説明

有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスパネル

【課題】製造工程で混入した異物を除去し、異物除去部のダークスポットの拡大の抑制と非発光画素を低減させ、信頼性の高い有機ELパネルの製造方法とそれを用いた有機ELパネルを提供する。
【解決手段】少なくとも、基板と、前記基板上に第一電極層と、前記第一電極層上に有機発光層を含む有機発光媒体層と、前記有機発光媒体層を挟んで第一電極層と対向するように第二電極層と、前記第二電極層上にパッシベーション層とを、この順に積層する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法において、前記第二電極層の成層後に、前記第二電極層のドライエッチング工程と、前記ドライエッチング工程の後に前記第二電極層の表面に不活性ガスを吹き付ける工程とを有し、更に、前記パッシベーション層を前記第二電極層上に積層する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンスパネルは、テレビやパソコンモニタ、モバイル機器等に使用されるフラットパネルディスプレイ、照明などとして、幅広い用途が期待されている。有機エレクトロルミネッセンスパネルは、液晶ディスプレイなどとは異なり、自発光型である。そのため、構造的に極薄化できること、表示画像が広視野角で見え、その表示画像の応答速度が速く、低消費電力であり、高コントラストが期待できるなどの利点から、ブラウン管や液晶ディスプレイにかわる替わるフラットパネルディスプレイとして期待されている。
【0003】
図1に、従来技術による有機エレクトロルミネッセンスパネルの断面構造を模式的に示す。有機エレクトロルミネッセンスパネルは、ガラス、あるいはプラスチック等の基板11上に、少なくともどちらか一方の電極が透光性を有する第一電極層12と第二電極層14があり、それら電極層間に、有機発光媒体層13を挟持した構造である。両電極層間に電圧を印可し電流を流すことにより、有機発光媒体層13で発光が生じる、自発光型の表示パネルである。
【0004】
ここで、有機発光媒体層とは正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を含む層である。それぞれの例としては、正孔注入層に銅フタロシアニン、正孔輸送層に(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、有機発光層にトリス(8―キノリノール)アルミニウム、電子輸送層に、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4オキサジアゾール、電子注入層にフッ化リチウムが挙げられる。また、発光層として赤、青、緑の三色に光る材料を用いて、隔壁19を設けた中で塗りわけると、ディスプレイとして表現することができ、薄膜構造で極薄のディスプレイを製造することが可能である。
【0005】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、大気中の酸素や水の影響により劣化するといった問題があるため、パッシベーション層15により酸素や水を遮断し、更に、乾燥剤18を内包した金属缶やガラスキャップ17で接着層16を用いて封止し、大気から遮断する方法が一般的に用いられている。ここで、パッシベーション層とは、酸素や水に対するバリア性が高く、また陰極上に形成するため絶縁性があるものが望ましく、例えば、窒化珪素が挙げられる。また、接着層としては、エポキシ系樹脂が挙げられ、乾燥剤としては酸化カルシウムが挙げられる。
【0006】
しかしながら、有機エレクトロルミネッセンスパネルは、第一電極から第二電極までの厚さが1μm程度しかないため、この厚みと同程度の異物が存在するだけで発光不良を起こし、ダークスポットの拡大や非点灯画素の発生など欠陥を起こしてしまう。しかしながら、異物を工程中から完全に除くことは困難である。
【0007】
上記した、有機エレクトロルミネッセンスパネル製造工程で発生する異物を原因とする発光欠陥に対して、例えば特許文献1には、レーザーリペアによって異物や配線を焼き切る方法が提案されている。しかし、レーザー照射時に発生した異物がさらに周辺の画素へ悪影響を及ぼす恐れがあり、また、レーザーを照射する際、顕微鏡で確認できない程の極
小異物(1μm以下)を検出することは製造工程上困難である問題点がある。
【0008】
また、有機エレクトロルミネッセンスパネルに混入した異物によるショートを防ぐために、例えば特許文献2には、第二電極の上に保護膜を成膜した後に、異物の付着した箇所の第二電極の露出部をドライエッチングにより破断する方法が提案されている。しかし、異物混入によるダークスポットの拡大や、パッシベーション層の効果の低下を招くため、有機エレクトロルミネッセンスパネルの発光欠陥拡大を抑制できていない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−42498号公報
【特許文献2】特開2008−287889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、有機エレクトロルミネッセンスパネルの信頼性向上のためには、工程内で混入異物を除去し、かつ肉眼で認識できる大きさの非発光画素の発生を抑制することが重要である。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたもので、有機エレクトロルミネッセンスパネルの本来の性能を低下させることなく、製造工程で混入した異物を除去し、異物除去部のダークスポットの拡大の抑制と非発光画素を低減させ、信頼性の高い有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法とそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスパネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも、基板と、前記基板上に第一電極層と、前記第一電極層上に有機発光層を含む有機発光媒体層と、前記有機発光媒体層を挟んで第一電極層と対向するように第二電極層と、前記第二電極層上にパッシベーション層とを、この順に積層する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法において、
前記第二電極層の成層後に、前記第二電極層のドライエッチング工程と、前記ドライエッチング工程の後に前記第二電極層の表面に不活性ガスを吹き付ける工程とを有し、更に、前記パッシベーション層を前記第二電極層上に積層する工程とを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記ドライエッチング工程は、前記第二電極層をエッチングできる等方性ドライエッチング工程であることを特徴とする請求項1に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記不活性ガス吹き付け工程の後に、再度第二電極層を成層する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。
【0015】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記第二電極層の下に異物がある場合に、前記ドライエッチング工程において異物上の第二電極を断線させ、不活性ガス吹き付け工程において前記異物を脱落させ、前記異物を脱落させた箇所に第二電極層を再度成層し第二電極を結線させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。
【0016】
また、本発明の請求項5に係る発明は、前記パッシベーション層は化学気相成長法(CVD法)で成層され、異物が脱落した箇所にできる第二電極層の凹部を被覆することを特徴とする請求項1に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。
【0017】
また、本発明の請求項6に係る発明は、前記第二電極層の前記ドライエッチング工程後に、アルゴンプラズマ処理により、前記第二電極層表面の微小異物を除去することを特徴とする請求項1、2または4に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。
【0018】
次に、本発明の請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法を適用して製造したことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス(以下ELと略称する)パネルの製造方法によれば、第二電極層成膜後に等方性エッチング工程を行うことで、製造工程で第二電極層以下の層に混入した異物上の薄膜化した箇所の第二電極を取り除くことができ、その後不活性ガスを吹き付けることでこの異物を取り除くことができる。また、異物の無くなった箇所に対してもバリア性の良いパッシベーション層を成膜する。あるいは、異物の無くなった箇所に再び第二電極層を成膜し、さらにその上にパッシベーション層を積層する。このような工程を経ることで、パネル全面から異物が除去され、肉眼で認識できる大きさのダークスポット及び非発光画素のない有機ELパネルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術による有機ELパネルの一例を断面で示す模式図である。
【図2】本発明に係る有機ELパネルの一例を断面で示す模式図である。
【図3】本発明に係る製造方法で、第二電極層の下に混入した異物を説明する断面模式図である。
【図4】本発明に係る製造方法で、ドライエッチング工程で第二電極層エッチング後異物上の第二電極を断線させた状態を説明する断面模式図である。
【図5】本発明に係る製造方法で、不活性ガス吹き付け工程の後に、異物が除去された状態を説明する断面模式図である。
【図6】本発明に係る製造方法で、異物除去工程からから再び第二電極を成層し、パッシベーション層、接着層、封止基板を形成した状態を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の有機ELパネルの製造方法を、その一実施形態に基づいて、図2〜図6を用いて以下説明する。以下の説明ではボトムエミッション構造を例として挙げるが、本発明は、トップエミッション構造でも適用できる。
【0022】
図2に、本発明に係る有機ELパネルの一例の断面構成を模式的に示す。基板21としては、例えばガラスやプラスチックフィルムなどの絶縁性を有する基板が使用できる。
【0023】
これらの基板21は、あらかじめ加熱処理を行うことにより、基板内部あるいは表面の水分を極力低減させることが望ましい。また、基板21上に積層される材料に応じて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0024】
また、前記基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、駆動用基板としても良い。TFTの材料としては、ポリチオフェンやポリアニリン、銅フタロシアニンやペリレン誘導体等の材料を用いてもよく、また、アモルファスシリコンやポリシリコンを用いてもよい。また、前記基板のどちらかの面にカラーフィルタ層や光散乱層、光偏光層等を基板に設けてもよい。
【0025】
まず、この基板21上に第一電極層22を形成する。第一電極層22は、第二電極層24とともに、有機発光媒体層23に電圧を印加するものである。画素ごとに電圧を印加するため、第一電極層22はストライプにパターニングすることができる。これに対して第二電極層24は第一電極層22と交差する形でストライプにパターニングすることができる。
【0026】
第一電極層22と第二電極層24の少なくともどちらか一方は透明電極である必要がある。これは、有機発光媒体層23からの発光を取り出すためである。例えば、第一電極層22にITO(インジウムスズ複合酸化物)やIZO(インジウム亜鉛複合酸化物)を使用することができる。膜形成方法としては真空成膜法を用いることができ、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などを用いて成膜することができる。
【0027】
第一電極層22を形成後、隣接する陽極パターンの間に感光性材料を用いて、フォトリソグラフィ法により隔壁25が形成される。さらに詳しくは、感光性樹脂組成物を基板に塗布する工程と、パターン露光、現像、焼成して隔壁パターンを形成する工程を少なくとも有する。
【0028】
隔壁25を形成する感光性材料としてはポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよく、市販のもので構わないが、絶縁性を有する必要がある。隔壁が十分な絶縁性を有さない場合には隔壁を通じて隣り合う画素電極に電流が流れてしまい表示不良が発生してしまう。また、TFTの誤作動により適正な表示ができないことがある。感光性材料としては、具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といったものが挙げられるがこれに限定するものではない。また、有機ELディスプレイの表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させても良い。
【0029】
隔壁25を形成する感光性樹脂はスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の公知の塗布方法を用いて塗布される。次に、パターン露光、現像して隔壁パターンを形成する工程では、従来公知の露光、現像方法により隔壁部のパターンを形成できる。また焼成に関してはオーブン、ホットプレート等での従来公知の方法により焼成を行うことができる。
【0030】
隔壁25は、厚みが0.5μmから5.0μmの範囲にあることが望ましい。これは、異なる発光色を有する有機発光材料を溶媒に溶解または分散させた有機発光インキを用いて画素ごとに塗り分けをおこなう場合、隣接する画素との混色を防止することが出来る。隔壁が低すぎると隣接画素間でのリーク電流の発生やショートの防止、有機発光インキの混色防止の効果が得られないことがあり注意が必要である。
【0031】
次に、有機発光媒体層23は、電圧の印加によって発光する有機発光層を含む。この有
機発光層から成る単独の層によって構成されていても良いが、この発光層に加えて、発光効率を向上させる発光補助層を積層した積層構造から構成されたものであっても良い。発光補助層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
【0032】
有機媒体層23の典型的な例を挙げると、正孔注入層に銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン等の芳香族アミン系低分子を用いることができる。
【0033】
正孔輸送層としてはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)が挙げられる。
【0034】
有機発光層としては9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノリノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス〔8−(パラ−トシル)アミノキノリン〕亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポルフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料や、ポリフルオレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリスピロなどの高分子材料や、これら高分子材料に前記低分子材料の分散または共重合した材料や、その他既存の発光材料を用いることができる。
【0035】
これら有機発光媒体層23は、その分子特性によって、ドライコーティングまたはウェットコーティングにより成膜される。ウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があり、ドライコーティング法としては、真空成膜法を用いることができ、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などを用いて成膜することができる。
【0036】
続いて、第二電極層24を成膜する。例えばリチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム及びアルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀、などの安定な金属との合金などが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。真空成膜法を用いて成膜することができる。たとえば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0037】
図3に示すように、第二電極層34を成膜した時点で、素子の構成内に異物36が存在すると、作成した有機ELパネルにダークスポットや非発光画素などの発光欠陥が発生する、あるいはショートを発生させたりするなどの不具合を起こす。また、前記異物がパッシベーション層の効果を弱め、有機ELパネルの封止性能の低下を引き起こす。そのため
、第二電極層34を成膜した後、以下に述べるドライエッチング等の異物除去工程を経ることで、先述の発光欠陥やパッシベーション層の効果低下や封止性能の低下を抑制することができる。
【0038】
続いて、第二電極層34をドライエッチングする。例えば、塩素、塩化ホウ素、4フッ化炭素などのガスを用いるが、これは第二電極層の材料によって選択され、等方性エッチングを用いることが望ましい。なぜなら異物によって第二電極層に段差が生じている場合、異方性エッチングでは段差端部で薄膜化している箇所をエッチングできないためである。よって、採用できる方法としては、ケミカルドライエッチング、バレル型プラズマエッチング、平行平板型プラズマエッチング、誘導結合形RFプラズマ、ECRプラズマ等が挙げられる。また、実際に処理を行う際は、図3に示すように、異物36端部の薄膜化した部分37を異物表面が露出するまでエッチングする必要があるため、第二電極層34の膜厚の10%〜20%程度エッチングすることが望ましい。また、電極層の種類によっては、先述のような化学的なエッチングと、アルゴンプラズマなどで基板表面を処理することを組み合わせ、エッチング時の残留異物を除去することもできる。これらエッチング、プラズマ処理工程では、プラズマが照射される箇所は第二電極層、異物部、異物除去によって発生したダークスポット部に限られるため、有機エレクトロルミネッセンスパネルの正常部には影響がない。また、異物除去によって発生したダークスポットに対しては、後述のパッシベーションにより拡大を抑制する。
【0039】
続いて、図4に示すように、異物表面が露出するまでエッチングされた第二電極層表面から、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを吹き付ける。この場合、異物除去を目的としているため、クリーンかつ高純度のものが望ましい。また、異物除去能力としてガス圧力は概ね0.5MPa程度あることが望ましい。
【0040】
図5に示すように、異物除去後は異物除去跡56が残って第二電極層54が断線しているため、図6に示すように、再度第二電極層を成膜することで、断線させた第二電極層を結線させることができる。
【0041】
以上の工程を経た後、第二電極層24上に、パッシベーション層25を真空成膜法を用いて成膜することができる。たとえば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法などが挙げられる。ここで、異物除去部の凹部を被覆する必要があるため、カバレッジ性の良いCVD法を用いることが望ましいが、他の成膜方法と組み合わせて成膜することも可能である。
【0042】
また、パッシベーション層は、膜の残留の膜応力の絶対値が大きいと有機EL素子の膜剥離などが生じ、バリア性が損なわれるために、少なくとも低密度無機封止膜の膜応力は100MPa以下であることが好ましく、さらには、低密度膜と高密度膜の積層膜である無機封止膜においても、全体の積算した膜応力の絶対値が100MPa以下であることがより好ましい。また、積層膜の積算応力として制御する場合においても、1層目の膜は応力がなるべく低い膜を選択できるCVD法が望ましい。
【0043】
CVD法で成膜する物質として、窒化珪素、酸化珪素、窒化酸化珪素、ダイヤモンドライクカーボンなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、CVD法における反応ガスとしては、モノシランやジシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)やテトラエトキシシランなどの有機シランに、N、O、NH、H、NOなどのガスを必要に応じて添加することができる。また、バッファ層として他の成膜方法、例えば蒸着法を併用したり、それらの層を積層し、多層化したりすることもできる。
【0044】
パッシベーション層の層総厚としては、1μm〜10μm成層することが望ましい。特
に、異物除去によりできた凹部はダークスポットとなってしまうが、これの拡大を抑制できる程度までパッシベーション層を積層する。
【0045】
続いて、接着層を用いて接着層27を形成し、その上に封止基板28を積層して封止する。接着層27として、熱硬化型の接着層も使用することができるが、有機エレクトロルミネッセンスパネルへの影響を考慮すると光硬化型の接着層が好ましい。例えば、エステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート等の各種アクリレート等の各種アクリレート、ウレタンポリエステル等の樹脂を用いたラジカル系接着層や、エポキシ、ビニルエーテル等の樹脂を用いたカチオン系接着層、チオール・エン付加型樹脂系接着層等が挙げられ、中でも酸素による阻害がなく、光照射後も重合反応が進行するカチオン系接着層が好ましい。カチオン硬化型タイプとしては、紫外線硬化型エポキシ樹脂接着層が好ましい。特に好ましいものは、100mW/cm以上の紫外線を照射した際に、10秒〜90秒以内に硬化する紫外線硬化型接着層である。この時間範囲内で硬化させることにより、紫外線照射による他の構成要素への悪影響をもたらすことなく、紫外線硬化型接着層が充分に硬化して適切な接着強さを備えることができる。また、生産工程の効率の観点からも、前記の時間範囲内であることが好ましい。また、接着層27の種類に関わらず、低透湿性かつ高接着性のものが望ましい。樹脂層をパッシベーション層の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。接着層27の厚みとしては特に制限はないが、なるべく薄層であることが好ましく、1μm〜100μm程度、好ましくは5μm〜50μmである。
【0046】
封止基材28としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのプラスチックフィルムを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例においては、上記した図2の説明で用いた符号を、同一機能の部分については同じ符号を用いて説明する。
【0048】
<実施例1>
基板21として、予め第一電極層22、取り出し電極、TFT回路を保護するためのSiNx膜からなる絶縁層およびポリイミドからなる絶縁層を備えたTFT基板を用いた。このTFT基板では、ポリイミドからなる絶縁層は画素を仕切るように形成されており、各画素の隔壁25としても機能する。
【0049】
次に、第一電極層22上にポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物からなる正孔輸送層をスピンコート法により20nm厚形成した。
【0050】
次に、正孔輸送層上に有機発光材料であるポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)―1,4−フェニレンビュレン]をトルエンに溶解させ、スピンコート法により有機発光層を形成し、前記正孔輸送層と合わせて有機発光媒体層23を80nm厚形成した。
【0051】
次にBa、Alからなる第二電極層24を、Baは蒸着法により、Alは抵抗加熱蒸着法によりそれぞれ5nm厚、50nm厚形成した。
【0052】
次に、第二電極層を平行平板型プラズマエッチング法により、エッチングした。エッチング条件は三塩化ホウ素と塩素を1:1で導入し、全圧0.2Pa高周波電力600Wで
行った。さらに、電極層表面異物除去のためアルゴンプラズマを0.2Pa、電力100W、流量100sccmで表面をプラズマ処理し、その後0.5MPaのアルゴンガスを基板全面に吹きつけ露出した異物を除去した。
【0053】
次に再度Ba、Alからなる第二電極層24を、Baは蒸着法により、Alは抵抗加熱蒸着法によりそれぞれ5nm厚、200nm厚形成した。
【0054】
続いて、窒化珪素からなるパッシベーション層28をプラズマCVD法により、SiH:80sccmm、NH:20sccm、H:700sccm、N:1000sccm、全圧100Pa、電力800Wで3000nm厚形成した。
【0055】
次に、パッシベーション層26上に紫外線硬化型接着層を用いて接着層27を形成し、平板ガラスでできた封止基板28を貼り合わせ、UVを5000mJ照射し封止した。
【0056】
このようにして得た有機ELパネルの異物数を200画素顕微鏡で観察したところ、2μm以上の異物は観察されなかった。また、パネルに7Vの電圧を印加した結果、3200cd/mの輝度が得られ、電流効率は5cd/Aであった。また、非発光画素は観察されなかったが、顕微鏡での観察では5画素でダークスポットが観察された。さらに60℃90%R.H.下で1500時間放置したところ、非発光画素数は観察されず、ダークスポットの拡大は見られなかった。
【0057】
<実施例2>
実施例1と同様にTFT基板上に有機ELパネルを第二電極層まで形成し、エッチングを同条件で行い、アルゴンプラズマ処理をせずに、アルゴンガスを0.5MPaで基板全面に吹きつけた。その後実施例1と同条件で再度第二電極層とパッシベーション層、接着層を形成し、平板ガラスで封止した。このようにして得た有機ELパネルの異物数を200画素顕微鏡で観察したところ、2μm以上の異物は観察されなかった。また、パネルに7Vの電圧を印加した結果、3300cd/mの輝度が得られ、電流効率は5cd/Aであった。また、異物の無い画素でエッチング時の残渣の影響とみられダークスポットが観察されたが、これは60℃90%R.H.下で1500Hr放置したところ、拡大は観察されず、非発光画素数は観察されなかった。
【0058】
<実施例3>
実施例1と同様にTFT基板上に有機ELパネルを第二電極層まで形成し、アルゴンプラズマ処理工程、エッチング工程を同条件で行い、再度の第二電極層の成層をせずにパッシベーション層、接着層を形成し、平板ガラスで封止した。このようにして得た有機ELパネルの異物数を200画素顕微鏡で観察したところ、2μm以上の異物は観察されなかった。また、パネルに7Vの電圧を印加した結果、2900cd/mの輝度が得られ、電流効率は5cd/Aであった。また、電極の断線による非発光画素が11画素観察され、ダークスポットは7画素観察された。さらに60℃90%R.H.下で1500Hr放置したところ、非発光画素数は11画素であり、ダークスポットの拡大はみられなかった。
【0059】
<比較例1>
実施例1と同様にTFT基板上に有機ELパネルを第二電極層まで形成し、第二電極層のエッチング工程とアルゴンプラズマ処理工程とアルゴンガス吹き付け工程とを無しで、そのままパッシベーション層、接着層を形成し、平板ガラスで封止した。このようにして得た有機エレクトロルミネッセンスパネルの異物数を200画素顕微鏡で観察したところ、2μm以上の異物は41個観察され、また、パネルに7Vの電圧を印加した結果、2600cd/mの輝度が得られ、電流効率は4cd/Aであった。また、ダークスポットが25画素、非発光画素数37画素で観察された。さらに60℃90%R.H.下で150
0Hr放置したところ、非発光画素が異物やダークスポット周辺で拡大し、非発光画素が121画素まで増加した。
【符号の説明】
【0060】
11・・・基板 12・・・第一電極層 13・・・有機発光媒体層
14・・・第二電極層 15・・・パッシベーション層 16・・・接着層
17・・・封止基板 18・・・乾燥剤 19・・・隔壁
21・・・基板 22・・・第一電極層 23・・・有機発光媒体層
24・・・第二電極層 25・・・隔壁 26・・・パッシベーション層
27・・・接着層 28・・・封止基板
31・・・基板 32・・・第一電極層 33・・・有機発光媒体層
34・・・第二電極層 35・・・隔壁 36・・・異物
37・・・第二電極薄層部
41・・・基板 42・・・第一電極層 43・・・有機発光媒体層
44・・・第二電極層 45・・・隔壁 46・・・異物
47・・・異物と第二電極の空間
51・・・基板 52・・・第一電極層 53・・・有機発光媒体層
54・・・第二電極層 55・・・隔壁 56・・・異物除去跡
61・・・基板 62・・・第一電極層 63・・・有機発光媒体層
64・・・第二電極層 65・・・再度成層した第二電極層 66・・・隔壁
67・・・パッシベーション層 68・・・接着層 69・・・封止基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基板と、前記基板上に第一電極層と、前記第一電極層上に有機発光層を含む有機発光媒体層と、前記有機発光媒体層を挟んで第一電極層と対向するように第二電極層と、前記第二電極層上にパッシベーション層とを、この順に積層する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法において、
前記第二電極層の成層後に、前記第二電極層のドライエッチング工程と、前記ドライエッチング工程の後に前記第二電極層の表面に不活性ガスを吹き付ける工程とを有し、更に、前記パッシベーション層を前記第二電極層上に積層する工程とを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項2】
前記ドライエッチング工程は、前記第二電極層をエッチングできる等方性ドライエッチング工程であることを特徴とする請求項1に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガス吹き付け工程の後に、再度第二電極層を成層する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項4】
前記第二電極層の下に異物がある場合に、前記ドライエッチング工程において異物上の第二電極を断線させ、不活性ガス吹き付け工程において前記異物を脱落させ、前記異物を脱落させた箇所に第二電極層を再度成層し第二電極を結線させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項5】
前記パッシベーション層は化学気相成長法(CVD法)で成層され、異物が脱落した箇所にできる第二電極層の凹部を被覆することを特徴とする請求項1に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項6】
前記第二電極層の前記ドライエッチング工程後に、アルゴンプラズマ処理により、前記第二電極層表面の微小異物を除去することを特徴とする請求項1、2または4のいずれか1項に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法を適用して製造したことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−204366(P2011−204366A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67724(P2010−67724)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】