説明

有機エレクトロルミネッセンスデバイス、および、有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造方法

【課題】 直接膜封止法であるにもかかわらず有機EL素子の劣化が防止でき、かつ、有機EL素子の長寿命化が可能である有機ELデバイスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 基板101上に、有機エレクトロルミネッセンス素子110が形成された有機エレクトロルミネッセンスデバイス100であって、有機エレクトロルミネッセンス素子110上にガスバリア層120を有し、ガスバリア層120が、金属および半金属の少なくとも1種を含み、ガスバリア層120が、放電処理がされた放電処理層120bと、放電処理がされていない非放電処理層120aとを含んでいることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンスデバイス、および、有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイスは、大気中の水分や酸素によって劣化することがわかっている。そこで、有機EL素子の形成直後に、スパッタリング法や蒸着法により、直接、SiOCやSiON等の無機材料からなるバリア膜を形成し(直接膜封止法)、さらに封止フィルムでラミネートすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、直接膜封止法ではバリア膜を形成する際に、熱などにより有機EL素子自体の劣化が起こり、それに伴い輝度が低下してしまうという問題があった。さらに、バリア性を十分に得ることができず、長期保存したときに発光面積が減少してしまう(素子寿命の低下)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/029586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、直接膜封止法であるにもかかわらず有機EL素子の劣化が防止でき、かつ、有機EL素子の長寿命化が可能である有機ELデバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイスは、基板上に、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子が形成された有機ELデバイスであって、
前記有機EL素子上にガスバリア層を有し、
前記ガスバリア層が、金属および半金属の少なくとも1種を含み、
前記ガスバリア層が、放電処理がされた放電処理層と、放電処理がされていない非放電処理層とを含んでいることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の有機ELデバイスの製造方法は、基板上に形成された有機EL素子上にガスバリア層を形成する有機ELデバイスの製造方法であって、
金属および半金属から選択される少なくとも1種を含むガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程と、
前記ガスバリア層の一部に放電処理を行うことで、前記ガスバリア層の一部を放電処理層とし、前記放電処理を行っていないその他の部分を非放電処理層とする放電処理工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、直接膜封止法であるにもかかわらず有機EL素子の劣化が防止でき、かつ、有機EL素子の長寿命化が可能である有機ELデバイスおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の有機ELデバイスの構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の有機ELデバイスの構成の他の例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の有機ELデバイスをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の有機ELデバイスを連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図5】図5は、実施例1および比較例3の有機ELデバイスを発光させた状態の、初期と7日後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有機ELデバイスにおいて、前記非放電処理層の密度に対する前記放電処理層の密度の比が、1.0を超え2.0以下の範囲であることが好ましい。
【0010】
本発明の有機ELデバイスにおいて、前記ガスバリア層の厚みに対する前記放電処理層の厚みの比が、0.05〜0.3の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明の有機ELデバイスにおいて、前記ガスバリア層が、前記有機EL素子側から、非放電処理層、放電処理層の順に形成されており、
前記ガスバリア層の放電処理層上に、さらにバリア層が形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の有機ELデバイスにおいて、前記金属および前記半金属の少なくとも1種が、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物および酸化窒化炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本発明の有機ELデバイスの製造方法において、前記ガスバリア層の一部が、前記ガスバリア層の表層部であることが好ましい。
【0014】
本発明の有機ELデバイスの製造方法において、前記放電処理が、プラズマビーム照射またはイオンビーム照射によって行われることが好ましい。
【0015】
本発明の他の態様の有機ELデバイスは、前記本発明の有機ELデバイスの製造方法によって製造されることが好ましい。
【0016】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0017】
本発明における有機EL素子は、基板上に、陽極、有機エレクトロルミネッセンス(EL)層および陰極が、この順序で設けられた積層体を有するものである。前記陽極としては、例えば、透明電極層として使用できる、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(登録商標、Indium Zinc Oxide)の層が形成される。前記有機EL層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。陰極としては、反射層を兼ねてアルミニウム層、マグネシウム/アルミニウム層、マグネシウム/銀層等が形成される。この積層体を大気に曝さないように、この上からガスバリア層により封止を行う。
【0018】
有機EL素子の基板としては、ガラス、石英等の絶縁基板、絶縁層を設けた金属基板、樹脂基板等を用いることができる。樹脂基板としては、ガスバリア層を形成したものを用いることが好ましい。また、基板としてガスバリア層の形成された透明樹脂フィルムを用いると、有機EL素子の軽量化、薄型化および柔軟化が可能となる。この場合、ディスプレイとしての有機ELデバイスはフレキシブルなものとなり、これを丸めるなどして、電子ペーパーのように使用することも可能となる。
【0019】
本発明の有機ELデバイスにおけるガスバリア層は、放電処理がされた放電処理層と、放電処理がされていない非放電処理層とを含む。
【0020】
前記放電処理層と前記非放電処理層とは、金属および半金属の少なくとも1種を含んでいる。金属または半金属の少なくとも1種は、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物および酸化窒化炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、インジウム、マグネシウムなどであり、半金属は、例えば、ケイ素、ビスマス、ゲルマニウムなどである。ガスバリア性の向上のためには、ガスバリア層内におけるネットワーク構造(網目状の構造)を緻密にするような炭素、窒素を含むことが好ましい。さらに透明性を向上させるためには、酸素を含有していることが好ましい。
【0021】
前記ガスバリア層は、蒸着、スパッタリング、化学気相堆積法(CVD)のような真空を用いたドライプロセスにより形成される。これにより、非常に緻密でガスバリア性の高い薄膜を得ることができる。この中でも、蒸着法が好ましい。蒸着法は、成膜速度が非常に速いプロセスであり、生産性の高いプロセスであるため、生産効率が良いためである。
【0022】
本発明の有機ELデバイスにおいて、前記放電処理層は、前記ガスバリア層の一部に放電処理を施し、形成されている。前記放電処理を行っていないその他の部分が非放電処理層である。前記放電処理層は、前記非放電処理層に比べて層の密度が高く、優れたガスバリア性を有する。前記ガスバリア層の一部が、前記ガスバリア層の表層部であることが好ましい。前記放電処理層は、表面処理により形成された層であるため、層厚が薄く透明性も高くなる。層の厚みは、放電出力、処理時間など条件により異なるが、2.5nm〜150nmの範囲とすることができ、好ましくは、7.5nm〜105nmの範囲である。放電処理の手段としては、コロナ放電、大気圧プラズマ、高周波プラズマ、直流プラズマ、アーク放電プラズマ、イオンビームのような、電離活性気体を照射することがあげられる。中でも、アーク放電プラズマおよびイオンビームが好ましく、アーク放電プラズマがより好ましい。アーク放電プラズマは、通常使用されるグロー放電プラズマとは異なり、非常に高い電子密度であることがわかっている。蒸着法にアーク放電プラズマを用いることで、反応性を高くすることができ、非常に緻密なガスバリア層が形成できる。
【0023】
アーク放電プラズマは、例えば、圧力勾配型プラズマガン、直流放電プラズマ発生装置、高周波放電プラズマ発生装置などで形成可能であるが、中でも蒸着中でも安定して高密度なプラズマを発生することが可能な圧力勾配型プラズマガンを用いることが好ましい。
【0024】
前記放電処理の際には、ガスを導入することが好ましい。前記ガスは、特に制限されないが、不活性ガスであるヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、または、反応性ガスである酸素、窒素、水素、炭化水素などがあげられる。
【0025】
前記放電処理層の密度は、前記非放電処理層の密度よりも高く、前記非放電処理層の密度に対する前記放電処理層の密度の比は1.0を超え2.0以下の範囲である。密度の高い放電処理層があることで、前記ガスバリア層が薄くても、ガスバリア性を向上させることができる。ただし、前記密度の比が2.0より大きい、あるいは1.0以下であると、内部応力差が生じ、クラックが発生して、ガスバリア性が逆に低下する。前記密度の比は、1.2〜1.8の範囲であることが好ましく、1.5〜1.8の範囲であることがより好ましい。前記非放電処理層の密度は材質、組成および成膜方法によっても異なるものとなるが、例えば、酸化シリコン層は1.6〜2.2g・cm−3、窒化シリコン層は2.3〜2.7g・cm−3である。
【0026】
前記放電処理層は、前記ガスバリア層の一部に形成され、前記ガスバリア層の厚みに対する前記放電処理層の厚みの比は0.05〜0.3の範囲である。前記厚みの比が0.05より小さいと、ガスバリア性が低下し好ましくない。また、0.3より大きいと、前記放電処理層により光学吸収が発生しやすく、前記ガスバリア層の透明性を低下させたり、また、処理時間がかかるなど生産効率が低下する。前記厚みの比は、0.07〜0.25の範囲であることが好ましく、0.13〜0.25の範囲であることがより好ましい。
【0027】
前記ガスバリア層の厚みは、ガスバリア性、透明性、成膜時間、膜の内部応力の観点を考慮し、50〜500nmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、150nm〜350nmの範囲である。
【0028】
図1は、本発明の有機ELデバイスの構成の一例の概略断面図である。図示のとおり、この有機ELデバイス100は、基板101上に形成された有機EL素子110上にガスバリア層120を有している。有機EL素子110は、陽極111および陰極113を介して、外部から供給された電流により、有機EL層112において電子および正孔が結合し、結合により生じた励起エネルギーを利用して発光する。有機EL層112からの光は、基板101および有機EL素子110の構成に応じて、陽極側または陰極側から射出される。ガスバリア層120は、放電処理がされていない非放電処理層120aと、放電処理がされた放電処理層120bとが、この順で有機EL素子110上に形成されている。図2は、本発明の有機ELデバイスの構成の他の例の概略断面図である。この有機ELデバイス200は、有機EL素子110上にガスバリア層220が形成されており、ガスバリア層220上に、さらにバリア層230が形成されている。ガスバリア層220は、非放電処理層220aと放電処理層220bとが、この順で有機EL素子110上に形成されている。バリア層230は、前記ガスバリア層と同様の金属および半金属の少なくとも1種を含んでいることが好ましく、前記ガスバリア層や、前記ガスバリア層における非放電処理層と同様に形成することができる。
【0029】
前記ガスバリア層において、前記非放電処理層および前記放電処理層の数や形成の順序は、前記各層が、それぞれ少なくとも1層形成されていれば特に制限されない。前記形成の順序は、例えば、非放電処理層/放電処理層の順、また、非放電処理層/非放電処理層/放電処理層の順などとすることができるが、放電処理層の上にバリア層として非放電処理層を形成すると、効果的にガスバリア性を発現させることができるため、好ましい。
【0030】
本発明において、前記金属および前記半金属の少なくとも1種が、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物および酸化窒化炭化物からなる群から選ばれる場合、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、酸化窒化炭化物に含まれる酸素、炭素または窒素は、例えば、反応ガスの存在下でアーク放電プラズマを発生させて、前記金属および前記半金属の少なくとも1種の蒸着を行うことによって、導入することができる。前記蒸着における蒸着材料として、金属酸化物、半金属酸化物を用いることもできる。前記反応ガスとしては、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭化水素含有ガス、またはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0031】
酸素含有ガスとしては酸素(O)、一酸化二窒素(NO)、一酸化窒素(NO)、窒素含有ガスとしては窒素(N)、アンモニア(NH)、一酸化窒素(NO)、炭化水素含有ガスとしてはメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、エチレン(C)、アセチレン(C)などがあげられる。
【0032】
前記蒸着材料を蒸発させる手段としては、抵抗加熱、電子ビーム、アーク放電プラズマのいずれかを蒸着材料(蒸着源)に導入する方法を用いることができる。中でも、高速蒸着が可能である電子ビームあるいはアーク放電プラズマによる方法であることが好ましい。これらの方法は、併用してもよい。
【0033】
前記有機ELデバイスは、バッチ生産方式でも連続生産方式でも製造することができる。連続生産方式の場合、基板として、例えば、透明樹脂フィルムを用い、前記有機EL素子および前記ガスバリア層形成時に真空槽内において、前記透明樹脂フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記透明樹脂フィルムの上に前記有機EL素子および前記ガスバリア層を形成する(Roll−to−roll方式)。
【0034】
図3に、本発明における有機ELデバイスのガスバリア層をバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図示のとおり、この製造装置300は、真空槽1、圧力勾配型プラズマガン2、反射電極5、収束電極6、蒸着源7、放電ガス供給手段11、反応ガス供給手段12、真空ポンプ20を主要な構成部材として有する。真空槽1内には、基板加熱ヒータ13が配置され、前記基板加熱ヒータ13に有機EL素子が形成された基板3が設置されている。蒸着源7は、基板加熱ヒータ13と対向するように、真空槽1の底部に設置されている。蒸着源7の上面には、蒸着材料8が装着されている。前記真空ポンプ20は、前記真空槽1の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されており、これにより、前記真空槽1内を減圧することが可能となっている。前記放電ガス供給手段11および前記反応ガス供給手段12は、前記真空槽1の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されている。前記放電ガス供給手段11は、放電ガス用ガスボンベ21に接続されており、これにより、適度な圧力の放電ガス(例えば、アルゴンガス)を、前記真空槽1内に供給することが可能となっている。前記反応ガス供給手段12は、反応ガス用ガスボンベ22に接続されており、これにより、適度な圧力の反応ガス(例えば、酸素ガス、窒素ガス、メタンガス)を、前記真空槽1内に供給することが可能となっている。基板加熱ヒータ13には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。これにより、基板加熱ヒータ13の表面温度を調整することで、基板3の温度を、所定の範囲とすることが可能となっている。前記温度制御手段としては、例えば、シリコーンオイル等を循環する熱媒循環装置等があげられる。
【0035】
図3に示す製造装置を使用した場合の前記ガスバリア層の製造プロセスの一例は、次のとおりである。真空槽1内を10−3Pa以下に排気した後、アーク放電プラズマ発生源である圧力勾配型プラズマガン2に、放電ガス供給手段11から放電ガスとしてアルゴンを導入し、一定電圧を印加して、基板3上に形成された有機EL素子が曝されるようにプラズマビーム4を反射電極5に向かって照射する。プラズマビーム4は収束電極6によって一定の形状になるよう制御される。アーク放電プラズマの出力は、例えば、1〜10kWである。一方、反応ガス供給手段12から反応ガスを導入する。また、蒸着源7に設置した蒸着材料8に電子ビーム9を照射し前記有機EL素子に向かって材料を蒸発させる。反応ガスが存在する状態で、蒸着を行い、前記有機EL素子上に所定のガスバリア層を形成させる。ガスバリア層の形成速度(蒸着速度)は基板3付近に設置した水晶モニター10によって計測、制御される。蒸発開始から蒸着速度が安定化するまでの間は、基板3を覆うシャッター(図示せず)を閉じておき、蒸着速度が安定してから前記シャッターを開けて、ガスバリア層の形成を行うことが好ましい。ガスバリア層として、複数層を積層する場合には、この工程を繰り返し所定の積層体を形成させる。放電処理層の形成時には、蒸着源7に設置した蒸着材料8への電子ビーム照射を行わず、基板3(有機EL素子)上にアーク放電プラズマのみを照射する。このときのアーク放電プラズマの出力は、前記と同様である。放電プラズマの出力と照射時間とを制御することで、放電処理層の密度や厚みを制御することができる。放電プラズマを高出力にすると、放電処理層を高密度にすることができ、照射時間を長時間にすると、放電処理層の厚みを厚くすることができる。各層の形成時の系内圧力は、例えば、0.01Pa〜0.1Paの範囲内であり、0.02Pa〜0.05Paの範囲内であることが好ましい。また、基板温度は、例えば、20℃〜200℃の範囲内であり、80℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。なお、前記アーク放電プラズマの発生と反応ガスの導入は同時または前後してもよく、反応ガス導入と前記プラズマ発生を同時に行ってもよいし、反応ガス導入後に前記プラズマを発生させてもよく、前記プラズマ発生後に反応ガスを導入してもよい。反応ガスは、ガスバリア層形成時に系内に存在すればよい。
【0036】
図4に、本発明の有機ELデバイスにおけるガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。連続生産方式は、前記ガスバリア層形成時に真空槽内において、有機EL素子が形成された前記透明樹脂フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記有機EL素子の上に前記ガスバリア層を形成する方式である。図4において、図3と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、この製造装置400は、基板加熱ヒータ13に代えて、真空槽31内に、巻出ロール33a、キャンロール35、巻取ロール33b、および二つの補助ロール34a、34bが配置されている。巻出ロール33aから、巻取ロール33bにわたり、キャンロール35および二つの補助ロール34a、34bを介して、透明樹脂フィルム32が掛け渡されている。これら以外は、図3と同様の構成である。キャンロール35には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。前記温度制御手段としては、基板加熱ヒータ13の場合と同様のものがあげられる。
【0037】
本装置による連続生産は、フィルムを連続して装置内に導入し、フィルムを移動させながら反応ガスの存在下でアーク放電プラズマビームに曝して蒸着を行い、連続してガスバリア層を形成する。反応ガスおよびターゲットを切り替えて、また、蒸着材料への電子ビーム照射を行わず、この工程を繰り返すことで、所定の積層体を形成することができる。本装置による連続生産は、フィルムを移動させながら蒸着および放電処理を行うこと以外は、バッチ生産方式で製造する装置と同様に実施できる。
【実施例】
【0038】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0039】
(ガスバリア層を構成する各層の厚み)
ガスバリア層を構成する各層の厚みdは、有機ELデバイスの断面を、株式会社日本電子製の走査型電子顕微鏡(商品名:JSM−6610)にて観察し、陰極(アルミニウム層)表面から各層表面までの長さを測長し、算出した。
【0040】
(ガスバリア層を構成する各層の密度)
ガスバリア層を構成する各層の密度ρは、株式会社リガク製のX線回折装置(商品名:Smart Lab)により、ガスバリア層を構成する各層のX線反射率を測定し、各層の密度を算出した。
【0041】
(水蒸気透過速度)
水蒸気透過速度(WVTR)は、実施例および比較例にて形成したのと同じ封止層を、透明樹脂フィルム(帝人デュポンフィルム社製ポリエチレンナフタレートフィルム(厚み100μm、商品名「テオネックス」))に形成したものについて測定した値とした。水蒸気透過速度(WVTR)は、JIS K7126に規定される水蒸気透過速度測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN)にて、温度40℃、湿度90%RHの環境下で測定した。なお、前記水蒸気透過率測定装置の測定範囲は0.005g・m−2・day−1以上である。
【0042】
(初期輝度)
作製直後の有機ELデバイスを、それぞれ、6Vの定電圧で駆動し、輝度を測定した。輝度は、浜松ホトニクス株式会社製の輝度配向特性測定装置(商品名:C9920−11)を使用して測定した。
【0043】
(7日後の発光面積)
初期輝度測定後の有機ELデバイスを、温度23℃、湿度40%の恒温恒湿条件下で非点灯の状態で保存した。7日後に、有機ELデバイスを発光させ、顕微鏡観察における発光面積を測定した。観察および発光面積測定は、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(商品名:VHX−1000)を用いて行った。
【0044】
[実施例1]
〔有機EL素子の作製〕
有機EL素子を作製する基板としてステンレス(SUS)基板を準備した(SUS304、厚み50μm)。前記SUS基板上に絶縁平滑層(JSR株式会社製 JEM−477 3μm)を塗布した。その上に真空蒸着法により陽極としてAlを100nm、ホール注入層としてLG101(LGケミカル社製)を10nm、ホール輸送層としてNPB(N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン)を50nm、発光層および電子輸送層としてAlq(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)を45nm、電子注入層としてLiFを0.5nm、陰極としてMg/Agを5/15nm(共蒸着)、屈折率調整層としてMoOを60nm、をこの順番に蒸着し、有機EL素子を作製した。
【0045】
〔ガスバリア層の作製〕
つぎに、前記SUS基板上に形成した有機EL素子を、図3に示す製造装置に装着した。圧力勾配型プラズマガン内にアルゴンガス20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)を導入し、前記プラズマガンに5kWの放電出力を印加しアーク放電プラズマを発生させた。反応ガスとして、窒素(純度5N:99.999%)を40sccm(40×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で真空槽内に導入し、この状態で、蒸着材料であるシリコン粒(純度3N:99.9%)に電子ビーム(加速電圧 6kV、印加電流 50mA)を照射して、蒸着速度100nm/minとなるように蒸発させて、前記有機EL素子上にガスバリア層を厚み80nmとなるように蒸着した。このとき系内圧力が2.0×10−2Paで、基板加熱ヒータ温度は100℃とした。
【0046】
〔放電処理〕
その後、前記電子ビームの照射を止め、前記シリコン粒の蒸発を中止した。この状態で、アルゴンガスを20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)および窒素を40sccm(40×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で真空槽内に導入し、前記プラズマガンに5kWの放電出力を印加し、前記ガスバリア層に対しアーク放電プラズマを30秒照射して、放電処理層を形成し、本実施例の有機ELデバイスを得た。
【0047】
得られたガスバリア層について、各層の厚みおよび密度を分析した。ガスバリア層の厚みは80nm、密度は2.4g・cm−3であった。放電処理層の厚みは10nm、密度は3.6g・cm−3であった。
【0048】
[実施例2]
非放電処理層および放電処理層を形成するまでは、実施例1と同様にし、前記放電処理層上に、前記ガスバリア層形成工程と同様の条件でバリア層を形成して、本実施例の有機ELデバイスを得た。
【0049】
得られたガスバリア層について、厚みおよび密度を分析したところ、実施例1と同様であった。
【0050】
[実施例3]
無アルカリガラス基板(松浪硝子工業株式会社製、品番:AF−45、厚み:700μm)上にITO透明電極を形成し、陰極としてAlを100nm蒸着した以外は、実施例1と同様にして、有機ELデバイスを得た。
【0051】
[比較例1]
実施例1と同様に有機EL素子を作製し、ガスバリア層を形成しないものを、本比較例の有機ELデバイスとした。
【0052】
[比較例2]
実施例1と同様に有機EL素子を作製し、実施例1と同様の条件で、非放電処理層を形成し、その上に、前記非放電処理層と同様の条件でバリア層を形成して、本比較例の有機ELデバイスを得た。
【0053】
[比較例3]
実施例3と同様に有機EL素子を作製し、実施例3と同様の条件で、非放電処理層を形成し、その上に、前記非放電処理層と同様の条件でバリア層を形成して、本比較例の有機ELデバイスを得た。
【0054】
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた有機ELデバイスについて、封止層(透明ガスバリア層およびバリア層)の水蒸気透過速度(WVTR)、初期輝度、および発光面積を測定した。測定結果を表1に示す。また、実施例1および比較例3の有機ELデバイスを発光させた状態の初期と7日後の写真を、図5に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
前記表1に示すとおり、実施例で得られた有機ELデバイスにおいては、いずれも封止層の水蒸気透過速度は、0.01g・m−2・day−1以下と良好なガスバリア性を有しており、7日後の発光面積の減少率が小さい、好適な劣化防止特性を有する有機ELデバイスが得られていることがわかる。一方、放電処理層を有していない比較例2および3では、水蒸気透過速度が0.2g・m−2・day−1と大きく、ガスバリア性に劣っていた。そのため、有機ELデバイス7日後の発光面積が大幅に減少し、封止層を形成しなかった比較例1と比較して、大きな改善はされていないことがわかる。図5に示すように、比較例3の有機ELデバイスは、初期(作製直後)においても、発光していない黒点が多数見られた。なお、初期輝度において、比較例1に比べて他の実施例および比較例で低い値となっているのは、封止層の形成時に発光層の劣化が起こり、それに伴い輝度が低下するためと考えられる。実施例および比較例を比較すると、放電処理層を形成することで、発光層の封止層形成時の劣化を抑えつつ、有機EL素子の経時劣化を防止できていることがわかる。また、基板としてSUSを用いた例の方が、ガラスを用いた例に比べて、初期輝度が高くなっている。これは、熱伝導率[W/m・K]がガラス(0.55〜0.75)よりも金属(SUS304:16.7)の方が高く、封止層形成時の熱劣化が少ないからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の有機ELデバイスは、有機EL素子の劣化が防止でき、かつ、有機EL素子の長寿命化を図ることができる。したがって、本発明によると、有機ELデバイスの輝度、寿命および信頼性の向上を実現することができる。本発明の有機ELデバイスは、表示装置等の様々な分野に使用することができ、その用途は限定されない。
【符号の説明】
【0058】
100、200 有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイス
101 基板
110 有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
111 陽極
112 有機エレクトロルミネッセンス(EL)層
113 陰極
120、220 ガスバリア層
120a、220a 非放電処理層
120b、220b 放電処理層
230 バリア層
300、400 製造装置
1、31 真空槽
2 圧力勾配型プラズマガン(アーク放電プラズマ発生源)
3 基板
4 プラズマビーム
5 反射電極
6 収束電極
7 蒸着源
8 蒸着材料
9 電子ビーム
10 水晶モニター
11 放電ガス供給手段
12 反応ガス供給手段
13 基板加熱ヒータ
20 真空ポンプ
21 放電ガス用ガスボンベ
22 反応ガス用ガスボンベ
32 透明樹脂フィルム
33a 巻出ロール
33b 巻取ロール
34a、34b 補助ロール
35 キャンロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、有機エレクトロルミネッセンス素子が形成された有機エレクトロルミネッセンスデバイスであって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子上にガスバリア層を有し、
前記ガスバリア層が、金属および半金属の少なくとも1種を含み、
前記ガスバリア層が、放電処理がされた放電処理層と、放電処理がされていない非放電処理層とを含んでいることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項2】
前記非放電処理層の密度に対する前記放電処理層の密度の比が、1.0を超え2.0以下の範囲であることを特徴とする、請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項3】
前記ガスバリア層の厚みに対する前記放電処理層の厚みの比が、0.05〜0.3の範囲であることを特徴とする、請求項1または2記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項4】
前記ガスバリア層が、前記有機エレクトロルミネッセンス素子側から、非放電処理層、放電処理層の順に形成されており、
前記ガスバリア層の放電処理層上に、さらにバリア層が形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項5】
前記金属および前記半金属の少なくとも1種が、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物および酸化窒化炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項6】
基板上に形成された有機エレクトロルミネッセンス素子上にガスバリア層を形成する有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造方法であって、
金属および半金属から選択される少なくとも1種を含むガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程と、
前記ガスバリア層の一部に放電処理を行うことで、前記ガスバリア層の一部を放電処理層とし、前記放電処理を行っていないその他の部分を非放電処理層とする放電処理工程とを含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記ガスバリア層の一部が、前記ガスバリア層の表層部であることを特徴とする、請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記放電処理が、プラズマビーム照射またはイオンビーム照射によって行われることを特徴とする、請求項6または7記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−62150(P2013−62150A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200000(P2011−200000)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】