260ml(約156g)のアンモニアを加えたところで攪拌を停止し、固体を沈降させ、得られた液相のサンプルを採取した。液相を分析した結果、サンプル中の1,2−ジアミノエタン、SO2−、アンモニアおよび水の濃度は、それぞれ10.5重量%、3.0重量%、39.0重量%および47.5重量%であった。1,2−ジアミノエタン:SO2−のモル比は、5.6と計算された。
【0065】
[実施例V]
1.5オートクレーブに、146gの1−アミノブタン、265gの硫酸水溶液(水中37重量%)および199gの水を加え、244gのジ(n−ブチルアンモニウム)スルフェートと366gの水からなる溶液を調製した。15gのサンプルを採取した。液体の純アンモニアを徐々に加えた。固体が直ちに液体プール中に生成したが、攪拌すると溶解した。アンモニアを180ml(約108g)加えると、生成した固体はもはや溶解しなかった。404ml(約242g)のアンモニアを加えたところで攪拌を停止し、固体を沈降させ、得られた液相のサンプルを採取した。液相を分析した結果、サンプル中の1−アミノブタン、SO2−、アンモニアおよび水の濃度は、それぞれ17.4重量%、2.6重量%、33.3重量%および46.7重量%であった。1−アミノブタン:SO2−のモル比は、17.3と計算されたが、これは、ジ−(1−アンモニウムブタン)スルフェートの塩中のモル比より8.65倍良好である。
【0066】
[実施例VI]
1.5オートクレーブ中に、68gの1,5−ジアミノペンタン(カダベリン)、175gの硫酸水溶液(水中37重量%)および136gの水を加え、133gの1,5−ジアンモニウムペンタンスルフェートと246gの水からなる溶液を調製した。液体の純アンモニアを徐々に加えた。固体が直ちに液体プール中に生成したが、攪拌すると溶解した。アンモニアを195ml(約117g)加えると、生成した固体はもはや溶解しなかった。480ml(約288g)のアンモニアを加えたところで攪拌を停止し、固体を沈降させ、得られた液相のサンプルを採取した。液相を分析した結果、サンプル中の1,5−ジアミノペンタン、SO2−、アンモニアおよび水の濃度は、それぞれ8.7重量%、0.8重量%、50.4重量%および40.1重量%であった。1,2−ジアミノペンタン:SO2−のモル比は10.2と計算された。
【0067】
[比較例B]
1.5リットルのオートクレーブ中に、91gの1,5−ジアミノペンタン(カダベリン)、175gの塩酸水溶液(37重量%)および350gの水を加え、156gの1,5−ジアンモニウムペンタンクロライドと460gの水からなる溶液を調製した。酸性度を測定した:pH=8。溶液にKOHの錠剤10gを加えた。溶液の酸性度を再度測定したところ、pH>11となった。溶液に666gのクロロホルム(450ml)を加えた。その結果、全体積は995mlとなった。1時間攪拌の後、2つの液体、575mlの上部液相と420mlの下部液相とが得られた。両液相をサンプリングし、分析した。上部液相は水性の相であり、14.3重量%のカダベリン、0.4重量%のクロロホルムおよび10.1重量%のClイオンを含有し、残りは主として水であることがわかった。下部液相は有機相であり、<0.1重量%のカダベリン、94.0重量%のクロロホルムおよび11ppmのClイオンを含有し、残りは主として水であることがわかった。
【0068】
この結果から、カダベリンはほぼ完全に、塩素イオンを含む水溶液中に存在し、そして水酸化カリウムによるpH調節とクロロホルムによる抽出はカダベリンの収率を低下させることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の単離方法の実施に適した装置の配置図を示す。
【図2】本発明の単離方法の実施に適した装置の配置図を示す。
【図3】本発明の単離方法の実施に適した装置の配置図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アミンおよび酸、または有機アミンと酸との塩を含む組成物から前記有機アミンを単離する方法であって、
(i)前記組成物にアンモニアまたはヒドラジンを加え、それによって、有機アミンリッチな相と酸リッチな相を含む多相系を形成する工程と、
(ii)工程(i)で得られた前記有機アミンリッチ相と前記酸リッチ相を分離する工程と、
(iii)前記有機アミンリッチ相から前記有機アミンを単離する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記有機アミンは、ジアミン、好ましくはブタンジアミン、ペンタンジアミンもしくはヘキサンジアミン、またはこれらの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸は、無機酸または短鎖カルボン酸を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸は、硫酸もしくはリン酸、またはこれらの混合物を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組成物は固体であり、前記アンモニアまたはヒドラジンは液体である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物は水溶液である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機アミンは、前記水溶液中に、水溶液の全重量に対して、少なくとも1重量%の濃度で存在する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記水溶液は、工程(i)の前に濃縮される請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
工程(i)において、アンモニアが前記水溶液に添加される請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液は、前記有機アミンの製造プロセスのプロセス流れから、好ましくは発酵プロセスのプロセス流れから得られる請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記有機アミンリッチ相は液相であり、前記酸リッチ相は固相であり、かつ前記液相と固相はスプレー法によって分離される請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(iii)において、前記有機アミンは蒸留によって前記液相から単離され、場合により、蒸留によって得られるアンモニアまたはヒドラジンが工程(i)で再利用される請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−523144(P2009−523144A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549785(P2008−549785)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012307
【国際公開番号】WO2007/079944
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】