説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】本発明は、複数層の有機層が積層された有機EL素子において、短絡欠陥の発生が少なく、効率や寿命等の特性の高い有機EL素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入層、上記正孔注入層上に形成された正孔輸送層、および上記正孔輸送層上に形成された発光層を少なくとも有する有機EL層と、上記有機EL層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記正孔注入層が高分子材料を含有し、上記正孔輸送層が、上記正孔注入層上に形成された1層以上の高分子層と、上記1層以上の高分子層上に形成された1層以上の低分子層とを有し、上記発光層が低分子材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数層の有機層が積層された有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光層等の有機層を一対の電極の間に挟み、両電極間に電圧をかけて発光させる有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子は、自己発色により視認性が高いこと、液晶素子と異なり全固体素子であるため耐衝撃性に優れていること、応答速度が速いこと、温度変化による影響が少ないこと、および、視野角が大きいことなどの利点を有しており、表示装置や照明装置における発光素子としての利用が注目されている。
【0003】
有機EL素子としては、陽極および陰極の間に複数層の有機層が積層されたものが知られている。
有機EL素子を構成する有機層の材料としては、低分子材料と高分子材料とに大別される。一般的に、低分子材料を用いた有機層の成膜方法としては真空成膜法が主流であり、高分子材料を用いた有機層の成膜方法としては塗布法が主流である。
【0004】
真空成膜法は、積層化が容易であり、機能分離した多層構造を構成し、高効率化および長寿命化を達成することができるという利点を有する。一方、塗布法は、真空成膜法に比べてコスト面で有利であるとともに大面積化が容易であるという利点を有する。
【0005】
しかしながら、有機EL素子を構成する有機層の膜厚は薄いため、真空成膜法では、有機層の下地となる電極の表面に異物の付着や、突起、窪みが存在すると、有機層表面にも凹凸が生じてしまい、短絡欠陥が起こるという問題がある。
これに対し、塗布法では、有機材料を溶媒に溶解もしくは分散させた塗工液を塗布することで、異物、突起、窪みを被覆し、短絡欠陥の発生を抑制することができる。
【0006】
一方、塗布法では、複数層の有機層を積層する場合、上層の有機層の形成時に、下層の有機層が上層の有機層形成用塗工液に溶解することがあり、積層化が困難であるという問題がある。また、下層の有機層が溶解すると、発光ムラの原因となるとともに、効率や寿命等の特性に劣るという問題もある。
そこで、複数層の有機層を積層する際に、塗布法と真空成膜法を組み合わせて、塗布法により有機層を形成した後、真空成膜法により有機層を形成することが多く行われている。
また、塗布法により複数層の有機層を積層するために、下層の有機層を上層の有機層形成用塗工液の溶媒に対して不溶とすることが提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、下層の有機層に、硬化性バインダ、または、熱エネルギーもしくは放射線の作用により溶解性が変化する材料を用いたり、下層の有機層および上層の有機層にそれぞれ溶解性が異なる材料を用いたりすることで、下層の有機層を上層の有機層形成用塗工液の溶媒に対して不溶とすることが開示されている。従来では、例えば、正孔注入層にはポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)の水分散液を用い、発光層にはポリマーを有機溶剤に分散した塗工液を用いて、2層の有機層を積層することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−251270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多層構造を有する有機EL素子においては、発光層内に正孔および電子を効率的に閉じ込めるため、さらには対極側への正孔もしくは電子の注入による特性劣化を抑制するために、発光層からの正孔もしくは電子の突き抜けを防止することが望ましい。例えば、上述のPEDOT−PSSの正孔注入層への電子注入により有機EL素子の特性が劣化することが報告されている。
しかしながら、下層の有機層が上層の有機層形成用塗工液に対して不溶となるように、かつ、正孔もしくは電子のブロック性を有するように、有機層の材料を選択することは非常に困難である。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、複数層の有機層が積層された有機EL素子において、短絡欠陥の発生が少なく、効率や寿命等の特性の高い有機EL素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入層、上記正孔注入層上に形成された正孔輸送層、および上記正孔輸送層上に形成された発光層を少なくとも有する有機EL層と、上記有機EL層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記正孔注入層が高分子材料を含有し、上記正孔輸送層が、上記正孔注入層上に形成された1層以上の高分子層と、上記1層以上の高分子層上に形成された1層以上の低分子層とを有し、上記発光層が低分子材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0011】
本発明によれば、陽極上に、高分子材料を含有する正孔注入層と正孔輸送層を構成する高分子層との2層が積層されており、これらの高分子材料を用いた層は塗布法により形成可能であるので、陽極表面に異物、突起、窪み等が存在する場合においても、これらの異物、突起、窪み等が覆われ、短絡欠陥の発生を抑制することが可能である。また本発明によれば、正孔輸送層では高分子層と低分子層とが積層されているので、機能分離が可能であり、低分子層に電子ブロック性に優れる材料を用いることができる。さらに、発光層に用いられる発光材料においては、低分子材料が高分子材料と比較して発光効率が高く寿命が長く材料性能の面で優れている。したがって本発明においては、効率や寿命等の特性を向上させることが可能である。
【0012】
上記発明においては、上記正孔注入層と上記正孔注入層上に直に形成された上記高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有することが好ましい。陽極の表面極性と正孔注入層の高分子材料の極性との関係によってハジキが発生し、正孔注入層表面に凹凸が生じたとしても、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることで、その凹凸を覆うことができ、短絡欠陥の発生を防ぐことができるからである。また、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることにより、高分子層形成時に、高分子層形成用塗工液に正孔注入層が溶解するのを抑制することができるからである。
【0013】
この場合、上記正孔注入層が、上記高極性高分子材料を含有することがより好ましい。一般的に陽極の表面極性は高いため、陽極上に形成される正孔注入層は高極性高分子材料を含有することが好ましいのである。
【0014】
また本発明は、陽極上に有機EL層を形成する有機EL層形成工程を有する有機EL素子の製造方法であって、上記有機EL層形成工程が、塗布法により、陽極上に高分子材料を含有する正孔注入層を形成する正孔注入層形成工程と、塗布法により、上記正孔注入層上に1層以上の高分子層を形成する高分子層形成工程、および、真空成膜法により、上記1層以上の高分子層上に1層以上の低分子層を形成する低分子層形成工程を有し、上記正孔注入層上に上記1層以上の高分子層および上記1層以上の低分子層を有する正孔輸送層を形成する正孔輸送層形成工程と、真空成膜法により、上記正孔輸送層上に低分子材料を含有する発光層を形成する発光層形成工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、陽極上に、塗布法により、高分子材料を含有する正孔注入層と正孔輸送層を構成する高分子層との2層を積層するので、陽極表面に異物、突起、窪み等が存在する場合においても、これらの異物、突起、窪み等を覆うことができ、短絡欠陥の発生を抑制することが可能である。また本発明によれば、高分子層と低分子層とを積層して正孔輸送層を形成するので、機能分離が可能であり、低分子層に電子ブロック性に優れる材料を用いることができる。さらに、発光層に用いられる発光材料においては、低分子材料が高分子材料と比較して発光効率が高く寿命が長く材料性能の面で優れている。したがって本発明においては、効率や寿命等の特性に優れる有機EL素子を得ることが可能である。
【0016】
上記発明においては、上記正孔注入層と上記正孔注入層上に直に形成された上記高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有することが好ましい。陽極の表面極性と正孔注入層の高分子材料の極性との関係によってハジキが発生し、正孔注入層表面に凹凸が生じたとしても、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることで、その凹凸を覆うことができ、短絡欠陥の発生を防ぐことができるからである。また、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることにより、塗布法による高分子層の形成時に、正孔注入層が溶解するのを抑制することができるからである。
【0017】
この場合、上記正孔注入層が、上記高極性高分子材料を含有することがより好ましい。上述したように、一般的に陽極の表面極性は高いため、陽極上に形成される正孔注入層は高極性高分子材料を含有することが好ましいのである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、短絡欠陥の発生を防ぐことができるとともに、高効率化および長寿命化を達成することができるというという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の有機EL素子およびその製造方法について詳細に説明する。
【0021】
A.有機EL素子
本発明の有機EL素子は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入層、上記正孔注入層上に形成された正孔輸送層、および上記正孔輸送層上に形成された発光層を少なくとも有する有機EL層と、上記有機EL層上に形成された陰極とを有する有機EL素子であって、上記正孔注入層が高分子材料を含有し、上記正孔輸送層が、上記正孔注入層上に形成された1層以上の高分子層と、上記1層以上の高分子層上に形成された1層以上の低分子層とを有し、上記発光層が低分子材料を含有することを特徴とするものである。
【0022】
本発明の有機EL素子について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。図1に例示する有機EL素子1は、基板2と、基板2上に形成された陽極3と、陽極3上に形成され、正孔注入層4、正孔輸送層11、発光層7、電子輸送層8および電子注入層9が順に積層された有機EL層12と、有機EL層12上に形成された陰極10とを有している。この有機EL素子1において、正孔注入層4は高分子材料を含有し、発光層7は低分子を含有し、電子輸送層8および電子注入層9も低分子材料を含有している。また、正孔輸送層11は、高分子層5と、高分子層5上に形成された低分子層6とを有している。
【0023】
本発明によれば、陽極上に、高分子材料を含有する正孔注入層と正孔輸送層を構成する高分子層との2層が積層されており、これらの高分子材料を用いた層は塗布法により形成可能であるので、陽極表面に異物、突起、窪み等が存在する場合においても、これらの異物、突起、窪み等を覆うことができる。
また本発明によれば、正孔輸送層では高分子層と低分子層とが積層されているので、機能分離が可能であり、低分子層に電子ブロック性に優れる材料を用いることができる。さらに、正孔輸送層に用いられる正孔輸送性材料において、低分子材料は高分子材料と比較して電子ブロック性が高いという利点を有する。
また、正孔輸送層では上述のように機能分離が可能であり、高分子層に正孔注入層からの正孔注入性に優れる材料を用いることができる。さらに、正孔輸送層に用いられる正孔輸送性材料において、高分子材料は低分子材料と比較して正孔注入層から正孔が注入しやすいと考えられる。
さらに、発光層に用いられる発光材料においては、低分子材料が高分子材料と比較して発光効率が高く寿命が長く材料性能の面で優れている。
したがって本発明においては、効率や寿命等の特性を向上させることが可能である。
【0024】
また、本発明における正孔輸送層においては、上述のように、機能分離が可能であり、1層の正孔輸送層、特に1層の高分子層に、正孔輸送性および電子ブロック性を兼ね備えるとともに、正孔注入層を溶解しない溶媒に分散もしくは溶解するような材料を用いる必要がないため、高分子層および低分子層の材料選択性の幅が広がるという利点を有する。
【0025】
さらに、低分子層は真空成膜法により形成可能であるため、高分子層上に低分子層を容易に積層可能であり、このような低分子層が高分子層と発光層との間に形成されていることで、発光層からの正孔もしくは電子の突き抜けを防止することができ、寿命特性の向上を図ることが可能である。
以下、本発明の有機EL素子の各構成について説明する。
【0026】
1.有機EL層
本発明における有機EL層は、陽極上に形成された正孔注入層と、上記正孔注入層上に形成された正孔輸送層と、上記正孔輸送層上に形成された発光層とを少なくとも有するものである。有機EL層においては、上記正孔注入層が高分子材料を含有し、上記正孔輸送層が、上記正孔注入層上に形成された1層以上の高分子層と、上記1層以上の高分子層上に形成された1層以上の低分子層とを有し、上記発光層が低分子材料を含有している。また、有機EL層が、発光層および陰極の間に任意の層をさらに有する場合には、この任意の層が低分子材料を含有する。
以下、有機EL層の各構成について説明する。
【0027】
(1)正孔輸送層
本発明における正孔輸送層は、正孔注入層上に形成されるものであり、正孔注入層上に形成された1層以上の高分子層と、上記1層以上の高分子層上に形成された1層以上の低分子層とを有するものである。
以下、正孔輸送層の各構成について説明する。
【0028】
(a)高分子層
本発明における正孔輸送層を構成する高分子層は、正孔注入層上に形成され、高分子材料を含有するものである。
なお、「高分子材料」とは、任意の繰り返し単位を有するものをいう。高分子材料の重量平均分子量は1000以上であればよい。繰り返し単位を有するものであれば、オリゴマー等の繰り返し単位の少ないものでもよい。
【0029】
高分子層に含有される高分子材料としては、正孔注入層から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる正孔輸送性高分子材料であれば特に限定されるものではない。中でも、正孔輸送性高分子材料は、正孔移動度が高いものであることが好ましい。このような正孔輸送性高分子材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体例としては、コポリ[3,3´−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)等を挙げることができる。アントラセン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール誘導体の具体例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4´−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。スピロ化合物の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9´−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。また、高分子材料は、後述の低分子材料を高分子量化したものであってもよい。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、高分子層に含有される高分子材料は、熱および/または光硬化性官能基を有していてもよい。高分子層の安定性が向上するからである。熱および/または光硬化性官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニル基、ビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基、シンナメート基、シンナモイル基、クマリン基、カルバゾール基等を挙げることができる。分子内に硬化性官能基が導入された高分子材料としては、具体的には、フルオレン誘導体でビニル基を構造内に持つ、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alto−co−(9,9−ジ−{5−ペンテニル}−フルオレニル−2,7−ジイル)]や、ポリ[(9,9−ジ−{5−ペンテニル}−フルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4′−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](熱硬化性TFB)を挙げることができる。
【0031】
また本発明においては、正孔注入層と正孔注入層上に直に形成された高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有することが好ましい。
塗布法により正孔注入層および高分子層を形成する場合、上述のように陽極表面の異物、突起、窪みを覆うことができるが、陽極の表面極性と正孔注入層形成用塗工液の極性との関係によっては正孔注入層形成用塗工液がはじかれてしまうことがある。ハジキが発生すると、正孔注入層表面に凹凸が生じ、短絡欠陥が起こる。なお、正孔注入層および高分子層を厚膜化することで層表面の凹凸を改善することは可能であるが、正孔注入層および高分子層の膜厚には限界があり、また正孔注入層および高分子層を厚膜化すると高電圧での駆動が必要となってくる。
これに対し、正孔注入層と正孔注入層上に直に形成された高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有する場合には、ハジキにより正孔注入層表面に凹凸が生じた場合であっても、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることで、その凹凸を覆うことができ、短絡欠陥の発生を防止することができる。
また、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることにより、高分子層形成時に、正孔注入層に含有される高分子材料が溶出するのを防ぐことができ、正孔注入層上に高分子層を安定して積層することができる。
【0032】
なお、本発明において「高極性高分子材料」とは、膜厚100nmの高分子材料からなる高分子材料層をトルエンに10秒間浸漬して引き揚げ、乾燥させた場合に、乾燥後の高分子材料層の膜厚が70nm〜100nmの範囲内となるものをいう。
また、本発明において「低極性高分子材料」とは、膜厚100nmの高分子材料からなる高分子材料層をトルエンに10秒間浸漬して引き揚げ、乾燥させた場合に、乾燥後の高分子材料層の膜厚が0nm〜30nmの範囲内となるものをいう。
ここで、高分子材料が熱および/または光硬化性官能基を有する場合には、硬化前の高分子材料層を上記試験に用いるものとする。
【0033】
また、「正孔注入層上に直に形成された高分子層」とは、正孔輸送層が高分子層を1層のみ有する場合には、その高分子層をいい、正孔輸送層が2層以上の高分子層を有する場合には、2層以上の高分子層のうち、正孔注入層に隣接する高分子層をいう。
【0034】
すなわち、正孔注入層上に直に形成された高分子層に含有される高分子材料は、高極性高分子材料または低極性高分子材料であることが好ましい。
高分子層に用いられる高極性高分子材料としては、正孔注入層から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の正孔輸送性高分子材料において分子内に高極性の官能基が導入されたもの等を挙げることができる。
正孔輸送性高分子材料において分子内に導入される高極性の官能基としては、上述の高極性高分子材料の定義を満たすことができるものであればよく、例えば、一般的なヘテロ原子を含む極性基を用いることができ、具体的には、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、シラノール基、スルホ基、スルホン酸塩、アンモニウム基、アルデヒド基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、ホスホリル基等を挙げることができる。
【0035】
一方、高分子層に用いられる低極性高分子材料としては、正孔注入層から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の正孔輸送性高分子材料において分子内に低極性の官能基が導入されたもの等を挙げることができる。
正孔輸送性高分子材料において分子内に導入される低極性の官能基としては、上述の低極性高分子材料の定義を満たすことができるものであればよく、例えば、ベンジル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、炭素数1〜12のアルキル基、ビニル基等の不飽和炭化水素基、フルオレン等の縮環化合物、シクロアルカン、シクロアルケン等の環状脂肪族化合物等を挙げることができる。
【0036】
中でも、正孔注入層上に直に形成された高分子層は、低極性高分子材料を含有することが好ましい。すなわち、正孔注入層が高極性高分子材料を含有し、正孔注入層上に直に形成された高分子層が低極性高分子材料を含有することが好ましい。ITO等の無機酸化物からなる陽極は一般的に表面極性が高いことから、正孔注入層が高極性高分子材料を含有することにより、陽極上に正孔注入層を均一に密着性良く形成することができるからである。
【0037】
高分子層は、上述の高分子材料の他に、低分子材料を含有していてもよい。高分子層に用いられる低分子材料としては、正孔注入層から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる正孔輸送性低分子材料であれば特に限定されるものではない。中でも、正孔輸送性低分子材料は、正孔移動度が高いものであることが好ましい。このような正孔輸送性低分子材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体例としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等を挙げることができる。アントラセン誘導体の具体例としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)等を挙げることができる。カルバゾール誘導体の具体例としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)等を挙げることができる。ジスチリルベンゼン誘導体の具体例としては、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0038】
高分子層には、本発明の効果が損なわれない範囲で添加剤が含有されていてもよい。例えば、高分子材料が熱および/または光硬化性官能基を有する場合には、高分子層に、硬化反応を促進させるような硬化剤や、光反応を開始するための開始剤がさらに含まれていてもよい。具体的には、エポキシ基を有する場合に酸などの硬化剤、エチレン性二重結合を有する場合に光重合開始剤を含有していてもよい。
【0039】
正孔輸送層は1層以上の高分子層を有するものであり、高分子層の数は1層以上であればよく、1層、2層、3層等とすることができるが、通常は1層とされる。
【0040】
高分子層の膜厚は、正孔注入層から注入された正孔を発光層に輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には1nm〜200nm程度とすることができる。高分子層が薄すぎると、短絡欠陥の発生を抑制するのが困難であり、高分子層が厚すぎると、高電圧化のおそれがある。なお、上記高分子層の膜厚は、高分子層1層の膜厚である。
【0041】
高分子層の形成方法としては、塗布法が好ましく用いられる。すなわち、高分子層は塗膜であることが好ましい。
なお、「塗膜」とは、塗工液を用いて塗布法により形成されるものをいう。
ここで、高分子層が塗膜であることは、例えば、パージ&トラップ−GC/MS法等を用いて溶剤を検知することにより確認することができる。また、高分子層の端部の形状を電子顕微鏡等で観察することにより、塗布法により形成された膜であるか、真空成膜法により形成された膜であるかを判別することができる。
【0042】
なお、高分子層の形成方法については、後述の「B.有機EL素子の製造方法」の項に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0043】
(b)低分子層
本発明における正孔輸送層を構成する低分子層は、上記1層以上の高分子層上に形成され、低分子材料を含有するものである。
なお、「低分子材料」とは、任意の繰り返し単位を有さないものをいう。低分子材料の重量平均分子量は1000以下であればよい。
また、「1層以上の高分子層上に形成された」とは、正孔輸送層が高分子層を1層のみ有する場合には、その高分子層上に形成されることをいい、正孔輸送層が2層以上の高分子層を有する場合には、すべての高分子層が積層された積層体上に形成されることをいう。
【0044】
低分子層に含有される低分子材料としては、陽極から注入された正孔を安定に正孔輸送層内へ輸送することができる正孔輸送性低分子材料であれば特に限定されるものではない。中でも、正孔輸送性低分子材料は、正孔移動度が高いものであることが好ましい。
このような正孔輸送性低分子材料としては、例えば、無機材料、有機材料、有機金属複合体等を用いることができる。具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等が挙げられる。アリールアミン誘導体の具体例としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等を挙げることができる。アントラセン誘導体の具体例としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)等を挙げることができる。カルバゾール誘導体の具体例としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)等を挙げることができる。ジスチリルベンゼン誘導体の具体例としては、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
さらに、正孔輸送性低分子材料は、陰極から移動してきた電子の突き抜けを防止することが可能なものであることが好ましい。これにより、発光層内での正孔および電子の再結合効率を高めることができるからである。
このような正孔輸送性低分子材料としては、具体的には、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro−TAD)等のトリアリールアミン類、4,4′,4″-トリス[3−メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4′,4″−トリス[1−ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1−TNATA)等のスターバーストアミン類、および、5,5″−ビス−{4−[ビス(4−メチルフェニル)アミノ]フェニル}−2,2′:5′,2″ターチオフェン(BMA−3T)等のオリゴチオフェン類等を挙げることができる。
【0046】
低分子層には、本発明の効果が損なわれない範囲で添加剤が含有されていてもよい。
【0047】
正孔輸送層は1層以上の低分子層を有するものであり、低分子層の数は1層以上であればよく、1層、2層、3層等とすることができるが、通常は1層とされる。
【0048】
低分子層の膜厚は、正孔注入層から注入された正孔を発光層に輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には1nm〜200nm程度とすることができる。低分子層が薄すぎると、電子ブロック性が十分に発揮されない可能性があり、低分子層が厚すぎると、高電圧化のおそれがある。なお、上記低分子層の膜厚は、低分子層1層の膜厚である。
【0049】
低分子層の形成方法としては、例えば、真空成膜法、塗布法を挙げることができるが、中でも、真空成膜法が好ましく用いられる。すなわち、低分子層は蒸着膜であることが好ましい。
なお、「蒸着膜」とは、真空成膜法により形成されるものをいう。
ここで、低分子層が蒸着膜であることは、電子顕微鏡写真などにより確認することができる。具体的には、低分子層の端部の形状を電子顕微鏡などで観察することにより、真空成膜法により形成された膜であるか、塗布法により形成された膜であるかを判別することができる。
【0050】
なお、低分子層の形成方法については、後述の「B.有機EL素子の製造方法」の項に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0051】
(2)正孔注入層
本発明における正孔注入層は、陽極上に形成され、高分子材料を含有するものである。
なお、「高分子材料」の定義については、上記正孔輸送層の高分子層に含有される高分子材料と同様である。
【0052】
正孔注入層に用いられる高分子材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる正孔注入性高分子材料であれば特に限定されるものではない。このような正孔注入性高分子材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、ポルフィリン誘導体、カルバゾール誘導体、さらにはポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体等の導電性高分子などを挙げることができる。具体的には、アリールアミン誘導体としては、コポリ[3,3´−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)等が挙げられる。カルバゾール誘導体としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等が挙げられる。ポリチオフェン誘導体としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)等が挙げられる。
上記のポルフィリン誘導体およびアリールアミン誘導体等は、ルイス酸や四フッ化テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、塩化鉄、バナジウムやモリブデンなど無機の酸化物などが混合されていてもよい。
中でも、正孔注入性高分子材料は、電子注入により特性が劣化しやすいものであることが好ましい。本発明においては、低分子層が形成されていることで発光層からの電子の突き抜けを防ぐことができるので、電子注入により特性劣化が起こる正孔注入層の場合に有用である。このような正孔注入性高分子材料としては、例えばPEDOT−PSSを挙げることができる。
【0053】
また本発明においては、上述したように、正孔注入層と正孔注入層上に直に形成された高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有することが好ましい。ハジキにより正孔注入層表面に凹凸が生じた場合であっても、正孔注入層の高分子材料と正孔注入層上に直に形成された高分子層の高分子材料との極性が異なることで、その凹凸を覆うことができ、短絡欠陥の発生を防止することができるからである。また、高分子層形成時に、正孔注入層に含有される高分子材料が溶出するのを防ぐことができ、正孔注入層上に高分子層を安定して積層することができるからである。
【0054】
すなわち、正孔注入層に含有される高分子材料は、高極性高分子材料または低極性高分子材料であることが好ましい。
正孔注入層に用いられる高極性高分子材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる正孔注入性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の正孔注入性高分子材料において分子内に高極性の官能基が導入されたもの等を挙げることができる。
なお、正孔注入性高分子材料において分子内に導入される高極性の官能基については、上記正孔輸送層の高分子層の項に記載したものと同様とすることができる。
分子内に高極性の官能基が導入された正孔注入性高分子材料としては、例えば、PEDOT−PSS等のチオフェン環を有する複素環化合物や、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(PANI/PSS)、ポリアニリン誘導体等の含窒素芳香族の繰り返し単位を持つ化合物が挙げられる。
【0055】
一方、正孔注入層に用いられる低極性高分子材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる正孔注入性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の正孔注入性高分子材料において分子内に低極性の官能基が導入されたもの等を挙げることができる。
なお、正孔注入性高分子材料において分子内に導入される低極性の官能基については、上記正孔輸送層の高分子層の項に記載したものと同様とすることができる。
【0056】
中でも、正孔注入層は、高極性高分子材料を含有することが好ましい。ITO等の無機酸化物からなる陽極は一般的に表面極性が高いことから、正孔注入層が高極性高分子材料を含有することにより、陽極上に正孔注入層を均一に密着性良く形成することができるからである。
【0057】
正孔注入層には、本発明の効果が損なわれない範囲で添加剤が含有されていてもよい。
【0058】
正孔注入層の膜厚は、発光層内への正孔の注入を安定化させる機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には1nm〜300nm程度とすることができる。正孔注入層が薄すぎると、短絡欠陥の発生を抑制するのが困難であり、正孔注入層が厚すぎると、高電圧化のおそれがある。
【0059】
正孔注入層の形成方法としては、塗布法が好ましく用いられる。すなわち、正孔注入層は塗膜であることが好ましい。
なお、塗膜については、上記正孔輸送層の高分子層の項に記載したものと同様とすることができる。
【0060】
また、正孔注入層の形成方法については、後述の「B.有機EL素子の製造方法」の項に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0061】
(3)発光層
本発明における発光層は、上記正孔輸送層上に形成され、低分子材料を含有するものである。
なお、「低分子材料」の定義については、上記正孔輸送層の低分子層に含有される低分子材料と同様である。
【0062】
発光層に用いられる低分子材料としては、蛍光材料および燐光材料のいずれも用いることができ、例えば、色素系材料、金属錯体系材料等を挙げることができる。
【0063】
色素系材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリレーン誘導体、シロール誘導体、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、ジナフチルアントラセン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、フェナントロリン類などを挙げることができる。また、これらにフルオレン基やスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
具体的に、トリフェニルアミン誘導体としては、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。アリールアミン誘導体としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)等が挙げられる。オキサジアゾール誘導体としては、(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられる。ジナフチルアントラセン誘導体としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)等が挙げられる。カルバゾール誘導体としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等が挙げられる。フェナントロリン類としては、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0064】
金属錯体系材料としては、例えば、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。この金属錯体としては、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等が挙げられる。
具体的には、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体(Bebq)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0065】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で、蛍光発光または燐光発光するドーパントが添加されていてもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体等を挙げることができる。具体的には、1−tert−ブチル−ペリレン(TBP)、クマリン6、ナイルレッド、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(TPB)等を挙げることができる。
【0066】
さらに、燐光系のドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属イオンを中心に有し、燐光を示す有機金属錯体を使用することができる。具体的には、Ir(ppy)3、(ppy)2Ir(acac)、Ir(BQ)3、(BQ)2Ir(acac)、Ir(THP)3、(THP)2Ir(acac)、Ir(BO)3、(BO)2(acac)、Ir(BT)3、(BT)2Ir(acac)、Ir(BTP)3、(BTP)2Ir(acac)、FIr6、PtOEP等を用いることができる。
【0067】
ここで、発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。発光層としては、青色、緑色、黄色、橙色、赤色等の単色発光するものであってもよく、複数色の混色により白色発光するものであってもよく、三原色の発光パターンが配列されたものであってもよい。白色発光は、複数の発光体からの発光の重ねあわせにより得ることができる。白色発光する発光層は、例えば、所定のピーク波長を有する2種類の発光体の2色発光の重ねあわせにより白色発光を得るものであってもよく、所定のピーク波長を有する3種類の発光体の3色発光の重ねあわせにより白色発光を得るものであってもよい。
【0068】
発光層の膜厚は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではない。
【0069】
発光層の形成方法としては、例えば、真空成膜法、塗布法を挙げることができるが、中でも、真空成膜法が好ましく用いられる。すなわち、発光層は蒸着膜であることが好ましい。
なお、蒸着膜については、上記正孔輸送層の低分子層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0070】
また、発光層の形成方法については、後述の「B.有機EL素子の製造方法」の項に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0071】
(4)電子輸送層
本発明においては、発光層と陰極との間に電子輸送層が形成されていてもよい。本発明における電子輸送層は、低分子材料を含有するものである。
なお、「低分子材料」の定義については、上記正孔輸送層の低分子層に含有される低分子材料と同様である。
【0072】
電子輸送層に用いられる低分子材料としては、陰極から注入された電子を安定に発光層内へ輸送することができる電子輸送性材料であれば特に限定されるものではない。中でも、電子輸送性材料は、電子移動度が高いものであることが好ましい。さらに、電子輸送性材料は、陽極から移動してきた正孔の突き抜けを防止することが可能なものであることが好ましい。これにより、発光層内での正孔および電子の再結合効率を高めることができるからである。
このような電子輸送性材料としては、無機材料、有機材料、有機金属複合体等を用いることができる。例えば、オキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類、シロール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。具体的には、オキサジアゾール誘導体としては(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられ、フェナントロリン類としてはバソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、アルミニウム錯体としてはトリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)等が挙げられる。
【0073】
電子輸送層の膜厚は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0074】
電子輸送層の形成方法としては、例えば、真空成膜法、塗布法を挙げることができるが、中でも、真空成膜法が好ましく用いられる。すなわち、電子輸送層は蒸着膜であることが好ましい。
なお、蒸着膜および真空成膜法については、上記正孔輸送層の低分子層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0075】
(5)電子注入層
本発明においては、発光層と陰極との間に電子注入層が形成されていてもよい。発光層と陰極との間に上記電子輸送層が形成されている場合には、電子輸送層と陰極との間に電子注入層が形成される。本発明における電子注入層は、低分子材料を含有するものである。
なお、「低分子材料」の定義については、上記正孔輸送層の低分子層に含有される低分子材料と同様である。
【0076】
電子注入層に用いられる低分子材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる電子注入性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、無機材料、有機材料、有機金属複合体等を用いることができる。具体的には、ストロンチウム、カルシウム、リチウム、セシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属単体;酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化リチウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物;フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物;ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。
【0077】
電子注入層の膜厚は、発光層内への電子の注入を安定化させる機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0078】
電子注入層の形成方法としては、例えば、真空成膜法、塗布法を挙げることができるが、中でも、真空成膜法が好ましく用いられる。すなわち、電子注入層は蒸着膜であることが好ましい。
なお、蒸着膜および真空成膜法については、上記正孔輸送層の低分子層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0079】
2.陽極
本発明に用いられる陽極は、光透過性を有していてもよく有さなくてもよく、光の取出し面に応じて適宜選択される。陽極側から光を取出す場合には、陽極は透明電極となる。
【0080】
陽極は、抵抗が小さいことが好ましく、一般的には導電性材料である金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
陽極に用いられる材料としては、正孔が注入しやすいように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。例えば、Au、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、Cu、Mo、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属;これらの金属の酸化物;AlLi、AlCa、AlMg等のAl合金、MgAg等のMg合金、Ni合金、Cr合金、アルカリ金属の合金、アルカリ土類金属の合金等の合金;酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム等の無機酸化物;金属ドープされたポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体等の導電性高分子;α−Si、α−SiC;などが挙げられる。これらの導電性材料は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上を用いる場合には、各材料からなる層を積層してもよい。
【0081】
陽極の成膜方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、ドライプロセスおよびウェットプロセスのいずれも適用することができる。ドライプロセスとしては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、EB蒸着法、イオンプレーティング法等の物理的蒸着(PVD)法、あるいは、化学的蒸着(CVD)法などを挙げることができる。また、陽極がパターン状に形成されている場合、パターニング方法としては、所望のパターンに精度良く形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、具体的にはフォトリソグラフィー法等を挙げることができる。
【0082】
3.陰極
本発明に用いられる陰極は、光透過性を有していてもよく有さなくてもよく、光の取出し面に応じて適宜選択される。陰極側から光を取出す場合には、陰極は透明電極となる。
【0083】
陰極は、抵抗が小さいことが好ましく、一般的には導電性材料である金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
陰極に用いられる材料としては、電子が注入しやすいように仕事関数の小さい導電性材料を用いることが好ましい。例えば、MgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Cs、Ba、Sr、Ca等のアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金などが挙げられる。
【0084】
陰極の成膜方法およびパターニング方法としては、上記陽極の成膜方法およびパターニング方法と同様とすることができる。
【0085】
4.基板
本発明に用いられる基板は、陽極、有機EL層および陰極を支持するものである。
陽極が所定の強度を有する場合には、陽極自体が支持体となり得るが、所定の強度を有する基板上に陽極が形成されていてもよい。
【0086】
基板は、光透過性を有していてもよく有さなくてもよく、光の取出し面に応じて適宜選択される。基板側から光を取出す場合には、基板は透明基板となる。
基板としては、例えばソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板や、フィルム状に成形が可能な樹脂基板等を用いることができる。
樹脂基板に用いられる樹脂としては、耐溶剤性および耐熱性の比較的高いものであることが好ましい。具体的には、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリミクロイキシレンジメチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル-スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。また、これらの共重合体を用いることもできる。さらに必要に応じて、水分や酸素等のガスを遮断するガスバリア性を有する基板を用いてもよい。
【0087】
基板の厚みとしては、基板の構成材料および有機EL素子の用途により適宜選択される。具体的には、基板の厚みは、0.005mm〜5mm程度である。
【0088】
5.その他の構成
本発明の有機EL素子は、上記の構成部材の他に、他の任意の構成部材を有していてもよい。
【0089】
例えば、基板上に陽極がパターン状に形成されている場合には、陽極のパターンの端部を覆うように絶縁層が形成されていてもよい。また、絶縁層は画素を画定するように形成されていてもよい。絶縁層としては、有機EL素子における一般的なものを用いることができる。
【0090】
また本発明の有機EL素子を表示装置に用いる場合には、基板上にTFT素子が形成されていてもよい。TFT素子としては、有機EL素子における一般的なものを用いることができる。
【0091】
本発明の有機EL素子を用いてフルカラーまたはマルチカラーの表示装置を作製する際には、基板上に隔壁が形成されていてもよい。隔壁が形成されている場合には、メタルマスク等を用いなくとも陰極をパターン状に形成することが可能となる。
隔壁の材料としては、有機EL素子における一般的な隔壁の材料を用いることができ、例えば、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を挙げることができる。
発光層をパターン状に形成するに際して、隔壁には表面エネルギー(濡れ性)を変化させる表面処理を予め行ってもよい。
【0092】
6.用途
本発明の有機EL素子は、陽極側から光を取出すボトムエミッション型であってもよく、陰極側から光を取出すトップエミッション型であってもよく、陽極および陰極の両側から光を取出す両面発光型であってもよい。
本発明の有機EL素子は、表示装置および照明装置に好適に用いることができる。表示装置は、パッシブマトリクス駆動であってもよくアクティブマトリクス駆動であってもよい。
【0093】
B.有機EL素子の製造方法
本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極上に有機EL層を形成する有機EL層形成工程を有する有機EL素子の製造方法であって、上記有機EL層形成工程が、塗布法により、陽極上に高分子材料を含有する正孔注入層を形成する正孔注入層形成工程と、塗布法により、上記正孔注入層上に1層以上の高分子層を形成する高分子層形成工程、および、真空成膜法により、上記1層以上の高分子層上に1層以上の低分子層を形成する低分子層形成工程を有し、上記正孔注入層上に上記1層以上の高分子層および上記1層以上の低分子層を有する正孔輸送層を形成する正孔輸送層形成工程と、真空成膜法により、上記正孔輸送層上に低分子材料を含有する発光層を形成する発光層形成工程とを有することを特徴とする。
【0094】
図2(a)〜(e)は本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図2(a)に示すように、陽極3が形成された基板2上に、高分子材料を含有する正孔注入層形成用塗工液を塗布して、正孔注入層4を形成する(正孔注入層形成工程)。次いで、図2(b)に示すように、正孔注入層4上に、高分子層形成用塗工液を塗布して、高分子層5を形成する(高分子層形成工程)。続いて、図2(c)に示すように、高分子層5上に低分子材料を蒸着して低分子層6を形成する(低分子層形成工程)。これにより、高分子層5および低分子層6を有する正孔輸送層11が得られる(正孔輸送層形成工程)。次に、図2(d)に示すように、正孔輸送層11上に低分子材料を蒸着して発光層7を形成する(発光層形成工程)。次いで、図2(e)に示すように、発光層7上に低分子材料を蒸着して電子注入層9を形成する(電子注入層形成工程)。これにより、正孔注入層4、正孔輸送層11、発光層7および電子注入層9を有する有機EL層12が得られる。最後に、図2(e)に示すように、電子注入層9上に陰極10を形成する(陰極形成工程)。このようにして、有機EL素子1を製造することができる。
【0095】
本発明によれば、陽極上に、塗布法により、高分子材料を含有する正孔注入層と正孔輸送層を構成する高分子層との2層を積層するので、陽極表面に異物、突起、窪み等が存在する場合においても、これらの異物、突起、窪み等を覆うことができ、短絡欠陥の発生を抑制することが可能である。また本発明によれば、高分子層と低分子層とを積層して正孔輸送層を形成するので、機能分離が可能であり、低分子層に電子ブロック性に優れる材料を用いることができ、長寿命化を達成することが可能である。さらに、発光層に用いられる発光材料においては、低分子材料が高分子材料と比較して発光効率が高く寿命が長く材料性能の面で優れている。したがって本発明においては、効率や寿命等の特性に優れる有機EL素子を得ることが可能である。
【0096】
また、本発明における正孔輸送層においては、上述のように、機能分離が可能であり、1層の正孔輸送層、特に1層の高分子層に、正孔輸送性および電子ブロック性を兼ね備えるとともに、正孔注入層を溶解しない溶媒に分散もしくは溶解するような材料を用いる必要がないため、高分子層および低分子層の材料選択性の幅が広がるという利点を有する。
【0097】
さらに、真空成膜法により低分子層を形成するので、高分子層上に低分子層を容易に積層可能であり、このような低分子層を高分子層と発光層との間に形成することで、発光層からの正孔もしくは電子の突き抜けを防止することができ、長寿命の有機EL素子を得ることが可能である。
【0098】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法における各工程について説明する。
【0099】
1.有機EL層形成工程
本発明における有機EL層形成工程は、陽極上に有機EL層を形成する工程であって、塗布法により、陽極上に高分子材料を含有する正孔注入層を形成する正孔注入層形成工程と、塗布法により、上記正孔注入層上に1層以上の高分子層を形成する高分子層形成工程、および、真空成膜法により、上記1層以上の高分子層上に1層以上の低分子層を形成する低分子層形成工程を有し、上記正孔注入層上に上記1層以上の高分子層および上記1層以上の低分子層を有する正孔輸送層を形成する正孔輸送層形成工程と、真空成膜法により、上記正孔輸送層上に低分子材料を含有する発光層を形成する発光層形成工程とを有する。
以下、有機EL層形成工程における各工程について説明する。
【0100】
(1)正孔注入層形成工程
本発明における正孔注入層形成工程は、塗布法により、陽極上に高分子材料を含有する正孔注入層を形成する工程である。
なお、高分子材料については、上記「A.有機EL素子」の正孔注入層の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0101】
正孔注入層は、上述の高分子材料を溶媒に溶解もしくは分散させた正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより形成することができる。
【0102】
正孔注入層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上述の高分子材料を溶解もしくは分散させることができるものであれば特に限定されるものではなく、高分子材料の極性に応じて適宜選択される。高極性高分子材料の場合、溶媒としては極性溶媒が用いられる。一方、低極性高分子材料の場合、溶媒としては非極性溶媒が用いられる。
【0103】
極性溶媒としては、例えば、水、グリセリン、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジアセトンアルコール等の水酸基を有する溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N'−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の含窒素系溶媒を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。中でも、極性溶媒は、水酸基を少なくとも一つ以上有する溶媒を1種類以上含むことが好ましい。
【0104】
一方、非極性溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、1−メチルナフタレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。中でも、非極性溶媒には、炭素および水素以外のヘテロ原子を含まない溶媒を1種類以上用いることが好ましい。
【0105】
塗布法としては、塗工液を用いる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、ディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、キャスト法、インクジェット法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
【0106】
正孔注入層形成用塗工液の塗布後は、通常、塗膜中に残留する溶媒を取り除くために乾燥を行う。
【0107】
なお、正孔注入層については、上記「A.有機EL素子」の正孔注入層の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0108】
(2)正孔輸送層形成工程
本発明における正孔輸送層形成工程は、塗布法により、上記正孔注入層上に1層以上の高分子層を形成する高分子層形成工程と、真空成膜法により、上記1層以上の高分子層上に1層以上の低分子層を形成する低分子層形成工程とを有しており、上記正孔注入層上に上記1層以上の高分子層および上記1層以上の低分子層を有する正孔輸送層を形成する工程である。
以下、正孔輸送層形成工程における各工程について説明する。
【0109】
(a)高分子層形成工程
本発明における高分子層形成工程は、塗布法により、上記正孔注入層上に1層以上の高分子層を形成する工程である。
【0110】
高分子層は、上記「A.有機EL素子」の正孔注入層の項に記載した高分子材料を溶媒に溶解もしくは分散させた高分子層形成用塗工液を塗布することにより形成することができる。
なお、溶媒、塗布法等については、上記正孔注入層形成工程の項に記載したものと同様とすることができる。
【0111】
また、高分子層に含有される高分子材料が低分子材料を高分子量化したものである場合には、上記「A.有機EL素子」の正孔注入層の項に記載した低分子材料が溶媒に分散もしくは溶解された高分子層形成用塗工液を塗布した後、高分子量化を行うことにより、高分子層を形成することができる。
【0112】
高分子層に含有される高分子材料が熱および/光硬化性官能基を有する場合には、乾燥と同時にまたは乾燥後に高分子材料を硬化させてもよい。
【0113】
なお、高分子層については、上記「A.有機EL素子」の正孔輸送層の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0114】
(b)低分子層形成工程
本発明における低分子層形成工程は、真空成膜法により、上記1層以上の高分子層上に1層以上の低分子層を形成する工程である。
【0115】
真空成膜法としては、物理的気相成長法(PVD法)を用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができる。中でも、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法では、気体となった物質のもつ運動エネルギーが低いので、高分子層に対して与えるエネルギーが小さく、高分子層にダメージを与えることなく低分子層を成膜することができるからである。真空蒸着法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、フラッシュ蒸着法、アーク蒸着法、レーザー蒸着法、高周波加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法等を挙げることができる。
【0116】
なお、低分子層については、上記「A.有機EL素子」の正孔輸送層の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0117】
(3)発光層形成工程
本発明における発光層形成工程は、真空成膜法により、上記正孔輸送層上に低分子材料を含有する発光層を形成する工程である。
【0118】
なお、真空成膜法については、上記正孔輸送層形成工程の低分子層形成工程の項に記載したものと同様とすることができる。
【0119】
本発明において、有機EL素子を用いてフルカラーまたはマルチカラーの表示装置を作製する際には、異なる色を発光する複数種類の発光層を所定の配列でパターン状に形成する。発光層のパターニング方法としては、発光色毎に、マスキング法により真空成膜を行う方法が挙げられる。
【0120】
なお、発光層については、上記「A.有機EL素子」の発光層の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0121】
(4)電子輸送層形成工程
本発明においては、発光層形成工程後に、真空成膜法により、上記発光層上に低分子材料を含有する電子輸送層を形成する電子輸送層形成工程を行ってもよい。
電子輸送層の形成方法については、上記「A.有機EL素子」の電子輸送層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0122】
(5)電子注入層形成工程
本発明においては、発光層形成工程後に、真空成膜法により、上記発光層上に低分子材料を含有する電子注入層を形成する電子注入層形成工程を行ってもよい。上記電子輸送層形成工程を行う場合には、上記電子輸送層上に電子注入層を形成する。
電子注入層の形成方法については、上記「A.有機EL素子」の電子注入層の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0123】
2.その他の工程
本発明においては、上記有機EL層形成工程前に、基板上に陽極を形成する陽極形成工程を行うことができる。陽極の形成方法については、上記「A.有機EL素子」の陽極の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
また、上記有機EL層形成工程後に、有機EL層上に陰極を形成する陰極形成工程を行うことができる。陰極の形成方法については、上記「A.有機EL素子」の陰極の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0124】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0125】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
まず、ガラス基板上に、酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)をスパッタリング法により成膜して、陽極を形成した。陽極が形成された基板を洗浄し、UVオゾン処理を施した。その後、大気中にて、ITO薄膜上にポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(略称:「PEDOT−PSS」)の水溶液をスピンコート法により塗布し、乾燥させて、正孔注入層(厚み:75nm)を形成した。ここで、PEDOT−PSSは高極性高分子材料である。
【0126】
次に、上記正孔注入層上に、ポリ[(9,9−ジ−{5−ペンテニル}−フルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4′−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](熱硬化性TFB)の溶液(溶媒:キシレン)をスピンコート法により塗布し、乾燥後、低酸素(酸素濃度:0.1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度:0.1ppm以下)状態のグローブボックス中にて硬化させて、正孔輸送層を構成する高分子層(厚み:25nm)を形成した。ここで、熱硬化性TFBは低極性高分子材料である。
【0127】
次いで、上記高分子層上に、正孔輸送層を構成する低分子層となるビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)(分子量:588.74)(厚み:50nm)、および、発光層となる緑色低分子蛍光材料(厚み:35nm)を、この順で、真空中(圧力:5×10-5Pa)にて、抵抗加熱蒸着法により蒸着して成膜した。なお、上記緑色低分子蛍光材料は、繰り返し単位を有さないものであり、かつ、重量平均分子量が1000以下である。
【0128】
次いで、上記発光層(蒸着膜)上に、Alq3(厚み:30nm)、LiF(厚み:0.5nm)、Al(厚み:100nm)をこの順で抵抗加熱蒸着法により成膜し、電子輸送層、電子注入層、陰極を形成した。
続いて、低酸素(酸素濃度:0.1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度:0.1ppm以下)状態のグローブボックス中にて、無アルカリガラスにより封止し、有機EL素子を得た。
【0129】
[比較例1]
正孔輸送層を構成する高分子層の形成までは、実施例1と同様に実施した。次に、高分子層上に、緑色高分子蛍光材料(溶媒:キシレン)をスピンコート法により塗布し、乾燥させ、発光層(厚み:60nm)を形成した。なお、上記緑色高分子蛍光材料は、繰り返し単位を有するものであり、かつ、重量平均分子量が1000以上である。次いで、発光層上に、LiF(厚み:2nm)、Ca(厚み:20nm)、Al(厚み:100nm)をこの順で抵抗加熱蒸着法により成膜し、電子注入層、陰極を形成した。
続いて、低酸素(酸素濃度:0.1ppm以下)、低湿度(水蒸気濃度:0.1ppm以下)状態のグローブボックス中にて、無アルカリガラスにより封止し、有機EL素子を得た。
【0130】
[比較例2]
実施例1において、正孔輸送層を構成する低分子層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を得た。
【0131】
[評価]
得られた有機EL素子の陽極と陰極の間に電圧を印加し、基板平面に対して垂直な方向へ発光された光の輝度が3000cd/m2となるように設定し、電流値、電圧値、電流効率を測定した。また、輝度が3000cd/m2となるように電流を設定し、定電流を印加し続けたときに輝度が1500cd/m2まで低下する時間(輝度半減寿命)を測定した。
なお、実施例1については、輝度が10000cd/m2となるように電流を設定し、定電流を印加し続けたときに輝度が5000cd/m2まで低下する時間(輝度半減寿命)を測定し、加速係数2として3000cd/m2の寿命を算出した。
また、有機EL素子を肉眼で観察した範囲では、ダークスポット等の発光欠陥は生じていなかった。
結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
表1より、実施例1の有機EL素子は、高効率および長寿命であり、特に寿命特性に優れていた。
【符号の説明】
【0134】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 正孔注入層
5 … 高分子層
6 … 低分子層
7 … 発光層
8 … 電子輸送層
9 … 電子注入層
10 … 陰極
11 … 正孔輸送層
12 … 有機EL層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極上に形成された正孔注入層、前記正孔注入層上に形成された正孔輸送層、および前記正孔輸送層上に形成された発光層を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス層と、
前記有機エレクトロルミネッセンス層上に形成された陰極と
を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記正孔注入層が高分子材料を含有し、
前記正孔輸送層が、前記正孔注入層上に形成された1層以上の高分子層と、前記1層以上の高分子層上に形成された1層以上の低分子層とを有し、
前記発光層が低分子材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記正孔注入層と前記正孔注入層上に直に形成された前記高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記正孔注入層が、前記高極性高分子材料を含有することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
陽極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス層形成工程を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス層形成工程が、
塗布法により、陽極上に高分子材料を含有する正孔注入層を形成する正孔注入層形成工程と、
塗布法により、前記正孔注入層上に1層以上の高分子層を形成する高分子層形成工程、および、真空成膜法により、前記1層以上の高分子層上に1層以上の低分子層を形成する低分子層形成工程を有し、前記正孔注入層上に前記1層以上の高分子層および前記1層以上の低分子層を有する正孔輸送層を形成する正孔輸送層形成工程と、
真空成膜法により、前記正孔輸送層上に低分子材料を含有する発光層を形成する発光層形成工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記正孔注入層と前記正孔注入層上に直に形成された前記高分子層とのうち、一方が高極性高分子材料を含有し、他方が低極性高分子材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記正孔注入層が、前記高極性高分子材料を含有することを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−142365(P2012−142365A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292897(P2010−292897)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】