説明

有機エレクトロルミネッセンスインク組成物の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンスインク組成物

【課題】塗布ムラやノズルの目詰まりが生じない有機エレクトロルミネッセンスインク組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】高分子有機エレクトロルミネッセンス材料が有機溶媒に溶解してなる溶液を、孔径0.03〜0.10μmのフィルターで加圧濾過する。ここで、高分子有機エレクトロルミネッセンス材料の重量平均分子量は1×10〜5×10の範囲であってもよい。また、圧濾過における圧力は5kPa〜100kPaの範囲であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンスインク組成物の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンスインク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」と記すことがある)デバイスの発光層は、例えば、有機EL材料を含むインク組成物を画素電極上に塗布することによって形成される(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
有機EL材料を含むインク組成物の製造方法としては、例えば特許文献1では、次のような方法が提案されている。まず、有機溶媒に高分子有機EL材料を溶解して、高分子有機EL材料と有機溶媒とを含む組成物を準備する。次いで、準備された組成物電場を印加し、前記組成物に含まれる不純物を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-245816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、有機EL材料を含むインク組成物を画素電極上に塗布する際、インク組成物中に固形物があると塗布ムラが生じるおそれがある。また、インクジェット方式によって塗布する場合にはノズルの目詰まりが生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、塗布ムラやノズルの目詰まりが生じない有機ELインク組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する本発明に係る有機ELインク組成物の製造方法は、高分子有機EL材料が有機溶媒に溶解してなる溶液を、孔径0.03〜0.10μmのフィルターで加圧濾過する工程を有することを特徴とする。
【0008】
高分子有機EL材料の重量平均分子量は1×10〜5×10の範囲が好ましい。なお、本明細書における「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0009】
また、加圧濾過における圧力は5kPa〜100kPaの範囲が好ましい。
【0010】
本発明に係る有機ELインク組成物は、前記のいずれか記載の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る有機ELインク組成物の製造方法によれば、画素電極上に塗布する際に塗布ムラの生じることのないインク組成物が得られる。また、インクジェット方式によって塗布する場合にノズルの目詰まりの生じることのないインク組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る製造方法では、高分子有機EL材料が有機溶媒に溶解してなる溶液を、孔径0.03〜0.10μmのフィルターで加圧濾過する工程を有することが大きな特徴である。以下、本発明に係る製造方法について順に説明する。
【0013】
まず、高分子有機EL材料を有機溶媒に溶解して溶液を作製する。ここで使用する高分子有機EL材料としては、発光体及び電荷輸送材料として用いられる材料が含まれる。また、高分子有機EL材料の重量平均分子量は1×10〜5×10の範囲が好ましく、1×10〜5×10の範囲がより好ましい。高分子有機EL材料の重量平均分子量がこの範囲であると、良好な製膜性と有機溶媒への良好な溶解性とが得られるからである。
【0014】
発光体として用いられる高分子有機EL材料は、単独重合体であっても共重合体でもよく、例えば、ポリフルオレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリアニリン、ポリチオフェン等のポリアリーレン系高分子;ポリパラフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン等のポリアリーレンビニレン系高分子;ポリフェニレンスルフィド;ポリカルバゾール等が挙げられる。これらの中でも、ポリアリーレン系の高分子発光体が好ましい。ポリアリーレン系の高分子発光体が含む繰り返し単位としては、アリーレン基、2価の複素環基が挙げられ、これらの繰り返し単位を20〜100モル%含むものが好ましく、50〜99モル%を含むものがさらに好ましい。
【0015】
電荷輸送材料として用いられる高分子有機EL材料は、高分子正孔輸送材料と高分子電子輸送材料とに大別される。高分子正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。一方、高分子電子輸送材料としては、公知のものが使用でき、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0016】
本発明で使用する有機溶媒としては、前記の高分子有機EL材料を溶解させるものであれば特に限定はなく、例えば、安息香酸ブチル、シクロヘキシルベンゼン、ビシクロヘキシル、o-ニトロアニソール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、水、1−プロパノール、1−ブタノール、1-エトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
溶液中の高分子有機EL材料の含有量は、0.05wt%〜10wt%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1wt%〜3wt%の範囲である。
【0018】
次に、前記作製した溶液を加圧濾過する。ここで使用するフィルターの孔径が0.03〜0.10μmあることが重要である。フィルターの孔径が0.03μmよりも小さいと、目詰まりが発生しやすく生産性が低下する一方、孔径が0.10μmよりも大きいと、インク組成物中の固形物が充分に除去できない場合がある。なお、フィルターの孔径は、フィルターメーカーの公称値を参照することができる。
【0019】
フィルターの材質は、使用する有機溶媒に対して適切な耐性を有するものであればよい。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。市販されているフィルターとしては、例えば、「ペンフロン」(PALL社製)や「CCF-003-C3B」(ADVANTEC社製)などが好適に使用できる。
【0020】
加圧濾過における、溶液をフィルターに通す際の圧力は、所望の濾過速度が確保できれば特に制限はされないが、好ましくは5kPa〜100kPaの範囲であり、より好ましくは20kPa〜80kPaの範囲である。加圧に使用するガスの種類としては、空気、窒素などが好ましい。これらの中では安全性の観点から、不活性ガスである窒素が特に好ましく用いられる。
【0021】
また、加圧濾過は、1回のみ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。2回以上行う場合は、連続して行ってもよいし、別々の段階で行ってもよい。その際、孔径の異なるフィルターを組合わせて用いてもよい。
【0022】
以上説明した製造方法によって製造された本発明に係る高分子有機ELインク組成物は、従来公知の方法によって画素電極上に塗布される。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等の塗布方法が挙げられる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等の印刷法が好ましい。
【0023】
本発明に係る高分子有機ELインク組成物の粘度は、塗布方法を考慮して適宜決定すればよいが、インクジェット法などの吐出装置を経由する場合には、吐出時の目詰まりや飛行曲がりを防止するために、25℃において1〜20mPa・sの範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0025】
(有機ELインク組成物の作製)
高分子有機EL材料として、特表2006-511659号公報記載の合成法と同様の合成法を用いて導電性ポリマー(重量平均分子量:25万程度)を作製した。
シクロヘキシルベンゼン80wt%と、4−メチルアニソール20wt%とを混合して混合溶媒を作製し、前記作製した高分子有機EL材料を溶解して、高分子有機EL材料の含有量が1.2wt%の溶液を作製した。作製した有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、以下の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0026】
(測定条件)
MEANS VOLUME:5mL
SAMPLE FLOW :10mL/min
測定回数 :4回
4回の測定データのうち、2〜4回の測定データを平均し測定結果とする。
【0027】
実施例1
前記作製した有機ELインク組成物を、フィルターとしてPALL社製「ペンフロン」(孔径:0.10μm,材料:PTFE)を用いて、濾過圧力40〜45kPa、濾過速度:100mL/minで2回加圧濾過した。濾過後の有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、上述の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0028】
実施例2
フィルターとして、PALL社製「ペンフロン」(孔径:0.05μm,材料:PTFE)を用いた以外は実施例1と同様にして有機ELインク組成物を2回加圧濾過した。そして、濾過後の有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を、測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、上述の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0029】
実施例3
フィルターとして、ADVANTEC社製「CCF-003-C3B」(孔径:0.03μm,材料:PTFE)を用い、濾過圧力70kPa、濾過速度:67mL/minで2回加圧濾過した。そして、濾過後の有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を、測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、上述の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0030】
比較例1
フィルターとして、GE社製「CFAP0108RR」(孔径:1.0μm,材料:PTFE)を用い、濾過圧力を30〜40kPaとした以外は実施例1と同様にして有機ELインク組成物を2回加圧濾過した。そして、濾過後の有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を、測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、上述の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0031】
比較例2
フィルターとして、PALL社製「ペンフロン」(孔径:0.20μm,材料:PTFE)を用いた以外は実施例1と同様にして有機ELインク組成物を2回加圧濾過した。そして、濾過後の有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を、測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、上述の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0032】
比較例3
フィルターとして、PALL社製「ウルチクリーン」(孔径:0.02μm,材料:PTFE)を用い、濾過圧力96kPaで加圧濾過したが、濾過速度が著しく遅く有機ELインク組成物の全てを濾過することはできなかった。念のため、濾過できた有機ELインク組成物に含まれる固形物の粒度分布を、測定装置:液中パーティクルセンサーKS−41A(RION社製)を用いて、上述の測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
孔径0.03〜0.10μmのフィルターを用いて加圧濾過した実施例1〜3の有機ELインク組成物では、固形物の多くを除去することができた。実施例1〜3の有機ELインク組成物を画素電極上に塗布する際、塗布ムラは認められない。これに対して孔径1.0μm及び孔径0.20μmのフィルターを用いて加圧濾過した比較例1及び比較例2の有機ELインク組成物では、濾過前と比べると固形物の除去はされているものの、未だ不十分なものであった。比較例1及び比較例2の有機ELインク組成物を画素電極上に塗布する際、塗布ムラが認められる。そして、0.02μmのフィルターを用いて加圧濾過した比較例3では、前述のように、濾過速度が著しく遅く有機ELインク組成物の全てを濾過することはできず、また濾過された有機ELインク組成物も、固形物の除去は不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る有機ELインク組成物の製造方法によれば、画素電極上に塗布する際に塗布ムラの生じることのないインク組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子有機エレクトロルミネッセンス材料が有機溶媒に溶解してなる溶液を、孔径0.03〜0.10μmのフィルターで加圧濾過する工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスインク組成物の製造方法。
【請求項2】
高分子有機エレクトロルミネッセンス材料の重量平均分子量が1×10〜5×10の範囲である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
加圧濾過における圧力が5kPa〜100kPaの範囲である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のいずれかの製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスインク組成物。

【公開番号】特開2013−26164(P2013−26164A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162663(P2011−162663)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】