説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】容易に製造することができ、且つ発光特性および寿命特性が良好な有機EL素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】支持基板と、封止基板と、陽極と、陰極と、陽極および陰極間に配置された有機発光層と、陽極および有機発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層とを含む積層体と、を備え、積層体は、支持基板上に搭載され、支持基板および封止基板に囲繞されて外界から遮断されており、支持基板の少なくとも一方の主面、または、封止基板の少なくとも一方の主面に、放熱層が備えられ、該放熱層の熱放射率が0.70以上である、有機エレクトロルミネッセンス素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、本明細書において「有機EL素子」ということがある)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一般に、陽極、陰極およびこれらに挟まれた有機発光層を有する。有機発光層は電圧が印加されて発光する有機化合物で形成される。電力が供給されて有機EL素子が発光する際、供給される電力の一部が熱エネルギーに変換され、有機EL素子がジュール熱などにより発熱してしまうことがある。有機EL素子の発熱は、輝度などの発光特性の低下や、有機EL素子自体の劣化を招く場合があると言われている。有機EL素子の温度が高くなるほど、有機EL素子の劣化を引き起こしやすく、素子寿命が短くなる傾向がある。特に、実用化が望まれている有機EL素子を用いる照明装置などの場合、高輝度で駆動させる必要があり、発熱量が多くなるので、装置に生じた熱をいかに装置外に放出するかという点が重要な課題となっている。そのため、有機EL素子に生じた熱を素子外に放熱する方策が種々検討されている。
【0003】
放熱性を改善する手法として、一部の部材に熱伝導性の高い材料を採用することが提案されている(例えば、特許文献1など)。また、有機EL素子の内部構造中の一部に放熱膜を設けることが提案されている(例えば、特許文献2など)。
【0004】
また有機EL素子は、電子注入層または正孔注入層等をさらに有する場合がある。発光効率などの向上や、歩留まり向上などの目的のために、有機EL素子を構成する各層についての様々な検討が行われている。この検討の一つとして、電子注入層または正孔注入層等の層に金属酸化物を用いることが検討されている。例えば特許文献3には、高効率な電子注入層として、発光層と電子注入電極との間に酸化モリブデン等の無機酸化物層を設けることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−186045号公報
【特許文献2】特開2006−244847号公報
【特許文献3】特開2002−367784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL素子の内部構造の一部、例えば発光層の側面または各素子を区画する隔壁部などに熱放射層を設けても、発光層を含む積層体部との接触面積が小さく、これだけでは熱の伝達効果が十分ではない。
【0007】
一対の電極(陽極と陰極)およびこれらの間に設けられる有機発光層などにより構成される積層体は、基板上に各層を積層させて形成される。基板としてはガラスが汎用されているが、一般にガラスの熱伝導率は、1W/m・Kと低いために、発生した熱は積層体が搭載されるガラスの一方の主面から他方の主面まで伝導しにくい。また、ガラスは熱が均一に拡散しにくいため、ガラス基板内で熱分布の偏りを生じ、有機EL素子やこれを実装する装置において、輝度、経時変化などの特性に場所によるバラツキが生じてしまう場合がある。そこで、ガラス表面の温度分布の均一化(均熱化)を目的として、ガラス表面に熱伝導率の高い板を張り付けるなどして熱対策をとることを本発明者らは考えた。
【0008】
しかし、熱伝導性の高いシートを張り付けることにより、ガラス基板が保有する熱を拡散させ、ガラス基板の表面温度分布を均熱化し、一部のみが著しく高い温度となってその部分の劣化が早まることを防止することは可能であったが、そもそも素子自体から熱を外界に逃がすという点に関しては、さらに改善することが求められた。
【0009】
また、有機EL素子の性能を向上させるためには、種々の機能を有する複数の層を積層させることが必要である。高分子化合物を含む層を積層する場合は、製造コストの観点から、通常、所謂ウェットプロセスが用いられる。即ち、溶媒中に当該高分子化合物を溶解してなる溶液を塗布する工程を行うことになる。構成層の1つとして、酸化モリブデン層を設ける場合があるが、酸化モリブデン層はウェットプロセスに対して耐久性が低い。そのため酸化モリブデン層上に高分子化合物を含む層をウェットプロセスで形成することが困難であり、且つ得られる有機EL素子の発光特性および寿命特性を向上させ難いという問題がある。
【0010】
以上のような状況の下、本発明は、容易に製造することができ、且つ発光特性および寿命特性が良好な有機EL素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、下記構成を有する有機EL素子およびこれを実装する装置を提供する。
〔1〕陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極間に配置された有機発光層と、前記陽極および前記有機発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層とを含む積層体と、
該積層体が搭載される支持基板と、
該支持基板とともに前記積層体を囲繞する封止基板と、
前記支持基板の少なくとも一方の主面、または、前記封止基板の少なくとも一方の主面に設けられ、かつ高熱放射性を有する放熱層と、
を備え、
該放熱層の熱放射率が0.70以上である、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔2〕前記放熱層の熱放射率が0.85以上である、上記〔1〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔3〕前記放熱層の熱伝導率が1W/mK以上である、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔4〕前記放熱層の熱伝導率が200W/mK以上である、上記〔3〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔5〕前記放熱層が、黒色系材料を含む、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔6〕前記放熱層が、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層構造を有する、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔7〕前記高熱伝導性層が、アルミニウム、銅、銀、セラミックス材料、およびこれらから選ばれる2種以上の合金からなる群より選ばれる無機材料、または高熱伝導性の樹脂で形成されてなる、上記〔6〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔8〕前記支持基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に、前記放熱層が設けられる、上記〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔9〕前記ガラス基板の前記積層体が搭載される主面とは反対側の主面に、前記放熱層が設けられる、上記〔8〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔10〕前記ガラス基板の両主面に、前記放熱層が設けられる、上記〔8〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔11〕前記ガラス基板の前記積層体が搭載される主面とは反対側の主面に前記放熱層が設けられ、かつ、前記ガラス基板の前記積層体側の主面に高熱伝導性層が設けられる、上記〔8〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔12〕前記封止基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に、前記放熱層が設けられる、上記〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔13〕前記金属ドープモリブデン酸化物層が正孔注入層である、上記〔1〕から〔12〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔14〕前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が50%以上である、上記〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔15〕前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表第13族金属およびこれらの混合物からなる群より選択される、上記〔1〕から〔14〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔16〕前記金属ドープモリブデン酸化物層中に含まれるドーパント金属がアルミニウムである、上記〔1〕から〔15〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔17〕前記金属ドープモリブデン酸化物層中に含まれるドーパント金属の含有割合が、0.1〜20.0mol%である、上記〔1〕から〔16〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔18〕前記金属ドープモリブデン酸化物層上に高分子化合物を含む層を有する、上記〔1〕から〔17〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔19〕上記〔1〕から〔18〕のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された表示装置。
〔20〕上記〔1〕から〔18〕のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された照明装置。
〔21〕上記〔1〕から〔18〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
陽極、正孔注入層および正孔輸送層からなる群から選ばれるいずれかの層上に、酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積し、金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程を含む製造方法。
〔22〕前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程を、真空蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングにより行う、上記〔21〕に記載の製造方法。
〔23〕前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程において、雰囲気中に酸素を導入する、上記〔21〕または〔22〕に記載の製造方法。
〔24〕前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程に続いて、前記金属ドープモリブデン酸化物層を加熱する工程をさらに含む、上記〔21〕から〔23〕のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡便な構造で、放熱性に優れた有機EL素子および装置とすることができ、寿命特性の良好な有機EL素子とすることができる。また、本発明の有機EL素子は、無機酸化物層およびさらにその上に積層される層を容易且つ高品質に設けることが可能であるため、容易に製造することができ、且つ発光特性および寿命特性が良好である。本発明の有機EL素子を搭載する装置は、バックライトとしての面状光源、フラットパネルディスプレイ等の装置として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、これらは本発明の説明のためには直接的に必要ではないために記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては各層に対して基板を下側に配置した図と共に説明を行うが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの上下左右の向きに配置されて、製造または使用等がなされるわけではない。
【0014】
1.有機EL素子
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態およびその変形例について図1を参照しつつ説明する。図1に、第1の実施形態の有機EL素子1(以下、「第1の実施形態の素子」という)の断面図を示す。第1の実施形態の素子は、支持基板10と、有機発光層23を含む積層体20と、封止基板30と、放熱層60とを含んで構成される。積層体20は、支持基板10上に搭載されている。封止基板30は、支持基板10とともに積層体20を囲繞し、接着部40によって支持基板10に接着されている。このようにして積層体20は、支持基板10と封止基板30とにより外界から遮断されている。支持基板10の外側の主面、すなわち、積層体20が形成される側とは反対の主面に、高熱放射性を有する放熱層60が設けられている。
【0015】
図1に示す有機EL素子1は、熱放射機構を設けることにより、熱を支持基板10から外界へと熱をより積極的に逃がしている。そのため、単に熱伝導性の高い材料で層を形成するよりもより積極的に熱を外界へ逃がしており、素子の温度上昇を抑制する効果が大きい。また、支持基板に付属して設ける構成を採用しているので、有機EL素子1の内部構造、例えば、有機発光層23を含む積層体20や積層体20を区画する隔壁(不図示)などの構造設計を複雑化する必要がなく、簡素な構造の素子とすることができる。
【0016】
<基板>
有機EL素子1を構成する基板として、支持基板10と封止基板30がある。支持基板10は、その一方の主面に積層体20が搭載される。封止基板30は支持基板10上の積層体20を覆い、素子を封止する。各基板を構成する材料としては、電極等を形成し、有機物の層を形成する際に変性しないものであればよく、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン板、金属板、これらを積層したものなどが用い得る。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。また、基板は、市販のものが使用可能であり、あるいは、公知の方法によって製造することもできる。支持基板10の形状は、積層体20を搭載できる領域がある平面状の形状であることが好適である。また、封止基板30の形状は、支持基板10と貼り合わせて、積層体20を封止できるものであればよく、図1に示すように平板状であってもよいし、例えば周縁部を残してザグリが形成された基板を用いてもよい(不図示)。ザグリが形成された基板とは、概略板状の基板であって、周縁部に枠体が一体に形成されており、枠体を除く部分に凹みが形成された基板であり、この凹みに積層体20が収容される。図1に示す例では、封止基板30と積層体20との間は空隙となっているが、この空隙に樹脂などの充填材を設けてもよい。
【0017】
有機EL素子1において基板を構成する材料となり得るものとしては、上記のような材料が挙げられるが、取り扱いの容易さなどの観点からは、ガラスが好適である。その反面、ガラスは、熱放射性が低い材料である。本発明は放熱性の向上が図れるため、ガラスなどの熱放射性が低い材料を基板として用いる場合に好適に適用され得る。
【0018】
<放熱層>
放熱層60は、高い熱放射性を発揮する層である。本明細書において、熱放射とは、物体から熱エネルギーが電磁波として放出される現象、あるいはその電磁波のことをいう(岩波理化学辞典、岩波書店、1998年、第5版)。放熱層60の熱放射率は、0.70以上であり、好ましくは0.85以上が挙げられる。熱を逃がすという観点から、熱放射率の上限は特に規定するに及ばない。熱放射率とは、ある温度の物質の表面から放射されるエネルギー量と、前記ある温度と同温度の黒体(放射で与えられたエネルギーを100%吸収する仮想物質)から放射されるエネルギー量の比率のことをいう。熱放射率は、フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)に従って測定することができる。熱放射性の高い材料としては、黒色系材料が挙げられ、黒色塗料の顔料成分などを好適に用い得る。例えば、カーボン材料とプラスチック材料との混合材料(カーボンプラスチック)、所定の金属元素などをドーピングしたTiO、チタニアと所定の金属微粒子とが分散したコロイド、Feなどが例示される。
【0019】
放熱層60の熱伝導率は、1W/mK以上が好ましく、より好ましくは10W/mK以上であり、さらに好ましくは200W/mKである。熱を逃がすという観点から、熱伝導率の上限は特に規定するに及ばない。熱伝導率は、物体内部の等温面の単位面積を通って単位時間に垂直に流れる熱量と、この方向における温度勾配との比のことをいう(岩波理化学事典、同上)。熱伝導率は、例えば、ASTM D5470(American Society For Testing and D5470)の方法により測定することができる。熱伝導性の高い材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、セラミック材料、および高熱伝導性の樹脂などが挙げられる。高熱伝導性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0020】
放熱層60は、熱放射性が高い材料であるのみならず、熱伝導性も高い材料で形成されることが好ましい。本明細書において、熱伝導とは、物質の移動や放射によるエネルギー輸送なしに熱が物体の高温部から低温部に移る現象をいう(岩波理化学辞典、岩波書店、1998年、第5版)。
【0021】
放熱層60は、単層で形成されてもよいし、2つ以上の複数の層を有する積層構造を有していてもよい。単層とする場合には、例えば、樹脂材料中に高熱伝導性の微粒子を分散させると共に、黒色系の顔料を混合し、この樹脂材料を基板に塗布して層を形成するなどの形態が挙げられる。
【0022】
また、複数の層を含む放熱層60としては、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層体として形成し得る。このような積層体は、例えば、高熱伝導性を示す材料から成る高熱伝導性シート(高熱伝導層)の一面または両面に、黒色系の顔料を含む塗料を塗布することにより、高熱伝導性シート上に高熱放射性材料から成る被膜(黒色系材料層)を形成させた複合シートを挙げることができる。このような複合シートを基板に貼り合わせてもよい。また、複数の層を含む放熱層60の他の形態として、高熱伝導性シートと、高熱放射性シートとを貼り合わせた複合シートを挙げることができる。複数の層を含む放熱層60は、黒色系材料層などの高熱放射性を示す高熱放射性層および高熱伝導性層がそれぞれ複数層積層されて構成されていてもよい。
【0023】
シート状の放熱層60は、接着剤を介在させて基板に貼り付けてもよい。該接着剤としては、アクリル系接着剤やエポキシ系接着剤などの熱伝導性の高いものが好適に用いられる。また、ガラス基板の場合、ガラスとの接着性にも優れる点で、アクリル系接着剤などの接着剤を好適に用い得る。
【0024】
<有機発光層を含む積層体>
有機発光層23を含む積層体20としては、一般に有機EL素子として構成され得る様々な形態を採用し得る。以下に、有機発光層23を含む積層体20として用い得る積層体20の層構造およびその形成方法等の実施形態について説明する。
【0025】
支持基板に搭載される積層体20は、陽極21、金属ドープモリブデン酸化物層22、有機発光層23および陰極24を少なくとも有する。
【0026】
陽極21と有機発光層23の間に設けられる金属ドープモリブデン酸化物層22は、モリブデン酸化物およびドーパント金属を含むものであり、好ましくはモリブデン酸化物およびドーパント金属から実質的になる。より具体的には、金属ドープモリブデン酸化物層22を単層で成膜した場合、層を構成する物質全量における、モリブデン酸化物およびドーパント金属の合計が占める割合が、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上とすることができる。
【0027】
金属ドープモリブデン酸化物層22は、好ましくは正孔注入層であるか、または前記発光層若しくは正孔注入層に直接接して設けられる。より具体的には:
(i)陽極21および正孔輸送層に接して設けられる
(ii)陽極21および電子ブロック層に接して設けられる
(iii)正孔注入層および有機発光層23に接して設けられる
(iv)正孔注入層および電子ブロック層に接して設けられる
(v)陽極21および有機発光層23に接して設けられる
のいずれかであることが好ましい。
【0028】
また、素子特性の観点からは、金属ドープモリブデン酸化物層22上には高分子化合物を含む層を好適に積層させることができる。ここで、「金属ドープモリブデン酸化物層『上』に高分子化合物を含む層を有する」とは、ある層の上に金属ドープモリブデン酸化物層22を設け、さらにその上に高分子化合物を含む層を設けた位置関係になることをいう。例えば、陽極21上に金属ドープモリブデン酸化物層22を設けた場合は、陽極−金属ドープモリブデン酸化物層−高分子化合物を含む層、という位置関係となるよう、高分子化合物を含む層を有することを意味する。高分子化合物を含む層はインクジェット法などのウェットプロセスによって簡便に設けられる場合が多い。そのため、インクジェット法は高分子化合物を含む層の形成に汎用されている。金属ドーパントモリブデン酸化物層は、ウェットプロセスに対する耐性が高く、したがって、このような特性を有する金属ドーパントモリブデン酸化物層形成後、さらにその上に積層させる層をウェットプロセスで設けても、金属ドーパントモリブデン酸化物層に対しダメージを与えにくい。これによって信頼性が高く、素子寿命の長い有機EL素子を実現することができる。
【0029】
前記金属ドープモリブデン酸化物層22の可視光透過率は、50%以上であることが好ましい。50%以上の可視光透過率を有することにより、金属ドープモリブデン酸化物層22を透過して外部に光が取出される形式の有機EL素子1に好適に用いることができる。
【0030】
金属ドープモリブデン酸化物層22に含まれるドーパント金属は、好ましくは遷移金属、周期表第13族金属またはこれらの混合物であり、より好ましくはアルミニウム、ニッケル、銅、クロム、チタン、銀、ガリウム、亜鉛、ネオジム、ユーロピウム、ホルミウム、セリウムであり、さらに好ましくはアルミニウムである。他方、モリブデン酸化物としてはMoOを採用することが好ましい。MoOを真空蒸着等の蒸着法により成膜する場合、蒸着された膜においてMoとOの組成比が保たれない場合もありうるが、その場合でも本発明に好ましく用いることができる。
【0031】
金属ドープモリブデン酸化物層22中におけるモリブデン酸化物に対するドーパント金属の含有割合は、0.1〜20.0mol%であることが好ましい。ドーパント金属の含有割合が上記範囲内であることにより、良好な耐プロセス性を得ることができる。
【0032】
金属ドープモリブデン酸化物層22の厚さは、特に限定されないが10〜1000Åであることが好ましい。
【0033】
金属ドープモリブデン酸化物層22を成膜する方法は特に限定されないが、素子を構成する他の層上に、酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積し、金属ドープモリブデン酸化物層22を得る方法を好ましい方法として例示することができる。ここで、素子を構成する他の層は、有機EL素子1を構成するいずれの層でもよく、製造工程および得られる有機EL素子1の積層構造に応じて適宜選択することができる。例えば、基板上に設けられた陽極21または陰極24の層上に堆積を行ない、電極に直接接した金属ドープモリブデン酸化物層22を得ることができる。または、基板10上に電極を設けた後、電極上に、有機発光層、電荷注入層、電荷輸送層または電荷ブロック層といった他の層を1層以上設け、さらにその上に堆積を行い、当該層に直接接した金属ドープモリブデン酸化物層22を得ることができる。堆積は、真空蒸着、分子線蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティング、イオンビーム蒸着等により行うことができる。成膜チャンバー内にプラズマを導入することによって、反応性や成膜性を向上させたプラズマアシスト真空蒸着法なども用いることができる。真空蒸着法の蒸発源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱などが上げられる。より簡便な方法として、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱が好ましい。スパッタ法にはDCスパッタ法、RFスパッタ法、ECRスパッタ法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法などがありいずれの方式も用いることができる。下層にダメージを与えないためにもマグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法を用いることが好ましい。なお、成膜時において、雰囲気中に酸素や酸素元素を含むガスを導入して蒸着を行うこともできる。また、金属ドープモリブデン酸化物層を堆積する際の材料には、通常MoOやドーパント金属単体を用いるが、モリブデン単体、MoOやドーパント金属の酸化物、ドーパント金属とモリブデンとの合金、あるいはこれらの混合物などを用いることができる。
【0034】
上記のようにして各成分を堆積して形成された層は、そのまま完成した金属ドープモリブデン酸化物層22となり得る。さらに、上記のようにして各成分を堆積して形成された層に対し、任意に、加熱、UV−O処理、大気曝露等の他の工程に供してもよい。
金属ドープモリブデン酸化物層22を形成した後、、有機EL素子を構成するさらに他の層を積層させて、有機EL素子を完成することができる。
【0035】
前記加熱は、50〜350℃で1〜120分間の条件で行うことができる。前記UV−O処理は、紫外線を1〜100mW/cmの強度で5秒〜30分間照射し、オゾン濃度0.001〜99%の雰囲気下で処理することにより行うことができる。前記大気曝露は、湿度40〜95%、温度20〜50℃の大気中に、1〜20日間放置することにより行うことができる。
【0036】
金属ドープモリブデン酸化物層22を設けた後にフォトリソグラフ法などのウェットプロセスを含む方法で部材を設ける場合、金属ドープモリブデン酸化物層22はウェットプロセスに対する耐性が強いため、金属ドープモリブデン酸化物層を設ける以前に先に設けられた部材を浸食などの弊害から保護することができる。
【0037】
さらに積層体20は、陽極21、金属ドープモリブデン酸化物層22、有機発光層23および陰極24の各層の間に、さらに他の層を設けてもよい。また陽極21と陰極24との間には、一層の有機発光層23に限らずに、複数の有機発光層23、または有機材料以外の材料で形成された他の発光層が配置されてもよい。
【0038】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0039】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0040】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0041】
陽極と発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。陽極と発光層との間に、一層のみが設けられる場合には、該層を正孔注入層という。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0042】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0043】
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0044】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層と言う場合があり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層と言う場合がある。
【0045】
本実施の形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
h)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0046】
本実施の形態の有機EL素子1は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機EL素子としては、上記a)〜(h)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「繰り返し単位A」とすると、以下のi)に示す層構成を挙げることができる。
i)陽極/(繰り返し単位A)/電荷注入層/(繰り返し単位A)/陰極
【0047】
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、「(繰り返し単位A)/電荷注入層」を「繰り返し単位B」とすると、以下のj)に示す層構成を挙げることができる。
j)陽極/(繰り返し単位B)n/(繰り返し単位A)/陰極
【0048】
なお記号「n」は、2以上の整数を表し、(繰り返し単位B)nは、繰り返し単位Bがn段積層された積層体を表す。
上記層構成i)およびj)において、陽極、電極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて削除することができる。
【0049】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0050】
有機EL素子を基板に設ける場合は、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0051】
本実施の形態の有機EL素子1は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0052】
有機EL素子は、発光層からの光を放出するために、通常、発光層のいずれか一方側の層を全て光が透過可能なものとする。具体的には例えば、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極/封止部材という構成を有する有機EL素子の場合、陽極、正孔注入層および正孔輸送層の全てを光が透過可能なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、または電子輸送層、電子注入層、陰極および封止部材の全てを光が透過可能なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。また、陰極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極/封止部材という構成を有する有機EL素子の場合、陰極、電子注入層および電子輸送層の全てを光が透過可能なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、または正孔輸送層、正孔注入層、陽極および封止部材の全てを光が透過可能なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。ここで光が透過可能なものとしては、発光層から光を放出する層までの可視光透過率が30%以上のものが好ましい。紫外領域または赤外領域の発光が求められる素子の場合は、当該領域において30%以上の透過率を有するものが好ましい。
【0053】
有機EL素子1は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷注入層、電荷輸送層、および発光層のうちの少なくとも一層の直上に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0054】
積層する層の順番や数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができる。
【0055】
次に、有機EL素子を構成する各層の材料および形成方法について、より具体的に説明する。
<陽極>
有機EL素子の陽極としては、光を透過可能な透明電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成し得るため好ましい。かかる透明電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜であって、透過率の高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)から成る薄膜や、金、白金、銀、銅、アルミニウム、またはこれらの金属を少なくとも1種類以上含む合金等が用いられる。光透過率の高さ、パターニングの容易さから、陽極としては、ITO、IZO、酸化スズからなる薄膜が好適に用いられる。陽極の作製方法としては、真空蒸着法(前述した実施形態の電子ビーム蒸着法を含む)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。また、前記有機の透明導電膜に用いられる材料、金属酸化物、金属硫化物、金属、およびカーボンナノチューブなどの炭素材料から成る群から選ばれる少なくとも1種類以上を含む混合物から成る薄膜を陽極に用いても良い。
陽極には、光を反射させる材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0056】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、さらに好ましくは20nm〜500nmである。
【0057】
<正孔注入層>
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。上記のように、正孔注入層として、金属ドープモリブデン酸化物層を設けてもよい。金属ドープモリブデン酸化物層の材料およびその形成方法については、上記の通りである。正孔注入層として、金属ドープモリブデン酸化物層以外のものを設ける場合、正孔注入層を構成する正孔注入層材料としては、正孔の移動を促進するものであれば特に制限はなく、公知の材料を適宜用いてもよい。正孔注入層材料としては、例えばフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。また、このような正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。このような厚みが前記下限値未満では、製造が困難になる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向にある。
【0058】
<正孔輸送層>
正孔輸送層として、金属ドープモリブデン酸化物層を設けてもよい。金属ドープモリブデン酸化物層の材料およびその形成方法については、上記の通りである。それ以外の場合、正孔輸送層を構成する正孔輸送層材料としては、正孔注入層と発光層との間の正孔移動を促進するものでれば特に制限はなく、公知の材料等を用いてもよい。例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、NPB(4,4’−bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0059】
これらの中で、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0060】
正孔輸送層の成膜の方法には、特に制限はない。低分子正孔輸送材料を用いる場合には、例えば、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法などが挙げられる。また、高分子正孔輸送材料を用いる場合には、例えば、溶液からの成膜による方法などが挙げられる。
【0061】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はない。該溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒などが挙げられる。
【0062】
溶液からの成膜方法としては、例えば、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0063】
高分子バインダーを用いる場合、その高分子バインダーは電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0064】
正孔輸送層の厚みは特に制限されず、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。このような厚みが前記下限値未満では、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向にあり、他方、前記上限値を超えると駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向にある。正孔輸送層の厚みは、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0065】
<有機発光層>
有機発光層は、発光材料を含む層であり、発光材料として有機化合物を含む層である。通常、有機発光層には、主として蛍光またはりん光を発光する有機物が含まれる。有機発光層は、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。なお有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、有機発光層は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。
【0066】
[色素系材料]
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0067】
[金属錯体系材料]
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。さらに金属錯体系材料の他の例として、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0068】
[高分子系材料]
高分子系材料としては、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料などを高分子化したもの、すなわちこれらの重合体などが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、例えば、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0069】
[ドーパント材料]
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0070】
<発光層の成膜方法>
有機発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の上または上方に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒があげられる。
【0071】
発光材料を含む溶液を基体の上または上方に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーまたは摩擦による転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0072】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものが使用でき、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0073】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0074】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はない。低分子電子輸送材料を用いる場合には、例えば、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が挙げられる。また、高分子電子輸送材料を用いる場合には、例えば、溶液または溶融状態からの成膜による方法などが挙げられる。溶液または溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、例えば、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法などがあげられる。
【0075】
電子輸送層の厚みは特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。このような厚みが前記下限値未満では、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向にあり、他方、前記上限値を超えると駆動電圧および電子輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向にある。電子輸送層の厚みは、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0076】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も電子注入層の材料として用い得る。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0077】
<陰極材料>
陰極の材料としては、仕事関数の小さく発光層への電子注入が容易な材料および/または電気伝導度が高い材料および/または可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表第13族金属などを用いることができる。より具体的な例を示すと、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、またはこれら金属を少なくとも1種類以上含む合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が挙げられる。合金の例としては、例えば、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用い得る。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0078】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0079】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法(前述した実施形態の電子ビーム蒸着法を含む)、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、および金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0080】
第1の実施形態の有機EL素子1は、金属ドープモリブデン酸化物層22が設けられることにより、有機発光層を含む積層体20の形成過程でダメージを受けにくい構造をしている、そのため、第1の実施形態の有機EL素子1は欠損などを生じにくく、寿命特性などが良好である。また、第1の実施形態の有機EL素子1は、放熱層を備えることにより放熱性にも優れる。そのため、この点においても、寿命特性が良好な素子となっている。
【0081】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について図2を参照しつつ説明する。図2に、第2の実施形態の有機EL素子2の断面図を示す。図2中、第1の実施形態と同様である部材については図1と同じ符号を付し、以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0082】
図2に示すように、放熱層61は、封止基板30側に設けてもよい。図2に示す有機EL素子2では、封止基板31の外側の主面、すなわち積層体20側の主面とは反対側の主面に放射性層61が設けられている。封止基板31はガラス基板または可塑性を有するシート状の材料が用いられており、封止基板31と支持基板10とは融着されている。
【0083】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態およびその変形例について図3−1から図3−5を参照しつつ説明する。図3−1に、第3の実施形態の有機EL素子3A(以下、「第3の実施形態の素子」という場合がある)の断面図を示す。図3−1中、第1の実施形態と同様である部材については図1と同じ符号を付し、以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0084】
有機EL素子3Aでは、支持基板の外側の主面に放熱層63が設けられている。放熱層63は、2つの層で構成されている。一方の層は、黒色系材料層63aであり、他方の層は高熱伝導性層としてのアルミニウム層63bであり、アルミニウム層63bが支持基板10に接して設けられている。有機発光層の発熱により支持基板10には熱が伝わる。支持基板10としてガラス基板のような熱伝導性の低い材料が用いられている場合は特に、熱が支持基板10に停滞してしまいやすい。しかし、有機EL素子3Aにおいては、高熱伝導性を有するアルミニウム層63bが支持基板10に接触して設けられていることにより、支持基板10およびアルミニウム層63bでの熱分布の分散化を促し、また熱を支持基板10の外部へと逃がすことを助ける。さらに、アルミニウム層63bの外側主面は、黒色塗料を塗布して形成された黒色系材料層63aが設けられており、黒色系材料層63aに伝達された熱の外界への放射が促進される。有機EL素子3Aは、支持基板側に黒色系材料層63aが設けられているため、封止基板側から採光するトップエミッションタイプの素子である。
【0085】
放熱層63を支持基板10に設ける方法には特に制限はなく、方法の一例としては、黒色塗料をアルミニウムシートの一方の主面に塗布して、黒色系材料層63aが形成されたシートを作製し、これを支持基板10に接着剤(不図示)など用いて接着する形態が挙げられる。また、他の形態としては、支持基板10に予めアルミニウムを蒸着させておき、形成されたアルミニウム層の表面に黒色塗料を塗布して黒色系材料層を形成する形態が挙げられる。
【0086】
図3−2に、第3の実施形態の素子の一変形例である有機EL素子3Bを示す。有機EL素子3Aでは支持基板10の一方の主面にのみ放熱層63が設けられていたが、有機EL素子3Bにおいては、支持基板10の両方の主面に放熱層63が設けられている。このように支持基板10の両面に放熱層63を設けることにより積層体20を熱源とする熱を、支持基板10全体へとより円滑に伝達させることができ、熱分散性をより向上させ得る。図3−2に示す例では、支持基板10と放熱層63は、積層体20から外側に向かって順に(図面上、積層体20から下方に向かって順に)次の順序で構成される。
(I)アルミニウム層63b/黒色系材料層63a/支持基板10/黒色系材料層63a/アルミニウム層63b
【0087】
黒色系材料層63aとアルミニウム層63bの位置は、電極形成等の設計上の都合などにより変更し得る。例えば、図3−3に示す変形例のように、支持基板と放熱層は、積層体20(不図示)から順に次の順序で構成してもよい。なお、以下、図3−3から図3−5において積層体20等の上部構成は図3−2と同様なので省略している。
(II)黒色系材料層63a/アルミニウム層63b/支持基板10/アルミニウム層63b/黒色系材料層63a
【0088】
さらに、下記(III)、(IV)および(V)の順に積層してもよい(不図示)。
(III)黒色系材料層63a/アルミニウム層63b/支持基板10/黒色系材料層63a/アルミニウム層63b
(IV)アルミニウム層63b/黒色系材料層63a/支持基板10/アルミニウム層63b/黒色系材料層63a
(V)アルミニウム層63b/黒色系材料層63a/支持基板10/黒色系材料層63a/アルミニウム層63b/黒色系材料層63a
放熱性の観点からは、(V)に示す順序に積層することが好ましい。
【0089】
図3−4に、第3の実施形態の素子のさらに他の変形例を示す。有機EL素子3Bでは、黒色系材料層63aおよびアルミニウム層63bの2層を含む放熱層63が設けられたが、図3−4に示す変形例では、アルミニウム層63bの両面に黒色系材料層63aが設けられている。このように、黒色系材料層63aを両面に設ける形態は、より放熱性を高め得るという点において、好ましい一形態である。
【0090】
図3−5に、第3の実施形態の素子のさらに別の変形例を示す。図3−5に示す変形例では、支持基板10の積層体側の主面(図3−5では、支持基板10の上面)には、アルミニウム層63bのみが設けられている。有機発光層を含む積層体を設ける側には、黒色系材料層を設けたくない場合などに採用し得る。
【0091】
図3−6に、第3の実施形態の素子のさらに別の変形例を示す。図3−6に示す変形例では、支持基板10の積層体側の主面(図3−6では、支持基板10の上面)に、黒色系材料層63aとアルミニウム層63bが設けられている。
【0092】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態について図4を参照しつつ説明する。図4に、第4の実施形態の有機EL素子4Aの断面図を示す。図4中、第3の実施形態と同様である部材については図1と同じ符号を付し、以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0093】
有機EL素子4Aは、支持基板10側から採光するボトムエミッションタイプの素子である。そのため、有機EL素子4Aでは、支持基板21には放熱層63は設けられず、封止基板30の上面に設けられている。このように、放熱層63は封止基板に設けることもできる。また、図4に示す例の変形例として、封止基板30に放熱層63を設ける場合、積層体20と封止基板30の間に熱伝導性の高い樹脂を充填し、封止基板30までの熱伝導性をさらに向上させてもよい。
【0094】
2.有機EL装置
本発明の有機EL装置は、上記有機EL素子を1または2つ以上搭載した装置である。有機EL装置は、例えば、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライト、照明装置などとすることができる。本発明の有機EL装置は、有機発光層を含む積層体の構成相として金属ドープモリブデン酸化物層が設けられているため、層形成が良好である。また、本発明の有機EL装置は、素子の放熱性に優れている。本発明の有機EL装置は、層形成が良好であり、放熱性に優れるため、輝度バラツキが少なく、耐久性に優れた装置とし得る。特に、照明装置は高輝度であることが要求されるため、高電力を印可する要請が強く、発熱量も多くなりがちである。そのため、本発明の有機EL装置は、照明装置として特に好適である。
【0095】
有機EL素子を搭載した有機EL装置を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示装置が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置するパッシブマトリックス用基板、あるいは薄膜トランジスタを配置した画素単位で制御を行うアクティブマトリックス用基板を用いればよい。さらに、発光色の異なる発光材料を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0096】
さらに、前記面状の発光装置は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0097】
以下、実際の有機EL素子の作製工程に基づく、作製例、比較例およびこれらの検証試験を示しつつ、本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記作製例等に限定されるものではない。
【0098】
検証実験は、図5に示すような試験装置を用いて行った。本発明は、有機EL素子の積層体部分の構造には実質的に依存しないと考えられるため、熱源として自作のポイントヒーターを用い、ガラス、熱放射率の高い素材が被覆されたアルミニウムシートなどを用いて評価をおこなった。図5に示すように試験台80の上にホットプレート81を設け、その中央部には、円柱形状の熱伝導部83が設けれられている。熱伝導部83は真鍮製であり、また、熱伝導部83の側面外周部には断熱シート82が巻かれている。熱伝導部83の上端部には試験基板保持ガラス12が設けられている。そして、試験基板保持ガラス12上に、被試験体となる試験基板15が載置される。試験基板15上面部は、その頭上から温度センサー84によって温度が測定される。当該試験基板15の上面部から放射熱を測定する。
【0099】
図6に、試験基板保持ガラス12上に載置された試験基板15の平面図を示す。試験基板15上に示すA〜Kの符号は、温度センサー84による頭上からの測定位置を示す。また、中央部の破線は、試験基板保持ガラス12の下にある熱伝導部83の上端面の通し図である。このように中央部に熱源を設け、試験基板15の一方の角部から中央部さらに対角にある他方の角部まで複数の位置を測定することにより、試験基板15の熱拡散性を測定することができる。
【0100】
各試験基板の評価は次の要領にて行った。まず、放熱効果については、最大温度(試験基板の中心部)の低下レベルを指標とした。具体的には、比較例1(ガラス基板のみ)における試験基板の最大温度(中心部の温度)を最大温度の最高値とし、この最高値を他の試験基板の中心部の最大温度から引いた差として求めた。最大温度が低く、最大温度の差がマイナス側に大きくなるほど熱放射性が優れることを示す。また、均熱性(熱分散性)については、各試験基板内での測定位置ごとの温度により示される温度分布を指標とした。試験基板内での温度分布に偏りが少ないほど、均熱化に優れることを示す。
【0101】
<作製例1>
作製例1として、図7−1に示す試験基板を用いた。作製例1の試験基板は、ガラス基板11(厚さ0.7mm)に、2層構造の放熱層として、熱放射率が高い黒色塗装を施した高熱伝導性アルミニウムシートとガラス基板11に接着させるための接着材からなるシート(神戸製鋼社製、商品名:コーべホーネツ・アルミ(KS750)、熱伝導率230W/mK、熱放射率0.86)を設けて作製した。したがって、作製例1の試験基板は、試験基板保持ガラス12から順に、ガラス基板11/アルミニウム層63b/黒色系材料層63aが順次積層された積層体として構成されている。アルミニウム層63b/黒色系材料層63aが2層構造の放熱層を構成している。この放熱層は、有機発光層を含む積層体が形成されることが予定される側とは反対側に設けられている。
【0102】
熱放射性および均熱性についての検証試験を次のようにして行った。ホットプレートの設定温度は、比較例1の試験ガラス基板が90℃になる温度を基準とし、その温度になるように設定して試験基板を加熱した。測定点の温度の揺らぎが±0.2℃の範囲に収まる状態で温度が安定したと判断し、図6に示すA〜Kの位置について温度センサー84を用いて、温度を測定した。
【0103】
<作製例2>
試験基板として、図7−2に示すものを用いた点以外は、上記作製例1についての検証試験と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。作製例2の試験基板は、図7−2に示すように、ガラス基板の両面に、2層構造の放熱層が貼付されている。すなわち、作製例2の試験基板は、試験基板保持ガラス12側から順に、黒色系材料層63a/アルミニウム層63b/ガラス基板11/アルミニウム層63b/黒色系材料層63aが順次積層された積層体として構成されている。
【0104】
<作製例3>
試験基板として、図7−3に示すものを用いた点以外は、上記作製例1についての検証試験と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。作製例3の試験基板は、図7−3に示すように、ガラス基板11の外面側(有機発光層を含む積層体が形成されることが予定される側とは反対側)の表面に、2層構造の放熱層が貼付され、他方、内面側(有機発光層を含む積層体が形成されることが予定される側)表面にはアルミニウムシートのみ貼付されている。したがって、作製例3の試験基板は、試験基板保持ガラス12側から順に、アルミニウム層63b/ガラス基板11/アルミニウム層63b/黒色系材料層63aが順次積層された積層体で構成されている。
【0105】
<比較例1>
試験基板として、図7−4に示すものを用いた点以外は、上記作製例1における検証試験と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。比較例1の試験基板としては、図7−4に示すように、ガラス基板11単体が用いられた。
【0106】
<比較例2>
試験基板として、図7−5に示すものを用いた点以外は、上記作製例1における検証試験と同様にして、試験基板の熱放射性および均熱性について試験をした。比較例2の試験基板は、図7−5に示すように、ガラス基板11の積層体が形成される側の表面にアルミニウムシートのみ貼付されている。したがって、比較例2における試験基板15は、試験基板保持ガラス12から順に、アルミニウム層63b/ガラス基板11が順次積層された積層体で構成されている。
【0107】
<評価>
以上の作製例1から3、並びに比較例1および2についての上記検証試験結果を図8および表1に示す
【0108】
【表1】

【0109】
表1は最大温度および最大−最小温度差の一覧を示す。最大温度は、各試験基板について最も高い温度を示した値であり、各試験基板の中央部の温度を示す。また括弧内の数値は、各試験基板における最高温度から比較例1の最大温度(すなわち、90.0℃)を差し引いた値である。また、最大−最小温度の数値は、同一試験基板内での最大値および最小値の差であり、均熱性(熱分散性)の指標である。
【0110】
表1に示されるとおり、作製例1〜3のいずれも、比較例1および2よりも最大温度が低く、最大温度を示す中央部において熱をより多く逃がしていることが明らかになった。また、比較例1および2の方が最大・最小温度差の値が大きく、同一基板内での温度差が大きいことが明らかになった。
【0111】
図8に示されるように、比較例1および2においては、試験基板周辺部の測定位置A〜CおよびI〜Kが約40〜55℃程度であるのに対し、基板中央部の測定位置D〜Hにおいては、約80〜90℃程度と顕著な温度差が認められた。このように比較例1および2に供された試験基板は、均熱性(熱分散性)が低いことが明らかとなった。
【0112】
これに対し、作製例1〜3については、測定位置A〜K間における温度分布が、およそ70〜80℃程度の間でなだらかに分布していることが明らかとなった。すなわち、作製例1〜3に供された試験基板は、均熱性(熱分散性)が高いことが明らかとなった。
【0113】
<作製例4>ボトムエミッション型有機EL素子の作製
以下の方法で、ボトムエミッション型有機EL素子を作製した。まず、30x40mmサイズの有機EL素子用のITO透明導電膜パターンおよびCrパターンが複数個形成された200x200mmガラス基板(支持基板)を作製した。ITO透明導電膜(陽極)はスパッタ法で膜厚約150nm成膜し、Crはスパッタ法で200nmをパターニングした。
【0114】
次に、ITOおよびCrパターン付きガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(HCスタルク社製、Bytron P TP AI 4083)の懸濁液を用いて、スピンコート法により成膜し、オーブン上で200℃、20分間の乾燥をして60nmの厚さのホール注入層を形成した。その後で、有機EL素子周囲の不要部分の正孔注入層を水で浸したワイパーで拭き取り除去した。
【0115】
次に、シクロヘキサノンとキシレンを1:1に混合した溶媒を用いて高分子有機発光材料(ルメーションGP1300、サメイション社製)の1.5重量%の溶液を作製し、この溶液を用いてスピンコート法により、正孔注入層を形成した基板上に塗布し発光層を形成した。その後で素子周辺部の不要部分の発光層を有機溶剤で拭き取った後、真空乾燥(圧力1×10-4Pa以下、温度約170℃、15分加熱)を行った。
【0116】
その後、蒸着チャンバーに基板を移し、陰極マスクとアライメントしたあとで陰極を蒸着する。陰極は、抵抗加熱法にてBa金属を加熱し蒸着速度約2Å/sec、膜厚50Åにて蒸着、電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約10Å/sec、膜厚1000Åにて蒸着した。陰極形成後、蒸着室から大気には曝露せず、不活性雰囲気下のグローブボックスに移す。
【0117】
ついで、黒色塗装が施された高熱伝導性材料からなるシートを貼り付けたガラス封止基板(厚さ0.7mm)を準備した。黒色塗装が施された高熱伝導性材料には、熱放射率が高い黒色塗装を施した高熱伝導性アルミニウムシートとガラス基板に接着させるための接着材からなるシート(神戸製鋼社製、商品名:コーベホーネツ・アルミ(KS750)、熱伝導率230W/mK、熱放射率:0.86)を用いた。黒色塗装が施された高熱伝導性材料のガラス封止基板への接着は、熱硬化性樹脂(Robnor resins社製、商品名:PX681C/NC)を使用し、接着エリアは周辺部とした。全面塗布後、ガラス封止基板を不活性雰囲気下のグローブボックスに入れて、陰極形成された基板と位置合せをしたあとで貼り合せ、さらに真空に保った後で大気圧に戻し、加熱により素子基板と封止基板を固定し高分子有機EL素子を作製した。なお用いた熱硬化性樹脂の硬化前の粘度は50mPa・sであった。
【0118】
<作製例5>ボトムエミッション型有機EL素子の作製
作製例5では、上記作製例4における素子基板と封止基板の材料の組み合わせが反対である。すなわち、支持基板に黒色塗装が施された高熱伝導性材料からなるシートを貼り付けた基板を用い、封止基板にはガラス基板を用い、全面封止を行なっている。これにより封止基板側から光を取り出すいわゆるトップエミッション型の素子において、作製例1と同様に表面温度分布が均一な素子を作製することができる。
【0119】
<作製例6:金属ドープモリブデン酸化物層の形成例1>
(6−1:真空蒸着法による、ガラス基板へのAlドープMoOの蒸着)
複数のガラス基板(支持基板)を用意し、その片面を蒸着マスクを用いて部分的に被覆し、蒸着チャンバー内に基板ホルダーを用い取り付けた。
MoO粉末(アルドリッチ社製、純度99.99%)を、ボックスタイプの昇華物質用のタングステンボードに詰め、材料が飛び散らないように穴の開いたカバーで覆い、蒸着チャンバー内にセットした。Al(高純度化学社製、純度99.999%)は坩堝に入れ、蒸着チャンバー内にセットした。
【0120】
蒸着チャンバー内の真空度を3×10−5Pa以下とし、MoOは抵抗加熱法により徐々に加熱し十分に脱ガスを行い、Alは電子ビームにより坩堝内で溶かし込みを行い十分に脱ガスを行なってから蒸着に供した。蒸着中の真空度は9×10−5Pa以下とした。膜厚および蒸着速度は水晶振動子で常時モニターした。MoOの蒸着速度が約2.8Å/秒、Alの蒸着速度が約0.1Å/秒となった時点でメインシャッターを開き、基板への成膜を開始した。蒸着中は基板を回転させ、膜厚が均一になるようにした。蒸着速度を上記速度に制御して約36秒間成膜を行ない、膜厚約100Åの共蒸着膜が設けられた基板を得た。膜中のMoOおよびAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。このようにして、金属ドープモリブデン酸化物層として、AlドープMoO層を形成した。
【0121】
(6−2:耐久性試験)
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ変化は無く、表面は溶けていなかった。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、または純水を含ませた不織布(商品名「ベンコット」、小津産業株式会社製)で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0122】
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ変化は無く、表面が溶けていなかった。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、またはアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0123】
(6−3:透過率の測定)
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、透過率・反射率測定装置FilmTek 3000(商品名、Scientific Computing International社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。光の波長約300nmぐらいから透過スペクトルが立ち上がり、波長320nmにおける透過率が21.6%、360nmにおける透過率が56.6%であった。後述する比較例1と比較して、320nmにおいて3.6倍、360nmにおいて1.6倍の透過率を有していた。
【0124】
<作製例7:金属ドープモリブデン酸化物層の形成例2>
蒸着中に、チャンバーに酸素を導入した他は作製例6の(6−1)と同様に操作し、金属ドープモリブデン酸化物層として、アルミニウムとMoOの共蒸着膜が設けられた基板を得た。酸素量はマスフローコントローラーにより15sccmに制御した。蒸着中の真空度は約2.3×10−3Paであった。得られた共蒸着膜の膜厚は約100Åであり、膜中のMoOおよびAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0125】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例6の(6−2)と同様に評価した。純水およびアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0126】
<作製例8:金属ドープモリブデン酸化物層の形成例3>
蒸着速度を、MoOについては約3.7Å/秒、Alについては約0.01Å/秒に制御した他は作製例6の(6−1)と同様に操作し、金属ドープモリブデン酸化物層として、共蒸着膜が設けられた基板を得た。得られた共蒸着膜の膜厚は約100Åであり、膜中のMoOおよびAlの合計に対するAlの組成比は約1.3mol%であった。
【0127】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例6の(6−2)と同様に評価した。純水およびアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0128】
<作製例9:金属ドープモリブデン酸化物層の形成例4>
作製例6の(6−1)で得られた基板を、大気雰囲気のクリーンオーブンに入れ、250℃で60分間加熱処理した。冷却後、蒸着膜の透過率を作製例6の(6−3)と同様に測定した。結果を表2に示す。波長320nmにおける透過率が28.9%、360nmにおける透過率が76.2%であった。後述する比較例1と比較して、320nmにおいて4.7倍、360nmにおいて2.2倍の透過率を有していた。
【0129】
<比較例3>
Alを蒸着せず、MoOのみを約2.8Å/秒で蒸着した他は作製例6と同様に操作し、膜厚約100Åの蒸着膜が設けられた基板を得た。
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、または純水を含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜が消失していた。
【0130】
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、またはアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は消失していた。
【0131】
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、作製例6の(6−3)と同様に測定した。結果を表2に示す。波長320nmにおける透過率が6.1%、360nmにおける透過率が35.4%であり、透過率が低いことが認められた。
【0132】
【表2】

【0133】
<合成例1>
攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、温度計をつけたセパラブルフラスコに 2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.29重量部、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン 136.11重量部、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat 336) 27重量部、トルエン1800重量部を仕込み、窒素導入管より窒素を流しながら、攪拌下90℃まで昇温した。酢酸パラジウム(II) 0.066重量部、トリ(o−トルイル)ホスフィン0.45重量部を加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液573重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下7時間保温した後、フェニルホウ酸3.6重量部を加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物13重量部を加え4時間攪拌した後、活性アルミナとシリカゲルの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。濾液および洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物1のポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量を下記のGPC分析法により求めたところ、ポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7x10であり、数平均分子量は8.9x10であった。
【0134】
GPC分析法
ポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPC装置に10μL注入した。
GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED−B カラム(300 x 7.5mm)を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器はUV検出器を用い228nmの吸光度を測定した。
【0135】
<作製例10::金属ドープモリブデン酸化物層を設けた有機EL素子1>
(有機EL素子の作製)
支持基板上にITO(陽極)の薄膜が表面にパターニングされたガラス基板を用い、このITO薄膜上に、作製例7と同様の手順で、膜厚100ÅのAlドープMoO層(金属ドープモリブデン酸化物層)を真空蒸着法により蒸着した。
【0136】
成膜後、基板を大気中に取り出し、その蒸着膜上にスピンコート法により、合成例1で得た高分子化合物1を成膜し、膜厚20nmのインターレイヤー層を形成した。取り出し電極部分および封止エリアに成膜されたインターレイヤー層を除去し、ホットプレートで200℃、20分間ベイクを行った。
【0137】
その後、インターレイヤー層上に、高分子発光有機材料(RP158 サメイション社製)をスピンコート法により成膜し、膜厚90nmの発光層を形成した。取り出し電極部分および封止エリアに成膜された発光層を除去した。
これ以降封止までのプロセスは、真空中あるいは窒素中で行い、プロセス中の素子が大気に曝されないようにした。
【0138】
真空の加熱室において、基板を基板温度約100℃で60分間加熱した。その後蒸着チャンバーに基板を移し、発光部および取り出し電極部に陰極が成膜されるように、発光層面上に陰極マスクをアライメントした。さらにマスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。陰極として、金属Baを抵抗加熱法にて加熱し蒸着速度約2Å/秒、膜厚50Åにて蒸着し、その上に電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約2Å/秒、膜厚150nmにて蒸着した。
【0139】
その後、基板を、予め用意しておいた、UV硬化樹脂が周辺に塗布されている封止ガラス(封止基板)と貼り合わせ、真空に保ち、その後大気圧に戻し、UVを照射することで固定し、発光領域が2×2mmの有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子は、ガラス基板(支持基板)/ITO膜(陽極)/AlドープMoO層(金属ドープモリブデン酸化物層)/インターレイヤー層/有機発光層/Ba層/Al層(陰極)/封止ガラス(封止基板)の層構成を有していた。
【0140】
(有機EL素子の評価)
作製した素子に、輝度が1000cd/mとなるよう通電し、電流−電圧特性を測定した。また、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させ、発光寿命を測定した。結果を表3および表4に示す。後述する比較例4と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約1.6倍延長している。
【0141】
<作製例11:金属ドープモリブデン酸化物層を設けた有機EL素子2>
金属ドープモリブデン酸化物層としてのAlドープMoO層を、作製例7ではなく作製例8と同様の手順で成膜した他は、作製例10と同様に操作し、有機EL素子を作製し、電流−電圧特性および発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を表3および表4に示す。後述する比較例4と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約2.4倍延長している。
【0142】
<比較例4>
金属ドープモリブデン酸化物層としてのAlドープMoO層を成膜する代わりに、比較例1と同様の手順でMoO層を成膜した他は、作製例7と同様に操作し、有機EL素子を作製し、電流−電圧特性および発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を表3および表4に示す。
【0143】
【表3】

【0144】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の第1の実施形態の有機EL素子の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の有機EL素子の断面図である。
【図3−1】本発明の第3の実施形態を示す断面図である。
【図3−2】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である。
【図3−3】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である。
【図3−4】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である。
【図3−5】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である。
【図3−6】本発明の第3の実施形態の一変形例を示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態を示す断面図である。
【図5】検証実験装置の側面を示す図である。
【図6】検証実験装置上に載置される試験基板および測定位置を示す平面図である。
【図7−1】作製例1に供された試験基板の断面図を示す図である。
【図7−2】作製例2に供された試験基板の断面図を示す図である。
【図7−3】作製例3に供された試験基板の断面図を示す図である。
【図7−4】比較例1に供された試験基板の断面図を示す図である。
【図7−5】比較例2に供された試験基板の断面図を示す図である。
【図8】検証試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0146】
1、2、3A、3B、4A 有機EL素子
10 支持基板
11 ガラス基板
12 試験基板保持ガラス
15 試験基板
20 有機発光層を含む積層体
21 陽極
22 金属ドープモリブデン酸化物層
23 有機発光層
24 陰極
30、31 封止基板
40 接着部
60、61 放熱層
63 高熱伝導性を備える2層構成の放熱層
63a 黒色系材料層
63b アルミニウム層
64 3層で構成される、高熱伝導性および放熱層
80 試験台
81 ホットプレート
82 断熱シート
83 熱伝導部(熱源、真鍮)
84 温度センサー
A〜K(図6において) 測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極間に配置された有機発光層と、前記陽極および前記有機発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層とを含む積層体と、
該積層体が搭載される支持基板と、
該支持基板とともに前記積層体を囲繞する封止基板と、
前記支持基板の少なくとも一方の主面、または、前記封止基板の少なくとも一方の主面に設けられ、かつ高熱放射性を有する放熱層と、
を備え、
該放熱層の熱放射率が0.70以上である、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記放熱層の熱放射率が0.85以上である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記放熱層の熱伝導率が1W/mK以上である、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記放熱層の熱伝導率が200W/mK以上である請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記放熱層が、黒色系材料を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記放熱層が、高熱伝導性層と黒色系材料層とを含む積層構造を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記高熱伝導性層が、アルミニウム、銅、銀、セラミックス材料、およびこれらから選ばれる2種以上の合金からなる群より選ばれる無機材料、または高熱伝導性の樹脂で形成されてなる、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記支持基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に、前記放熱層が設けられる、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記ガラス基板の前記積層体が搭載される主面とは反対側の主面に、前記放熱層が設けられる、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記ガラス基板の両主面に、前記放熱層が設けられる、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記ガラス基板の前記積層体が搭載される主面とは反対側の主面に前記放熱層が設けられ、かつ、前記ガラス基板の前記積層体側の主面に高熱伝導性層が設けられる、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記封止基板がガラス基板であり、当該ガラス基板の少なくとも一方の主面に、前記放熱層が設けられる、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記金属ドープモリブデン酸化物層が正孔注入層である、請求項1から12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が50%以上である、請求項1から13のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表第13族金属およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記金属ドープモリブデン酸化物層中に含まれるドーパント金属がアルミニウムである、請求項1から15のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記金属ドープモリブデン酸化物層中に含まれるドーパント金属の含有割合が、0.1〜20.0mol%である、請求項1から16のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
前記金属ドープモリブデン酸化物層上に高分子化合物を含む層を有する、請求項1から17のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された表示装置。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された照明装置。
【請求項21】
請求項1から18のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
陽極、正孔注入層および正孔輸送層からなる群から選ばれるいずれかの層上に、酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積し、金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程を含む製造方法。
【請求項22】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程を、真空蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングにより行う請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程において、雰囲気中に酸素を導入する、請求項21または22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する積層工程に続いて、前記金属ドープモリブデン酸化物層を加熱する工程をさらに含む請求項21から23のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−80215(P2010−80215A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246188(P2008−246188)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】