説明

有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機薄膜及びその製造方法、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、並びに表示装置

【課題】安定的かつ容易に薄膜を形成、あるいは有機薄膜層の多層化を容易に行うことができ、有機エレクトロニクス素子、特に高分子型有機EL素子の生産性を向上させる上で有用な有機エレクトロニクス材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(1b)で表されるイオン性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする有機エレクトロニクス材料。
【化1】


(一般式(1b)中、Yは炭素原子又は硫黄原子を含む二価の連結基、Rは電子求引性基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。Lは一価のカチオンを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機薄膜及びその製造方法、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子ということもある)、照明装置、表示素子、並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の一例として有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタなどが挙げられる。
【0004】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0005】
近年、有機EL素子の発光効率・寿命を改善する目的で、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(4−ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris(4-bromophenylaminium hexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、正孔輸送性化合物に、電子受容性化合物として塩化鉄(III)(FeCl)を真空蒸着法により混合して用いることが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(tris(pentafluorophenyl)borane:PPB)を、湿式成膜法により混合して正孔注入層を形成することが開示されている。
【0009】
このように、電荷輸送性化合物へ電子受容性化合物を混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンからなる化合物を生成させることが重要であると考えられる。
【0010】
また、特許文献4には、電荷輸送膜用組成物として、特定のアミニウムカチオンラジカルからなる組成物が開示されている。
【0011】
しかしながら、これら文献において、本発明に係るイオン性化合物を電子受容性化合物として利用した旨については記載されていない。
【0012】
一方、有機EL素子は、用いる材料及び製膜方法から低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子は、有機材料が高分子材料により構成されており、真空系での成膜が必要な低分子型有機EL素子と比較して、印刷やインクジェットなどの簡易成膜が可能なため、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な素子である。
【0013】
低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子とも、これまで精力的に研究が行われてきたが、未だに発光効率の低さ、素子寿命の短さが大きな問題となっている。この問題を解決する一つの手段として、低分子型有機EL素子では多層化が行われている。
【0014】
図1に多層化された有機EL素子の一例を示す。図1において、発光を担う層を発光層1、それ以外の層を有する場合、陽極2に接する層を正孔注入層3、陰極4に接する層を電子注入層5と記述する。さらに、発光層1と正孔注入層3の間に異なる層が存在する場合、正孔輸送層6と記述、さらに発光層1と電子注入層5の間に異なる層が存在する場合、電子輸送層7と記述する。なお、図1において、8は基板である。
【0015】
低分子型有機EL素子は蒸着法で製膜を行うため、用いる化合物を順次変更しながら蒸着を行うことで容易に多層化が達成できる。一方、高分子型有機EL素子は印刷やインクジェットといった湿式プロセスを用いて製膜を行うため、上層を塗布する際に下層が溶解してしまうという課題が生じる。そのため、高分子型有機EL素子の多層化は低分子型有機EL素子に比べ困難であり、発光効率の向上、寿命の改善効果を得ることができなかった。
【0016】
この問題に対処するために、これまでにいくつかの方法が提案されている。一つは、溶解度の差を用いる方法である。例えば、水溶性であるポリチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)からなる正孔注入層、トルエン等の芳香族系有機溶媒を用いて製膜された発光層の2層構造からなる素子である。この場合、PEDOT:PSS層はトルエン等芳香族溶媒に溶解しないため、2層構造を作製することが可能となっている。
【0017】
また、非特許文献1には、溶解度の大きく異なる化合物を利用した3層構造の素子が提唱されている。
【0018】
また、特許文献5には、PEDOT:PSS上にインターレイヤー層と呼ばれる層を導入した3層構造の素子が開示されている。
【0019】
また、非特許文献2〜4、特許文献6にはこのような課題を克服するために、シロキサン化合物やオキセタン基、ビニル基などの重合反応を利用して化合物の溶解度を変化させ、薄膜を溶剤に対して不溶化する方法が開示されている。
【0020】
これらの多層化を図る方法は重要であるが、水溶性のPEDOT:PSSを使用すると薄膜中に残存する水分を除去する必要があることや、溶解度差を利用するには使用できる材料が限られてしまう、シロキサン化合物が空気中の水分に不安定といった問題点や素子特性が十分ではない問題点があった。
【0021】
上記重合反応を利用するには、光や熱などの刺激により反応・分解して酸や塩基、ラジカル等を発生する適切な重合開始剤を添加する必要がある。
【0022】
特許文献7、特許文献8、特許文献9にはフッ素を含有した光酸発生剤あるいは開始剤が開示されている。
しかしながら、これら文献において本発明におけるイオン性化合物を用いた有機エレクトロニクス材料に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第3748491号公報
【特許文献2】特開平11−251067号公報
【特許文献3】特許第4023204号公報
【特許文献4】特開2006−233162号公報
【特許文献5】特開2007−119763号公報
【特許文献6】国際公開第2008/010487号
【特許文献7】特開2003−215791号公報
【特許文献8】特開2009−242391号公報
【特許文献9】特許第3985020号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Y. Goto, T. Hayashida, M. Noto, IDW ‘04 Proceedings of The 11th International Display Workshop, 1343-1346(2004)
【非特許文献2】H. Yan, P. Lee, N. R. Armstrong, A. Graham, G. A. Evemenko, P. Dutta, T. J. Marks, J. Am. Chem. Soc., 127, 3172-4183(2005)
【非特許文献3】E. Bacher, M.Bayerl, P. Rudati, N. Reckfuss, C. David, K. Meerholz, O. Nuyken, Macromolecules, 38, 1640(2005)
【非特許文献4】M. S. Liu, Y. H. Niu, J. W. Ka, H. L. Yip, F. Huang, J. Luo, T. D. Wong, A. K. Y. Jen, Macromolecules, 41, 9570(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
有機EL素子の高効率化、長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々層の機能を分離することが望ましいが、大面積でも製膜が容易な湿式プロセスを用いて有機層を多層化するためには、上述のように、下層が上層製膜時に溶解しないようにする必要があり、重合反応を利用した溶剤への溶解度の変化が用いられてきた。
【0026】
また、有機EL素子の低駆動電圧化のため、電荷輸送性化合物に電子受容性化合物を混合する試みがなされているが、特性はいまだ十分なものではなかった。
【0027】
本発明は、上記した問題に鑑み、安定的かつ容易に薄膜を形成、あるいは有機薄膜層の多層化を容易に行うことができ、有機エレクトロニクス素子、特に高分子型有機EL素子の生産性を向上させる上で有用な有機エレクトロニクス材料、該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物、該有機エレクトロニクス材料、及び該インク組成物から形成された有機薄膜を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、従来よりも駆動電圧が低く、長い発光寿命を有する有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子、照明装置、表示素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のイオン性化合物を含む有機エレクトロニクス材料、さらに該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物、さらに該有機エレクトロニクス材料または該インク組成物を用いて形成された有機薄膜が、有機EL素子の高効率化・長寿命化に有用であることを見出し、本研究を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(16)の事項をその特徴とするものである。
【0029】
(1)下記一般式(1b)で表されるイオン性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする有機エレクトロニクス材料。
【0030】
【化1】

(一般式(1b)中、Yは炭素原子又は硫黄原子を含む二価の連結基、Rは電子求引性基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。Lは一価のカチオンを表す。)
【0031】
(2)少なくとも1つの電荷輸送性化合物を含むことを特徴とする前記(1)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0032】
(3)電荷輸送性化合物が少なくとも1つ以上の重合可能な置換基を有することを特徴とする前記(2)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0033】
(4)イオン性化合物が重合開始剤として機能することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0034】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むインク組成物。
【0035】
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機薄膜。
【0036】
(7)前記(5)に記載のインク組成物を用いて形成された有機薄膜。
【0037】
(8)前記(6)又は(7)に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機エレクトロニクス素子。
【0038】
(9)前記(6)又は(7)に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【0039】
(10)前記有機薄膜が正孔注入層であることを特徴とする前記(9)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0040】
(11)前記有機薄膜が正孔輸送層であることを特徴とする前記(9)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0041】
(12)基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする前記(9)〜(11)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0042】
(13)基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする前記(9)〜(12)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0043】
(14)前記(9)〜(13)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【0044】
(15)前記(9)〜(13)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【0045】
(16)前記(15)に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示装置。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、安定的かつ容易に薄膜を形成でき、また重合反応によって溶解度が変化するため、有機薄膜層の多層化を容易に行うことができ、それゆえ、有機エレクトロニクス素子、特に高分子型有機EL素子の生産性を向上させる上で極めて有用な有機エレクトロニクス材料を提供することができる。
さらには、該有機エレクトロニクス材料がイオン性化合物を含むことにより従来よりも駆動電圧が低く、長い発光寿命を有する有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】多層化された有機EL素子の一例を示す模式図である。
【図2】実施例4及び5と、比較例5及び6とにおいて作製した素子の印加電圧−電流密度の関係をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
<有機エレクトロニクス材料>
本発明の有機エレクトロニクス材料は、下記一般式(1b)で表されるイオン性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴としている。
【0049】
【化2】

(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を含む二価の連結基、Rは電子求引性基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。Lはカチオンを表す。)
【0050】
[イオン性化合物]
ここで、本発明における「イオン性化合物」について詳細に述べる。本発明においてイオン性化合物とは、カチオンとアニオンからなる化合物をいう。カチオンの種類および価数としては特に限定されないが、Li,Na,K,Rb,Csといったアルカリ金属イオン、Mg2+,Ba2+,Ca2+といったアルカリ土類金属イオン、Al3+,Fe3+,Fe2+,Zn2+,Mn2+といったその他の金属イオン、[Ag(NH],[Zn(NH]2+といった金属錯イオンに代表される無機カチオン、H、NHの他、有機カチオンが挙げられる。有機カチオンの場合は、カチオンがポリマーやオリゴマーであってもよいし、ヨードニウムやホスホニウムといったオニウムイオン、カルベニウムイオン、アミニウムイオンなどであってもよい。また、カチオンが多価の場合は、一価のアニオンと電荷のバランスが取れた組成であればよい。すなわち二価のカチオンを有するイオン性化合物の場合は、二価のカチオン一当量に対し、二当量の一価アニオンを含む組成であればよい。
【0051】
(カチオン)
本発明に係るイオン性化合物におけるカチオンは化合物の溶解性の観点から、有機カチオンであることが好ましい。他方、無機カチオンを有するイオン性化合物は一般的に極性の低い有機溶媒には溶解しにくい。有機カチオンの中でも合成および入手の容易さの観点から、下記一般式(2b)〜(4b)で表される構造を有するカチオンであることが特に好ましい。
【0052】
【化3】

(式中、R11〜R34は、各々独立に、任意の有機基を表す。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに連結して環を形成していてもよい。Aは長周期型周期表の第17族または第14族に属する元素を表し、Aは長周期型周期表の第16族または第14族に属する元素を表し、Aは長周期型周期表の第15族に属する元素を表す。)
【0053】
上記一般式におけるR11〜R34は、化合物の安定性、溶媒への溶解性の観点から、各々独立に、置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基であることが好ましい。
化合物の安定性、合成及び精製のし易さから、前記一般式(2b)におけるAが臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子であり、前記一般式(3b)におけるAが酸素原子、炭素原子、硫黄原子またはセレン原子であり、前記一般式(4b)におけるAが窒素原子、リン原子、ヒ素原子またはアンチモン原子であることが好ましい。
【0054】
すなわち、本発明におけるイオン性化合物のカチオンは、より好ましくは、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、カルベニウム(トリチル)、アニリニウム、ビスムトニウム、アンモニウム、セレニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、オキソニウム、キノリニウム、ピロリジニウム、アミニウム、イモニウム、トロピリウムなどである。
【0055】
例えば、スルホニウムとしては、トリフェニルスルホニウム、トリ−p−トリルスルホニウム、トリ−o−トリルスルホニウム、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、1−ナフチルジフェニルスルホニウム、2−ナフチルジフェニルスルホニウム、トリス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、トリ−1−ナフチルスルホニウム、トリ−2−ナフチルスルホニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−(4−メトキシフェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ビス〔4−{ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホニオ}フェニル〕スルフィド、ビス{4−[ビス(4−フルオロフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メチルフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メトキシフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジ−p−トリルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジフェニルスルホニウム、2−[(ジ−p−トリル)スルホニオ]チオキサントン、2−[(ジフェニル)スルホニオ]チオキサントン、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジフェニルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジフェニルスルホニウム、5−(4−メトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−フェニルチアアンスレニウム、5−トリルチアアンスレニウム、5−(4−エトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−(2,4,6−トリメチルフェニル)チアアンスレニウムなどのトリアリールスルホニウム;ジフェニルフェナシルスルホニウム、ジフェニル4−ニトロフェナシルスルホニウム、ジフェニルベンジルスルホニウム、ジフェニルメチルスルホニウムなどのジアリールスルホニウム;フェニルメチルベンジルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチル(1−エトキシカルボニル)エチルスルホニウム、フェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルオクタデシルフェナシルスルホニウム、9−アントラセニルメチルフェナシルスルホニウムなどのモノアリールスルホニウム;ジメチルフェナシルスルホニウム、フェナシルテトラヒドロチオフェニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ベンジルテトラヒドロチオフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルスルホニウムなどのトリアルキルスルホニウムなどが挙げられ、これらは以下の文献に記載されている。
【0056】
トリアリールスルホニウムに関しては、米国特許第4231951号、米国特許第4256828号、特開平7−61964号、特開平8−165290号、特開平7−10914号、特開平7−25922号、特開平8−27208号、特開平8−27209号、特開平8−165290号、特開平8−301991号、特開平9−143212号、特開平9−278813号、特開平10−7680号、特開平10−287643号、特開平10−245378号、特開平8−157510号、特開平10−204083号、特開平8−245566号、特開平8−157451号、特開平7−324069号、特開平9−268205号、特開平9−278935号、特開2001−288205号、特開平11−80118号、特開平10−182825号、特開平10−330353、特開平10−152495、特開平5−239213号、特開平7−333834号、特開平9−12537号、特開平8−325259号、特開平8−160606号、特開2000−186071号(米国特許第6368769号)など;ジアリールスルホニウムに関しては、特開平7−300504号、特開昭64−45357号、特開昭64−29419号など;モノアリールスルホニウムに関しては、特開平6−345726号、特開平8−325225号、特開平9−118663号(米国特許第6093753号)、特開平2−196812号、特開平2−1470号、特開平2−196812号、特開平3−237107号、特開平3−17101号、特開平6−228086号、特開平10−152469号、特開平7−300505号、特開2003−277353、特開2003−277352など;トリアルキルスルホニウムに関しては、特開平4−308563号、特開平5−140210号、特開平5−140209号、特開平5−230189号、特開平6−271532号、特開昭58−37003号、特開平2−178303号、特開平10−338688号、特開平9−328506号、特開平11−228534号、特開平8−27102号、特開平7−333834号、特開平5−222167号、特開平11−21307号、特開平11−35613号、米国特許第6031014号などが挙げられる。
【0057】
ヨードニウムイオンとしては、ジフェニルヨードニウム、ジ−p−トリルヨードニウム、ビス(4−ドデシルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−メトキシフェニル)ヨードニウム、(4−オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウム、ビス(4−デシルオキシフェニル)ヨードニウム、4−(2−ヒドロキシテトラデシルオキシ)フェニルフェニルヨードニウム、4−イソプロピルフェニル(p−トリル)ヨードニウム、イソブチルフェニル(p−トリル)ヨードニウムなどが挙げられ、これらは、Macromolecules,10,1307(1977)、特開平6−184170号、米国特許第4256828号、米国特許第4351708号、特開昭56−135519号、特開昭58−38350号、特開平10−195117号、特開2001−139539号、特開2000−510516号、特開2000−119306号などに記載されている。
【0058】
セレニウムイオンとしては、トリフェニルセレニウム、トリ−p−トリルセレニウム、トリ−o−トリルセレニウム、トリス(4−メトキシフェニル)セレニウム、1−ナフチルジフェニルセレニウム、トリス(4−フルオロフェニル)セレニウム、トリ−1−ナフチルセレニウム、トリ−2−ナフチルセレニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)セレニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルセレニウム、 4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルセレニウムなどのトリアリールセレニウム;ジフェニルフェナシルセレニウム、ジフェニルベンジルセレニウム、ジフェニルメチルセレニウムなどのジアリールセレニウム;フェニルメチルベンジルセレニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルセレニウム、フェニルメチルフェナシルセレニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルセレニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルセレニウムなどのモノアリールセレニウム;ジメチルフェナシルセレニウム、フェナシルテトラヒドロセレノフェニウム、ジメチルベンジルセレニウム、ベンジルテトラヒドロセレノフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルセレニウムなどのトリアルキルセレニウムなどが挙げられ、これらは特開昭50−151997号、特開昭50−151976号、特開昭53−22597号などに記載されている。
【0059】
アンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチル−n−プロピルアンモニウム、トリメチルイソプロピルアンモニウム、トリメチル−n−ブチルアンモニウム、トリメチルイソブチルアンモニウム、トリメチル−t−ブチルアンモニウム、トリメチル−n−ヘキシルアンモニウム、ジメチルジ−n−プロピルアンモニウム、ジメチルジイソプロピルアンモニウム、ジメチル−n−プロピルイソプロピルアンモニウム、メチルトリ−n−プロピルアンモニウム、メチルトリイソプロピルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウム;N,N−ジメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メチルピロリジニウム、N,N−ジエチルピロリジニウムなどのピロリジニウム;N,N'−ジメチルイミダゾリニウム、N,N'−ジエチルイミダゾリニウム、N−エチル−N'−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムなどのイミダゾリニウム;N,N'−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、N,N'−ジエチルテトラヒドロピリミジニウム、N−エチル−N'−メチルテトラヒドロピリミジニウム、1,2,3−トリメチルテトラヒドロピリミジニウムなどのテトラヒドロピリミジニウム;N,N'−ジメチルモルホリニウム、N−エチル−N−メチルモルホリニウム、N,N−ジエチルモルホリニウムなどのモルホリニウム;N,N−ジメチルピペリジニウム、N−エチル−N'−メチルピペリジニウム、N,N'−ジエチルピペリジニウムなどのピペリジニウム;N−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−n−プロピルピリジニウム、N−イソプロピルピリジニウム、N−n−ブチルピリジニウム、N−ベンジルピリジニウム、N−フェナシルピリジウムなどのピリジニウム;N,N'−ジメチルイミダゾリウム、N−エチル−N−メチルイミダゾリウム、N,N'−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−n−プロピル−2,4−ジメチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム;N−メチルキノリウム、N−エチルキノリウム、N−n−プロピルキノリウム、N−イソプロピルキノリウム、N−n−ブチルキノリウム、N−ベンジルキノリウム、N−フェナシルキノリウムなどのキノリウム;N−メチルイソキノリウム、N−エチルイソキノリウム、N−n−プロピルイソキノリウム、N−イソプロピルイソキノリウム、N−n−ブチルイソキノリウム、N−ベンジルイソキノリウム、N−フェナシルイソキノリウムなどのイソキノリウム;ベンジルベンゾチアゾニウム、フェナシルベンゾチアゾニウムなどのチアゾニウム;ベンジルアクリジウム、フェナシルアクリジウムなどのアクリジウムが挙げられる。
【0060】
これらは、米国特許第4069055号、特許第2519480号、特開平5−222112号、特開平5−222111号、特開平5−262813号、特開平5−255256号、特開平7−109303号、特開平10−101718号、特開平2−268173号、特開平9−328507号、特開平5−132461号、特開平9−221652号、特開平7−43854号、特開平7−43901号、特開平5−262813号、特開平4−327574、特開平2−43202号、特開昭60−203628号、特開昭57−209931号、特開平9−221652号などに記載されている。
【0061】
ホスホニウムイオンとしては、例えば、テトラフェニルホスホニウム、テトラ−p−トリルホスホニウム、テトラキス(2−メトキシフェニル)ホスホニウム、テトラキス(3−メトキシフェニル)ホスホニウム、テトラキス(4−メトキシフェニル)ホスホニウムなどのテトラアリールホスホニウム;トリフェニルベンジルホスホニウム、トリフェニルフェナシルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム、トリフェニルブチルホスホニウムなどのトリアリールホスホニウム;トリエチルベンジルホスホニウム、トリブチルベンジルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、トリエチルフェナシルホスホニウム、トリブチルフェナシルホスホニウムなどのテトラアルキルホスホニウムなどが挙げられる。これらは、特開平6−157624号、特開平5−105692号、特開平7−82283号、特開平9−202873号などに記載されている。
【0062】
オキソニウムイオンとしては、トリメチルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、トリプロピルオキソニウム、トリブチルオキソニウム、トリヘキシルオキソニウム、トリフェニルオキソニウム、ピリリニウム、クロメニリウム、キサンチリウムが挙げられる。
【0063】
ビスムトニウムイオンとしては、例えば、特開2008−214330に記載されている。
【0064】
トロピリウムイオンとしては、例えば、J. Polym. Sci. Part A;Polym. Chem.,42,2166(2004)に記載されている。
【0065】
(アニオン)
本発明におけるアニオンは、前記一般式(1b)のアニオン部分で表されるものであれば、特に限定されないが、電子求引性基たるRの具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基、メシル基等のアルキルスルホニル基、トシル基等のアリールスルホニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数が通常1以上12以下、好ましくは6以下のアシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数が通常2以上10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数が通常3以上好ましくは4以上25以下好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基、アセトキシ等の炭素数が通常2以上20以下のアシルオキシ基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の炭素数が通常1以上10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル、アルケニル、アルキニル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル基、ペンタフルオロフェニル基などの炭素数が通常6以上20以下のハロアリール基などが挙げられる。これらの中でも、負電荷を効率よく非局在化できる観点から、より好ましくは、上記有機基のうち水素原子を有する基の水素原子の一部または全てをフッ素原子で置換した基、例えば、炭素数1〜20のヘテロ原子を含んでもよい直鎖状、分岐状もしくは環状のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキルオキシ基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアリールオキシ基、パーフルオロアシル基、パーフルオロアルコキシ基、パーフルオロアシルオキシ基、パーフルオロアリールオキシカルボニル基、パーフルオロアルケニル基、パーフルオロアルキニル基であり、具体的には、下記構造式群(1)で表されるが、これに限定されるものではない。これらの中でも、アリール基を含むものが好ましく、さらには全フッ素置換されたアリール基が好ましい。
【0066】
構造式群(1)
【化4】

【0067】
また、一般式(1b)におけるYは2価の連結基を示すが、下記一般式(5b)〜(11b)のいずれか1種であることが好ましい。
【0068】
【化5】

(式中、Rは任意の有機基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。)
【0069】
一般式(10b)及び(11b)におけるRは、電子受容性の向上、溶媒への溶解性の観点から、各々独立に、置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基であることが好ましく、より好ましくは前記置換基のうち、電子求引性の置換基を有する有機基であり、例えば、前記構造式群(1)の基が挙げられる。
【0070】
また、本発明におけるアニオンは負電荷が主として酸素原子上にあるものであり、より好ましくは−SO、−CO基を有するものであり、最も好ましくは下記一般式(16b)、(17b)で表されるものである。
【0071】
【化6】

(式中、Rはそれぞれ独立に任意の電子求引性基を表し、前記構造式群(1)で例示される。)
【0072】
[電荷輸送性化合物]
また、本発明は前記イオン性化合物と少なくとも1つの電荷輸送性化合物を含むことが好ましい。
【0073】
ここで、本発明における「電荷輸送性化合物」について詳細に述べる。本発明において電荷輸送性化合物とは、電荷輸送性ユニットを有する化合物を言う。
【0074】
本発明において「電荷輸送性ユニット」とは、正孔または電子を輸送する能力を有した原子団であり、以下、その詳細について述べる。
【0075】
上記電荷輸送性ユニットは、正孔または電子を輸送する能力を有してさえいればよく、特に限定されないが、芳香環を有するアミンやカルバゾール、チオフェンであることが好ましく、例えば、下記一般式(1)〜(58)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0076】
【化7】

【0077】
【化8】

【0078】
【化9】

【0079】
【化10】

【0080】
【化11】

【0081】
【化12】

【0082】
(式中、Eはそれぞれ独立に−R1、−OR2、−SR3、−OCOR4、−COOR5、−SiR678または一般式(59)〜(61)(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、aおよびbおよびcは、1以上の整数を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)、または下記置換基群(A)〜置換基群(N)において表される基のいずれかを表す。Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。XおよびZはそれぞれ独立に二価の連結基で、特に制限はないが、前記Rのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基や後記連結基群(A)で例示される基が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは前記三価の連結基であり、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から2つの水素原子を除去した基を表す。)
【0083】
置換基群(A)
【化13】

【0084】
置換基群(B)
【化14】

【0085】
置換基群(C)
【化15】

【0086】
置換基群(D)
【化16】

【0087】
置換基群(E)
【化17】

【0088】
置換基群(F)
【化18】

【0089】
置換基群(G)
【化19】

【0090】
置換基群(H)
【化20】

【0091】
置換基群(I)
【化21】

【0092】
置換基群(J)
【化22】

【0093】
置換基群(K)
【化23】

【0094】
置換基群(L)
【化24】

【0095】
置換基群(M)
【化25】

【0096】
置換基群(N)
【化26】

【0097】
連結基群(A)
【化27】

【0098】
また、本発明における電荷輸送性化合物は、市販のものでもよく、当業者公知の方法で合成したものであってもよく、特に制限はない。
【0099】
また、本発明における電荷輸送性化合物は、低分子の化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーのような高分子の化合物であってもよい。有機溶媒への溶解性の観点からは、ポリマー又はオリゴマーのような高分子化合物が好ましく、昇華や再結晶などでの精製が容易な観点からは低分子化合物であることが好ましい。
【0100】
また、前記電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、溶剤への溶解性、成膜性の観点から数平均分子量が、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは2,000以上900,000以下、さらに好ましくは3,000以上800,000以下である。1,000より小さいと化合物が結晶化しやすくなり、成膜性に劣ってしまう。また、1,000,000より大きいと溶剤への溶解度が低下し、塗布溶液や塗布インクを作製するのが困難になる。
【0101】
また、前記ポリマー又はオリゴマーは、電荷輸送性に優れる観点から下記一般式(1a)〜(84a)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0102】
【化28】

【0103】
【化29】

【0104】
【化30】

【0105】
【化31】

【0106】
【化32】

【0107】
【化33】

【0108】
【化34】

【0109】
【化35】

【化36】

【0110】
【化37】

【0111】
【化38】

【0112】
また本発明における電荷輸送性化合物は溶解度を変化させて有機薄膜の積層構造を作製するため、少なくとも1つの「重合可能な置換基」を有することが好ましい。ここで、上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことであり、以下、その詳細について述べる。
【0113】
上記重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基、またはシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、オキセタン基が最も好ましい。重合性置換基の自由度を上げ、硬化反応を生じさせやすくする観点からは、ポリマー又はオリゴマーの主鎖と重合性置換基が、炭素数1〜8のアルキル鎖で連結されていることがより好ましい。また、ITOなどの親水性電極との親和性を上げる観点からは、前記アルキル鎖がエチレングリコールやジエチレングリコールなどの親水性基であるとより好ましい。また、対応するモノマーの調製が容易になる観点からは、前記アルキル鎖の末端部、すなわち重合性置換基との連結部、ポリマー又はオリゴマー主鎖との連結部において、エーテル結合を有していてもよく、具体的には前記置換基群(A)〜(C)で表される。
【0114】
また、本発明におけるポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、上記繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基として下記構造式群(X)で表される構造を共重合繰り返し単位として有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体では、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0115】
構造式群(X)
【化39】

【0116】
また、本発明に係るイオン性化合物は単独で重合開始剤として用いることができる。つまり、本発明に係る一般式(1b)で表されるイオン性化合物は重合開始剤として機能させることができる。別言すると、本発明に係るイオン性化合物は、重合反応により有機薄膜に耐溶剤性を付与する重合開始剤として用いることができる。
重合を開始させる契機としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射および/または加熱によって重合を開始させるものであることが好ましく、加熱によることが最も好ましい。すなわち、本発明に係るイオン性化合物は、熱重合開始剤として使用することができ、当該熱重合開始剤は、既述の本発明に係る一般式(1b)で表されるイオン性化合物の少なくとも1種を含むことを特徴としている。
【0117】
前記重合開始剤を用いて有機薄膜に耐溶剤性を付与するに際し、重合開始剤を用いる条件は、電荷輸送性化合物に対し、0.1〜50質量%の重合開始剤を用いて薄膜を形成したのち、真空中、大気下あるいは窒素雰囲気下で加熱すればよい。0.1質量%より少ない場合、重合が効率よく進行せず溶解度を十分に変化させることができない。また、50質量%より多い場合には、多量の重合開始剤および/または分解物が残存することで、洗浄による効果が低くなってしまう。
加熱温度・時間は、重合反応を十分に進行させられればよく、特に制限はないが、温度については、種々の基板を適用できることから、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。時間は、生産性を上げる観点から、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下である。
【0118】
また、本発明に係るイオン性化合物を重合開始剤として機能させる場合において、上記重合開始剤の他、感光性および/または感熱性を向上させるための増感剤を含んでいてもよい。
【0119】
<インク組成物>
また、本発明のインク組成物は、既述の本発明の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むことを特徴としており、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
本発明のインク組成物において、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1〜30質量%とすることが好ましい。
【0120】
<有機薄膜、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子>
本発明の有機薄膜は、上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて形成されたことを特徴としている。
また、本発明の有機エレクトロニクス素子、又は有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)は、上記有機薄膜を含むことを特徴としている。
いずれの素子も、有機薄膜として、本発明の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された優れた有機薄膜を含み、従来よりも駆動電圧が低く、長い発光寿命を有する。
以下に、本発明のEL素子について詳述する。
【0121】
<有機EL素子>
本発明の有機エレクトロニクス素子は、上述の本発明の有機薄膜を含むことをその特徴とするものである。本発明の有機EL素子は、発光層、重合層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されず、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。また、正孔注入層又は正孔輸送層に、本発明の有機薄膜を適用することが好ましい。
以下、各層について詳細に説明する。
【0122】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーまたはオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))、スチルベン、これらの誘導体があげられる。蛍光発光を利用するポリマーまたはオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0123】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)、M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0124】
本発明の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照)又はAdachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0125】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0126】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0127】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0128】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0129】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0130】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0131】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0132】
[基板]
本発明の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり(つまり、フレキシブル基板)、特に好ましい。
【0133】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0134】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0135】
[発光色]
本発明の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0136】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0137】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の表示素子は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、本発明の有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0138】
また、本発明の照明装置は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本発明の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の本発明の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを本発明の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例】
【0139】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0140】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し室温で30分間攪拌し触媒とした。
【0141】
<電荷輸送性化合物の合成>
(合成例1)
三口丸底フラスコに、下記モノマー1(4.0mmol)、下記モノマー2(5.0mmol)、下記モノマー3(2.0mmol)、アニソール(20ml)を加え、さらに調製したPd触媒溶液(7.5ml)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20ml)を加えた。すべての溶媒は30分以上窒素バブルにより脱気した後、使用した。この混合物を2時間加熱・還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
【0142】
【化40】

【0143】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、トルエンに溶解し、triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymer(strem chemicals社 、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymerと不溶物をろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。残さをトルエンに溶解した後、メタノール−アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−アセトン(8:3)で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、ポリマー1を得た。分子量は、溶離液にTHFを用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。得られたポリマー1の数平均分子量は7,800、重量平均分子量は31,000であった。
【0144】
<インク組成物の調製>
[実施例1]
上記で得たポリマー1(9.0mg)、下記イオン性化合物1(1.0mg)にクロロベンゼン(800μL)を加え本発明の有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物を調製した。ポリマー1およびイオン性化合物1が溶け残ることはなく、均一な溶液が得られた。
【0145】
【化41】

【0146】
[比較例1]
実施例1におけるイオン性化合物1をテトラフェニルホスホニウム ヘキサフルオロアンチモネート(Alfa Easer製)に代えた以外は実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。しかしながら、溶け残りが発生して均一な溶液を得ることができず、塗布インクとして適するものではなかった。
【0147】
実施例1および比較例1の比較により、本発明の有機エレクトロニクス材料は溶剤への溶解度が高く均一な溶液およびインク組成物を調製可能であることがわかる。
【0148】
<耐溶剤性を有する有機薄膜の作製>
[実施例2]
上記で得たポリマー1(9.0mg)、前記イオン性化合物1(1.0mg)、クロロベンゼン(800μL)を加え、インク組成物を調製した。この溶液を用いて石英ガラス板上に3000min−1でスピンコートし、ホットプレート上で180℃ 10分間加熱して硬化させ、有機薄膜(膜厚:30nm)を形成した。この有機薄膜を石英ガラス板ごとトルエン中でリンスし、リンス前後の薄膜の吸光度の比より薄膜の残存率(残膜率)を求めたところ、残膜率は98%であった。
【0149】
[実施例3]
実施例2におけるイオン性化合物1を下記イオン性化合物2に変えた以外は実施例2と同様にして薄膜を作製し、残膜率を求めたところ、99%であった。
【0150】
【化42】

【0151】
[比較例2]
実施例2におけるイオン性化合物1をジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート(Aldrich製)に変えた以外は実施例2と同様にして薄膜を作製し、残膜率を求めたところ、10%であった。
【0152】
[比較例3]
実施例2におけるイオン性化合物1をトリフェニルスルホニウム テトラフルオロボラート(東京化成工業製)に変えた以外は実施例2と同様にして薄膜を作製し、残膜率を求めたところ、8%であった。
【0153】
[比較例4]
実施例2におけるイオン性化合物1をトロピリウム ヘキサフルオロホスファート(東京化成工業製)に変えた以外は実施例2と同様にして薄膜を作製し、残膜率を求めたところ、13%であった。
【0154】
実施例2及び3の残膜率と、比較例2〜4の残膜率との比較を表1に示す。
【0155】
【表1】

【0156】
実施例2及び3と、比較例2〜4との比較により、本発明の有機エレクトロニクス材料は硬化により十分な耐溶剤性を発現できることが分かる。
また、本発明のイオン性化合物は低温で硬化可能な重合開始剤として機能していることが分かる。
以上より、本発明の有機エレクトロニクス材料を用いることにより、有機薄膜の積層構造を作製可能であることが分かる。
【0157】
<電荷輸送性評価素子の作製>
[実施例4]
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、ポリマー1(100mg)、前記イオン性化合物1(3.0mg)、アニソール(1.91mL)の混合溶液を3000min−1でスピン塗布し、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して電荷輸送膜(125nm)を作製した。次に得られたガラス基板を真空蒸着機中に移し、アルミニウム(膜厚100nm)を蒸着した。
【0158】
アルミニウムを蒸着後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、電荷輸送性評価素子を作製した。
【0159】
[実施例5]
実施例4におけるイオン性化合物1を前記イオン性化合物2に変えたこと以外は実施例4と同様にして電荷輸送性評価素子を作製した。
【0160】
[比較例5]
実施例4におけるイオン性化合物1を下記イオン性化合物Aに変えたこと以外は実施例4と同様にして電荷輸送性評価素子を作製した。
【0161】
【化43】

【0162】
[比較例6]
実施例4におけるイオン性化合物1を下記イオン性化合物Bに変えたこと以外は実施例4と同様にして電荷輸送性評価素子を作製した。
【0163】
【化44】

【0164】
これら電荷輸送性評価素子のITOを正極、アルミニウムを陰極として電圧を印加した時の印加電圧−電流密度のグラフを図2に示す。図2より、実施例4、5の素子は、比較例5、6の素子と比較して正孔電流が著しく流れやすくなっていることがわかる。
【0165】
<有機EL素子の作製>
[実施例6]
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、上記で得たポリマー1(9.0mg)、前記イオン性化合物1(1.0mg)、クロロベンゼン(800μl)を混合した塗布溶液を、3000min−1でスピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(30nm)を形成した。
【0166】
次に、窒素中、CDBP(15mg)、FIr(pic)(0.9mg)、Ir(ppy)3(0.9mg)、(btp)2Ir(acac)(1.2mg)、ジクロロベンゼン(0.5mL)の混合物を、3000rpmにてスピンコートし、次いで80℃で5分間乾燥させて発光層(40nm)を形成した。さらに、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着し、封止処理して有機EL素子および照明装置を作製した。
【0167】
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、3.5Vで白色発光が観測された。
【0168】
[比較例7]
正孔注入層の形成時に前記イオン性化合物1を加えなかった以外、実施例6と同様にして白色有機EL素子および照明装置を作製した。
【0169】
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、10.0Vで白色発光が観測されたが、発光寿命は実施例6の1/3であった。
【0170】
[実施例7]
上記で得たポリマー1(9.7mg)、前記イオン性化合物1(0.3mg)、クロロベンゼン(866μL)を混合した塗布溶液を調製した。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、窒素雰囲気下で塗布溶液を3000min−1でスピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(30nm)を形成した。
【0171】
次に、窒素雰囲気下で下記黄緑色発光ポリマ(10mg)、トルエン(566μL)の混合物を4000min−1でスピンコートし、次いで80℃で5分間乾燥させて発光層(100nm)を形成した。次に得られたITOガラス基板を真空蒸着機中に移し、Ba(3nm)、Al(100nm)を順に蒸着した。
Alを蒸着後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITOガラス基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、有機EL素子を作製した。
【0172】
【化45】

【0173】
この有機EL素子に電圧を印加したところ、3.5Vで黄緑色発光が観測され、初期輝度1000cd/mにおける発光寿命は、676時間であった。
【0174】
[実施例8]
実施例7におけるイオン性化合物1を前記イオン性化合物2に変えた以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製し、電圧を印加したところ、3.5Vで黄緑色発光が観測され、初期輝度1000cd/mにおける発光寿命は、541時間であった。
【0175】
[比較例8]
実施例7におけるイオン性化合物1を前記イオン性化合物Aに変えた以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製し、電圧を印加したところ、4.0Vで黄緑色発光が観測され、初期輝度1000cd/mにおける発光寿命は、172時間であった。
【0176】
[比較例9]
実施例7におけるイオン性化合物1を前記イオン性化合物Bに変えた以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製し、電圧を印加したところ、4.0Vで黄緑色発光が観測され、初期輝度1000cd/mにおける発光寿命は、93時間であった。
【0177】
[比較例10]
実施例7におけるイオン性化合物1を下記イオン性化合物Cに変えた以外は実施例7と同様にして有機EL素子を作製し、電圧を印加したところ、4.0Vで黄緑色発光が観測され、初期輝度1000cd/mにおける発光寿命は、93時間であった。
【0178】
【化46】

【0179】
以上の実施例6と比較例7、実施例7,8と比較例8〜10を比較することで、本発明における有機エレクトロニクス材料を適用することで電荷輸送性が向上し、有機EL素子および照明装置を低電圧かつ長寿命で駆動できることがわかる。
【符号の説明】
【0180】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1b)で表されるイオン性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする有機エレクトロニクス材料。
【化1】

(一般式(1b)中、Yは炭素原子又は硫黄原子を含む二価の連結基、Rは電子求引性基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。Lは一価のカチオンを表す。)
【請求項2】
少なくとも1つの電荷輸送性化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項3】
電荷輸送性化合物が少なくとも1つの重合可能な置換基を有することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項4】
イオン性化合物が重合開始剤として機能することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むインク組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機薄膜。
【請求項7】
請求項5に記載のインク組成物を用いて形成された有機薄膜。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機エレクトロニクス素子。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項10】
前記有機薄膜が正孔注入層であることを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項11】
前記有機薄膜が正孔輸送層であることを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項12】
基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【請求項15】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【請求項16】
請求項15に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−30503(P2013−30503A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163435(P2011−163435)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】