説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびこれを備えた表示装置

【課題】上部電極を金属膜により構成すると共に、この金属膜の導電性を保ちつつ厚みを6nm以下に薄くすることが可能な有機エレクトロルミネッセンス素子およびこれを備えた表示装置を提供する。
【解決手段】上部電極17と有機層16との間に、中間層18を上部電極17に接して設ける。中間層18は、厚みが0.1nm以上5nm以下であり、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含む。上部電極17の変性による導電性低下を抑え、上部電極17の厚みを薄くしても有機EL素子10R,10G,10Bの良好な駆動を可能とし、非発光欠陥の発生を抑える。特に、共振器構造MC1により、発光層16Cで発生した光を下部電極14と上部電極17との間で共振させる場合に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器構造を有するものに好適な有機エレクトロルミネッセンス(EL;Electroluminescence)素子およびこれを備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンスを利用した有機EL素子は、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として、既に有機EL表示装置に応用されている。有機EL素子は、例えば、基板に下部電極、発光層を含む有機層、および上部電極を順に積層した構成を有し、発光層で発生した光は下部電極および上部電極の一方または両方の側から取り出される。上部電極から光を取り出す場合には、上部電極は例えば透明導電膜により構成されている。透明導電膜の材料としては、例えば、インジウムとスズとの酸化物(ITO)やインジウムと亜鉛との酸化物(IZO)等の金属酸化物導電体が用いられている。
【0003】
しかしながら、金属酸化物からなる透明導電材料を用いる場合、スパッタ成膜時のダメージによる素子特性の低下がある。また、スパッタ膜は成膜面の突起や欠陥部に回り込んで付着する性質が強いうえに、金属酸化物の導電性を発現させるためには15nm程度以上の膜厚が必要となる。そのため、下部電極上の異物あるいは欠陥、または有機膜の欠陥部に金属酸化物導電材料が付着し、上部電極と下部電極との短絡を発生する確率が高い。
【0004】
上部電極の材料としては、金属膜からなる導電膜も用いられている。この金属膜の材料として、例えば特許文献1では、吸収損失を小さくするため、屈折率が1以下、消衰係数0.5以上の電子注入性金属が好ましいとされ、例えば、アルミニウム,マグネシウム,カルシウム,ナトリウムなどの単体または合金が挙げられている。
【0005】
金属膜は10nm程度で電極として機能し、導電性を発現するための必要膜厚が小さいので、下部電極上の異物あるいは欠陥、または有機膜の欠陥部での短絡を発生する確率が低い。また、この金属膜を抵抗加熱を用いた高真空下の真空蒸着法により成膜すれば、気体分子との衝突による蒸発粒子の散乱がおきにくくなり、下部電極上の異物あるいは欠陥、または有機膜の欠陥部に導電材料が回り込むことが少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−164890号公報
【特許文献2】特開平8−185984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような金属膜は、薄膜化により導電性が低下するという問題があった。マグネシウムと銀との合金(Mg−Ag合金)膜であれば、薄膜でも高い導電性が保たれるが、その薄膜化の限界は6nm程度であった。すなわち、従来では、6nm以下の金属膜においても有機EL素子の駆動が充分出来るほどに導電性を保つことに成功した例は知られていなかった。
【0008】
ちなみに、例えば特許文献2には、上部電極を酸化物導電体により構成し、電子注入性を向上させるために有機層と上部電極との間に厚み2nmの透明なMg−Ag合金膜を設けることが記載されている。このMg−Ag合金膜は電極としての機能は持っておらず、電子注入層としてのみ機能しており、導電性は酸化物導電体が担っている。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、上部電極を金属膜により構成すると共に、この金属膜の導電性を保ちつつ厚みを6nm以下に薄くすることが可能な有機エレクトロルミネッセンス素子およびこれを備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による第1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、以下の(A)〜(D)の構成要素を備えたものである。
(A)下部電極
(B)アルミニウム,マグネシウム,カルシウムまたはナトリウムを含む合金により構成されると共に2nm以上6nm以下の厚みを有する上部電極
(C)下部電極および上部電極の間に設けられた、発光層を含む有機層
(D)上部電極と有機層との間に上部電極に接して設けられ、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含むと共に0.1nm以上5nm以下の厚みを有する中間層
【0011】
ここで本発明にいう「厚み」は、分光エリプソメトリーなどの光学的手法により求められたものである。
【0012】
本発明による第2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、以下の(A)〜(C)の構成要素を備えたものである。
(A)下部電極
(B)マグネシウム,アルミニウム,カルシウムまたはナトリウムを含む合金を主成分とし、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含むと共に2nm以上6nm以下の厚みを有する上部電極
(C)下部電極および上部電極の間に設けられた、発光層を含む有機層
【0013】
本発明による第1および第2の表示装置は、上記本発明による第1または第2の有機エレクトロルミネッセンス素子をそれぞれ備えたものである。
【0014】
本発明の第1の有機エレクトロルミネッセンス素子では、上部電極と有機層との間にアルカリ金属などの薄い(膜厚0.1nm以上5nm以下)の中間層が設けられていることにより、上部電極と有機層とが直接接触することがなく、これにより上部電極の変性、ひいては導電性の低下が抑制される。
【0015】
本発明の第2の有機エレクトロルミネッセンス素子では、マグネシウム等の合金を主成分とする薄い(膜厚2nm以上6nm以下)上部電極が、アルカリ金属などの金属元素を含んでいることにより、上部電極の変性、ひいては導電性の低下が抑制される。
【0016】
本発明の第1および第2の表示装置では、上記本発明の第1または第2の有機エレクトロルミネッセンス素子をそれぞれ備えているので、上部電極の導電性が保たれており、有機エレクトロルミネッセンス素子が良好に駆動される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上部電極と有機層との間にアルカリ金属などの金属元素からなる中間層を上部電極に接して設けると共に、この中間層の厚みを0.1nm以上5nm以下としたので、また、本発明の第2の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上部電極がマグネシウム等の合金を主成分とし、アルカリ金属などの金属元素を含むようにしたので、上部電極の変性による導電性低下を抑えると共に、この上部電極の厚みを2nm以上6nm以下と薄くすることが可能となる。特に、共振器構造を有し、発光層で発生した光を下部電極と上部電極との間で共振させるタイプの有機エレクトロルミネッセンス素子に好適である。
【0018】
本発明の第1および第2の表示装置によれば、上記本発明の第1または第2の有機エレクトロルミネッセンス素子をそれぞれ備えるようにしたので、上部電極の導電性を保ち、有機エレクトロルミネッセンス素子を良好に駆動することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図3】図1に示した有機EL素子の構成を表す断面図である。
【図4】図3に示した共振器構造を有する有機EL素子の視野角特性を従来と比較して表す図である。
【図5】変形例1に係る有機EL素子の構成を表す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子の構成を表す断面図である。
【図7】図6に示した有機EL素子の他の構成を表す断面図である。
【図8】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図9】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図10】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図11】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図12】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図13】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(下部電極と上部電極とにより第1の共振器構造を構成した例)
2.変形例1(中間層18と上部電極17とが一体となっている例)
3.第2の実施の形態(上部電極上に共振調整層を設けて第2の共振器構造を構成した例)
4.実施例
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る表示装置の構成を表すものである。この表示装置は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板11の上に、表示領域110として、後述する複数の有機EL素子10R,10G,10Bがマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。
【0022】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、後述する下部電極14の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機EL素子10R(または10G,10B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0023】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機EL素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0024】
また、表示領域110には、赤色の光を発生する有機EL素子10Rと、緑色の光を発生する有機EL素子10Gと、青色の光を発生する有機EL素子10Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0025】
図3は図1に示した有機EL素子10R,10G,10Bの断面構成を表したものである。有機EL素子10R,10G,10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1、平坦化絶縁膜13、陽極としての下部電極14、電極間絶縁膜15、後述する発光層16Cを含む有機層16、および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。
【0026】
このような有機EL素子10R,10G,10Bは、保護層30により被覆され、更にこの保護層30上に接着層40を間にしてガラスなどよりなる封止用基板50が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0027】
基板11は、ガラス,シリコン(Si)ウェハあるいは樹脂などにより構成されている。駆動トランジスタTr1は、平坦化絶縁膜13に設けられた接続孔13Aを介して下部電極14に電気的に接続されている。
【0028】
平坦化絶縁膜13は、画素駆動回路140が形成された基板11の表面を平坦化するためのものであり、微細な接続孔13Aが設けられるためパターン精度が良い材料により構成されていることが好ましい。平坦化絶縁膜13の構成材料としては、例えば、ポリイミド等の有機材料、あるいは酸化シリコン(SiO2 )などの無機材料が挙げられる。
【0029】
下部電極14は、反射層としての機能も兼ねており、できるだけ高い反射率を有するようにすることが発光効率を高める上で望ましい。特に、下部電極14が陽極として使われる場合には、下部電極14は正孔注入性の高い材料により構成されていることが望ましい。このような下部電極14としては、例えば、積層方向の厚み(以下、単に厚みと言う)が100nm以上1000nm以下であり、クロム(Cr),金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),銅(Cu),タングステン(W)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金が挙げられる。下部電極14の表面には、インジウムとスズの酸化物(ITO)などの透明導電膜が設けられていてもよい。なお、アルミニウム(Al)合金のように、反射率が高くても、表面の酸化皮膜の存在や、仕事関数が大きくないことによる正孔注入障壁が問題となる材料においても、適切な正孔注入層を設けることによって下部電極14として使用することが可能である。
【0030】
電極間絶縁膜15は、下部電極14と上部電極17との絶縁性を確保すると共に発光領域を所望の形状にするためのものであり、例えば感光性樹脂により構成されている。電極間絶縁膜15には、発光領域に対応して開口部が設けられている。なお、有機層16および上部電極17は、開口部だけでなく電極間絶縁膜15の上にも設けられているが、発光が生じるのは電極間絶縁膜15の開口部だけである。
【0031】
有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16A,正孔輸送層16B,発光層16C,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。これらのうち発光層16C以外の層は必要に応じて設ければよい。有機層16は、有機EL素子10R,10G,10Bの発光色によってそれぞれ構成が異なっていてもよい。正孔注入層16Aは、正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層である。正孔輸送層16Bは、発光層16Cへの正孔輸送効率を高めるためのものである。発光層16Cは、電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり、光を発生するものである。電子輸送層16Dは、発光層16Cへの電子輸送効率を高めるためのものである。電子注入層16Eは、電子注入効率を高めるためのものである。
【0032】
有機EL素子10Rの正孔注入層16Aは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、化1または化2に示したヘキサアザトリフェニレン誘導体により構成されている。有機EL素子10Rの正孔輸送層16Bは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、ビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)により構成されている。有機EL素子10Rの発光層16Cは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3 )に2,6−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニル]アミノスチリル]ナフタレン−1,5−ジカルボニトリル(BSN−BCN)を40体積%混合したものにより構成されている。有機EL素子10Rの電子輸送層16Dは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、Alq3 により構成されている。有機EL素子10Rの電子注入層16Eは、例えば、厚みが0.3nm程度であり、LiF,Li2 Oなどにより構成されている。
【0033】
【化1】

(化1において、R1〜R6それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アルールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基であり、隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。また、X1〜X6はそれぞれ独立に炭素もしくは窒素原子である。)
【0034】
具体的には、有機EL素子10Rの正孔注入層16Aは、化2に示した材料により構成されていることが好ましい。
【0035】
【化2】

【0036】
有機EL素子10Gの正孔注入層16Aは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、化1または化2に示したヘキサアザトリフェニレン誘導体により構成されている。有機EL素子10Gの正孔輸送層16Bは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、α−NPDにより構成されている。有機EL素子10Gの発光層16Cは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、Alq3 にクマリン6(Coumarin6)を1体積%混合したものにより構成されている。有機EL素子10Gの電子輸送層16Dは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、Alq3 により構成されている。有機EL素子10Gの電子注入層16Eは、例えば、厚みが0.3nm程度であり、LiF,Li2 Oなどにより構成されている。
【0037】
有機EL素子10Bの正孔注入層16Aは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、化1または化2に示したヘキサアザトリフェニレン誘導体により構成されている。有機EL素子10Bの正孔輸送層16Bは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、α−NPDにより構成されている。有機EL素子10Bの発光層16Cは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、スピロ6Φ(spiro6Φ)により構成されている。有機EL素子10Bの電子輸送層16Dは、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、Alq3 により構成されている。有機EL素子10Gの電子注入層16Eは、例えば、厚みが0.3nm程度であり、LiF,Li2 Oなどにより構成されている。
【0038】
上部電極17は、金属導電膜により構成されている。具体的には、アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)またはナトリウム(Na)の合金が挙げられる。中でも、マグネシウムと銀との合金(Mg−Ag合金)は、薄膜での導電性と吸収の小ささとを兼ね備えているので好ましい。Mg−Ag合金におけるマグネシウムと銀との比率は特に限定されないが、膜厚比でMg:Ag=20:1〜1:1の範囲であることが望ましい。また、上部電極17の材料は、アルミニウム(Al)とリチウム(Li)との合金(Al−Li合金)でもよい。
【0039】
上部電極17の厚みは、好ましくは、2nm以上6nm以下である。6nm以下とすることにより、下部電極14上の異物の周囲に上部電極17の材料が付着し、下部電極14と上部電極17とが電気的に短絡することによる非発光欠陥(いわゆる滅点)の発生を抑えることが可能となる。また、2nm以上とすることにより、上部電極17の導電性を、有機EL素子10R,10G,10Bの駆動の支障とならない程度に確保することが可能となる。更に、上部電極17の厚みは、2.5nm以上6nm以下であればより好ましい。有機EL素子10R,10G,10Bの駆動が十分に可能となるからである。
【0040】
上部電極17と有機層16との間には、中間層18が上部電極17に接して設けられている。中間層18は、例えば、厚みが0.1nm以上5nm以下であり、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含む。これにより、この表示装置では、上部電極17の導電性を保ちつつ、上部電極17の厚みを6nm以下に薄くすることが可能となっている。
【0041】
ここで本明細書にいう「上部電極17の厚み」および「中間層18の厚み」は、分光エリプソメトリーなどの光学的手法により求められたものである。また、「上部電極17の厚み」および「中間層18の厚み」は、封止用基板50による封止後、組み立て後の製品になった状態で計測したものである。
【0042】
中間層18は、上部電極17が有機層16と直接接触して導電性を失うことを抑える変性防止層としての機能を有している。そのため、中間層18は、上部電極17の変性防止効果が得られるだけの厚みを有することが望ましく、具体的には上述したように0.1nm以上の厚みを有している。また、中間層18の厚みが5nm以下であることにより、光吸収による効率の低下を小さくすることが可能となる。
【0043】
中間層18は、上部電極17を陰極として用いる場合には、電子注入性材料により構成されていることが好ましい。このような材料としては、上述したように、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド金属等が候補として挙げられるが、適切な電子注入層16Eを設けることで、マグネシウムに比較して仕事関数の大きな金属も使用することもできる。これらの金属の例としては、アルミニウム、インジウム、スズ等の金属、ニッケル、銅、亜鉛等の遷移金属が挙げられる。
【0044】
具体的には、中間層18はカルシウムを含むことが好ましい。カルシウムは有機層16への電子注入性が良好であり、膜としても導電性が高く、吸収が小さい。また、カルシウムは単独材料で有機層16上への成膜が比較的容易であり、他のアルカリ土類金属やアルカリ金属のように空気中で過激な酸化や水酸化反応を受けないので製造上の取り扱いも比較的容易である。
【0045】
あるいは、中間層18はアルミニウムを含むことが好ましい。アルミニウムは、例えばフッ化リチウムのような適切な電子注入層16Eを薄く成膜した後に積層することで良好な電子注入性を示すと共に、更にその上に設けられる上部電極17の変性を防止する効果も有している。
【0046】
中間層18および上部電極17よりなる膜のシート抵抗は、例えば、10000Ω/□以下であることが好ましい。これにより、基板上の画素近傍にコンタクト部を配置したパネル構造においては、電圧降下の影響を小さくし、駆動電圧の上昇または画素内での輝度勾配を抑えることが可能となる。例えば、100インチフルハイビジョンの表示装置において1画素は1.15mmピッチとなるが、このような大きな画素においても、白表示の発光効率が20cd/A、表示輝度200cd/m2とすると、画素の端から端までの電圧降下は0.13Vとなり、表示品位を損なうおそれが小さい。
【0047】
中間層18および上部電極17は、後述するように製造工程では積層膜として形成されるものであるが、上部電極17の形成後においては中間層18に含まれる金属元素の一部が第2電極17内に分布していてもよい。
【0048】
上部電極17は、また、半透過性反射層としての機能を兼ねている。すなわち、有機EL素子10R,10G,10Bは共振器構造MC1(第1の共振器構造MC1)を有し、この共振器構造MC1により発光層16Cで発生した光を下部電極14と上部電極17との間で共振させるようになっている。この共振器構造MC1は、下部電極14と有機層16との界面を反射面P1、中間層18と電子注入層16Eとの界面を半透過反射面P2とし、有機層16を共振部として、発光層16Cで発生した光を共振させて半透過反射面P2の側から取り出すものである。このように共振器構造MC1を有するようにすれば、発光層16Cで発生した光が多重干渉を起こし、半透過反射面P2の側から取り出される光のスペクトルの半値幅が減少し、ピーク強度を高めることができる。すなわち、正面方向における光放射強度を高め、発光の色純度を向上させることができる。また、封止用基板50側から入射した外光についても多重干渉により減衰させることができ、後述するカラーフィルタ51との組合せにより有機EL素子10R,10G,10Bにおける外光の反射率を極めて小さくすることができる。
【0049】
そのためには、反射面P1と半透過反射面P2との間の光学的距離L1は数1を満たすようにすることが好ましい。
【0050】
(数1)
(2L1)/λ+Φ/(2π)=m
(式中、L1は反射面P1と半透過反射面P2との間の光学的距離、mは次数(0または自然数)、Φは反射面P1で生じる反射光の位相シフトΦ1 と半透過反射面P2で生じる反射光の位相シフトΦ2 との和(Φ=Φ1 +Φ2 )(rad)、λは半透過反射面P2の側から取り出したい光のスペクトルのピーク波長をそれぞれ表す。なお、数1においてL1およびλは単位が共通すればよいが、例えば(nm)を単位とする。)
【0051】
反射面P1と半透過反射面P2との間には、取り出し発光強度が極大となる位置(共振面)が存在する。この共振面はm+1箇所あり、m=1以上の条件においては、最も反射面P1寄りの共振面に発光面がある場合が最も発光スペクトルの半値幅が広くなるものである。
【0052】
このような共振器構造MC1を有する有機EL素子10R,10G,10Bでは、次数mが大きくなるほど、輝度や色度の視野角依存性、すなわち正面方向から見た場合と斜め方向から見た場合とでの輝度や色度の変化が大きくなる傾向がある。一般のテレビジョン装置等の用途に有機EL表示装置を用いることを想定した場合、視野角による輝度低下および色度変化は小さい方が望ましい。具体的には、白色発光時において、正面から測定した分光放射輝度に対して45度斜方から測定した分光放射輝度比が0.7以上であることが好ましい。
【0053】
視野角特性のみを考慮するとm=0の条件が理想的である。しかしながら、この条件では有機層16の厚みが薄くなるので、発光特性への影響や下部電極14と上部電極17との短絡発生のおそれが生じる。そのため、例えばm=1の条件を用いることにより、輝度や色度の視野角依存性が大きくなることを回避すると共に、発光特性の低下や短絡発生を抑えるようにしている。例えば下部電極14がアルミニウム合金、上部電極17がMg−Ag合金によりそれぞれ構成されている場合、m=0では青色の有機EL素子10Bの有機層16の厚みは80nm程度となるが、m=1では190nm程度になるので短絡発生が抑えられる。
【0054】
更に、本実施の形態では上述したように上部電極17の厚みが2nm以上6nm以下と薄くされているので、視野角による輝度低下および色度変化をより低減することが可能となる。なぜなら、上部電極17の厚みを薄くすることにより、上部電極17の透過率が上昇するとともに反射率が低下し、発光層16Cからの発光のうち、上部電極17によって下部電極14側に反射される割合が減少することで共振器構造MC1が弱まり、半透過反射面P2から取り出される光の角度依存性が減少するからである。よって、例えば次数mが1またはそれ以上に高い条件においても、輝度および色度の視野角依存性を低減することができ、表示性能に優れた有機EL表示装置を得ることが可能となる。
【0055】
図4(A)は、共振器構造MC1を有する有機EL素子において、厚み2nmのCaよりなる中間層18および厚み4nmのMg−Ag合金よりなる上部電極17を設けた場合についてのスペクトルを表したものである。このスペクトルは、光学シミュレーションにより正面および斜方45°から見た結果を求めたものである。図4(B)は、中間層18を設けず、厚み8nmのMg−Ag合金よりなる上部電極17のみを設けた場合について、同様に光学シミュレーションにより求めたスペクトルを表したものである。図4(A)および図4(B)から分かるように、中間層18を設けた前者では、後者に比べて、スペクトルの半値幅が広く、ピーク強度も低くなり、共振器効果が緩和されているが、視野角による発光特性の変化は軽減されている。
【0056】
図3に示した保護層30は、窒化ケイ素(SiNx ),酸化ケイ素または金属酸化物などにより構成されている。図3に示した接着層40は、例えば熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂により構成されている。
【0057】
図3に示した封止用基板50は、有機EL素子10R,10G,10Bの上部電極17の側に位置しており、接着層40と共に有機EL素子10R,10G,10Bを封止するものであり、有機EL素子10R,10G,10Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板50には、例えば、カラーフィルタ51が設けられており、有機EL素子10R,10G,10Bで発生した光を取り出すと共に、有機EL素子10R,10G,10B並びにその間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。
【0058】
カラーフィルタ51は、封止用基板50のどちら側の面に設けられてもよいが、有機EL素子10R,10G,10Bの側に設けられることが好ましい。カラーフィルタ51が表面に露出せず、接着層40により保護することができるからである。また、発光層16Cとカラーフィルタ51との間の距離が狭くなることにより、発光層16Cから出射した光が隣接する他の色のカラーフィルタ51に入射して混色を生じることを避けることができるからである。カラーフィルタ51は、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、有機EL素子10R,10G,10Bに対応して順に配置されている。
【0059】
赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0060】
更に、カラーフィルタ51における透過率の高い波長範囲と、共振器構造MC1から取り出したい光のスペクトルのピーク波長λとは一致している。これにより、封止用基板50から入射する外光のうち、取り出したい光のスペクトルのピーク波長λに等しい波長を有するもののみがカラーフィルタ51を透過し、その他の波長の外光が有機EL素子10R,10G,10Bに侵入することが防止される。
【0061】
この表示装置は、例えば次のようにして製造することができる。
【0062】
まず、上述した材料よりなる基板11の上に駆動トランジスタTr1を含む画素駆動回路140を形成したのち、全面に感光性樹脂を塗布することにより平坦化絶縁膜13を形成し、露光および現像により平坦化絶縁膜13を所定の形状にパターニングすると共に接続孔13Aを形成し、焼成する。
【0063】
次いで、例えばスパッタ法により、上述した材料よりなる下部電極14を形成し、ウェットエッチングにより下部電極14を選択的に除去して各有機発光素子10R,10G,10Bごとに分離する。
【0064】
続いて、基板11の全面にわたり感光性樹脂を塗布し、例えばフォトリソグラフィ法により発光領域に対応して開口部を設け、焼成することにより、電極間絶縁膜15を形成する。
【0065】
そののち、例えば蒸着法により、上述した厚みおよび材料よりなる有機層16の正孔注入層16A,正孔輸送層16B,発光層16Cおよび電子輸送層16Dを形成する。
【0066】
有機層16を形成したのち、例えば蒸着法により、上述した厚みおよび材料よりなる中間層18および上部電極17の積層膜を成膜する。上部電極17の形成後においては、中間層18に含まれる金属元素の一部が上部電極17中に拡散して分布していてもよい。これにより、図3に示したような有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0067】
続いて、例えばCVD法またはスパッタ法により、有機EL素子10R,10G,10Bの上に上述した材料よりなる保護層30を形成する。
【0068】
また、例えば、上述した材料よりなる封止用基板50の上に、赤色フィルタの材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタと同様にして、青色フィルタおよび緑色フィルタを順次形成する。
【0069】
そののち、保護層30の上に、接着層40を形成し、この接着層40を間にして封止用基板50を貼り合わせる。その際、封止用基板50のカラーフィルタ51を形成した面を、有機EL素子10R,10G,10B側にして配置することが好ましい。以上により、図1ないし図3に示した表示装置が完成する。
【0070】
この表示装置では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、各有機発光素子10R,10G,10Bに駆動電流Idが注入されることにより、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下部電極14(反射面P1)と上部電極17(半透過反射面P2)との間で多重反射し、上部電極17,カラーフィルタ51および封止用基板50を透過して取り出される。
【0071】
ここでは、上部電極17と有機層16との間に、中間層18が上部電極17に接して設けられている。この中間層18は、上述のアルカリ金属などの金属元素の群のうちの1種を含むと共に0.1nm以上5nm以下の厚みを有している。よって、上部電極17と有機層16との直接接触によって上部電極17が変性し導電性が低下することが抑えられ、有機EL素子10R,10G,10Bが良好に駆動され、長期間にわたり良好な表示性能が得られる。また、上部電極17の厚みが薄いので、下部電極14と上部電極17との短絡による非発光欠陥の発生が抑えられる。
【0072】
更に、有機EL素子10R,10G,10Bが共振器構造MC1を有する場合には、上部電極17の厚みが薄くなることにより共振器構造MC1が弱まり、半透過反射面P2から取り出される光の角度依存性が減少する。よって、例えば次数mが1またはそれ以上に高く、輝度および色度の視野角依存性が顕著になりやすい条件においても、視野角による輝度および色度の変化が緩和される。
【0073】
このように本実施の形態の有機EL素子10R,10G,10Bでは、上部電極17と有機層16との間に、中間層18を上部電極17に接して設け、この中間層18を、アルカリ金属などの金属元素の群のうちの1種を含むと共に0.1nm以上5nm以下の厚みを有するようにしたので、上部電極17の変性による導電性低下を抑えると共に、上部電極17の厚みを2nm以上6nm以下と薄くすることが可能となる。よって、この有機EL素子10R,10G,10Bを用いて表示装置を構成すれば、上部電極17の導電性を保ち、有機EL素子10R,10G,10Bの良好な駆動が可能となると共に、非発光欠陥を低減することが可能となる。特に、共振器構造MC1を有し、発光層16Cで発生した光を下部電極14と上部電極17との間で共振させるようにした有機EL素子10R,10G,10Bに好適である。
【0074】
(変形例1)
図4は、変形例1に係る表示装置の有機EL素子10R,10G,10Bの断面構造を表したものである。この有機EL素子10R,10G,10Bは、中間層18の材料が上部電極17中に完全に拡散し、中間層18が上部電極17に一体化されていることを除いては、上記第1の実施の形態と同様に構成されている。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0075】
上部電極17は、厚みが2nm以上6nm以下であり、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),カルシウム(Ca)またはナトリウム(Na)を含む合金を主成分とし、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含んでいる。これにより、この表示装置では、上部電極17の導電性を保ちつつ、上部電極17の厚みを6nm以下に薄くすることが可能となっている。
【0076】
上部電極17の主成分である合金としては、第1の実施の形態の上部電極17と同様に、例えば、マグネシウムと銀との合金(Mg−Ag合金)またはアルミニウム(Al)とリチウム(Li)との合金(Al−Li合金)が好ましい。
【0077】
上部電極17に含まれる金属元素は、第1の実施の形態の中間層18と同様に、上部電極17が有機層16との接触により導電性を失うことを抑える変性防止機能を有している。この金属元素は、上部電極17を陰極として用いる場合には、電子注入性を有することが好ましい。このような材料としては、上述したように、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド金属等が候補として挙げられるが、適切な電子注入層16Eを設けることで、マグネシウムに比較して仕事関数の大きな金属も使用することもできる。これらの金属の例としては、アルミニウム、インジウム、スズ等の金属、ニッケル、銅、亜鉛等の遷移金属が挙げられる。
【0078】
具体的には、上部電極17に含まれる金属元素としては、第1の実施の形態の中間層18と同様に、カルシウムまたはアルミニウムが好ましい。
【0079】
上部電極17の厚みは、第1の実施の形態の上部電極17と同様に、2.5nm以上6nm以下であればより好ましい。
【0080】
ここで本明細書にいう「上部電極17の厚み」は、分光エリプソメトリーなどの光学的手法により求められたものである。また、「上部電極17の厚み」は、封止用基板50による封止後、組み立て後の製品になった状態で計測したものである。
【0081】
上部電極17のシート抵抗は、第1の実施の形態と同様に、例えば、10000Ω/□以下であることが好ましい。
【0082】
上部電極17に含まれる金属元素は、例えば、上部電極17中に拡散している。更に、上部電極17に含まれる金属元素は、電子輸送層16Dや電子注入層16Eとの接触により化学的に変化していてもよい。なお、このような上部電極17は、製造工程では第1の実施の形態と同様に中間層18と上部電極17との積層膜として形成されるものであるが、上部電極17の形成後において、中間層18の材料であった金属元素が上部電極17中に拡散して分布し、結果として中間層18と上部電極17とが一体となった電極層として構成されたものである。このため、断面分析を行っても、中間層18は層として検出されなくなっている。
【0083】
なお、本変形例では、共振器構造MC1の半透過反射面P2は、上部電極17と電子注入層16Eとの界面となる。
【0084】
この表示装置の製造方法は、上記第1の実施の形態と同様である。すなわち、中間層18および上部電極17は、第1の実施の形態と同様に積層膜として成膜する。その際、上部電極17の形成後において、中間層18の材料であった金属元素が上部電極17中に拡散し、結果として、上部電極17は、中間層18と上部電極17とが一体となった電極層として形成される。これにより、図5に示したような有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0085】
この表示装置では、各画素に対して第1の実施の形態で説明したと同じように駆動制御がなされ、表示が行われる。ここでは、上部電極17が、マグネシウム(Mg)などの合金を主成分とし、上述のアルカリ金属などの金属元素の群のうちの1種を含んでいるので、上部電極17の変性による導電性低下が抑えられ、有機EL素子10R,10G,10Bが良好に駆動され、長期間にわたり良好な表示性能が得られる。また、上部電極17の厚みが薄いので、下部電極14と上部電極17との短絡による非発光欠陥の発生が抑えられる。
【0086】
このように本変形例では、上部電極17が、マグネシウム(Mg)などの合金を主成分とし、上述のアルカリ金属などの金属元素の群のうちの1種を含むようにしたので、上部電極17の変性による導電性低下を抑えると共に、上部電極17の厚みを2nm以上6nm以下と薄くすることが可能となる。よって、この有機EL素子10R,10G,10Bを用いて表示装置を構成すれば、上部電極17の導電性を保ち、有機EL素子10R,10G,10Bの良好な駆動が可能となると共に、非発光欠陥を低減することが可能となる。特に、共振器構造MC1を有し、発光層16Cで発生した光を下部電極14と上部電極17との間で共振させるようにした有機EL素子10R,10G,10Bに好適である。
【0087】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子10R,10G,10Bの断面構成を表したものである。この有機EL素子10R,10G,10Bは、上部電極17と保護層30との間に共振調整層19を有していることを除いては、上記第1の実施の形態と同様に構成されている。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0088】
共振調整層19は、上部電極17上に誘電体ミラーの原理を用いた屈折率界面を設けることで共振器構造MC1の共振器効果を制御するためのものであり、保護層30の屈折率とは異なる屈折率を有している。すなわち、この有機EL素子10R,10G,10Bは、共振器構造MC2(第2の共振器構造MC2)を有し、この共振器構造MC2により、共振器構造MC1から取り出された光を共振調整層19および保護層30の界面と下部電極14との間で共振させるようになっている。共振器構造MC2は、下部電極14と有機層16との界面を反射面P1、共振調整層19と保護層30との界面を半透過反射面P3とし、有機層16,中間層18,上部電極17および共振調整層19を共振部として、共振器構造MC1から取り出された光を共振させて半透過反射面P3の側から取り出すものである。このように第2の共振器構造として共振器構造MC2を有するようにすれば、上部電極17の薄膜化により共振器構造MC1の共振器効果が弱まった場合に、共振器効果を制御することが可能となる。
【0089】
反射面P1と半透過反射面P3との間の光学的距離L2は数2を満たすようにすることが好ましい。
【0090】
(数2)
(2L2)/λ+Φ/(2π)=m
(式中、L2は反射面P1と半透過反射面P3との間の光学的距離、mは次数(0または自然数)、Φは反射面P1で生じる反射光の位相シフトΦ1 と半透過反射面P3で生じる反射光の位相シフトΦ3 との和(Φ=Φ1 +Φ3 )(rad)、λは半透過反射面P3の側から取り出したい光のスペクトルのピーク波長をそれぞれ表す。なお、数2においてL2およびλは単位が共通すればよいが、例えば(nm)を単位とする。)
【0091】
また、共振調整層19は、上部電極17の劣化を防止する保護膜としての機能も有している。すなわち、上部電極17を形成したのち、CVD法またはスパッタ法により上部電極17上に保護層30を直接積層すると、成膜時の反応性の導入ガス、酸素、高エネルギー粒子、チャンバーや移動環境中の酸素、水分等で上部電極17が変性し、電極としての機能を保つことができなくなる可能性がある。しかしながら、上部電極17を形成したのち、連続して真空蒸着法により共振調整層19を設けることにより、上部電極17を保護することが可能となる。
【0092】
共振調整層19の厚みは特に制限が無いが、上部電極17の変性を防ぐためには、例えば10nm以上であることが望ましい。また、共振器構造MC2の強度を調整するために適宜光学設計によって膜厚設定を調整することができる。ただし、共振調整層19はRGB共通で成膜することを前提としているので、3色ともに光取り出し効率が良好な屈折率、膜厚設定とすることが望ましい。共振調整層19の材料としては可視光の吸収が小さく、成膜時に上部電極17を変性させるおそれが小さいものが望ましく、共振器構造MC2の調整要求に応じた屈折率の材料を選ぶことができる。具体的な材料としては、フッ化リチウム(460nmにおける屈折率1.38)、臭化カリウム(屈折率1.58)、Alq3(屈折率1.84)、MoO3(屈折率2.22)、ZnSe(屈折率2.6)等をはじめとする真空蒸着可能な無機膜、有機膜が使用可能である。
【0093】
共振調整層19の屈折率は、保護層30の屈折率よりも小さいことが好ましい。理由は以下のとおりである。共振器構造MC2の半透過反射面P3は、共振調整層19と保護層30との界面の屈折率差によって形成されるので、この屈折率差を大きくすれば共振器効果が強まり、屈折率差を小さくすれば共振器効果は弱まる。屈折率差を大きくして共振器効果を強める場合には、共振調整層19の屈折率を、保護層30よりも小さくする場合と、保護層30よりも大きくする場合とが考えられる。保護層30よりも小さくすれば、反射面P1での位相シフトの結果、共振器構造MC2の次数mを、下部電極14と上部電極17とで構成されている共振器構造MC1の次数mと同じにすることができる。また、有機発光素子10R,10G,10Bの各発光層16Cの発光位置が下部電極14に最近接の共振位置にある場合には、共振調整層19を有機発光素子10R,10G,10Bに共通成膜しても有機発光素子10R,10G,10Bいずれも共振強度を強めることができる。
【0094】
共振器効果を強める必要が無い場合は、共振調整層19の屈折率を保護層30の屈折率に近い値とすることが可能である。例えば、保護層30がチッ化珪素(屈折率1.8から1.9)の場合、Alq3をはじめとする有機材料の屈折率は1.9程度であり、共振調整層19として好適である。また、その他の有機膜、無機膜でもよい。
【0095】
この表示装置は、上部電極17を形成したのちに、真空蒸着法により上述した材料よりなる共振調整層19を、上部電極17に連続して形成することを除いては、第1の実施の形態と同様にして製造することができる。
【0096】
この表示装置では、各画素に対して第1の実施の形態で説明したと同じように駆動制御がなされ、表示が行われる。ここでは、上部電極17と保護層30との間に共振調整層19が設けられ、共振器構造MC2が構成されているので、上部電極17の薄膜化により共振器構造MC1の共振器効果が弱まった場合にも、正面から取り出される光の強度が大きくなる。
【0097】
このように本実施の形態の有機EL素子10R,10G,10Bでは、上部電極17と保護層30との間に共振調整層19を設け、共振器構造MC2を構成するようにしたので、上部電極17の薄膜化により共振器構造MC1の共振器効果が弱まった場合に、共振器効果を制御することが可能となる。
【0098】
なお、本実施の形態においても、上部電極17は、図7に示したように、中間層18の材料であった金属元素が上部電極17中に拡散して分布し、結果として中間層18と上部電極17とが一体となった電極層として構成されていてもよい。
【0099】
(モジュールおよび適用例)
以下、上述した実施の形態で説明した表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0100】
(モジュール)
上記実施の形態の表示装置は、例えば、図8に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、封止用基板50および接着層40から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0101】
(適用例1)
図9は、上記実施の形態の表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0102】
(適用例2)
図10は、上記実施の形態の表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0103】
(適用例3)
図11は、上記実施の形態の表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0104】
(適用例4)
図12は、上記実施の形態の表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0105】
(適用例5)
図13は、上記実施の形態の表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記各実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【実施例】
【0106】
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0107】
(実施例1−1〜1−4)
上記第1の実施の形態の中間層18および上部電極17を作製した。その際、中間層18はカルシウム(Ca)により構成し、厚みを2.0nmとした。上部電極17はMg−Ag合金により構成し、厚みを表1に示したように異ならせた。なお、有機発光素子10R,10G,10Bの条件に合わせるために、中間層18の下地として、電子輸送材料の抵抗加熱による真空蒸着膜を20nm形成した。上部電極17は1x10-5Pa以下の高真空度において抵抗加熱による真空蒸着法により、0.1nm/secの蒸発速度で成膜した。マグネシウムと銀の共蒸着比率はMg:Ag=10:1とした。上部電極17上には、大気による変性を防ぐため、フッ化リチウム膜を真空蒸着により40nm形成し、そののち紫外線硬化樹脂で封止した。
【0108】
(比較例1−1,1−2)
中間層を設けないことを除いては、上記実施例1−1〜1−4と同様にしてMg−Ag合金よりなる上部電極を形成した。その際、上部電極の厚みを表1に示したように異ならせた。
【0109】
得られた実施例1−1〜1−4および比較例1−1,1−2の中間層または上部電極について、分光エリプソメトリーにより厚みを測定し、シート抵抗を調べた。その結果を表1に併せて示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1から分かるように、中間層を設けずに上部電極の厚みを薄くした比較例1−2では、厚い上部電極のみを設けた比較例1−1に比べてシート抵抗が極めて悪化した。これに対して、上部電極17の厚みを薄くすると共に中間層18を設けた実施例1−1〜1−4では、中間層を設けずに上部電極の厚みを薄くした比較例1−2に比べてシート抵抗が著しく改善され、厚い上部電極のみを設けた比較例1−1に近い結果が得られた。
【0112】
すなわち、上部電極17と有機層16との間に、カルシウム(Ca)よりなる中間層18を上部電極17に接して設けることにより、上部電極17の導電性を保ちつつ厚みを6nm以下に薄くすることが可能となることが分かった。
【0113】
(実施例2−1〜2−4)
表1に記載した中間層18および上部電極17を用いて、第1の実施の形態の有機EL素子を作製した。まず、25mm×25mmのガラス板からなる基板11上に、下部電極14としてアルミニウム−ネオジウム合金膜(膜厚150nm)を形成した。また、基板11上に、上部電極17とのコンタクトおよび電源線への接続部として、チタンからなるパッド部(図示せず)を設けた。
【0114】
次いで、下部電極14上に感光性有機絶縁材料を塗布し、下部電極14の中央部の2mm×2mmの発光領域に対応して開口を設けることにより、電極間絶縁膜15を形成した。
【0115】
続いて、開口を有する金属製マスクを用意し、この金属製マスクの開口を、下部電極14の発光領域に合わせた状態で基板11上に近接して配置した。そののち、1x10-5Pa以下の真空下での真空蒸着法により、正孔注入層16Aないし電子注入層16Eを順次形成し、有機層16を形成した。その際、正孔注入層16Aないし電子注入層16Eの厚みを調整することにより、反射面P1と半透過反射面P2との間の光学的距離L1が数1を満たすように調整し、共振器構造MC1を構成した。
【0116】
正孔注入層16Aは、化3に示したヘキサアザトリフェニレン誘導体を20nmの厚みで成膜した。正孔輸送層16Bは、α−NPDを25nmの厚みで成膜した。蒸着レートは0.1nm/秒とした。発光層16Cは、Alq3ホストに、緑色発光材料としてクマリン6を1%ドープした共蒸着膜を30nmの厚みで成膜した。蒸着レートは0.2nm/秒とした。電子輸送層16Dは、Alq3を175nmの厚みで成膜した。蒸着レートは0.2nm/秒とした。
【0117】
【化3】

【0118】
電子輸送層16Dを形成したのち、パッド部に対応した開口部を有する金属製マスクを用意し、この金属製マスクを基板11に近接して配置し、電子注入層16Eとしてフッ化リチウムを0.3nmの厚みで成膜した。続いて、実施例1−1〜1−4と同様にして中間層18および上部電極17を形成した。成膜条件は実施例1−1〜1−4と同一とした。
【0119】
【表2】

【0120】
そののち、上部電極17上に、共振調整層19としてAlq3を40nmの厚みで真空蒸着法により上部電極17に連続して成膜した。続いて、保護層30としてチッ化珪素膜をプラズマCVD法により1μmの厚みで成膜した。なお、本実施例では、共振調整層19を上部電極17の変性を抑えるための保護膜として用い、共振器構造MC2は構成しなかった。その後、紫外線硬化樹脂よりなる接着層40を用いて、ガラスよりなる封止用基板50を貼り合せた。
【0121】
(比較例2−1〜2−4)
中間層を設けないことを除いては、上記実施例2−1〜2−4と同様にして有機EL素子を形成した。その際、上部電極の厚みを表2に示したように異ならせた。
【0122】
得られた実施例2−1〜2−4および比較例2−1〜2−4の有機EL素子について、初期特性を測定した。その結果を表2に併せて示す。表2において、輝度比とは、45°斜方から測定した輝度の正面輝度に対する比である。
【0123】
表2から分かるように、上部電極17の厚みを2.5nm以上とした実施例2−1〜2−4では、正面効率,駆動電圧および輝度比のいずれも良好な結果が得られた。特に輝度比については、実施例2−1〜2−4のいずれも0.7以上となり、視野角特性が向上した。これは、上部電極17が薄膜化されたことにより共振器構造MC1の共振器効果が緩和されたことによるものと考えられる。また、実施例2−1〜2−4について連続点灯を行ったところ、いずれも異常なく点灯することが可能であった。
【0124】
なお、実施例2−1〜2−4の上部電極17の厚みは反射率測定により光学的に求めたが、光学的にはカルシウム(Ca)よりなる中間層18は金属膜として考慮する必要が無い結果であった。カルシウム(Ca)よりなる中間層18は、Alq3よりなる電子輸送層16Dや、LiFよりなる電子注入層16Eとの接触により化学的に変化している場合と、上部電極17中に拡散して分布している場合とがあると考えられる。
【0125】
一方、上部電極の厚みを5.0nmとした比較例2−1では、上部電極の抵抗が高く、通電不可能であった。上部電極の厚みを5.0以下とした場合も同様に通電不可能であった。上部電極の厚みを6.0nmまたは7.0nmとした比較例2−2,2−3においては初期の通電は可能であったが、連続点灯したところ急激に駆動電圧の上昇が起き、劣化が激しかった。初期、連続駆動ともに安定した駆動が可能であったのは、上部電極の厚みを9.0nmとした比較例2−4のみであり、中間層を設けない場合には金属膜の厚みを少なくとも9.0nmとする必要があることが分かった。また、比較例2−1〜2−4のいずれも、輝度比は0.70以下となり、視野角に対する発光特性の変化が大きかった。
【0126】
更に、実施例2−2〜2−4を比較すると、上部電極17の厚みが薄くなるほど、正面効率は低下する一方、輝度比は高くなる傾向が見られた。これは、上部電極17の厚みが薄くなることにより共振器構造MC1の共振器効果が弱まったからであると考えられる。
【0127】
すなわち、上部電極17と有機層16との間に、カルシウム(Ca)よりなる中間層18を上部電極17に接して設けるようにすれば、上部電極17の厚みを6nm以下に薄くしても導電性が保たれ、長期間にわたり有機EL素子の良好な駆動が可能となることが分かった。
【0128】
(比較例2−5)
上部電極を、Mg−Ag合金に替えて、銀(Ag)とし、厚みを7nmとした以外は実施例2−1〜2−4と同様に有機EL素子を作製した。その際、中間層は、実施例2−1〜2−4と同様に形成した。得られた有機EL素子について、上部電極の反射スペクトルを調べたところ、単体の銀(Ag)から想定されるものとは大きく異なっていた。また、この有機EL素子を点灯させようとしたところ、通電不可能であった。これは、銀(Ag)の薄膜においては膜質が安定しないからであると考えられる。
【0129】
(比較例2−6)
上部電極を、Mg−Ag合金に替えて、アルミニウム(Al)とし、厚みを7nmとした以外は実施例2−1〜2−4と同様に有機EL素子を作製した。その際、中間層は、実施例2−1〜2−4と同様に形成した。得られた有機EL素子を点灯させようとしたところ、通電不可能であった。
【0130】
すなわち、上部電極17をMg−Ag合金により構成すれば、有機EL素子の良好な駆動が可能となることが分かった。
【0131】
(実施例3−1〜3−4)
上部電極17の厚みは5.0nmとし、中間層18の厚みは表3に示したように異ならせたこと以外は実施例2−1〜2−4と同様に有機EL素子を作製した。なお、実施例3−3は、実施例2−4と同一のものである。得られた有機EL素子について、初期特性を調べた。その結果を表3に併せて示す。
【0132】
【表3】

【0133】
表3から分かるように、中間層18の厚みによらず、正面効率、駆動電圧および輝度比のいずれも良好な結果が得られた。特に輝度比は実施例3−1〜3−4のいずれも0.70以上を確保しており、良好であった。更に、一定電流で駆動した際の輝度劣化特性を調べたところ、Mg−Ag合金よりなる金属膜の厚みを10nmとした比較例1−1とほぼ同等であった。
【0134】
すなわち、中間層18の厚みを0.5nm以上4nm以下とすれば、有機EL素子の良好な駆動が可能となることが分かった。
【0135】
(実施例4)
共振調整層19としてフッ化リチウムを20nmの厚みで形成すると共に、有機層の厚みを調整して、反射面P1と半透過反射面P3との間の光学的距離L2が数2を満たすように調整し、共振器構造MC2を構成した。その際、共振器構造MC2における半透過反射面P3での位相シフトΦ3は、共振器構造MC1における半透過反射面P2での位相シフトΦ2とは異なるので、光学的距離L1,L2は異なるが、次数mは同じになった。その他は実施例2−4と同様に有機EL素子を作製した。
【0136】
得られた有機EL素子について、正面での取り出し強度を調べたところ、実施例2−4よりも6%向上した。
【0137】
すなわち、上部電極17と保護層30との間に共振調整層19を設けて、共振器構造MC2を構成すれば、上部電極17の薄膜化により共振器構造MC1の共振器効果が弱まった場合に、共振器効果を制御することが可能となることが分かった。
【0138】
(実施例5)
実施例2−4と同様に、中間層18をカルシウム(Ca)(厚み2nm)、上部電極17をMg−Ag合金(厚み5nm)として、画素数960x540のアクティブマトリックス有機EL表示装置を作製した。
【0139】
(比較例5)
中間層を設けず、上部電極をMg−Ag合金(厚み8nm)として、画素数960x540のアクティブマトリックス有機EL表示装置を作製した。
【0140】
得られた実施例5および比較例5の有機EL表示装置について、1パネルあたりの非発光欠陥の平均個数を調べたところ、実施例5では比較例5の25分の1(1/25)と、極めて少なくすることができた。これは、実施例5では上部電極17が薄いので、製造工程において下部電極14上の異物周辺に上部電極17が回り込んでしまうことによる下部電極14と上部電極17とのリークパス形成が抑制されたからであると考えられる。
【0141】
すなわち、上部電極17と有機層16との間に、中間層18を上部電極17に接して設けた有機EL素子を用いて表示装置を構成すれば、上部電極17の厚みを薄くし、非発光欠陥の低減が可能となることが分かった。
【0142】
(実施例6)
中間層18をアルミニウム(Al)(厚み1nm)、上部電極17をMg−Ag合金(厚み5nm)としたこと以外は実施例2−1〜2−4と同様に有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について初期特性を調べた。得られた結果を表4に示す。
【0143】
【表4】

【0144】
表4から分かるように、中間層18として、カルシウム(Ca)に替えてアルミニウム(Al)を用いた場合にも良好な発光が得られた。更に、一定電流で駆動した際の輝度劣化特性を調べたところ、実施例2−4と同等であった。
【0145】
すなわち、上部電極17と有機層16との間に、アルミニウム(Al)よりなる中間層18を上部電極17に接して設けるようにすれば、上部電極17の厚みを6nm以下に薄くしても導電性が保たれ、長期間にわたり有機EL素子の良好な駆動が可能となることが分かった。
【0146】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記第2の実施の形態および実施例では、共振調整層19を上部電極17と保護層30との間に設け、共振調整層19と保護層30との界面を半透過反射面P3とした場合について説明したが、共振調整層19は、他の位置に設けられていてもよい。例えば、保護層30を設けない場合には、共振調整層19は、上部電極17と接着層40との間に設けることが可能である。また、共振調整層19は保護層30と接着層40との間に設けられていてもよい。
【0147】
また、例えば、上記実施の形態および実施例において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0148】
更に、例えば、上記実施の形態および実施例においては、基板11の上に、下部電極14,有機層16および上部電極17を基板11の側から順で積層し、封止用基板50の側から光を取り出すようにした場合について説明したが、積層順序を逆にして、基板11の上に、上部電極17,有機層16および下部電極14を基板11の側から順に積層し、基板11の側から光を取り出すようにすることもできる。
【0149】
加えて、例えば、上記実施の形態および実施例では、下部電極14を陽極、上部電極17を陰極とする場合について説明したが、陽極および陰極を逆にして、下部電極14を陰極、上部電極17を陽極としてもよい。さらに、下部電極14を陰極、上部電極17を陽極とすると共に、基板11の上に、上部電極17,有機層16および下部電極14を基板11の側から順に積層し、基板11の側から光を取り出すようにすることもできる。
【0150】
更にまた、上記実施の形態および実施例では、有機発光素子10R,10G,10Bの構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。
【0151】
加えてまた、上記実施の形態および実施例では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。加えてまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態および実施例で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【符号の説明】
【0152】
10R,10G,10B…有機EL素子、11…基板、12…平坦化絶縁膜、14…下部電極、15…電極間絶縁膜、16…有機層、16A…正孔注入層、16B…正孔輸送層、16C…発光層、16D…電子輸送層、16E…電子注入層、17…上部電極、18…中間層、19…共振調整層、30…保護層、40…接着層、50…封止用基板、51…カラーフィルタ、P1…反射面、P2,P3…半透過反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と、
アルミニウム,マグネシウム,カルシウムまたはナトリウムを含む合金により構成されると共に2nm以上6nm以下の厚みを有する上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極の間に設けられた、発光層を含む有機層と、
前記上部電極と前記有機層との間に前記上部電極に接して設けられ、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含むと共に0.1nm以上5nm以下の厚みを有する中間層と
を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記上部電極はマグネシウムと銀との合金により構成されている
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記中間層および前記上部電極よりなる膜のシート抵抗が10000Ω/□以下である
請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記中間層は電子注入性材料により構成されている
請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記中間層はカルシウムを含む
請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記中間層はアルミニウムを含む
請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記中間層に含まれる金属元素が、前記上部電極内に分布している
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層で発生した光を前記下部電極と前記上部電極との間で共振させる第1の共振器構造を有する
請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記上部電極上に設けられた保護層と、
前記上部電極と前記保護層との間に設けられ、前記保護層の屈折率とは異なる屈折率を有する共振調整層と
を備え、
前記第1の共振器構造から取り出された光を前記共振調整層および前記保護層の界面と前記第1電極との間で共振させる第2の共振器構造を有する
請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記共振調整層の屈折率が前記保護層の屈折率よりも小さい
請求項9記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
下部電極と、
マグネシウム,アルミニウム,カルシウムまたはナトリウムを含む合金を主成分とし、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含むと共に2nm以上6nm以下の厚みを有する上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極の間に設けられた、発光層を含む有機層と
を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記金属元素が、前記上部電極内に拡散している
請求項11記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、
下部電極と、
アルミニウム,マグネシウム,カルシウムまたはナトリウムを含む合金により構成されると共に2nm以上6nm以下の厚みを有する上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極の間に設けられた、発光層を含む有機層と、
前記上部電極と前記有機層との間に前記上部電極に接して設けられ、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含むと共に0.1nm以上5nm以下の厚みを有する中間層と
を備えた表示装置。
【請求項14】
白色発光時において、正面から測定した分光放射輝度に対して45度斜方から測定した分光放射輝度比が0.7以上である
請求項13記載の表示装置。
【請求項15】
有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、
下部電極と、
アルミニウム,マグネシウム,カルシウムまたはナトリウムを含む合金を主成分とし、アルカリ金属,アルカリ土類金属,ランタノイド金属,アルミニウム,インジウム,スズ,ニッケル,銅および亜鉛からなる金属元素の群のうちの1種を含むと共に2nm以上6nm以下の厚みを有する上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極の間に設けられた、発光層を含む有機層と
を備えた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−8958(P2011−8958A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148888(P2009−148888)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】